fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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十日間で書き上げました。急ぎでやったので誤字があるかも知れないです。


二十八話 The eagle has landed

 

 

 

 

 

 

「ドノバンしっかりしろ!後もう少しだ!」

 

ドノバンの片腕を俺の肩へと回し、もう片腕はウェインが担いでいる。一応応急処置はしたものの、敵の追撃を避けるためには急いでその場を離れなければならなかった。銃創はアーマーの防弾板がない箇所であったため、濃緑色の戦闘服は流れ出た血液でにじんで汚れていた。

 

巻いた止血帯は滲み、時折脈に指を置いて脈拍を測るが、弱くなっていた。

 

既に先方はペンタゴンに着いたのだろうか?科学者と技術者は傭兵数名の護衛を連れて先を進んでいた。シャルやDr.リーを除くウェインやビルなどの精鋭の傭兵は後方を警戒しつつ、負傷したドノバンを運ぶ。

 

「本当なのか?アリシアが裏切ったってのは?」

 

「・・・・ああ、エンクレイヴの擁する情報機関の工作員だそうだ」

 

ウェインは信じられないような顔をする。だが、当事者だった俺やDr.リー、一緒にいたシャルの表情を見ればそれが事実だと分かるだろう。

 

「まさかな・・・。避難を終えて行こうとしたときに気づいて良かったよ」

 

ウェインが指揮を引き継いで、科学者と技術者の避難をさせていた。既に出入り口は封鎖していて、何とかエンクレイヴが突入する前に科学者達を逃がすことが出来た。最後に地下の脱出路のマンホールにブービートラップを仕掛けようとした時にチャンバーで小型原子炉のオーバーロードが起こった。その音に気がついたウェインのチームはプロジェクトの中枢である浄化チャンバーに急行した。まさに幸運だったと言えるだろう。

 

「まさか、ジェームズのおっさんがな・・・・」

 

「ああ・・・・」

 

おれは心なしか声が半音下がる。生まれたときから可愛がられていた親のような存在だった人物だ。悲しまない訳がない。自分の力のなさや朧気な記憶。自身の前世の記憶でさえ呪ってしまいたい気持ちにさえ思う。

 

実の父親を失い、俯きながら俺の目の前を歩くシャル。彼女の肩を抱き寄せながら歩くdr.リーはまるで母親のようだ。実際、dr.リーはジェームズの事が好きであった。その事を思えば、彼女からすれば娘のようだろう。これからのシャルの行動が気掛かりだった。

 

「ジム、後方を警戒しておいてくれ。奴等は直ぐそこかもしれない。」

 

「分かってる・・・・奴等から頂戴したプラズマライフルで溶かしてやるさ」

 

モヒカン頭のジムはエンクレイヴの兵士から奪ったプラズマライフルを携帯していた。背中には幾つかのライフルが差してあるバックパックもある他、敵の追い剥ぎもしながらここまできたらしい。ウェイストランド様々だろう。

 

すると、地下道に反響するようなパワーアーマーの鈍い足音が後ろから響き渡ってきた。

 

 

「クソっ!奴等だ!」

 

「Dr.リー、シャル!ドノバンを連れて先に行ってくれ。あとで追い付く」

 

「分かった」

 

負傷したドノバンを二人に預け、俺達はこの前修理した地下道のハッチの遮蔽物に身を寄せた。そこは奇遇にもアリシアと共にフェラルグールを掃討した地下道であった。避難経路防衛用に幾ばくかの土嚢と弾薬箱を積み上げており、武器ロッカーの中にはM249分隊支援火器を入れていた。

 

持っていたSCAR-Hに新しく撤甲弾が入った弾倉を装填し、ハンドルを引いて薬室に弾を送り込む。狭い空間で使用するために、ホロサイトを調節して他の武器の作動具合も確かめた。

 

「この戦いが終わったらさ・・・」

 

「ウェイン、それ映画で言う死亡フラグだ。そのあとに『俺結婚する』とか言わないでくれ」

 

