fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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二日続けて二話投稿しています。

お気に入りからお読みになろうとしている方はご注意ください。


二十六話 強襲

そこはアメリカ合衆国の首都“ワシントンD.C.”からそれほど遠くない場所にある空軍基地だった。大戦争直後、首都のホワイトハウスと政府専用トンネルから避難した政府要人をロスモアの核シェルターや核攻撃を受けない洋上、そしてポセイドンエネルギーの石油油田基地へと移動させた。大戦争から二百年、役目を終えたアダムス空軍基地と呼ばれた旧軍の遺物はゆっくりと老朽化していった。

 

戦前は基地に民間人が入らないよう、基地全体を見えないように丘と丘の間に建設された。政府要人の避難トンネルもあるため、位置はあまり知られていない。

 

するとそこへ数人のグループが侵入する。彼らは旧軍が支給していたコンバットアーマーやトレーダーが使用するフィールドジャケット、傭兵が使用する服装など統一性のない男達。彼らは使い古したアサルトライフルを携え、敷地のフェンスを越えて中へと入った。

 

「よし、まさかまだ荒らされていない空軍基地があるなんてな」

 

コンバットアーマーを着た一人が言い、周りは頷いた。

 

「まあ、戦時中に敵の攻撃を受けないために幹線道路を物理的に封鎖したんだ。いままでスカベンジングされなくて当然さ」

 

「あそこは宝の山だぜ。早く行こう」

 

男達は破壊された幹線道路やトンネルを使用せずに、山を越えてきた。本当なら政府の整備用トンネルや補給線として列車が用いられているが、彼らは知らない。彼らは近くの町の市庁舎でアダムズ空軍基地の情報を知っただけで、そこまでの道程はすべて破壊されていた。きつい行軍で全員は疲れはてていた。彼らを動かしていたのは様々な武器弾薬やジャンク品を見つけて売り捌きたいと言う欲だけであった。

 

「ん?なんだあれ・・・・」

 

一人の男が格納庫近くで何かが光ったのが見えた。しかし、男の言葉は最後までいうことは無かった。男が見た先から大口径のレーザーが男の顔を直撃し、顎から上を消し去ったのだ。

 

「スナイパー!」

 

「エヴァンズがやられた」

 

「伏せろ!」

 

何処からともなく、プラズマライフルの光線が彼らを襲う。破壊された軍用トラックの影に隠れ、一人の男はベルトに入れていた発煙手榴弾を投げる。

 

「投げ・・・グハッ!」

 

投げようとした男の腕にプラズマ弾が命中し、上腕より下はプラズマによって溶ける。辛うじて被害を免れた手榴弾は転がって煙を吹き出して周囲を包み隠す。これを好機と見た生き残りはフェンスから逃げようと身体を向ける。しかし、男達の耳に何か機械的な音が入ってきた。

 

何かが回転しているような音。それは次第に大きな音となり鼓膜を揺らす。すると、周辺を覆い隠していた煙は突風によって吹き飛ばされる。音の先に男達は目を向けると表情を凍らせる。

 

そこには戦前に飛んでいたであろう軍用の双発式ヘリコプター。濃緑色に塗装され、機関砲とミサイルポットが見える辺り戦闘ヘリ。尾翼には円陣の星々が“E”という文字を囲むエンブレムが見えた。男達は生きてこの方、ヘリと言う空飛ぶ乗り物を見たことが無かったためデスクローを見た以上に驚いていた。こんな鉄の塊が飛んでいるのかと。

 

ヘリの機関砲は回転し、20mm弾が男達を襲う。四肢がもがれ、血潮が舞う。銃撃が終わる頃には其処ら中に肉片が散らばっていた。ヘリは仕事に満足したようですぐに其処から移動していった。ヘリの音も消えて、周囲が静粛に包まれた頃。建物の影や塹壕から黒い人影が出てきた。それはこれまでのウェイストランドでは見たことのない黒い色のパワーアーマー、悪魔にも見えそうな禍々しい雰囲気で光学兵器を持って掃討し始めた。

 

「た、助けてくれぇ!死にたくない!」

 

運よく車の影に隠れていたのか、仲間の返り血でびっしりと血がコンバットアーマーにへばり着いていた。ガタガタと身体が震え、20mm機関砲で失われた脚の傷を腕で押さえていた。

 

「負傷した現地人を発見した、指示求むover」

 

パワーアーマーによってくぐもった声が響き、男はそれが人間だと知ることが出来た。

 

(こちら、HQ。生存者は必要ない。殺せout)

 

それは男の死刑宣告だった。ガタガタと身体を震わせる男に兵士は持っていたプラズマライフルを構える。

 

「了解、直ちに」

 

「やめろ、死にたくない!助けて・・・・」

 

男は涙を流し懇願するが、兵士は容赦なく引き金を引いた。発射されたプラズマ弾は男の顔を溶かし、絶命する。兵士は事が済み、後ろから別の兵士がやって来る。その兵士の背中には火炎放射器用の燃料タンク。兵士は火炎放射器の引き金を引いて死体を紅蓮の炎につつんでいく。その炎は黒いパワーアーマーを赤く照らしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、基地の中心にある滑走路にはキャタピラを履いた巨大な兵器があった。それは兵員の兵舎や研究施設、工場などを含む。謂わば、陸上で運用可能な空母だった。それは「クロウラー」と呼ばれる米軍移動型司令部として運用が出来る戦前のテクノロジーが集められたノアの方舟だ。移動要塞とも言える兵器の中心部には各指揮官が集められた会議室があった。そこには各分野の将校が席に着いている。彼らはアメリカ合衆国の軍服を纏い、ウェイストランド人からすれば大戦で戦った亡霊とも言える。あながち、間違ってはいない。彼らは“亡霊”だ。

 

「これより会議を始めます。まず、これを」

 

進行役である大尉の階級章を着けた士官は手元のクリップボードを見ながら、スクリーンを操作している下士官に合図する。部屋の証明は消され、スクリーンの灯りのみが周囲を照らす。そこにはウェイストランドと呼ばれる以前のワシントンD.C.の町並みがあった。

