fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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皆様方、お待たせしました。

前話より少し短めです。


はじめはアリシアの語りです。では・・・・どうぞ!












二十七話 死別

私は2255年、10月11日に生を受けた。周囲には私はニューヨークで生まれたと嘘をついているが、本当は違う。

 

 

戦前の極右政治家や軍人、軍需産業などを中心とした影の行政機関。アメリカの影で暗躍していたエンクレイヴという組織で私は育った。父は基地司令、母は数少ない民間人として。二人とも穏和な性格で、二人は私を科学者にしようとしていた。私にはその才覚は無かったが、家族の愛を一心に受けていた。あの時までは・・・・。

 

 

私が幼少期に入り、物分かりが着く頃になると組織も変わり始めていた。既に私が生まれる時にはエンクレイヴの首脳陣は戦死しており、東海岸側にいる私達と西海岸にいる司令部との連絡が取れなくなっていた。父は基地を解放し、地元の人々を救済しようとしていた。エンクレイヴの方針とは全く異なるが、部隊の殆んどが父に賛同した。元々、西と東では地理的要因はもとより、思想の違いすらあった。

 

東海岸に展開中のエンクレイヴは全て軍人であり、政治家などの行政を司る役人は全て西海岸に位置していた。更に、左遷された者は東に飛ばされることがあり、東に展開する兵達は上層部に不満があった。東海岸のエンクレイヴは時が立つにつれてエンクレイヴでは無くなっていった。

 

しかし、米軍極秘シェルターの一つから緊急信号が発信された。そのシェルターの名前は『レイヴンロック』と呼ばれる。核戦争後のアメリカを再建するために、行政や経済、あらゆる情報を保管していくデータベースがある他、各生産設備や工場、研究施設が作られた最重要施設だった。エンクレイヴのオイル基地司令部が失われて以後、兵員の配置が行われなかった施設であるものの、中の者が信号を発信したらしかった。

 

その信号を発信した人物は「ジョン・ヘンリー・エデン」。自身をエンクレイヴの指導者であると宣言し、ポセイドンオイル基地を脱出した高級官僚の一人であると言った。彼の全軍集合命令によって、各基地の司令などがレイヴンロックに集結した。そこには西海岸で生き残った部隊も参加し、老年のオータムシニア技術少将と副官で息子のオータム中佐も参加した。

 

東西のエンクレイヴは考え方がまるで違い、会議は辛辣を極め、元々上層部に不満を持っていた東海岸の将官は「国家反逆罪」の汚名を着せられ、銃殺刑に処せられた。まるで共産主義国の粛清の如く。指揮官の首はすげ替えられ、選民思想に染まった将官が配置される。

 

私の住む基地に来た将官は過去にカリフォルニアで生存していたvaultの住民をミュータントに変えた男で、基地内では既に反乱間近だった。私と母はその基地からレイヴンロックに移送され、半ば人質としての生活を余儀なくされた。基地の隊員達は基地司令であった父に忠義を尽くしているため、その母子を人質にすれば反乱しないと思ったのだろう。

 

しかし、そう簡単に事が進む事はなかった。上層部の思惑通りにはいかず、基地は武装蜂起し、基地司令を射殺するとエンクレイヴからの離脱を宣言。基地の兵器などの物資と共に行方を眩ました。残された私と母は存在価値のない者となった。母と私は離れ離れになり、私はエンクレイヴが近年作り上げた組織へと強制的に入らされた。その組織の情報は情報局の局員と参謀本部の数名、オータム少将、そして大統領の極一部の高級官僚のみに限られていた。

 

その組織の任務はウェイストランドに点在する集落や武装集団についての情報などを収拾し、計画中であるウェイストランド再入植計画の候補地を選定する事だった。情報収集の他にも破壊工作や暗殺任務などが与えられ、全てにおいて完璧を追求する。戦前の諜報組織をモデルとしたその組織の訓練は熾烈な物だった。戦前の精鋭部隊でさえこんな訓練は行わない。当時、15の私は脱落の危険があったものの何とか訓練を終えることが出来た。

