fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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この話でインディペンデンス砦に行けると思っていましたが、行けなかったようです。

しかし、旅の友がまた増えました。


三十話 友

刻も既に昼を過ぎて、夜の帳の準備をしようとするなか。最近になって聞くことが多くなった双発のプロペラ音が響く。

 

旧ワシントンD.C.上空にはエンクレイヴ所属のベルチバードが多数飛行していた。多くは巡回するパトロール部隊の随伴であるが、彼らの任務の中にはジェファーソン記念館から逃亡した数名の身柄を発見するというものもあった。

 

その上空を飛行する一機のベルチバードのパイロットは地上で停止する友軍の車両部隊を発見した。

 

「こちらhatchet1-2。司令部、Delta4-2の車列を確認した。どうやら、ミュータントの攻撃を受けている模様。Over 」

 

(hatchet1-2、Delta4-2は物資運搬中である。物資が破損する恐れもあるため速やかにDelta4-2の救援を開始されたし。Over)

 

「了解した。これより航空支援を行うout」

 

哨戒していた、hatchet1-2と呼ばれたベルチバードのパイロットは操縦桿を傾けて戦闘区域へと向かう。彼の乗っているベルチバードは火力支援が可能な30mm機関砲と対戦車ミサイルやロケット弾が装備されており、後部の爆装にはミニニュークが20基装備されている。これは上空から投下できるものであり、敵への爆撃が可能となっている。

 

エンクレイヴの航空戦力はヘリ以外にもジェット戦闘機を数機所有しているが、敵対する勢力に航空戦力を所有していないためお蔵入りとなっている。実際、ヘリよりもコストパフォーマンスが悪いため、殆ど倉庫から出されることはない。そのため、現時点ではヘリが唯一の航空戦力となり、爆撃機のような使い方もしなければならなかった。

 

「中尉、敵はあの黄色の化け物でいいんですね?」

 

無線に応答したパイロットの横に座る若い射手は訊く。その黄色の化け物はスーパーミュータントであり、2mを超す巨人である。一対一で戦えば確実に死が待っているはず。しかし、ベルチバードとスーパーミュータントが相対したとき、その結果は逆転する。

 

「ああ、あの化け物共を皆殺しにするのが俺たちの任務だ」

 

「よっしゃ!シュミレーションからやっと実戦だ!」

 

 

若い射手はシュミレーションでしか戦闘を経験していない。基地周辺の哨戒任務でもたまに敵対勢力を排除することもあるが、今まで行動を制限されていたため、戦闘を経験するのは歩兵位である。ヘリのパイロットは西部から来た士官であったし、親は西部の戦いで戦死していた。若い射手の昂る気持ちを察してはいたものの、自身の境遇ゆえにキツく当たった。

 

「あまりはしゃぐな。お前が一発でも撃ち漏らせば、仲間が死ぬかもしれないんだ。少しは落ち着け」

 

「りょ、了解」

 

射手は少しばかりへこんだものの、少しは自覚をしていたのか深呼吸を行う。誰だって初めての実戦は緊張する。己の指に力を込めれば、30mm機関砲が発射されて敵はたちまち肉片になるのだから。

 

パイロットは操縦捍を動かし、高度を下げて車列の真上へと移動する。

 

 

「こちら、hatchet1-2。Delta4-2応答されたしOver」

 

(こちらDelta4-2!FLV変異体約20から攻撃を受けている!先頭にいたIFV(歩兵戦闘車)が戦闘不能!こちらの火力では防ぎきれない!)

 

崩落したビルの穴から出てくるミュータント。先制攻撃により砲塔から煙が昇るIFVを盾にパワーアーマーを着たエンクレイヴの兵士達は必死に応戦する。徹甲弾を装備していないミュータントが大半であるため、撃たれていても装甲板で跳ね返してしまう。しかし、中にはミサイルランチャーを装備したものや、素手でパワーアーマー兵の胴体を引きちぎる事も出来るため油断できない。APC(兵員輸送車)から随伴歩兵が降りてきて、持っていたレーザーライフルやプラズマライフルを発射する。突撃してくるミュータントを倒そうとする兵士がスレッジハンマーで吹き飛ばされるなど、歩兵戦闘は有利とは程遠い。

 

「了解、Delta4-2。これより航空支援を行う。攻撃指示を頼むover」

 

(煙の出ているIFVの向こう側は全て敵だ!スモークを炊かなくても分かるだろ!)

 

交信している兵士は相当狼狽えており、パイロットは溜め息を吐く。

 

「了解した。これより攻撃を開始。遮蔽物に隠れとけよ、何が飛んでくるか分からないからな」

 

パイロットは武器管制システムをチェックし、兵器の操作を射手に回す。射手は意気揚々とロケットを選択した。

 

「Rocket・・・・・FIRE!!!!」

 

射手は発射ボタンを押す。ベルチバードの胴体のサイドに装着されたロケットポットからミサイルランチャーのミサイルよりも大きく緑がかったロケット弾が発射された。バシュッ!という発射音と共にロケットは音速を越えてミュータントのいる地点に命中した。

 

弾頭に装填された成形炸薬はその場所の地面をえぐり、周囲に破片をばら蒔いた。ミュータントの四肢を契り去り、幾十の破片がミュータントの体を切り裂いた。

 

