fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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これから一万文字投稿を始めます。一万文字を満たせば、投稿するので更新遅いです。亀更新なので気長に待ってもらえれば幸いです。




十三話 後日談

 

さて、その後は一晩ウィルクス家の家に泊まり、次の日の早朝に出発した。ブライアンは昨日の決定を知らなかったため、メガトンで生活すると言った途端、まるでカジノで賭けて大金を手に入れたギャンブラーのように大喜びした。言葉にしたくても出来ないのが世の常。本当なら俺達と一緒の方が良いと思っているに違いなかった。

 

一応、ブライアンには予備のコンバットナイフを持たせて、自分の荷物を整理させるように命じた。シャルと俺は持ってきた武器とメトロとウルトラ・スーパー・マーケットで集めた食糧や弾薬、各種予備部品を整理して背嚢に仕舞い込む。朝食にミレルークケーキを食べて準備が整った。

 

「お父さん、行ってくるね」

 

ブライアンは行く直前に土に眠る父に別れを告げる。俺とシャルも同伴し、心の中で冥福を祈った後、出発した。

 

早朝に準備万端で出発した俺達だったが、メガトンまでの道のりはそこまで険しくない。4キロの距離があり、小学校に近づかなければ、危険はアントか野生の動物だけである。よって、グレイディッチからメガトンまでの道程はまるで子供のお使い感覚で行くことが出来た。実際、戦前はスプリングベールに住む子供がお菓子を買いにここまで来たのだろうと考えて、俺はpip-boyのラジオを聞きながら、メガトンまでの道程を歩いた。

 

「ってことはメガトンの市民なの?」

 

「そうなるね、ユウキが爆弾を解体したお陰でなんとか家をゲットできた。」

 

「凄いなぁ。僕もそんな能力があればいいのに」

 

先頭に立つ俺は銃を持って先導しているが、後ろではブライアンとシャルが親しく喋っている。

 

「メガトンの市民て早々なれる訳じゃないんでしょ。いいな、綺麗な水が貰えるんでしょ」

 

メガトンの市民はメガトンに住居を持つ人の事である。メガトンはルーカス・シムズ保安官が一応仕切っており、何か決め事をする場合は住居を持つ市民が広い食堂などで会議をする。彼らには一週間に一回放射能の除去された綺麗な水が10リットルほど貰える。しかし、市民は特権を与える代わりに町の為になにかしなくてはならない。例えば、武器の扱いや修理、製造、医療、その他様々な能力をメガトンで発揮しなければならず、何も能力のない者は追い出される運命であった。

 

一方、住居がないメガトンの入植者達はメガトンの行政には関わらない。彼らはメガトンの内外に集団住居を持ち、メガトンの製造に日雇いで従事出来る。だが、その給料は低く、そこらで売っている何か良く分からない食べ物を食べて生活する。そういった生活環境下では1日に何人かは栄養失調か疫病か餓死か殺されるかしてメガトンに打ち捨てられる。それをまた日雇いの入居者が荒野に捨てに行くという悪循環が成り立っていた。

 

ゲームではそんな描写は存在しないが、現実味を帯びさせればここまでのようなひどいことになる。

 

俺達三人は他わいもない話をしながら、メガトンに到着した。

 

「保安官ガオ待チシテオリマス。」

 

メガトンの入り口にたつプロテクトロンの副官ウェルドはそう言うと、辺りを巡回するべく油の切れた足を使い歩き始める。

 

「ユウキ、どうしたの?」

 

「呼ばれているっぽい。先に帰っていて」

 

「うん、昼食の用意してる」

 

シャルとブライアンは先に家の方へ帰らせ、俺はご飯時であるためメガトン中央に位置する食堂へと足を向けた。

 

「あら、生きてたのね」

 

そう言ってきたのは、店番をしていたジェニーである。このメガトンの胃袋とまで言われる「ブラス・ランタン」の女将である。

 

「そんな簡単に死ねませんよ。保安官見なかった?」

 

そこまで仲良しではないが、食糧品を買う時に世話位はするようになった。

 

「中でヌードルを食べてるわ。・・・なんか新しいメニューないかしら。」

 

「そうだな、モールラットの肉を煮込んだスープを使えば?」

 

「そうね、ちょっとやってみるわ」

 

ジェニーはそう言うと、腕捲りをして近くにある冷蔵庫からリスシチューとイグアナの串刺しを出してカウンターにいたジェリコに渡した。

 