 

すべては離れ離れになった母と再会するためだった。私が良い成績を残せば母は解放されて無事に二人で過ごせる。私は自分の身分を偽ってウェイストランド中を探索した。

 

Brotherfoot of steelや分派のアウトキャスト。傭兵集団として最大の勢力を誇るタロンカンパニーなどを調査し、テンペニータワーやメガトン、カンタベリーコモンズなどにも赴いた。只の傭兵として行商人の護衛をしながら調査した。エンクレイヴに忠誠を仕えれば母と共に暮らせる。アメリカへの忠誠はあったが、母さえいればいい。

 

だが、私に運命の女神は微笑んでくれなかった。

 

流行り病によって母が死んだ。エンクレイヴの医療であっても治りはしなかった。もしくは反逆者の妻に付ける薬は無かったのかもしれない。どちらにしろ、私が戦う理由は無くなってしまった。

 

母と父は死んでいき、私は一人になった。そして、雇っていた商人は余り通らない道を選び、スーパーミュータントの待ち伏せにあった。仲間は意図も容易く四肢は千切れ、商人の頭は捻り潰された。

 

唯一生き残った私はミュータントに拘束され、引きずり回された。いつ食われるか分からない恐怖に怯えて、足に取り付けた32口径ピストルを使えないまま、手を針金で固定されていた。力尽き倒れたところで服を千切られ、死を覚悟した。いや・・・覚悟しきれなかった。最後まで生きたいと願ったのだ。母が死んだと巡回していたアイボットから母の死を教えてもらってから、私は死のうかと悩んだ。家族と最後まで一緒に居られなかったから、母の元に逝けばとホルスターから銃を手に取った。しかし、いつまで経っても引くことが出来なかった。まだ、死にたくないと思った。母の元に行きたい気もあるが、生きたいと願った。

 

その願いだけは神に訊いて貰えたのかもしれない。

 

近くにいたスーパーミュータントはスナイパーライフルによって射ぬかれた。私にとって彼は命の恩人だった。ここらでは珍しい日系らしく、もう一人の少女と共にVaultから少女の父親を探しに来たと説明された。しかし、彼はよく私を殺さなかったと感心してしまう部分がある。それともお人好し過ぎるのか。

 

助けてもらった直後、起きたのはリベットシティーの中にある医務室だった。そこは戦前に軍医が使っていた場所でもあるが、私にとってはあまりよい場所とは思えなかった。ユウキには、ミュータントを製造する悪の組織ではないかと錯乱していたと説明したが、大体の所あっている。ミュータントではないが、一度エンクレイヴの任務で我々と同様の科学技術を誇る『連邦』の施設に侵入したときに一度捕まってしまった事がある。五体満足で無事だったが、あの時に部屋に響いた同室の捕虜の悲痛の叫びや気を狂わされた男の雄叫びが未だに耳に残る。起きたとき、その時の事がフラッシュバックし、その場にいた町医者を気絶させてしまった。直ぐに、正気に戻ったが、その直後に助けた本人が来るとは思わなかった。その時助けて貰ったことが分からなかった私は彼を『無力化』するべく、動き出した。

 

ユウキの動きは・・・訓練された動きであったものの、実戦には程遠い。直ぐに勝敗は決まる筈であった。しかし、予想外の抵抗にあった。ユウキは既に絶たれている柔道の技術を使い、私を投げた。エンクレイヴに格闘を主とする教官は一人いたが、柔道という技術は既に廃れているため、しっかりとは教えてくれなかった。しかし、彼は爪が甘く格闘戦はやったことが無いのか、直ぐに体勢を整えて彼の首を押さえた。殺すつもりは無かったが、気絶させておけば逃げる時間は稼げた。しかし、彼の恋人であるシャルロットに銃を向けられたことで私の思惑は潰えた。その地区を警備していたセキュリティーに連行されて、独房に入れられた。

 

 

