fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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今日は二十年前のvaultから出てきた探索隊の話。主人公の母親や角刈りのおばさん?まで登場。そして、主人公もレイダーも肉片になるという謎の発言。いったいそれは・・・?

主人公は今回だけユウキの父親のゴメス視点でお送りします。一人称は私です。あまり本筋とは関係ないので「キャラ崩壊」にご注意を!


十話 二十年前

これは20年前の話、

 

「何度見てもすごいな・・・・」

 

私はメガトンの入り口から見る夕日を見た。ゆっくりと地平線に沈んでいく太陽を見ていると、vaultにあった古い映画を思い出す。それがどういう内容だったのかよく覚えていないが、あの夕日とそっくりだった。

 

だが、周囲には核によって破壊された高級住宅街の残骸が日に照らされている。何故、人間はこれほどまで愚かなのか。私はただのvaultセキュリティーの片割れ。高尚な理由は出てきそうにないが、目の前の荒廃した世界を見る度に人間の罪の重さに実感させられる。

 

「ゴメス、何をしているんだ?もうそろそろ帰らないと」

 

アルフォンスは私の肩を叩く。彼は現職の監督官の息子であり、次期監督官だ。私の友人ではあるものの、仲良しとは言えない。ギリギリ友と呼ばれる中である。彼が先頭に立って歩いていくなか、私の後ろからvaultスーツの上にフィールドジャケットを着た眼鏡の男が近づいた。

 

「ゴメス、このサンプルを持ってくれ。あとで調べるから」

 

そう言ってきたのは、食物生産を管理するジャックだ。彼の他にそれに携わる者がいるが、彼はクジでまけてここにいる。彼の仕事はここの食物についてである。残留放射能のチェックや毒素などを調べなければならないためだ。

 

私は背負っていた背嚢を下ろして、彼の持ってきたパッケージを中に入れた。私は見届けるとそれを背負って、持っていたアサルトライフルを持つ。

 

「モリス大丈夫?」

 

「どうってことない平気だ。まあ、肩を貸してくれないと動けないが、」

 

後ろからついてきたのは、私と同じvaultオフィサーのモリス。そしてそいつに肩を貸しているのが、唯一の医者であるDr.アリスだ。仲の良く睦まじい二人で、Dr.アリスが志願したときにモリスも志願したと聞く。

 

そこまで仲が良いのだろう。

 

私はvaultまで行く道程でかれらが話すことに耳を傾けた。

 

「vaultをやはり解放すべきなのよ」

 

「何を言っているんだい、君は?」

 

「vaultは核の冬に耐えきれるように作っているけど、永遠に住めるとは限らないわ。いつかは修復不可能になることだってあるのに・・・。私達はもっと外に出ていくべきなのよ」

 

「冗談は止してくれよ。俺を襲った連中を見ただろう?あんな危険な輩が彷徨いているんだ。vaultにいたほうがまだましさ」

 

「もし、永遠に閉じて引き籠ったとしましょう。vault101の人口はざっと150人前後。今は確か2、3世代目よ。5世代六世代と続けていけば劣勢遺伝子が増えても可笑しくないわ。150人って言うのは数世代で近親者に成りうるのよ。遺伝的な病を迎えるより、後世に優秀な遺伝子を残していく方がより確実よ」

 

 

大分、利に叶っている。他のvaultは知らないが、vault101の人口はそこまで多くない。よって近親者が増え、遺伝的欠陥が見つかってもおかしくない。既にvaultは解放すべきとの意見もあり、遺伝的な欠陥を誘発するとしてこの探索隊が結成された。しかしながら、メガトンの浮浪者によって、モリスは負傷。vaultの世論は一気に引きこもりに傾くだろう。

 

「二人とも、良いから歩いてくれ。君達のお陰で日が暮れてしまうぞ」

 

アルフォンスは仲の良い二人に対し言うが、二人のうち一人は怪我人だ。それ以上歩行速度が上がるわけではない。

 

「ならオフィサー・アルフォンス、背負ってもらえますか?」

 

「私よりもドクターがいいんじゃないか?」

 

「私は乙女ですよ!こんな筋肉の固まりを背負う筋肉はありません。」

 