 

「大戦前、D.C.市街地は都市と自然が共生した未来都市として2050年代に構想が練られ、整理された都市区画と地下のメトロが市民の足として利用されていました。世界中でワシントンDCをモデルとした都市が建設され、世界に注目を集めました」

 

アメリカ合衆国の首都、栄華を誇っていた都市は市民の笑みが絶えず、町並みは美しく、公園では綺麗な水が流れ、鳥が飛び立つ。それは平和としか映らない。

 

「しかし、大戦後。都市部は荒廃し、現在はスーパーミュータントと現地傭兵部隊。そしてカリフォルニアで活動していたbrotherfoot of steelと名乗る武装組織の存在も確認されています。」

 

先程の戦前の写真とは違い、都市部はひどく荒廃していた。建物が崩れ、死体がそこら辺に放置される。焼け残った星条旗が連邦ビルではためき、銃声が響く。人ではない異形の敵、スーパーミュータントが人を喰らい、都市の覇権を巡って傭兵とパワーアーマーを着たBOS隊員との三つ巴の激闘が繰り広げられていた。都市部以外も荒廃し、文明的生活は既に失われたと言っていい。

 

「Brotherfoot of steelか、懐かしい敵と出会ったようだ」

 

老年の将校が呟く。この会議室の中では一番老いている将校はそう呟く。彼らはBOSやNCRに攻撃され、最後は彼らの大統領は殺されて本部としていた石油プラントは破壊されたのだ。そこにいる彼らは西部や違う所に基地を構えていた残存部隊だった。石油プラントを破壊された後、彼らは残存兵力を結集してキャピタル・ウェイストランドにやって来ていた。老年の将校が呟いたお陰で周囲は感傷に浸るが、机の端に座っていた男が静まった会議室で音を出す。

 

「中佐、話を進めるぞ」

 

その声は老年の将校よりは若く、階級は高かった。中佐と呼ばれた将校は軽く会釈して、大尉に進めるよう命じる。

 

「二十年前、南東に位置するとある施設で動きがありました。現在の河川は放射能で汚染されているため、周辺の集落では被害を受けており、生活水準はかなり低いです。そこにいた科学者達はの浄水施設に改良を加えていましたが、中止されました」

 

スクリーンには昔のジェファーソン記念館と現在のジェファーソン記念館の二つが表示される。ひとつは大理石の白い色が目立ち、歴代大統領の中でも素晴らしい功績を残した大統領の記念館。しかし、今では地下にあった浄水施設は土壌流出によってパイプラインが見え隠れし、新たに増設されたパイプラインがあった。

 

「参謀本部では、この施設を接収して浄化プラントを建設。放射能汚染のない水を現地人に配給することを提案します。これによって我々の統治体制を完璧なものにします」

 

「その施設を使う必要があるのか?」

 

武器製造を手がける将校は不満の声を出す。

 

「工廠の生産力は随一ですが、統計では記念館並の浄化施設を建設するのに掛かる資源と時間を考えますと十年は要します」

 

彼らの技術はアメリカ一と言っても過言ではない。しかし、彼らの資源は無限にはないのである。

 

「そうか、参謀本部は技術局と調整して施設を接収するときの人員を用意してくれ」

 

「はっ!」

 

参謀本部の将校は返事をするが、真横にいたメガネをかける将校は手をあげる。

 

「待ってください、大佐。最近になって記念館に元の研究者が戻り始めました」

 

「何ぃ!」

 

「情報局はもっと早く伝えるべきだろ!」

 

ほとんどの組織では諜報を行う部署は毛嫌いされる。それは現在のCIAなどの諜報機関、警察の公安などが挙げられる。それは、内部の敵がいないか探すこともあり、何をしているのか分からないからであろう。多くの将校は罵倒を浴びせるが、この場にいた大佐の地位に付いている将校は他の罵倒する者達を抑え、情報部の将校に聞いた。

 

「それは本当か?」

 

「はい、我々の工作員が伝えた情報です」

 

「工作員?」

 

大佐は首を傾げる。他の将校も工作員の情報を知らなかったらしく、全ての将校は首を傾げた。

 

「はい、数年前から工作員として様々な組織のフィールドレポートを書いてきました。現在あるここ周辺の勢力図や生態などはその工作員によるものです」

 

彼らの手元にはキャピタル・ウェイストランドの詳細な勢力図と組織の詳細、そして様々な生息生物が記録されていた。事細かに記録されたそれはスーパーミュータントの考察まで書かれ、傍から見ればそれは学者のような書き込みである。

 

「半年前に一度消息を経ちましたが、最近になって連絡がきました。現在は研究者の『浄化プロジェクト』と呼ばれるものの手伝いをしているとか」

 

スライドは移り変わり、ジェファーソン記念館の衛星写真が映し出された。それはジェームズらが来ていなかった時の画像だったが、直ぐに画像が変更される。それには土嚢やセメントで作られた防御陣地や重機関銃が幾つも配備された要塞と化していた。

 

「参謀本部と宇宙軍の報告ですが、軌道上の偵察衛星ホークアイから記念館を捉えた画像です」

 

宇宙軍とは名ばかりの衛星を管理するだけにとどまる将校は衛星から送られてきた画像を説明し始める。

 

「現在、ジェファーソン記念館は重武装の武装組織に防護されています。数は一個小隊程ですが、情報局との情報交換の結果、彼らの装備はそこらの傭兵とは比べ物になりません。二十年前は当時派兵されたBOSが科学者の研究に興味を持ってパトロンとして資金提供を行っていましたが、彼らはBOSの防御体制よりも強固なものと推測されます」

 

衛星写真ではなく、遠方から撮影された写真も追加される。それは櫓で警備に当たる兵士の写真であったり、至近距離で撮っている写真もあった。

 

「流石、アイボットだな。彼らはあのロボットが我々の尖兵だとは気づくまい」

 