「お前みたいなやつに言われたくない。この戦いが終わったら、この銃くれないか?」

 

そうウェインは武器ロッカーから出したM249に弾帯を挟み込む。二脚を広げると、その陣地は限りなく攻撃能力の高いものになる。

 

「ああ、それが欲しいならやるよ。弾を食うけど、その代わりミュータント位なら蜂の巣に出来るよ」

 

「クールな武器だよ、お前の持つ武器は!」

 

ウェインはまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように上機嫌だ。Pip-boyから308口径の入った弾薬箱を出してSCARが使用する空弾倉を幾つか出す。持っていた弾倉の大部分を使ってしまったため、待ち伏せの間に弾倉内に弾丸を詰めていく。Pip-boyに弾丸を自動で弾倉内に詰める作業が出来れば文句はない。しかし、ゴミなどが混入すれば弾詰まりになる危険性すらある。だから、確かめながら弾込めしなければならない。敵が来そうなときにするのもどうかと思うのだが、持っているライフルがこれくらいしかないのだから仕方がない。

 

 

すると、記念館の方から金属が触れあう甲高くも重い足音がトンネル内に響き渡る。ウェインが仕掛けたブービートラップは解除されてしまったのだろう。複数の足音が聞こえ、SCARのセレクターのセーフティーを解除してセミオートにセットした。

 

「合図したら撃て」

 

「了解」

 

「おう、派手にやろうじゃねーか」

 

ウェインはM249のチャージングハンドルを引いて次弾を装填する。ガチャリと言う金属の音が聞こえ、引き金を引けば発射されることを伝える。トンネルの奥ではエンクレイヴの工兵が閉鎖されたマンホールを開けようとしているらしく、切断機の音が響く。ウェインとジムに不意打ちを仕掛けようと提案して、二人は頷いた。

 

 

やがて、エンクレイヴの工兵はマンホールを蓋ごと切断したらしく、蓋がトンネルの通路に転がり落ちる。乾いた音と共に、低い金属の塊がコンクリートと接触する音が響く。続いて幾つもの同じ音が響く。

 

「奴等はこの下水道を使った筈だ。捜索するぞ。第一分隊前進!」

 

「了解!」

 

パワーアーマーのヘルメット越しに話しているのか、声は聞こえずらい。重く低い足音がトンネル内に反響し、心なしか銃のグリップを強く握りしめる。複数の足音が此方に近づき、どっと背中に冷や汗を掻き始めた。戦場では死ほど必然的に存在し、何時発生するか分からない偶発的なものだ。良い方法を思い付いても上手く行くかどうかなんて保証はない。

 

接近してくるような足音を聞き、バックパックから円筒形のあるものを取り出す。それは対象を行動不能に出来る音響手榴弾だった。音を立てないように、ピンを引き抜いてエンクレイヴ兵士へと投げる。足元に転がるそれを見た兵士は「グレネード!」と仲間に警告するが、言い終わる前に炸裂する。

 

強烈な爆音とパワーアーマーのヘルメット越しでも伝わる強烈な閃光によってエンクレイヴ兵士は聴覚と視覚を奪われる。ヘルメットの暗視装置を使っていたのか、強烈な光によって暗視に切り替えていた画面は真っ黒に染まる。

 

「撃てぇ!!」

 

遮蔽物に飛び出し、目の前にいるエンクレイヴ兵の頭を撃ち抜く。ヘルメットを被っていても、装甲が薄いのか撤甲弾は貫通して兵士の脳髄を掻き回す。ジムはエンクレイヴから奪ったプラズマライフルを発射する。プラズマ弾はエンクレイヴ兵士の手先に命中し、装甲が薄い為か青白い炎で溶け、兵士は絶叫しのたうち回る。そして、M249を構えるウェインは雄叫びをあげなから引き金を引いた。ばら蒔かれる5.56mm撤甲弾はエンクレイヴ兵士の四肢を傷つけ、鉄の暴風雨と言うかのように兵士に降り注ぐ。視界を奪われた兵士達は反撃も逃げることも出来ず、ただウェイストランドの洗礼を浴びた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒煙が立ち上る、まだ燻る火に消火器を持つエンクレイヴ兵士が必死に消火作業に入っている。まだ、戦場であった名残はある。戦いに勝った彼らであるが、彼らが纏う雰囲気はまるで敗残兵のそれである。