アルフォンスはふざけつつ言うが、ドクターはそれに憤慨する。まあ、両者共にふざけているのだから良しとしよう。

 

後、半分という所でジャックが地質調査と言うことで土を採取しようと言い出した。

 

「ジャック、日が暮れたら誰かに襲われるかもしれないんだぞ!」

 

と本気で怒るアルフォンスに対し、宥めようと私は動く。

 

「まあ、いいじゃないか。どのぐらいで終わる?」

 

「あと二分位だ」

 

ジャックは小さな瓶を取り出して、土を瓶に詰めていく。

 

「二人とも一旦休憩だ。長くは休まないからくつろぐなよ」

 

私はそう言って、アルフォンスの隣に立った。

 

「ここは戦前は高級住宅街だったらしい。祖父はここの家に住んでいたんだようだな」

 

そこには郵便受けがあり、焦げているものの、“アルドモバル”と書かれていた。

 

「そのようですね、私の祖父はシャーマンタウン警察署で警察官をしていました」

 

「じゃあ、セキュリティーになったのもその影響か?」

 

「どうでしょうね、職業試験でたまたまって言う場合もあるし」

 

 

私はアルフォンスとただ喋っていた。それが私たちの犯した間違いだった。

 

 

 

パアァァァン!!!

 

 

近くで銃声が響き渡る。

 

私は突然のことで一瞬固まるが、目の前で起こったその光景に驚愕した。先程まで仲良く話をしていたモリスとDr.アリスのうち、モリスの頭が割れたのだ。

 

「伏せろ!レイダーだ!」

 

その犯人は直ぐに分かった。色々な継ぎ接ぎした防具を身に付けて、整備不良のハンティングライフルを持った男だった。

 

「殺人タイムだぁ!!」

 

男の他にも、鉄パイプやバット、台所で使われるような包丁を持って俺達に襲ってくる。ざっと15人前後だろう。

 

「撃て!」

 

隣にいたアルフォンスは叫び、10mmピストルの引き金を引いた。弾はレイダーの太股に命中し、叫び声をあげながら男は倒れる。私もアサルトライフルをセミオートからフルオートにして、引き金を引いた。5.56mm弾が発射され、バットを持った男を切り裂く。しかし、命中したにもかかわらず襲ってくる男もいた。

 

「アルフォンス!た、助けて!」

 

私は瞬時に声の主を見つけた。レイダーと呼ばれる無法者集団に囲まれ、服を剥ぎ取られそうになったDr.アリスの姿だ。

 

「アリス!」

 

私は助けるべく、迫る汚い格好をしていた男を銃床で殴り付ける。そして、アリスを助けようとした。だが、あと数メートルの所で私の背中に衝撃が走った。

 

「ガハッ!!」

 

鈍器で殴られたような衝撃で私はその場で前のめりに倒れた。

 

「ゴメス!た、助けて・・・」

 

男共の集団に囲まれ、剥ぎ取られていくアリス。私の後ろには、レイダーとおぼしき男の姿があった。目は濁り、着ているアーマーには返り血がべったり着いていた。

 

「ひっひっひ、今日のディナーはお前だ」

 

た、食べるのか!?

 

私はその言葉に驚きを隠せなかった。だが、この荒廃した世の中。食べるものも少ない。ならば、人間を食べるということを思い付くのだろう。

 

男は持っていたバットを振り上げて私の頭を目掛けて降り下ろそうとした。

 

 

とうとう、ここで死ぬのか。まだ、死ぬには早すぎる。息子も妻も待っているのに・・・。死ぬ覚悟なんてまったくなかった。未練たらたらだが、命乞いをするのだけはごめんだ。

 

そう、死を覚悟せず、死を迎えようとしたその時だった。赤い一本の光がレイダーの右腕に命中した。

 

「がぁぁ!!!痛ぇぇ!!やける!!」

 

レイダーは転げ回り、撃たれた右腕を庇うように動き回る。私は何があったのか理解できなかったが、vaultの本で呼んだ武器の名前を思い出した。

 

