fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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この頃、調子がいいのでガツガツ投稿していきます。でも二月になったら投稿が滞るかもしれません。長期休暇になると、あんまり小説を書かなくなるのでwww

ちょっと、コメディータッチで書いてみました。次からは本格的な浄化プロジェクト始動編です。


二十四話 続・国立図書館

 

地面が凍りつき、たまに降り出す雪が周囲を一面銀世界に変える。しかし、砲弾の跡や兵士達の死体や血を消すことはできず、寒さと飢えが戦場を形作る。アメリカ軍の部隊もその戦場では窮地に立たされた。限りある弾薬に人員。暖房設備は高官のみに与えられ一般将兵は火を炊いて寒さを凌ぐほかない。二十一世紀に入っても人類は寒さを克服することはできなかった。

 

愛用している10mmピストルを布切れで汚れを拭き取りきれいにする。オイルを適度に差してスムーズに動くよう調節した。銃が正常に機能しないことには、敵の命を奪えないし、自身の命を守ること、ましてや仲間の命は守れない。

 

 

「少尉、攻撃部隊準備できました」

 

最後の仕上げをしようとしている時、テントの幕が上がり部下のベンジャミン軍曹が入り私に報告を行った。

 

「選抜メンバーは?」

 

「ラミレスとリーブコット、ダスティン、カーラと自分の5人です」

 

「武装は軍曹に任せる。頼んだぞ」

 

「アイサー」

 

軍曹は敬礼をして去っていく。机に置いてあった冷めきった官給品のコーヒーを一口飲む。市販のインスタントコーヒーの方がまだマシなんじゃないかと思わせるような味わいに顔をしかめる。不味いと定評のあるこのコーヒーだが、目を醒ますには丁度よい。支給された防寒着の上にコンバットアーマーの装甲板を取り付け、弾倉の入ったポーチを腰に取り付ける。

 

「さて、行くか」

 

飲んでから、10mmピストルをタオルで拭き、ホルスターに収める。女性士官として個室のテントを用意して貰ったが、ここは何かと寒いし、地面は雪で覆われている。人の体温で暖められた下士官や兵士の為の大人数テントの方が恋しく思える。

 

補給用の木箱に立て掛けていたアサルトライフルを肩に掛けてテントから出て行く。

 

低空飛行でキャンプの上空を飛行する二機のVTOL機、泥濘に入り泥を周囲に飛散させる兵員輸送のトラック。最前線基地であるここは数々の最新鋭兵器を終結させていた。

 

 

アラスカ州アンカレッジ。アメリカ国内でも有数の油田があるこの地域は2070年代に入ってから中国人民解放軍の侵攻を受けた。それは1942年に日本軍がアラスカ沖のキスカ島を占領して以来の出来事だ。中国軍の数万の勢力はアラスカの半分余りを占領。アメリカ軍はこれに対処するため、アメリカ軍の派遣を決定した。質に勝るアメリカ軍なら直ぐに決着が着くと思われた。しかし、敵の数に圧倒され、数多くの特殊部隊が補給線への破壊工作を行う。いつしか、占領され早一年が経過していた。

 

 

「T51bの機甲部隊は北西の補給所を急襲しろ。必要に応じて火力支援要請を許可する」

 

(whisky1-2より司令部、敵の戦車に攻撃を受けている!火力支援を要請する!)

 

野戦司令部から無線の支援要請や指揮官の命令が聞こえ、次は自分の声がそこから聞こえるのだろうとため息を吐いた。今でも中国軍との戦いは質より量で勝る中国軍が優勢だ。

 

「少尉、命令あれば直ぐに任に着けます」

 

部隊が集まる天幕に行くと、中にいた兵士達は私に敬礼する。既に完全武装を施し、冬季迷彩が彼らを敵の銃弾から隠してくれるだろう。彼らは支給された武器を最高な状態で整備を施してあり、それに訓練に訓練を重ねた兵士がそれを使用する。それは兵士にとっては最高の状態である。

 

「よし、ベンジー。ここの作戦地図を出してくれ」

 

大人数用の天幕にはアルミ製のテーブルがあり、そこに地図が広げられる。そこには敵の占領地域が赤く斜線が引かれていた。

 

「現在、中国軍の部隊はこの油田地域を占領している。他にも送電施設や鉄道施設・・・・そしてこの幹線道路もだ」

 

私が指を指したのは、地図の端に書かれた幹線道路。その地区は赤く斜線が引かれていないが、敵の野砲の射程圏内である。そこに兵員輸送車や輸送トラックが通れば野砲の餌食になること間違いない。

 

「我々の任務はこの幹線道路の確保をするため、敵の野砲を破壊する。情報部によれば、そこ一帯の敵歩兵部隊は人民解放軍の中でも練度の低い部隊らしい。偵察部隊は部隊の中に督戦隊を発見。多分、敵の殆んどが農民召集兵だ。」

 

「まるでゲシュタポだな」

 

ユダヤ系のダスティンは第二次大戦中にドイツで猛威だった秘密警察の名を挙げる。しかし、ゲシュタポは国内の不穏分子を摘発し、惨たらしい拷問にかけるが、中国軍の督戦隊は少し性質がことなる。

 

「ダスティン伍長、中国の督戦隊は歴史のある部隊だ。日中戦争にも撤退する兵士を撃ち殺して撤退させなかった。お前の腕なら督戦隊の兵士も何とかなるだろう。」

 

撤退をさせない兵士が居なければ、我先に兵士達は逃げ出すだろう。所詮、農民兵。アメリカ軍のような精鋭でもない。彼らが相手するのはアメリカの中でも強力なレンジャーなのだから。