 

圧倒的物量による勝利。

 

嘗てのアメリカが行ってきた戦争は常にその言葉が付きまとう。戦争はその国の生産力などや技術力に大きく左右される。先程の戦いはそれがおおきい。しかし、何故か敗残兵のような雰囲気を醸し出している。何故ならば、圧倒的優位である筈の彼らの中で死傷した兵士も居るからだ。戦場において勝っても負けても戦死者がいる。しかし、エンクレイヴの兵士達は全員パワーアーマーを装着し、唯一の航空戦力すら所有している。貧弱な武装を施したウェイストランド人を蹂躙し、ジェファーソン記念館を凱旋する。そんな考えが彼らにはあった。だが、現実はそんなことはなかった。

 

対空用の機銃陣地に整備された対空ミサイル。損失はベルチバード二機に重軽傷者20名、死者15名に昇る。しかも、敵を追撃するために一個分隊ほど敵の敗走した避難経路へと派遣した。しかし、連絡が途絶えて十分以上が経っている。圧勝で終わる筈が、貴重な航空戦力の損失と敵の予想以上の練度の高さ、そして装備の充実により攻撃部隊に痛手を与えた。彼らの想像に反した結果はエンクレイヴの兵士達にとって勝利とは言えない有り様だった。

 

すると、瓦礫の退かされたエリアに突風が吹き荒れ、土埃が立つ。それは自然の風ではない。八枚のプロペラが高速回転しているダウンウォッシュの強烈な強風だった。ティルトローターの独特な形状を持つエンクレイヴ所属のベルチバードはタイヤ付きの三脚を広げて着陸する。ハッチが開くと、ラテン系の白人が現れた。米軍上級将校のコートを着ていて、襟や肩の階級章には星が3つ。その人物の階級は大佐。名前はアウグストゥス・オータム大佐。統合参謀本部を束ねる大統領の右腕である。

 

本来ならば、参謀本部の中核は将官以上の人物であるが、主な実働部隊を率いている為か、部下や上官などの信頼は高く、准将昇進も遠くない未来だと言われる。有能な指揮官であり、父のオータム技術少将と共にアメリカ東海岸に来た西海岸部隊の一員であった。現在のエンクレイヴは上層部の七割強が西海岸、残りが東海岸である。実働部隊の主力も東海岸の部隊が主力であり、東と西の対立は激しい。しかし、その両勢力から支持されているのがオータム大佐であろうか。

 

元々、彼は西海岸出身であるものの、選民思想に染まっておらず。また、東海岸のように人々に救済を画策することも良いこととは思わない。そういった中性的な立場にある人物だった。

 

 

オータム大佐がヘリを降りると、周囲の兵士は敬礼し、オータム大佐は返礼する。後ろからは秘書官とおぼしき女性士官が後ろからついていく。そこへパワーアーマーを着て士官の軍帽を被る男が近づいた。

 

「第2空中騎兵団第1中隊のガンスキー大尉です。ご案内致します」

 

ガンスキー大尉のパワーアーマーは傷だらけで、撤甲弾で穴の空いている箇所もある他、肩のガードが千切れ飛んでいた。彼が前線で指揮をしたこと、そしてかなりの激戦であったことを物語っていた。

 

「ああ、それよりも君の上司のダグラス中佐はどうした?」

 

「ジェファーソン記念館の接収時に戦死しました。」

 

その報告にオータム大佐は目を丸くする。普通、指揮官と言うものは後方で部下に命令を行わなければならない。なのに、敵が占領しているエリアに部下と共に入るなど大佐は正気を疑った。

