はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(リゼヴィム戦前の最後の大きな壁も乗り越え、残すはラスボスと側近のみに)


龍の戰い

 連続での襲撃を受けているというのに、しかし一誠の眼差しはどこか嬉しそうなものであり、同時に確かな高揚感を抱いていた。″禍の団″に加入したばかりの頃、ヴァーリに挑まれて勃発した二天龍のバトルを思い出させるものだ。

 無論、これはあくまでも内に宿るドライグとアルビオンが共鳴した結果に過ぎないのだが、二度に渡る三大勢力との連合戦争では味わうことの無かった感覚が魂を昂らせている事実を、彼は敢えて否定しない。

 

 寄り道ばかりさせやがる、と肩を竦めながらも一誠は身構える。オーフィス奪還を目指す彼の余命は少なく、本来であればクロウ・クルワッハの挑戦を受ける猶予など無い。合理的に判断するならば邪龍など無視して超高速で駆けるのが最善手ではある。

 尤も、その判断ができるような性格であれば二天龍を宿すことも無かった。それだけの話なのだ。

 

『……存分に戦おう。我らが古き同胞よ』

 

 二天龍の声音が混じった大仰な言い回しに対しても、クロウ・クルワッハは邪龍特有の獰猛な──戦いだけが生き甲斐だとでも言いたげな笑みを浮かべた。

 そうして戦闘態勢に移る彼の姿は本来の巨大な漆黒のドラゴンではなく、人間の青年の形を留めたままだ。観戦者として片隅に控えるグレンデルやラードゥンなどとは比較するまでもなく、対峙する彼らの構図を余人が目撃したならば蛮勇もしくは無謀と捉えることだろう。邪悪な人型ドラゴンに挑む童話の中の勇者にしか思えないからだ。

 

 ただし、これは過信でも油断でもなく、長きに渡る修行と苦い傷痕の果てに辿り着いたクロウ・クルワッハの答えだ。

 

「当初は慣れるまでに苦心したが……今となっては小回りの利く人間態の方が気に入っている。あのとき敗北しなければ思い付かなかっただろうな」

『負けた? 仮にも邪龍の筆頭格に数えられる貴様が誰に敗北したというのだ?』

「……オーフィスだ。偶然にも交戦する機会に恵まれてな。瞬殺されてしまった」

 

 今でこそ道を歩けば警察に保護されるだろう衣装を着た幼女だが、一心不乱に静寂を求めていた当時のオーフィスはといえば、自身を勧誘したり目的の邪魔となる勢力があれば問答無用で壊滅させてしまうような暴君だった。クロウ・クルワッハが殺されなかったのも彼女の気紛れに過ぎない。

 だからこそ、クロウ・クルワッハはその圧倒的な力に魅せられた。どこまでも戦闘を好む邪龍であるが故にオーフィスを越えてみせると決意した。そうでなければ生き延びた意味も邪龍を名乗る資格も無いのだから。

 

 クロウ・クルワッハの最大の不運は、肝心の標的が絆されてしまった点にある。目の前に立つ元人間の少年によって。

 

「……いざ、尋常に」

『ああ、悔いを残さぬように』

 

 故に二人の戦いは必然だった。

 

『「──勝負だ」』

 

 兵藤一誠(二天龍)クロウ・クルワッハ(三日月の暗黒龍)

 無限に心を奪われた者達が激突した。

 

▼龍の戰い▼

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

 連続する二十一回もの紅蓮の宣告は、約210万倍という馬鹿げた規模の″倍加″が即時完了した合図である。無論、能力強化の上限にもドライグの全盛期にも遠く及ばない。装着者である一誠への負担を考慮した調整だ。

 彼を発信源として空間を振動させる程の魔力が迸るものの、クロウ・クルワッハは動じない。一誠の準備が整ったことを確認すると、自身も修行の末に獲得した莫大な漆黒のオーラを放出する。

 驚嘆すべきことに、その出力は″倍加″を終えた一誠に勝るとも劣らない。

 

 オーフィスを倒す。

 全てはそれだけのために。

 

『心地好いドラゴンの波動だ。やはり筆頭格とだけあって大口を叩く程度の実力はあるらしいな』

「言っただろう? 新たな天の誕生だと。俺は貴様を越えていく」

 

 一瞬の沈黙の後、地に足跡が刻まれ、クロウ・クルワッハが大剣を模した魔力を振り翳した。フェイクを織り混ぜた一撃は直後に容易くへし折られ、しかし降り注ぐ結晶の雨を不意打ちの弾丸が穿つ。

 粉砕。

 無造作に薙ぎ払う一誠は無傷のままだが、瞬間的なものとはいえ、視界を塞がれたことで条件反射的に顔を逸らしかけてしまった。瞬き一つの隙を逃すまいとクロウ・クルワッハは追撃する。

 

 その動きを一誠に迫ろうかという直前で解除し、予め両手に漲らせていた魔力球をそのまま地面目掛けて放つ。巻き上げられる砂煙の中でも一誠は当然のように対応するだろうが、迎撃もしくは視界確保のための一時離脱に限られてくる。