リベットシティーの牢獄は簡単だった。色仕掛けで警備員を誘惑し、近付いた所で首を絞めて気絶させる。身ぐるみを剥がして、服装を頂戴する。黒のコンバットアーマーのそれを着込み成り済まして武器庫で使える物を盗んでリベットシティーから逃げる。後は、気の向くままに旅でもしようかと思っていた。実際、組織の中では行方不明になった諜報員が監視の目を逃れてウェイストランドの生活に溶け込んでいる者すらいる。

 

エンクレイヴは現在表だった活動をしていない。人員が脱走したとしても、情報局のエージェントが脱走兵を殺す。しかし、彼らの行動を知り尽くす私ならそのエージェントから逃げるのは容易である。私は自分が生まれる前にエンクレイヴが敗退した西海岸まで逃げることも考えた。

 

しかし、ジェファーソン記念館に歩いていく助けてくれた二人を見つけてしまった。何時もなら私は彼らのことを無視してさっさと逃避行をする筈だった。スナイパーライフルのスコープから覗く彼らの笑みを見て思い出してしまった。嘗て私が一緒にいた基地の皆の笑み。父や母が笑い合い、平和な一時。。

 

二人はジェファーソン記念館のミュータントを一掃する為に、レイダーを囮にしてミニ・ニュークを爆発させたりした。さらにはヌカ・ランチャーを迫撃砲代わりにするなど、突拍子もない事をしていく。それは任務で過ごしてきたウェイストランド人とは少し違った行動だった。

 

私の足はそのままジェファーソン記念館へと動き、携えたスナイパーライフルに弾倉を入れた。今までの私ならここで見ない振りをして帰る筈だ。だが、妙な胸騒ぎと気掛かりが私をそこへと導いた。

 

ジェファーソン記念館へは数少ない排気ダクトを通り抜け、道中出会うスーパーミュータントを殺して内部を探索した。内部は大規模な浄水プラントであり、何万ガロンもの水を綺麗な水へと変えることが可能だ。しかし、フィルターを通して行うタイプの物が多く、フィルターを製造する設備がないこの地では限界がある。

 

地下の階層を探索すると、一体のスーパーミュータントが上の上層階へと行こうとしていた。大分殺気だっており、正面からの攻撃は危険と判断して私は咄嗟に天井の換気ダクトへ身を寄せる。上から聞こえる銃声とミュータントの叫び声はあの二人が戦っている音なのだろう。ダクトから降り、二人の場所へ移動する。丁度、目に入ったのは殺されそうになるユウキと泣き叫ぶシャルロット。大抵は二人が死んだ後でミュータントを始末して物資を回収するのが手なのだろう。だが、ミュータントが振り上げるスーパースレッジを見ると、幼少時代の記憶がフラッシュバックされる。母と父、そして微笑みかける父の部下。あの二人が死んだら二度と戻ってこない。

 

携えたライフルを構え、引き金を引いてミュータントの脳髄を破壊する。

 

その後、私はユウキに助けて貰ったことを聞き、曲がりなりにも恩返しをと思った。「恩には恩で報いろ」人らしい生活をするためにはして貰ったことにはそれ相応の恩返しをしろと亡き父に言われたからだ。父なりの生き方でもあったのだろう。ウェイストランドの荒廃を見て、彼なりの考えがあったのかもしれない。

 

二人と旅をしていると、幼い頃の家族を思い出す。絶えない笑みと言うべきか、こんな荒廃した世界でなぜ楽しく過ごせるのか。私は不思議でならなかった。メガトンに着くと、ユウキが言っていた通り、街の中心に武器専門店を構えていて、大盛況の様子だった。

 

店内は私の知らない武器の数々。昔軍が使用していたライフルも彼の独創的な改造方法で周辺の傭兵からかなりのリピーターが存在していた。それは、戦前のガンスミス(銃器職人)と比べても大差ないレベルだろう。店は弟子なのか養子なのか分からないブライアンという少年を店番にしていた。彼はMr.ガッツィー型ロボットの助けも借りて、店番をしており、遠征しがちのユウキとシャルの代わりに店の運営もやっていた。それでも、子供には限界がある。周辺で活動する仲の良い傭兵や雑貨店を営むモイラも応援に来ることになっていた。

