二十九話 Brotherhood of Steel
「よし、そのまま力を抜いてマニピュレーターが脳の信号を感知する。筋肉はそれに付随していくからゆっくりでいい」
パワーアーマーの訓練教官である歴戦錬磨のパラディン・ガニーは俺が着るパワーアーマーの使い方について説明していた。指導されたとおり、指先に力を込めるようにする。二百年経つ鋼鉄の拳がゆっくりと握られる。限界まで強くすれば、リンゴなどは潰してしまうらしい。パワーアシストは車などの大型物を運ぶことも出来るらしく、ミニガンやガトリングレーザーを軽々と持ち上げられる。
中庭ではBrotherhood of steelの訓練兵が訓練を積んでいた。ある者は仲間と拳をぶつけ合い、またある者は射撃をして腕を磨いていた。
そう、ここはアメリカ合衆国バージニア州アーリントン郡ペンタゴン。六角形の建物であるアメリカの国防を一手に受けていた国防総省だった。嘗ては世界中のありとあらゆる情報がここへまわされ、精査される。それがアメリカの利益に反すれば、軍事行動を起こすこともある。核戦争の決定もここで行われた可能性も高く、キャピタル・ウェイストランドの中でも一番軍事機密の多い場所だろう。しかし、ここにはエルダー・リオンズ傘下のBrotherhood of steelの兵士達が駐屯していた。
大体、パワーアーマーのコツも掴み始めていた。今着ているT49dパワーアーマーは米軍が最初に作ったものの一つだ。パワーアシストや対弾コーティングも成されており、非常に強固な防御力も誇る。動力源はマイクロフュージョンセルが必要であり、次世代のT51bのような排泄物リサイクル処理などの高性能はない。長年の老朽化に伴ってパワーアーマーの装甲は何度も使用したために傷だらけである。渡されたパワーアーマーヘルメットにしてみれば、目の前に展開されるHUDは動いていなかった。ガニーによると、動いているのは希らしい。暗視装置も動いていないのが殆どで、頭についているライトがつけば良い方らしい。そんな整備状況で何とかやっているBOSに感心してしまった。
「だいたい、指導の方は終わったな。支給されたアーマーは自分用に改造するなりして構わんよ。ナイト・ゴメス」
「ありがとうございます、パラディン・ガニー」
階級で呼ばれることに躊躇いを覚えるが、仕方がない。教えられた旧軍式の敬礼をしてその場から離れた。
色々とパワーアーマーに魔改造したい気持ちを押さえつつ、まずは皆のいる居住スペースへ移動する。中庭の一角にある階段を上ったスペースに傭兵や科学者の空間があった。パワーアーマーのヘルメットを腰に取り付け、移動しようとした時だった。
「そこにいたのか、ユウキ君。探しておったのだ」
そこには初老で口ひげを生やしたBOSキャピタル支部のトップである、エルダー・リオンズが立っていた。俺は陸軍式の敬礼を行うが、笑いながら敬礼を止めさせた。
「畏まらなくても良い。今日は少し話そうとおもっての」
老練のリオンズは人の良い笑みを浮かべて、俺の肩に手を置く。
「話・・・ですか?」
「孫娘のように慕っていた椿の息子なのだから、話をきいてみたかったのじゃ。良いかな?」
「ええ、勿論です」
俺はリオンズに催促されて、近くにあったベンチに腰掛ける。腰に掛けてあったヘルメットを膝に乗せて話をし始めた。
「記念館での一件、大変だったの」
「ええ、準備をしていましたが・・・。多くの犠牲が出てしまいました。」
脱出直後、ジェファーソン記念館は完全にアメリカ合衆国政府。エンクレイヴの手に渡った。科学者や技術者は全員無事であったものの、傭兵が40人中12名戦死。14名が重軽傷を負った。脱出路先のBOSの司令部がある旧国防総省に逃げ込み、エルダー・リオンズに救援を求めた。