ロケットは一発のみならず、立て続けに発射されてミュータントを圧倒する。そしてウェイストランドでは見ない30mm機関砲が火を吹いた。大口径のそれは一瞬にして硬いミュータントでさえも肉片と化した。ベルチバードに装備された弾薬が四分の三になる頃には既にミュータントは物言わぬ亡骸と化していた。

 

「こちらhatchet1-2、敵勢力排除を確認。そちらの損耗は?over」

 

(hatchet1-2、こちら、Delta4-2。IFVの45mm機関砲が破壊されたがまだ移動可能なようだ。そちらにリベットシティーまでの護衛を要請したい。燃料は大丈夫だろうかover)

 

パイロットは燃料計を見る。まだ燃料は半分近く残っており、護衛は可能である。弾薬もまだ豊富に残っており、護衛任務は初めてであるがやらねばならないだろう。

 

「了解したDelta4-2。これより上空から援護する。Out」

 

パイロットは一度、高度を上げる。車列がいたのは荒野と市街地の境である旧幹線道路である。二百年も放置された道路は舗装のあとはあまり見られない。戦時中の塹壕や投棄されたトラックまであることから、当時の状況が鑑みることができた。

 

パイロットは今回のエンクレイヴの方針転換に対して不安を覚えていた。彼が幼く父が生きていた頃は、カリフォルニアで一大勢力を築いていた。アメリカ再建まであと少しであり、再び星条旗が翻る日を夢見ながら、パイロットやその家族は仕事に励んでいた。しかし、ポセイドンオイル陥落によって、エンクレイヴは敗走。東へと移動し、残存する軍事基地へと身を寄せた。

 

若かったパイロットが見たのは、大の大人が考えの違いを理由に言い争いをする光景だった。東はウェイストランド人に寛容であり、エンクレイヴが崩壊すれば何らかの形でウェイストランドを助けようとしていた。一方、西は選民思想に凝り固まり、ウェイストランド人を人として扱わず「汚染された人類」として扱った。パイロットも父からそう聞かされていたが、東に属する将校からは意外な事実を耳にした。

 

ポセイドンオイル基地ではとある極秘作戦が進行中であり、偏西風にFLV改良型ウイルスを散布して、ウェイストランド人を虐殺しようとしていたのだ。パイロットは最初信じられなかったが、知り合いを通じてそれを知ると、エンクレイヴという組織が一体何なのであるか分からなくなってしまった。その後、彼は西の将校の中で数少ない穏健派将校の一人となった。

 

東の将校の大粛正のあと、生き残りの穏健派の将校は連絡を密にしているがこれと言って自身の意見を外に漏らすわけにはいかなかった。どこに大統領直属の諜報員が紛れているか分からず、ましてやタカ派の奴らに目を着けられては組織にいることすら出来ない状況に陥ることは避けたい。パイロットはそうした状況の中で穏健派に属する将校の一人だった。

 

統合参謀本部が考案した作戦『operation:The eagle has landed』は表向きエンクレイヴの再入植計画である。しかし、それを主導しているのは選民思想を持つ西の将校であった。穏健派将校であるオータム大佐が実働部隊の指揮を執っていても、実行するのは西側の将校とその兵士達である。前大統領であるリチャードソンと同じような思想の持ち主ならば、グールと人間の区別すらつかないのだ。

 

パイロットはエンクレイヴが今後地域を平定していく上で選民思想が一番の足かせになるだろうと思った。

 

 

「大尉、あれを見てください」

 

若い射手は荒野を歩く行商人らしき人物らを指さした。計器を確認していたパイロットはフライトヘルメットの全画面HUDを下ろしてそれを見る。

 

ベルチバードは緊急用のコックピットウィンドウは狭く、見にくい。エンクレイヴのベルチバードパイロットはHUDと全画面液晶のフライトヘルメットを装着して外部にあるカメラを通して外部の様子を見ることが可能となっている。

 

彼が見た先には、行商人を護衛するBrotherhood of Steelの兵士の一団だった。情報局が公表している標準的な装備ではなく、何らかの現地改装を施したパワーアーマーを着た兵士が警戒に当たっていた。

 

「あの集団は攻撃しなくて良いんですかね」

 

「司令部からお達しがあったの忘れたのか。BOSの兵士を攻撃するのは禁止されているぞ」

 

エンクレイヴは戦前のように大質量をもって敵に挑むのは自殺行為である。戦前のアメリカなら質量戦で勝つだろうが、現在のエンクレイヴにはその余力はないに等しい。ポセイドンオイルの頃に比べても生産能力や軍事力は衰えていったといっても良いだろう。

 

今のエンクレイヴなら航空戦力を使って容易にBOSの司令部を急襲して勝つことは可能である。しかし、当初の目的であるウェイストランドの植民地化には大きな悪影響を及ぼすことになる。今現在、D.C.都市部のミュータント掃討はBOSが行っており、地域貢献などを考えてみてもぽっと出のエンクレイヴよりも好感度が高い。そのBOSを壊滅に追い込めば、ミュータントは闊歩し、人間の生活できる安全地帯は限りなく狭まる。また、地域貢献をするBOSを排除したことによって、人々の好感度は下がっていくことになるだろう。そのため、BOSへの対処は基本的に未干渉に務めている。

 

しかし、水面下での政治工作などがないとは言えなかった。

 

「え、でも3時間前にBOSの基地を制圧しに行ったじゃないですか?」

 

「あれは分派のアウトキャストと呼ばれる組織でBOSとは違うんだっての。よく奴らの服装みやがれ」

 