俺はそれを横目で見つつ、プラス・ランタンの扉を開けた。

 

「お、死んだと思っていたぞ」

 

「そう簡単に死んだら、vaultオフィサーの名が廃ります。何で呼んだんです?」

 

「メガトン市民なら務めを果たさんとな」

 

どうやらゲームの知識とここでは若干違うようだ。

 

ルーカス・シムズはビールを片手に説明し始めた。

 

知っての通り、メガトンに住宅を持つ者はメガトンに貢献しなければならない。例えば、「ブラス・ランタン」のジェニーは自分の料理や食料を提供している。それか、モイラであれば雑貨店の経営。ジェリコのようながさつな男であれば傭兵家業や街の民兵として街の防衛を行うこともある。

 

俺はメガトンの爆弾を解除したから、それが終わったのかと思っていた。しかし、爆弾を解除しただけでは一時的な貢献だけで、メガトンは永続的な貢献を求めていた。

 

「何か無いですかね?」

 

「そうだな、傭兵業は無理そうだし、自警団は頭数は揃っている。予備としてなら数えておこう。他には・・・そう言えば、銃の修理とか販売はどうだ?どうせなら家を改造して店舗に出来るぞ」

 

メガトンには銃の修理を専門とした店舗は存在しない。モイラも一応出来るけど、電子機器専門だから俺のスキルを考えると、俺の方がいい。だが、レーザーライフル等の光学兵器ならモイラの得意分野である

 

「あの家をですか?そうなると、ちょっと困るかな。それなら別に掘っ立て小屋作るって言うのも良いかもしれないですね。」

 

「屋台みたいにか?それなら、バーグの家を改造したらどうだ?彼処ならぴったしだ」

 

因みにMr.バーグだが、爆弾を解体してしまったため此処にはいない。

 

「彼処ですか?武器を運ぶのに面倒ですけど・・・・まあ大丈夫ですかね」

 

俺は承諾するとシムズと握手を交わす。

 

「店名は何にする?」

 

「・・・・そうっすね・・・」

 

俺はその場で思い付かず、また明日考えると一度帰ったのだった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「で、モグモグ・・・武器屋みたいなことしなきゃならないわけだ」

 

「ふ~ん・・・で、お父さんは何処に居るのかな?」

 

「ゴホッ!!」

 

丁度よく俺は気管にイグアナの肉を詰まらせ、むせた。

 

正直言うと、ジェームズが何処に居るかあまり思い出せない。確かウェイストランドの東に位置するというのは覚えているが、それが何処なのか全く覚えていない。確か市街地の何処かにヒントがあると記憶にある。

 

何かのキッカケがあれば思い出せるだろうが、今のところ朧気な記憶しかない。

 

「な、なあシャル」

 

「お父さん、探す気あるの?」

 

「あるよ。でも、拠点が必要だろ?」

 

「本当に・・・必要なの?」

 

その言葉で俺は唸る。俺のゲームのプレイスタイルはアイテムをコレクションしていくので拠点が有れば、そこに荷物を保管できる。だが、これは行動範囲を狭め、持ち物が一杯になったところで

家に帰らなければならないと言う欠点がある。これは俺だけかもしれないが、根なし草プレイも可能と言えば可能である。拠点を持たずに生活する。持ち物は最低限度に絞り、要らない物はpip-boyかそこらのスカベンジャーに売れば良い。だが、その根なし草にも欠点はある。物資が常に欠乏し、食糧も事欠く状況に陥る。最悪、餓死や弾薬が欠乏して鉄パイプのみでレイダーのキャンプに突撃するということになるやも知れない。

 

「俺は必要だと思う。だが、ブライアンはどうするんだ?もしも、スカベンジャーみたいな根なし草も良いけど、ブライアンの叔母が居なかったら?それだと、ブライアンは一人っきりだぞ」

 

「う・・・」

 

言い返せなくなったのか、言葉を詰まらせるシャル。

 

ブライアンは何とも言えないような不安そうな面持ちで俺達の会話を聞いていることだろう。まあ、シャルの言ったような根なし草作戦は失敗に終わるからやらないつもりだ。安心しろ。

 

「お父さんを助けるというのならここを手放すなんて・・・・そんな選択肢おかしいだろ。もっと良い方法があるだろ?」

 