BOSもエンクレイヴの出現に驚きを隠せなかったらしく、対岸でジェファーソン記念館の戦いを監視していたらしい。Dr.リーは浄化プロジェクトを完全にBOS主導でやることを承諾し、地下の研究室でBOSの研究を手伝っている。他の生き残った傭兵のうち、負傷者はいくらかの治療費と共にBOSの医療チームが治療を施している。完治には一週間ほどかかる見込みである。他は記念館の警備も終了したため、契約金と少しばかりのボーナスを支払って帰らせた。何処にも属さない傭兵に無理強いは出来ない。ただ、友人であるウェインやジム、その他の傭兵は残ってくれることになった。そして俺の場合はエルダー・リオンズの薦めによってBOSに入隊することになった。母親がBOSのナイトであったため、入隊する必要な条件はそろっていた。元々、BOSは他から入隊させないのだが、人員不足のキャピタルではそうはいかない。猫の手も借りたい状況なのに、補充できないのは辛かった。また、人脈や資金、商業に縁のある俺を取り込みたいという事情もあるだろう。リオンズからそう言った大人の事情が感じられたが、それを指摘するのは大人としてどうなのか。どちらにしても、引くに引けないことなので、「行動を制限しない」と言うことを条件に入隊を決意した。こちらとしても、パワーアーマーを着られるので嬉しいことは嬉しいのだが。
問題はシャルであった。父のジェームズが死んでから、要塞のDr.リーの研究室に閉じこもっていた。俺が励ましにいったが、顔色はますます悪くなる一方だった。Dr.リーも仕事の合間に見ているそうだが、解決の見込みはない。
だってそうだろう。愛していた父親の死。回復するのはまだ先だろう。
これからどうすればいいのか、それを考えつつも目の前にあることをやって不安を解消していこうと努力してきた。しかし、エンクレイヴはメガトンやリベットシティーを占領下に置いている。メガトンに残してきたブライアンや武器店や家も心配だ。一刻も早くメガトンに帰りたかった。
「君は良く戦ったと思うぞ。話によれば君の仲間が裏切ったと訊いたが?」
「ええ、てっきり自分の事を好きでいるのかと思っていたのですが。どうやら自分の勘違いだったようで・・・」
脳裏に浮かぶのは、たまに目にする彼女の笑顔。そして、銃を向ける彼女の無表情な顔。信じていた事で傷ついた心はそう簡単に癒える物でもない。
「儂も裏切られたことがある。四十年共に戦ってきた戦友じゃった」
そう、呟きながら中庭の上に広がる青空をリオンズは見ていた。その顔は老練な顔付きで、幾多の戦場を渡り歩いてきたのかは知らない。だが、リオンズの顔の皺以上に戦場で戦ってきたことだけは確かだ。
「四十年・・・。長いですね」
まだ人生二十年にも満たしていない俺だが、四十年来の仲間に裏切られるのは辛いことだろう。
「そうじゃな。元々、儂はコーデックスの教えを信じてはいたが、それでいいのかとは思っていたんじゃ」
コーデックスの教え。BOSを結成する時に創設者のロバート・マクソン元大尉が考えた鋼鉄の誓いである。そこにはBOSの信念や新しい規律などが制定されているが、リオンズが不審に思っていた箇所はBOSの基本方針にあった。
「ただテクノロジーを保全し、管理して人類を再び戦渦に巻き込まないようにする。そのテクノロジーは誰にも使わせないようにすることが本当に必要か?ウェイストランドは荒廃しきっているのにも関わらず、助けられる我々が行動を起こさないのは人類を守るというより見捨てたも同然のように思えてならなかった。おぬしはどう思う?」
リオンズは横にいた俺に話を振る。
「人類は戦争によって科学技術が発展してきましたからね。戦争で発展した力を平和のために使えるのは限られています。BOSは二百年前の核戦争を二度と起こさせないために、人類を守るためにテクノロジーを保全する。なら人類を再興させるための行動も良いと思います。もっとも、ロバート・マクソン大尉がアウトキャストや西部のバンカーにいるエルダーを見たら、米軍式の鉄拳をお見舞いしそうですが」
「ハッハッハ!それもそうじゃの!」
もし、創設者であるマクソン大尉がリオンズ派とアウトキャストのキャスディン派と別れたBOSを見たら、本当に新兵キャンプの鬼軍曹の罵声が飛んできそうである。『そんな派閥争いしている暇があったら、ウェイストランドを救済しやがれ!』とか言いかねない。
「お主は今のナイトやイニシエイトが知らないような事を知っているのう。椿に教えて貰ったか?」
「いえ?母は自分が生まれたときには・・・」
ゲームをやってて、攻略サイトで前作の情報を見てましたとか言えないよ。
「そうじゃったか。だが、どうやって知ったんじゃ?」
「下のデータ保管庫やスクライヴからパソコンの記録を見せて貰いました。色々勉強したいと言ったら喜んで貸して貰えました」
と嘘を平然とついた。あとで、スクライヴにパソコンを借りるだろうから大丈夫な筈だ。
