fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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「一ヶ月ごとに投稿すると言ったが、あれは嘘だ」

(゚皿゚)r┏┳---ドドドド ∑ヾ(;゚□゚)ノギャアアーー!!


(実際、読んでいた友人にエアガンで撃たれました)


どうも、投稿が遅れまして申し訳ないです。すっかり、年が明けまして三ヶ月ぶりになりました。四月もこの日位を目処に投稿する予定です。(フラグ)

大学で教職課程なのでもしかしたら、投稿が遅れる可能性も(言い訳)


新年度までには間に合ったので何卒ご容赦くだせぇm(_ _;)m



三十八話 vault87 下編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと・・・・ここは?」

 

そこは見覚えのある空間だった。

 

壁にはどこかの歌手のポスターか映画のポスターが貼ってあり、ベッドとパソコンが置かれた机。漫画や雑誌が入った本棚も置いてある。そう、これはつまり・・・・。

 

「俺の・・・部屋・・・?」

 

ウェイストランドとは違い、壁紙は剥がれておらず。新品同様の白さを保っているそれはどこか懐かしさを感じさせた。時計を見る限り、まだ朝の7時を過ぎた時間帯であり、自身の服装は高校で着ていた詰め襟の学ランだった。先ほどまで来ていたボディーアーマーやコンバットウェアではなく、日本の学生が着るものである。

 

 

「勇樹!朝よ!」

 

自分の部屋は二階だった。一階から懐かしい母親の声が聞こえ、すぐに返事をする。

 

「起きてるよ・・・!」

 

声を出してみると、自分の声ではないのかと言うくらいの幼い声が響く。ウェイストランドの時の自分とでは顔も声も異なっていた。恐る恐る、俺はパソコンの画面に顔を向ける。

 

「・・え・・・・これが俺だったか?」

 

そこには、どこにでもいるような日本人の少年だった。ウェイストランドの自分とは全く似ても似つかない、生前のころの自分であった。

 

「さっきのは夢だったのか?」

 

夢にしては20年という記憶が全て残っている。まるで、今までそこにいたかのような記憶。これが夢であるのか、それともウェイストランドの記憶が夢であるのか。しばし、考えていると、時計の短い針が八時に近づき、長い針が十一時へと近づいた。

 

 

「あ、学校・・・間に合うのか」

 

今日の一限は大の苦手な教科、数学の小テストがあるではないか。

 

「やばい、急がないと」

 

昨日のように思い出してくる昨日の数学教師のしてやったりの顔とブーイングを言うクラスメイトの和気藹々とした声。ウェイストランドの殺伐とした戦場が嘘のように感じられ、学生鞄を急いで拾い上げ、定期ケースと自転車の鍵がポケットの中にあることを確認して、急いで自室の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「・・・・ん?・・・・・臭っ!!」

 

これは一体何の匂いだろうか。ぶっちゃけていえば、それはトイレに漂うあの匂いだった。意識を失っている間に致してしまったのかとすぐさま目を開けた。先ほどの眩い光によって、目が慣れていないのか周囲の光が目を刺激する。

 

「気づいたようだな」

 

そこには、試験管に似た金属製の容器を持つエンクレイヴの衛生兵らしき人物がいた。

 

周囲にはプラズマライフルやミニガンをもって警戒する兵士の姿があった。首を動かしてみると、拘束されて意識を失っているウェインやシャル、ドックミート、アイドリング状態で停止されたRL-3軍曹の姿もあった。しかし、どうしてかフォークスの姿が見当たらない。近くにはミュータントの死体は見当たらないため、彼はどこかに隠れているだろう。もしかしたら、隙を見計らっているかもしれないが、パワーアーマーと重火器で武装しているエンクレイヴの兵士は強敵だ。如何に鋼の肉体と不屈の闘志があったとしても、集中砲火を受ければ死は免れない。

 

身動きしようともがくが、後ろ手に拘束具で固定されているため、芋虫のように動かなければならないだろう。

 

「動かないほうがいい、君は後ろから頭に狙いをつけられている。妙な事をすれば、プラズマ粘液になる」

 

両肩とパワーアーマーヘルメットに赤十字マークを描かれた衛生兵は俺の肩を掴んで静止させようとした。その声は女性らしく、妙に口調が柔らかい感じであった。

 

「そうか、みんな生きているよな?」

 

「ああ、生かすように命令を受けているからね。でも、スタウベルグ中尉が起こさせるなんてどうしてかな」

 