レーザーライフル。アメリカ軍が少数精鋭にしか支給しなかった高威力の次世代携行火器だ。

 

「そこの人、伏せて!!」

 

女性の声が聞こえ、直ぐに頭を伏せた。すると、爆発音と共にレイダーが数人爆風に吹き飛ばされるのを目にした。

 

「椿!援護して!」

 

「はい!」

 

パワーアーマーを着込んだ黒人系の女性兵士はレーザーライフルを乱射して、襲いかかってくるレイダーを射抜く。何人も倒れていくが、瓦礫の影から鉄パイプを持ったレイダーが出てきて、彼女に向かって降りおろした。

 

「このクソアマが!」

 

そう叫んで降り下ろすが鉄パイプは彼女の肩に命中する。彼女はパイプを掴んだ腕を掴むと、レーザーライフルをレイダーの心臓目掛けて引き金を引いた。

 

ブシュッ!!

 

レーザーはレイダーを射抜き、凝固しなかった血が血潮として外に舞った。

 

一方、近くにいた兵士もすごかった。

 

10mmサブマシンガンを片手で撃ち放ち、もう片手には中国軍将校の剣のようなものが握られ、近づいたレイダーを蜂の巣に。それか剣で頭と胴体が分離する離れ業を見せた。

 

vaultの映画で日本と呼ばれるアジアの国の戦士、“サムライ”が日本刀と呼ばれる剣で敵を切り捨てるシーンがあり、一瞬の内に敵の胴体と頭を分離させるのもあった。だが、それが出来るのは一流の剣士しか出来ない物で、この荒廃した世界ではその武器を使うことすら稀だ。

 

「はぁ!!」

 

パワーアーマーを着ているにも関わらず、華麗に敵の攻撃を避わし、敵の胴体目掛けて刀を降り下ろす。風を切る音と共にレイダーの身体に斬傷が出来、一瞬の内に5人ものレイダーがその場に横たわった。

 

顔はパワーアーマーのヘルメットで覆われていて見ることは出来ない。だが、顔を見ていないのにも関わらず、その洗練された動きに惚れた。

 

 

「ひとり逃げたぞ!」

 

戦闘に参加しなかった見知らぬ荷物を抱えた男が走り去るレイダーを指差した。

 

 

向かう先はメガトンでも話の種になっていたスプリングベール小学校。最近、レイダーの集団がそこに住み着いたという噂があった。もしかしたら、仲間を呼んでくる可能性があった。

 

「パラディン・クロス、レーザーライフルを!」

 

「あ、さっき格闘中に壊れちゃった」

 

角刈りの女性兵士は「やっちまった・・・」というような顔でレーザーライフルを見る。他に撃つことができるものがなく、出来るとすれば私が持っているアサルトライフルだけだ。

 

私は背嚢を銃の二脚代わりに置いて、その上にアサルトライフルを乗せた。フルオートからセミオートにして伏せ撃ちの体勢で逃げ

るレイダーを狙う。

 

だが、私の腕は先程の戦闘で恐怖したのか、震えが止まらなかった。

 

すると、先程まで剣を振り回していた兵士が此方にやって来て手を押さえる。私はその兵士の顔を見た。ここ周辺では珍しいアジア系で目は青く濡れ鳥のような黒髪とも例えても良い綺麗な髪を持ち、まるで映画や絵画から出てきたような前世紀の美女だ。私は妻も子供もいるのに、彼女に惚れてしまった。

 

「私が観測手を務めます。あなたは射撃に集中して」

 

彼女はバックから双眼鏡を取り出す。

 

「東からの風、修正。距離約30m。今なら当てられます」

 

私はゆっくりと息を吐いて、少し息を吸うと、そのまま息を止めた。そして、引き金を引くが、銃弾は右に逸れてコンクリートの地面に命中する。

 

「左に修正。少し狙いを上に、大丈夫、貴方なら当てられる」

 

私は落ち着いて引き金にもう一度指を掛ける。ゆっくりと引き金を引いた。

 

撃った銃弾はレイダー目掛けてまっすぐ飛んでいき、レイダーの背中を貫いた。人間の神経が集中している脊髄に命中し、胸骨まで到達する。神経は銃弾によって分断し、二度と電気信号が送られていくことはない。レイダーの男はまるで糸の切れた操り人形のように頭を地面に叩き付け絶命した。