「何があるの?」

 

「店番をロボットやブライアンに頼めば良い。店はMr.バーグの家を改造してやるから大丈夫だ。」

 

例えば、プロテクトロンを販売するスカベンジャーなどがいい。プログラムはロブコの本社から探しに行けばいいし、元々インストールされている機種を買えるかもかもしれない。ブライアンは・・・・少し勉強を積んでからだが、プロテクトロンが出来ないような仕事や出来ることならやれるだろうし、簡単な武器の修理を伝授できるだろう。

 

「まずは資本を借りなきゃならんが、モイラやジェニー、自警団から少しずつ貰わなきゃな。出来れば今度のメガトンの会議で資本集めしないと」

 

「やっぱりお金借りなきゃだめ?」

 

「ちょっと試算してみた・・・・」

 

俺は持っていたクリップボード(経理)をシャルに渡す。シャルの顔はみるみると赤から青に変わっていく。

 

「え?・・・え?・・・2000キャップ!?」

 

「それだけで収まったんだ。それの資金練りの成果だな」

 

掛け算出来ない子がどうして・・・・、とシャルの馬鹿にした発言は反応しないでおいてそれだけの金額が掛かってしまった。

 

防犯上、銃器を取り扱う上で普通の住居とは違うことをせねば成らない。例えば、一作目のターミネーターで武器店の店主がシュワちゃんに売り物のショットガンで殺されるシーンがある。売り物で殺されるなんてあっては成らないし、盗まれることもあっては成らない。そのため、武器の受け取りや支払いは何処かの遊園地のようなカウンターの所だけ穴が空いているような物にして商品と客の間に一つ区切りを付けた。また、暴動が起こったとき、襲撃を受けるのは武器屋であるので、武器の保管場所や弾薬の保管場所には気を配らなければ成らない。

 

必要経費と削減できる経費を今後知り合いの経営者に話を伺って見よう。モイラに聞いてみても、しっかりとした答えが帰ってくる筈だ。もし、変人紛いのセリフが返ってくるなら、とっくの昔に雑貨店は無くなっている。

 

「今手元にあるのは、345キャップ・・・。返済はどうするの?」

 

「分割して支払う。月に二百キャップづつ。家には最高品質の武具があると宣伝しとけば食い付くんじゃないか?それに俺は改造も加えてみたいし」

 

「改造?」

 

とシャルは首を傾げた。

 

既に忘れていると思うが、俺は転生した人間だ。前世の記憶を忘れていると言っても、興味のある物は何時まで経っても忘れることはない。例えば、2013年のアメリカ軍の兵装とかだ。

 

この世界は1950年代の文化で2077年の科学力を持つ。兵器もそれに準ずるものだが、前世の兵器と比べるととても面白い。

 

アサルトライフルなんて、H&KG3A3にそっくり(似ている小火器は多くある)だし、木製ストックは石油が枯渇したため、採用された経緯もある。前世の武器は光学機器を搭載するなど、歩兵一人一人の価値が上がっている。ここのアサルトライフルを改造して、ピカディニー・レールとかオプションパーツを付ければ面白くなる。

 

それをシャルとブライアンに絵付きで説明した。

 

「てことは、ここに取っ手とスコープをつけるの?」

 

「こんなに金属部品使ったら重くなるんじゃない?」

 

「いや、ブリキ缶のような軽量の金属で加工する銃身を取り付ける。密閉しないし、熱を放出する穴を開ける。木製のハンドガードだと、熱が篭るから此方の方が長持ちすると言えば、長持ちする。」

 

かねてより、アサルトライフル改造案を練っていた俺はpip-boyから設計図を取り出した。ハンドガードを取り替えて、フロントサイトの近くには20mmのレールを取り付ける。そして銃床も前世のアメリカ軍が使用するM4A1の伸縮ストックに差し替える。青い設計図用の紙に描かれた図面は色々な修正点と注意点が埋め尽くされており、専門用語が書き綴られた物を見ていたブライアンは首を傾げていた。

 

「そう言えばこの銃床と同じのがあったわね」

 

シャルは地下にある武器庫にあった武器を思い出す。

 

「幾つかは戦前に作られた5mm弾を使用するアサルトカービンだろう。ほかは・・・・まあ、あれも戦前の武器だな」

 