どうやら俺を起こすよう命令したのはアリシアらしい。

 

「さぁ、スパイした男に再び興味が出たとか?」

 

「そういえば、あなた達をスパイしていたわね。あなたを誑かしていたのかしら?」

 

「どうだろうな、ここで油を売ってると怒られるんじゃないか?」

 

「そうね、じゃあ中尉をお呼びするわ」

 

彼女はそう言うと、俺の視界から消える。後ろには誰かの気配がするため、言っていたことは嘘ではないのだろう。首を回すと、FEVの製造施設とAI管理施設のある区画へのハッチが開いていた。二重のハッチは全て開いており、オートタレットが二基設置されていた。ハッチの奥の方からは嫌な冷気が出ており、背中には冷や汗が流れる。

 

FEVは人を強制的に進化させるウィルスだ。しかし、進化とは裏腹に感染した生物を変異させて凶悪な化け物へさせる狂気のバイオテクノロジーである。開けてはならない扉を開けたのではないかと考えた。

 

そう考えるうちに、甲高い軍靴の音が響き、プレートキャリアの背中にある取っ手を捕まれ引っ張られた。

 

「ん!ぐ!」

 

いきなり凄い力で引っ張り挙げられた俺は肺から息を出す。前を見ると、エンクレイヴの軍服に身を纏ったアリシアが仁王立ちで立っていた。

 

「久しぶりだな」

 

「ああ、目の前にいるのが信じられないよ。それにしても、やつれてるな」

 

「・・・っ」

 

アリシアは俺達と一緒に居たときとは違い、顔色が悪く目の下に隈ができていた。目もとは以前よりもナイフのように鋭くなったように感じられる。

 

「それで俺達をどうするつもりだ?」

 

「浄化プロジェクトを再開させてもらう」

 

彼女の口から出た言葉は信じられないものだった。今現在ウェイストランドで最大の勢力であり、アメリカの中でも最高峰の科学技術を持っている。彼らなら浄化プロジェクトなど、推進していた科学者に頼らなくても完遂できる筈だろう。

 

「なぜだ?」

 

「浄化プロジェクトの主要システムは高度な軍事暗号によってプロテクトが掛かっている。その暗号を知っている人物が起動しないと無理だ。それに、あれはG.E.C.Kがないと起動しない」

 

ジェームズから話は聞いていた。近くにある首都圏核サイロ基地を漁っていたスカベンジャーから高額で買い取ったものらしく、浄化プロジェクトが悪人の手にわたらないようにしたらしい。しかし、そのプロテクトもここまでだった。今はその暗号を聞こうと彼らは俺達を拘束した。時間の問題だろう。

 

「あともうひとつある」

 

「ん?」

 

考えられる理由はこれだけだった筈だ。俺は疑問符を浮かべたまま、彼女の話を聞いた。

 

「エンクレイヴの技術局はお前の技術や発想を欲している。メガトンの自宅を接収したとき、技術局の面々は驚きのあまり倒れたようだ。彼ら曰く“数十年先を言っている”とさ。」

 

アリシアはこの時初めて笑みを浮かべる。先程までの冷たい表情ではなく、血の通った柔らかい表情。懐かしむようなその言い方に俺は違和感を覚えた。

 

「私はお前を殺す気もないし、無理やり暗号を聞き出すつもりもない。」

 

そう言うと、彼女は折り畳みのナイフを取り出し、俺の後ろ手に縛ってある拘束ストラップを切り、手を自由にした。

 

「私は・・・出来ればお前にエンクレイヴに来て欲しいと思ってる」

 

それは彼女の本音が出た瞬間だった。周囲にいた兵士からは驚いたような声を挙げていた者が少なからずいた。それはそうだろう、装備だけ整った粗暴なウェイストランド人なんて仲間に値しないだろうと思っているかもしれない。

 

「お前はVault101の住人だろう。なら大丈夫だ。エンクレイヴはVault101の住人を保護している。数名は軍に志願した。お前だって・・・」

 

「シャルやウェインはどうなるんだ?」

 

俺が言った瞬間、アリシアは表情を凍らせる。

 

「シャルはVault生まれなんだろう?なら大丈夫だ」

 

「ならウェインはどうなんだ?奴はリトルランプライト出身だが、元はスカベンジャーの子供だ。バリバリのウェイストランド人だ。奴はどうなんだよ」

 

俺はそう言い、アリシアは顔を背ける。エンクレイヴがどのような組織か。彼らとはどういうものなのか直ぐに分かるこの問い。アリシアは絞り出すように声を出した。

 

