fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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やっと書けました。

十一月初めに大学の文化祭があり、自分主導の元で文化祭の出し物の指揮をしていました。

十月までに書こうとしていましたが、やっぱり月を超してしまい申し訳ない。

最後の区切りでは三人称になっていますが、そこは場面と視点が異なるので仕様ですww














三十六話 Vault87 上編

「ムンゴ、早く早く!」

 

2人のリトル・ランプライト住民のサニーとペニーは俺達の先頭に立って彼らの住み処まで案内している。無論、周囲を警戒しているものの、彼女達のスピードが予想以上に早く、距離を離されているのが現状だ。

 

「二人とも、もう少し遅く歩いてくれ。俺達はパワーアーマー着てるから辛いんだ」

 

強いて言えば重い。パワーアシストされていると言えど、着ているものは鋼鉄の鎧である。普通のアーマーとは風通しが悪いし、動きづらい。

 

たまにちびちびと水を口に含み、あまり飲みすぎないようにしつつ、目的地まで進む。途中レイダーキャンプに遭遇したが、その殆んどがエンクレイヴの空爆によって壊滅しており、歩兵部隊の火炎放射器によって死体が燃やされ、黒煙が空を覆った。

 

 

偶然、群れとはぐれたモールラットがいたため、殺さないよう捕獲しようとした。しかし、モールラットはゴキブリ以上の生存能力があり、リベットシティーの研究者からの報告では、殺してから一週間は肉が動いていたと言う報告がある。核戦争の影響で巨大化したモールラットだが、細胞自体も強固になった。

 

捕獲してランプライトの交易の品にしても良いのだが、移動に時間が掛かるため、その場で仕留めて解体して行った。解体して残った物はラッドローチや野犬、スコルピオンが食い漁る。食物連鎖やそういう観点からしてみれば、放置していくのも自然の摂理だろう。

 

 

はぐれたスーパーミュータントに遭遇することもなく、俺達はランプライトのすぐ目の前に到着することが出来た。

 

「ムンゴ、ここが私達の家だよ」

 

「そう言えばペニー、ムンゴってなに?」

 

俺はムンゴと何故呼ばれるのか気になったため、サニーと一緒にいるペニーに話を聞く。

 

「う~ん、おいらも分からないんだけど。昔のおいらのような子供の書いた日記があってな」

 

ペニーは包み隠さず話し出す。俺達は一度その話を聞いてみる事にして洞窟に入るのはそれが終わってからとした。

 

 

彼らの洞窟は嘗ての観光名所であり、ワシントンD.C.近郊では最大規模の大きな洞窟だったらしい。最終戦争の当日。スプリングベール小学校の生徒は遠足でこのランプライト洞窟に入った。彼らは年相応のはしゃぎっぷりで洞窟の管理人には日誌で大変だったと書き記されている。しかし、入ってから一時間後には西海岸が壊滅。引率教員は洞窟で待機することにした。

 

数十発の核が東海岸に投下され、地獄の業火に燃やされた。政府はもし核が落とされたとしても、政府中枢が破壊されないことを宣伝していた。そして被爆してもRad-XやRad-aWayによって被爆を無くせると言っていた。そして、核投下後の地表は爆心地以外であれば大丈夫だと公表していた。

 

だとしても、神の力とも揶揄された核爆弾の威力は相当なものである。その予想は非常に悪い意味で覆された。洞窟の教員や洞窟の管理者は救援を求めるべく、地表に上がろうとする。

 

その時大人でさえパニックに陥っていた。彼らはここに居て欲しいと言う子供達の渇望を無視し、外へ飛び出した。外は文字通り地獄だった。

 

放射能と業火に犯され、皮膚がケロイド状となった被爆者。中には正気を失って人を喰らう姿。ある一方では上陸する中国軍を向かい撃つべく、満身創痍のアメリカ軍。ホワイトハウスは核の直撃を受けているため、指揮系統が分断され、自国民にすら兵士は平気で略奪を行う。そこは隣人が獣へ、防人が盗人へと変わる地獄だった。助けを求めにいった大人は分からない。アメリカ軍に助けを求めて流れ弾に当たったか。それとも、正気を失った人間に襲われたか分からない。だが、結果として、子供を見守るべき大人が居なくなった。

 

子供は助けを求めてVault87へと向かった。そこには、彼らが求める大人が。自らの親となり得る存在がいた。しかし、Vaultの監督官はハッチを開くことはなかった。何故なのかは分からない。だが、子供達が大人を信用しなくなったのは事実だ。そしてリトル・ランプライトと呼ばれたそこに子供を捨てに行くのは子供だけで生きていける環境だからと大人達は思ったのかもしれない。しかし、子を捨てるという行為はその地の子供達に大人達への疑念と怨念が長年降り積もり、子供だけのコミュニティーが出来上がった。

 

その話を聞いて俺は意外にも動ずることがなかった。このことは既に考えられることだった。そうでしか、彼らの存在はそうでしか成りえず、必然であった。彼らの存在を知らないシャルは涙ぐみ、故郷であったウェインはリトル・ランプライト出身であるため、固い表情で握り拳を作っていた。

 

ウェインはランプライト出身で、元ビックタウン住民の一人である。彼もその話は知っている筈だった。彼はどうなのだろうか。子供の頃はムンゴと罵っていたであろう彼は今では立派な大人となっている。

 

現実はピーターパンのように子供のまま生きることは出来ない。いずれは成長し大人となっていく。それは自然の摂理であり、時は戻ること無く進み続ける。

 

そんな話をして俺たち全員が気を暗くしている中、普通なら躊躇う筈であろうその空気を読まず、あえて話し掛けてくる愚か者(勇者)がいた。

 

「あ、そこのムンゴ・・・じゃなかった!そこの人、実はランプライドから追放されたんだけどぅ、ビックタウンに一緒に行って欲しいんだけど、できません?」

 

よくこの空気を読まないまま聞いてきてくれた。怒りは通りすぎ、呆れすらも無くなった。あるのはそう、尊敬に近かった。

 

 

すると、ウェインは憤怒の表情というのだろうか。まるで般若のお面のような顔で喋ってきた少年の胸ぐらを掴んだ。

 

「う、ウェイン!空気読まないからってそれは!」

 

「こいつは何度もやる。昔も言っただろ!話しかける前に少しは状況を考えろって!」

 

「・・・え?」

 

俺はすっとんきょうな声を挙げ、彼を止めようと伸ばした手を止める。

 

「ウェイン皇帝!お、お久しぶりぃ!え、ちゃんと読んだよ。」

 

「読んだなら普通は声掛けねぇだろうが!」

 

その光景を見て思う。この二人はもしかして・・・・

 

 

「もしかして生き別れの兄弟!?」

 

「んな訳あるか!」

 

鉄拳が飛んでいき俺の側頭部に命中する。そしておれは理解した。このウェインはビックタウンの元リーダーであり、そして拳による恐怖政治で統治していた暴君だと言うことに。てか、なんで皇帝?