 

「敵はかなりの相手だったようだな」

 

「空からの攻撃も想定していたようです。幾つか対空用の重機関銃と誘導装置が生きているミサイルランチャーを使用していました。ご案内致します」

 

上空からのミサイル攻撃をしたような地面が抉れた跡。土嚢と破壊された機関銃陣地。コンバットアーマーを着た傭兵の亡骸など、多くあった。

 

「あれは監視塔か?」

 

「ええ、地上からの攻撃を想定して櫓を作ったようです。見事な防衛陣地ですよ」

 

ガンスキーは瓦礫を撤去した正面玄関に進む。そこの近くにはエンクレイヴの衛生兵でも救えなかった兵士達の亡骸が並べられ、合成布を被せられている。近くには膝を付いて泣いている若い兵士もおり、嘗て西海岸の戦いの資料を思い出す。

 

エンクレイヴの実働部隊の殆んどは実戦を経験していない兵士達だった。ポセイドンオイル基地陥落までの西海岸全域の部隊は精鋭であった。しかし、既に40年以上も経っており、現在の実働部隊は若く大規模な作戦を参加していない。基地の哨戒任務でレイダーなどと戦っても、B.O.S.やユウキ達のような装備の充実した傭兵部隊とは戦ったことがなかった。

 

オータムは今回の戦いによってウェイストランド再入植計画を考えなければならないと思い至った。

 

ガンスキー大尉は大佐一行を案内し、記念館内部へと侵入した。そこはブービートラップの残骸が残されており、突破された場合を想定してか、固定機関銃の足や土嚢が残されていた。さらに奥には破壊されたプロテクトロンの付近に無数の弾薬箱とロッカーが陳列されていた。無造作に開けられたガンロッカーには見たことがない銃が幾つか並べられている。

 

「これは?」

 

「多分、傭兵部隊が残した物資です。しかし、このタイプのアサルトライフルは見たことがありません。その銃の口径と形状も軍のとは異なります」

 

銃の側面には「Model PROJECT 90 Cal 5.7×28 SS190」と書かれており、この世界にはない物である。この世界にはPDW(個人防衛火器)などというジャンルは存在しないし、形状も独特なものだ。

 

「マガジンの形状は12.7mmサブマシンガンにそっくりだな。技術局のスタッカート少佐の元へ送ってやれ。回収した武器弾薬全てだ」

 

「Yes,sir」

 

オータム大佐は内心、今回の戦闘を不本意に感じていた。戦闘をせずに穏便に事を運ばなければならなかったのだが、ダグラス中佐は何を考えたのかミサイルと弾丸で対応した。また、施設を力ずくで接収しても、ここを管理していた技術者や科学者はBOSへと逃走してしまった。エンクレイヴの技術局が擁する科学者チームがいるため大丈夫かも知れないが、1から記念館のそれを作り上げた科学者とエンクレイヴに善戦した傭兵を取り逃がしたことは大きい。

 

一行は浄化施設の中枢であるチャンバーに到着すると、目の前にある惨状が理解できた。

 

大理石の床には所々血痕がついており、情報局の工作員の死体が倒れていた。そして帽子ごと眉間を撃たれたダグラス中佐もチャンバーの格子に背を持たれて死んでいた。

 

「生存者の報告によると、管理している責任者が小型原子炉をオーバーロードさせたらしく、その隙に拘束していた傭兵が行動を起こしたようです。」

 

「生存者?」

 

オータム大佐は訊くと、柱の影から腕を吊るした士官が現れる。士官の軍帽は被っていないが、傷病兵だから許される。怪我をしていない右手で敬礼をした。

 

「情報局、TF42所属のアリシア・スタウベルグ少尉です。」

 

「彼女はここの防衛の指揮に当たっていた人物の動向を監視していました。」

 

オータムは彼女の所属である「TF42」を知っていた。

 