 

「good job!」

 

双眼鏡で一部始終を見ていた彼女は親指を立てて、まるで女神の微笑みとも言えるかのような屈託のない笑みを浮かべた。なぜ見知らぬ私にここまでいい笑顔を見せるのか。メガトンでは、一定の安全は確保されているものの、誰しも誰かに教われないよう警戒していかなければならない。だからか、町中の人の顔を見ても彼女のような笑顔の人は見つからない。どうして彼女は私に笑顔を見せるのか?

 

「私はvault101探査隊のアルフォンス・アルドモバル。君達は何者だ?」

 

拳銃を突きつけてはいないものの、アルフォンスの目は射殺すかのように鋭い。突然、見ず知らない者に助けられて、手を叩いて喜ぶほどにこの世界は甘くない。

 

「私の所属はBrotherfood of steelと呼ばれる部隊の人間だ。名前はスターパラディン・クロス。ある人物の護衛に当たっている。彼女は私の部下である・・・」

 

「ナイトの椿です」

 

椿と名乗った彼女はお辞儀をすると、同行していた男に近づく。男は布に包まれた物を慎重に持っていた。そして、荷物を椿に渡した男はアルフォンスの元に近づいた。

 

「私はジェームズ、D.C近くで科学者をしていた。折り入って話したいことがあるのだが、ここで立ち話はよそう。また、レイダー達がやって来る前にここを離れなければ」

 

ジェームズと名乗った男はvaultの科学者と比べると、雲泥の差があった。無精髭は勿論の事、汚れた頬や掠れているフィールドジャケットから見るに、科学者とは到底思えない。白衣を着ていれば科学者に見えるのかも知れないが、どことなく科学者とは見えない一面があるのは確かだ。

 

私達は死んだ仲間達を埋葬しに掛かった。最も、埋葬と呼べるものではない。数人の死体が入りそうな穴を見つけて、そこに遺体を移動させるだけ。そして上から土を掛けるだけだ。

 

今日、ここで死んだのは三人。ジャックとモリス、Dr.アリスを含めて3人。痛手なのは唯一の医者であるアリスを失ったところであろう。彼女は凌辱されかけ、隙をみてレイダーから中国軍のピストルを奪い取って自殺した。もう少し、ジェームズ達の助けが早ければ助かったかもしれない。だが、それを責めるのは酷であったし、お門違いだ。

 

三人を埋葬したのち、我々はレイダーからの追跡と追撃を逃れるべく、vault101の入り口に近い高所に到着した。そこなら、高所からの狙撃に向いており、脱出経路もあるためだ。アルフォンスは嫌々だったが、スターパラディン・クロスと名乗った角刈りの女性は軍事訓練を受けたため、説得力があった。

 

私は彼女達の真意はよく分からなかったが、入り口についてからジェームズ達は口を開いた。

 

「vault101に入植させて貰えないだろうか?」

 

最初、我が耳を疑った。この男は我々の故郷に入りたいと言ったのだ。だが、彼がvaultに入りたがったのも無理はない。風の噂で耳にするように、ここは周囲と比べて文化レベルが非常に高い。安全な水と食料が自給自足であるため、周囲の者からすれば天国に等しいだろう。だが、それは無理なこと。ある程度空き部屋はあるが、キャパシティがそこまで大きくないvault101は大人数を受け入れることは難しいのだ。

 

最初、アルフォンスは拒否する。だが、ジェームズの能力と連れ子を見て、返事を決めかねていた。

 

Dr.アリスは死に、vault101にはインターンの者が数名しかいないことになる。何がなんとしても医者が必要だった。ジェームズは自信の経歴を明かして、自身を“医者”として入植させるよう頼んだのだ。更に、彼は娘を抱えていた。最近生まれたらしく、娘と安全な暮らしを望んでいたのだ。

 

アルフォンスはこの前、娘のアマタが生まれたばかり。私にも息子が一人いる。我が子を守りたい父親の気持ちは分かっていた。

 