それらの写真はアイボットと呼ばれるウェイストランドに漂っているロボットのことである。それは西部でスタートした「デュラフレームアイボット計画」と呼ばれる偵察型ロボットシリーズの最終形である。長年、ウェイストランドで目撃されており、こちらが攻撃しない限り、襲ってこないためウェイストランド人からは安全だと思われていた。

 

「ん?これはアサルトライフルだよな?」

 

メガネを掛ける技術技官はその写真を見てメガネを傾け、驚きの表情とともに画像を見張いる。

 

「おいおい、誰だよこんなの作った野郎はぁ!20mmレイルにホロサイト?そしてレーザーサイトにハンドグリップとか何処のコルトアームズだよおい!」

 

技術技官の豹変ぶりに会議室にいる将校は驚く。

 

とても大人しそうな技術士官と皆は思っていたが、会議室にいる将校の中で一番熱い男なのかもしれない。

 

「ロイド技術少佐、少し落ち着け」

 

大佐は少佐に落ち着くよう言うが、画像に食い入るよう見続けた。

 

「我が軍もこれを採用していれば!」

 

ロイド技術少佐と呼ばれた人物は巡回している傭兵の写真を見ていた。

 

「情報局は彼ら傭兵の武器について何か分かっているのか?」

 

「工作員の報告では、メガトンを拠点としたガンスミス兼業する武器商人が販売しているとのこと。武器商人の報告書もあります」

 

情報局の将校は近くにいた下士官に合図すると、下士官数名は持っていた紙を配り始める。

 

「彼の名前はユウキ・ゴメス。出身地はVault101、情報筋によると、スプリングベール旧住宅地にあるvaultシェルターで最近騒乱があり、脱出してきたとの事。」

 

アイボットから撮影された銃を構える写真と様々な記述が為された報告書。脅威評価は要注意人物と書かれていた。

 

「参謀本部はVault101の住民を救出することを提案します」

 

「何故助ける必要が?」

 

「現在、我々の人材は不足しています。戦闘員でさえままならぬ状況です。純粋なアメリカ国民ですし、技術面に置いても戦前と大差ありません。」

 

「参謀本部には救出作戦の許可を与える。それと、ジェファーソン記念館は第二騎兵隊を使え。機械化中隊も幾つか持っていくといい、指揮官はダグラス少佐でいいだろう」

 

「了解です、大佐」

 

長机の真ん中に座る、空中騎兵大隊と呼ばれる部隊を指揮するダグラス少佐は言った。彼の部隊はペルチバードを主力とする機動部隊であった。

 

 

「しかし、手荒な真似は避けろ。」

 

「何故です大佐?彼らは野蛮人です。我々が行けば勝つことは間違いありません」

 

大佐と呼ばれた将校の名前はアウグストゥス・オータム大佐。前任者に変わって亡霊とも言える軍隊の最高責任者だった。しかし、なぜ大佐と呼ばれる男が役職に合わない全軍の総司令官に任命されているのか。それはこの組織が巨大な国家の残りカスであるからだと表現できよう。

 

 

「私は君に戦争しろと言っているわけではない。彼らの施設を接収し、合衆国政府の管轄下に入れる。これから彼らを統治するのが我々、エンクレイヴの使命だ。無駄な殺傷は避け、穏便に平和的に事を済ませろ。其処にいる研究者も傷付けずにな」

 

 

エンクレイヴ。それは戦前では都市伝説とされていた組織である。アメリカを影でコントロールし、政府の意思決定はエンクレイヴの意思であると。

 

本当の彼らは政府内の極右政治家や軍人、産業界などが結成した秘密結社だった。彼らは世界の終末を察知し、資産を集めて終末に備えようとした。そして大戦争の後、彼らは事前に用意していた核シェルターや攻撃を逃れた高い機密レベルを誇る軍事基地、そしてポセイドンエネルギーの石油掘削基地などで生き延びていた。彼らは自身を「正統なアメリカ合衆国政府」とした。リーダーは大統領と称され、核による荒廃を正し、偉大なアメリカを復活させようとした。しかし、一人の男によってポセイドンオイル基地を破壊されて、鷲の頭は斬られてしまった。首脳レベルの司令官は軒並みオイル基地破壊時に戦死し、東にいた彼らは西にいた部隊と合流してとある人物がいるここ、キャピタル・ウェイストランドにやってきた。

 

「分かりました、必ずや合衆国に栄光を」

 

ダグラス少佐は決め台詞とばかりに言う。彼はエンクレイヴ上層部の大半を占めるエンクレイヴ至上主義派の一人だ。自分達は純粋な人類であり、ウェイストランド人は汚染された人類。純粋な人間が彼らを管理し、統制する差別主義に基づく。ポセイドンオイル基地の政府の要人の殆んどがそれであるため、西海岸のエンクレイヴの行動はまさしく悪の組織そのものだった。それに対してオータム大佐は現実的とも言えるだろう。ウェイストランドに住む彼らをアメリカ合衆国の国民であると認識しているのは大佐以外にもいる。だが、エンクレイヴという組織の本質的な部分はそう簡単に変わるわけでもない。戦前、自由の国アメリカという代名詞の元、大国として栄華を誇っていたが、実際は貧富の拡大や人種差別は根絶できなかった。

 

会議は終了し、将校達は自身の持ち場へと帰っていく。接収する任務を得たダグラス少佐は何人かの部下を引き連れて作戦を思案している頃合だろう。オータム大佐は彼に任せて大丈夫だろうかと一抹の不安を覚える。穏便に事を済ませろと命令をしたものの、本当に出来るだろうかと思う。エンクレイヴに根付く選民思想は今後の存続に関わってくるだろう。大半の将校は選民思想に染まっており、自身の上の政務に携わる指導者すらそれに染まっているのだから。そして、自身の手で忌まわしき産物の改良型まで作ってしまうのすら狂気だと。これで合衆国の再建、そして人類の復興などできるのだろうか。

 