パイロットは若い射手の間違いをいらつきながら訂正する。

 

BOSは米陸軍で使用されているグレーの掛かった色をそのまま使用している。しかし、キャスディン護民官に集うアウトキャストは黒と赤を基調としたデザインのよいアーマーを着用していた。もし、彼らを攻撃すればエンクレイヴは再植民計画の実行が困難になる。

 

「了解です。・・・でも、結局はBOSを殲滅するつもりなんですよね。」

 

「・・・まあな」

 

統合参謀本部からすればBOSほど植民地計画に邪魔な者は居ないだろう。今はウェイストランドの守護者であるBOSを民衆の好感度を下げることなく殲滅しなければならず、困難だろう。だが、選民思想を掲げる上層部が己の信念を曲げずに殲滅したとして、民衆やミュータントの後始末をすることになる。

 

過去に起きた共産主義と資本主義の冷戦。お互いのカードを読みながら戦略を練るそれは、力のないエンクレイヴと言う老馬に鞭を打つようなもの。現在のBOSは既に離反者が居ないために、一枚岩になっている。しかし、エンクレイヴは組織自体に欠陥を抱えている。作戦に影響を与えかねない思想や政治闘争により、技術力と軍事力は優れていても、組織の質は断然BOSが有利である。

 

パイロットはエンクレイヴが過去の遺物にしがみつく亡国の組織である事を知っていた。最早、組織は虚像の指導者に従う事で本来の目的すら失っていることに。

 

「いつになったらこの戦いは終わりを迎えるんだ?」

 

パイロットはそう呟き、周囲の景色を見渡した。

 

 

小さい野球場跡にある国旗ポールの頂上に星条旗が風で翻る。核戦争の後に誰かが吊るしたらしい星条旗の端はボロボロで繊維が解れきっていて、煤がこびりついている。そして国旗は不自然にも二ヶ所ある内の一ヶ所の止め紐がほどけていた。

 

まだ戦争は終わっていない。満身創痍なその国旗は今のアメリカを表すかのようだった。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・、バレなかった~」

 

 

俺は被っていたパワーアーマーヘルメットを脱いで、腰に取り付けた水筒に口を付ける。ウェイストランドの気候によって、水は生ぬるく美味しくない。しかし、BOSが餞別として渡してくれたことには感謝した。

 

 

「全くだ。奴ら報告通り何もしてこなかったな」

 

 

同じようにヘルメットを被っていたウェインは俺と同じような改良型T49dパワーアーマーにある腰の留め具にヘルメットを装着した。

 

 

ウェインはBOSに入隊したわけではない。兵員確保のためにBOSに雇われたのだ。BOSは慢性的な兵員不足に悩まされており、各集落に傭兵や腕の立つ人物をヘッドハンティングしたり、徴兵を行っている。しかしながら、ヘッドハンティングで入るのは稀である。そして徴兵では訓練するコストも掛かる。そのため、戦闘に馴れた傭兵などを雇うことも少なくない。商人の護衛などはBOSが着けさせていることもしばしば。今回もパワーアーマーの操作方法の引き換えにBOSに雇われることになった。

 

ウェインの他にもモヒカンのジムや幾ばくかの兵士も参加している。そして、もう一人医療担当も存在する。

 

「なんで私だけ、商人の格好?モイラに貰ったアーマードスーツでも良いじゃん」

 

スカベンジャーが着るような、焦げ茶色のフィールドジャケットにトレーダーの帽子を深く被ったシャルは自前のトライビームレーザーライフルを携えていた。

 

「一応、偽装用なんだから頼むぜ。俺達が何時もの格好で歩いていたら、確実に捕まるんだから」

 

「うん、その時は返り討ちにするんでしょ」

 

「まあ、それが出来れば苦労しないけどな」

 

さっきのような車両や戦闘ヘリと対峙して勝てるとは全く思っていない。対戦車火器があったとしても、戦略的優位は向こうにあるため出来れば避けたい相手なのだ。

 

偽装とはいえ、パックバラモンの一匹も持っていないようじゃ怪しまれるということで、俺の横には荷物を抱えているバラモンが歩く。変異した赤い皮膚や二つある頭部を見ても、もしかしたら人間もこう言う風に変化するかも知れなかったと思うとぞっとする。人間はゴキブリ程ではないが、適応能力は他の動物とは比べ物にならない。人間にとってその能力はかなり救いだった。

 

持っていたレール付きアサルトライフルを提げながら、目的地に進軍する。しかし、途中で夜が更けるために何処かで野宿しなければならなかった。

 

「えっと、この先にスカベンジャーが言っていたジャンクヤードがあったな。立地条件もいいからそこにしよう」

 

リベットシティーで作成したスカベンジャーや商人、傭兵の口コミが書かれた地図は重宝している。何せ、安全な野宿場所や現在生息する生物の位置。レイダーの駐屯場所まで分かるのだ。pip-boyに入っているのはフラックが作った地図の写しになっていて、最新版はもっと情報量や修正点が多い筈だ。

 

バラモンの背中を撫でると気持ち良さそうに鳴く。案外、パックバラモンも可愛らしく、スカベンジャーが愛用しているのも頷けた。

 

パックバラモンに載せられた荷物の殆んどは医療品ばかりであり、今回の目的地も確実に必要とする場所であろう。目的地とはアウトキャストの司令部が置かれるインディペンデンス軍事基地だった。

 

 

 