そして、もう一人入植したいと申し出た者がいた。スターパラディン・クロスの部下であるナイト・椿である。

 

「君の能力は?」

 

「戦闘技術や軍事訓練の経験ではダメですか?」

 

その答えにアルフォンスは顔をしかめる。vaultは閉鎖環境で平和と言っていい。そして、その能力を必要としていなかった。アルフォンスの顔を見て、彼女は顔を俯かせた。

 

私は何故か、アルフォンスの決定を覆したかった。つまり、彼女を故郷に迎え入れたいそう思った。なぜだろう?私には妻もいて子供もいる。だが、夫婦関係は良いとは言えない。浮気者と言われてもよかった。ただ、彼女を中に入れることは出来ないだろうかと思った。

 

「アルフォンス、今回みたいに我々には力がなかった。vaultに軍事教練のプログラムも無ければ、経験者もいない。彼女も入れてあげたらどうだ?」

 

私の提案にアルフォンスは驚いた。

 

私の立場は所謂、解放反対派の一人だ。外は危険が多く、持ち合わせの武器は余りない。vault101を解放しても、外の勢力に吸収されるか、さっきのようにレイダーに殺される危険性もあった。vault101として外に出ていってからもひとつの勢力を保ち続けていきたいが、それは人数的にも物資的にも不可能だ。それに、彼女達を見て思った。vaultには知識の塊はあるが、経験と言う物がない。いくら、射撃訓練を行っていても、経験を得ることはない。

 

彼女に惚れた?多分、それもあるはずだ。

 

「参った・・・・今日、帰ってきたら一騒動あるぞ。それと、スターパラディン・クロスだったか?貴女はどうするのだ?」

 

アルフォンスはジェームズの隣に座るスターパラディン・クロス(多分階級だと思うが変)に訊いた。

 

「私には任務があります。科学者の彼を護衛すること。それが終われば、司令部に帰還しなくてはなりません。どうか、椿をお願いします」

 

クロスは頭を下げる。アルフォンスは彼女もvault入植希望者かと思っていたらしく、表情を変えた。

 

「そうですか、・・・・ではそろそろお別れですな」

 

我々はその後、スターパラディン・クロスと分かれ、vault101

のエントランスに到着した。

 

 

 

 

私は死んだ三人の荷物を持ってエントランスまで歩いてきたが、3人の荷物が一気に増えたため、足元がふらついた。

 

「私が持ちましょう。」

 

そう言ってきたのは、先程観測手をしてくれた椿さんだ。私は彼女にジャックの荷物を持たせて移動する。

 

「何故、私を入植させるようにしたんですか?」

 

彼女は荷物を運びつつ、周囲を警戒しつつvaultエントランスに入ろうとしていた。

 

 

「そうだな、さっきみたいにああ言う理由もあった。けれど・・・」

 

「けれど?」

 

「君みたいな人が入れば、私の人生が明るくなるだろうと思って」

 

それは、野球でカーブを投げたのと同じだろう。直球で「君に惚れた」とは言えず、曲がりなりのストライクを投げ込んだ。それはストライクゾーンへと入るか、それともボールと言われるか。

 

彼女は最初、驚いた表情をしたが、直ぐに笑ってしまった。

 

「そんな風に言われたの初めてですよ。でも・・・・・ありがとうございます」

 

椿は頬を赤く染める。私は一体どうしてしまったんだろう?妻子が居るにも関わらず、彼女に惚れてしまった。しかも、告白すると、拒絶するどころか感謝されてしまった。胸は少年の初恋のように高鳴る。これが、本当の恋ってやつなのか?