 

自分の子供でもない彼をどうして育てるのか。私は疑問に思いユウキに尋ねた。最初は、罪滅ぼしのようなものと言い、彼の親を殺したのかと警戒した。だが、私の勘違いだった。ブライアンはユウキに助けを求め、炎を吹くジャイアントアントを撃退したが、彼の父は既に亡くなっていた。ユウキは自分が助けられなかった事に力不足と責任を感じて、引き取ることにしたらしい。さらに、ゴーストタウンとなった街に少年一人にすることは辛いと思ったらしく、メガトンの家に住まわせて彼に銃の専門知識を教えるまでに至った。

 

ただのウェイストランド人はそもそも「助けを求める」ことはない。求められたとしても、助けようとはしないのだ。血のつながりや友人などは助けるだろう。だが、赤の他人を助けるなんて普通はあり得ない。私はエンクレイヴの任務でウェイストランドに出たが、土地も加えて人の心も荒廃していた。それを見てどうやって人類の復興が出来るのかと自問してしまうほどだ。

 

だが、ユウキはウェイストランド人が行わない、助ける行為を行った。しかも、よくあるような不幸な事故を自身の力不足という結論づけることなどない。さらに、助けたブライアンに衣食住を用意し、専門知識を授けるなど虫が良すぎるといっていい。

 

Vault暮らしだからだろうか?

 

いや、それも要因の一つだが、ユウキの性格がそう言った物なのだろう。正義感が強く、善と悪の見分けが付き、そしてお人好しだ。

 

今にして思えば、その時のユウキが話した事で惚れていたのかも知れない。それか、ミュータントに殺される瞬間に見たあいつの顔を見たためか。どちらにしろ、私が久々に好きという感情を抱いたのは間違いなかった。

 

だが、ユウキには思い人がいた。両者共に惹かれあっているのにくっつくことはない。戦前の恋愛小説のようであった。どうやっても、私がシャルロットになることは出来ない。嫉妬という感情も少しは芽生えた。だが、私のような人間がユウキと結ばれて良いのか?

 

私は何度もエンクレイヴのために関係ない女子供を殺してさえいる。こんな汚れた女に彼は振り向いてくれるのか。振り向いたとして、彼は私と結ばれて本当に幸せになれるのか。

 

どちらが幸せになれるのか。それは火を見るよりも明らかだ。私はユウキが幸せになればそれでいい。酒に酔うユウキの背中を押して、勢いでシャルロットを抱かせようと目論んだ。出だしは少し悪いが、互いが惹かれ合っているのだからどうにかなる。最後にと、ユウキに接吻して、心の中で区切りを付けた。私は見守る側に徹すると・・。

 

 

だが、シャルロットの父。ジェームズを助ける最中、Vaultに設置されたシュミレーションモジュールを起動させて入る必要があった。それは、Dr.スタニラニウスが設計した他に類を見ないシュミレーションの一つであり、エンクレイヴの施設にあったものとは比べものにならない。私とユウキ、そしてシャルロットはあいているVRポットに入り、シュミレーションの中へと意識を飛ばした。

 

博士の作ったシュミレーションはまるで現実と大差ないものだった。だが、内容は非現実的なものだ。嘗てのアメリカ合衆国の住宅地をモデルとしたその場所は、シュミレーションに囚われた当時生きていた住人が暮らしていた。博士は住人に暗示と精密に作られた記憶に従って、彼らはそれを現実と疑わなかった。迷い込んだ私たちも例外ではない。三人には別々の記憶を植え付けられた。アメリカ軍人としての記憶。目を瞑れば今でもその記憶の光景が目に浮かんでくる。その人物の記憶にあった親の顔や高校のボーイフレンド、ウエストポイント(士官学校)で出会った男。それは上塗りされた別の記憶であるものの、それが現実ではないかと思えるほどリアリティのあるものだった。VRポットから解放された私はすぐに設置されたトイレに駆け込んだ。何が現実で何が仮想空間の記憶なのか、そして自分が一体誰なのか。

 

Vaultにいたことや自分の顔を見て、自分の名前と所属。そして父や母を思い浮かべる。しかし、どうしても、どれが自分の記憶か分からなかった。上塗りされた記憶はもしかしたら本物ではないのか。2277年までの記憶は過酷で熾烈なものだ、もしかして、今いるこの世界が仮想現実(ゲーム)だったら?