 

 

そんな疑問を他所に一人は怒鳴り、もう一人はそれを苦しそうに聞いている。ウェインの表情は怒りと言うよりも懐かしい友に逢って喜んでいるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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玉座と言うものをご存知だろうか。

 

それは王と言う人々の頂点に立つ者の椅子である。選ばれたものしかそこへ座ることは許されない。そこに座る者は国家の代表として、象徴として民族或いは国家の支配をする。人の命すら簡単に権力によって消し去ることも出来、王を侮辱すれば不敬とされ罰せられた。近代に入って立憲君主制に始まり、国家の礎は王ではなく国民に移り変わった。自由を求める国民は王を抑制する憲法を。王を慕う臣民は法の上に王が立つ憲法を作った。世界が二度戦火の炎で包まれたとき、人の上に立つ王は事実上消滅した。最終戦争前、王家はあったとしても、主権は国民に委ねられた。玉座はあったとしても、嘗ての権威と名声、国家の象徴が集中した椅子ではない。王であった子孫が座る生きる文化遺産と表現するのが相応しい。

 

最終戦争後、アメリカは無政府状態となった。核の炎で包まれたその地には民主主義国家はなく、嘗てのような君主政治を行う地域も存在する。荒廃した大地は人の心ですらも荒廃させ、文明レベルも衰退した。

 

 

何が言いたいと思われても無理はない。しかし、キャピタル・ウェイストランドにも君主制が存在したことは知られていない。この俺でさえもゲームでやったことを覚えていない・・・・本当にこんな内容だったのか。

 

「やはり、この椅子がしっくりくる。まあ、成長したからかもう少し大きい方が良いかな?」

 

ウェインは嘗て洞窟管理責任者の椅子に座る。そこはランプライト洞窟を管理する州の観光局の責任者が座っていた。皮張りの椅子は高級感溢れ、住んでいた子供達が装飾したらしき飾りもある。彼の目の前にはデスクがあるが、上に置かれた「マクレディー市長」というネームプレートは伏せられていた。

 

「う、ウェイン帝!もう許して」

 

「許さん、全く弟がお前に何故後任を譲ったのか分からん!」

 

オフィスに置かれた子供用の小さい椅子にはタンクトップに半ズボン、そしてパーティー帽を被るマクレディ市長がいた。今にも泣きそうな顔は辛うじて男だから泣くわけにはいかないと我慢しているように思える。彼のその格好は妙に可笑しく、ここで悪いことをすると着せられるある種の罰則らしい。

 

 

ウェインが居たときのランプライトの状況としては稀に見る安定期らしい。ウェインとジムの兄弟両名による先制政治は民主主義とは違うものの、住民の意に沿った事が行われた。ランプライトでは彼らのリーダーの称号は自身で決められるらしく、過去には大統領や大佐、議長や総理などあったらしい。

 

そしてウェイン達が選んだのは皇帝。絶対的権力を保持する存在になった。決め方は普通に選挙であり、ウェイン達は住人の支持があったためである。例えば、ウェインの場合。奴隷商人から子供を助け、殺人通りから入ってくるスーパーミュータントを仕留めたり。

 

支持率はうなぎ登り。歴代ランプライトのリーダーでもここまでの逸材はいない。しかし、歴戦練磨の少年にも敵わないものがあった。そう、時間である。

 

彼は歳を経ていくうちに成長した。二次成長になり、大人と変らなくなる。そして十五歳になって彼はリトルランプライトから追放された。彼には弟分がいた。ジムは一緒に同じ場所に捨てられていたので兄弟かどうかは定かではない。しかし、下手に血の繋がった兄弟よりも強い絆があったことは確実だ。

 

今にも泣きそうな拘束されているリトルランプライトの長であるマクレディはウェインが教育していた中でも一番の問題児であった。そのため、ウェインは住民を事務所に寄越し、門の歩哨以外は隣の詰め所で待っている。彼らの話を聞くと・・・・

 

「マクレディはいっつも癇癪で周りに怒鳴るんだ。理不尽だよ」

 

「私の友達はマクレディに好かれてて強引にデートしようとしてた!」

 

「バラモンステーキを独り占めする!」

 

「いっつも本を貸すとボロボロの状態で帰ってくる!!」

 

と、やりたい放題であり、マクレディに対しての批判が数多くある。普通なら弾劾裁判のように罷免出来るらしいが、マクレディの取り巻きが力で押さえ付けているためどうにもできない。だが、その取り巻きはウェインの鉄拳制裁によって泣きべそ掻いている。

 

「子供は小さい大人として接するべき・・・か。それは無理だろ」

 

過去に子供を小さい大人として見るべきと中世中期辺りから言われていた。しかし、今ではそれが間違いであることは常識であろう。今の状態を見る限り、リトルランプライトは自治組織としては機能していないと見るべきだ。

 

他の皆、シャルは捨てられて間もない乳児の世話をしていて離せない。ドックミートはリトルランプライトで飼われている雌犬のお尻を追っかけている。軍曹はリトルランプライト整備士が整備している。最初は躊躇いを覚えたが、子供の整備士の腕は確かだったため、軍曹を預けた。

 

「やはり、子供だけでやっていくには無理がある」

 

ウェインは寂しげに呟いた。リトルランプライトは完全なる子供の集落である。ウェイストランドの孤児が集まり、子育て出来ない者が子供を捨てる場所として知名度が高い場所だ。

 

しかし、未熟な彼らに一人で生きるのは無理があった。一年に数人は食中毒や病気、放射能障害によって命を落とす。生活も子供のそれ相応の生活しか出来ない。技術面においてもそれらは変えることの出来ない経験の差があった。

 

「じゃあ、どうする?」

 

「基本的俺はお前等みたいなお人好しじゃない。浮浪者に水を挙げたりしないし、簡単に人を信用しない。それに俺ならセネカでも違う場所で休息を取る選択肢を取っただろう。俺の古巣だが・・・・ランプライトの彼らが大人に心を開くとは思えん」

 

それは彼が経験したからこそだからだろう。昔ならなら孤児は孤児院に入る。善良な大人なら、正常な社会なら彼らも心を開いただろう。だが、Vaultを開かなかった大人によってリトルランプライトの子供達はその扉を閉ざし、いつしか捨てられる子供が思う怨み妬みが集った結果今のような社会が形成された。

 

「俺はウェインの判断に任せる。でも、その前にシャルの所に行かない?」

 

俺はウェインに手招きする。彼は「イチャイチャすんじゃないぞ、リア充」と訳の分からないことを言って俺の後に続く。

 

管理長の部屋を出て、その隣の詰め所へ赴く。そこには集落の子供全員が集まっていた。度々聞こえる子供の笑い声が廊下に響き、ウエイストランドではあまり聞こえないその声に心が暖まる。

 

「え!じゃあ、竜に姫は食べられちゃうの!」

 

「いいえ、そこに来るのは誰だと思う?」

 

「王子だ!」

 

「違うよ、従者だ」

 

詰め所にはまだ幼い子供がシャルの読み聞かせを聞いていた。彼女は読みながらも挿し絵を見せながら説明する。因みにリトルランプライトの識字率はかなり低い。そもそも本を読むのはリトルランプライトの記録係か本を漁る希な子供位なものだ。

 

シャルは乳児の世話が終わった後、隅に置かれた絵本を読み聞かせていた。それがまだ小学校の年代の子には大ウケしていた。ここにはVAULTスクールのような学習施設は存在しない。

 

子供は好奇心の塊だと表現する人がいるがまさしくその通り。彼らは語るシャルを囲みながら和気藹々と話を聞く。その本の題名は分からないが、ファンタジーの鉄板ネタであることが分かった。

 

「『従者を連れた王子は竜の住む城へたどり着きました。其処には竜によって倒された亡き勇者達の亡霊がいます。竜は彼ら亡霊を使役していたのです。王子は持っていた勇者の剣を。従者は弓や槍、斧を持って立ち向かいました。嘗ては巷を騒がす勇者だった操られし者の戦い振りは王子達を苦戦させるものでした』」