 

 

私はまるで十代の若かりし頃のように「恋」とは何なのか考えてしまう。

 

しかし、

 

 

「行けぇ!!敵討ちだ!!」

 

vaultエントランスに入ろうとした時、突如として、レイダーが群れをなして現れた。その数、10は越えるだろう。整備不良の銃器とバットやアックス、包丁などで武装していた。

 

「殺人タイムだ!」

 

「ヒャーハァー!!」

 

レイダー達は思い思いの叫び声をあげて突撃する。既にスターパラディン・クロスは帰還の渡についているため、戦えるのは私と椿、アルフォンス、そして娘を抱えるジェームズだけだ。

 

アルフォンスはホルスターから10mmピストルを抜いて続けざまにレイダーを二人撃ち殺す。私はジャックの所持品であったショルダーバックを地面に下ろすと、肩に掛けていたアサルトライフルを腰だめで連射する。隣にいた椿は10mmサブマシンガンを片手で放ち牽制した。相手はレイダーで突撃するしか能がない。しかし、彼らは全てジャンキーである。痛覚が麻痺し、一発撃たれても立ち上がってくる。私のアサルトライフルは5.56mmの高速ライフル弾であるが、302口径ライフル弾と比べると、威力は小さい。ジャンキーに対して私のアサルトライフルでは威力不足なのだ。

 

私は焦りフルオートで連射したため、銃身が熱くなり、弾倉が空になる。新しい弾倉を装填しようとして腰に着けたマガジンポーチに手を伸ばした。

 

 

「皆殺しだぁぁ!!!」

 

今日ほど運が悪いと思ったことがない。

 

銃撃を掻い潜ったレイダーは釘を刺したバットを私に降り下ろす。

 

咄嗟に私は左手で庇う。

 

バキッ!

 

と頭を守ろうとした左腕に鈍い音が響く。バットを降り下ろした衝撃で骨が折れ、バットの釘が肉を抉る。

 

「痛!!!この!!」

 

アサルトライフルをレイダーに投げつけると、ホルスターに収まった10mmピストルを引き抜いて引き金を引いた。放った銃弾はレイダーの眼球を抉り、脳に到達し即死した。だが、それ以外にもレイダーは多く近づいてきた。

 

「椿さん!ゴメスを中へ!」

 

アルフォンスは叫び、10mmピストルを連射すると、近づいてきたレイダーに落ちていた鉄パイプで一撃を加えた。

 

戦いは既に撤退戦に変わっており、椿が私を庇うように10mmサブマシンガンを放ち、それに続いてジェームズ、そしてアルフォンスが続く。エントランスに入るが、レイダーは止まるどころか中に入ってきていた。

 

「ハッチ開閉には時間がかかる。開けているうちに皆殺しだ!」

 

アルフォンスはハッチ開閉のコンソールを叩くように操作する。

 

レイダーは岩影にかくれつつも、じりじりと接近してきた。

 

私は岩影に腰を下ろし、怪我した左腕を庇うように10mmピストルを片手で放つ。左手から熱を発してジンジンとした痛みが伝わる。肉は抉れ、後々跡になってしまうだろう。

 

「これは不味い。何とかしないと」

 

私は呟く。弾倉も残り少なくなってきているし、レイダーもすぐそこまで迫っている。万事休すだった。

 

「ゴメスさん、だったか。娘を抱いていて貰えないか?」

 

ふと、振り向くと科学者のジェームズが娘を抱えていた。私が抱えて、彼が銃を撃つのだろうか。私は彼女の娘をだっこすると、彼に銃を手渡した。

 

「いや、私は要らない」

 

何を言っているのか?

 

彼は武器を持たず、今はただの素手である。そんな彼が何をすると言うのか。

 

「娘を頼んだ!」

 

彼はそう言うと、背嚢を下ろして真っ直ぐレイダーの元に走り始めた。

 

まさか、自爆か?!

 

手榴弾をいくつか抱えて自爆する戦法であるが、自分の命を代償に敵を巻き込むのは余りにも危険だった。

 

「おい、見ろよ!変なおっさんが走ってくるぜ!!」

 

「いい鴨だぜ!やれ!ぶっ殺せ!」

 

レイダーは叫び声を挙げ、手持ちの武器を手にジェームズに襲いかかった。しかし・・・・、

 

「貴様らの脆弱な弾が私に当たると思っているのかね?」

 

 

 

一瞬の事だった。ジェームズは殴り掛かってきたレイダーの腕を掴むと、背負い投げの要領で投げ飛ばし岩壁に叩き付けたのだ。

 