 

現実と仮想空間。

 

数日経った後も私の頭の中ではこの疑問が蠢いていた。しかし、その疑問は意外な形で結論が出ることになった。

 

 

浄化プロジェクトを完遂させるため、動かせる核動力のトラックに乗り、ジェファーソン記念館に向かっていた。その目と鼻の先にある旧国立図書館前の公道を走行中にそれは起こった。図書館の反対側に位置する建造物の屋上から一発のミサイルが助手席に命中した。普通なら死んでもおかしくない。いや、シャルロットが手術をしている最中に何度も心肺停止に陥った。足の骨は砕かれ、内蔵は抉られた。まさに生きていることが奇跡。そして、五体満足で生きながら得るなど夢のようなことであった。

 

死を体感し、この世界が現実であったことを知り、そしていつ死ぬか分からないと実感した。

 

エンクレイヴから半ば離脱し、数多くの修羅場を越えていてもそれを実感するのは数少ない。死ぬのはやはり嫌だ。だが、何もしないでいるのは更に嫌だ。

 

未練がましい女だろう。

 

既に互いの愛を確かめ合った二人の間に入るのだ。歪な関係になることは百も承知だ。しかし、自分が生きた証や自分が想う人物に自分の思いを伝えないのは辛い。

 

 

私は怪我を押してユウキのいる外に出て、自分の気持ちを伝えようとした。拒絶されても構わない。伝える前に死ぬのは嫌だった。外に出て、私はユウキのいるテントへと向かおうとした。しかし、その時私は外に漂うあるものを見つけてしまった。

 

デゥラフレーム・アイボット計画の量産型である、広域ラジオ放送と偵察カメラ、潜入している工作員の連絡用として使用されるエンクレイヴ・アイボットだった。

 

それは私が追うことを予期して、施設の反対側に移動する。周囲の傭兵はアイボットの事を警戒もせずに通り過ぎていく。それがエンクレイヴの偵察ドローンだとは知らないからだ。外周部のオートタレットが設置された機関銃陣地に移動した私にアイボットは手のひらサイズの紙をプリントする。

 

それは潜入した工作員に対する命令や通達などを行うもので、色ごとに分けられている。赤は緊急度の高い命令、青は通常の命令。そして単なる通達や情報は白い紙だ。母が死んだときは白の紙が渡された。

 

そして今回渡されたのは赤。かなり緊急性かつ重要な任務だ。

 

命令書の差出は情報局ではなく、様々な部署を統率する統合参謀本部直属の命令だった。文章には、ジェファーソン記念館で起こっている事の報告と監視。そして、今後接収する為に必要である敵性部隊の配置の情報を流せという命令だった。

 

今更、エンクレイヴの任務を遂行する気はあまり起きなかった。アメリカへの忠誠は母の死と共に薄れていた。しかし、エンクレイヴの軍事力や科学力はウェイストランド随一だろう。Brotherfoot of steelも其なりの力はあるが、エンクレイヴの方が優れている。もし、私が任務に復帰しなくても、誰かがここをスパイする。そして、強襲部隊がここを襲って制圧するだろう。なら、内通者として私は最小限の被害で押さえられるよう情報を流せば良い。どちらにしろ、エンクレイヴに接収されるのは時間の問題だった。

 

 

 

身体が治った後も私は無気力なままでベットに横たわった。休憩していた技術者からの誘いでカードをする自堕落な生活に浸った。数人の技師は私の身体目当ての不届き者もいた。ユウキのことを想う私にとってそれは不快の何者でもない。