 

「敵の数は?」

 

「不明だ。だが、相当数いるだろう」

 

「ピュー!」

 

ラミレスは驚いたように口笛を吹く。

 

「この人数で敵の火砲は幾つです?」

 

「5門はあるだろうが、防衛陣地は見当たらない。練度は限りなく低いだろうな」

 

作戦司令部に衛星写真が幾つかあるだろうが、それを持ってくる余裕は無かったため、地図に直接印を着けていた。

 

「よし、1600にトラックが到着する。それまでに・・・・」

 

そう、私が言い終わらない内に直ぐ近くで爆発音が響き渡った。

 

「!」

 

兵士達は身構え、近くの武器を引き寄せ、臨戦態勢を整える。テントに被害は無いものの、私はヘルメットを被り、肩に掛けていたライフルを構えてテントから出ていく。そして鼻につく臭いで何が起こったか分かった。

 

「爆薬・・・敵襲か?!」

 

そう、結論付けた瞬間警報が鳴り響く。

 

「敵襲!中国軍の特殊部隊の攻撃を受けた!戦闘員は直ちに反撃に出ろ」

 

警備兵が叫び、他のテントから何人もの兵士が走っていく。

 

「ベンジー!我々も合流する!弾薬以外持っていくな。行くぞ」

 

「Yes,sir!」

 

煙が立つ補給所からは爆発音と銃撃音が響き渡り、アサルトライフルを片手に補給所まで走る。

 

「急げ!」

 

兵舎を通り抜け、補給所に到着すると火の手が上がり隣の救護所が炎に包まれていた。救護所から叫び声や死に絶えた負傷兵が火の中で息絶える。かろうじて脱出してきた負傷兵は以前の傷と火災の火傷で重症を負っていた。

 

「何て事しやがる!中国人め!」

 

周囲には敵の攻撃によって倒れた兵士の死体が散乱し、中にはまだ息があるように思える。

 

「息のある負傷者を運び出せ。ベンジーとラミレスは消火ボンベを使って消火しろ!」

 

近くに倒れていた兵士の脈を確認し、火の手が来ない内に胴体を撃たれた兵士を担いだ。弾薬とボディーアーマー、そして成人男性の重さは女性に担げるものではない。だが、こんな時はそれをしなければ助けられない。近くにあった兵員用テントに担ぎ込み、組立式のベットに横たえた。

 

「少尉、敵は何処に行ったんでしょう?」

 

「知るか!それよりも止血帯で止血しろ!」

 

ポケットからモルパインを取りだし、負傷兵の太股に打ち込む。苦痛に耐えていた顔は次第に和らぐが、胴体を撃たれた兵士はもう持ちそうにない。

 

「medical!(衛生兵)」

 

「こっちだ!ここに来てくれ!」

 

続々と駆けつけた兵士が合流し、その中にいた衛生兵は血を流す兵士にスティムパックを打ち込む。衛生兵が何人も来たお陰で死にかけていた兵士達は命からがら助かったようで、私は近くにあった木箱に腰かける。

 

「ふぅ~・・・」

 

コンバットアーマーのポケットに入れていたタバコを取り出して、口にくわえてライターの火を付ける。だが、中々、火は付かない。

 

「おい、なんで警報止まらないんだ?敵の攻撃は終わった筈だろ?」

 

絶え間なく鳴り続ける警報、普通攻撃が終われば警報は切られる筈なのに未だに基地に響き続けていた。

 

「クソ、もう攻撃は・・・」

 

ラミレスはテントを開けて外を確認しようとするが、彼が言い終える前に彼の胸近くに何かが突き刺さった。それは中国軍将校が愛用する軍刀だった。

 

「ち、中国兵だ!」

 

突き刺さった状態でラミレスは叫ぶが、将校は右手に構えていたピストルの引き金を引き、ラミレスは絶命する。

 

 

「美国士兵的!杀!(アメリカ人だ!殺せ!)」

 

将校は命令し、入り口から中国軍アサルトライフルを持った兵士達が現れ、腰だめ撃ちで負傷兵に引き金を引いた。無数に放たれる弾丸は無抵抗な負傷兵に牙を向く。救護に当たっていた衛生兵は負傷兵の盾に成ろうとするが、銃弾を何発も受け、貫通して負傷兵は絶命する。

 

「やめろ!」

 

腰に着けていたナイフを引き抜き、近くにいた中国兵の喉を引き裂く。もう一人の兵士は仲間を殺され、此方に銃口を向けるが、ホルスターから10mmピストルを引き抜いて引き金を引いて中国兵の脳髄を破壊する。手当てをしていたベンジャミン軍曹も血で汚れていても構わずにホルスターから10mmピストルを引き抜いてアサルトライフルを構えていた中国兵の頭に鉛玉を食らわせた。私は奪った銃剣付きの中国軍ライフルを構え、テントの外に飛び出し、近くにいた中国兵の胸を貫く。

 

「张主席万岁!(チャン議長万歳!)」

 

そう叫んだ中国兵が銃剣付きライフルで突撃するが、それを避けずに脇に受け流す。突撃した兵士は殺したと確信したが、睨む私を見て絶望する。左胸に装備していたボウイナイフを引き抜き、顎からナイフを付き入れる。返り血で冬季迷彩が汚れるが気にする必要はない。

 

「来い!米兵!相手になろう」

 

流暢な英語を話す顔の見えない中国軍の将校は腰から剣を抜き、構える。その構え方は中国軍の将校と言うよりも、日本の侍の構え方ではないか。

 