シャルが帰ってきた後に、エルダー・リオンズの娘である。センチネル・リオンズから至急やって欲しい任務を頼まれた。ウェインが又聞きしたアウトキャスト壊滅に関する事だった。

 

BOSから離脱した者とはいえ、元々同じ釜を食った同志である。その為、エルダー・リオンズは小規模の偵察隊を派遣することに決定した。正規の隊員と医療関係者、傭兵の編成で行くことになり、俺達が呼ばれることになった。精鋭のスターパラディン・クロスも参加する運びとなり、商人に偽装した偵察隊はアウトキャストの基地を目指して進軍した。

 

途中でエンクレイヴを見掛けることもあったが、こちらを警戒するだけで一発も撃ってくる気配はない。エンクレイヴは今のところ、BOSと戦う意思は無いようだった。

 

 

やがて、偵察隊は休憩場所であるジャンクヤードの手前に来ようとしていた。

 

「止まれ、あの場所で何かやってる」

 

前方を偵察していたパラディンは後ろから進む一行を止めた。俺はパラディンに歩み寄った。

 

「どうしたんです?」

 

「複数の銃声と悲鳴、それに立ち上る黒煙の量からしてレイダーの襲撃だろう。ユウキとウェインは付いてきてくれ。他は医者とバラモンの警備だ。」

 

俺はアサルトライフルの動作確認を終えると、ダクトテープで弾倉を二つ固定して準備する。ホルスターに収まった10mmピストルもスライドを動かして次弾が機関部に装填されているか確認した。背嚢をシャルに預け、偵察したパラディンの元へ行く。

 

「先ずはジャンクヤードに入る。死角を埋めて、最低限音を立てるな」

 

パラディンは筒状の消音器を銃口に装着して、先頭に立って慎重にジャンクヤードへ近付いた。その後をウェインと俺が続く。

 

ジャンクヤードは戦前にスクラップになった車輛を放棄する場所だ。バスや車が幾つも点在し、立地上レイダーなどが住み着く。しかし、歴史を紐解けばそこの住人はレイダーばかりではない。立地上防御しやすい点からBOSの前線基地やアウトキャストの仮設営基地、一時期はトレーダーの集団がそこを休憩場所として商売を始めたこともあった。現在では商売はやっていないが、トレーダーの休憩場所となっていた。

 

防衛しやすい事から遮蔽物が点在し、物陰から何か出てくるかも知れないと考えて銃を向けて警戒する。たかがレイダーと侮れば、痛い目に合うのは自分達である。

 

ジャンクヤードに入ってから銃声と悲鳴のする方向へ進んでいく。銃声は段々と少なくなり、それに対してレイダーの卑劣な笑い声が聞こえる。

 

「前方にレイダー。歩哨のようだ、ユウキ片付けろ」

 

アサルトライフルを背中に掛けてホルスターから10mmピストルを抜き取る。腰からコンバットナイフを抜き取って銃口を向けた方向に刃先を向けて銃と一体化するように腕をクロスさせる。

 

レイダーは警戒しながらも器用に左腕を紐で縛り、モルパインを打とうとしていた。腕に注射器の針を差し、中の薬品が体内を駆け巡る。恍惚としているレイダーの口を押さえ一気に後ろへ体重を掛ける。

 

「!!!」

 

レイダーは驚き、叫ぼうとするが口を押さえられていて声は出ない。

 

『おやすみ』

 

英語ではなく日本語で言い、胸にコンバットナイフを突き刺す。レイダーは数秒じたばたしていたが、直ぐに絶命する。モルパインでハイになっていたため痛みは感じなかっただろう。幸運である。血で汚れたナイフをレイダーの着ている衣服で拭き取り鞘に収める。

 

「ユウキ、そこのバスの上から狙撃を頼む。ウェインと俺は奴らを片付ける」

 

「了解」

 

「わかった」

 

アサルトライフルをpip-boyに仕舞い、改造したスナイパーライフルを取り出す。構造状はあまり変わっていないが、不可視レーザーによって弾着地点をマークできるIRキットを装着していた。

 

瓦礫と化した自動車を登り、バスの上に到着すると這いつくばるようにして見晴らしの良い位置へ移動する。パワーアーマーが車に擦れて音が出ないように両手と音を出さないように布を巻いた膝で移動して、狙撃ポジションに着くと音を立てないように伏せ撃ちの体勢になる。

 

「こいつは酷い・・・」

 

 

そこはさっきまで商人達の設営地だった。しかし、バラモンは撃ち殺され、中央の広場では商人だった肉片が転がっている。レイダーの何人かは焚き火で肉を焼いて喰う光景があった。商人の護衛に女が居たようでレイダーの男達が数人で襲いかかっていた。悲鳴は絶え絶えになっており、悲鳴は枯れ尽きていた。

 

(飛び道具は食事してるレイダー数名だけだ。ユウキはそいつらを、俺とウェインは突入して奴らを蹴散らす)

 

パラディンの声は怒気が籠っているようなそんな声だった。パワーアーマーの通信機で交信した俺はスナイパーライフルの二脚を広げて、食事をする女のレイダーに照準を合わせる。

 

そのレイダーの横にはアウトキャストの簡易ミサイルランチャーとおぼしき形があった。IRサイトの電源を入れて、暗視ゴーグルで周囲を確認した。

 

「了解、焚き火をしているのが三名纏まっている。あと南西に女とヤってるレイダー四人組。あと、そちらのまん前にいるレイダーと

影のバスの中でレイダーのカップルが」

 