 

絵本を捲り、その壮絶な戦いに子供達は心を打たれる。たった一人の女性のために王子と数名の従者は圧倒的な数の敵に立ち向かった。その絵本・・・、絵柄は物々しい血沸き肉踊るような描写であり、絵本と呼ぶには差し支えがあった。むしろ、なぜそれをシャルが選んだのか。

 

「『死の谷や亡霊の街、エルフの住む密林、多くの旅をしてきた勇者には沢山の仲間がいる。寡黙なエルフの弓使いや斧を振り回す小柄ながらも豪快なドワーフ、王子とは敵対する恋敵だけれど愛するもののために戦う敵国の騎士。彼らは操られし勇者の亡霊や竜に従う魔物を倒し、幽閉された姫を救うために竜のいる城の最上階にたどり着きました』」

 

ボロボロになりながらも、互いの肩を支え、流れる血を止めて前進し続ける王子達。そして遂に姫を捉えている竜と対峙する。

 

それは見ていた俺とウェインはその絵に吸い込まれるのではないかと言うぐらい、物語を聞いていた。語り部であるシャルが上手だったのか、それとも挿し絵に書かれていたものがリアル過ぎたのか。骨の髄まで震え上がるような竜の姿に自分達が襲われるのではないかと錯覚する。

 

「『そして王子達は戦いました。あらゆる技術で立ち向かい、エルフは竜の目に矢を。ドワーフは斧で竜の尻尾を切り、槍使いは竜の土手っ腹に一撃を、最後に王子は惜しくも竜を倒そうとして死んでいった勇者達の弔いとして、亡者から拾い上げた幾つもの剣で切り裂いた。竜は硬く強い。しかし、四人が束になって掛かれば強大な敵でも打ち倒せる。しかし死闘の末、竜は王子を食おうとし、飲み込まれました』」

 

子供達はその衝撃的な展開に驚きの声を挙げる。その展開に驚き、王子さまが死んじゃうと涙ぐむ女の子がいた。

 

「『王子は竜の胃の中で自身がまもなく死ぬのだと考えました。そしてこれまで経験した全てがが走馬灯のように見えました。道中出会った仲間、旅先での事件や出会った人たちの笑み。そして旅立つ目的であった姫の顔。王子は死ぬこと受け止めず、一緒に食われた勇者の剣を腹の中で振り回しました。竜の皮膚はとても堅いですが、中はとても柔らかいものでした。身体の中を斬り付けられた竜は痛みに苦しみます。そして王子が脈動する心臓に突き刺すと竜は心臓のある場所を押さえながら倒れました』」

 

子供はやった!と騒ぎ、シャルがページを捲ると苦しみ悶える竜の姿があった。それは今にも最後の雄叫びをあげる竜の様子で血みどろの従者が絵のサイドに写っていた。

 

「『従者達は倒れた竜の腹をこじ開けました。其処にはボロボロになった王子の姿がありました。王子は勇者の剣を杖のようにして姫の元に走ります。何度転けようとも、彼の足は止まりません。そして姫の横たわるベットのカーテンを開きました』」

 

 

子供達は息をのみ、その後の展開を待ち望む。

 

「『眠らされていた姫は王子の口づけによって目覚めました。姫は王子の様子や従者の姿に驚きます。満身創痍の彼らは鎧もボロボロで綺麗な服を何一つ持っていないのですから。彼らはそんな状態でも笑いながら姫をエスコートしました。目指す先は彼等の故郷。竜は倒され、暗雲が立ち込めていた空は青空に変わっていました。世界は王子によって救われたのです。王子と姫はどうなったのか、この本には書かれていません。ドワーフとエルフの種族を越えた友情の話や姫と結婚する王子に迫り来る元従者であった恋敵の騎士の話。それらは次の本で明らかになるでしょう。しかし、それが無かったら?想像してみましょう。この旅を見届けた君達なら、一緒に戦った従者であるなら、未来は自分で描くことを考えましょう』」

 

 

シャルが本を閉じると今までにない静けさがこの空間を覆った。そして、一つ二つと拍手と歓声が響いた。

 

「面白かった!!」

 

「私、本が読めるようになりたい!」

 

「僕も読みたい!お姉ちゃん、字を教えて!」

 

見ていた子供達はシャルに群がった。しかし、字を教える時間はな

いため、シャルは子供達の頭を撫でて喉の奥から捻り出すように声を出した。

 

「ごめんね、お姉ちゃんはやらなければならないことがあるの。帰ってきてから教えられるから、ね?」

 

GECKの回収。それがやるべきこと。シャルは本当ならリトルランプライトに住む彼らの世話をしたかった。しかし、それは後回しにしなければならない。

 

「え~!・・・・やだよ、殺人通りなんて行ったら化け物に殺されちゃうよ!」

 

「また他のムンゴと同じように僕たちを置いていくの?」

 

それを聞いたシャルは驚きを覚え、そして涙ぐみながらそれを呟く子供を抱き締めた。

 

「置いていったりしない、必ず迎えに来るから。だから、悪いことしないで皆と待っていてくれるかな。やることが終わったら直ぐに迎えに来るから、ね?」

 

「やる事ってなあに?お姉ちゃん」

 

まだ小学校に満たない子供がシャルの服を引っ張る。俺はそろそろ涙腺が崩壊しそうになるシャルの肩を叩いた。

 

 

「お姉ちゃんはね、ウェイストランドを救う大事な仕事があるんだ。もう夜遅いからシャルお姉ちゃんと俺が旅してきた話で終わりにしよっか。シャルは軍曹とドックミートを集めてくれ。そろそろ、出発しないと」

 

俺は立ち上がるシャルと同時にその場の椅子に腰掛ける。

 

「よし、君達。今の冒険談に負けない武勇伝を話すとしよっか」

 

「え~!おじちゃんよりシャルお姉ちゃんがいい!」

 

え、ちょっと待てやコラ!おれはまだ二十歳も過ぎて・・・いや過ぎたか。そんな若い奴を捕まえておじちゃんとかいうなや!

 

「おじちゃんじゃない。シャルより一歳下なんだぞ、お兄さんって呼びなさい」

 

「どうみても親父だろ!」

 

「髭はえてるしムンゴは頭悪りい!」

 

最近は髭も沿っていないため無精髭が生えている。正直剃りたいのだが、落ち着いたところで剃りたいものだ。子供の住むリトルランプライトでは髭そりなんてものはないため、剃れない。

 

そして頭悪い発言はちょっと許せん。拳骨をお見舞いしたいが我慢しよう。

 

「わかったわかった・・・・・子供は苦手なのに。じゃあ、シャルと俺が何でここまで来たか教えてやる。」

 

俺は話し始めた。口下手なので上手く話せないけれど。彼らは理解していたから良しとしよう。

 

 

そんな話を眺めていたシャルとウェインはクスクスと笑っていた。

 

「ユウキが子供に接してる。あんなに嫌がってたのに」

 

「まあ予行演習なんだろ。いつ作るんだ?」

 

「セクハラよ!・・・・もう少し後かな。ユウキはまだ欲しいとは言ってないけど。私は・・・」

 

シャルは頬を赤らめ、ウェインはそれを可愛らしく思う。もしシャルがユウキとデキていなければ、ウェインはアタックするつもりでいた。会ったときから仲が良かった二人だから少し遠慮していたが、こんな表情をする彼女を見ればどんな男でも惚れるだろうとウェインは思う。

 

「俺もすこし決心がついたよ」

 