武器庫には俺がMODで収集した以外にもベガスで売られていた武器も置いてあった。例えば、50口径弾を発射するアンチマテリアルライフルや5.56mm弾を発射するセミオートのサービスライフル、同系統のマークスマンカービン。

 

他にも某サイトで手に入れた生前のアメリカ軍が使用していたM4A1やMINIMI軽機関銃、G36C、AK47、P90などなど。

 

弾薬はこの世界に流通する弾薬やここでしか生産できない物も存在する。俺はこれをvault内で構想を練っていたが、何時考えたのかと聞かれたら、メガトンに来てからと言っておこう。流石にvaultの中で構想を寝るのは無理があるし、ここに来てからという言い訳をすれば良い良い。

 

「ブライアン、風呂入っておいで。体汚れているだろ」

 

「うん、分かった」

 

メガトンには一応風呂屋もある。だが、殆んどが放射能汚染水なのでシャワーに止めておかねばならない。しかも、シャワーを浴びた後にradawayを体内に入れて放射能を分解しなければシャワーを浴びた分だけ被爆するから、後々放射能病になる。

 

だが、この家には浄水設備があるから大丈夫なのだ。

 

汚染の心配のないお風呂に入ることを知らないブライアンはさっさと風呂場へ直行した。

 

俺はテーブルに置いてあったポテトチップスを食べて、ウィークリー・セールスマンと呼ばれる雑誌を読んだ。雑貨店をやるモイラによると、二日前にスカベンジャーが雑誌を見つけたらしく買い取ったそうだ。俺は今日彼女の所に行って、武器の値段を聞いてきた。一応、お礼として新品同様のアサルトライフルと撤甲弾90発を渡した。その時、武器の金額表と一緒にこの雑誌を貰った。東海岸にはあまり見当たらないものだが、探せば幾つかここでも見つかるのではないかと思う。

 

ふと見ると、シャルが戦前のレポート用紙に綺麗な字で何かを書いていた。それは手紙らしく、リベットシティでホテルを営むヴェラ・ウィザリーという女性宛てに書いていた。

 

「一応、明日リベットシティを回るキャラバンに渡してみるね。」

 

「ああ、シャル。これ見てくれ」

 

俺がそう言って見せたのは、店を開店する上での予算編成だ。

 

「えっと、人件費が日雇い10キャップ×10人。フェンス付きカウンター1000キャップ。追加弾薬箱30キャップ×2。・・・・日雇いは5人で十分よ。それにここは・・・」

 

とシャルは武器屋の予算にメスを入れていく。これによって、2000キャップから1500キャップまで削減された。

 

予算削減が終わる頃、泥汚れなど顔が少し黒くなっていたブライアンは風呂から出てくると、戦前のCMに出てきそうな子役のように若々しくなった。

 

「は~、さっぱりした。・・・あれ、radaway打たなくていいの?」

 

「放射能汚染されていない水だからな。大丈夫だ。一週間に一回のペースで打てば問題ない。」

 

俺はそう言うと、まるで某お菓子メーカーのペコ●ゃん人形のように頭をカタカタとし始める。

 

「ああ、そう言えばこの家は生活水準が高いんだったな」

 

「高すぎますよ!!」

 

とうとう、ブライアンはすっとんきょうな声を上げて小躍りし始める始末。ウェストランドで風呂が入れる環境なんてタロン・カンパニーと仲のよいテンペニー・タワーかvault位な物で、それ以外は殆んどが放射能汚染水でシャワーを浴びなければならない。そして、被爆した身体から放射能を取り除くためにRadawayが必要となり、薬代と水代が掛かる訳で、ウェストランド人はシャワーすら入らない者が多い。

 

余談だが、Radawayは放射能を分解する薬剤である。戦前では世間一般に使われる物なのだが、現在では様々な活用法もある。一つ目が普通に脈に差して体内に注ぎ込む方法だが、「血の中でバラモンが暴れるように」と言われる位痛みを伴う。ウェストランド人はアルコール類を飲んで痛みを和らげながら、放射能を除去する。

二つ目が料理や水の中に直接薬剤を入れる方法。これだと、薬剤の殆んどが効果を無くすが、食料に入っている放射能はそれほど多く無いため、水や料理に入れれば、その料理の放射能が無くなってしまう。だが、薬剤その物が癖のある味のため、料理は味の濃い物にしなければならず、薬剤と水の組み合わせは最悪だ。

 