リーチの長い剣は此方に不利。倒した中国兵の銃剣付きライフルを拾い上げて構えた。

 

「はぁぁぁ!!」

 

銃剣を取り付けたライフルを突き出すようにだし、それに応戦する将校の斬激を銃剣と銃のフレームで堪えた。幾つも斬りかかる将校は剣術のプロであり、こちらは射撃しかしなかった普通の士官。それが、銃剣で挑むなんて自殺行為も良いところだ。

 

「これでトドメ!」

 

剣を振りかざしたのを見て、咄嗟に銃を盾に受け止めるが、威力が大きすぎて斬激に耐えられず分解してしまう。剣は私の上腕を切り裂き、肩をも貫いた。

 

「があぁぁ!!」

 

余りの激痛に叫び声を挙げる。将校は剣を引き抜き、滴る血を一振りで吹き飛ばす。

 

「残念だったな、米兵。これで最後だ」

 

剣を突き刺すように高く上げ、私の胸に突き刺さるように調整し突き刺そうとする。ふと、手元に転がっていたボウイナイフを見つけ、それを手に取った。

 

「さらばだ!米兵!」

 

「死んでたまるかぁ!」

 

突き刺そうとした剣は私が動いたことにより、首筋を軽く切る。だが、私の握っていたボウイナイフを突き出したことにより、ボウイナイフの刃が将校の喉に突き刺さった。

 

 

「な・・・に・・・」

 

暗がりで良く見えなかった将校の顔が突き刺した近距離であったため、顔が露になった。黒い髪に浅黒、アジア系の顔に引き締まった顔だった。

 

将校は力尽き、私の上に倒れ息絶える。だが、その将校に見覚えがあった。彼は私の命を助けた恩人だ。

 

「・・・ユウキ・・・・?」

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

壁紙が経年劣化で剥がれ落ちそうになる天井を見たのが起きて最初の光景だった。自分は今、何処に居るのかと身体を動かす。すると、鈍痛が身体に流れ、怪我をしていることを悟る。首を回してみると、荒れ果てた本棚にボロボロになった書籍の山。そこに警備に当たるT45dパワーアーマーの兵士が目についた。兵士の肩には認識章であるBrotherfoot of steelのエンブレムが見えた。

 

「国立図書館か・・・」

 

カウンターにあった古ぼけたパンフレットを見て、何処なのか見当が着いた。

 

なんであんな夢を・・・・?

 

vault72であったVRシュミレーションポット。戦前では数多くのシュミレーションが構築され、軍でも戦闘訓練として使用された。だけど、それを未だに引きずるなんてどうかしている。Dr.スタニウスの記憶の刷り込みだと思うが、それが現実のように感じられるような事はあり得ない。ユウキやシャル、私よりも滞在期間が長かったジェームズでさえ、犬のような素振りを見せていない。

 

記憶を上塗りとはいかないまでも、記憶が混同するのではないかと怖くなる。いつしか、目の奥が熱くなり、こめかみの辺りに水筋が出来る。包帯で巻かれた両腕で隠したいが手が固定されているので拭くことも出来ない。

 

「アリシア起きたんだ・・・どうしたの?」

 

Vaultスーツを着て救急箱を片手に近づいてきたシャルには見られたくない光景だった。

 

「い、いや目に天井から降ってきた埃がな。これ外してくれないか?」

 

「ごめんなさい。簡易手術室から連れてくるときに固定しっぱなしだった」

 

彼女はテキパキと落下防止のために拘束していたベルトを取り、両手が自由になったところで、涙を拭いた。VRシュミレーションで記憶混同して悲しくなって泣いたなんて悟られたくない。それに何が原因でそうなっているのか彼女に話すことなんて出来ない。

 

「大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「嘘ね」

 

シャルはそう呟き、私の心臓が飛び上がる。まるで私が思っていることを分かっているように。ユウキが前にシャルが超能力者と泣きながら言っていたのを思い出す。それは本当だったのか?

 

「え、だって汗びっしょりだし、顔色も良くない。スティムパックと輸血パックの両方を大量に使ったのよ。それなのに顔色悪いなんて何か悪い夢でも見たんじゃないかって・・・」

 

「はぁ~・・・・焦った」

 

私は再度吹き出た冷や汗をタオルで拭く。長旅のお陰でベタつく身体を拭きたい所だが、濡らしたタオルで身体を拭く程度しか出来ないし、包帯で治療中の身。かけてあったレザーアーマーの上着ポケットから煙草を取り出そうとするが、シャルが止めに掛かる。

 

「血を失いすぎてるから、煙草は当分禁止」

 

「んな、殺生な」

 

「只でさえ血の殆んどが合成になってるの。その上、タールや煙を吸うなんてダメ」

 

取り上げたシャルを恨めしく思うものの、仕方がない。汚れつつある頭を掻いてふて寝しようとした。

 

「ねえ、アリシアどうしたの?」

 

「何が?」

 

「困ってるんじゃないかって」

 

全く、ウェイストランドでこんなこと言う奴なんて彼女位なものだ。それか好意を抱いている位だが、彼女にはユウキがいるし、彼女にその気はない。Vaultの人間はこんな奴ばかりなのだろう。

 

「Vault出身者って皆お節介を焼くのかい?」

 

「え、でも・・・・」

 

別に他意は無かったのだが、シャルの表情は固まり自身が悪いことしたのかと言うような表情をする。

 

「ごめんなさい。迷惑だったよね」

 

と悲しそうにシャルは謝る。ウェイストランド人は普通こんなにコロコロと表情を変えたりしない。そこが彼女がほとんどの人間に好かれる要因なのかもしれない。

 