オータム大佐は頭の中にある不安を打ち消そうと淹れたコーヒーを飲む。それはエンクレイヴの誇る食物生成プラントで生産されたコーヒー豆から煎れたものであり、一部のウェイストランドで出回っている戦前のものとは一味違う。香ばしい香りとカフェインによって彼の気分は晴れやかなものとなる。

 

もし浄水施設を接収し、エンクレイヴによるDCの統治が可能になれば晴れてエンクレイヴは正統な合衆国政府として返り咲く事が出来る。先人達が築き上げたアメリカ合衆国をこの地で再建できる。

 

 

「ポセイドンオイル基地の雪辱が果たせる・・・・」

 

オータム大佐は会議室の後ろに置かれたエンクレイヴの旗とアメリカ合衆国の旗を見ながら、手元にあるコーヒーをもう一度口にする。

 

オータム大佐が生まれる前のことであるために、エンクレイヴが全盛期の頃など知ることはなかった。そして、今は亡きアメリカ合衆国の軍人でありながら、戦前の美しい情景を見たことがない。アメリカ軍人でありながらも、帰属する国家はとうに失われたといえよう。しかし、彼は想う。再びアメリカという国を再建したい。スクリーンや写真でしか見ることができない世界をもう一度自らの目で見たいと。

 

それはもう間近だった。

 

ジェファーソン記念館さえあれば、自らが切望する景色を見ることができる。自分が死に何代かかっても構わない。自身の次なる子孫がアメリカを再建すればいい。その道のりは険しい。だが、それをやるのが自分の務めだ。

 

オータム大佐は残りのコーヒーを飲み干すと、会議で余った書類が偶然目に付いた。

 

 

「君がどのような人物か試してみようか」

 

そこにはこれから接収される施設にいるユウキの写真であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうすっかな・・・・」

 

「どうしたんだ?いきなり」

 

軍用のテントの中で俺は椅子に座って足を組み、腕を組む。俺の独り言に反応したのが、テーブルに置かれた陣地の配置を見ていたウェインだった。

 

「いやさ、何と言うかモテる男って辛いね★」

 

「リア充爆発しやがれ!」

 

ウェインは中指を立て、俺の状況を察することが出来た。そう、シャルに加えてアリシアまで関係を持とうとしていた。独り身のウェインに何故恨むなと言えるだろうか。

 

「教えた言葉を当の俺に使うとはね」

 

リア充爆発しろなんて言葉はこの世界にはない。だが、おれはウェインにその言葉を教えることにした。モテる男に何て罵倒すればいいと聞かれたのがキッカケだが、まさか自分に言われるなんて思わなかった。

 

「当たり前だ。シャルの次はアリシアとかてめぇーはドゥコフか?」

 

「酒浸りはやだなぁ」

 

「あれはハーレムの代表格だからな」

 

このウェイストランドにはドゥコフのハーレムの他にオールドオルニーの北東にあるデイブ共和国のデイブなどがいる。この辺りでドゥコフは有名で傭兵の時に一山当てて、好きな娼婦と惰性に過ごしている。

 

「どうしようか」

 

「だからなんだっての!」

 

「シャルにどう説明するかって事さ」

 

俺、アリシアの事好きなんだ!とか言ってみたらメスを投げられかねない。遠回しに言っても無理だろう。

 

「お前じゃなくてアリシアにやらせればいいだろ?」

 

「ああ、その手があったか」

 

同性ならば通じ合うこともある。一応、俺達の間では俺が言うことになっていたので変えとかなきゃならない。

 

「ありがとう、ウェイン」

 

「まあ、いいよ。それより陣地編成なんだが・・・・」

 

ウェインはジェファーソン記念館の周囲を記した地図を広げる。

 

「問題なのは、何故ここに機関銃陣地が?しかも設置された機関銃やミサイルランチャーは対空用のまであるじゃないか。一体、ミュータントは航空戦力なんて持っていないだろう?」

 

機関銃陣地は要塞を取り囲むように計6つ設置されていて、歩兵陣地には誘導装置が組み込まれたミサイルランチャーがある。配備された機関銃には空から来る敵を想定しているものもあり、上にも銃口を向けることが可能であった。

 

「念のためというか・・・・・ウェインは俺の話を信じるか?」

 

「信じるというか、何かあるんだろ?言ってみろよ?」

 

ウェインは真っ直ぐに俺の目を見つめる。それは嘘など通用しないようで、俺は言葉を選びつつ答えた。

 

「ウェインは輪廻転生って知ってるか?」

 

「輪廻?・・・それってあれだろ?仏教の生まれ変わって他の人生を歩むとかどうとか」

 

「稀にさ、それは記憶を持ったまま転生することもある。それは自分の知っていた世界だったとか」

 

「え、ちょっと待てよ・・・。てことは、お前は前世の記憶があり、この重装備はこれから来る敵に対してか?」

 

「まあ、そういうことになる」

 

ただ、敵が来るからなんて言っても信じて貰えるか分からない。なら、洗いざらい言ってしまった方がいいだろう。ウェインはう~んと腕組みをして考える。まともな神経をしているなら、俺の事は頭がおかしくなった男と判断する。戦前の人間なら精神病棟に投げ込んでいるだろう。すると、ウェインは判断ついたようで悩むのをやめた。

 

「じゃあ、一つ聞くが証拠は?」

 

「この世界にはなかった武器のアタッチメントを作った。あとは・・・これか?」

 

机の上に出したのはリンゴのマークが描かれた薄い長方体の機械だ。

 

「これは?」

 

「再生するから、こいつを耳に着けろ」

 

俺は機械に着けてある物をウェインの耳に着けて、“再生ボタン”を押す。流れたのは、前世でよく聞いていたグループの曲だ。

 

「うぉ!・・・これは凄いな。だが、戦前には・・・」

 

「戦前にこんな曲が流行った?それにこんな機械は生産していない筈だろ?」

 

ウェインに見せたのはアイポットで、核分裂バッテリーによって稼働している。いくつかの曲をスリードックに渡したが、それでもまだ余裕はある。たまに寝る前や暇になったとき、銃のメンテによく聞く。ウェインはこれに驚いたようで俺の見せた機械を見続けていた。