「そうか・・・。儂も昔は本の虫でな。よくキャスディンに身体を動かせときつく言われたのぉ~・・・」
リオンズは持っていた本を膝に載せる。本は戦前に出版された本らしく、所々痛んでいた。俗に言うBOSキャピタル支部の大分裂は仲間内で些細な意見の相違がもたらした悲劇だろう。元は同じ志を持つ同志だった。故に、互いの意見が違ったときの反発は想像以上だったに違いない。
「まだキャスディン氏の事を友人として見ていますか?」
「勿論じゃとも。この歳であの喧嘩別れしたのは辛い。私が皆に伝えなかったことも原因なんじゃがな」
リオンズは膝に置いた本を撫でる。ただキャピタル・ウェイストランドの救済はBOS本部との折り合いが悪くなるだけでは無かったのか。それとも他の理由があったのかもしれない。
「何を伝えなかったんです?」
「これは他言無用でな。とは言っても、皆薄々勘付いているかもしれんが」
とリオンズは薄くなった頭をポリポリと掻く。
「我々は西部のマクソンバンカーから、大陸横断鉄道の残骸を通りながらここにやって来たのじゃ。其処までは知っておろう?」
数十年前にBOSはテクノロジーの保全と管理を目的にキャピタル・ウェイストランドにやって来た。その多くは西海岸のマクソンバンカーと呼ばれる旧軍基地から派遣されて、長い遠征を経て来た猛者達だ。
「我々は嘗てアメリカ合衆国の首都であったワシントンD.C.の荒廃を見て、住む人々の救済をしなければならないと思った。そして、上級パラディンのキャスディンとの意見の相違で大分裂が起こった。しかし、そうしなければならない理由があったんじゃ」
リオンズはふと、中庭にある国旗のポールを見る。そこにはアメリカの星条旗とBOSのエンブレムが描かれた旗が吊るされていた。
「我々が派遣を受けた当初は支援や補給が受けられると確信しておった。しかし、大陸を隔てて補給を望むことは難しい。交通網が残っておれば別じゃが、元からその気は無かったんじゃよ」
「ってことは、見棄てられたと?」
俺はそのことに食い付いた。それは聞いていた事と全く異なる。てっきり、エルダー・リオンズが勝手にウェイストランドの救済をしたから、一切の支援を送られなくなったと聞いていた。
「元から支援する気もなく、バンカーの要らない要員を派遣したに過ぎん。古い言い回しでは片道切符を握らされたといえば良いのかの。エルダー議会で邪魔者だった儂を追い出したかった口実を作りたかったのも考えられる」
排他的な集団で問題になりやすいのが、人口の減少だった。多くが近親婚になるなか、NCRと長きに渡る戦争で、兵員の減少もあってBOSは人手不足に追われていた。エルダー・リオンズはそこで新たな兵士確保のために、新兵を募集すればいいと言った。しかし、排他的且つ選民思想なエルダー達はそれを一蹴した。
エルダーの中でも浮いた存在であった彼は都合よくワシントンD.C.に送り出された。ありもしない支援を約束されて。リオンズも支援されることなどないと思っていた。だからこそ、ワシントンD.C.に来てからは、ウェイストランドの救済を始めて新兵を募集し始めたのだ。しかし、連れてきた仲間の中にも西部のエルダーと同じ思考の持ち主が存在し、組織は二分した。
「西部のBOSとの連絡は?」
「取ってはいるが、儂のやったことに関してはおとがめなし。補給を送らないと言われたが、元から送るつもりもない筈じゃしな。」
本来、コーデックスに反したものは降格や追放、旧軍さながら銃殺刑となる。しかし、西部のBOSエルダー議会はそのような決定は下していない。元から、見放すつもりだったに違いない。
「兵士達には・・・」
「薄々感ずいている筈じゃ。まあ、支部自体地域によって特色があるからの。孤立しても自給自足するようには命令を受けている。上には意見を通さなくても、地域に貢献するBOSもいると聞いたことがある。何時の時代も腐敗するのは上の人間じゃな」
リオンズは満足したのか、ベンチから立ち上がった。彼の表情は先ほどとは違い、すこし晴れ晴れとした様子だった。
「儂は執務があるので失礼する。ガールフレンドを大事にするのじゃぞ」
彼はそのまま、ペンタゴンのビルの中へと入っていった。一人残された俺は一先ず、シャルの様子を見に行こうと足を動かす。パワーアーマーに慣れてきたのか、歩くのはスムーズになり、スクライヴが研究している地下施設へと進んだ。