エンクレイヴには幾つかの特殊部隊が存在する。それは機密性が高い任務が多い。つまり、要人の暗殺や組織の壊滅、情報収集である。エンクレイヴはアメリカ発端の地である東海岸に再入植を考えており、その為にはその地域にいる組織や自治体を知ることが重要だった。現地の人間に成り済まし、情報収集する兵士が必要だった。

 

それらに従事するのは軍内部で疎まれる人物である。主にそれはエンクレイヴ内の穏和派に属していた将校の子息が多い。20年前に東と西のエンクレイヴ再編成が行われ、その際に反抗的な穏和派の将校の弾圧を行った。その将校の家族はバラバラになり、子供はTF42の潜入工作員として訓練を受けた。

 

オータムは言わば数少ない穏和派の生き残りである。元々、東海岸生まれの彼であるが、西海岸で戦死したジョンソン大統領の執政に疑問を抱いていた。東の将校と西の数少ない穏和派と共に組織改革をするつもりであった。しかし、ジョン・ヘンリー・エデン大統領によって反乱分子の排除を名の元に粛清を実行した。

 

オータムは巧妙な偽装工作をしたため、組織改革を行おうとしたメンバーとは悟られてはいない。しかし、ほとんどのメンバーは逮捕されて処刑された。そのメンバーの中には、粛清後に武装蜂起してエンクレイヴから離脱した部隊の元司令の姿もあった。元司令はオータムに東海岸の兵士達が持つ忠義や理想を与えた。若輩者だった彼に戦前の政治理念や多くの知識を授けたのが、ウィリアム・スタウベルグ少将。アリシアの父だった。粛清後、家族はレイヴンロックに軟禁され、武装蜂起後は家族を人体実験することが決まっていた。

 

恩師の家族は守りたいと思ったオータムは娘だけでもとTF41の候補者として推薦した。母親は人体実験の検体となったが、娘のアリシアだけは生き延びていた。

 

真実を知ったら彼女はどう思うか?

 

オータムは彼女の顔をみて思う。

 

自分が任務途中に死んだと思っていた母親はずっと前に人体実験で死んだと分かればどうなるだろう。肉親の死を教えれば自殺するだろうと元から使い捨ての駒として扱っていた。情報局の傲慢さを知れば、矛先は情報局とオータムだろう。

 

オータムは小さい頃のアリシアにあったことがあり、その小さい娘が使い捨ての工作員としてエンクレイヴに使えていることに悲しみを覚えていた。そして、死ぬことを仕向けられた彼女が生きており、またエンクレイヴの役に立っている。何と皮肉か。

 

オータムは自分自身を呪いたくなった。助けようとした人物にいつか殺されるかもしれないという感覚。彼女の目は生気の抜けたようなそんな雰囲気があった。

 

「統合参謀本部のオータムだ。君はここの浄化施設を動かしていたチームと一緒に居たらしいが、詳細を教えてくれ」

 

「はい、私はここの浄化プロジェクトの警備をしていました。この施設はお気づきかと思いますが、放射能に汚染された水を浄化する施設です。プロジェクトの最終目標は河川や土壌の放射能を完全浄化する大規模なものです」

 

 

アリシアは抱えていたバックから計画の内容を記した報告書をオータムに手渡した。そこには浄化プロジェクトの目標や施設の構造が描かれていたが、肝心の浄化チャンバーに必要不可欠な放射能を取り除くものが抜けていた。

 

「私は技術者ではないが、この施設は肝心なところが抜けているように感じられるな」

 

「はい、そのため研究主任のジェームズ氏はvault-tecのあるものを探していると言っていました」

 

「あるもの?」

 

オータムはそう言い、近くに横たわっている死体袋に目をやった。そこには着古したvaultスーツを着た壮年の男の死体だった。見るからに体育会系の体つきをしている。オータムは事前情報で知らされていたプロジェクトの責任者であることを悟った。

 

「vault-tecの科学者であるスタニラニウス博士が作り上げた物質を再構築する植民するための機械・・・」

 

