fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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今回の話は※で一応区切っています。なんか、短く区切って話を進めるのが癖になっているようです。そこから、区切りのいいところをコピペしていくわけですが、今回それが少し目立ちます。


十四話 従業員

「ふあぁぁぁぁぁ~~・・・・」

 

ベットから起き上がって俺は軽く背伸びをした。長年使ってきた腕時計を確認すると、直ぐに交代の時間らしい。俺は、急いでロッカーからコンバットアーマーを取り出して着ると、いつものようにバンダナをしてゴーグルを頭に取り付ける。ゴーグルはあまりつけないが砂嵐やレイダーが来るときに目にごみが入らないようにしてくれるので役立っている。

 

「イグアナ?・・・ああ、もうこれでいいや」

 

昨日食べた残りのイグアナが一匹皿に載せてあったが、それではなく冷蔵庫からアントの肉を取り出した。手頃な大きさに切り分けて、ある程度清潔なビニール袋に詰めてガンロッカーから愛用のスナイパーライフルを取り出した。

 

「ん?不具合か?」

 

ボルトリリースレバーを引こうとすると、何かが引っ掛かるような音がした。多分、長年使っていたからボロが出たのだろう。何度も整備をして綺麗にはするものの、細かい部品が元で撃てなくなってしまう。因みにレイダーが中国軍アサルトライフルを使わないのは、弾を発射するための撃針が壊れやすく、レイダーなどのジャンキーが使うことは滅多にない。その為使うのは銃に詳しい傭兵かまたは高度な訓練を受けた兵士位なものだ。

 

今度修理をお願いしてみるか。

 

俺は口径が小さいが、精度の高いハンティングライフルを取り出すと急いで家から飛び出した。

 

担当は今日もメガトン入り口にあるジェット機エンジンである。獲物と言ってもバカなレイダーかもしくは群れとはぐれたアント位な物なので、たいして仕事が多い訳じゃない。だが、彼処からの狙撃は俺にしか出来なかった。

 

一度メガトンの中央にある爆弾の横を通りすぎようとしたとき、工事の騒音が聞こえた。

 

「そこ!それは壊れ易いんだ気をつけろ!」

 

工事監督らしい若い男がクリップボード片手に怒鳴っている。怒鳴っている先には日雇いのメガトン入植者だ。どうやら、彼はここの工事責任者らしい。その工事してある場所は・・・。

 

「あ、あの家ってMr.バーグの・・・」

 

そう言えば、爆弾が解体される前の日に意気揚々と帰っていったっけ。前はバーでアトム教会を名指しで嫌みたらたら文句を垂れていた。そして核爆発の美しさを皆の顔を見ずに延々と話していた。もしかしたら、vault101から来たカップルに騙されたのだろう。それにしても、大規模なことだ。

 

見る限り、扉は一度外されて、中から家財道具が全て出されている。それから、カウンターと様々な家具が運ばれている。また、入り口の近くには看板らしき板が掛けられていた。

 

「ストックホルム、何をしている?」

 

俺の肩を叩いてきたのは、この街の保安官であるルーカスだった。

 

「いえ、少し寝坊して。それにしてもvault101から来た奴ら、なんかしてますね」

 

「武器屋を開店するそうだ。どうも高性能な兵器を売買するらしい」

 

「へぇ・・・」

 

俺は自分のスナイパーライフルを思い浮かべた。確かに、あのvault101の片割れは武器の取り扱いに長けていたし、ここら辺の傭兵よりも出来る奴だとは思う。だが、知名度が高過ぎるとあまり傭兵仕事そのものが舞い込んでこない事もあるため、店を出したのは懸命な判断だろう。

 

今度、修理を奴に頼んでみるか。

 

俺は踵を返してメガトンのゲートへ向かった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「そこ、それは割れ物なんだ!気を付けてくれ!」

 

俺はクリップボードを見つつ、日雇いの労働者に注意する。だが、それを分かっているのか、俺の注意を物ともせずに乱暴に運び込んでいく。ただ、割れないようにしているのだろうが、本当に注意しているのか不透明だ。何故ならば、弁償なんて出来る筈もなく、彼らは日雇い労働者。弁償として金を要求したって返ってこない。弁償として家の店で働けとは、信用上の理由で言えない。だから、ただただ彼らは言われた通りにしようとするだけなのだ。

 

だが、そういうのを除けば、店は段々と形に成りつつある。元は銀行の預金を受け取るカウンターが店に入って正面に設置され、カウンターの内側に入ってこられないようにフェンスが張られた。唯一入れるのは左側のフェンスの扉である。そしてそのフェンスが出来た先には金庫とレジ。そしてガンロッカーとキャビネット。さらに、近くの幹線道路にある軍の検問所で長年放置されていた銃整備用の作業台を設置して、スチールの棚には弾薬箱と予備部品をストックした。

 

 

こうして、街から融資してもらった金額2000キャップの内1500キャップは材料費と人件費に消えた。

 

「今日の工事は終了だ。御苦労様。給与を忘れずにな」

 

バラモンの皮膚で作った小銭入れに給与のキャップを入れて、今回働いた日雇い労働者に渡す。なぜか、その時の方が生き生きとしているのは気のせいの筈だ。一般的な給与より少し多めなためかホクホク顔で出ていく労働者も少なくない。普通の日雇い労働だと、日に5~10キャップだ。だが、今回は少し多目の15キャップにした。意欲も出して欲しかったし、仕上がりももっと良くして貰いたかった。

 

「さてと、最後の調整に入りますか」

 

最後は銃の保管場所の設置である。ガンロッカーやキャビネットは有るものの、それは囮として使いたい。まず、ただ同然で放置してあった飛行機の部品を加工して薄く平らにする。それで部屋を繕い、その裏に煉瓦で壁を作る。戦前のセメントを使用して頑丈な部屋を作り、そこに家から持ってきた武器や弾薬などをストックした。最後に扉は牢屋のような鉄格子にして、その上に壁に見間違う扉を作った。商品の保管庫はいざというときのパニックルーム(避難所)として使えるようにした。これならば、暴動があって店に何者かが入ろうとして来ても、ここに逃げ込めば大丈夫な筈だ。