「迷惑じゃないさ、・・・・ありがとう。でも大丈夫だ。悪夢をビビっているようじゃ傭兵は勤まんないさ」

 

私はシャルの肩を叩く。そう言うと、シャルは笑顔になり少し仮眠を取ると言って近くの寝袋に入ると直ぐに寝息を立て始める。

 

「貴女の手術でかなり疲れたようね・・・貴女は慕われているわね」

 

そう言ってきたのは近くでパソコンを弄っていたBrotherfoot of steelのスクライブの女性隊員だった。

 

「そうか?一ヶ月前ぐらいはちょっと嫌われていたんだが?」

 

「そうなの?貴方達姉妹かと疑ったわ」

 

私はヒスパニック系なので彼女のようなヨーロッパ系ではないからそこまで顔は似てないと思ったのだが、スクライブには姉妹に見えたようだ。

 

「スクライブ・ヤーリング、ここの責任者よ」

 

「アリシアだ。傭兵をやってる。」

 

ヤーリングは怪我をしているため、左手で握手をする。替えの包帯を持ってきているらしく、ヤーリングはそれを使い、血が滲み始めている包帯と交換し始めた。

 

「そう言えば、ユウキ君だっけ?誰と付き合ってるの?」

 

「ああ、それならそこの眠り姫さ。私は奴をリベットシティーでノックアウトさせたから、奴は私の事はそんな風に見ないよ」

 

「あら?でも貴女の事、担いできた時の彼の顔はかなり焦っていたし、必死だったわ。あれは想っている女性を助ける男の顔よ」

 

「あり得ないよ、シャルの方が女性の魅力は上だ。私なんて・・」

 

「・・・はぁ・・・。私がミュータントなら貴女の事を殴り飛ばせるのに」

 

「怪我人を殴る気か?!」

 

私はヤーリングの迷言に突っ込みを言ったためか近くの休んでいたBOS兵は笑っていた。

 

「だって、貴女かなりの・・・・ああ、自覚無しは辛いわね。ミニ・ニュークで吹き飛ぶか、ICBMにくくりつけて中国行くのどっちが良い?」

 

「自覚って・・・・どれだけ私に恨みがあるんだ?」

 

「それは・・・・東海岸ぐらい?」

 

「大層な恨みだな!それ!」

 

「何言ってんの?あんたの顔見たら、自分の母親を呪いたくなるわよ」

 

ヤーリングは暴走しているのか、近くにいる兵士達は集まり此方を笑っている。怪我人を助けるぐらいして貰いたいものだ。

 

「いい?貴方はユウキ君の事どう思うの?」

 

「アイツの事か?それは・・・・戦友か?」

 

「違うでしょ!もっとこう・・・・」

 

「あえて言うなら、世話の掛かる弟見たいなものだな」

 

「何でそうなる!」

 

「まあ、ユウキをけしかけてシャルとくっ付けたのは私だし」

 

「son of a bitch!(畜生!)」

 

あ~、ヤーリングが壊れた・・・、と後にBOSの兵士は語る。

 

叫び終わるとヤーリングはため息をついた。

 

「じゃあ、寝ているときに何で貴方は彼の名前を呼んでたのかな?」

 

「え?」

 

そもそも寝ている人間が口ずさむ事なんて意味の分からないもの。覚えている夢なんて起きる寸前に見ていた夢であり、その前にもほかの夢を見ているのである。その時見ていた夢がユウキと関係していても不思議ではない。このところ一緒にいるのだから。

 

だが、覚えている夢と言えばアンカレッジに出兵した夢で、私はそれをVRシュミレーションで体感したことがあるから見てしまったのだろう。だが、最後の所で私はユウキに似た中国軍将校を殺した。その答えを言ってもヤーリングの望む事にはならないだろう。

 

「あらあら、夢の中で随分お楽しみの様子で」

 

「奴とか・・・・まあ良いか。もう少し筋肉質が好みだが、あれもあれで悪くはない」

 

「ほう♪ってことは彼に好意を抱いている訳か」

 

三角関係だわ~!!とはしゃぐヤーリング。彼女は図書館に置かれた本などを読み、そう言った内容の本を愛読していた。怪我人が居るなかでこんなテンションは逆に治りが悪くなる。

 

「ヤーリング、頼むから他所でやってくれ」

 

「え~・・・、久々に人を弄ることが出来るのに」

 

「怪我人を弄るな!ユウキでやれ!」

 

奴は弄るより、弄られる方が好きな筈だ。私はどちらかと言えば前者である。それに怪我人を弄るのはどうかと思う。

 

「まあ、良いわ。ちゃんと怪我を治してね」

 

「言われなくとも」

 

ヤーリングはスキップをしながら、仕事に戻る。私は溜め息をつき、身体に掛けられていた毛布を肩まで引き寄せる。

 

「全く・・・・」

 

怪我の疲れや長旅だったと言うこともある。瞼が重くなり、直ぐに意識を手放した。次は良い夢を見たいと言う希望を持ちつつ・・・。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「なあ、えーと、医者のシャルロットと傭兵のアリシアってどっちなんだ?」

 

「主語が抜けてないか、ジャクソン」

 

レイダーの拠点を制圧し、次のエリアへ行く時、従業員の休憩エリアで休息を取る。すると、ジャクソンは突拍子もない、主語もない事を聞いてきた。

 

「どっちとヤった?」

 

「もっとオブラートに包め」

 

ジャクソンにに肘鉄を食らわすが、パワーアーマーだから痛みはゼロ。しかも、やった俺に痛みが返ってくる。

 

「じゃあ、なんて言う?」

 