「?」

 

呟いたウェインの言葉にシャルは首を傾げる。

 

 

「俺はこの場所に捨てられ、成長してこの場所を出た。子供の頃は心底大人を憎んでいた。でもそれは・・・・親が欲しかったんだろうな」

 

子供に愛情を注ぐ母親、そして苦手でも子供に向き合おうとする父親。それが何であれ、彼ら子供には生みの親が必要だった。

 

「俺は彼らにはもう親を持つ心は無いのだろうと思っていた。だけど、二人を見る限りそうとは言えないな」

 

ウェインはシャルに微笑み、弾薬の入った背嚢を背負う。かなり重いそれはウェインの肩に重くのし掛かる。しかし、彼の背中はここに来る前より幾分か軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

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殺人通りとはランプライトの住民が名付けた名前である。数年前に彼らの住みかはスーパーミュータントの大軍に襲われた。普通の兵士でも敵わない奴等に子供達が叶う筈もない。

 

幼少のウェインが指揮を取って殺人通りと呼ばれた区画は閉鎖され、数人の住民が命を落とした。ランプライト住民の住み処の残骸が周囲に散らばり、彼等の遺体が未だ片付けられずに放置されていた。ミュータントはその時武装をあまりしていなかったため、今の封鎖線から今住民が住む住居区を襲うことはなかった。

 

今ではスーパーミュータントはアサルトライフルや爆発物を携行した重歩兵と化しており、危険である。もしも、戦力を集中させれば、残りのリトルランプライトは壊滅するだろう。しかし、知能がそこまで高くないミュータントにそれは出来なかった。一度反撃を受けた彼等は攻撃をしてこず、その場を守ることにしたのだ。

 

 

 

歩哨として配置された最底辺のスーパーミュータントの一体は猟銃を改造したボルトアクションのハンティングライフルを持って周囲を警戒していた。その当たりには一日寝ていても敵は来ないため、サボれる絶好のチャンスであった。しかし、ミュータントは眠ることはせず、任務を着実にこなしていた。彼等は本能的な狂暴な生物であるが、自分のボスや格上の命令には絶対服従だった。

 

 

「ハラガヘッター!」

 

そのミュータントは叫び、腰のバックからラッドローチの肉を取り出して片手で起用に平らげた。その後の胃にモゾモゾと動くような感触がしたが、それを無視して周囲を警戒する。すると、近くの浴槽近くから音が聞こえ、ミュータントは不信に思ってライフルを向けた。

 

「誰カイルノカ?」

 

その問いに答えるものはなく、代わりに転がってきたものが返事だった。ミュータントは転がってきた物を足で受け止める。壊れてしまうことをあまりない頭で考えて足を退かしてそれをみる。

 

其処には小さくプシューと音を立てた破片手榴弾があった。ミュータントは叫ぼうとするがあまりに遅すぎた。内蔵する炸薬が爆発し爆薬に引火する。外装の金属片がミュータントの足を衝撃で千切り飛ばし、見るも無惨な肉片へと形を変えた。

 

「敵ダ!ケイホ・・・」

 

近くにいたミュータントは鐘を鳴らして仲間に知らせるよう叫びたかったのかもしれない。それを叫ぼうとするものの、消音器で減速して発射された5.56mm徹甲弾がミュータントの側頭部を撃ち抜いた。それは強固な頭蓋骨を貫通し、人体の中枢を破壊する。

 

其処には完全武装を施したパワーアーマーを着た男達がいた。

 

「ニンゲン!コロス!」

 

最後のミュータントの雄叫びは周囲のミュータントの興奮剤として働き、敵を取ろうとすべく集まった。パワーアーマーを着た一人は埒が明かないと言って、一旦アサルトライフルを片付けると同じ口径で有りながらもベルトリンク給弾式の軽機関銃を構えた。Mk.48mod0と呼ばれた特殊作戦用に製作された機関銃は硬い引き金が引かれ、嵐のように5.56mm弾がミュータントに降り注ぐ。

 

「kill them all!!」

 

叫ばれたそれはミュータントの殲滅を宣言した雄叫びだった。その宣言通り銃口は増え、発射音が独特なガトリングレーザーも発射される。人間を蹂躙し、食糧としてきた彼等はその予想外の攻撃に驚きを覚えた。そして、彼らが体験したことのない「恐怖」という感情。人間を震え上がらせてきた存在は食糧としてきた人間達によって恐怖を骨の髄にまで感じさせた。

 

「URAAAAAA!」

 

一人の男が雄叫びを挙げながら突進していく。目の前にいたスーパーミュータントにとってその人間の行動は不可解だった。仲間の話では、姿を見るなり逃げるか、後退りながら撃つと言ったものだ。しかし、目の前にいるパワーアーマーを来た男は違った。此方が銃を向けているのに、勇敢に突撃してくるのだ。本来ならそれは蛮勇と呼ぶ。しかし、スーパーミュータントは恐怖した。

 

人間は正体の分からない未知の物に恐怖心を抱く。それはスーパーミュータントでも同じこと。収奪される者、蹂躙され喰われる者としていた者が牙を剥いて突撃してくる。これ程怖いものはない。

 

「クルナ!クルナ!」

 

スーパーミュータントはボルトアクションを向けて発砲する。その弾はパワーアーマーの装甲に弾かれる。至近距離まで接近していた男は腰に差していた日本刀らしき物を抜く。しかし、それは厳密には日本刀ではない。科学技術を結集し、必ず切り裂く「斬鉄剣」。高周波ブレードと強化セラミックとチタンの複合素材を使用したそれはアサルトライフルを弾く。そして、ミュータントの肌はバターのように切り裂く。

 

ミュータントがボルトを引こうとしたとき、男は至近距離まで迫るとボルトアクションを真っ二つに斬り、ミュータントを袈裟斬りする。僅かにずれてミュータントの右肩は切り落とされ、左手で傷口を押さえる。何時もなら反撃をするかもしれないが、得たいの知れない物にどう抵抗できようか。

 

抵抗すれば命は助かったかもしれない。おしむらくは、命が少しだけ死を免れただろう。男の持つ剣がミュータントの首をやわらかいバターを斬るかのように簡単に切り裂かれる。斬られた頭部は宙を舞い、男が刀を鞘に納めたと同時に血が吹き出される。返り血が舞わないよう、男は直ぐに立ち退く。

 

その光景にミュータントは恐怖する。そして彼等は語彙の少ない頭から男達に相応しい名を叫んだ。

 

「アクマ!」

 

「コワイ!」

 

見た目からすれば、ウェイストランドの風土に合わせて色を変更したカーキ色のT-49dパワーアーマーである。悪魔のような容姿は威圧感のあるエンクレイヴのMk.2パワーアーマーが相応しいかもしれない。しかし、彼等は温室で育てられたエンクレイヴの兵士など怖くはなかった。怖かったのは、目の前にいる男達だ。

 

 

ウェイストランドにいる狂暴なスーパーミュータントが撲滅されるまで、彼等の間では悪魔として記憶されることになった。

 

 

 

 

そして、スーパーミュータントに悪魔として語り継がれる男達は・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウキ!なんで刀で突撃するの!あれほどやっちゃダメって言ったのに」

 

「いや、だって使ってみたくね?格好い・・・」

 

「格好の問題じゃない!修練もちゃんと積まないで戦わないで」

 

「素振りしてた・・・」

 

「あれは修練じゃない!」

 