 

「これはアウトキャストの基地に放置されていた。前世で使っていた代物がなんであるのか、俺には分からない。だけど、これは証拠になるだろ?」

 

「ああ、分かった。・・・しかし、そんなのがいるなんて驚きだぞ」

 

ウェインは他にも出したゲーム機を触る。

 

「俺だって驚きさ。この世界じゃゲームはないから、シュミレーションか?いつもやっていた世界に入ってくるなんて、いきなり赤ん坊の姿なんか焦るわ」

 

ウェインは笑い、俺は出していた物を片付けながら笑う。

 

「お前も悪趣味な奴だ。なんだってこんな世界のシュミレーションなんてやってんだよ」

 

「その世界じゃ自分達が体感しえない物を酷く面白く感じる傾向にあったんだ。この世界で生まれてしみじみ思うけど、なんて物をやっていたんだと感じてしまうよ」

 

いつもテレビの向こうの主人公をコントローラーで操作して、バットで単身突撃したり、敵の猛攻の中で応射した。だが、それが現実ならば、それはまともな行動ではない。それに、一発の銃弾で人は死ぬことがある。そして、このウェイストランドの世界、とても過酷で荒廃していた。まともな感性なら既に参っている所だ。

 

「じゃあ、これから何が起こるか分かるんだろ。何が攻撃を仕掛けてくるんだ?」

 

ウェインは近くに置いてあったヌカ・コーラの栓を開けて、中の炭酸飲料を飲み干す。

 

「戦前の極右派の政治家と軍人、各財界が結社した秘密組織。アメリカを復活させるためなら容赦しない軍事組織・・・エンクレイヴだ」

 

「それってあれか?いつもここら辺一帯で放送されている・・・ジョン・ヘンリー・エデンだっけか?奴は自分をエンクレイヴだと言っているが、あれが仕掛けてくるって?」

 

エンクレイヴは名前だけはウェイストランドに浸透している。ここら辺でラジオのチャンネルを回せば、エンクレイヴが放送しているラジオかスリードックのラジオ番組が流れる。エンクレイヴが流すのは大統領を自称する男が自身の政策や自らを正統な合衆国政府と称していた。ウェイストランド人からしてみればそれは金持ちの道楽かマッドサイエンティストの所業という結論だった。

 

ウェインはよく聞いたことがあるためにそれが本当とは信じられなかった。

 

「ああ、彼の軍隊だ。奴らはかなりの重武装でくるはずだ。だから、俺達はかなりの武装で警戒に当たっている」

 

「さっきの話は信じるとして、エンクレイヴが攻めてくるなんてどうしても信じられないな。」

 

ウェインは頭を抱える。彼には転生の話は理解できても、エンクレイヴに対する備えだというのは理解できないようだ。それは当たり前だろう。見えない敵に備えるなんて誰しも信じるとは限らない。

 

「そうだろうな、だが今来ても可笑しくないのは理解して欲しい。」

 

俺は言うが、ウェインは怪訝な顔をしてテントの外へ出た。理解して貰えないことは分かっていたが、予想していたことにせよ辛い。

 

腰に取り付けていた水筒を手にとって、口に流し込む。乾ききっていた喉を潤し、座っていた椅子から立とうとした。

 

プロペラが回転するような音・・・・

 

それは次第に大きくなり、プロペラ音は一つではなく幾つもあることが分かった。

 

「本当に来やがった・・・・」

 

本当ならば、聞きたくなかった。記憶の間違いであって欲しい。頭の隅で自分の妄想ではないかと密かに考えていたこともある。しかし、現実は変わらない。

 

テントを飛び出し見たものはXVB02ベルチバードと呼ばれるティルトローターを回転させて近付く戦闘ヘリの編隊だった。5機の編隊で飛行し、搭載された機関砲で記念館に通じる橋の横に作られた櫓を破壊し尽くす。機銃掃射を行った機体はそのまま旋回して再び攻撃位置につこうとしていた。

 

「ユウキ、来やがったぞ!!」

 

ウェインは信じられないとばかりの表情でプロペラの爆音に負けず叫ぶ。先程まで話していた敵がすぐ目の前にいるのだから無理はない。自分ですら目の前で起こっていることすら信じられないのだから。

 

 

「皆に迎撃体制を取らせろ。ミサイルランチャーや重機関銃で落としてしまえ!」

 

近くにあったスピーカーのマイクの電源を入れてサイレンのボタンを押した。ジェファーソン記念館に設置されたスピーカーからは空襲警報のサイレンが鳴り響き、マイクのボタンを押した。

 

「敵機来襲!敵は空から来ている!各員配置に付け!非戦闘要員はマニュアル通りに避難してくれ!」

 

スイッチを切り、近くの木箱に収まった誘導装置が装備されたミサイルランチャーを担ぐとテントから飛び出した。

 

既に傭兵の中では死傷者が出始め、担架で負傷者を担ぐものや足りなくなった弾薬を運ぶ兵士が走り回る。陣地に置かれた50口径重機関銃がベルチバードに向けられ発射する。しかし、装甲が厚く、破壊することができない。そこら中に硝煙の臭いが立ち込め、ベルチバードの轟音と銃声が響き渡る。回転翼の風で砂埃は巻き上がり、視界が悪くなっていく。

 

俺はミサイルランチャーの筒にミサイルを装填すると、照準を下ろし、ペルチバードをカーソルに合わせた。機械音がピッピッピと断続的な音を鳴らし、レーザー照射を受けたペルチバードは照射を逃れるために旋回を行うが、既に遅かった。

 

断続音からピーと継続的な音になった瞬間に発射ボタンを押す。電気がミサイルの燃料に流され固形燃料に引火する。発射されたミサイルは本体のレーザー誘導に従って飛行し、ベルチバードの右翼ローターに被弾した。片方のローターを失ったヘリは高度を維持できなくなり、。黒い煙を上げ、ローターの回転速度は低下していく。次第に高度は低下していき、岸辺に墜落し、爆発した。

