fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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二話連続投稿です。

日付が変わらぬ内に投稿したので、読んでいない方が多いかも











三十五話 北西セネカ駅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!・・・・はぁ!・・・・はぁ!」

 

荒い吐息と滴る汗。灼熱の暑さで下着が汗ばむ環境で全力疾走は辛い。風は全くといって良いほどなく、雲のない空は容赦なく日光を体に突き刺っていく。

 

走る商人の手には古びた10mmピストル。服には返り血らしきものが着ていたフィールドジャケットにこびりつき、洗わなければ血の匂いを嗅いで野犬かラッドスコルピオンが来てもおかしくない。だが、それらよりも怖いのは同じ人間だった。

 

「ヒャッハー!殺人タイムだ!」

 

古びた中国軍将校の剣を持ったレイダーは雄叫びを上げつつ、商人に襲い掛かった。

 

「く、来るなあぁぁぁ!!」

 

護衛の傭兵は殺され、彼の全財産であるバラモンと荷物はレイダーに奪われた。残ったのはこの身だけ。だが、生きていれば何にでもなる。商人は襲いかかるレイダーにピストルを向けて引き金を引く。

 

慣れていない射撃と全力疾走で走っていた手前。彼の銃の先はレイダーに向いていない。一発はレイダーの肩に命中したが、薬物中毒で痛覚が麻痺しているのでその一発だけでは押し止めるのは不可能だ。商人は二発目を撃とうとするが、ガチャ、という不自然な音を立てていることに気が付く。

 

整備不良のため排莢されず、引っ掛かっているのだ。幾ら引き金を引いたところで撃つことはできなかった。それを見たレイダーはニヤリと口を歪めて剣を商人に突き刺そうとする。

 

商人はこれまでかと、涙ぐんだ目でレイダーを見る。近づいていくレイダー。

 

「今日は肉が食い放だっ!・・・」

 

それを言って切り殺そうとしていたレイダーは剣を振り下ろそうとするが、飛来する大口径の銃弾がレイダーの頭部を破壊する。それは大口径ライフルよりも巨大な50口径の対物ライフル弾だった。レイダーの頭部は原型を留めないほど、砕け散り、脳奬を撒き散らした。それを見た商人は一体何が起こったのか分からなかった。レイダーが倒れる時には重く響く銃声が遠くの方から響いた。

 

 

商人が呆気に取られるのも束の間だった。彼が気づいた時には狙撃者の姿はなく、一人寂しさを感じさせる風が吹き、土埃が舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ナイスキル!良い腕だな」

 

「800m位ならちょろいね。なにせ無風だったし」

 

二脚を広げた50口径対物弾が装填されたM82対物狙撃銃によってレイダーの頭部はまるで西瓜のように砕け散る。スポッター(観測手)であるウェインは俺の狙撃を誉めるが、何しろそこまでの距離もなく無風であったため、楽な狙撃であった。

 

ライフルの二脚を畳み、重火器運搬をするRL-3軍曹へと渡してR.I.S.搭載のアサルトライフルに持ち替えた。

 

ウェインは前のパワーアーマーにタンカラーで塗装し直したものに直している。爆発反応装甲は周囲に被害を与えるために外してあるが、スクライヴが開発した光学兵器を跳ね返す塗料や徹甲弾を貫通させないよう、装甲を厚くしている。同様の改修を俺のパワーアーマーにも施している。

 

高台であった崩壊した廃屋の屋根から下りると、待っていたシャルやドックミート、軍曹に合流する。

 

「ドックミート、ほら」

 

持っていたバラモンジャーキーの欠片を投げると、跳ねて口でキャッチする。それをモグモグと食べる姿はなかなか面白い。

 

ウェインと俺、シャルは廃屋から持ってきたテーブルの上に地図を広げる。

 