 

一通りの作業を終えて俺は運び終えてあったスツールに腰をおろす。着ていた作業用の繋ぎはセメントや泥汚れで汚くなり、汗を拭こうとした時に着いた泥が頬に付いていた。慣れない事をして疲れきった為か、スツールと同じように運び込まれた銃用の作業台に突っ伏した。

 

「こんな世界だからか・・・。秘密は自分だけの物にするには体力がいるね」

 

もし、彼ら日雇い労働者にこの秘密の部屋の存在を知られれば、暴動時に壊される可能性も出てくる。当然、作ったのは彼ら。脆弱な所は知っているから壊すのは容易。だから、重要な所は自分の手でやったのだ。あとは店員の配置だが、今日と明日は傭兵に泊まり込みで警備にあたらせる。武器屋と名乗れば、ここに武器があると公言するのと同じ。そしてそれを無償で得ようとする不埒な輩もいるのは確実だ。 

 

傭兵どうするか・・・・。

 

非常に厳しい難題だ。これはvaultの学校“ボルトスクール”で理数系の問題が出された以上に厳しい。

 

 

傭兵の質はやはりそれなりの経験と武器、身なり、あとは性格。俺の知っている限り、良い傭兵は知らない。つーか、知り合いに居ないのだ。

 

来たばかりの頃に酒場で傭兵がシャルにちょっかいを掛けていたが、そんな不埒な野郎に店を任せる訳にもいかない。どうするべきか。

 

仕方がないので、地雷を起動させて店のあらゆる所に撒いておく。地雷は動体センサーなので動いている物に爆発する。pip-boyと同期しているので、俺が近づいても爆発はしない。だが盗もうとする輩が店に入れば、何処かのレイダーの居場所よろしく、肉の塊が辺りに散乱するだろう。まあ、銃を盗まれるより遥かにマシだ。

 

鍵を締めてpip-boyで時刻を確認する。既に午後3時過ぎ。お菓子の時間であった。昼飯は工事をやっていて食べていないし、工事の疲れ以外にも腹が空きすぎたせいか、疲れがずいぶん貯まっているように感じられた。

 

シャルとブライアンは飯を食べたかな。工事には近づかないように頼んだけど、昼食作って欲しかったな。

 

と弁当を作ってもらえなかったサラリーマンのような心境に似ていると思ったのは間違いではない筈だ。

 

 

そして、疲れを癒しに居酒屋でビールを飲もうとするサラリーマンのように傭兵のたまり場である酒場へ行く。唯一の違いはまだ日が昇る3時過ぎであることだろう。物は試しに店主のモリアティーにお勧めの傭兵を教えてもらえないだろうか。

 

「いや、あのオッサンは金にガメツイから無理かな」

 

「誰のこと言ってるの?」

 

ふと、モイラの店の前を通過する時に声が掛かった。何時ものようなvaultスーツに何やら防具を着けた小柄な少女、シャルだった。

 

「こんな所で・・・それは?」

 

「エヘヘ♪」

 

「いや、誤魔化さんでええから答えなさい」

 

誤魔化すのに愛想笑いは無いだろう。と、俺は突っ込みを入れる。

 

「モイラさんにもらったの」

 

あたかも近所のお姉さんに綺麗なお洋服をお下がりでもらった子供のような言い種である。だが、近所のお姉さんといってもマッドな部類に入り、お洋服と言っても追加の防具とガンベルトを引っ提げたvaultスーツである。

 

「無償で貰ったの?」

 

「最初はそうだったんだけど・・・・」

 

とシャルの説明は酒場で聞くことになった。

 

『いらっしゃい・・・・ってあ!vaultから来たのね!ちょっと待ってね!採寸採寸!』

 

『え!私は買いたいものが・・・』

 

『何故vaultから出てきたの?』

 

『父を探すために幼馴染みと・・・』

 

『涙腺が崩壊する話だわ!こんな可愛い子を荒野に放り出せないわ!これ挙げるから着てみて!』

 

・・・・試着中・・・・試着完了・・・・。

 

『可愛いぃぃぃぃ!!!何をつけても可愛いわ!』

 

『えっと、そんなにですか?なんか、レイダーが着けてる防具と少し似てますね』

 

『そんなこと無いわ。肩についているのは、アイスホッケー用のパッドで腰に着けているのは、警察が使っていたガンベルトよ。私の作りなんだから』

 

『(流用している時点で手作りじゃないような・・・)』

 

『何か言った?』

 

『いいえ!?・・・でも、これ貰っていいんですか?』

 

『あなたの為なら良いわよ。身一つで荒野を歩かせられないわ。あなたのお父さんって酷いわね!』

 

『はぁ・・・・、でも何かしないといけないです。無償でなんて・・』

 

『じゃあ、頼みがあるんだけど聞いてもらえるかな?放射能を浴びてきて欲しいんだけど・・・』

 

『はい・・はい?』

 

『私は今本を書いているの。その名も“ウェイストランド・サバイバルガイド”。この世界で生き抜くためのノウハウを研究中なの。だから、その為に・・・・』

 

『放射能を浴びてこないと行けないんですね?』

 

『そう言うことになるわ』

 

『(medicine100%)私は医者です。少し教えるから、その通りに書いて』

 

『え?あなた医術を習得しているの?じゃあ、第二章の大怪我も教えてもらおうかしら?』

 

と言ったように事が進み、モイラの執筆活動が進んだらしく、最近手に入れた医療品を幾つか貰ってシャルはホクホク顔で店を出たようだ。そこで俺と会ったらしく、俺はシャルの話を聞きながら、酒場のカウンターでイグアナの角切りを頬張った。

 

「そんなことがあったのか。で、ブライアンは?」

 

「いま、ルーカスさん家でご飯ご馳走になってる。ここら辺じゃ同年代の子供が居ないからね。」

 