受け身の体制も取れず、ボキリッ!という鈍い音を立てて動かなくなるレイダー。そして、倒れた男の敵討ちと言わんばかりに続いて中国軍将校の剣を持ったレイダーが斬撃を食らわせる。だが、それを素早く身を反らし、脇に拳を打ち込んだ。

 

まるで空手家が瓦を割るように、ジェームズはレイダーの脇腹を粉砕する。そして、極めつけに顎にストレートを決めて顎を打ち砕いた。

 

「このクソ野郎!!」

 

すぐそばの岩影から出てきたレイダーは至近距離から中国軍ピストルを撃とうとするが、倒れ掛けていたレイダーの体を掴み、肉盾とし銃撃を防御した。

 

まだ、脇腹と顎をくだいただけで致命傷にはなっていないレイダーから中国軍将校の剣を奪い取ると、胸にそれを突き刺す。そして、そのままピストルを持つレイダーに突進する。

 

「あぁ!!!」

 

剣は一人目の男を貫き、ピストルを持った男までも突き殺す。まるで串刺しにする化のごとく、剣はレイダー二人を串刺しにしてしまった。

 

「ば、化物だぁ!!!」

 

最早、戦って負けると本能的に分かったのか、それとも少しばかりの理性が働いたのかは分からない。ジェームズの近くにいたレイダーは叫び声を挙げ、エントランスから外へと走り出す。それにつられてか何人かのレイダーも持っていた武器すらも捨てて走り始めた。

 

「望みが絶たれた~!!!」

 

「助け・・・グハっ!!」

 

彼らの背中に鉛弾が撃ち込まれる。逃げている者達を撃つのは卑怯と思うかもしれない。だが、彼らは逃げ延びればまた殺人や意味のない拷問を繰り返し快楽をえる。そんな、彼らを生かしておけば、いずれ自分にも還ってくる。そのことを知っていた椿や私、そしてアルフォンスは持っていた銃でレイダーの背中を撃ち抜いた。

 

 

「おわった~・・・・」

 

「もう、勘弁してくれ」

 

vaultに住んでいる我々はもやしっ子だ。地下でぬくぬくと育てられた、謂わば“温室育ち”。そんなおぼっちゃんにここまでの死闘は辛すぎた。

 

アルフォンスと私は岩を背にしてぐったりとした。扉が開いたとき、待っていたオフィサー達は私達二人が死んだのではないかと驚いらしかった。

 

我々は直ぐにvaultに入った。ハッチの内側では既に何人もの仲間達が出迎えた。私は直ぐにvaultのメディカルセンターに入り、アルフォンスはこの状況を伝えるために監督官に報告した。帰らなかった父。子供。幾人かは涙を流し、彼らが天に行けるよう願った。悲しい空気に包まれる者もいたが、それでも我々の生還でお祭り騒ぎなった。だが、私は入植を許可されたジェームズの所で左腕の治療をしなければならず、参加できなかった。

 

「さすが、外で暮らしているだけのことはあるよ。こういうのって馴れてるのか?」

 

「いや、私は医者。もとい科学者さ。そんな荒事は専門外さ。」

 

「だけど、あんな戦い方は映画でしか見たことないよ」

 

アクションスター顔負けの戦いぶりだった。もしかして、ジェームズは科学者ではないのではないか?

 

「これは外で生活すれば誰だって身に付くものさ」

 

「やっぱり、vaultに引きこもるわ。こんな化物になりたくない」

 

私が知らぬ間に外は化物だらけになったようだ。放射能でミュータント化した動物は見たが、人間全て少林寺拳法が使えるのはやはり放射能の影響か?

 

「私も化物なのかしら?」

 

「え?」

 

ふと、気付けば、隣のカーテンにはvaultジャンプスーツを着た椿の姿があった。シャワーを浴びたらしく、髪は湿っぽく黒髪が蛍光灯の光で艶やかに見えた。肌も白く男なら誰しも美人と言うだろう。

 

「・・・・いやいや、あれは言葉の綾と言うかなんと言うか・・・」

 

誰だって化物呼ばわりされるのは嫌だ。しかも、女性に対しては言ってはいけない。すると、彼女は笑い始めた。

 

「フフッ、冗談よ。私から見てもあれは規格外よ。」

 

「そうでもないだろう?私は幼い頃から・・・・」

 

「ジャイアントスコルピオンを素手で倒してしまうんですよ。何処のサイボーグですか?」

 

おいおい、まさかあれをか?