「今いる地点はここだ。ここから川沿いに進んでウィルヘルム埠頭を通って橋を渡ってベセスダ市街かすめるように移動する。その後は北西セネカ駅を通ってアレフを過ぎてリトルランプライトへ直進する」

 

本当ならウィルヘルム埠頭からスプリングベールを抜けていきたいが、俺たちが一時期そこにいることがばれたらしく、BOSの偵察員によると、兵力が増強されてヘリのパトロールが増えたようだ。

 

「確か北西セネカはグールの集団がドラッグの研究していたな。あと、アレフは吸血鬼騒ぎもあった。不用意に近づくべきじゃないな」

 

「だけど、この道行かないとエンクレイヴに見つかるし、さらに北に行けばスーパーミュータントの生息地域よ」

 

アレフに近づきたくないというウェインの意見に対し、シャルはエンクレイヴと北にあるvault87の周囲にいるミュータントの生息地帯を通るのに反対した。Vault87に入れば、嫌でもスーパーミュータントと戦わねばならないが、今すぐ奴らと対峙する必要は何処にもない。ならば、弾薬の消費を押さえるようなルートにしなくてはならない。

 

「吸血鬼って・・・・、ニンニクエキスを撃ち込めば死ぬかな」

 

「いやいや、ここは十字架を見せて立ち退かせるか」

 

「銀の弾なら有効化かもよ」

 

吸血鬼と聞いて俺たちは対峙したときにどうするか案を繰り出す。と言ってもそれが放射能に汚染されたミュータントだったら笑うところだろう。それならば、問答無用で弾をお見舞いした方が良い。

 

一休みしていた俺たちは川沿いを進み、ウィルヘルム埠頭に着く。そこでは店を営むスパークルばーちゃんがいて、いくらか支払ってミレルークシチューを食べた。途中で盗賊らしき奴らがやってきたものの、俺たちの重武装さにびびり、何もしてこなかった。一緒にいたシャルにやらしい視線を送ってくるので、手が勝手にホルスターに行きかけたが仕方がない。

 

腹を満たした俺たちは橋を渡ってベセスダ市街の近くを歩くと、負傷したレイダーが数人路面に倒れていた。警戒しつつ、一人に話を強引に伺ってみるとベセスダにもエンクレイヴの攻撃があり、中心部と東側は既にエンクレイヴが制圧しているらしい。負傷したレイダーは命からがら逃げてきたらしいが、俺たちはそれを助けようとはしないでさっさとそこを離れた。

 

そうこうしているうちに夜の帳が近づいてきていた。一応道中のペースを鑑みても以前と比べて早いが、常に走っているわけにもいかない。負傷者を一緒に連れていた時はとんでもなく遅かったが、少数のグループで移動しているためさほど時間は掛からない。ルートはGPSによる測位と衛星写真のリンクによって現在の位置と方角が手に取るように分かった。

 

「このペースなら北西セネカ駅まであと一時間弱ってところだろうな。」

 

「向こうに何もなければいいんだがな」

 

北西セネカ駅の周囲は幾つかの建物がある。封鎖されている建物が幾つかと、商店が一つ。北西セネカ駅には直接の用事は存在しない。あるのは、そこで休息が取りたいということだ。薬物を研究するグールがいるのが唯一の懸念事項だが、こちらから攻撃しなければ何もしてこない。ウェインの話によると、ウェイストランドで流通するジェットと呼ばれる薬物の数倍の威力のある薬物を生成しているらしく、痛覚の麻痺した重度の薬物中毒者や痛覚の鈍いグールなどに最適だそうだ。商人は周期的にここへやってくるが、自分たちが来る頃に彼らが滞在するとは限らない。寧ろ、可能性はごくわずかだろう。

 

しばらく歩いていくと、倒壊仕掛けた橋と荒野にぽつねんと建つ幾つかの建造物が見受けられた。日が落ち始めているためか、周囲にはドラム缶を利用した火が見え、商人がいるのだろうと期待する。しかし、先頭を歩くウェインの合図によって足を止めた。しゃがむようハンドサインで後方に伝え、直ぐさま腰を屈めて全員銃を準備する。