スーパーミュータントを震え上がらせた「悪魔」と呼ばれた存在。その正体は今現在、俺の恋人による説教によって正座している。土下座も何度か行い、言い訳を未だ続ける俺は彼女と言う火に言い訳という油を注いでいるわけだ。

 

 

俺の母、椿も近接戦闘。刀による攻撃が専門だった。もしかしたら、敵からは悪魔だとか鬼なんて言われていたかもしれない。それはさておき、何故俺が怒られているか理由がある。それは彼女による高周波ブレード禁止命令だ。

 

シャルの父。ジェームズはB.O.S.と比較してもかなりの逸材であり、科学分野以外に近接格闘術が使える。もし、彼が道場を開けばウェイストランド中の腕に自信のある者が集うだろう。そんな彼だからか、娘のシャルはある程度のことは教わっていた。その中でもニワカの知識で戦闘することはご法度と教え込まれた。

 

例えば知識のみで柔道をする者と、しっかりと道場で覚えた者。どちらが勝つかといえばやはり後者だろう。知識では実技に叶わず。師範が居なければ、技術の研磨は難しい。競う者や目指すべき者がいれば変わってくる。

 

高周波ブレード、つまり刀に関して、俺は例えをそのまま使うなら前者。「知識のみの者」に当てはまる。素振りと言ってもバットや中国軍将校の剣を使ったり、シャドーバトルする。しかし、それはしっかりとした基礎が出来ているのみでその他の技は映画などから収集した知識である。そんなニワカではいずれ怪我をする可能性が大だった。

 

無論、ウェイストランドでは仕方なしにその未熟な技術を駆使して生き残るのもまた事実であるが、俺のように選択肢があるならば確実な方を選択するのが普通である。得意の射撃も然り、これはVAULT内の訓練で習得し、ウェイストランドで磨いた経験でもある。剣術も経験を積めばうまく扱えるかもしれない。だか、実戦によっての経験の積み重ねは危険である。それをするよりも、訓練を行った方が安全だ。

 

「シャルロット、流石にあいつも懲りただろうし許してやれよ。結果として、あいつはミュータント達に恐れられたんだからさ」

 

ウェインは未だに怒るシャルを落ち着かせるべく、リトルランプライトの住人が売っていたひんやりと冷えたヌカコーラを渡した。シャルはそれを受け取り、ナイフで栓を抜いてグビグビと飲む。

 

「・・・・ング・・・ゴクッ・・・プハッ!分かった、でも次やったらもう許さないから」

 

ヌカコーラで機嫌を直したシャルは俺にそう言い、俺に捕まらせるよう手を伸ばす。俺はその手を掴んで正座していた足で立ち上がった。

 

「足が痺れてピリピリする!」

 

「自業自得よ」

 

周囲はランプライトの住民がいたとおぼしき残骸があった。白骨化している子供の死体があるが、ミュータントが攻撃を仕掛けたときに逃げ遅れたに違いない。

 

洞窟内の安全を確保した俺達はVault87の入り口近くに軍曹とドックミートを歩哨として配置している。もしミュータントが来れば、プラズマ粘液か炭か肉片としてそこら辺に転がるだろう。

 

掃討が終了して、ウェインはランプライトから数名戦える子供を呼んでここの警戒を任せた。ミュータントの持つアサルトライフル等は軽く整備して、幾らか割引きしてランプライトの子供達に売った。先程まで使っていた武器の手入れも行い、弾薬の補給も済ませると、一度Vaultの扉近くに集まった。既にミュータントは敗走し、vaultの中に隠れてしまった。扉は封鎖されたが、核分裂バッテリーを動力源にして扉を開こうと思えば、簡単に開く。

 

 

「室内だから死角に気を付けろ。フレシェット弾はミュータントにあまり効かない。5.56mmの徹甲弾なら貫通する。それかガトリングレーザーなどのレーザーは貫通力があるからいける。殺すときは頭を狙え」

 

室内の近距離戦闘ならショットガンなどが有利だが、洞窟よりも狭い空間であるため、長物はかさ張り、ショットガンは貫通力に欠ける。アサルトライフルの銃身を切り詰め、伸縮銃床に変えたCQB仕様のアサルトライフルにして、ホルスターには10mmピストルよりも貫通力のあるFN5.7と呼ばれる拳銃をいれる。

 

FN5.7はP90に並行して作られた特殊作戦用拳銃であり、口径はP90と同じ5.7×28mm弾と他の拳銃と比べて大きい口径を使用する。拳銃だけでもボディーアーマーを貫通する能力があり、いざというときにはそれが使える。ジェファーソン記念館ではホルスターから出した10mmピストルはミュータントに有効ではなかったためだ。5.56mm弾を貫通しないミュータントには、5.7mmでも貫通することはない。しかし、10mm弾よりも素トッピングパワーが優れていることを考えれば、選択肢としては取らざる負えないだろう。

 

ウェインもガトリングレーザーを下ろして、ストックレスタイプの中国軍アサルトライフルを持つ。

 

「俺とウェインが前衛だ。ミュータントが突貫した場合は交代して後ろから来るシャルと軍曹の一斉射撃でトドメを差す」

 

おれはそう言うと、ハッチの右にあるスイッチに手を掛ける。シャルやウェイン、ドックミートに目配せし、全員の準備が出来たことを確認してスイッチを押した。

 

ミュータントが後退する際に閉めたと思われるハッチは埃を舞い挙げながら開いていく。ウェインは開いていく隙間から銃口を覗かせ、扉の向こう側に敵が居ないかどうか確認する。

 

「扉の向こう側はクリアだ。ゆっくり開けよ」

 

ハッチの配電盤を開いて、配線を弄りながらゆっくりと扉を開く。アサルトライフルにくくりつけたライトを照らしながら、ウェインは扉の向こう側を確認して、扉が人が這って通れるようになる隙間から上半身を覗かせる。

 

「よいしょ、扉には・・・・ヤバい!」

 

確認したウェインは叫ぶ。それを聞いた軍曹は熱核ジェットを吹かしてウェインとロープで結んだ蛸足を引っ張る。

 

瞬時にウェインは扉の向こう側から救出されるが、爆弾は既に秒読みに入っていた。

 

「扉の向こうに爆弾が!」

 

ウェインが叫び、俺は咄嗟にハッチを閉じてしまう。ハッチの裏側に仕掛けられたC4爆薬は扉が閉まると同時に電気信管が作動。爆薬が爆発した。

 

ハッチが吹き飛び、俺は爆風によって吹き飛ばされる。いくらパワーアーマーを着ているとは言えど、爆発の衝撃波や金属片による損傷は着ていた身体まで影響される。

 

近くにあった砂利に俺は後ろ向きで倒れ、飛んできた扉にぶつかる。一瞬意識が飛び掛け、パワーアーマーのHUDが真っ黒に染まる。

 

耳鳴りと視界が真っ暗になり、パニックしかけたが太股に刺さった金属片による痛みで意識が覚醒する。

 

爆薬は開閉によって一時的に動作が止まる所にトラップを取り付けたに違いなかった。ミュータントにこんなことが出来るのは想定外だ。

 

 

「ユウキ!」

 

シャルの叫び声が聞こえたが、後ろで待機させておいて幸運だった。今の爆発ではコンバットアーマーを着ているといえ、即死してもおかしくない。

 

足の動力を腕に回し、腕の力で覆い被さっていた扉の残骸を退かす。そして映らなくなったパワーアーマーのヘルメットを脱ぎ去ると、目の前の廊下から走ってくる者に驚く。

 