(分かった。バスと銃を持ったやつを頼む)

 

もう一度照準を戻し、食事をするレイダーへ銃口を向けた。レイダーが食べているのは良く見えないが、彼らがバーベキュー出来る材料はあっただろう。

 

息を整え、手が震えないようにパワーアーマーのアシストを用いる。自分の筋肉は未だしもパワーアーマーの人工筋肉は震えることはない。しかし、アシストをすることによって照準を次に移す作業がしにくい。

 

安全装置を外し、人差し指を引き金に触れる。機関部に弾が入っていることを確認して呼吸を止め、引き金を引いた。撃鉄が機関部に入っている308口径弾の撃針に触れた。薬莢内の火薬が弾丸を押し上げ、銃身へと導く。ライフルから飛び出した弾は回転しつつレイダーのこめかみを撃ち抜いた。側頭部は吹き飛んで脳奬を散らせる。隣に居たレイダーは何が起きたのか分からず、顔に飛んできたのか人肌程の粘着質なものをふく。いったい何なのか確認しようとしたレイダーは第二射でおでこに大きな穴があいた。

 

 

「スナイパァァー!!」

 

リーダー格らしいレイダーは叫び、仲間に遮蔽物に隠れるよう指示を出す。直ぐに、バスの影に隠れている男女のレイダーを狙撃すると、直ぐに弾丸がバスの上に飛んでくる。

 

「ウェイン、制圧射撃!奴ら銃を隠していやがった!」

 

レイダーは直ぐに遮蔽物へと身を隠して、影から出てきた時にはアサルトライフルやレーザーライフル、中国軍の使用していたバトルライフルまでと高性能ライフルを構えて的確に攻撃を仕掛けていた。今までのレイダーとは質が違っていた。素早く身を隠して正確に銃撃を行う動き、それは何度か見たことのある動きだ。

 

「二人とも!奴らタロン社崩れだ!」

 

スコープから死んだレイダーの腕を見てみると、タロンカンパニーを彫った刺青があり、奥のトラックから出てきたレイダーの服装はタロンカンパニーのコンバットアーマーだった。

 

「BOSのブリキ野郎だ!皆殺しにするぞ!」

タロンカンパニーはテンペニーの暗殺によって出資者がいなくなり、経営不振に陥っている。そのため、大規模なリストラを行ったという噂もある。元々、はみ出し者の集まりである彼らが全うな仕事に就くとは到底ない。殆どのものは重装備のレイダーと化した。

 

リーダー格らしきレイダーの男は中国軍アサルトライフルを俺の所へ向ける。咄嗟に隠れようとするが、何時もとは違ってパワーアーマーを装備していた。当然、直ぐに身体を動かせる筈もない。アサルトライフルから放たれた弾丸はバスの屋根やパワーアーマーに命中する。

銃弾が当たった肩は装甲が抉れて貫通していた。もし、その向こうが生身であったり駆動系部品なら危なかったかもしれない。

 

「奴ら、徹甲弾を装備しているかもしれない!遮蔽物に身を隠せ!」

 

腰に着けていた破片手榴弾を投げてレイダーを吹き飛ばす。しかし、吹き飛ばしたのは数人だけでまだ残り10人前後残っている。

 

「薬中のサイコ野郎が!皆殺しにしてくれる!!」

 

パラディンは埒が開かないと思ったのか、背中に背負っていた大型のバックパックからあるものを取り出す。それは最大級の破壊力を持つヌカ・ランチャーだった。しかし、それを使用してしまえば、周囲は多量の放射能に汚染される。ここに野営するつもりだった手前、それはさせたくない。無線機で止めるように叫ぼうとするが、それをする必要がなくなった。パラディンがヌカランチャーを背負ったその時、多数のライフルが彼に向いていたからだった。

 

「今だ!撃てぇぇ!!」

 

一斉に放たれた銃弾はパラディンの体に命中する。普通の弾丸なら跳ね返す装甲だったが、今回は異なった。奴らが持っていたのはタロンが使う徹甲弾だった。通常の弾薬ではミュータントを傷つけることができないため、タロンはバニスター軍事基地で攻撃能力の高い徹甲弾を使用する。俺が販売するものと同じ貫通力の高い弾薬だった。

 

発射された弾丸はパラディンの装備するパワーアーマーの装甲を貫くと、体を引き裂いた。それは一発ではなく、幾方向から発射され、何十発もの徹甲弾がパラディンの身体を引き裂いた。重機関銃の猛攻でも弾くようになっていても、それがフルメタルジャケット弾などであった場合である。何層の防弾板を貫き、駆動部分を破壊されたパラディンは後ろに仰け反りながら倒れた。

 

 

「ユウキ、パラディンがやられた!俺は交代する」

 

ただのレイダーではないことがわかったウェインは、突撃して奴らを蹴散らそうとは思わなかった。アサルトライフルでレイダーを牽制しつつ、バスの後ろに隠れた。俺は持っていた破片手榴弾の一つを投げてバスの屋根から飛び降りる。

 

「残りはどのぐらいだ?」

 

「さっき手榴弾で吹っ飛ばしたし、ウェインも一人やったから残りは9人か?」

 

「歩く戦車が聞いて呆れるぜ」

 

「俺とお前のは追加装甲を付けているから死なないけどな」

 

「おいおい先に言ってくれ」

 