 

「お客さんだ、レイダーみたいだな。奴隷商人もいるようだ」

 

ウェインは俺に双眼鏡を手渡す。ヘルメットを脱いで駅の方向へ見ると、レイダーがいることが分かった。。

 

「レイダーが五人、あとはパラダイスフォールズの奴隷商人達か。」

 

レイダーのスパイクアーマーを着た男女が合計5人。そして傭兵服や整備の行き届いたライフルを持つ奴隷商人達。そして、ボロ衣を纏った老若男女。中にはまだ幼い子供がいた。

 

「メトロはまだ制圧していないようだな」

 

「ああ、確かあそこのグールはかなりのやり手だ。それに、大事な供給先を潰そうとは考えるまい」

 

ウェインは軍曹から消音器が装備されたM40狙撃銃を受け取り、二脚をひろげた。

 

「軍曹は観測手を務めろ。ドックミートとシャルは向こうへ行くぞ」

 

「了解、司令官殿!」

 

「ワン!」

 

「うん」

 

軍曹を残し、俺とドックミート、シャルは北西セネカ周辺の窪地へと移動する。パワーアーマーは軍曹に預け、リコンアーマーを着込みアサルトライフルに消音器を装着した。リコンアーマーの上からチェストリグを装着し、武器弾薬を携行しやすくした。シャルは以前使っていたコンバットアーマーを装備している。追加装甲で若干重くなったかもしれないが、死ぬよりましである。そして、ドックミートは新たな装備が加わった。

 

某ゲームの軍用犬のように身体を守るボディーアーマーを着せており、弾薬の携行を可能にした。勿論、ドックミートが引き金を引くことは無いが、持つ弾薬の量は多い方が良い。動きにくいからとアーマーを嫌がっていたのだが、必要性を説いてやっとのことで着させることが出来た。若干走るスピードが低下したが、許容範囲内だろう。

 

二人に隠密行動するように伝え、腰を低くして前進する。アサルトライフルの伸縮銃床を縮めて取り回ししやすいようにした。

 

ゆっくりと窪地から身体を乗りだし、素早く建物の影へと移動する。既に日は落ちてきており、もうすぐ闇が支配する時間帯となる。影は絶好の隠れ場所だ。

 

建物から身を乗り出して敵の様子を確認しようとする。しかし、歩哨のレイダーが余りにも近い場所に居るため様子を見ることが出来ない。

 

(ユウキ、奴隷商人と奴隷らしき者は雑貨店に入っていった。目の前のレイダーは今ほっておけ。その建物を影づたいに進んで行くと通りにレイダーが1人酒で座って飲んでいる。そいつを先に片付けろ)

 

丘の向こうで監視するウェインは無線で連絡する。俺はアサルトライフルを背中に掛けて、消音器を装備した10mmピストルとナイフをクロスするかのように構えた。

 

シャルとドックミートは待機させ、壁伝いに歩く。すると、目の前の路肩に腰掛けてウィスキーを傾けるレイダーの姿があった。

 

「くそエンクレイヴが~。お前らのせいで・・・」

 

そう呟きつつ、レイダーはウィスキーを煽る。周囲には誰もいないので、丁度よい。ナイフで喉を掻き斬ろうと思ったが、血糊を綺麗にするのは面倒なために鞘に戻した。レイダーがウィスキーを煽り、瓶を地面に置いた瞬間を狙って、レイダーの首を羽覆攻めにする。

 

声を発する前にレイダーの顎を持って思い切り反対方向へ回す。ボキンッ!と物が折れるような音が聞こえ、レイダーは口から泡を吹いて絶命する。地面に放置して歩哨にバレないようにするために、建物の影に引きずり込む。

 

「片付けた」

 