「クソ!オーヴァーロードだ!撃てぇ」

 

 

 

スーパーミュータント・オーヴァーロード。マスターと呼称されるミュータントの上位種よりも凶悪な個体。一説ではベヒモスの第一形態とも言われる種類であり、その説を裏付けているのが耐久性と生命力だ。

 

咄嗟にアサルトライフルを拾おうとするが、爆発の衝撃で銃身から歪み、丸焦げであった。ホルスターに収まったFN5.7を抜き取って、安全装置を外し、引き金を引いた。10mmよりも衝撃が強いそれはピリピリと痛みが走るものの、それに構う余裕はない。

 

貫通力であれば5.56mm弾も凌駕する5.7mm弾はミュータントの顔面に命中し皮膚を抉った。

 

「ニンゲンメ!オトナシクシネ!」

 

オーヴァーロードは背中に抱えていたトライビームレーザーライフルを俺に向けて構える。5.7mm弾は効いてはいるものの、痛覚が麻痺しているのか反応は薄い。撃つのを止め、オーヴァーロードの持つライフルの照射口へと銃口を向ける。引き金を引き、貫通力の高い弾丸はライフルのレーザープリズムレンズを割り、内部のフュージョンセルを破壊した。フュージョンセルは爆発し、オーヴァーロードの腕は吹き飛ぶ。周囲に肉片が散らばり、どろりとした血が床を汚す。

 

「ウデヲ!コロシテヤル!」

 

その目はまるで獣の目。そこにいれば喰われることは明白だった。震えと冷や汗が一気に流れ、持っていたFN5.7を見る。スライドは後退し、弾倉は空になっていた。

 

「オイオイ、勘弁してよ」

 

ホルスターの横にあるマガジンポーチから新しい弾倉を取り出そうとするが、手が震えて弾倉が銃の中に入らず、焦る余り落としてしまう。

 

「食ッテヤル!」

 

ミュータントは口を開いて、手を伸ばそうとする。食われて死ぬのだけはごめんだ!落ちた弾倉を拾い、急いで銃に挿入してスライドを戻し、引き金を引こうとする。その瞬間、無数のレーザー光線がミュータントの上半身に命中する。

 

「軍曹、制圧射!頭を狙え!」

 

ウェインは軍曹に命令し、持っていた中国軍ライフルを撃ち、RL-3軍曹の蛸足に繋がれたガトリングレーザーがオーヴァーロードの上半身に命中する。磨かれた六連装のプリズムレンズから放たれるレーザーは皮膚を焼きつくし、筋肉から内蔵器官に至るまで串刺しにする。

 

「イタイ!!!ガハッ!」

 

レーザーの数本がミュータントの喉と頭部に命中し、ぐらりと姿勢を崩して倒れる。倒れた衝撃で降り積もった埃が舞い上がり、ドスンと周囲に響いた。

 

「ユウキ!無事か!」

 

ウェインはパワーアーマーのヘルメットを外して叫ぶ。

 

「無事と言いたいが、パワーアーマーがボロボロだ。太股に刺さってる鉄筋を抜いてくれ!」

 

「軍曹、入り口の警戒を!ドックミートはそれを補佐!」

 

ウェインはパワーアーマーの胸の取っ手を掴み、パワーアシストを最大にしてそこから離れる。気が抜けたと同時に右太股に激痛が走り、腰に取り付けていた個人用救急キットからモルパインを取り出した。しかし、露出しているところが無かったため刺すことが出来ず、痛みを噛み締めるしかない。

 

「ユウキ!・・・ウェインはユウキを落ち着かせて。足の装甲を外すから」

 

良く見れば自分の手と同じ大きさの鉄筋が足に突き刺さっていた。それを見て平常で居られるか。俺は上半身を起こそうとするが、ウェインによって止められる。

 

「落ち着け、大丈夫。大したことないから」

 

こいつは何を根拠にそんなことを言っているのか。

 

自分の腕の大きさの鉄筋が突き刺さって大丈夫と言えるのなら、こいつの腹に突き刺さっても平然としていられるだろうに

 

「大したことないわけないだろ!」

 

「動かないで!」

 

とうとう二人の力では抑えきれないので、犬なのにミュータントと接近戦では互角のドックミートに身体を固定される。

 

「やっと足の装甲が外れた。ウェインこの装甲を持って、」

 

動こうとする俺を戒めるようにドックミートは俺の頭に前足をおいて動かないようにする。犬の癖にミュータントと戦闘しても単独で勝ってしまうので、かなり力が強く頭を押さえられただけで頭は動かない。すると足に麻酔を刺したような痛みが走り、すぐに痛みが抜ける。

 

「シャル、足はどうなってる?」

 

「突き刺さった鉄筋と装甲と内部の対ショックジェルが凝固してる部分があるからそれを取り除くわ」

 

シャルがそう言うと、ウェインは胸に装着したコンバットナイフを取り出した。

 

「痛いが我慢しろよ」

 

そう言うと、鉄筋がゆっくりとぐらついて足が動くような感覚が走る。

 

「よし、抜くぞ!1~2の・・・3!・・・あら?」

 

「え、嘘!」

 

「え、なんだよ!どうなったんだ!」

 

 

気の抜けた声と驚いたような声。

 

只でさえ、気が動転している俺はパニックに陥る。

 

「ど、どういうことだ!ドックミート邪魔!」

 

ドックミートはもういいやと言わんばかりに俺の身体から降りる。上半身を動かして怪我をした下半身を見ると、鉄筋の刺さっていた場所は軽い切り傷程度の物だった。

 

「え、だって鉄筋が刺さってたんじゃ?」

 

「装甲の上からだ。装甲と対ショックジェルが衝撃を吸収して足を貫けなかったらしいな。運の良い奴だ。それにしても、これしきのことで動転するなんて驚いたよ」

 

「ちょっと、ウェイン!人は思い込みで痛みを増幅させてしまうわ。装甲の上からだと、傷がどんなか分からない。だからイメージしてしまい、その分想像した痛みが脳で再現されたと考えた方が良いかもね」

 

「つまりは思い込みで痛い痛いと言ってたわけか」

 

何と恥ずかしい話か。

 

恥ずかしさのあまり顔が熱くなるのを感じる。ウェインは笑ってるし、ドックミートに至っては「何だそんなことか」と残念そうな感じだ。

 

「誰だって思い込みはあるわよ。多分・・・・」

 

「フォローになってないよ、シャル!」

 

最後に言った言葉はある意味で反対な意味になるのをお忘れなく。Vaultに入るまでの二十分弱、俺は羞恥心と戦いながら、どうVaultを攻略するか考えることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(整備兵は第二発着所から退避。早くベルチバードを離陸させろ)

 

 

 

 

(こちら第二発着所、油圧が不安定なため離陸不可能です)

 

 

 

 

 

レイブンロックの内部にある隠蔽型ヘリポートにはVB-02ベルチバードが離陸準備に入っていた。しかし、後続機であった二機は既に離陸したものの、一番機は未だに機体の不具合で離陸できないでいた。

 

「仕方ない。二番機のブレイマー中尉に命令し、二機でVault87周辺を空爆しろ」

 

「了解、こちらLightning leader。commanderより命令。Lightninng2及び3は二機でVault87の敵性生物の排除に移れover」

 

(了解した、Lightninng1、これより作戦空域に移動out)

 

ベルチバードには士官服を来たアリシアの姿があった。後ろにはヘルファイアパワーアーマーを着た重火器兵やテスラアーマーを装備した光学兵器兵の姿もある。

 