とウェインは身体を乗り出して突撃しそうになるが、俺は手を伸ばしてやつの肩を掴んだ。

 

「まてまて、一発当たれば対弾能力が低下するからダメだ」

 

「なんだそりゃ、一体どういうこった?」

 

ウェインには全く話していなかったが、追加装甲の装甲はただの装甲ではない。装甲といっても、防弾板を掛け合わせただけでなく、とある工夫が施してある。

 

「こいつ、徹甲弾が命中すると爆発する仕組みになっているんだ」

 

「お前バカだろ!!」

 

ウェインがヘルメット越しでも伝わるような大きな叫び声を放つ。

 

俺が作ったのは所謂爆発反応装甲(Explosive Reactive Armor )である。ドイツの科学者が1970年代に理論を実証し、イスラエルが初めて実用化した装甲である。ミサイルや砲弾などから攻撃を受けた時に、爆発によって攻撃力を低下させる能力があった。小口径弾による誤爆などがないよう作られたものは旧東側諸国を中心に使用される。今回はそれの応用版で、貫通性の高い弾薬でしか反応しないよう反応爆薬の上に装甲版をしているのだ。そのため、二人の着ているT49bの装甲は原型を留めていない形になっている。先ほど死んだパラディンにも追加装甲を勧めたが、拒絶された。もし装備していたら助かっていたかもしれない。

 

ウェインに原理を説明して、渋々突撃するのを諦めた。

 

「それでどうする?一度しか装甲が使えないんじゃ、パワーアーマーの意味がない。万事休すだ」

 

「どうすっかな、こんな時に奴らの気を引いてくれる何かがあれば」

 

手元にある装備を見る。一応、閃光手榴弾の類は幾つか持っている。しかし、レイダーと言えど、元は傭兵部隊のタロンカンパニーである。不意打ちで閃光手榴弾は効くかもしれないが、戦闘中にやっても不意打ちの効果は低い。それに閃光手榴弾の閃光や爆音にも耐性があるだろう。そうなれば気をひくものはない。

 

一度、出直すかそのまま後退してやり過ごすのも手かも知れないと思い始めた時。敵のいる方向にレイダーの叫び声が響く。

 

「おい!この犬をどけてくれぇ!」

 

「スカベンジャードックだ!畜生何匹もいるぞ!」

 

そんな叫び声と共に銃声が響く。俺とウェインはそれを好機と見てバスの影から走る。パワーアーマーの人工筋肉が収縮し、動きをアシストする。ウェインは左から攻め、俺は右の焚き火をしていたエリアへと足を向ける。何人かのレイダーは襲いかかるスカベンジャードッグへと銃口を向けており、こちらには向けていなかった。

 

商人たちが飼っていたらしいスカベンジャードッグの群れはレイダーを混乱させ、獰猛な歯でレイダーの喉元を食いちぎる。

 

俺は引き金を素早く引いて、ダブルタップの要領で二発ずつレイダーの頭に弾丸を叩き込む。4人ほど始末すると、銃声は収まり生存者がいないかpip-boyの動体センサーに目を向ける。

 

「スカベンジャードッグは全滅か・・・・、主人が殺されて怒り狂っていたんだろうな」

 

犬というものは人間以上に忠義深い。それはあたかも忠臣蔵の武士のように自身が死ぬかも知れないのに、果敢に挑もうとする姿勢。だからこそ人間は最終戦争を生き延びたあとも犬を連れているのである。レイダーによって撃ち殺された犬や死ぬまでもう長くない犬を見ながら、他にも生存しているのがいないか調べた。

 

「さっきの襲われていた女はどうした。」

 

「そこに倒れているよ」

 

そこには見るも無残な女の傭兵の姿があり、全裸で横たわっていた。しかし、最後の力を振り絞ってレイダーの首を折って、奪ったライフルで近くのレイダーを撃ち殺したようだ。

 

「あとで墓を作ってやんないとな」

 

「ああ・・・・・、ん?向こうで何か動いたぞ」

 

俺はpip-boyを見ると動体センサーに白い丸が表示された。動体センサーはかなりのスグレモノで敵対感情などが向こうにある場合、赤く表示されて注意を促してくれるvaultサバイバーの必需品である。昔は父が俺のところに来ないか心配で本を読みながら、センサーをチェックしたことがあるため、センサーは馴染みぶかい。しかも、某人を殺しまくるSFモンスター物のような接近音を骨伝導で発するし、何メートルの位置にいるのか教えてくれるのだ。

 

「距離は?」

 

「50m」

 

暗くてよく見えず、暗視スコープを覗けばpip-boyの液晶が見えないためHUDを通してでしか見ることができない。次第にセンサーはそれが接近することを示し始めた。

 

「次第に近づいている・・・」

 

「残り四十m」

 

俺は唐突にも某SFモンスター映画のシーンを思い出す。酸性の体液を持つモンスターに宇宙海兵隊が立ち向かうもので、主役は女性乗組員なのだが、襲いかかる前にそのセンサーが反応していつ襲って来るのかと見るものを緊張させていた。それは一体何なのだろうか。その酸性の化物以上に危険なものではないのか。

 

「残り10m」

 

俺の内心を悟ったのか、ウェインですら声が強張り、携えたアサルトライフルを構える。

 

 

「来るぞ!」

 