 

「敵は回転翼かローター部分が弱点だ!そこを集中的に狙え!」

 

弱点が分かったため、傭兵達は手持ちの武器をベルチバードのティルトローター目掛けて引き金を引く。小口径ライフル弾ならば弾く装甲であったとしても、12.7mm等の大口径マシンガンを食らえば只では済まない。ローター部分は装甲が厚いものの、空気穴等もある。ヘリの浮力を発生させるのはプロペラであるため、羽を破壊するのも効果的だった。

 

誰かがミサイルランチャーを発射し、プロペラに直撃する。浮力を失ったベルチバードは回転しながら川へと墜落した。大して深くない川であったため、ヘリは尾翼を上へ突き出して川底を抉るように地面へと墜落し、炎上した。上空にいるヘリは残り3機。しかし、敵の機銃掃射によって陣地では死傷者が続出していた。

 

「奴らは無敵じゃない!このまま押し返せ!」

 

「「「おぉ!!」」」

 

親しい仲間の死。誰だって嫌なものだし、戦いたくないと思ってしまう。誰かが鼓舞して戦わなければ自分達よりも強い敵には立ち向かえない。

 

ベルチバードの一機は主翼に設置されたミサイルを発射し、機関銃陣地を爆散させる。土嚢と金属片、そして傭兵の体とおぼしき一部が転がり落ちる。誰かのミサイルランチャーが発射され、ヘリは誘導できないよう、フレアを発射して命中するのを防ぐ。

 

すると、橋の向こう側から何かが接近してきた。

 

「おいおい、何だあれ!?」

 

アウトキャスト製のミサイルランチャーを構えたジムは橋の向こうから接近する何かを指差す。其処には俺も知らないエンクレイヴの兵器があった。コンバットタイヤを履き、銃弾を跳ね返して重火器を使用する。前世でも見たことのない形の装甲車両が車載の重機関銃を発射しながら戦場に突っ込んできたのだ。

 

「装甲車だ!重機関銃はタイヤを狙え!ミサイルランチャーは側面を!」

 

俺は叫ぶが、重機関銃陣地は装甲車に搭載された機関銃で蜂の巣にされ、塹壕は車載のミサイルポットらしき物から発射されたミサイルが直撃し、傭兵の死体が飛散した。

 

戦況は五分五分から劣勢へと変化する。一番前に設置した地雷原に装甲車は引っかかるが対人地雷なため被害は与えられない。一番前の塹壕では何人かの傭兵が粘っていたが、随伴歩兵のような人影が塹壕の中へ手榴弾を投げ入れた。手榴弾は旧軍が使っていた破片手榴弾のそれではなく、プラズマを発生させる光学兵器だった。高熱源のプラズマが放射され、塹壕にいる兵士達は溶かされ、悲鳴を挙げながら死んでいった。

 

「おいおい、パワーアーマーかよ!」

 

この前から来ていたガルシアはアサルトライフルをパワーアーマーを着たエンクレイヴ兵士に向ける。其処にはBrotherfoot of steelでは使っていない、エンクレイヴが独自に開発し生産したMk.2エンクレイヴ・パワーアーマーだった。黒く塗装されたボディーに光る双眼の光学機器。持っていたレーザーライフルはウェイストランドでも見掛ける物だが、品質は桁違いだった。

 

ガルシアはフルオートで5.56mm徹甲弾を発射する。胸や腹に当たった銃弾はパワーアーマーの装甲を貫通するが、エンクレイヴ兵士はそのままライフルをガルシアに向けて放った。

 

「ガルシア!」

 

恋人であるミーナはその光景を目撃する。レーザーはガルシアの肩に直撃し貫通する。俺は持っていたアサルトライフルをエンクレイヴ兵の頭部に狙いをつけて引き金を引いた。放たれた徹甲弾は兵士の顔を貫通し、光学機器は木っ端微塵に吹き飛ぶ。身体を動かす脳髄は破壊され、兵士は重力に従って倒れた。

 

「ガルシアが負傷!記念館に連れていけ!」

 

「陣地が持たない!早く後退を!」

 

塹壕にはミサイルと迫撃砲が落とされ、機関銃陣地の殆どが破壊された。敵は装甲車をもう一台投入したらしく、随伴歩兵と共に陣地に接近しつつあった。記念館のエントランスに近づきつつあり、遮蔽物のコンクリートの塊に身を隠す。

 

「ウェインはそこの地雷ボックスから地雷を幾つかばらまいてくれ。プラズマ地雷とかいろいろ有るはずだ。負傷者を集めて記念館に退却。非戦闘員が避難完了するまでエントランスで持ちこたえるぞ」

 

「おいおい、俺たちが持ちこたえるのか。さっさと逃げちまおうぜ」

 

誰かがそんなことを言い始める。最近来たばかりの傭兵なようだが、逃げたくなるのも無理はない。

 

「なら逃げればいい。だが、逃げて奴らが見逃しておくと思うか?多分お前のことを追い回した末に八つ裂きにするはずだ。死にたければ勝手にしろ、生き残りたかったら俺の指示に従ってくれ。俺だって仲間の死を見たくない!」

 

それは本心だった。例え雇い主と雇われた兵士という関係であっても、この何ヶ月間は誰も死なずにここまでやってきていた。同じ釜の飯を食った仲であるし、雇用主と雇われというような関係ではない。正規軍の兵士達のように、後ろを任せられるような関係になった。言うなれば戦友である。友を見殺しになんて出来るわけがなかった。

 

「何人死んだ?」

 

「ステファンとヴィンセントだ。あと、この前入ってきたラノスの傭兵仲間も」

 

最近になって、顧客の知り合いに小グループの傭兵チームを率いていた人物がいたらしく、3日くらい前にこちらに引き入れた。しかし、彼らが来る前のメンバーはウェイストランドの平均的な傭兵と比べても練度が高く、善人だったのだろう。ラノスと呼ばれる傭兵とその仲間はウェイストランドの典型的な柄の悪い傭兵だった。彼らの平均報酬は60と満たないが、数で任務を強引に完了させている感じがあった。数任せの戦術はエンクレイヴの攻撃になす術もなく散っていった。