アリシアは考えていた。自身の選んだ選択が本当にこれで良かったのか。もっとよい選択肢はなかったのかと。両手で作った拳を額に着けて考え、離陸の時を待つ。

 

「中尉、参謀本部のオータム大佐から連絡です」

 

ヘリのパイロットは彼女にヘッドセットを渡した。

 

「アリシア中尉です。代わりました」

 

「オータムだ。多分、命令が来るだろうが先に伝えておく。Vault87に入ったら、G.E.C.Kと手配中の二人を拘束したまえ。生きたまま捕らえるのだ」

 

「彼らと一緒に居ると思われる人物はどうします?」

 

「拘束して連れてくるのは彼らだけで十分だ。残りの処置は君に任せる。それと・・・・この通信は誰か聞いているか?」

 

そう言われたアリシアはパイロットの二人に秘匿回線に切り替えさせ、ヘッドホンのソケットを抜くよう指示する。

 

「いえ、だれも聞いていません」

 

「分かった・・・・・、これは秘密事項だが現在エンクレイヴ内部では大きな政治紛争が起きている。そして今も内部分裂の危機が直ぐそこまで迫っている。君には一人の下級将校に過ぎないかもしれない。だが、君のお父上の意志を考えて行動して欲しい。」

 

「そ、それは・・・・・」

 

それは参謀本部のトップから出るセリフではなかった。反逆罪で処刑された将軍の娘という存在のアリシアに対し、その父の意志を考えてとは反乱を企てる人間ならともかくとして、彼は大統領の側近であり、現職の高級将校だった。

 

彼女も幼い頃にオータムとは多少面識がある。しかし、彼女からしてみれば母や自分を助けてくれなかった人物としかみていない。敵としてはみていないが良い人物とは思っていない。

 

「私は父が犯した過ちを直そうと思う。・・・・君の父上がしようとしていた事を次は私が実現させる。君が関わりたくないのであれば、それでも構わない。その時はこのことを口外しないで欲しい。」

 

アリシアの父、ウィリアム・スタウベルグ少将。元アメリカ合衆国空軍ポッターミサイル基地司令は東部のエンクレイヴを総括していた人物であり、穏健派のトップとして東部では人望が厚い。元々、東は西から左遷された将校が配属されることが多く、ナヴァロより東はあまり優遇されていない。

 

西にいた総司令部のポセイドンオイル基地が陥落して以降、生き残った多くの部隊は東側の部隊を強引に自身の配下に押さえた。そして、当時は封鎖されていたレイヴンロックを解放して、総司令部としシニア・オータム中将を合衆国統合軍参謀総長に就任して『ジョン・ヘンリー・エデン大統領』を合衆国大統領に就任させた。

 

西側の強引な行動に東側のエンクレイヴは不満や反発をする。エンクレイヴを二分するかに思われたが、西側による東側の大粛正によって沈静化した。「国家反逆」と言う国賊の烙印を押して。建前であれば、周囲に対し「父が国賊になって申し訳ない」とエンクレイヴという組織、アメリカ合衆国政府に対して恭順の意志を表明しなければならない。

だが、彼女の気持ちとしては父に幾ばくかの恨みもありながらも、同時に家族で生活することが出来なかったのかと深い悲しみが募っていた。

 

オータムの言うことが正しければ、彼が率いる東側の将校や穏健派は行動を起こす。それは正統な合衆国政府と考えれば、南北戦争から実に400年が経過していた。

 

「わ、私は・・・・・・・。」

 

アリシアは言葉を詰まらせる。既にエンクレイヴに対する忠誠は無いものである。彼女を動かしているのは、悲しみや後悔と言った類いだ。ユウキ達追跡の任がなければ、彼女は持っていたプラズマピストルをこめかみに付けて引き金を引いたことだろう。

 

彼女は自身の選択が間違っていたことに後悔を抱いていた。もし、出来るのならエンクレイヴから離反して彼の元へ行きたい。だが、エンクレイヴの能力はウェイストランド全土を手中に納められるほどの能力がある。逃げることはおろか、敵前逃亡として銃殺刑だ。

 

今回の任務で彼らを連行し、説得する。その時エンクレイヴはどちらかの勢力が掌握している事だろう。どちらが良いかはアリシアが良く分かっていた。

 

「私は父の意志を引き継ぎます。ですが、一つお聞きしたい。オータム大佐は今回の任務で連れてくる彼等に危害を加えませんか?」

 

「約束しよう、危害は加えない。浄化プロジェクトはエンクレイヴ主導で行うが、我々が行わなければどうなるか分かる筈だ」

 

エンクレイヴと言う組織は一枚岩のアメリカ浄化を目的とした極悪集団ではない。穏健派やウェイストランドの救済を考える者もいる。ウェイストランドに住む人々には徐々に受け入れられている。それはユウキ達にも理解できることだ。そして、BOSよりも高い技術と人材、資材がある限り、エンクレイヴの方が活用出来るだろう。

 

「分かりました。任務に変更はございませんか?」

 

「いや、ない。だが、私以外の高官の誰かが一緒に来る可能性がある。もう少し待ってくれ」

 

 

オータム大佐との通信を切ると、アリシアは命令通り待つことにした。

 

そしてその一方、オータム大佐はオフィスを離れ、レイヴンロックの司令室に赴いた。最高クリアランス(機密保持)である大統領執務室の隣にあるそこの出入り口にはパワーアーマーを着る二人の警備兵がいる。

 

「大佐、IDと網膜センサーのチェックをお願いします」

 

警備兵は敬礼し、警備兵がもつセンサーに大佐の持つクリアランスカードを差してロックを外して、銃の形の網膜センサーで顔を近づける。

 

「壁に設置すれば楽なんだがな」

 

「申し訳ございません、大佐」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「IDと網膜、共に異常ありません」

 

チェックが終わると、警備兵は敬礼し、オータム大佐は返礼すると扉の向こう側へと行く。自動的に扉が開き中に入った。

 

 

(こちらLightninng2、Vault87付近の敵性勢力の排除を確認。降下地点はまだ高い放射能で覆われている。高いところで数百RADも浴びるぞ!司令部、放射能除去剤を要請する!Over)

 

「こちら司令部、Lightning1は修理が終わり次第発進する。出発前に爆倉に中和剤を装着する。燃料の節約のため付近に着陸できるか?Over」

 

(ああ、出来る。一キロ先にあまり壊れてない幹線道路がある。そこに駐機する。Out)

 

 

そこはゲームで見たことのあるユウキならば仰天することだろう。大統領執務室に通じる扉は警戒ロボットと警備兵数名によって完全に封鎖されている。そしてその司令室はゲームと違ってスペースが拡張されていた。

 

中央には立体映像で大きなウェイストランドの地図が写し出され、部隊が何処にいるのか把握できる仕組みになっていた。そして、それを囲むように作戦オペレーターがコンピューターを弄りながら、実行部隊に指示を与えている。ユウキが見れば「どこの甲殻●動隊?」と言うかもしれない。

 

「こちらHQ、Golf2-0。応答せよ、定時連絡が遅れているぞover」

 

「Tango leader、民間人への攻撃は許可されていない。衛星で確認している。直ちに射撃を中止しろ!」

 

「支援要請受信、座標コードを砲兵隊へ送信中。後30セカンド」

 

ウェイストランドの各地に散らばっているエンクレイヴの部隊の情報は司令部に送られ、司令センターで命令を出す。ウェイストランドの広大な領域の地図を囲んだオペレーターはその部隊に適切な支援や注意、そして命令を下す。オータム大佐はその司令センターがかなり多忙であることを横目で見つつ、中央の地図盤の近くに行った。