保安官を勤めるルーカスには息子がいる。確か、12歳位だろうか。メガトンはあまり子供が多くない。メガトンよりもリベットシティの方が設備が整っているため、地下鉄や海沿いから行く人もいる。メガトンの診療所も一応居るのだが、胡散臭いのである。

 

よって、メガトンに子連れで帰ってくるよりもリベットシティに住んでいた方が良いのだ。ルーカスは少子化を危惧していて、代わりの医者を探しているが、そんな好物件そんなに・・・・。

 

「何?」

 

「いたな。ここに」

 

「?」

 

だが、そんなこと出来るわけがない。何故ならば、メガトン診療所にはDr.チャーチが居るし、少子化対策の為に首を切ることはない。それよりも重要な問題があってそれどころではない。

 

シャルが診療所で働き、幾分かの胡散臭さを和らげば、少子化も幾分かましになるかもしれないが、彼女もそれどころじゃない筈だ。

 

「これからどうするんだ?」

 

シャルはまず父を探したい。だが、肝心の居場所が掴めていない。拠点を確保した。だが、維持も必要で、ブライアンをどう生活させていくかが問題だ。

 

「「はぁぁぁぁぁ~~」」

 

無計画に人を助けた成果、そしてゲームと同じように上手くいかないこと。その他諸々をしっかりと思い出せればこんな事には成らなかっただろう。いや、思い出していても結果は同じだろう。俺はシャルの顔を見て、そしてシャルは俺の顔を見て溜め息を吐いた。それは相手に対してではない。自分自身に対してだ。

 

「お父さん・・・何処に居るの?」

 

「ルーカスにも聞いた。だが、見たこと無い。だけど、補給のために立ち寄る筈だ。だから、誰かしら見ている筈なんだ。」

 

そう言えば、俺がvaultエントランスの巡回に行ったのは早朝だ。その時間帯はメガトンは寝静まっている筈だ。とすれば、保安官だって寝ているだろうし、殆んどの店は閉まっている。補給の為に立ち寄るとすれば、この店しかなかった。

 

「あ、そうだ。モリアティーの・・・」

 

「クッソ!このオンボロラジオめ!・・・・ん?なんだ?」

 

ふとラジオを叩くゴブと目があった。目は白く濁っていて目があったかどうか分からないが、向こうが反応したと言うことは目があったと言うことだ。

 

「い、いいや何でもない。」

 

だが、どうやって?モリアティーは金にガメツイ。只でさえ、メガトンで融資を募ったのだ。これ以上、金を借りることは避けねばならないし、出費も抑えなければならない。もしも知らなければ、もしも有益な情報でなければ金の無駄となる。

 

「あ~どうするか」

 

店の問題にジェームズの行き先。それらが重荷となり、俺にのし掛かってきた。

 

「お、ユウキにシャルロット。お二人さんどうしたの?」

 

すると、レザーアーマーに中国軍アサルトライフル、ヒスパニックなのに青白いウェインが声を掛けてきた。

 

「ウェインさん」

 

「いいよ、ウェインで」

 

ウェインは気軽に言い、俺の隣に腰掛けた。そして俺の頭の上にある電球に光が付いた。

 

「ウェイン頼みがある」

 

「ん?なんだい?」

 

「ちょっと、店の警備を頼みたい」

 

「いいぜ、1日1000キャップね」

 

「「ボッタクリだ!!」」

 

普通なら200キャップ位だろうか。それの五倍。如何に腕の良い傭兵でもそれは無い。シャルと俺は飽きれ半分と驚き半分で声を挙げる。

 

「あの時殺しておくべきだった・・・」

 

「物騒だな!おい!」

 

「あの時、ラッドスコルピオンの毒を傷口に練り込んどけば良かった」

 

「医者としてあるまじき行為だ!それは!」

 

「いいえ、人として治療した覚えは無いから。寧ろ、動物実験?」

 

「どこのマッドサイエンティスト発言だ!」

 

 

ここまで来れば、ウェインが冗談だと言うことが分かるだろう。

 

「弟を救ってくれた借りがあるし、1日だけは無料にしておこう。だが、二日目からは200キャップな」

 

「うへ、もう少し二日ぐらい無料にしてくれよ。」

 

「俺にも生活があるんじゃ。それも弟の治療費も割高だから洒落に成らん。」

 

治療費も馬鹿に成らんと、ウィスキーを煽るウェイン。酒の勘定は?と聞くと、それとこれとは問題が違うらしい。

 

でも、一応傭兵は1日だけだが確保できた。その間にロボットを確保せねばならん。そして、ジェームズの行き先も・・・。

 

「あー、どうしよう。これからどうする?」

 

俺は助けをシャルに求めた。

 

「じゃあ・・・・」

 

シャルはヌカコーラを飲みつつ、とある事を口にした。それは俺にとって、そして近くにいたウェイン共々巻き込むトンでもない事だった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

ウェイストランド・・・・荒廃した土地。核戦争によって荒廃した地域の事を指す。俺の頭上には、200年前までは高速道路であったのだが、核の衝撃だか経年劣化なのか崩れてしまっている。

 

太陽からは容赦なく日光が降り注ぎ、俺はトレーダーの帽子を深く被って目を日光から守った。サングラスが欲しいが、ウェイストランドに流通しているサングラスはカッコ悪い。スポーツサングラスは位掛けたいが、この世界には存在しない。MODで導入すれば良かったと強く思った。ふと川を見ると、二足歩行で獲物を追うミレルークの姿。蟹の外見をしつつも、二つのハサミで二足歩行で襲い掛かってくる。そして今日も・・・。

 

 

「望みが絶たれた~・・・・」

 

ハサミで削ぎ落とされたモヒカンを抑え、逃げ惑うレイダー。ギリギリ、ミレルークは足が遅いため追い付かないが、タバコやドラッグなどを使用しすぎて息が上がりやすい。たまに刺さりかける刃を避けながらレイダーは自分の住みかに引き返した。

 

「望み絶たれたね・・・。はあ、なんでこんなことに」

 

「いいじゃない。モイラの頼まれた事もできるし、一石二鳥じゃない?」

 