 クロウ・クルワッハの読み通り、彼は両翼を広げると宙に脱け出そうと試みた。敢えて残しておいた退路に罠を仕掛けるのは定石だ。砂煙と魔力球の残滓が索敵を困難としている僅かな時間を利用して、クロウ・クルワッハは一誠が翔び退くであろうポイントで待ち構える。

 

 バチリ、と赤いプラズマが眼下から駆け巡った。

 

『詰めが甘いな』

「これで倒されるようでは興醒めだ」

 

 幾百もの障壁術式は貫通され、咄嗟に捩らせた顔の真横をレーザー砲が轟いていく。飛び立つと思わせておいての奇襲だ。

 

 両者共に搦め手を混ぜての攻防ではあるが、現段階でのアドバンテージはしっかりと制空権を確保したクロウ・クルワッハにある。無論、偶然ではなく事前の作戦に沿ったもの──此方が奇襲を行えば同じ手をぶつけて対抗するだろうと読んでの一手だ。

 両者が天地に分かたれて対峙する場合、天を見上げる側よりも地を見下ろす側の方が圧倒的に有利である。大空にドラゴンの羽ばたきを遮るものは無いのだから。

 

 広範囲に及ぶ視界と退路の両方の確保に成功したクロウ・クルワッハだが、そこで安易に攻撃を仕掛けるような愚策は取らない。かといって手を緩めるのでもなく、金と黒のヘテロクロミアは地を這う蟻の一挙手一投足すらも見逃すまいと瞬いていた。

 

 空に座する姿は邪龍筆頭格と称されるに相応しい威容を誇りながらも、妨害や奇襲を中心とした策は好戦的な彼らしからぬ攻め手であった。それはここまでの神速の攻防を見つめていたグレンデル達にも感じ取れるものであり、しかし違和感だけでなく、二人に思わず称賛を送りたくなる程の高揚を覚えているのは、彼らもまたドラゴンという器に押し留められただけの災厄にカテゴライズされている証拠に他ならない。両者の戦いには──あのニーズヘッグにすら沈黙を貫かせるだけの迫力があるのだ。

 

 大罪の暴龍(グレンデル)宝樹の護封龍(ラードゥン)外法の死龍(ニーズヘッグ)

 そして、観戦に徹していた四体目のドラゴンは懐かしい光景を思い出した。

 三つ首と六翼が特徴的な異形の彼は、隣に並ぶ伝承の邪龍達を越えて、目の前で二天龍との死闘を繰り広げるクロウ・クルワッハと同格に数えられるドラゴンである。

 

 当然ながら邪龍筆頭格たる者の脳裏に過る思い出は平穏や平和の類とは正反対であり、血で血を洗う戦争の数々だ。その最前線において彼は千の魔法を武器としてゾロアスターの善神率いる軍勢を蹂躙し続けた。

 そのドラゴンは名を魔源の禁龍(アジ・ダハーカ)といった。

 悪神アンラ・マンユによって産み出された怪物は災いを振り撒いた果てに一人の英雄によって討伐されたのだが、聖杯の召喚に応じて現世への帰還を果たしたのであった。

 

 しかしアジ・ダハーカはこれまで戦線復活に熱意を見せず、活動といえばヴァレリーなどの捕虜達の監視役に留めていた。かつての戦争で主君が戦死していたからだ。

 

 かくしてリゼヴィムからの再三の要請も無視していたアジ・ダハーカだったが、牙こそ失えどドラゴンの誇りまでも捨てたわけではなかった。自身を討伐してみせたスラエータオナとの激戦を思い出させる光景が眼前には広がっていた。

 

『ようやっと復帰を決断しましたか』

 

 龍の戰いからは決して視線を外さないままでラードゥンは呟いた。彼だけに限った話ではないが、クロウ・クルワッハやアポプスと並ぶ邪龍筆頭格の離脱に歯痒い思いをしていたが故の言葉だ。

 

『……さあ、な。しかし興味はある。そして、後悔はその倍もある』

『よろしければ聞かせてもらっても?』

 

 普段は喧しい残りの人格が口を閉じたままであるのは絶景に見惚れているからであり、些細な音の一つすらも決戦の邪魔になるだろうと考えての配慮でもあり、一時的にでも戦場を捨ててしまった者の立場を弁えての沈黙でもある。

 

『何故……俺はこうして指を咥えて眺めているだけなんだ。どうして、俺はあの場で戦っていない。それは兵藤一誠に対する最大の侮辱だ』

 

 スラエータオナが今の自分を見たならば果たしてどう思うだろうか。

 暴言を吐くならば受け入れる。失望の視線も飲み干してみせよう。挑む価値すら無いと討伐に現れなければ、それは邪龍の誇りを放棄したのと同義だ。

 

『だったら戦えばいいだろ』

 