(ああ、後は三人の歩哨だけだ。1人はこちらでやる。同時に始末する。準備しろ)

 

レイダーは残り3人。五人いたが1人は死に、もう1人は奴隷商人と話をしている。

 

シャルにも仕留めるように言い、持っていたアサルトライフルを渡す。シャルの手持ちがレーザーライフルだったために銃声が大きく使えない。、俺が使うのは消音器付き10mmピストルだ。

 

 

(残りの歩哨はメトロ入口にたむろしている。俺は真ん中をやる)

 

(私は右の座っているのを)

 

メトロ入口には、歩哨らしきレイダーの姿があったが警戒している素振りは見せていない。寧ろ、統制が取れていないようで、警戒しなければならないのに煙草を吸い、仲間と談笑していた。雑貨店にいるはずであろう彼らのボスが見れば怒るに違いない。

 

10mmピストルを構えながら、正確に撃てる至近距離まで接近する。左に腰掛ける女レイダーの頭部に銃を向けた。女は三十代過ぎぐらいで、薬物の影響で頬は削がれ、顔色は悪い。夕焼けで周囲が暗くなっているけれども、女の瞳位は分かる。彼女の目は淀んでおり、まるで死んでいるかのようだ。手は震え、薬物の末期症状だろう。

 

「位置に着いた。スリーカウント・・・・3・・・2・・・1」

 

カウントが終わった瞬間三方向から発射された銃弾がレイダー達の頭部に命中する。俺が持っていたのは口径の小さい拳銃弾であったが、二人はライフル弾であったため、撃たれたレイダーの頭は後頭部が砕け散っていた。

 

俺は無線でウェインを呼び、一緒にいた軍曹も駅周辺へと降りてくる。シャルにアサルトライフルを渡していたため、軍曹からP90を受け取って残りのレイダーと奴隷商人のいる雑貨店に突入する準備を始める。軍曹の積載バックから閃光手榴弾を取り出して、扉に近づいた。中では奴隷商人とレイダーのリーダーらしき男が談笑している。今なら突入して全員無力化することが出来るだろう。全員に指示を出し、突入体制に入る。扉近くの壁に寄って指示を出し、左手で持っていた手榴弾のピンに手を掛ける。コンバットショットガンを持つウェインに目配せして突入の合図をすると扉を開けて手榴弾を投げられるスペースを作り、手榴弾のピンを引き抜き、そのスペースへと手榴弾を投げ入れた。

 

閃光手榴弾は転がり、3秒で閃光が商店を満す。数百万カンデラの強烈な閃光と130デシベルの強い爆音が響き、密室に近いそこにいたレイダーと奴隷商人、そして奴隷は一時的な失明と耳鳴りを引き起こた。

 

「move!」

 

ウェインを先頭に勢いよく開かれた扉から突入する。ウェインは持っていたショットガンで近くにいた奴隷商人の胸目がけて12番ゲージを喰らわせ、その衝撃で奴隷商人は商店の壁へと激突。俺はP90をセミオートで発射して、近くにいた奴隷商人と棚の後ろに隠れるもう一人を撃ち殺した。飛び散る血潮が白い棚へと付着し、撃たれた商人は床に伏せる。P90は貫通力が高く、棚を貫通して奴隷商人の右胸と胃に命中し、衝撃によって棚の方へ吹き飛び、脳震盪で意識を失う。

 

「畜生!誰だぁ、くそったれが!」

 

未だ閃光と爆音による後遺症が抜けていないのか、レイダーは見当違いな方向へ銃を向けて引き金を引く。閉じられていた窓に命中して木片とガラス片が舞う中、シャルは迷うことなく、アサルトライフルの引き金をひいて至近距離で銃弾の雨を降らせた。身体が衝撃を吸収できずに、壁にぶつかり胸や腹は引き裂かれる。迷いもなく撃ったシャルの成長には目を見張る思いだ。

 