俺は身体を強ばらせた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

私の足取りはいつになく軽かった。年の割には身体を動かしていると同年代のロジャーに言われたものだ。いつまでも出世をしないナイト・ロジャーは命令を遵守しない男だが、仲間の為なら命を捨てられるという意思はそんじょそこらの兵士には真似できる事ではない。私以上に前線に出ている男に言われたくなかったが、体の節々が自分の意思についていかない事があるのは薄々と分かっていた。既に年齢は四十を超えて、子供を授かっていたら、その子供は立派な青年になるだろう。だが、私の子宮は今だ子宝には恵まれていない。と言うか愛を育む相手すらいないのだから仕方がない。

 

ナイト・ロジャーは幼馴染という手前、あいつの好きだった女のことはよく知っていたし、その女も私の親友だった。

 

かつて私とロジャー、そしてナイト・椿と共にBOSの先陣を切って戦っていた。私も含めて接近戦のプロフェッショナルであり、GNRが行うBOSの宣伝ではひっきりなしに戦果が伝えたれたものだ。ロジャーは私の幼馴染であったため、あいつのこともよく知っている。そして好きだった女のことも。

 

彼女は元々、BOSの生まれではない。しかし、私の上司が連れてきた部下の一人であり、そのことを咎める理由は私にはなかった。作戦を彼女と一緒にするようになり、仲も良くなり、それまで共に戦ってきたロジャーも一緒に前線に出ていた。その為だろうか、ロジ

ャーが彼女に惚れたのは。

 

「烏の濡れ羽色」という言い回しのような艶やかな長い黒髪。ウェイストランドでは珍しいアジア系で異邦美人というべきだろうか。アジア系と言っても、私がこれまで会ってきたアジア系の女性とは一味違っていた。BOSでも五本指にはいるほどの美貌だろうか。正直、友人の私でさえ嫉妬したこともある。

 

そんな彼女だったが、護衛任務であることを漏らした。

 

『vaultの中に入れないかな?』

 

私は彼女の一言を冗談だと思っていた。しかし、その話をしていくうちに彼女のvaultに入りたい意思は固いのだと分かった。理由は私には理解できないから、聞かないでおいた。なぜなら、彼女はBOSとは雰囲気ともにどこか違う感じだった。容姿もそうだが、戦前の知識は誰よりも豊富であり、時には敏腕のスクライヴでさえ舌を巻くほどに。戦闘要員ではなく、スクライブで科学技術を研究すればいいのではと思ってしまう時もあった。どこか彼女は私達とは違っていた。

 

BOSが最後の餞別としてジェームズ氏を護衛していて、目的地であるvaultの手前で別れ際の際に、彼女は泣いて別れを惜しんだ。彼女の行くvault101は今後も封鎖される予定であったから、今後は会うことはできないだろうと。鋼鉄の兄弟という間柄、本当の姉妹のように親しかった。別れるのは辛かったが、彼女も『やらなければならない事がある』と言っていた。

 

公式には行方不明とし、GNRの放送では戦死と流れた。惚れた女が死んだか行方不明になったとう情報はロジャーに悲しみを与えた。その時、私は一度、椿に嫉妬を覚えた。なぜ、この男は私を選ばずに彼女を選んだのか。私はいなくならないのにと。

 

一人が抜けたことによって、ロジャーとは疎遠になった。時々連絡をとるようにしかならなくなり、私はいつしかスターパラディンという地位にまで上り詰めた。

 

幼い兵士を鍛え上げる教官職であり、私にとっては天職だった。いつしか40という区切りも超えて、女としての山場も過ぎ去ってから、思わぬ一報が私の耳に飛び込んできた。

 

Vault101の扉が開かれて、中から男女が出てきたという知らせはBOSでも届き、ウェイストランド中に広まった。メガトンの入植者はこぞってvaultに足を運んだが、対爆ハッチは閉じられたままだったらしい。

 

私はメガトンに行って椿が無事かどうか知りたかったが、BOSの指揮官として持ち場を離れるわけには行かなかったし、教え子から目を離すことは嫌だった。次第に、vaultから脱出した二人の話はウェイストランドに広まり、GNRでも度々報じられるようになった。そして、BOSのリクルーターの情報では男女のうち男の方は椿の息子だということだった。私はそのことを知り、いてもたってもいられなくなった。だが、さっきも言ったように私は指揮官たる所以。そうそう、動くこともできない。

 

女の方もジェームズ氏の御子息であることも知り、ジェファーソン記念館で浄化プロジェクトを再開し、潤沢な資金でそこを運用し始めたことを耳にした。何度か、エルダーに有給を使えるよう求めたが、戦時下で悠長なことを言うなと苦笑を交えながら苦言を言われた。非常時であるため仕方が無かったが、エンクレイヴによるジェファーソン記念館攻撃によって、椿の息子と出会えたのだから。なんとも運命とは皮肉なものだった。

 

 

椿の息子であるユウキから聞かされた彼女の死。いつか人は死ぬ。だが、友人が死んだ知らせというものは余りにも辛い。その息子は母親と同じBOSのナイトの道を進んでいる。私の使命は彼の親代わりをしろということなのだろうか?