とvalut101アーマードスーツに身を包んだシャルはポケットから水筒を取って水を飲む。俺はバックパックに入っていた双眼鏡を手にとるととある建物に目を向けた。

 

荒野にポツンと聳え立つそれはまるでお伽噺に出てくるようなお姫様のいる建物だ。だが、そこはイギリスから来た資産家アリステア・テンペニーの所有するテンペニー・タワーだった。金の持つ者が優雅な生活が出来る荒廃した世界の中でも指折りの安全な場所だ。それでも、そこに行くのが目的じゃない。

 

「プロテクトロンを持ってくるのが目的だったのに・・・・モイラのせいだ・・・」

 

と俺は盛大に溜め息を吐いた。

 

 

なぜこうなったのかって?何処に行くつもりだって?それは数時間前に遡る。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、で君が来たわけね」

 

赤毛のモイラは皿に乗ったバラモンステーキの肉をフォークでさしてパクッと口の中へ入れた。核戦争後になっても牛の旨味と言うものは何時まで経っても変わることはない。例え、放射能によって頭が二つに成ってしまっても、味の変化は早々ない。

 

「まあ、自殺行為ですもん。あれは」

 

俺は座っていたスツールからモイラの家兼研究所兼雑貨店を見る。メガトンの住宅の殆んどは継ぎ接ぎして作られている。近くに空港があったらしく、その残骸から家を作り、壁を作った。その為、家の壁はぼろぼろである。モイラの所も例外じゃない。だが、他の家よりももっと酷いかもしれない。色々な怪しい実験を繰り返し、天井には変なシミがついている。現に今も煙が試験管と瓶の中から出てきている。俺はその煙を吸わないようにバラクラバを被るが、モイラは煙なんか無かったようにステーキを食べる。傭兵に至っては、ガスマスクを装着しているものの、最早この状況は慣れっこのようだ。

 

「大丈夫よ、実験をしていただけだから」

 

「モイラの大丈夫は危険と同義だからな。ガスマスクを持ってくれば良かった。毒ガス検知の機械があれば反応しているんじゃない?」

 

「いやね、それなら私はもう死んでるわよ」

 

 

俺は死にかけたがな・・・・。

 

ふとそんな視線(心の叫び?)を感じて後ろの傭兵を見るが、その時には視線を遥か彼方に向けていた。

 

「で、喧嘩でもしたの?」

 

「いいや、ただアンタのせいでもあるんだけど」

 

「?」

 

とモイラは首を傾げた。

 

ゲームをやった人なら覚えているだろうか。放射能耐性を調べた後に何を調査するか。答えは簡単。地雷を拾いに行くのである。取りに行く場所はその名の通り地雷原、奴隷商の中心であるパラダイスフォールズ近くに位置する住宅地跡に作られた所だ。奴隷商人は地雷原に住む人達を捕まえ奴隷にしていた。現在では何故か至るところに地雷が撒かれ、立ち寄る者は皆地雷を踏んで死んでいく。それだけでは対して問題ではない。俺はやる気などないし、彼処にはアーカンソーと呼ばれる老人がスナイパーライフルを持っていて、近付いたら撃ち殺される。そんな場所に行こうとは全く思わない。だが・・・・。

 

「なんで、シャルはあんなところに行こうとするんだよ・・・」

 

自殺願望者の行くところである。だがシャルは・・

 

『お父さんを助けるためにはもっと経験が必要。だから、この位で弱音を吐いちゃ駄目なの!』

 

と言った。まあ、それが出来たら苦労はしない。俺も行こうとしたが、一人で行くとやんわり断られた。俺にはロボットの従業員が必要であるし、お金を使わない為にも急いで従業員を確保しなければならず、1日以上外泊してしまえば、ウェインの追加料金が発生する。

 

「だから、私の所に来たわけね・・・。なら、丁度言い仕事があるんだけど」

 

「何だよ?」

 

俺は不機嫌そうに答えた。

 

「この機械をロブコ本社の管理コンピューターに取り付けて欲しいの。」

 

机の下から取り出したのは、ロブコ社のロゴが刻印された機械だ。傷も少なく、状態もいいそれはロブコ規格のコードと端子が刺さっていた。

 

「地雷の件は?」

 

「さっきね、診療所の近くを通ったら若い男の子に声を掛けられてね!アタックしてきたの!それでね・・・・」

 

「地雷取ってこいって言ったんか・・・」

 

「そうよ!」

 

ダメだこの人。一回デスクローに喰われた方がいいんじゃないか?

 

そう思い、ヌカコーラを煽ろうとした。

 

「モイラさん!持ってきました地雷!」

 

「ブホッ!」

 

まるで“鼻から牛乳”ならぬ“鼻からコーラ”である。

 

扉が開かれ、入ってきたのはタロンのマークが消された黒のコンバットアーマーに色黒のヒスパニック。元タロンカンパニーのウェインの弟、ジムだった。

 

「ありがとう!ジム君やっぱりやると思ってたわ!」

 

「いや、簡単でしたよ。地雷を拾って来るのは。爆発しないようにスイッチを落とさなきゃならないから。」

 

デレデレのジム。モイラからしてみたら新しい被験者・・・もとい新しい助手の誕生である。

 

傭兵よ、助けてという目を向けてこないでくれ。頼むから、子犬のような目線を向けてこないでくれよ!