アメリカ合衆国の国防の要である国防総省でも、二百年経つ老朽化した建物である。所々ひび割れが入っており、鉄筋などで補強している箇所も目立つ。階段を下り、研究施設のあるセクションへと降りた。
「ん?・・・・あれって」
施設の真ん中に置かれていた人型のロボット。経年劣化で塗装は剥がれ、錆び付いた金属が見えている。しかし、それから吹き出している威圧感は只者ではないことを教えてくれる。20mはあるだろう、その巨体は最終兵器と言っても差し支えないレベルのものだった。
「リバティ・プライム」
アラスカ・アンカレッジで中国との戦いに明け暮れていたチェイス将軍がRobco社に発注した二足歩行兵器。その兵器のスペック上、敵軍一個師団と戦える戦力を持っていた。それはアメリカの威信と狂気が産み出した兵器だった。
俺はそれを見るために階段を降りて、足元から見るべく移動する。リバティ・プライムは無人機ではあるが、コックピットがあれば乗ってみたいと思ってしまう。それはロボットが好きな人間。いや、男なら誰もが持つロマンなのだろう。
足元から見たそれは、見た者を圧巻し、戦慄させる。戦わずして負けたようなものだった。そんなだったからかもしれない。後ろにいる人物に全く気がつかなかったのは。
「君はナイト・椿の息子だね?」
ふと後ろから母の名前を言う声がして後ろを振り向く。そこにはパワーアーマーを着た角刈り頭の壮年の女性が立っていた。その顔は年相応のものであるにも関わらず、身体中から生気が感じられる。
「はい、あなたは?」
「私はスターパラディン・クロス。君の母の事なら良く知っている」
クロスはそう言うと、いきなり俺の頭を撫でながら抱きついてきた。
「君が椿の息子か~!そう言われると、椿の面影があるな!まったく、アイツを振ってVaultで男を見つけるとは流石だよ!」
まるで犬の頭を撫でるような荒々しい撫で方で俺の頭を撫で回す。パワーアーマーでガッチリと抱きついており、離れようにも離れられない。
「い、痛いです!スターパラディン・クロス!」
「ハッハッハ!私の事はクロスでいい。椿の息子なのだから遠慮しなくていいぞ!」
名残惜しいとばかりに離れるときにも、ワシワシと効果音が出るような撫でる。確実に脳細胞は死んでいる。絶対そうだ。
「年甲斐もなく、はしゃいでしまったよ。昔を思い出すな~。・・・そうそう、椿が持っていた刀はどうした?今は持っていないようだが?」
「あれはまだVaultにあります。あの状況で持ってこれなかったんで」
いきなりの事だったし、無理もなかった。あの事件は予期せぬ出来事だったし、母の形見であるあれは持ってこれなかった。
「そうか、息子も刀が使えると思ったのだが」
「自分はもっぱら火器専門です。・・・でも、刀ってかっこいいですよね」
刀鍛冶が伸ばして鍛え上げた刀身。それは、敵を意図も簡単に切り裂き絶命させる。鞘から抜き取ったそれは惚れ惚れするような見事な刀であった。
「そこはやはり親子なのだろうな。私はもっぱらこれだが」
そう言って背中に背負う物を叩く。それは打撃力を強化した戦闘用のスレッジだった。
「良く分かりましたね」
「何、初心者がパワーアーマーを着たときに良くやる動きをしていたからな。直ぐ分かるとも。」
にっこりと微笑むクロスの顔は何処かで見たことがあった。父の写真入れの箱に入っていた記憶がある。
「母とは親しかったんですか?」
「ああ、私達は当時のBOSの広告塔と言ってもよかったね。スリードックが私達の活躍を大々的に言っていたんだから。あと、もう一人居たんだがね~。あいつはここにはいない」
若干、クロスの声が半音下がる。それは多分、国立図書館にいるナイト・ロジャーだろう。正直、かなりクロスとお似合いと思うのだが、この際黙っておこう。両者共に拳で語り合いそうな感じがするのだけど。
「母はどんな人でしたか?」
父は母の多くを語ってくれた。しかし、それはVaultに来てからの事だったし、母がどのような生い立ちなのか知らなかった。
「そうだな、彼女は名前から分かると思うが日系人だ。自分の子孫は中国との戦争に逃れた日本の資産家だったと言っていたが、私も良く知らないな。誰にも優しく接してたし、男共からはかなり求婚されたと聞くが」
何かクロスから嫉妬に似た空気を感じ取ったが、知らない振りをした。昔、父から母の写真を見たことがあるが、大和撫子と言っても良いような日本の美人だった。艶やかな黒髪に整った顔立ち。小顔な彼女はウェイストランドの人からすれば異邦美人だろう。