「エンクレイヴという組織は排他的だ。純血でなければ、ただの消耗品や労働力程度にしか思わない。残念だけど・・・」

 

エンクレイヴは東西の思想が混じり合った組織だ。だが、上層部は排他的な純潔主義だ。一般兵でもそれはあるだろう。ウェイストランド人はエンクレイヴにとっては労働力か体の良い捨て駒に過ぎない。

 

「わかった。俺は・・・エンクレイヴには行けない。」

 

 

俺の言葉にアリシアは予想していたのか、あまり驚きもしなかった。一瞬悲しそうな表情を見せたものの、諦めたような感じで作り笑いをした。

 

「そうか・・・予想はしていたが、実際そうだと悲しいな。でも、連れていくことには変わりない。伍長、彼を再度拘束しろ。」

 

後ろにいた兵士は後ろ手で拘束しようとしたが、俺は手を後ろに出さずに前に出す。

 

「おい、手を後ろにしろ」

 

「痛いからいやだ。前で縛ったって変わらないだろう」

 

「んだと!こいつ!」

 

後ろの兵士は苛立ちのあまり手を挙げようとするが、アリシアはそれを止める。

 

「別に後ろで縛らなくて良い。前に縛ってやれ。拘束を解いたとしても、やることはないだろう」

 

アリシアはそう言うと、後ろの兵士は渋々従って俺の両手を前で縛る。

 

「我々の任務は完了した。ヘリに彼らを乗せろ。」

 

意識のないシャルやウェインをエンクレイヴの兵士は担架で運んでいく。俺はコンバットブーツに隠していたスイッチブレードを取ろうとしているが、不意に動けばプラズマ粘液に成りかねない。兵士の動向を見つつタイミングを伺った。

 

「あとはヴェルスキー少佐を待つだけだ」

 

貯蔵施設へと向かったらしい彼女の上司を待つべく、運搬要員以外は周囲への警戒を忘れない。俺はいつか来るであろう兵士達の隙を窺うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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まるで地獄へ直通と考えても可笑しくない位深いエレベーター。実際それほどまで深いのか分からない。しかし、人間という物。個体差のある感覚の違いや先入観によって体感するものはまちまちであった。

 

壁の塗装がはがれ、劣化によってギシギシと軋む床。パワーアーマーを来た兵士を二人も乗せていれば、床が抜けるのではないかと唯一の科学者の女性は思ってしまう。先ほどまでかなりの量が居たFEV変異体も先ほどの放浪者やエンクレイヴの兵士達によって制圧されていた。

 

 

地下深くまで続くエレベーターの下には変異体が居ないか、科学者は不安に思うものの、下の階層には保安プログラムが起動しており、安全な区域であることが確認されている。科学者の他には護衛の兵士二人と諜報部のヴェルスキー少佐がエレベーターに乗っており、只ならぬ雰囲気であった。

 

「少佐、FEVのサンプルを回収とのことですが、本当に小隊を前進させて安全を確保しなくてもよろしいのですか?」

 

ミニガンを持つ重火器兵は隣にいる根暗なヴェルスキー少佐に問いかけた。

 

「安心したまえ、下の施設は生きているし完全自動の保安装置で安全が確保されている。なに、あの方からの直接の指示だ。」

 

「あの方?あの方とは・・?」

 

兵士は訊こうとするが、エレベーターが目的地に近づき、彼の上司が彼の肩を叩く。

 

「動体センサーを起動させろ。」

 

ミニガンを持つ彼はそれにつけてある動体センサーを起動する。見てくれはグレネードマシンガンと似たような形状を持つ。ミニガンの取っ手の所にはブラウン管テレビに似た画面とレーダー装置とおぼしき機械が取り付けてあり、スイッチをONにした。機械の調整をすると、彼の後ろにいた上官もプラズマライフルのフュージョンセルがしっかりと収まっているか確認した。

 

「少佐、自分達が前へ行きます。ですので離れないように」

 

「分かっている、頼りにしているさ」

 

プラズマライフルを持つ兵士は少佐に声を掛ける。すると、エレベーターが目的の場所である最下層に到着すると、ゆっくりと扉が開かれた。

 

「おいおい、嘘だろ」

 

兵士の一人は構えていたプラズマライフルを驚きのあまり下ろしてしまう。それもその筈だった。目の前にあったのは廃墟のようなVault87ではなかった。そこには、戦前のvaultが建設されて間もないような清潔感溢れるエントランスだったからだ。