 

こうして俺とシャルはロブコに行く羽目に成ったのだった。

 

 

 

 

で、現在に戻ってロブコ社前。オフィス棟と工場棟があり、アメリカ全域で見掛けられるロボの殆んどを製造するには小さいが、各地にロブコの工場があるため、工場の規模は小さい。

 

ロブコは民間よりも軍需を手広く扱う大企業で、その社名からも分かるように21世紀前半からロボの開発、製造を手掛けている。最終戦争前には西海岸で宇宙航行専門に取り扱うレプコン社を買収するなどしていた。vaultにはpip-boy3000を作り、製造から200年経っても稼働するコンピューターを作るなど、技術力は高かった。

 

 

「ん?あの人ロボットを一杯従えてるね」

 

ふと俺はシャルの指差す方向を見る。スカベンジャーが着るような茶色のフィールドジャケットに帽子、周りにはMr.ハンディやMr.ガッツィー、警戒ロボやプロテクトロンが居た。多分、ここら辺でスカベンジングする商人なのだろう。

 

ふと此方を見た商人は手を振ってきた。俺達は武器屋を営む上でロボットが必要なので太股に着けたホルスターから拳銃を出しやすくして近づいた。

 

「君達はロブコに用があるのかね?」

 

「友人の実験を参加しにです」

 

初老のよく日焼けした老人は顎をこすりながら訊いてきた。

 

「どんな実験?」

 

「(repair 78%)ロブコのメインフレームでロボを操る実験です。」

 

そう言うと、彼は少し困ったような顔をする。

 

「そうか、もしかすると君はロボを売り物にするつもりでここに?」

 

「いえ、自分はメガトンで武器屋を営むつもりで従業員として使えるロボがほしくて・・・まあ戦闘も出来ればいいんですが」

 

そう言うと、彼はホッとした様子で警戒を解き、セールストークをし始めた。

 

彼はここら辺でロボを売る何でも屋のジョーと呼ばれる人物で、ロブコ社に入ってはプロテクトロンをフォーマットして売り捌く商人だ。そのため、俺達が来て冷や冷やしていたらしい。まあ、俺達がその手の輩ではなく、普通の消費者である事が分かって安心したようだが。

 

「そうだな、セールスならこのプロテクトロンをお薦めするよ。戦闘面ならRLー3軍曹はどうだい?」

 

「司令官殿!自分は戦えるであります!」

 

少し塗装が禿げているが、アメリカ陸軍の濃緑色の塗装が施され、無骨なプラズマ砲と火炎放射器がまるで蛸足のようになっている。もしも有機物で構成されていて、ピンク色の生体アーマーとかSFっぽい構造なら宇宙人と間違えられても可笑しくない。Mr.ガッツィー型のRLー3軍曹はインプットされたセリフを吐いた。勿論、状況によっては多くのことを話すのだろうが、コミュニケーションが出来なければ買う気はない。もっとも、値段もそうそう手の出るものではないが・・・。

 

「いくらで?」

 

「1000キャップだ」

 

「・・・・・無理やん!」

 

正直言うと、生前RL3軍曹をコンパニオンとして使っていなかった。紙装甲やハートマン先任軍曹(RL3は演じた俳優の頭文字“RLE”から取っている)と言われるものの、もっと強いコンパニオンを使っていたがために値段を気にすることがなかった。

 

「そうかぁ・・・、コイツは気にいった人物にしか“司令官”と着けないから買い手が見つからんのだ」

 

「Mr.ガッツィー型はホストを司令官と呼びますよね・・・軍曹が選んでいる?」

 

本によると、ドックタグの登録番号や司令部の認証などでホスト(司令官)を決めるが、そんな認証コードなど失われているため、本体にコードを差してホスト設定をしなければならない。ロブコ社のコンピューターに互換性があるように作られているため、パソコンがあれば調整が可能だ。しかし、ここはウェイストランドのど真ん中。調整するためにはパソコンが必要だし、ここにはない。だとすると、軍曹にホスト設定の権限が与えられているのだろうか。

 

「昔、スカベンジャーから買い取ったものなんだが、買い手を選ぶので売れ残るのさ。君に“司令官”と言ったからもしもと思ったんだがね。」

 

「本当は手が出るほど欲しいんですけどね。店を出すために結構金を使ったし、ロブコ社の方で使えるプロテクトロンを持っていきますよ。それに他のソフトとか欲しいですし」

 

軍曹は欲しかったが、財布の状況を鑑みて無理だろう。ロブコ社のプロテクトロンなら持っていくだけなので金はかからない。だが、Mr.ガッツィー型には武器搭載能力や簡易的な修理能力(repair20)などがあるため、移動武器店舗にも利用可能だ。一方、プロテクトロンは民生品のため、そういった能力はない。

 

仕方なく俺達は諦め、一応メガトンで開業するので暇があれば見に来て欲しいことを伝えて俺達は別れた。何でも屋のジョーはテンペニータワーにMr.ハンディーを連れていくらしく、そのまま塔の方へロボを連れて歩いていった。

 

「シャル、準備はいい?」

 

「ええ、行きましょう!」

 

シャルは自宅の武器庫から持ってきたトライビームレーザーライフルを構えてニコッと笑う。それが異様に眩しくて、ウェイストランドに適応してしまったんだなと俺に教えてくれた。

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんか変わってしまったなと思ってね」

 

vault101から出てきてからしばらく経ったが、自分自身・・・そしてシャルの適応ぶりを見ていて驚いてしまう。1、2年前と比べれば雲泥の差だった。シャルに取っては合わなかったかも知れないが、俺にとっては・・・多分前世の記憶も相まって合っていたのだろう。じゃあ、このウェイストランドの生活はどうなのだろう。元々、シャルはウェイストランド人。そう考えてみると、vault101に出てきて故郷に帰ったと言っても言いかもしれない。だが、俺は?ゲームの延長線上の生活なのだろうか?