 

そしてユウキは何時ものようにして、私のところへやってきて気に掛けていた。傭兵稼業は身体が資本となるもの、ここで腐る私を何とかして助け出そうとしていた。まだ、歪な関係になるのを拒む気持ちが合ったが、やんわり断ろうとする私に技術者が待ったを掛けたお陰で地下道の掃討をすることになった。

 

武器を手にとり、何時にも増して私は気が重かった。そんな私をユウキは扉を開けようとする間もずっと私を励ましていた。

 

エンクレイヴの潜入者(スリーパー)として任務を行うことに罪悪感を抱き、自身のことを想うユウキの事を直視することも憚られた。記念館の地下のスペースに作った浴場で肌を触れ合わせ、気持ちを伝えた。だが、どうしても罪悪感が拭えない。後ろめたく感じてしまった。既にユウキやシャルを裏切っていた。だが、これが最善の策だった。他に手はない。二人を死なせずに済むのはこれしかないのだ。

 

 

 

「アリシア・・・何でだ!?」

 

ユウキは怒りと驚きに満ちた目を私に向ける。

 

そんな目で見たいで欲しい。

 

 

これしかなかったのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろ手に縛られ、膝を着かされた俺とドノバン。彼は膝を44口径マグナムで撃ち抜かれたため、出血が酷い。早く応急処置しないとまず助からない。しかし、彼を撃ったラノスは無理やり膝を着かせて、苦悶の声を挙げさせていた。

 

「はっ!粗暴なウェイストランド人はこうやって教育する方がお似合いだね」

 

ドノバンが倒れそうになる所を蹴り、無理やりにでも膝立ちさせようとしている。見ているだけでラノスを殺したかった。

 

「やめろ、ラノス。そんなことをして何になる。」

 

スーパーミュータントから助けて、今まで一緒にやって来たアリシアはこれまでの表情は一変して険しいものに変わっていた。彼女の顔を見ている内に、混乱していた頭は収束し、怒りが頭の中に芽生えた。

 

「アリシア・・・何でだ!」

 

叫ぶ俺の事を何もないかのような表情で見る。まるで俺が叫んでいないかのように。

 

「あれは嘘だったのか?俺達が会うのも全て浄化プロジェクトの為だったのか!?」

 

ミュータントから助け、そして俺の事を助けるまで。近づくための口実だったのか。怒りと悲しみ、深い喪失感を得てアリシアを見る。俺の叫び声は全く聞こえないかのようだ。すると、チャンバー付近で男の笑い声が響く。それは浄化プロジェクトに入っていた傭兵や研究者の声ではなく聞き覚えの無い声だ。チャンバーの階段から壮年でゲルマン系の将校が降りてきた。佐官クラスが愛用する米軍のコートに軍帽を被った男は火のついたタバコを片手に近づく。

 

「彼女の名前はアリシア・スタウベルグ少尉。情報局でも指折りの工作員だ。彼女は優秀なスリーパーで、様々な組織の情報を集めていた。つい最近まで連絡が取れなかったがな。」

 

その将校は近づくと、煙草を吸い、気持ちよく口中に煙を立ち上らせる。

 

「君の事は知っている。ユウキ・ゴメス君、ベルチバードを落とすなんて中々だよ。普通の無知なウェイストランド人なら狂乱状態になるところだ。」

 

バカにしたような口振りで、俺とドノバンを見据える。それは、映画で見た昔のドイツ軍将校の雰囲気だ。エンクレイヴのような排他的な組織ならあり得る人物だろう。

 

「君を生きて連れ帰るのも任務の内だ。仕方がないが連れていくしかないな。・・・・それとジェームズ君、あまり待たせ過ぎると娘のフィアンセを傷付けるぞ!」

 

チャンバーに居るらしいジェームズに向けて叫び、階段からは手を縛られたシャルとDr.リーがパワーアーマーを着たエンクレイヴ兵を連れられて降りてきた。

 

すると、付近のスピーカーが作動し、ジェームズの声が響く。

 