 

「保安システムが生きているというのはこれだったか」

 

目の前では清掃用のモップを持ったロボブレインが床を掃除しているというシュールな光景があり、エンクレイヴの兵士二人は拍子抜けしたかのように銃口を下に向けた。他にも近くにはMr.ハンディーがスリープモードで待機していたり、プロテクトロンが充電ステーションで保管されているところを見る限り、完全自動化が為されていた。

 

「動体センサーには幾つかの動くものが見受けられますが、どれも鈍足です。全てロボットかと思われます」

 

ミニガンを持つ兵士はそう報告して、ヴェルスキーに前進するかどうか訊ねた。

 

「もちろんだとも、さあ任務を遂行しよう」

 

ミニガンをもつ兵士が前方を歩き、プラズマライフルを持つ兵士は後方を警戒する。その間に少佐と科学者は守られるようにして歩いた。

 

奥へと続く通路や製造設備を動かすのであろう中型の核融合炉。戦前の姿を保とうとする機械達。それらを見つつ、生体保管庫と呼ばれる部屋を見つけた。そこはVaultの扉にも似た頑丈な扉であり、空気をも通さない密閉扉であった。

 

「この部屋か?」

 

「確認します、下がってください」

 

ミニガンが少し後ろから狙いを付け、プラズマライフルを持った兵士がハンドルに手を掛ける。

 

「おいおい、手動操作かよ」

 

機械も開けることはないであろうその扉をミシミシと音を立てながら開いていく。やっとの事で開いた扉へプラズマライフルを構えながら進入する兵士。入って数秒で驚いたような叫び声が響き渡った。

 

「わぁ!」

 

「軍曹!どうしたんです?!?」

 

ミニガンを持つ兵士は軍曹を助けるべく中に入る。少佐と科学者も様子を窺うべく顔を覗かせた。

 

 

「一体何だよこれ・・・」

 

喉の奥から出したようなその声は明らかに怯えと恐怖が入り交じっていた。そこには、肉の塊と言えば相違がある。だからといって生き物と言えば、人としてその形はおかしかった。背中は猫背のように丸くなり、胴体が丸く手足も普通の人と比べても短い。首は無くなり、胴体と一体化した頭。スーパーミュータントと言うには不完全すぎるFEV変異体の姿はそこにはあった。

 

それはホルマリン漬けのような容器に押し込まれて保管されており、死んだように動いてはいない。狂暴で危険なスーパーミュータントでもここまでおぞましい生き物はいないはずだ。

 

「FEV変異体か?・・・・機械を見る限りまだ生きているらしいな」

 

ホルマリン溶液ではなく、変異体が浸かっていたのは各種栄養素が溶けている羊水のようなものであった。良く見れば、口に管が差し込まれ息をするようになっていた。

 

容器の下にあるバイタルサインはその変異体が生きている事を知らせていた。

 

「実験はまだ続いているのか・・・って事はまだここには生存者が?」

 

兵士はそう呟くものの、ヴェルスキーはそれを否定した。

 

「それは無いな、ここを良く見てみたまえ。人が最近いた痕跡はあるか?」

 

近くにあった机にはマグカップやクリップボードが置いてあるものの、それらが使用された痕跡はない。埃が被り誰も触っていないところを見るに、人は数十年いなかったように見える。

 

「いえ」

 

「だろうな、ここは生きている人間は居ないと聞く。早くしたまえ、目的地はすぐそこだ」

 

兵士達は少佐を囲むように、警戒しながら更に奥へと進んでいく。そこは居住区画がなく、純粋にウィルスの製造施設と研究、そして施設を管理するAIがあるだけだ。順々に進んでいくと、製造施設らしき所を見つけた。

 

「博士、君は軍曹と共にサンプルを採取しろ。」

 

「了解しました」

 

「ハニガン、少佐に怪我させるなよ」

 

「軍曹も博士を口説き落とさないで下さいよ」

 

二手に分かれた彼らの片方の博士と軍曹は、製造施設へと入った。そこは戦前の施設とは思えないような物だった。施設の壁は白く、エンクレイヴでも持ち得ない画期的な物ばかりだった。

 

『コレヨリ消毒ヲ開始シマス。研究員ノ皆サンハ180年振リノ入場デス。今日モ1日頑張リマショウ。』

 

消毒液らしき物が噴射され、消毒室では科学者と軍曹の二人が無言のままそれを浴び続ける。しかし、とうとう沈黙が嫌になったのか、軍曹は口を開いた。

 