ともあれ、この家では医者も医療器具も全て揃っているため困ることはない。但し・・・。

 

「頼む・・・痛くないように・・・グヘッ!!」

 

俺は注射器の針と中に入ってくる薬剤で叫び声を挙げる。言っておくが、ウェストランド人と同じようにウィスキーやウォッカを飲むわけではない。痛みを和らげないで、飲まずに刺したのだ。

 

「痛くないから、息を吐いて楽にして」

 

言っておくが、注射は嫌いである。飲み薬や粉薬でもいい。だが、注射は嫌いなのだ。

 

ブライアンも放射能洗浄が必要だし、全員洗浄してからの方が計算が楽だとシャルが言ったので、ブライアンと俺は一緒に点滴を受けている。血中を巡るRadawayから起こり来る痛みを我慢して、奥歯を噛み締め我慢する。因みに点滴をしているのは食卓の置かれているところ。自宅に入ってすぐの場所である。食卓はひっくり返して壁際に置き、簡易型の医療用ベット二つを広げて、医療用ラックを立てている。

 

「シャル、お酒飲んじゃ・・・」

 

「ダメ、絶対!」

 

「今は2277年だぞ!んなもん忘れろい!」

 

「未成年の飲酒は脳に深刻なダメージを及ぼすの知らないの?」

 

「18なんだがら!」

 

「ダメったら駄目!」

 

「そこをなんとか」

 

「駄目よ。元々、点滴の最中にお酒飲もうとするなんて駄目に決まっているじゃない。それに、Radawayを使っているときにお酒飲んじゃ駄目なんだから」

 

シャル曰く、効果を見るためにお酒を飲むと十分に発揮できないそうだ。アルコールとRadawayの相互作用で放射能の分解が遅くなり、効果の半分しか期待できないそうだ。

 

「鬼!悪魔!」

 

「今更?」

 

「望みが絶たれた!」

 

幼馴染みが鬼とか悪魔だったなんて!もう駄目だ!

 

「もう終わったのに?」

 

「へ?」

 

見ると、黄色の半液体であるRadawayは無くなっており、シャルは慣れた手際で空のパックをバイオハザードのマークが書かれた箱に捨てた。ブライアンも終わったらしく、俺が渡した「銃と弾丸」を読んでいる。これから、ブライアンには俺と同じガンスミスとなるべくお勉強をして貰わないといけないからな。腕が鳴るぜ。ブライアンの叔母にはなんと説明すればいいって?生き残るための能力を授けましたと言えばいいだろう。

 

すると、シャルは医療用のベットから俺を追い出し、自身の身体を横たえた。

 

「次は私でしょ。そこのRadawayを医療用ラックに吊るして新品のチューブと針を繋いで、それと消毒液の綿を私の腕に塗って」

 

シャルは矢継ぎ早に指示を飛ばし、俺は急いで支度をする。銃創の応急処置や人工呼吸など救急救命の講習を幾つか出たことのあるものの、注射器を使った事はない。ましてや、点滴用の針など使ったことが無い。

 

先ずはシャルの部屋から持ってきた医療用のケースからRadawayのパックを取り出して医療用ラックに吊るして使い古した輸血用のチューブを取り付けて針もセットする。医療用ラックと医療台を近くに寄せて医療台に置いてあった金属製の容器から消毒液に浸した綿を腕の脈当たりを擦る。

 

「じゃあ、針を持って。垂直に刺すんじゃなくて、滑り込むように刺して」

 

何時ものシャルとは違い、口数が異常に多い。医者と言う能力をフルに発揮するとこうなるのか?

 

俺はそう思い、ゆっくりと針を刺して、Radawayの流れを止めていた洗濯バサミを外してシャルに流し込んだ。

 

「・・・ん・・・・んぁ・・」

 

どうやら痛みに耐えているらしく、歯を食いしばって顔を赤くしている。さらに、泣きたいのを押さえているらしく、目尻には涙が溜まり、時折声を漏らす。

 

なんだろう。この胸の高鳴りは?

 

ただ、幼馴染みが痛みに耐えているだけなのに悶えているようなこの声は一体・・・。

 

落ち着くんだ俺!シャルは痛みに耐えている。おれが耐えないで(?)どうする!?

 

「ん~・・・んぁ・・・ん」

 

頬を赤らめているシャルを見ていると・・・ヤバイですハイ!