<すまない、あともう少し待ってくれ>

 

チャンバーの中で数人の兵士の監視の元でジェームズは設置されたコンソールを動かしていた。

 

「ダグラス中佐、ジェファーソン記念館の周囲は完全に制圧しました。」

 

「よろしい、内部にはどの程度残っている?」

 

「入り口にはまだ多数の民兵が固まっており、侵入は出来ません。我々が通ってきた場所は崩落の危険性があるため使用不可能です」

 

「仕方ない、ここで待機だ。何があってもこの場所は取られるな」

 

「はっ!」

 

背中に通信機を背負った兵士は敬礼する。どうやら、これ以上エンクレイヴの兵士は増えないようだ。外にもいるらしいが、ここにいる兵力の少なさなら何とか打開出来るかもしれない。持っていたSCARは奪われてしまっているが、腰に付けていたコンバットナイフやホルスターに収まった10mmピストルは無事だった。ただ、両手が布製のロープで縛られている事以外だが。電撃のしびれも殆ど無い。これなら、脱出が可能だろう。

 

「・・・・・」

 

ふとドノバンの方をみると、袖からスイッチブレードを取り出し器用にロープを切っていた。横にラノスが煙草を吸っているが気づいていない様子だ。目配せし合い、ドノバンはラノスの持つ44マグナムを奪う手立てを考えていた。俺は近くにいるアリシアの行動を押さえれば何とかなるだろう。それには一瞬の隙を見計らっていかなければならない。

 

だが、アリシアはエンクレイヴの人間だったとして、武器庫やタレットに破壊工作をしなかったのは何故なのか。警備が厳重だったとしても。武器庫やタレットに爆薬の一つや二つ仕掛けてもおかしくはない。それなのに、警備する傭兵部隊の損耗は全てエンクレイヴの強襲部隊による攻撃だけで、破壊工作による損失はなかった。しかも、アリシアならばもっとうまいことやってのけるはずだろう。例えば、目の前に傭兵全員の死体の山が築かれて、科学者や技術者全員が拘束されているはずだ。もしかしたら、アリシアはこの任務をためらっていた?

 

 

「何をしているんだ?ジェームズ君!君の友人や娘、娘のフィアンセが傷ついても構わないのなら話は別だが!?」

 

待つことの出来ないダグラス中佐は苛立ちを声に出して、ホルスターからスライドが磨かれたシルバーモデルの10mmピストルが出される。銃は階段近くに並ばされたDr.リーに向けられた。

 

「ひっ!」

 

Dr.リーは悲鳴を上げ、それに満足したのかダグラス中佐はにやりと口元を歪めた。

 

<あともうちょっとなんだ・・・・。待ってくれ>

 

ここからは見えないものの、チャンバーのコンソールではジェームズさんが操作パネルを操作しているのがスピーカーからでもよく分かった。監視の兵士もいるらしく、チャンバー内を巡回している様子が見受けられた。

 

だが、いつまで経っても機械が作動する様子はない。

 

「ならば、Dr.リーの指が折れても急ぎはしないわけだな?」

 

とうとうダグラス中佐はDr.リーの近くにいた兵士に命令して拘束を解いて腹ばいにさせた。そして両手を広げさせ、彼女の指を軍靴で踏みつぶそうと足を乗せる。彼女は叫び声を上げて避けようとするが、兵士が彼女の背中を押さえて動かそうとはしない。シャルは「やめて!」と叫ぶが、ダグラス中佐は笑いながら、足に力を入れようとしていた。

 

アリシアはこんな奴らの為に戦っているのか?

 

おれは彼女をにらみつける。だが、アリシアの表情は先ほどと違って無表情ではなかった。彼女は限りなく無表情を装っているが、目だけは違った。ダグラスのようなどぶのような腐った目ではなく、闘牛のような怒りを満たした視線。そう、彼女は目の前の暴力に怒っていた。

 

彼女は本当にこれを望んでいたのか。

 

もしかしたら、何かしらの事情があったのではないか?