 二人の会話が聞こえたのか、今度は横からグレンデルが呟いた。命すら捨てる生粋の戦闘狂だからこそ見出だした確固たる信念があった。

 

『負けようが殺されようが甦る。百だろうが千だろうが一万回だって立ち上がる。そうして相手を倒すまで不屈の魂で挑戦を続けるんだ。それが俺達の本懐で……それこそがドラゴンの誇りだろうぜ』

 

 アジ・ダハーカは、見直したと言いたげに肩を竦める。

 

『強くなったな、グレンデル』

『赤龍帝にはボコボコにされたけどな。いや、今は二天龍だったか。どっちにしても、()()()()()()鬱陶しい白トカゲも含めてリベンジを果たしてやる。たったそれだけの簡単な話だ』

 

 言い終えた直後、隕石の墜落にも似た衝撃が彼らを襲う。地面の奥深くまで穿たれた大穴の中心に転がっていたのは、一目でそれと分かる程の重傷を負ったクロウ・クルワッハだ。左肩から先はもぎ取られて出血が止まらず、それでも止血よりも先に闘志の宿る瞳で頭上を睨む。

 

「お返しだ」

『頭が高いな』

 

 咆哮の衝突が、天を割いた。

 

 そうして残存魔力を使い果たしたクロウ・クルワッハを極度の疲労が襲う。魔力欠乏の後遺症だけでなく、一誠が放った咆哮には″吸収″が上乗せされていたからだ。寧ろ、彼だけでなくグレンデル達からも強奪した魔力を結集させての必殺の一撃を満身創痍の身で受け止めたのは流石、邪龍筆頭格と称されるドラゴンである。

 

 しかし勝敗は決している。悠然と大穴の隣に降り立つ一誠は相応の傷こそ負っているものの、戦闘続行に影響は無いのだから。その瞳は、尚も立ち上がろうと足掻くクロウ・クルワッハの意地を見届けていた。

 

「まだ、だ……! 必ず天に至り……そして今度こそ俺はオーフィスに……っ!!」

 

 ──勝ちたい。

 

 ──違うな、あの瞳で俺を見て欲しいんだ。俺を選んで欲しかったんだ。兵藤一誠ではなく宿敵としてでもなく、一人の男として。

 

 ──そうか、ずっと俺は……。

 

『もう眠れ』

 

 王の宣告が耳に響いた。続いて一誠の掌の中に充填されていく魔力弾に抗う術は無く、まともに受ければ今度こそ堪えきれないだろう。だからこそ、クロウ・クルワッハは最後の力を振り絞りながら立ち上がる。

 

 座して首を差し出すのは虜囚だ。背を見せて戦場から逃げるのは恥だ。戦士としての結末を受け入れないのはドラゴンにあるまじき行為だ。

 そのような醜態を晒して、オーフィスに恋い焦がれていたなどと胸を張って言えるだろうか。

 だから、これは意地なのだ。

 

「ただし……絶対に彼女を自由にしろ……! 忌々しい明星から救うとドラゴンの誇りに誓え……!!」

 

 リゼヴィムの悪意には蓋も底も無い。

 

 非道な人体実験を繰り返し、聖杯の効果を検証するために千単位もの魂を徒に消費し、そうして使い潰した被験者はゴミのように廃棄する。″禍の団″の元構成員やフェニックス家の小娘など実験の末に処分されていく者を幾度も見てきた。

 そして睨みを効かせてきたクロウ・クルワッハが不在となる現状、(リリス)という弱味を抱えるオーフィスは材料にされかねない。力の落ちた彼女はドラゴンスレイヤーの編まれた牢獄を脱出できない。

 

「俺は……惚れた女を救えなかった」

 

 ドラゴンであるが故に、彼には誇りに殉じるしか道が残されていなかった。

 

『必ずオーフィスを自由にすると約束しよう。二天龍と、貴様の誇りに誓ってな』

「……感謝する」

 

 かくしてクロウ・クルワッハは安心した表情で最後の攻撃を受け入れ、地面に崩れ落ちた。しかし死亡したのではない。そもそも敗者に自らの生死を選ぶ権利は与えられないのだ。

 

 一誠は″二天龍の鎧″を維持したまま、純黒のドラゴンと化した顔をグレンデル達に向ける。

 

「……誰でもいい、彼を介抱してやってくれ。俺の魔力を分け与えたから即死するような事態は避けただろうが……絶対に死なせるなよ」

『お前に頼まれちゃ断れねえや。承知したぜ、責任持って俺達で介抱する。お前らも構わないよな?』

『ここは勝者の顔を立てるべきでしょう』

『分かった!』

『元より拒否する権限は無かろう』

「任せたぞ」

 

 ″吸収″した魔力を全身に馴染ませながら、一誠は居城を目指して飛翔する。

 

「……我、一誠に会いたい」

「うひゃひゃひゃ♪︎ さしものイッセーきゅんもそれはベリーハードってもんよ! だって俺がぶち殺しちまうからな! 曹操から没収した秘密兵器を使ってさ!!」

 

 愛する者を救うために。

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