「そうだな・・・誰が好きとか?」

 

「何処の中学生だ」

 

ジャクソンの最もな意見が突き刺さる。

 

「どっちかって言うと、シャルとだな。幼馴染みだし」

 

「リア充爆発しろ」

 

「そうか?BOSは閉鎖的組織だから皆幼馴染みだろ?」

 

そんな事を言うと、ナイト・ロジャーやジャクソン、イニシエイトの数人が豹変する。

 

「んな訳ねぇだろ!?何か!メスゴリラが幼馴染みなんて俺は御免だ!」

 

「俺なんか、幼馴染み誰?って聞かれて“スターパラディン・クロス”って言う度に憐れみの目線だぞ!こん畜生ぉ!!おまけに奴は上司ですよ!それがどうしたんだ!」

 

「お前はどう言うことだよ!俺たちゃゴリラと同棲してんのにあんな可愛い子とイチャつ居ているわけ。しかもタイプの違う可愛い子と美女・・・・ああ!リア充プラズマ粘液に成りやがれ!」

 

Brotherfoot of steelは元々、米陸軍を母体とした組織である。彼らは兵士達の子孫であるため、戦闘能力の高い子孫が生まれるだろう。しかも、戦時中は女性の兵士も多く在籍している。彼女らもBOSに所属し、子を成して組織は成長した。問題なのは、遺伝なのか軍隊で活躍できる勇猛果敢な女性も産まれること。つまり、女性らしさや可憐な子が産まれる可能性が低いのだ。

 

しかし、リオンズ傘下の組織全部、可憐な美女が一人も居ないわけではない。全てが獰猛な兵士な訳ではないのだ。偶然そこにいた男達は皆、女性に恵まれない可哀想な人なのである。

 

「畜生ぉ!こうなったら、レイダーを皆殺しだぁ」

 

「正義の鉄槌を食らわせてやる!」

 

「童貞の力を舐めるなぁ!!」

 

「「「Yhaaaaaa!」」」

 

・・・・カオスである。この図書館にいる配属された兵士の7割強が男性である為なのだろうか。彼らの殆んどが女性とお付き合いしたことがないのか。それとも、テンションが上がってしまったのか分からない。でも、こう言うガス抜きもしないといけないのだろう。

 

「兄弟のために!」

 

「KILL THEM ALL!!」

 

「汚物は消毒だぁ!!」

 

各自、様々な罵声を吐きつつレイダーの拠点へ進軍する。それはまるで鬼神の如くレイダーをなぎ倒していく。

 

「殺人タイ・・・ブヘラァ!!」

 

「ひとーつ!」

 

ロジャーはスレッジハンマーでレイダーの胸に無慈悲な一撃を食らわせる。肋骨は全て破壊され、内蔵が破裂する。ロジャーが切り込み隊長を務め、他の者が近づくレイダーを銃撃で引き裂かれる。

 

「フフ、この肌触りこそ戦場よ」

 

「望みが絶たれたぁ!!」

 

「命だけは!!」

 

それは青い巨星と呼ばれるかのような男の闘いだろう。ランバ・・・ではなく、ナイト・ロジャーはスレッジハンマーを投げて突撃するレイダーの頭に命中させ、先程倒したレイダーの剣を奪い取り、突撃するレイダーを一刀両断して切り捨てた。

 

「ナイト・ロジャーって何者だよ」

 

「えっと、スターパラディン・クロスと伝説のナイト・ツバキと並んで近接戦闘が強い百戦錬磨の武人だよ」

 

ジャクソンはレーザーライフルで近付くレイダーを射殺する。ジャクソン曰く20年前のBrotherfoot of steelでは三人の近接戦闘のプロがいた。一人は銃など煩わしいと捨てて殴りに掛かるスターパラディン・クロス。もう一人は剣術と銃を駆使して戦うナイト・ツバキ。そして最後に、スレッジハンマーのような武器を駆使して戦うナイト・ロジャー。この三人によってBrotherfoot of steelは支えられていたと言っても良いだろう。

 

「まあ、ナイト・ツバキが戦死してからスターパラディン・クロスはパラディン長になって出世したけど、ナイト・ロジャーは万年ナイトじゃん。あれはさ、命令違反とか結構するためなんだよね。」

 

ロジャーは命令違反を良くするらしい。人望は厚いものの、出世は無かった。

 

「しかも、ナイト・ツバキに片思いだったんだから。愛した人が戦死だなんてな。でも、ツバキさんはどうやってお前を産んだんだ?」

 

「あ!」

 

そう、正式には俺の母。ナイト・ツバキは行方不明者(MIA)である。しかし行方不明と言うのは格好が付かないため「戦死」と言うようになっている。と言うものの、正式な書類では行方不明となっている。一般兵には戦死と知られているが、そこに俺が登場する。死んだのにどうやって産んだんだ?行方不明?じゃあ誰と誰の子?