 

ステファンとヴィンセントは店を始めてからと言うもの、かなりの常連だった。つい、数時間前まで朝飯を食って笑い合っていた仲であった人がこの世にはもう居ないことを考えると、憎しみと悲しみがこみ上げてくる。

 

「リーダーのラノスは?」

 

「MIA(行方不明)だ」

 

仲間を盾にして逃げたのか、それとも仲間と共に蜂の巣になったのかもしれない。どちらにせよ、かなりの人数が行方不明になっている。戦死者はもっと増えることだろう。

 

「しゃあない・・・・。全員中に入れ!後退だ!」

 

ウェインに地雷を撒くよう指示し、コンクリートに爆薬を設置した。エンクレイヴの兵士が来たら爆発を起こさせるつもりだった。

 

「おい、ユウキ!爆薬を幾つかくれ!」

 

既に頬がパックリと開き、煤と血でコンバットアーマーを汚したジムは走ってきた。

 

「何をする?!」

 

「彼処の建設途中の櫓を爆薬で破壊して、扉を塞ぐんだ!」

 

記念館周辺には櫓が4つあり、正面入口とエントランスに一つ、川に面したところに一つ、そして完成間近の櫓が記念館入口のすぐ近くに建設してあった。その柱を破壊して記念館の扉を塞いで、エンクレイヴの進行を遅らせようと考えたようだ。記念館に篭城しようとも、いつかは突破されてしまう。それよりも突入されるのを遅らせれば、なんとかなるはずだった。俺はバックパックからC4爆薬を幾つか渡す。

 

「よし、これで」

 

「頼んだ!早く戻って来い」

 

近づこうとするエンクレイヴ兵の頭に徹甲弾で撃ち殺し、腰に取り付けたプラズマグレネードを投げる。撃たれた兵士を助けようとした兵士もろとも爆発に巻き込まれ、プラズマ粘液に変化する。

 

「そこの機関銃手!戻れ!」

 

少し前にいた機関銃を撃っていた女の傭兵を叫ぶが、全く聞こえず近づいてくるパワーアーマーに掃射を加えていた。俺は敵の弾に当たらないよう、遮蔽物に隠れつつも穴を掘って土嚢で固めた機関銃陣地にスライディングして中に入った。

 

「記念館に後退する!早く行け!」

 

「でも、敵が!」

 

その会話の間に数発のレーザーが頭上を掠めていく。持っていた破片手榴弾を投げ爆発する。しかし、威力不足なのかパワーアーマーを着るエンクレイヴ兵に決定打を与えることはできない。アサルトライフルで牽制射撃を加え、重機関銃に地雷にC4を取り付けた爆薬増量タイプを設置して、腰に装備した発煙手榴弾を投げ込んだ。

 

「これで敵の視界を遮る。その間に向こうの扉に撤退する。」

 

発煙手榴弾によって次第に赤い煙で周囲が消えていき、敵の位置も敵から見える自分たちの姿も隠れることが出来た。アサルトライフルの弾倉を交換して叫ぶ。

 

「今だ!GO!GO!GO!」

 

煙で見えないものの、アサルトライフルを腰だめにしてフルオートで撃ちまくる。傭兵は入口に走り、もう一回手榴弾を投げ込み、入り口まで走る。あと十歩、アサルトライフルは途中でレーザーが命中してしまい、既に捨てた。両手まで動かして入り口まで全力疾走する。

 

「ヘリからのミサイルだ!伏せろぉ!!」

 

誰かの叫び声がして、後ろを見る。こちらに機体を向け、主翼に装備されたミサイルポットからミサイルを発射するペルチバードの姿だった。

 

狙いはこの俺だろう。急いで遮蔽物を探し其処に飛び込む。飛び込んだ瞬間、先程まで走っていた場所にミサイルが着弾し、金属片と土砂を散らせた。爆発の衝撃で視界がぼやけ、耳鳴りが酷く、周囲の音が聞こえない。

 

「あ・・・・b!!!!」

 

女性の苦痛に耐える叫び声が聞こえるが、朧気で聞こえない。そこジムらしき人物走り寄ってその女性の両脇を掴んで引きずっていく。俺は伏せの状態でホルスターから10mmピストルを引き抜いて、エンクレイヴ兵を撃つ。小口径の銃弾はパワーアーマーの装甲を弾き、来ている兵士へ貫通しない。撃たれたことに気が付いた兵士はプラズマライフルを俺に向けた。

 

シャルがレイダーの男をプラズマライフルで撃ち殺した光景がフラッシュバックする。シャルが放ったプラズマはレイダーの胸に直撃し、着ていたものを溶かし、肉まで溶かした。男はそのままショック死したが、シャルは無惨な殺し方に元々抵抗を覚えていた。貰ったプラズマライフルはそれ以来使っていない。

 

ああ、俺って死ぬのか。

 

フラッシュバックした光景が自分に振り掛かる。対プラズマ弾や光学兵器を想定したパワーアーマーなら未だしも、着ていたのはただプレートキャリア。光学兵器など貫通してしまう。

 

そう思い、死にたくないと体をのけ反ろうとした瞬間だった。

 

スナイパーライフルの銃声が聞こえ、エンクレイヴ兵の頭部に命中し、ドスンという大きな音と共に崩れ落ちる。撃ったのはおれを見つけたウェインだった。

 

「これは貸しだからな!あとで女を紹介しやがれ!」

 

「・・・すまん!」

 

肩を担がれ、急いで記念館の入り口に急ぐ。最後に俺とウェインが入りハッチが閉まるところを見届ける。其処には破壊された塹壕と機関銃陣地、途中で倒れた仲間の傭兵。すべては破壊され、黒く塗ったパワーアーマー着る兵士が闊歩する。扉は閉め出され、ジムに起爆装置を渡される。それは櫓や他の陣地に仕掛けたC4爆薬のスイッチだ。