敵対する者を全て排除したことを確認すると、「Clear!(制圧)」と言って戦闘が終了したことを知らせた。

 

「ふぅ・・・・、ウェインと軍曹は周囲の警戒。ドックミートはレイダーと奴隷商人から使える物を探して、シャルはそこの人たちの手当を頼んだ」

 

商店には奴隷商人の持ち物とおぼしき物品が置いてあり、寝袋や小型ガスコンロがあるのを見るにかなり財布が重い連中であったことが理解できる。さらに背嚢の中には乱雑に入った弾薬箱や小金庫が押し込まれていた。彼らが荷物を支度していたとき、切羽詰まった状況であったに違いない。

 

「この包帯を巻くんで、動かないで下さいね」

 

奴隷商人が連れてきたとおぼしきみすぼらしい服を着る男女数人と子供が数人。子供の方を見ると、眼つけて睨み、すぐに視線を反らす。奴隷として育てられたなら、大人への信頼など無いに等しいだろう。こんな体験をすれば誰も信用できないのかもしれない。すると、子供の1人は俺の事を見ると、怪訝そうな表情で聞いてきた。

 

「ねえ、ムンゴはこれから私たちをどうするつもり?」

 

それは彼ら奴隷達の総意だろう。自分達はどうなるのか、BOSなら即時解放。それ以外ならキャップの為に転売もあり得る。それを恐れた大人の奴隷は口をつぐむものの、子供の口に戸は立てられない。すると、治療を終えたシャルは子供の頭を撫でながら答える。

 

「[Child at heart]大丈夫、何も心配いらないからね」

 

と言うと、奴隷であった彼らは表情を緩める。中には持っていたガラス片を落とすほどだ。余りにも気を緩めすぎてそのまま倒れてしまった者も居たようでシャルが慌てて駆け寄るものの、心配は要らなそうだ。ただの過労で倒れたらしい。

 

彼らは人権など塵カスに等しいこの世界の奴隷としてこき使われた。ここまで来るのも大変だっただろう。子供はシャルの膝でスースーと寝息を立てて寝ている。

 

俺はまだ起きていた奴隷に話を聞くことが出来た。

 

「あんた、名前は?」

 

俺は雑貨店で置いてあったコップを一回濯いでから、綺麗な水を入れて渡す。

 

「スティーヴだ・・・これ本当にいいのか?」

 

スティーヴは躊躇いながらも、手を伸ばしていた。

 

「ああ、貴重だから溢さず飲んでくれ」

 

そう言うと、彼はコップを取って飲もうとする。一瞬気管に入り掛けたようで一瞬噎せそうにしたが、一気にそれを飲み干した。

 

「・・・・はぁ~!こんな美味しい水飲んだのいつぶりだ!」

 

「それは良かった。あんまりあげられる水はないが、いいか?」

 

「いや、綺麗な水を飲ましてくれただけでも嬉しいさ。普通なら放射能汚染された水だからな。本当にありがとう、感謝しきれないよ」

 

スティーヴは一時期メガトンで傭兵をしていたらしいが、借金がかさんでトンズラ。北上したが、スーパーミュータントと遭遇して殆んどの弾薬を消費してボロボロになりつつもビックタウンに到着。弾薬は余り手に入らず、西へと移動したところ、愛銃が壊れ、奴隷商人が彼を発見。抵抗虚しく奴隷となった。当初はピットに送られる筈だったが、エンクレイヴの活動が活発化して輸送路が使えなくなった。ストックばかり増えるため、レイダーに男は食用として売り込もうとしたところ、エンクレイヴの襲撃に遭って、その隙に奴隷は逃げたようだ。ある程度逃げたものの、遠征中の奴隷商人に見つかり、今に至る。

 

「と、言うことはパラダイス・フォールズはエンクレイヴによって壊滅したと?」

 

「更地になった。文字通りにな」

 