 

頭の中で疑問が沸く中、ダグラス中佐の堪忍袋は限界らしく、片足を挙げて思いっきりDr.リーの指を折ろうとする。シャルの叫びが部屋の中で響き渡る中、部屋の中央に置かれた浄化プラントからとてつもない轟音が響き渡った。

 

それは爆発物が爆発したような衝撃と腹に響くような轟音、そしてpip-boyのガイガーカウンターが測定した微量の放射線だった。その一瞬の出来事に部屋にいた人全てが中央の浄化設備に目を向けた。

 

これはチャンスだった。

 

まず一番早く動き出したのはドノバンだった。素早くスイッチブレードでロープを切ると、スイッチブレードをラノスの喉に突き刺した。頸動脈を斬られて血が噴き出し返り血を浴びる。そして、ホルスターから44マグナムを抜き取ると、Dr.リーの指を踏もうとしていたダグラスの眉間に向けて引き金を引いた。

 

44マグナム弾はウェイストランドで一番威力の高い拳銃弾の一つだ。それは映画「ダーティーハリー」の主人公ハリー・キャラハン演じるクリント・イーストウッドが使っていた物と同じ弾薬だ。この時のドノバンが使っていた武器もそれだった。まるで犯人に引き金を引くイーストウッドのように素早く狙いを定めて引き金を引くと、檄鉄が44マグナムの撃針に触れて薬室内の火薬が燃焼する。それによって弾頭は発射され、ダグラスの被っていた軍帽を破り頭蓋骨を貫通し、絶命した。続いて横にいた兵士の眼球ごと撃ち抜いた。

 

アリシアはそれを止めるべく、ホルスターから銃を引き抜こうとするが、俺は足に力を入れて彼女にタックルをかます。ちょうど肩が溝に入り、アリシアは苦しく呻いた。

 

「ユウキ、伏せろ!」

 

ドノバンが叫び、俺は身体を床に伏せた。彼の構えていた44マグナムはアリシアを貫いた。しかし、アリシアは撃たれる前に、銃をホルスターから取り出していてドノバンの下腹部に銃弾を放っていた。

 

同時に二人のガンマンは倒れ、俺はラノスの喉に刺さっていたスイッチブレードを器用に後ろ手で引き抜くと、ロープを切って拘束から解放された。スイッチブレードをかなぐり捨ててドノバンの元へ駆け寄った。

 

「ゴホッ!・・・俺のことはいいから、早く二人の元へ行ってやれ」

撃たれた下腹部を押さえながら、吐血するドノバン。俺が応急処置しても助かるかどうかは分からない。立ち上がって拘束されていたDr.リーとシャルのロープを解いてやり、二人の安全を確認する。

 

「小型原子炉のオーバーロードよ。このチャンバーには電力供給に使われているのがあるわ。それを使えば隔壁が閉じて放射能が・・・・まさかそんな!」

 

Dr.リーは説明の最中、驚愕に満ちた表情でチャンバーに走り出す。俺とシャルもチャンバーに走り出した。

 

階段を上がり、操作パネルのあるチャンバーを遮るのは分厚い隔壁だった。近づけば、pip-boyのガイガーカウンターがカリカリと基準値を超える放射線数値を叩きだしていた。隔壁の向こうには床に倒れていたシャルロットの父、ジェームズの姿があった。

 

「お父さん!」

 

「ジェームズ!」

 

二人は叫び、ジェームズは透明な隔壁に手のひらを付ける。

 

「逃げろ・・・!マジソン・・・・シャルロット・・・・」

 

大量の放射線を浴び、顔面が蒼白となったジェームズは今息絶えてもおかしくない。力の限りを振り絞り、隔壁の向こうの俺たちに向かって話した。

 

「ユウキ・・・娘を・・・頼んだ・・・」

 

最後にそう言うと、ジェームズは力尽き倒れた。

 

「父さん!お父さん!!!」

 

 

隔壁を叩き、声を挙げるシャル。それをやめさせようと肩を掴むDr.リー。俺は唖然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 


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