 

その後、俺はシャルの顔を見られなくなったのは俺のせいではないと思う。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

夕食も食べて、シャワーも浴びて床に着いた。あの後、シャルの顔を見られなくなったりしたが、明日になればすこしは俺が落ち着く筈だろう。

 

シャルと予算の編成を話し合い、机にはクリップボードと紙の束。モイラの家には紙のリサイクル装置があり、真っ白な紙を生成できるそうだ。5キャップ程度リサイクルに費やされるが、それがあれば新しい記録が出来るようになる。会計データはパソコンに全部記録して置けばいいので、今回色々と書いた予算編成もリサイクルに出してしまえばいい。

 

天井に吊るされた核分裂バッテリー搭載の裸電球のスイッチを消して寝ようとした。すると、扉が開いて人影が見えた。

 

「ユウキ、起きてる?」

 

白のタンクトップに濃緑のカーゴパンツという傭兵スタイルのシャルは俺の部屋の扉を開けて中に入ってきた。

 

「うん・・・まあな」

 

夕食前のあんな物を聞かされて、俺はシャルの顔を見ることが出来ない。すると、シャルは同様に頬を染めて何か恥ずかしがっている素振りを見せた。

 

「どうした?」

 

「寝るところ無くて・・・・」

 

実はここにはコンパニオン用のベット3つと俺の部屋のベット一つの計4つが存在する。つまり四人寝られる訳だ。因みに俺の部屋はクイーンサイズのベットなので二人寝られます。だが、コンパニオン用の3つの部屋のうちの二つは蜘蛛の巣がかかり埃まみれ。そのため、使えるのはコンパニオン用のベットと俺の部屋のベット計二つなのだ。

 

ところで問題だ。俺とシャル、そしてブライアンがベットで寝ます。しかし、ベットは二つしかありません。俺の部屋にはクイーンサイズのベットがある。ブライアンはコンパニオンの部屋で寝てしまいました。ではシャルは?

 

 

つまりは、シャルが俺のベットで寝なければならないという事である。

 

うん。リア充氏ねだから、俺は食卓の椅子を縦に並べて寝るとしよう。

 

俺はベットから立ち上がり、「シャルが使って」と部屋を出ようとした。だが、その本人が俺の腕を掴む。

 

「ユウキ、何処で寝るの?」

 

「下で・・」

 

「風邪引くよ」

 

因みに、キャピタルウェイストランドは暑いが、夜になると寒い。例えるなら、サハラ砂漠がいいだろう。日が登っている間は40度を超え、夜になれば氷点下となる。ここではそこまでではないが、30度超えは日中当たり前だし、夜はたまに氷点下を迎えることだってある。夜には暖かいものを羽織って寝ることが望ましい。

 

俺は明日、Mr.バーグの家を改造するため身体を休まねばならないのに、椅子を並べて寝ることは耐えられぬ。

 

「片方占領するだけだからいいでしょ。だから行かないで」

 

シャルはそう言って俺の腕を引っ張った。

 

コマンド選択!

 

○逃げる

△戦う

□寝る

×抱き締める

 

なんだこれ!どこのゲームだよ。△の戦うって何!?FFかドラクエか!×はギャルゲーだろう!!

 

それを選択する間もなく、俺はベットに寝させられ・・・押し倒されてはいない!

 

まあ、俺は右サイドに寝て、シャルは左サイドに寝た。

 

 

エロいことしなさいだと!?

 

残念だが、この小説はR15だが、そういう描写はないのだよ。他を当たりたまえ。

 

 

「ユウキ、誰に喋ってるの?」

 

「え、自分に対してさ。」

 

誰もがここでギャルゲーやエロゲーの展開を望むものがいるが、残念な事に俺はそう言うことに関してはチキンである。臆病である。

 

こう、数十cm向こうの女子に触れる距離にあっても触らない。

 

だって、今の関係が壊れるのは嫌じゃないか。そんな事を考える度に最悪な事が目に浮かぶのだ。

 

だけど、心臓は高鳴って手や額からは汗が吹き出してくる。深呼吸したところで、アサルトライフル並みの心拍数は収まることを知らない。

 

 

「ユウキ、手繋いでもいい?」

 

「う、うん。い、いいよ」

 

震えた声は端から見れば滑稽なことだろう。

 

シャルの方へ左手を出すと、シャルの手が重なり俺の心拍数が急上昇した。

 

落ち着け!何を緊張しているんだ!手を繋ぐぐらいあった筈だろうに!