「G.E.C.K.か・・・。」

 

オータムは敵が使って戦前のように復興したことを思い出す。旧カリフォルニア州から生まれた民主国家である新カリフォルニア共和国もG.E.C.K.を持っていたvaultを擁していたため、強大化したと言われる。現在はエンクレイヴの技術を吸収して、大きく躍進していて、コロラド川より東の地を征服している軍事集団のシーザーリージョンと対立している。彼らは東海岸まで来てはおらず、シカゴからイリノイに掛けて防御線を敷いている。まだ、そこまでリージョンの手は迫っていないが、兵站や兵器の優劣に置いてもシカゴからDCまでがエンクレイヴが守れる精一杯の領域である。

 

昔と比べれば、エンクレイヴの人手不足は深刻である。エンクレイヴの選民思想などは彼らの誇りでもあり、足かせでもあった。

 

「一つ確認したいのだが、ここを警備していたパトロンと思われる人物・・・ユウキ・ゴメスという青年だが。彼の影響力がどれほどの物か知りたい」

 

パワーアーマーに対抗できる物と言えば、TNTなどの軍用爆薬や徹甲弾などの高性能弾薬だろう。その二つはキャピタルウェイストランドではそうそうお目にかかれる代物ではない。軍用爆薬はもとより徹甲弾は旧軍の軍事施設でしか見つかっておらず、生産設備もそこに限定されている。徹甲弾などの特殊な弾薬はBrotherfoot of steel かタロンカンパニーを除くと殆ど流通していない。組織内の使用に限定されている物が多いため市場に出回っていなかった。そのため、高額で取引されていることが多い。しかし、ジェファーソン記念館で使われていたのは、殆どが徹甲弾やそれを使用した大口径の機関銃だった。ウェイストランドの平均からして高品質な装備と武器。オータムが警戒するのも無理はない。

 

「彼の本職は銃職人(ガンスミス)で傍ら武器職人も兼業しています。彼の武器は他の武器商人と比べて高品質の武器を取り扱っており、徹甲弾なども取り扱っています。彼の家に徹甲弾を製造する設備が置いてあると聞きましたが、不明です。彼の顧客は中堅から腕の立つ傭兵が多く、記念館の警備もその傭兵を雇いました。メガトンを中心とする傭兵には顔が広く、財力は周囲の商人とは桁違いです」

 

ユウキが思っていた以上にキャピタルウエイストランドでの影響力は高まりつつある。武器弾薬の製造により、中堅から腕の立つ傭兵や商人にいたるまでユウキと関わりのある人間は多い。人の良い性格故に求心力があるのも事実である。人が悪ければジェファーソン記念館の警備をやったりはしない。その影響力は西なら旧テンペニータワー、東はリベットシティーなど。彼の財力さえあればそこ近辺の交易ルートを支配することが可能である。それ故に、浄化プロジェクトに参画してからというもの、アリシアを通して監視をしていた。

 

「彼は現在B.O.S.が支配しているペンタゴンに向かっているようだ。まだ我々はB.O.S.と交戦することはあってはならない。無論、B.O.S.は我々の急襲に感づいているだろうが、事態が好転するまで手は出さないだろう」

 

オータム大佐は口元に指を当てて少し考えた後、後ろにいた若い女性秘書官に命令を出した。

 

「では、作戦を続行しよう。フェイズ2に移行する。第一機械化大隊をリベットシティーに差し向け、第二大隊をメガトンに差し向ける。ユウキ・ゴメスなどの人物を指名手配しろ。生かすことが条件だ。メガトンの彼の武器店も接収する」

 

「分かりました。他には?」

 

秘書官の透き通る声にオータムはぴくりと眉を動かす。思い出したかのように彼はアリシアの方を見る。

 

「スタウベルグ少尉は今回の一件で一階級特進だ。これより浄化プロジェクトの重要人物である二人の捜索チームの指揮を執って貰う。」

 