「良く、日記を書き記していたな。それにBOSでは親しい人物に遺書を遺していた。もし、Vaultに戻ることがあるなら、見てみるといいかもな」
「見られたら良いですけどね」
あの事件の後、Vault101の扉は閉ざされてしまった。多分、永遠に閉じられることになるのだろう。母の遺品や形見、しっかりと父や兄にも別れを告げたかったが、それも叶わない。
俺はシャルの見舞いに行くことを思い出して、クロスに用事があると言って別れようとした。
「ガールフレンドを探しているんだろ。彼女なら墓参りに行ったぞ」
「墓参り?」
墓参り?
彼女はウェイストランドに死んだ知り合いがいたか?
俺は頭の中で色々考えたが、こたえを出したのはクロスだった。
「彼女の母親の墓だ」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『逃げろ・・・!マジソン・・・・シャルロット・・・・』
夢の中でも父は放射能汚染された浄化チャンバーのコンソールで苦しみながら、私達に言う。どうしても、父の最後が頭の中でフラッシュバックする。父を探してVaultを飛び出し、何故出ていったのか聞きたくて幼馴染みのユウキと共に嘗てのワシントンD.C.。キャピタルウェイストランドを旅した。
父の生涯を捧げた浄化プロジェクトの事を知り、私とユウキは出来うる事をもって手助けした。プロジェクトは軌道に乗って、あともう少しの所まで来ていた。それなのに・・・・・
私の直ぐ頭上を二つのモーターを持つヘリコプターが旋回して、ジェファーソン記念館とリベットシティー上空を飛行した。
護衛のBOSの兵士に教えて貰ったが、リベットシティーとメガトンは完全にエンクレイヴに占領されてしまったらしい。BOSは正面衝突を避けるために各地の前哨基地に命令を出しているが、アウトキャストは40年前にエンクレイヴを壊滅させたように、今回も勝つつもりで居るらしい。しかし、どちらが勝つのかはウェイストランドの世捨て人でも気付くだろう。
三人のBOS兵士が護衛に付き、変装したDr.リーと私はある場所へ向かっていた。
「シャルロットさん、あともうちょっとよ」
Dr.リーは私の前を歩き、私の手を引っ張っていた。
研究室から一歩も出ない私を元気ずけようと、「連れていきたい所がある」と彼女は外に連れ出したのだ。
一応、エンクレイヴから逃げてきた身であるため、護衛と変装は必須になった。
だが、これからどうすればいい?
旅の目的である父は見つけ、父の人生を捧げた浄化プロジェクトはエンクレイヴによる父の死によって奪われてしまった。私は父を失い、これからどうすれば良いのだろう。
ある者はエンクレイヴを憎めと言う。
だけど、憎んで仇を取ったところで父は帰ってこない。
途方もない喪失感と無気力。
持っていた護身用の10mmピストルが腰に重くのし掛かる。そして鉛のような重く感じる足を動かしながら、Dr.リーの言っていた目的地に急ぐ。
「HQ、こちらecho2-2。objectは5分後に目標に到着。基地の帰還予定時刻は1610。over」
(HQ了解。Echo2-2、objectを失わないよう慎重に行動せよout)
近くの兵士は定時連絡で司令部に連絡を入れる。私やDr.リーはスカベンジャーのような商人の格好をしている。BOSは武器弾薬を調達するために、自前の武器以外にも市場を通じて武器を購入している。御用達の武器商人を護衛する事はそんなに珍しいことではないため、偽装するにはうってつけらしい。
「今回はリオンズに無理を言ったのよ。でも、貴女にはあれを見せなければならないと思ったのよ」
そんな人物にまで無理を言うなんて、Dr.リーは只者ではない。BOSの指導者に無理を言えて、尚且つ実現できる人って普通いない。
最初、BOSの兵士も嫌々だったらしいが、Dr.リーがその兵士に耳打ちをすると、表情が一変して真っ青になった。その後の兵士達も気を抜かないようしっかりと警戒しているのを見るに、何か恐ろしい事を言ったに違いない。Dr.リーはもしかして・・・・
「シャルロットちゃん、どうしたのかしら?」
「ひ、ひゃい!なんでもないれす!!」
思わず、噛んだけど。Dr.リーの表情が恐ろしく怖かったなんて言えるわけがない!