 

「・・・vault101ではあまり楽しい思い出はないよ。ユウキやお父さん、それにアマタとの楽しい思い出もあるけど、未練はない。でも、ユウキにはあるんでしょ」

 

未練・・・ないと言えば嘘になる。常日頃から自分の安全を考えなければならないし、水の殆んどは放射能に汚染されている。その点、vault101はどうだ?水は汚染されずに、生命の危険もない。ましてや、戦前の文化を維持している数少ない所でもある。そこで俺は順調にvaultofficerの警備主任になる筈で、監督官育成コースを歩むアマタと共にvaultの内政を担う筈だった。たまに、シャルと出ずにvaultに残ったらどうなっていただろうか、と想像することも多々あるが、シャルと共にウェイストランドに出ていった事を後悔したことはない。

 

「未練は有っても、後悔はない。だからシャルは気負いしなくていいよ。これは俺の選択なんだから」

 

そう言い、俺は持っていたアサルトライフルのレバーを引いて次弾を装填する。防塵用のスカーフを口に巻き付け、セーフティーレバーをフルオートにした。

 

「じゃあいくぞ」

 

「うん」

 

ロブコ社のエントランスの扉を開けて銃を構えながら中に入った。

 

内装は・・・言うまでもなく、長年のスカベンジングで荒れ果てている。埃っぽい匂いが立ち込め、微細な埃を吸わないように普通に雑貨店で売っているバンダナを鼻まで伸ばして覆っておく。先客やラッドローチの気配を感じてライフルを構えて進み、慎重に策敵を行う。

 

「ラッドローチよ・・・!」

 

とトライビームレーザーライフルを構えた。だが、ラッドローチは此方を見ることなく、デスクの隅をカサカサと動き回る。シャルの撃ちたい気持ちは分かるが、どうやら、こちらに興味はない。モイラがラッドローチについて実験結果を書き記していたが、放射能にも耐えられ、寿命も長い。そして、死肉を食らい、腹が減っていれば生きている人間までも補食しようと襲い掛かってくる。だが、腹が減らなければ比較的にウェイストランドでは珍しいおとなしい生物なのだ。近づきすぎれば自己防衛のために噛んでくるが、それは近づいたからで近づいたり危害を加えなければどうと言うことはない。

 

「シャル、セルの無駄遣いするな。奴はこっちに興味はない。移動しよう」

 

「う、うん・・・」

 

気味悪いから撃ちたい。そんな気持ちは読み取れるが、セルを無駄遣いすることはない。それにこのロブコ社にはラッドローチの他にモールラットもいる。一匹一匹対処するには弾薬に余裕がない。

 

襲いかかる生物に対応すればそこまで弾薬は消費しないだろう。

 

アサルトライフルを構え、カウンターに置かれた古い紙を拾い上げた。

 

『ようこそRobcoへ! Robco本社ガイド』

 

それを広げて裏面にあるここの地図を見た。どうやらソフト開発部は少し歩いた先にあるようだ。

 

「シャル、この先だ。後衛頼む」

 

地図を尻のポケットにねじ込むと、ライトをアサルトライフルのハンドガードに縛り付けて暗闇にライトの光を照らしながら進んだ。200年もほったらかしになっていたためか、そこら辺の壁紙は剥がれ落ち、二階のフロアが一階に落ちている所もあった。爆発物を使えば一発で崩れそうだと思い、シャルに手榴弾を使わないように指示する。

 

「あった、ここだ」

 

ライトで天井に釣られたものを見る。それは事業部の名前が書いてあり、「ソフト開発部」と書いてある。そこにゆっくり入り、念入りにラッドローチやモールラットがいないか調べる。

 

「クリア」

 

「こっちも大丈夫」

 

アサルトライフルを一度机において机の引き出しを引き出して中を見る。中に有ったのは会議のレポートや人事部の書類などいらない物だった。棚を探すが目ぼしいものは見つからない。ふと、床に目を下ろすと、一つのホロテープが目に止まった。

 

『プロテクトロン用商品売買ソフト』

 

そう書かれたホロテープを手にとってpip-boyに仕舞う。見てみると、しっかりとホロテープの詳細が載っていたため、壊れていないか確認でき、目的の物は手に入れた。あとは・・・・

 

「ユウキ、これ」

 

シャルは両手でホロテープを抱えて持ってきた。それらはRobco社のロゴではなく、提携を結んでいたGeneral Atomics International社のロゴや米陸軍のロゴが入っていた。

 

『Mr.ガッツィー 商品販売ソフト』

 

『警戒ロボ 拠点防衛ソフト』

 

『Mr.ハンディー 重火器換装ソフト』

 

因みに言っておくと、Robco社はロボットをメインとした企業ではなく、主にコンピューター産業と一部のロボット産業を担う企業だ。ゲームでは、一番厄介と言われる警戒ロボやMr.ガッツィーなどのロボットの殆んどはGeneral Atomics International社が製造している。では何故、robco社にそれらのロボットのソフトが在るのかと言うと、それらのロボットを制御するのはrobco社のコンピューターであるからであろう。アメリカ、いや世界の殆んどがRobco社のコンピューターを使用するため、必然的にrobco社に注文が集まる。ならば、奴隷商人の一部が使用するメメストロンのような洗脳兵器に似たロボを洗脳してしまう兵器もあるのではないだろうか。

 

「なあ、シャル。後でRobco社の社長室行ってみよう。何かあるのかも知れない。」

 

余談だが、Robco社のCEOはNewvegasで登場する。

 

だが、社長室は後にして、先にモイラから貰ったプロセッサーを付けなければ成らなかった。記憶にはうる覚えではあるものの、プロセッサーを導入すると、待機状態であったプロテクトロンが一斉に中国軍攻撃モードに入り、社員証を持たない人物を皆殺しにする。それは、野生生物も同様だ。scienceスキルが高ければ、中国軍攻撃モードから害虫駆除モードに入るが、生憎俺のスキルは5である。一応、シャルは限りなく100に近いためモードを切り替えることが可能だろう。

 

メインフレームのある棟に入ると、多くの待機中プロテクトロンが目についた。エントランス近くは何でも屋のジョーに持っていかれたので少なかったのだろう。起動すれば、プロテクトロンが攻撃し始めるので撃つ準備もした方がいい。

 

「そこの階段の上にあるはずだ。」

 

「私が前衛ね」

 

シャルはレーザーライフルを構えると、慎重に上に上がる。すると、何かを見たらしく青い顔をしてレーザーライフルの引き金を引いた。見ると、灰になったラッドローチの姿だった。

 

「・・・・虫なんて・・・核の冬でみんな死んじゃえばいいのに」

 

そういえば、vaultから出てきた時かなり清々しい顔をしていたな。ラッドローチの事が嫌いなだけじゃない表情だろうけど、それも何割か含まれていたのだろうか。

 