 

ここで気づくのは、想いを寄せていた男。ナイト・ロジャー。彼は好きだった女が別の男と子供を作っていた。そうなればどうなるだろう。無茶をするに決まっている。20年という歳月で忘れるかもしれない。だが、それは個人差による。本当に、母を忘れて生きるとは限らない。

 

「ヤバい!ナイト・ロジャーを止めないと!!」

 

「何で?」

 

「ってことは、俺はナイト・ツバキの隠し子って事だろ?想い人が何処の馬とも知らない男と子供を作ってたらどうよ?」

 

「・・・ヤバい。スコット、ロジャーを止めろ!」

 

ジャクソンは叫び、それに応じてロジャーの後ろについていたイニシエイト・スコットはロジャーを止めようとする。

 

しかし、ロジャーはレイダーの拠点に突入しようとしていた。

 

「ヤク中が!これで!」

 

ロジャーは突入しようと入り口から突入する。しかし、レイダーはあるものを起動させる。それは鎖で天井に吊るされた鉄柱だった。よく、トラップでワイヤーを引っ掻けると落とされる原始的な罠である。レイダーはそれの留め具を外す。重力に従って地面に落ちようとするが鎖で繋がれている。それは振り子が動く要領で入り口にいたロジャーを吹き飛ばした。金属と金属が衝突しあい、吹き飛ばされたロジャーは壁にめり込んだ。

 

「ロジャーがやられた!」

 

急いでロジャーを捕まえ、後ろに待避させる。その間、レイダーの攻撃が為されるが手榴弾を投げることは出来ない。部屋の中にはデータが収まったパソコンがあり、破壊する恐れがあるためだ。

 

「容態は?」

 

俺は引きずられて助けたロジャーの横に座る。イニシエイト・スコットはロジャーの体を確認する。

 

「内部の衝撃吸収ジェルでなんとかなりました。軽い脳震盪ですが、命に別状ありません。」

 

「あとでシャルに見せないとな、意識はないか・・。指揮官は誰になる?」

 

「お、俺だ・・・。」

 

ジャクソンは戸惑っている様子で言ってきた。

 

「大丈夫か?」

 

「ちょっと無理かも知れん。お前、変わってくれる?」

 

「マジか・・・」

 

「俺の指揮で大変な事になったことがある。また同じ過ちは繰り返したくない。」

 

ヘルメット越しでは分からないが、かなり自信を失っている。もしかしたら、俺の交渉(speech)次第でやってくれるかもしれない。だが、それは本当に彼を元気付けられるだろうか?

 

「良いよ、やってやろうじゃないか。VaultセキュリティでやったCQB訓練の成果を見せてやろうじゃない」

 

瞬時に部隊を確認する。手持ちで動かせる隊員の数はジャクソンと俺、イニシエイトのスコットと名前を知らない奴が一人だ。

 

「イニシエイト・スコットはジャクソンと・・・えっと君は?」

 

「イニシエイト・イエーガーです」

 

「イエーガー、俺と一緒に来い。ジャクソンとスコットの二人はそのまま入り口から突入して制圧する。イエーガーと俺は向こうの通路から突入する。」

 

「ん?でも向こうから入れないのでは?ドアがありません」

 

「ドアが突入の障害になるなんて聞いたことがない。もう少し頭使おうぜ」

 

俺はpip-boyから幾つかの爆薬を取り出した。

 

「コイツは指向性爆薬を使用した物だ。これを壁に広げて破壊すれば突入用の入り口が完成する。」

 

「おお!」

 

この建物は国立図書館。200年位なら倒れる事は先ず無いのだろう。核攻撃の影響で崩壊したフロアがあるものの、頑丈な造りであるこの建物が爆発一つで壊れることは先ず無い。若干、脆くなっているが、指向性爆薬とも言えど、威力は手榴弾位なもので大丈夫だろう。さらに、手榴弾よりも限定的な爆発であるため、データは傷つかない。

 

「ジャクソン、スコットを率いて入り口から攻撃しろ。頼むぞ」

 

「ああ、任せとけ!」

 

入り口の扉から銃口を出して、レイダー目掛けて引き金を引く。しかし、レイダーは二人の銃撃よりも多くの弾丸を彼らに向けて放たれた。

 

「はっは!奴等を近づけるなぁ!あのアーマーから引きづり出してやる!」

 

アサルトライフルも構えるレイダーは引き金を引いて、フルオートで壁に銃弾がめり込んだ。

 

 

「イエーガー、そこに爆薬だ。」

 

少量のC4爆薬を壁の中央に設置し、細いチューブに爆薬を入れたものを十字架になるようにして広げておく。

 

「イエーガー、壁に成ってくれる?」

 

「え~・・・」

 

「え、酷くない?」

 

「冗談ですよ」

 

イエーガーは背中を向けて突入する壁の方へ向き、俺はその後ろに隠れる。距離は十分取ったし、指向性なので此方に危険が及ぶことは無い。

 

「点火する!」

 

発火スイッチを押して爆薬が起爆した。壁は木の板で作られた物で至近距離での銃撃がされていなければ貫通しない。電気信号によって爆薬が起爆すると、爆発によって壁を構成していた木材や壁紙などが散乱する。更にその壁にいたレイダーも堪ったものではない。外傷は少ないものの、衝撃波によって体内では内出血が起き、脳は破壊されてしまう。

 

「な、何だ!今の・・・」

 

レイダーは叫ぼうとしたが、放たれた308口径が顎に命中し、千切れ飛ぶ。そして、直ぐに第二射がこめかみに命中して絶命した。突如、爆発によってレイダーの防御は簡単に崩れ去り、二方向の銃撃によってパニックに陥った。

 

「スコット!あの机に制圧射撃だ!」

 

「了解!」

 

ジャクソンは命令し、スコットは机に隠れるレイダーにアサルトライフルで銃撃を加える。学校で使われるような学習机であった。装填されていたのが、貫通力の高い徹甲弾だったためにレイダーごと蜂の巣となる。

 

「イエーガー、一気に制圧する!俺に続け!」

 

「ちょ、アーマー無しに危険では!?」

 

「アーマーがあっても死ぬときは死ぬ。俺が死んでも、シャルが蘇生するさ」

 

SCAR-Lからコンバットショットガンに取り替えて、レイダーが築き上げた陣地に突入する。様々なガラクタを集めて作ったそれは、レイダーと言うよりもミュータントの防御方法に似ていた。何かの本で見た方法なのだろうか?