嘗てそこにはウルトラ・スーパー・マーケット系列の巨大ショッピングモールがあったらしく、地盤も頑丈であった。そもそも、大戦争時にパラダイス・フォールズは米軍の臨時補給基地だったこともあり、周囲には破壊された建物を効率よくバリケードにしていた。。戦時中はジャーマンタウン警察本部を避難民と負傷兵の野戦病院として使っていたこともあるため、補給としての設備も幾分か整っていた。

 

「飛んでいた・・・たしかヘリだっけ?あれからの機銃掃射とミサイル攻撃。そして極めつけは戦車が敷地内に突っ込んできたんだっけ。」

 

エンクレイヴによる電撃作戦。空と陸からの攻撃に奴隷商人は手も出せず、引き裂かれ、彼らは地獄の業火に焼かれた。

 

「ユーロジーのくそ野郎もくたばったし、もしかしたらBOSの時代からエンクレイヴへと換わるかもな。奴隷商人の話じゃ、メガトンとリベットシティーに新品の浄化装置が運び込まれたらしい。ミュータント駆除に掛かりっきりのBOSと比べたら心証は大きく変わるだろうな」

 

彼の話を聞く限りウェイストランド人の心の中では既にエンクレイヴの方が好感度が高い。正義と言うものは大抵、多い方が。そして強い者の味方である。以下に外道で悪であったとしても、それらが強大であり、人々の支持が得られてしまえば正義と成りうる。『勝てば官軍、負ければ賊軍』とあるように、負けてしまえばそれは「悪」に成ってしまうのだ。

 

そして、ウェイストランド人である俺はどちらに付けば良いのだろうか。BOSに入ったとしてもそこまで忠誠があるわけではない。母が入っていたと言っても、その繋がりで心中は御免だ。俺の記憶ではエンクレイヴという存在は極悪非道の軍事集団だ。しかし、今のエンクレイヴは多面性を持ちつつも、ウェイストランドを良くしようとしている風にも見えなくはない。もし、それが事実であるならば、自分の立ち位置を考えなければならないだろう。

 

スティーヴと別れて、雑貨店のカウンターへと足を伸ばす。そこにはドックミートが伏せの状態で尻尾を振って待っていた。俺を見て吠えようと構えるが、俺がシッ!と口に指を添えると、ドックミートは吠えるのを辞めた。

 

「よし、良い子だ」

 

俺は頭や首を撫でてから、ポケットからバラモンジャーキーを取り出して半分に千切って与え、残りのジャーキーを口に頬張った。ビーフジャーキーと同じ味で、海水から抽出した塩で味付けしたそれは日中の時間帯に流れ出た塩分を補完する。ドックミートはもっと欲しいと俺のジャーキーの匂いのついた指をペロペロと嘗める。

 

「今日はこれだけな。明日美味しいの作ってやるから我慢してくれ」

 

「クゥ~ン」

 

それを聞いて心なしか凹んだドックミートは尻尾と耳を垂らす。俺は「すまない」と言って毛並みを整える。ふわふわとする毛並みは気持ち良く、またドックミートの体温は夜のウェイストランドの冷えから逃れさせてくれる暖かさを持っていた。

 

「ドックミート、お前どう思う?」

 

 

「フゥ~ン?」

 

明らかに「何の事だ?」と聞いているようで、俺の顔を見る。

 

「エンクレイヴをどう思う?」

 

「ワフ」

 

とドックミートは頭を横に振り、明らかに「俺に聞くな」と言っているようだ。そして俺の悩みなどどうでも良いらしく、俺の膝に顎を伸せて大きく欠伸をする。大分疲れているようで、個々まで来る間は匂いによる索敵も行っていた。ドックミートの活躍は非常に助かっている。

 