「まあ、好きな奴なんていないよ」

 

ポケモンブリーダーならぬ、ローチブリーダーらしき奴がいるけどね。

 

シャルはそのまま銃を構えつつ、メインフレームの部屋に到達した。扉を開き、邪魔だったラッドローチを撃ち殺すとメインフレームを弄り始めた。

 

「待機中のロボを起動させることになるわ。そこのプロテクトロンに注意してね。」

 

「ああ、プロセッサーを取り付けるか?」

 

「しないと、モイラから頼まれた事を終わらせられないじゃない?」

 

俺はバックパックから布にくるまれたプロセッサーをシャルに手渡し、アサルトライフルに徹甲弾を装填し直すと、持っていた武器を近くにあったテーブルの上に置いた。フラググレネードを3発に先程スチール製の箱にあったパルスグレネードを3発。徹甲弾が入った弾倉を5つばかりだして準備した。

 

「いいぞ、いつでもいい」

 

そう言うと、シャルはメインフレームのメンテナンス用の蓋を開けてプロセッサーを取り付け始めた。

 

すると・・・・

 

パシュッ!

 

と部屋にあったプロテクトロン待機用ポッドが開くと、中からロブコ社のロゴが入ったプロテクトロンが出てきた。

 

「中国軍ガ侵攻シマシタ。侵入者発見!法律ニヨリ小火器ノ使用ガー・・・」

 

プロテクトロンが言い終わる前に、俺は引き金を引いてプロテクトロンのカメラと頭脳とも言えるチップを徹甲弾で撃ち抜いた。

 

「アブね!シャル、急いでモードを切り替えろ」

 

「あと、2分待って!パスワード打ち込まないと!」

 

「早くしろよ!プロテクトロン全機に俺達の位置がバレたかもしれない」

 

レイダーならば、バレないかも知れないが、プロテクトロンならば発見した瞬間にネットワークにいるロボに発見した位置を一斉送信する。もし、発見した個体が破壊されても、情報を受けたプロテクトロンが駆けつける仕組みになっていた。既に下の階ではレーザーの発射音が響き渡ってきている。ここにレーザーが飛んでくるのも時間の問題だ。

 

扉を閉めてもう一つのテーブルで扉を塞ぐ。銃口を出すために扉を少しだけ開けておくが、攻撃されてもすぐに応戦できるように準備した。

 

「シャル、あとどの位だ!」

 

「あと二分!」

 

「二分でレーザーの蜂の巣が出来るぞ!早く!」

 

すると、階段の方から機械音と合成音が響いてきた。

 

「A21W1ノ沈黙確認。警察機関ヘノ通報不能。原状ヲロブコガ対処シマス。」

 

「生体熱源発見、無力化攻撃ヲ開始」

 

すると、プロテクトロンは腕から高出力レーザーを発射して扉を貫通する。

 

「喰らえ!!」

 

テーブルに置かれたパルスグレネードのピンを抜いてプロテクトロンに投げる。プロテクトロンの頭に命中し、床に転がり爆発。周囲にパルスが放たれた。過剰な電流はプロテクトロンの電子回路を焦がしていく。

 

さらに、5.56mmの徹甲弾がプロテクトロンを引き裂いていった。

 

だが、プロテクトロンもやられっぱなしでもなかった。俺の位置を把握したのか、レーザーを俺の近くに着弾する。

 

「手榴弾は・・・崩落するな。辞めとくか。」

 

200年も経っている建造物の中で爆発物を使うほどバカでもない。お返しとばかりにパルスグレネードを投げ込み、プロテクトロンをショートさせた。

 

「よし!出来た!」

 

シャルの声と共に、プロテクトロンの銃声が停止する。

 

「警戒モードヲ解除。通常業務ヲ再開」

 

「ゴ出勤ゴ苦労様デス。ヨイ1日ヲ」

 

さっきとは打って変わって、くるりと体を動かすと自分の居場所へ引き返していった。

 

「ふぅ~・・・」

 

「死ぬかと思ったよ」

 

壁際に腰かける俺とその隣に寄りかかるシャル。俺はこの時次から絶対モイラの頼みを聞いてやらないと心に決めた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

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ーServer 25ー

 

 

ようこそ、Mr.フランシス様

 

>・5月11日株主総会における報告

>・統合作戦本部への出席

>・Mr.ハウスについて

 

>>Mr.ハウスについて

 

あのナルシストめ!いつも俺に面倒事ばかり押し付けやがる。副社長という仕事は社長という仕事と比べて仕事が少ないと思っていたが、それは嘘だ。それにrobco社は巨大だし、しかも奴はいつもベガスだクソッタレ!!俺に休暇どころか、残業まで残しやがる。社長出勤なんて無いも同然だ!

 

唯一の楽しみは貯金が増えていく様だが、こんな時に貯金が増えていっても食費に全て無くなっていく。全ては中国と合衆国との戦争のお陰だ。俺はいつもロンドンの情景を思い出すが、それを見られるのは何時になるだろうか。飛行機もあまり飛ばなくなってきているし、イギリスではインフルエンザが猛威を振るっている。甥が心配だ。昔、甥が来たときに俺の社員証を渡したら、プロテクトロンが俺と甥を間違えていたことがある。今は机の中にあるが、しっかりと持っておかないとな。まあ、またここに起きっぱなしだが(笑)

 

 

「シャル、机の中にあるカードを取り出してくれ。」

 

「うん・・・、これって社員証?」

 

「ああ、それをあのMr.ガッツィーと交換すればいいんじゃないか?」

 

そう言うと、シャルが若干引く。いや若干というのは語弊がある。まるで、俺が変な事を言っているかのように、シャルは俺に疑問の表情を浮かべていた。

 

「え、確かRL3軍曹だっけ・・・。あれを従業員にするの?」

 

「ああ、嫌だったら家のメイドにでも」

 

「いや!あんな暑苦しいロボットを家の中に入れないで!」

 

因みにRL3軍曹等のMr.ガッツィーのセリフは・・・

 

「本日も我が軍に栄光あれぇ!」

 

「今日は戦死日和だな!」

 

「勲章をつけてくれ」

 

「身体をママの元に送ってくれ」

 

シャルは松岡○造がいたら、近寄りがたい存在なんだろうな・・・。と俺は生前の芸能界にいた人物を思い浮かべた。

 

「あ~・・分かった。一応、従業員としては採用するけど、家には連れていかないから安心して」

 

「いいよ、でも連れていくときは音声機能をOFFにしておくから」

 

「そこまで嫌か!」

 

「あのセリフを聞いているとイラって来ない?」

 

それはたまにと言うか何と言うか・・・。勿論、場所を選ぶが、そこまで嫌いに成る程でもない。虫の件といい、ロボットといい、仕舞いにはグールの方々も嫌いと言うのであろうか?