そんな事をしながら歩いていくと、Dr.リーが言っていた目的地にたどり着いた。とは言うものの、そこの場所には見覚えがあり、何度もそこを往来していた。
ジェファーソン記念館とリベットシティーを結ぶ川岸沿いの道。エンクレイヴの攻撃を受ける前には記念館への道程として、物資運搬路として機能していた。その道程の半ばにはコンクリートで作られた石碑が設置されている。
「ここは?」
私はDr.リーに聞いた。直ぐ近くではスーパーミュータントと戦った場所があり、そこにポツンと置かれていたそれに気が付かなかった。
「そこに彫られた文を読んでみて」
私は言われた通りにその文を読む。
『愛するキャサリン ここに眠る 夫のジェームズと娘のシャルロットは貴女の事を忘れない』
石碑にはそう刻まれ、Dr.リーはリベットシティーで育てていた花を一輪水を入れたミルクボトルに差した。
「このお墓は母の・・・」
「ええ、あなたのお母さんよ。」
私は足の力が抜けて膝を地面に付ける。石碑を指で撫でた。母の遺体は燃やして川に遺灰を流したらしい。ただ、母が生きていることを残すために石碑を作ったようだった。さほど大きくないそれにポタポタと水滴が落ちた。
ウェイストランドでは雨は降らない。
濡れた石を撫でているうちに自分の目から涙が垂れていることに気がついた。お父さんが死んでから、ずっと泣き続けていたから涙腺が枯れてしまったのではと思った。でも、お母さんのお墓で泣いていることに驚いていた。
涙腺からあふれ出す涙を止めることができず、両手で涙を拭った。すると、後ろから手が伸びてきて私の肩に触れた。
「キャサリンはね。私が二十歳の頃にリベットシティーにやってきたの。ジェームズと一緒に働いていて、彼女が浄化プロジェクトをやろうと言い始めたのよ」
Dr.リーは私の肩を撫でて、耳元でささやきかける。
「ジェームズとキャサリンは恋に落ちた。それはもう、こっちが赤くなるほどにね。キャサリンが羨ましかったわ。ジェームズの腕に抱かれて。嫉妬してしまうほどに」
私は最初、Dr.リーの二人の恋愛に顔が赤くなると言う言い回しに笑いが出たが、後半で意外な事実を知った。そう言われると、父を見ていたdr.リーの視線が何処か熱っぽく感じられたのはそのせいだろう。
「でも、彼の幸せは私の幸せよ。影ながら応援もしてたわ。やがて二人はあなたをもうけた。出産に立ち会ったのは私よ。覚えてないかも知れないけれど」
「Dr.リーがですか?」
私はいったん涙がわき出るのを阻止し、目を彼女へ向ける。
「ええ。あなたはとっても元気が良かったわ。でも、キャサリンも持病があったからあの後はジェームズが蘇生を施してもダメだったわ」
私が生まれた後、力を使い果たして亡くなった母。父からの話だけで、写真などはなく顔は知らなかった。Dr.リーの顔は愛しい人を奪われた嫉妬の念を抱く人のそれではない。友人を死を悼むものだった。
「ジェームズは今の貴女のように落ち込んだわ。でも、立ち直るのは早かった。何故だか分かる?」
「え?・・・何でですか?」
私は戸惑い聞いた。Dr.リーは私の肩から腕に手を伸ばして私の手のひらを掴む。
「貴女が居たからよ。ジェームズは落ち込んで間もなく、メガトン近くのVaultが開いたと言う知らせを聞いて飛び付いたわ。G.E.C.K.の情報も入っていたし、何より貴方をウェイストランドに居させる事はしたくなかった。浄化プロジェクトは凍結、事実上の放棄だったけど」
私はDr.リーの目を見る。その目からは一筋の涙が流れていた。
「貴女には守る物、やらなければならないことがあるはずよ。」
「守るもの、やらなければならないもの・・・」
Dr.リーの言った言葉をもう一度唱える。目をつぶり考える。そこから出てきたのは、ユウキの顔やブライアン。そしてメガトンの皆やリベットシティー、テンペニータワーや沢山の人の顔だった。
「貴女が決めること。このまま身を隠したって良いわ。それは貴女の自由。でも、貴女がもし守りたいなら困難な道なるはず。それは逃げるより難しいでしょうね」