「Yes,sir.」

 

アリシアは敬礼する。彼女はこのままでいれば、佐官戦死の失態の罪を着せられて死ぬ可能性もあった。それよりも、逃走した技術者や責任者の子息と恋人を捕まえる任務をさせれば死ぬことはないだろう。二人の身柄を押さえれば、彼女が死ぬことはない。オータムはそう考え、彼女に命令を下していた。

 

「しかし、その二人を捕まえるのは本当に得策でしょうか?」

 

「君はまだ書類を見ていなかったな」

 

秘書官の疑問を答えるようにして、彼女にオータムは先ほど渡された書類を見せる。

 

「この機械を操作するには三桁の暗証コードが必要になる。しかも、此奴は旧軍の中でも解除がしにくいシステムを組み込んである。不正アクセスは勿論出来ないし、数回やってしまえば、システムもろとも破壊される。これを解除するにはその娘の力が必要だ」

 

「ではその男の方は?抹殺することもいいのでは?」

 

「メガトンのようながらくたの街でこんな見たこともない武器を作れるか?私なら抹殺するより、寝返らせるよう説得したいところだがな」

 

オータムはエンクレイヴの中でも珍しい実力主義の人間である。普通ならここで選民思想によって手早く抹殺を選んでしまうだろうが、組織のいう「汚染された人類」であろうとも有用であるならば上手く取り込もうとするのが彼のやり方だ。

 

「『作戦名:The eagle has landed』か。あの方らしいと言えばあの方らしい。しかし、あの小説の主人公は枢軸のドイツ猟兵部隊ということをわかっているのか」

 

オータムは入ってくる防護服を来た科学者に敬礼し、チャンバーを後にした。チャンバー内の浄化水槽に入っている第三代アメリカ合衆国大統領のトーマス・ジェファーソンの銅像はこの地で起こる戦乱を憂うような表情をしていたと、入ってきたエンクレイヴ科学者は言っていたという。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

ジェファーソン記念館がエンクレイヴに制圧されてから、十四時間が経とうとしていた。既に記念館から昇った黒煙は燻り、沈静化していた。戦闘時に昇っていた太陽も既に落ちて、ウェイストランドは闇に満ちていた。そして、空がゆっくりとオレンジ色に染まっていく。

 

核戦争によって荒廃しても、地球は回り続けて日は昇り続ける。放射能に汚染された地球でもオレンジ色に染まる空は色鮮やかで美しく彩っている。荒廃したこの世界では唯一美しい景色では無かろうか。何世紀経とうともその景色は変わらない。

 

太陽が水平線から姿を出し、徐々に太陽の球体が現れる。日の出の光景はいつの時代を隔てても変わらず美しい。その太陽を背にして、轟音を上げながらキャピタル・ウェイストランド中心へと接近する物体があった。

 

12機のXVB02「ベルチバード」が六機ずつの編隊を組んで、4カ所のカーゴフックで荷物を吊り上げていた。武器を満載したコンテナやウェイストランドでは早々お目に掛かることの出来ない稼働する兵員輸送車(APC)であった。

 

<Delta 1-1より各部隊、統合参謀本部より本作戦の変更があった。現地住民を極力殺傷せずに、作戦区域の治安維持を務めろとのこと。Over>

 

暗号化された軍用無線によってウェイストランドの無線から彼らの声が聞こえることはほぼない。旧軍の軍用無線機なら聞こえるかも知れないが、暗号なども一新されているため、聞こえたとしても機械信号らしき音しか聞こえない。

 

ベルチバードの編隊は二手に分かれると、目標である集落。リベットシティーとメガトンを目指した。

 

<Carrier1-1より、Carrier1全機!目標地点まで3分!荷物を下ろす用意をしろ!>

 

ベルチバード間で相互に無線を行い、運んでいる物をおろす準備を始める。機体のチェックを行っていた副機長は後部に乗っていた兵士達に降下準備をするよう命じた。

 