 

「え、だって彼らは元人間でしょ。フェラル・グールは嫌いだけど、彼らは喋るから大丈夫よ」

 

まあ、人にも色々あるからいいか。

 

俺は金庫をピッキングしていて何とか地下室の鍵と思われる物を見つけた。地下室と言うか、名称が「極秘地下壕の鍵」とあるのだから、レアなものが見つかる筈だ。

 

害虫駆除モードになっていてもさっきまでは社員証が無かったのでプロテクトロンに見つかれば、不法侵入と見なされて攻撃を受けたり追いかけられる事があったが、ちょうど逃げ込んだ先が副社長のオフィスだったことで幸いした。社員証があれば社員として認識されるだろうから何とかなるだろう。俺だけ持っていても連れだと認識させれば警戒も解除してくれる筈だ。

 

階段を降り、モールラットやラッドローチの死骸を踏みつけないように歩き、地下壕の扉まで降りた。

 

「えっと、社員証についているカードキーと鍵をセットで開くのか。」

 

機械にカードを通し、機械に鍵をさして開ける。すると、密閉式の扉が開き、中の照明が点灯する。内装はvaultに似た壁に幾つかのコンソールが設置されていた。そして置かれていたのは、ブルーの塗装が施され、足がタイヤで胸にテレビジョン。セキュリトロンであった。

 

「なんでこんなところに・・・」

 

セキュリトロンはアメリカ西南部のモハビで見掛けるMr.ハウスがベガスの治安を守るために使役しているロボットだった。電源が落ちているものの、それらはベガスで見掛けたそれと全く同じものだ。セキュリトロンはRobco社で設計されたものなので、考えてみれば、本社にプロトタイプがあっても不思議はない。

 

メンテナンス用のデスクの上にマニュアルが置いてあったので見てみると、これは全兵装を開放したMark 1だという事が確認できた。性能はベガスで使われるタイプと同じらしく、重火器も装備している。

 

 

 

 

「これなら何でも屋のジョーも喜ぶ。すこし使える部品だけ回収したら彼の所へ行ってみようか」

 

「社長室には行かなくてもいいの?」

 

「最上階にあるけど、確か階段が崩れてるから無理だろ・・・」

 

一応地図を見て確認したが、回り道出来ないようで瓦礫を退かして通ることもできそうに無かった。副社長の書いてあることが本当ならば、Mr.ハウスは本社にあまり出入りしていなかったことになるだろう。社長室に入ったとしても、キューバ産の葉巻や上物のウィスキーがある程度。機密書類など無いに等しい。そういう重要な書類は自身の砦があるベガスに隠すのが普通だろう。

 

 

ある程度、廃棄部品や核分裂バッテリーやセンターモジュールを回収した俺達はRL-3軍曹を所有する何でも屋のジョーの所へ行った。

 

「取引しませんか?これとRL-3軍曹と交換で」

 

「ロブコ社の副社長の社員証か。そう言えば、本社で実権を握っていたのは副社長だったな。イギリス人の・・・。だけど、それがなくてもスカベンジングが・・・」

 

「できないですよ」

 

「え?」

 

何でも屋のジョーは声を挙げる。

 

「社員証が無いと攻撃を受けます」

 

「な、なんだって~!!」

 

驚きのあまり顎が外れるのではないかと言う位大きな口を開けた。

 

「プロセッサー付けた途端に中国軍侵攻対応モードっぽいのが作動してしまって。一応、害虫駆除モードに移行させましたが、発見すると警察に通報します。この場合、警察は応答しないんで自己防衛プロトコルが作動して攻撃をし始めますね。」

 

「何と言うことを・・・」

 

「一応、ラッドローチやモールラットは害虫駆除で一掃したんで起動してあるのと、地下にあるセキュリトロンが十体ほど」

 

「せ、セキュリトロン?」

 

ジョーは聞き慣れない言葉に首を傾げた。

 

「ええ、確かMr.ハウスが極秘で作らせていた治安維持用のロボットです。副社長のIDカードで地下倉庫が開いたんでそこで確認しました。注文履歴によると、ベガスの方に千体規模で発注製造されていますね。かなり極秘にされていたようですけど。バージョンは1ですが、テスト機体だったようなんで全兵装が使えますね」

 

「兵装・・・何を装備しているんだ?」

 

「えっと、東海岸仕様らしく10mmマシンガンとレーザーガトリング、ミサイルランチャーにプラズマキャニスターらしいです」

 

「う~ん・・・・」

 

唸る何でも屋のジョー。すると、結論が出たのかポンと手を叩く。

 

「良いだろう。じゃが、二度とここにスカベンジングしに来ないのならRL-3軍曹をやろう」

 

「(better 75%)予備に何台かロボを持っていきたいんだが、そのぐらいなら商売に支障はでない」

 

「(成功)まあ、全部持っていくなら話は別だが少しなら良いだろう。武器屋だったら、メガトンに行く途中で寄ってみよう。」

 

俺と何でも屋のジョーは握手をする。こうして従業員確保に成功した俺達であった。

 

 




やっと従業員を確保。紙装甲のRL-3軍曹ですが、作者は意外とあれが好きです。NVならED-Eとかも愛用しています。



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