俺はpip-boy機能にあるミュージックプレーヤーを起動した。年月は経っているものの、ミュージックプレーヤーの中にあった音源データは無事であった。pip-boyにはそれを組み込んで再生可能にしてある。それを操作して再生ボタンを押す。pip-boyは使用者に特殊なナノマシンを体内に注入しており、V.A.T.S.や各種体調バランスを管理していた。ミュージックプレーヤーは聴覚神経に直接働きかけて、曲を再生する。周囲に流れることはなく、サバイバル面においてもそれは重宝する。

 

流したのは、何の変鉄もないクラシック。ベートベンの交響曲第9「運命」。

 

その曲は人生の有り様を表現しているようで、人生は波あり谷ありというものを教えてくれる。

 

既にそれらは失われている名曲の一つだろう。俺はそれらを聞きながら、ウェインが交代するその時までドックミートと静かに待ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よう、リスナーの皆元気にしてるかい?Threedogの情報網から集めた最新ニュースをお届けしよう!

 

 

さて、どうやらエンクレイヴの軍隊共はリンカーンが禁止した奴隷売買禁止法に基づいて動いたらしい。あのくそったれのパラダイスフォールズは今や瓦礫の山。既に消毒されてエンクレイヴの前線基地へと改造されているらしい。そこにいたユーロジーのすけこまし野郎は死んだらしいな、因みにこれは奴の近くにいた奴隷の話だ。奴等の大半は死んだが、少しはまだこのウェイストランドをさまよっている。君達が善人なら、奴等の頭に鉛弾を撃ち込んでやれ。これがやつらに殺された者達への供養だ。

 

 

さて、今日はリスナーよりお便りを貰っている。

 

誰だか知りたいか?これはメガトンのマーニャ・バーガスという老婦人からだ。内容を掻い摘んで読んでいこうと思う。

 

彼女の住むメガトンはエンクレイヴの進駐部隊によって統治されているらしい。以前あった保安官の統治はなくなってエンクレイヴの文官が仕切っている。彼女の文章を読む限り、俺が考えていた悲劇はなかったようだ。

 

彼女曰く、「エンクレイヴとBOSのどちらを信じれば良いのだろうか?」と。

 

もし俺ならば、BOSだろう。

 

リスナーのみんなはエンクレイヴを信じるかい?俺としちゃエンクレイヴの言っていることなど嘘っぱちだと考えている。アメリカの復興?どう考えても無理な話だ。首都の国会議員なんてものはないし、アッシュで作られたバットなんて野球用に使っちゃいない。人を殺す道具でしかない。ケンタッキー州のある田園?リスナーの諸君、君たちは田園をみたことがあるかい?答えはノーだ!奴の継承する偉大な合衆国政府が中国との戦いで全てを無にしたからな。

 

どうだい、みんな。エンクレイヴをまだ信用できるかい?俺はDJをやる前はひ弱な人間で家で本を読むしかなかった。その本は俺たちの祖先が作ったアメリカ建国から大戦争になる前まで記録されていた。俺が読んでいた本は俺の父や祖父、そして代々受け継がれていた日記だった。

 

日記では今流れているラジオがどんどん戦争をしていくに従って、流されている内容が酷くなっていくのを書き記していた。読んでいるたびに心が痛くなるよ。リスナーのみんなに嘘を言うDJがいるなんて本当に悲劇だ。

 

戦前のラジオや新聞は戦意高揚の為のニュースを流していた。そこには誇張され、嘘で塗り固められているものばかりだ。そして、やっている政策も然り。リスナーのみんな忘れないでくれ。Brotherfoot of steelはウェイストランド人の味方だ。

 

 

 

さて、音楽を掛けよう。さてこの曲は圧倒的な敵を打ち倒す中々かっこいい曲だ。俺達に相応しい。

 

歌手はLinked Horizonというグループで 紅蓮の弓矢。

 

聞いてくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何故、あの曲にと思ったでしょうね(笑)

実のところ、作者のネタ切れが理由の一つですw

誤字脱字・その他感想などお待ちしております!

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