 

「命だけは・・・・・・グゲッ!」

 

12ゲージの散弾が至近距離でレイダーの腹部に命中し、血が宙を舞う。

 

「畜生めぇぇ!!」

 

捨て身の突撃と言うべきか、ソードオフショットガンを構えたレイダーは俺の目の前に立って叫ぶ。しかし、奴の攻撃は与えられず、仲間は全て死んだため、仲間達の持っていた銃の先は全て奴がいた。レイダーの脳から発せられる信号が指に到達するまでには無数の弾丸とレーザーがレイダーを肉片へと変えていった。

 

「All clear!」

 

「制圧完了、こちらナイト・ジャクソン図書館の中央コンピューターを発見した。これよりデータを回収し撤収する。over」

 

(了解、データを回収して帰投せよ。out)

 

短波無線によってエントランスのヤーリングまで伝わった。俺はパソコンに近づき、Robcoの配電盤にpip-boyを繋ぐ。

 

「どうだ?データ抽出出来るか?」

 

「ああ、保存用のデータは確保できた。・・・彼処の印刷機まだ使えるな」

 

ふと、コンピューターのオプションを見てみると印刷が出来るらしくオンラインになっていた。しかし、印刷機のインクと使用できる紙は少ない。だが、数冊は印刷可能だ。

 

「ユウキ、少し現地調達をしながら帰るから帰るのは若干遅くなる。時間はあるぞ」

 

つまり、印刷する時間はあるとの事。紙媒体の物など誰も興味を持たない。少し印刷して持って帰っても良いと言うことだった。

 

「分かった。じゃあ、これで良いかな」

 

俺は電子蔵書の中から興味のある物をピックアップして、印刷機のスイッチを入れる。間放置されていた印刷機が二百年振りに稼働した。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

常闇の夜は終わりを告げ、地球を照らす太陽がアメリカ東海岸を照らし始める。核戦争によって人類が絶滅寸前に追いやられようとも、日が必ず昇るように、必ず人類は復興する。BOSやアポカリプスの使徒、彼らは必ず人類が復興することを信じて活動を続けている。信念や思想が違えども、人類を救おうとしていた。

 

「よぉし!エンジン掛けるぞ」

 

そんな、東海岸に位置する国立図書館の前には改修されたピックアップトラックに改造を施している武装集団がいた。

 

核動力からマイクロフュージョンセルへと取り替えて、核融合エンジンへと変わっている。爆発の危険はあるものの、マイクロフュージョンセルを改造した手榴弾とミニ・ニュークを比べれば、ある程度危険性が下がったか分かるだろう。

 

俺は鍵を回す。すると、静かな音を立てるものの動力が動き、コイルに電流が流された。

 

「よし!行けるぞ!」

 

そこにはBOSの隊員が数名居て、感心したような声を出す。

 

「おおぉ!」

 

「すげー」

 

「NCRの部隊が使っていたの見たことはあるが、凄いな」

 

隊員達は口々に感想を言う。俺はタイヤを調整し、そこら辺を一周して帰ってくる。レイダーはBOSの兵士にヌカランチャーを持たせて、吹っ飛ばして貰い、ここら辺は安全地帯となった。

 

しかし、車の状態は良いとは言えなかった。只でさえ、製造してから200年以上も経過している。所々の部品に亀裂もある。それを、騙し騙し使っているのが現状だ。今回の事故で防御用のフロントカバーが破壊された他に、左座席の扉も大破。タイヤも破損しているため交換が必要不可欠だ。タイヤを修理できたが、リベットシティーまでなら走行は可能だろう。

 

「扉は吹っ飛び、搭載していたミニガンはおシャカ・・・・。リベットシティーで修理かな?」

 

とは言うものの、アリシアを安静に出来てジェームズの仕事ができる場所と言えば限られてくる。ひとまず、彼処に向かうことにすればいいだろう。

 

「じゃあ、ジェファーソン記念館に向かえばいいか?」

 

俺は地図を取り出して、ルートを決めた。

 

「やっぱりスゴイわね。どう?1000キャップと・・・」

 

「残念、こいつは非売品なんだ」

 

聞いてきたのは技術提供してくれたスクライブ・ヤーリング。もらったレーザーライフルの設計図と車の図面を見ながらの作業はかなり堪えたが、電気工学の知識を兼ね備えている彼女がいるおかげでどうにかなりそうだ。

「え~・・・まあいいわ。レーザーライフルのセル変換装置を組み合わせて使えればなんとかなったわね。」

 

「あとは細部の点検だけど、走れば奇跡。走れなければ必然って感じだろうな」

 

「昔のガソリンを使用していたのと比べるとエライ違いよね」

 

放棄されていた車から回収した廃棄部品やコンダクターなどを金属の箱に詰めて、荷台に乗せる。担架で運ばれてきたアリシアは俺が渡した冷やしたヌカ・コーラを飲んでいる。すると、ヤーリングは俺の耳元で周囲に聞こえないよう小声で話し始めた。

 

「一応、ペンタゴンの司令部には連絡しておいた。暇だったら顔を出して。近々、リクルーターがあなたの所に赴くわ」

 

「リクルーター?ああ、徴兵令状を届けに来るのか」

 

BOSは慢性的な兵員不足。しかし、練度の低い兵士を雇うわけにもいかないので、現地の傭兵斡旋業者などを通じて、BOSの理念が合う人材をリクルートしている・今回は俺の出生がバレたためにこうなってしまったのだが、仕方がない。