Dr.リーは一度手を話して、私の顔をジッと見据えた。
「でも、これだけは信じて欲しい。その道の先はあなた次第で良い方向悪い方向に傾くはず。その時は自分を信じて前に進みなさい。それが貴女の出した答えなら・・」
私はエンクレイヴから追跡を受けている身。だが、彼等の支配地域さえ抜ければ身の安全は保証される。逃げれば命は助かるだろう。
しかし、お父さんが探していたG.E.C.K.を見つけて浄化プロジェクトを主導するBOSに託せば、お父さんが人生を捧げたものを達成できる。エンクレイヴを譲歩させられるかもしれないし、人類の復興にも繋がる。
私はどうするか考えた。それは一秒か一分か。それとも一時間か。どの位の時間が過ぎたか分からない。
頭の中で結論を出して、震えながらその言葉を紡ぎ出した。
「私は・・・・」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
そこはBOSが運用する武器兵器庫の一角にある廃品置場である。その横には様々な作業台や工具が沢山あり、防具や武器の修理や修繕を行う。廃品置場から稼働しなくなったパワーアーマーやライフルなどから部品を回収して修理をしているのだ。T49dパワーアーマーは国防総省の地下兵器庫に大量に保管されていた。また、近くにあった倉庫もそういった兵器の倉庫があった。
T49dパワーアーマーは2070年代にはすでに旧式の兵器となっている。主力はT51bパワーアーマーであり、T49dは軍の倉庫に押し込められていた。旧式の兵器と言えど、一騎当千の能力があるため、パワーアーマー数は一定数必要である。予備機として保管して何かの役に立つだろうと思った役人が廃棄せずに倉庫に入れたのだ。
その役人の貧乏人根性が功を奏したお陰か、東海岸のBOSが使用している。当の役人も二百年後まで考えてはいなかったのではなかろうか。
「おーい、ユウキ。こんなところで何をしてる?」
その場所に入ってきたのは、黒のコンバットアーマーを着たウェインだった。背中には最大限のカスタマイズがなされたアサルトライフルが下げられている。基地内では武器の使用が厳禁だが、『携行』することに関しては禁止していない。暴発を考えてか、弾倉は外されていた。
俺の服装はVaultスーツにCIRASベストではない。戦闘区域でもないし、装備自体邪魔だったので埃を被っていた陸軍が使用していたらしい整備士用のジャンプスーツと工具キットを腰に下げていた。
「見て分からない?改造だよ」
オンボロのパワーアーマーを貰い、『はい、これで戦います』なんて言う奴の気が知れない。T49dパワーアーマーの本当の性能を知っているやつからすれば、目の前にあるそれは残骸でしかなかった。なら、勝手に改造を加えてしまおうと思い至った。
T49dの装甲に更に装甲版を増強する。スクライヴが戦前の技術を流用したレーザーやプラズマを跳ね返す塗料を塗り込んでおく。効力は少ししかないが、無いよりマシである。そして、ベストにあるようなマガジンポーチを胸や腰に装着して携行量を増やす。更に故障していたヘルメットを魔改造してHUDを復旧させる。暗視装置は壊れているので、直接目で覗くタイプを改造して、ヘルメットの外につけられた暗視バイザーを下ろすことで、暗視装置が作動するようにした。
最早、原型は留めていない。肩に掠れていたBOSマークをしっかりと塗り直して完成である。それを見たウェインは飽きれと驚きの表情が見えていた。
「お前さ~、凄いというか馬鹿というか・・・・」
「そんな誉めんなよ」
「後者はいいんか?後者は?」
馬鹿という発言に対しては自覚があるため、あんまり気にしないことにした。世界広と言えども、こんな魔改造をする輩はいない。マガジンポーチを設置したとしても、暗視装置を取り付けることはない。
「んで、なんで俺を探しに?」
俺は持っていたスパナで最後の仕上げのボルトを締める。
「ああ、さっき司令部で上級パラディンや各部門の責任者が呼ばれた会議があった。そこで話されていたことにお前が聞きたいことがあるんじゃないかと思って」