 

母親に似たのか、サラサラとした黒の髪。すこし色黒の肌。ダークブラウンの瞳は母親そっくりだった。

 

息子がいれば、彼ぐらいの歳になっているかもしれない。私はエルダーの命令によって彼が入った偵察隊の指揮官として付いていくことになった。

 

毎回、厳しく鍛えた新兵が戦地に行くたびに何割かの者は戦死する。それは戦場に身を置く者の宿命だった。ユウキは何度も戦闘を経験し、エンクレイヴの猛攻にも耐えた。しかし、人は死ぬときは死ぬ。それは変わらない。銃声と爆発音、悲鳴や怒声が遠くから聞こえ、静かに旧世界に信じられていた宗教の祈りを唱えていた。

 

すると、バラモンのバックに入っていた無線機から先行するユウキたちから連絡が入り、ジャンクヤードの安全を確保したとのこと。私はこれまで以上に嬉しかった。親友の息子はやはりあの椿の子であると。

 

 

ジャンクヤードの広場に入ると、撃ち殺されたレイダーがそこらじゅうに転がり、レイダーの残忍な人間解体ショーもここで行ったらしい。他にも犠牲になった傭兵の死体があったが、そこにはバラモンの布が被さり、戦死したパラディンの死体もあった。私はそのパラディンのもとへ行き、膝を付いて十字を切った。パラディンの宗派はわからない。もしかしたら、神を信じてもいないのかもしれない。だが、私は彼が安らかに眠るよう祈った。ふと、見るとユウキとともにジャンクヤードを掃討した傭兵であるウェインと目があった。

 

「キリスト教で?」

 

「ああ、見た目に似合わないとよく言われるよ」

 

そんな皮肉をユウキと歳が近いウェインは苦笑を交えながら言った。

 

「人は何かを信じているから、強く生きていけるんですよ。そうは思いません?」

 

「なかなか、外見に合わないことを言うな」

 

「それはお互い様」

 

「ふっ」

 

私はウェインという青年は何処か粗暴な者と思っていたが、中身はかなりのロマンチストである。ウェイストランドでは理想主義者と眉唾と言われかねない。だが、今のウェイストランド、そんな人物がいなくては復興が成り立たないだろう。私は周囲を見渡すが、ユウキの姿が見当たらなかった。それを察したのか、ウェインは笑い始める。

 

「ハハハッ、あいつはそこで遊ばれていますよ!」

 

ウェインは腹を抱えて笑い始める。それはどういうことなのだろうか。私は立ち上がるとウェインの指差す方向へ歩き始める。そこはジャンクヤードの中でも風上で、ジャンクヤードの管理小屋のある場所だった。そこに近づくとユウキと覚しき叫び声が聞こえた。

 

「ちょ、シャル!この野獣をなんとかしろ!」

 

「いいじゃない。ドックミートが楽しんでいるんだから」

 

「やっぱ、お前にはネーミングセンスの欠片がぁぁぁ!噛むんじゃない犬っころ!!」

 

そこには親友の息子であるユウキがスカベンジャードックにアマガミされて嫌がり、それを見ているガールフレンドのシャルロットは笑っている姿だった。さっきまで近くで銃撃戦が行われ、その前にはレイダーによる虐殺が行われていたとは露にも思えない光景だ。しかし、犬の名前がドッグミートとは・・・・・。

 

「クロスもなんとか言って・・・舐めるなぁぁ!」

 

ユウキは抗議の叫び声を出すが、スカベンジャードックは止まらない。止まらないというか、わかっているらしく、やられている本人とは違って楽しんでいる。例えて言うなら、遊び道具ができたような、そんな喜び方をしている犬である。

 

「ドックミート!ほら!」

 

シャルロットは商人が残していたバラモンの干し肉を投げる。すると、ドックミートはジャンプして干し肉をキャッチしてモグモグと食べ始めた。

 

「まったく、シャルはもっといい名前にしなかったのか」

 

「でも、本人は気に入っているみたいだよ」

 

本人って・・・・。というユウキのセリフを他所にドックミートは返事のようにワンッ!と吠えた。まるで人の言葉を理解しているかのように。

 

二人が会話している光景は何処かのそれにそっくりだった。私は思い出そうとする。それは私が彼らと同じような年の時、私とロジャーがスカベンジャーに譲ってもらった子犬と遊んだ時だった。あの頃は若く、私はロジャーに抱いていた感情がなんなのかわからなかった。

 

だが、今ならわかる。あれは恋だった。私はこの年になるまでずっとロジャーに惚れていたのだ。この歳でそれを理解するまでかなり長い時間を掛けた。この作戦が終わったら、ロジャーと話したい。私はそう思った。

 

「いや、ドックミートはやめよう。八はどうだ?」

 

「なにそれ?『ハチ』?どういう意味?」

 

「確か日本の初代陸軍大将の飼い犬の名前だよ」

 

「ガルルル!」

 

「怒ってるみたい」

 

「何でぇ!」

 

怒りというよりもふざけているのか、ドックミートはユウキに飛びかかり、器用にユウキの顔をベロベロと舐め始める。ユウキは呻き声を上げながら、シャルロットに助けを求める。しかし、助けを求められた彼女は笑いながらそれを見る。

 

 

これからは彼らの時代だろう。ウェイストランドを復興できるのは彼らのような若い人材だ。

 

私は目の前で繰り広げられている犬と人間のじゃれあいを笑いながら見ることにした。若い頃見た想い人との思い出を重ねながら。

 




ユウキのpeakの一つは『animal toy』と言うもので、主に友好的な動物に遊ばれます。


感想・誤字脱字お待ちしております!(*´∀`*)

※ミュータントの肌の色を緑から黄色に変更しました。にぼし蔵氏よりご指摘から修正しました。ありがとうございます!

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