 

「ああ、時間があったら行けばいいんだろ?」

そう言い、話を辞めてしまおうとするがそう簡単には終わらない。

 

「それと・・・・アリシアの事どう思ってるの?」

 

「どうって・・・・」

 

どうと言われると、返答に困る。確かに人助けとして彼女を助けたのに危うく殺されかけたのだ。正直、いい気はしないが、今では信頼すべき人として認識している。それに、何度も誘惑されてけしかけられもした。俺の価値観からすれば、ちょっとHな従姉妹のお姉さん(?)とかそういう感じなんだろう。

 

「あえて言うなら、姉・・・なのか?」

 

「・・・・はぁ・・・。二人とも、言っていることが同じなんてありえないわ」

 

ヤーリングは頭を抱え、目と目の間を指でつまむ。ヤーリングが仕事していた机には戦前のドロドロとした恋愛小説が幾つも置いてあった。彼女は左遷されたフラストレーションを小説で消化していたに違いない。

 

「何回も誘惑されてましたが断ち切りました」

 

「なんで誘惑に負けないのよ・・・・、ああごめん。もしかして不能?」

 

「いやいや、ちゃんと機能していますよ?」

 

ちょっと男としては癪に触るのでちょっとばかし強気で反論する。

 

「言っておきますが、俺にはシャルロットって言う大事な恋人がいるんです。それを忘れて他の女に手は出しません」

 

「んなこと言っちゃってま~。ハーレムなんて男の夢でしょうに」

 

そりゃ、転生や召喚で異世界の女の子達とハーレムを築いてしまうなんて本の中では王道だ。でも、実際それをやってみてどうだ?嫉妬や独占欲と言う感情は人間誰しもあることだ。男一人に女二人・・・こんな歪な関係はトランプでピラミットを作っているように脆い。強欲に任せて一線を超えてリスクを背負い、尚且シャルを裏切るのはどうかと思った。

 

アリシアも俺の事をどう思っているかどうか知らないけど、恋愛感情があるとは思えない。

 

「現実でそんなこと出来る奴はいるでしょうけど、俺には出来ません」

 

「アリシアはあなたのこと好きだと言っていたわよ」

 

「へ?!」

 

俺は驚き、彼女の顔を見る。

 

「彼女さ、あなたが彼女を助け出して必死だったの朧げに覚えていたらしいわ。いいわね、好きな男と巡り会えるなんて」

 

「ちょっと待って!つまりあれか、ちょっとした大人の余裕で俺に誘惑していたんじゃなくて、本気で俺に惚れていて」

 

「多分、最初は“大人の余裕”だったんでしょ。でも、今回の一件であなたを愛し始めた」

 

「マジか!?」

 

「マジよ」

 

ってことは、俺はハーレムの選択肢があるってことか?まさか本当に?

「モテ期」というか、そんなモテモテになる事なんて驚きなのだが、本当にどうだとすればすごいのだろう。現実味がない。

ハーレムとするならば、シャルとアリシアの了承も必要だろう。だが、一番の問題がある。・・・そう、ジェームズである。

 

「絶対無理!!」

 

「え~・・・なんで?」

 

「北斗百烈拳ver.ジャームズでミンチになる」

 

「あちゃ~・・・それじゃ無理じゃん」

 

アリシアが本当にそう思っているのかが気になるが、それを事実確認して既成事実でも作ってしまえば、俺はデスクローにやられた死体よりも酷い事になると思う。

 

「ジェームズさんに“銃なんか捨ててかかってこい!”なんて言われそう」

 

それはどこかのコマンドーであるが、現にジェームズは科学者でありながらも格闘術が免許皆伝レベル。レイダーの弾に当たらない肉弾凶器でもあったりする。彼なら、旧カリフォルニア州知事に取って代わってもいい。もしくは、ツボを刺激して人を爆裂させるまで技を極めてもらいたい。

 

「ん?ユウキくん、私がどうしたんだ?」

 

話をすればその人の影とも言うが、本当に来て、尚且話を聞くとは。もはや運が悪いとしか思えない。ジェームズの何気ない微笑みでさえ、俺には罪悪感と知られるかもしれない恐怖感があった。

 

「そうそう、図書館でとある本を見つけたんだ」

 

「とある本?」

 

「たしか、“人を爆発させるツボ百選”だったか?ちょっと、実験したいから来てくれない?」

 

「よりにもよってそんなものを!」

戦前の人たちはなぜそんな物を書いたのだろうか。世紀末を予期してなのか。そして、俺に対する当てつけなのか。既に俺の目にはジェームズの事は鬼か悪魔にしか見えない。ふと、となりにいたヤーリングは俺の事を見ると、哀れみの目を向けるが、すぐに親指をアップ。つまり、「頑張れ!」とでも言うのか。

 

「さて、行こうかユウキくん♪」

 

「や、ヤダ!俺は死にたくない!」

 

「死にはしないよ。ちょっとばかし、痛いかもしれないが」

 

「ヤーリング助けてくれぇ!」

 

「さ~て、残りの小説を読もうかな?」

 

「し、シカトすんなコラ!」

 

まるで人さらいのようにジェームズは俺を連れて行く。哨戒していたBOSの兵士達は哀れみと同情の視線を送る。そのあと、行った先で叫び声が響き渡るが、BOS兵はジェームズを敵にしてはいけないと確信し、恐怖した。

 




ちなみに中国語はググって調べました。ええ、ちゃんと翻訳で(笑)

車は二三話過ぎたら、登場しなくなります。まあ、旅は基本歩きですから。

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