 

そこにはエンクレイヴの首脳陣が揃っている。ポセイドンオイル基地崩壊以降、生き残った高官は上の空いた席を高い位の順に当てはめた。しかし、例外も存在している。オータム大佐の父であるシニア・オータム技術少将は他の将軍を差し置いて参謀総長になった。現在は隠居しており、実権は息子のオータム大佐が握っている。その他の将軍などは他の役職を得ており、権力争いでオータム大佐が失脚と言う展開もあるかもしれない。しかし、実際に一人の将校がオータム大佐の失脚を画策し、それが実行に移された。しかし、大統領主導でそれは裁かれた。

 

東にいる将軍数名は先の粛清によって死亡している。残っている将軍も片手で数える程度だが、政治的には余りにも弱い。

 

 

 

「オータム大佐、浄化プロジェクトの進捗状況はどうなっている?」

シニア・オータム少将の後を引き継いだ傀儡の参謀総長であるジョセフ・ドライゼン中将は穏和な表情で訪ねる。

 

殆んどの実権はオータム大佐が持っており、その参謀総長たる役職は形骸化している。ドライゼンは穏和そうな壮年の男で髪は薄く、エンクレイヴ軍の上級指揮官にはあまり見えない。彼にもエンクレイヴのトップになりたいという願望があるが、彼の場合は自分の技量を大きく逸脱していることを知っていた。最高権力者である大統領になっても、エンクレイヴを崩壊に導くだろう。なったとしても傀儡として居座るのが目に見えていた。

 

東の将軍の中で最後の生き残りの彼は中立の立場を保っていたことが彼の命綱だった。

 

粛清以後はその責任を取ってシニア・オータム技術少将が辞任し、後釜はオータム大佐となった。しかし、佐官であったため、軍のトップである参謀総長はドライゼン中将が就任していた。

 

 

「現在、情報局のスタウベルグ中尉は第二航空団のLightningと共に作戦行動中です。あと十分程で出発するとのこと。三時間ほどでG.E.C.Kとパスワードを持って帰ってくることでしょう」

 

「それはいい。よくやった大佐」

 

中央の立体地図は消えてジェファーソン記念館の様子が映される。そこはユウキ達がやったよりも強固な陣地が築かれ、コンクリートで作られたトーチカや装甲車から85mm砲を取り外して砲台を設置していた。航空部隊の対処をする必要がない彼らの装備は少なく、兵士の数も少ない。しかし、完全武装のパワーアーマーの兵士と戦闘ヘリや装甲車などを持つ彼らに攻撃することは自殺行為に等しい。

 

その様子を見ている矢先、エンクレイヴの首脳陣の中から一人の男がオータム大佐の元へ近づいた。

 

「オータム大佐、情報局のハワードです。私の部下のヴェルスキー少佐をスタウベルク中尉と同行させていただきたい。」

 

陰湿な雰囲気を持ち、細い眼光を放つ情報局に在籍するハワード中佐はオータム大佐の目の前に立った。後ろには彼と同じような種類だと伺える佐官用のコートを着たヴェルスキー少佐が立っており、上司の前だと言うのに態度が悪かった。

 

「なぜ情報局が?参謀本部の行う作戦に何か不服でも?」

 

首脳陣の中でも老練の将校はハワード中佐を問いただす。

 

「いいえ、これは大統領命令に基づく要請です。大佐ご自身でお確かめになられては如何ですか?」

 

「な、何だと?」

 

オータム大佐は驚きを隠しきれなかった。

 

ジョン・ヘンリー・エデン大統領は前大統領のように暗殺されるのを防ぐため、声のみしか公開されていない。彼の姿を知るものはオータム大佐を含め、技術局局長と隠居しているシニア・オータム少将だけだ。

 

そんな彼が情報局に命令を下すのは、前例がなかった。そしてオータム大佐はすぐに大統領の発案するプランが頭を過る。

 

それらは、もし首脳部の耳に入れば危険だと声高々に叫ぶだろう。エンクレイヴ内でもかなり大きい派閥である大統領支持派ですら、自身の派閥を脱退してしまうかもしれない。それか、自身が大統領になろうと群雄割拠の内部崩壊が待ち受けている。

 

「わかった、構わない。しかし、作戦の指揮はスタウベルク中尉にさせる。ヴェルスキー少佐は見ているだけだ」

 

「大丈夫です、彼らに二三の質問をするだけですので大したことはありません。情報局の欲する情報さえあれば、BOSなど簡単に排除できるでしょう」

 

大統領を狂信的なまでに信奉する彼らの一人であるハワードはニヤリと口許を歪めて微笑んだ。

 

一体、今の大統領のもくろみを知っている者はこの中にいるのだろうか。それはオータム以外、誰もいないのかも知れない。その目論見は地球上の生物を死に至らしめるもの。核戦争から200年あまり。やっと、人類が復興の兆しが見え始めたと言うのに、旧世界の亡霊がその希望を消し去り、生命のいない荒廃した世界を造り出そうとしている。

 

それを知らない彼らに罪はない。選民思想を持つ西側将校や大統領支持派は大統領の目論見を知れば、賛同する者は大半だろう。その時は彼らを止めればならない。そして、それはすぐそこまで迫っていた。

 

(南北戦争から400年・・・・、合衆国なき今も亡霊同士で殺し合いか)

 

オータム大佐が思い浮かぶのは、ホロテープや歴史の書籍で読んだ南北戦争についてのこと。工業地帯を含む保護貿易を望む北部とプランテーション農業を行う自由貿易を望む南部とのアメリカ内戦。今後のアメリカを左右する最大の戦争だったが、今よりはまだましなはず。何故なら人類存亡を掛けた内戦ではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GOOOOODMOOONING!ウェイストランドゥ!!

 

今日は朝一番のニュースをお届けするよ!

 

今日は何でそんなにご機嫌かって?戦前の古いホロテープを見たのさ。そこにはラジオDJでどんな面白いことが言えるかがわかったんだ。だから、リスナーには面白い放送をお届けするぜ!

 

さて、情報によるとBOSの極秘作戦が進行中だ。何がだって?これを言ったら今行われている作戦に支障がでちまうから言えないよ。だが、これは正義のための戦いだと言っておこう。

 

次にここから北にあるのカンタベリーコモンズからの連絡だ。

 

とうとう此処にもエンクレイヴがやってきやがった。そこでは悪の蟻使い、アンタゴナイザー。そして街を守るロボット使いのメカニストが熾烈な戦いをしていたのさ。

 

エンクレイヴが何をしたのかって。軍事用語で言えば「鎮圧」だ。まず、アンタゴナイザーの住みかに毒ガスを・・・以上だ!何、町の様子を聞きたいって?大丈夫、街は無事だった。メカニストはエンクレイヴの警戒ロボットなどを整備することで財を成しているようだ。そしてアンクル・ロエのキャラバン商社はエンクレイヴの要請に答えた。これでエンクレイヴの勢力がまた増えやがったよ。

 

 

 

 

聞いてくれて感謝する!こちらはギャラクシー・ニュース・ラディオYHAhaaaaaa!

 

さて、曲を掛けることにしよう。これは聴いてて中々楽しい曲だ。

 

Creedence Clearwater RevivalのFortunate Son。聞いてくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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次回の投稿は今月までに(←何処の政党の公約ではあらずww)

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