 

「起爆する。皆伏せろ!」

 

通路の奥に避難し展示エリアの曲がり角で体を隠し、起爆装置の安全装置を外して起爆ボタンを押す。外で爆発音が響き、施設が軽く揺れる。そして、櫓が崩れる音を聞いて、誰もが成功したと溜め息を吐いた。

 

 

「ウェインは負傷者と共に避難経路の避難場所まで後退。ジムは地下に避難している非戦闘員を誘導してくれ。残りは入り口に地雷を設置して侵入されるのを防いでくれ」

 

「おいおい、俺達は捨て駒じゃないんだぜ」

 

「分かっている。彼処に補給所があるが、好きなの持ってけ。幾らか少なくなっているが、それでいいだろ?」

 

指差した先にはプロテクトロンの管理する補給所がある。緊急事態の時、保安体制は解除されて自由に武器弾薬が使用可能になっている。それにさっきの防衛戦でかなり消耗している。弾薬の補給は必要だろう。

 

避難を開始し、非戦闘員と負傷者を誘導する班と侵入に対処する班に別れて行動を開始する。エンクレイヴはすぐにでも突入してくるだろう。来る前に避難経路からBOSの管理するペンタゴンへ急がなければならない。

 

避難を開始し、地下の入り口から研究者や日雇いの技術者まで怯える様子で避難を行う。この前、避難訓練もどきをやって彼らから不評を買った。なぜ、こんなことをやるのか?自信がないのかと。備えあれば憂いなし。と言い聞かせて彼らも嫌々ながら参加したが、まさか実践することになるとは夢にも思わない。すると、その避難している人間に計画の主要メンバーであるジェームズやDr.リーがいない。そして、シャルの姿も居なかった。

 

「ジェームズやシャル、Dr.リーは?」

 

「さっき、他の傭兵と一緒に浄化チャンバーの方へいったぞ」

 

白衣を着た科学者の一人が言うには、傭兵と少し喋ったあと「持っていかなきゃならないものがある」とDr.リーとシャル、ジェームズは傭兵を連れて避難待機場所である地下からチャンバーへと移動したらしい。

 

「そうそう、見知らぬ柄の悪い傭兵もいたぜ」

 

それは多分行方不明のラノスだろう。自分の持ち場を離れるなんて契約違反も甚だしい。しかも、「も」ということは生き残った部下と何をやっているのか。

 

「ジム、俺はチャンバーの方に行っているから後は頼んだ。」

 

「おいおい、指揮官不在でどうするつもりだよ」

 

「ちょっとジェームズさんを迎えに行くから避難場所で待機してくれ。3分待っても来なかったら、直ぐにペンタゴンまで避難してくれ」

 

「わかった。だが念の為に・・・・、ドノバン!ユウキとその家族の護衛頼む」

 

「わかった、ユウキ行くぞ」

 

口ひげを少し生やした傭兵のドノバンは中国軍アサルトライフルを携え、行く準備は出来ていた。

 

「負傷者と非戦闘員が室内から退去したら、直ぐに傭兵を撤退させろ。彼らはペンタゴンに着いたら、自由だと伝えてくれ」

 

「・・・・わかった。早く戻って来い」

 

「ああ」

 

いつ、突入してくるか分からないため、補給所で自分の使う武器だけpip-boyに入れていたのは幸運だった。SCAR-Hに徹甲弾を入れた弾倉を装填し、ドノバンと共にチャンバーの方へ走っていく。

 

しかし、いつまでたってもエンクレイヴは突入する気配すら見せない。中にいる研究員を生け捕りにするためなのだろう。

 

避難する科学者や労働者の列を抜けてジェファーソン像を包むチャンバーのある部屋の前に到着し、扉を開ける。そこはいつもどおり、機械的なゴウンゴウンと音を立てていて、チャンバーの中にある濁った水が見えていた。

 

「ジェームズさん!早く逃げてください!」

 

扉を開き、チャンバーの前に来た俺は叫ぶ。しかし、ここから見てもあの三人の姿は確認できない。

 

「おい、貴様!何を!」

 

後ろから聞こえるドノバンの怒鳴り声を聞いて、銃を構えて後ろを振り向く。そこには膝を撃ち抜かれたドノバンと行方不明になっていたラノスが44口径マグナムを構えて立っていたからだ。

 

「野郎ぅ!」

 

ラノスにSCARを向けて引き金を向けようとするが、横から伸ばされた腕がライフルを掴み射線がそれて壁に弾痕を残す。伸ばしてきたのは黒い装甲のパワーアーマーを着たエンクレイヴ兵だった。先に電気ショックを取り付けたスタンロットを俺に押し付けようとするが、スタンロットを避けて両手でパワーアーマーの頭をもち、あらぬ方向へ無理やり回す。ゴキッ!っという鈍い音と共に兵士は倒れる。チャンバーの階段から降りてくるパワーアーマーを着た兵士がレーザーライフルを構えて降りてくるが、SCARを構えて引き金を引いて頭に銃弾を叩き込んだ。

 

「シャル!」

 

そう叫び、チャンバーの所へ走ろうとするが、脇から来る人影が見え、瞬時にそれに引き金を引いた。弾は人影に当たることなく、振り下ろされたスタンロットをSCARで受け止める。

 

「・・・な、なんで!」

 

そこには告白をしたアリシアがスタンロットを振り下ろしていた。

 

「すまない、ユウキ」

 

そう言い残すと、一瞬のうちにSCARは弾かれて腹にスタンロットが当てられ筋肉が弛緩するほどの電流が体に流され、声にならない悲鳴を上げた。

 

なんで、アリシアに殴られたんだ?

 

どうして、エンクレイヴと共にここにいるんだ?

 

アリシアはエンクレイヴ・・・・・?

 

 

 

 

 

 




次回は多分二月でしょうか?

等々、エンクレイヴの登場!

仲間の裏切り!

主人公はこの試練に耐えられるか!?


これから原作とは違った展開が始まります(前からか)


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