「降下ぁ準備ぃ!」

 

「よし!おめーら!準備はいいか!」

 

「「「「おう!」」」」

 

兵士達は着ていたパワーアーマーのチェックと携行するライフルにフュージョンセルを装填する。彼らのアーマーは敵の徹甲弾対策で装甲板が増やされていた。元々T51bよりも装甲が薄い現在のエンクレイヴパワーアーマーMk.2はジェファーソン記念館の1件で防御力の増加をするべく、急遽装甲版が付与された。

 

「いいな、作戦通りに行動しろ!俺たちの部隊はリベットシティーの出入り口を固める。内部の勢力は上層部のお偉いさんに任せちまえ」

 

彼らは作戦前に上層部から来た佐官クラスの高級将校と若い女性士官を見ていた。それを思い出してか、ヘルメットを脱いでいた若いアジア系の兵士が叫びだした。

 

「くっそー!なんであいつに似ているんだ!畜生め!」

 

「お!作戦前に別れてと言われてたな。そういや、その士官にそっくりだったな」

 

ヘリのトループシートに座っていた部隊の指揮官は若い兵士が女性に別れを告げられたことを知っていた。それも別れた女性は作戦に参加した女性士官に似ていたというのだ。そんな兵士を周りは笑いを堪えようとしていた。

 

「その女の名前はなんて言うんだ?」

 

「アイリーンですよ!」

 

「戦場じゃ、女々しいと死んじまうぞ!いっそのこと忘れちまえ!」

 

「畜生!fuck !」

 

「Fukin, Eileen!!」

 

「「Yhaaaaa!!」」

 

「ベルチバード航空をご搭乗の皆様にお伝えします。機内では騒がしいことをなさったお客様は容赦なくDC上空をパラシュート無しで降下させますのでご了承下さい」

 

戦場に赴く前のテンションの高さ。仕方がないのかもしれない。機長までが悪のりをしている中、1番機の機体から全機体へ信号が送られた。

 

<Carrier1-1より、Carrier1全機!目標地点まで一分!>

 

「よし!お前らお遊びの時間はここまでだ!野蛮人共に俺たちの力を見せつけるぞ!」

 

「「「「URAAAA!!!!」」」」

 

 

ベルチバードの編隊はポトマック川をなぞりながら、ジェファーソン記念館、リンカーンメモリアルを横目で通り過ぎ、アナコスティア川の合流地点に近い。バザードポイント・パークにあった空母の街、「リベットシティー」に到着した。

 

ヘリのプロペラの音は川にいるミレルークを起こし、リベットシティーの住民を驚かせた。ヘリの編隊はリベットシティーの外と甲板の二手に分かれて、空中で制止する。空き地となった場所にヘリに吊り上げられた兵員輸送車がおろされると、降下用のロープがヘリから降ろされて兵士達はそれにつかまって降下する。リベットシティーの方も飛行甲板であった場所に次々と兵士達は降下していく。その光景をリベットシティーに住む人々は呆気に取られるしかない。船室に繋がる水密扉からはシティーの警備兵と市議会の主要メンバーが顔を出す。全員、エンクレイヴの重装備によって目が恐怖の色に染まっている。

 

すると、飛行甲板で警戒しているエンクレイヴの兵士達の後ろから、ある人物がやってくる。後ろから来る上官の道を空けて、兵士達は周囲に向けていた銃をいったん下ろした。そこにいたのは、佐官服を着用したアフリカ系の将校だった。

 

「私はエンクレイヴのアナベル中佐である。これよりリベットシティーは我々の管理下に入る。」

 

それは一方的な勧告であった。

 

「これは合衆国政府の要請ではなく、大統領令39903号の正式な命令である。直ちにリベットシティーは合衆国政府に自治権を委譲。警備及び民間人の武装解除を求める」

 

冷徹な男の声がリベットシティーの甲板の上で木霊する。こうして、リベットシティーの議会政治はエンクレイヴの襲来によって幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 




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