 

俺はパニクり、全く眠気が襲ってこない。もしかしたら、下で寝た方がいいのかな。

 

「ここにいて。一人にしないで・・・」

 

男殺しのセリフです。ありがとうございます。

 

 

そんなセリフを言うシャルだったが、やがてすすり泣きをし始めた。俺は外向きに寝ていた体勢を変えて中向きに、つまりシャルに向かうように身体を向けた。

 

「どうした?シャル?」

 

分かっているだろうに・・・・と自分の内で聞こえたのは気のせいだ。

 

布団で顔を隠すようにしてすすり泣いていたシャルは俺の事を見ると、まるで獲物を見つけたデスクローのようなスピードで俺に抱き付いてきた。

 

「このままでいて」

 

心臓は最早、爆発寸前であった。本当に爆発してしまうかもしれない。

 

「いつも、こうやって何かに抱き付いて寝てたの。明日もう一つの部屋を掃除するから今日だけはお願い」

 

シャルは俺がいやがっていると思っているんだろう。トンでもない!寧ろ、大歓迎であるし、嫌なわけがない。

 

「大丈夫、いつでも来ていいから」

 

「よかったぁ・・・」

 

まるで親の帰りを待っていて、親と再会を果たした子供の顔である。とても安心しきった笑顔を俺に向けてきた。シャルは19なのに何でこんなにも童顔なんだよ!

 

 

安心しきったのか、腕以外にも足を俺の足に絡ませて俺の身体を抱き寄せてきた。まるでオセアニアのユーカリジャンキー、コアラのようだ。だが、弛緩しきった顔ではなく、幸せそうな顔だった。

 

結構甘えん坊なんだな・・・。

 

俺は頭を撫でると、シャルは小動物が主人に頬を擦り付けるように、おれの胸に頬を擦り付けた。これじゃあ、どっちが年上か分からないな。

 

ずれている布団をシャルの肩まで掛けると、眠気に襲われた。このまま意識を手放すのも悪くないなと思い、目を瞑って意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

threeeeeeedog!!!!!

 

この世の地獄。首都の中心にある要塞化したバンカーから録音でお送りするよ!人生ってもんはすげぇもんだな!

 

ニュースの時間だ。またあのvault101の二人組がやりやがった。何をやったって?そりゃ、ウルトラ・スーパー・マーケットにあるレイダーの根城を完膚なきまでに叩き潰したのさ!嘘じゃないぜ?また、何処からともなく来るかも知れないが、よくやった!これを聞いているリスナーはあの二人にヌカ・コーラをご馳走してやってくれ!

 

もう一つニュースだ。

 

スカベンジャーとキャラバンのみんなに速報だ。グレイディッチで起こった変異したジャイアントアント襲撃でみんな商売上がったりだろうが、アントがいなくなったようだ。なんとまたもやvault101の二人だ!ここまで来ると、嘘としか聞こえないようだが・・・本当だ。信頼すべき情報屋によると、あの二人はそこに住むブライアンを助けて、アントを殺しまくったようだ。だが、それだけじゃあない。なんと、独り身のブライアンを家に住まわせているそうじゃないか。こんなウェイストランドにも善意はあったようだ。

 

 

さてさて、今日はリスナーからの便りを読んでみよう。何々、リベットシティのとあるセキュリティーからだ、匿名だが『vault101の二人は男女だろ?付き合っているのか?』だそうだ・・・・・。非常に言いにくいんだが、とある情報筋によると、あの子はウェイストランドでも一二を争う美少女らしい。俺も会ってみたいもんだな!で一緒にいるのがよく分からんひょろいにいちゃんだそうだ。

 

ウェイストランド男性諸君!!まだ勝ち目はある!!だから頑張れ。とある街の保安官によると、片割れの男の仕事の腕はいい。しかし、女にコクれないヘタレだそうだ。まだ望みはあるぞぉ!ウェイストランドぉぉぉ!!

 

では、一旦GNRより一曲お送りしよう。Jolly days。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

ユウキ「threedog!野郎!殺してやる!」

 

ウェイン「落ち着け!言っておくが、お前のポジションは誰もが欲しがる絶好の場所だ。花形のピッチャーと同じさ」

 

 




一番困ったのはスリードッグのトークです。どうしようか、本気で悩んだ・・・・。

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