ウェインは後で俺が飲む筈だったキンキンに冷えたコーラの栓を抜くと、ラッパ飲みで黒い液体を喉に流し込む。
「おい、ウェイン。レーザーガトリングで体を引き裂かれたくなかったらヌカコーラを置け」
「ったく、ヌカコーラ位多めにみやがれ」
「冷やしてある奴、それで最後なんだ!勝手に飲むな」
ヌカコーラはメガトンの自宅で稼働する自販機で冷やされている。今持っているのは、ジェファーソン記念館に来てからゆっくりと消費されている物のひとつである。pip-boyはその物の状態を一定期間変えない事が可能である。だから、キンキンに冷えているヌカコーラが飲めるが、さっきも言ったように冷えたヌカコーラの残りはウェインが飲んだ一本しかない。
ウェインが持つコーラを奪い取り、喉に流し込もうとするが一滴しか飲むことができなかった。一滴というのは喉を潤すことなどできない。ウェインを睨むと、そんなことよりと勝手に話を変え始める。
「BOSの無線技師がある信号を捉えた。どうやら、アウトキャストからの救難信号のようだ」
「それって、旧軍の稼働するVRシュミレーターがある場所だろ?」
それはDLC版でアラスカのアンカレッジで起きた中国軍侵攻でアメリカ軍がやった作戦のシュミレーターがあった。それは新兵訓練用のものであるが、試験中の物であるため、シュミレーションで戦死した場合は現実でも死ぬと言う曰く付きのものだ。主人公はシュミレーションを終えると、アウトキャストの内輪揉めに合ってしまう。シュミレーションをクリアすると、旧軍が保管していた倉庫の鍵が開くが、目ぼしいものは冬期型T51bパワーアーマーと中国軍ステルスアーマー位なものだろう。
しかし、ウェインは首を横に振った。
「いいや、場所は旧軍のインディペンデンス軍事基地らしい。アウトキャストが運用する無線機から救難信号が発信された。偵察員の情報じゃ、基地の方角で黒煙が昇っているようだ。」
アウトキャストはリオンズ傘下のBOSから離脱した部隊だ。構成はベテランのパラディンやナイトが殆んどであったため、精鋭だと言うことがわかる。近くのフェアファクスの廃墟にはレイダーの集団がいるが、アウトキャストが手間取ることはない。しかし、基地から黒煙が昇っていることを推測しても、考えられる事は一つしかなかった。
「エンクレイヴか・・・」
私は・・・ジョン・ヘンリー・・・・・ハッハッハッハ!!驚いたか!Threedogだぞ!
さて最新のニュースをお送りしよう。皆も知っての通りだが、エンクレイヴがリベットシティーとメガトンを占領した。流血沙汰は今のところ起こってないようだが、メガトンの一部の入植者。まぁ、メガトンでもかなりヤバい奴等が攻撃を仕掛けたようだが、彼等の手を煩わせることなく殲滅されたようだ。
今のところ、選民思想にまみれた彼らは住民を皆殺しにはしていないものの、二大集落が占領されていることによってウェイストランド全体の物資流通が滞っているらしい。スカベンジャーや商人には注意して欲しい。商業ルートを変えてレイダーの餌食になってみろ、エンクレイヴが助けるかは分からんからな。
もう一つニュースを。ジェファーソン記念館はエンクレイヴに占領されている。これは前の報道通りだ。しかし、続報がある。そこで働いていた技術者や科学者は全員BOSに保護されているらしい。ブラボォー!!!
エンクレイヴの空爆から守りきり、避難経路から脱出させたようだ。まったく、奴等の攻撃から全員を守りきるなんて凄すぎるだろ。今はBOSの所に匿われている。国防総省のビルにいるから、差し入れをしたい者は来てくれよ。そこらのパラディンに渡せたら上出来だ!
さて、曲を掛けよう。今日はそうだな、Vaultのあの二人の無事を祈ってあの曲にしよう。
Linkin ParkのWhat I've Done
新章突入しました!
物語も佳境に入って参りました。ご感想及び誤字訂正など受け付けております。感想貰ったら半狂乱で喜びます故よろしくお願いします!