 

よく神話の蠍っぽいあの大きな蠍か?

 

文字通り化物やんけ。

 

「何をすればそんなに強くなるんだ?」

 

「幼い頃から鍛えれば出来るさ」

 

「・・・・・体育会系恐るべし」

 

私は引き気味でそう呟き、一層椿は笑い、ジェームズは「何が可笑しいんだ?」と言わんばかりの表情で私の腕に包帯を巻く。

 

三角巾で腕を吊ると、私はメディカルセンターを出る。ジェームズはDr.アリスの残した書類の整理をしなければならないらしく、私は椿と共にvaultを案内した。

 

「えっと、ここがvaultセキュリティーの詰所だ」

 

「へえ・・・・以外と装備が整っているのね」

 

彼女はロッカーに入った防弾ベストや暴徒鎮圧用のヘルメット、小銃を管理する武器庫や弾薬を製造する弾薬プレス機を見ていった。

 

「このベストはもう少し防御力を増した方が良いわ」

 

「え、これじゃダメなのかい?」

 

「そうね、首回りにケプラー製のネックガードを着けて肩や腕、足にも着けた方が良いわ。そして・・・・股間を守るためにフンドシ?・・・・エプロンみたいな三角状の物を着ければいいかしら?」

 

「それを作るのには時間が掛かるな。材料も調達しなければならないし」

 

「物は試しよ。やってみましょう!」

 

 

彼女のアドバイスによってvaultセキュリティーの質が向上されたと言ってもいい。一通りvaultを案内していると、時計は既に7時を過ぎていた。

 

「もう、こんな時間ね。楽しかったわ」

 

「私もだ。・・・・そう言えば、食事は何処で?」

 

「う~んまだ決まってないわ。いいレストランを紹介してくれるのかしら?」

 

「じゃあ、俺の家で食べないか?」

 

ついに言ってしまったその言葉。すると、驚いたような表情をした。

 

「え、でも確かゴメスさんは子供と妻が・・・」

 

「別居中で子供は妻のところさ。夫婦関係はもう修復不可能だよ」

 

元から難のある性格であるペッパー・ゴメス。子供が生まれたものの、生まれる前から関係はぎくしゃくしていた。ある程度歩み寄ったが、彼女の方から突き放したのである。私はまだ子供が生まれたてだし、夫婦関係は時間が癒してくれるものとばかり思っていた。だが、譲れないものもあるということがはっきりした。私が帰ってきても何一つ言ってはくれないし、顔も合わせてくれない。時間が癒してくれないことは火を見るより明らかだった。

 

「何ていうかな、人付き合いって本当に難しいものさ。」

 

「・・・・」

 

少し考えるように、彼女は俯く。

 

多分、彼女は下心が私にあると思っているのだろう。

 

「下心はない。むしろ、疑うのが自然だけど」

 

「いえ、そんなつもりじゃ」

 

「まあ、命を救ってくれたお礼かな。あの時、助けてくれなかったら、この故郷には戻れなかった。今日だけでもいい、恩返しと思って一緒に食事してくれないか?」

 

私はそう頼むと、手を差し伸べる。

 

彼女は少し考えるようにして、口を開いた。

 

「良いわよ、美味しくなければ返金ね」

 

「お望みとあらば!」

 

何が良いだろう?

 

スパゲッティ?オートミール?グラタン?

 

私は意気揚々と彼女と共に家に帰った。

 

vaultの仲間になんと言われようとも関係ない。どんなに疎まれようとも、彼女と何時までも一緒にいたい。例え、どんなに辛かろうとも。

 

私はそう心に誓って、彼女を家に招き入れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 




う~ん、自分では☆5つのうち3つと言うところか・・・・。ちょっと完成度はいまいち。
しかし、ジャームズの武闘派。あれは確実に「イワッシャー!!」とOPに入るような戦いだと思ってください。北斗百○拳?そんなの知らん!

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