「博士、帰ったらディ・・・」

 

「伍長に言われた通りにしないの?」

 

案の定、部下から言われたことを破る軍曹を見た博士は笑い声を挙げる。そして、「考えておく」と言った博士に軍曹は昔のインディアンのような雄叫びを挙げたくなったが、自重する。流石にいきなり叫ぶのは如何なものか。

 

『殺菌ガ完了シマシタ。今日モ安全ニ業務ヲ遂行シマショウ』

 

消毒室の扉が開き、二人は製造施設の中へと入っていく。そこは博士も見たことがないウィルスの製造プラントが広がっていた。人より巨大な培養槽や注射器に薬剤を入れるために作られた機械群。エンクレイヴにもFEVのウィルス研究施設があり、培養施設も存在する。しかし、過去の変異体による暴動や彼らの予想しない行動によって、下手に従えることが出来ないと上層部は確信し、研究と培養は凍結された。残ったものは現在流行っている疫病の治療に当てられ、ウィルスの研究は行われていない。

 

Vaultにあったものは巨大な、そして大規模な製造施設だった。培養槽や大量に製造された注射器。もし、変異体の戦闘能力が戦前のアメリカ軍に認められていたならば、東海岸の兵士にFEVの入った注射器が配備され、東海岸は変異体の王国が出来ていたことだろう。幸運なことに研究が軌道に乗ったのはVaultが閉鎖されてからであった。

 

博士は製造施設の近くにあった研究員の詰め所に入ると、試作品のある冷凍庫を発見したが、ターミナル制御の電子ロックが掛かっている。

 

「これをハッキングするから、少し待っててもらえる?」

 

「ええ、待ちますよ。所で何を食べます?」

 

何を食べるか、それは即ちディナーは何を食べるかだろう。博士は笑いながらも、ターミナルを操作してハッキングを行う。一致するパスワードを見つけて、パスワードを打ち込んで電子ロックの冷蔵庫を開く。

 

「じゃあ、フレンチでお願いするわ」

 

ウィルスのサンプルを見つけ、持ってきていた対爆ケースにそのサンプルを入れていく。

 

「さぁ、行きましょう」

 

二人は来た道を通り、消毒室を通って入り口へと戻る。想定していた時間よりも早くサンプルを回収してしたため、二人は合流しようと足をヴェルスキー少佐のいる方向へと向けて無線チャンネルを開く。

 

「此方シェイド、ハニガン聞こえるか?」

 

(・・軍・・・、緊・・・・!・・退を・・・)

 

地下なので電波を拾いづらく、直進する通路にアンテナを向けると無線内容がはっきりした。

 

(軍曹!、こちらハニガン!少佐は死亡、変異体の化物共に攻撃を受けている!急いで撤退してください!)

 

無線からは彼の声の他に何かの生物らしき叫び声とミニガンの銃声が響き、尋常ではないその状況に軍曹はプラズマライフルをいつでも撃てるようにしておく。

 

「お前は何処にいる?救助が必要かOver?」

 

(じ、自分は後から行きます!なので・・・来るな来るなぁぁ!!)

 

ハニガンの叫び声はミニガンの銃声によって掻き消される。軍曹は彼が居るであろうAI管理室に走ろうとするが、後ろから手が伸び、彼を止めた。

 

「博士、ハニガン伍長を助けないと・・」

 

「ダメよ。あなたの任務は何?私を守ることでしょ」

 

彼らのような装甲強化兵の任務は一緒にいた軽武装の二人を守ることである。しかし、護衛対象のうち、一人は死に、護衛するはずの人物も生きているかどうかすら分からない。軍曹の使命は博士を安全な場所まで護衛しなければならない。例え、部下が八つ裂きにされ苦しんでいようとも。

 

保身のためのように聞こえた軍曹は博士を睨み、肩を掴んだ博士の手を掴む。

 

「そうだ。だが・・・!」

 

「あなたは兵士でしょ。私だってあなたと同じように命令を受けている。これは大統領令に基づく最優先度の高い任務。私だってしたくないけど、あなたを軍法会議に出すことも可能よ」

 

憤慨し、保身のために言ったことを怒鳴ろうとした軍曹だったが、博士は臆することなく自身の任務について話す。保身でないとはいえ、信頼の厚く、友情が芽生えていた部下を助けられず失うことはショックだった。博士は軍曹のような人物はエンクレイヴに相応しくないようにすら思えた。

 

博士が身を置く研究機関はウェイストランド人を普通に人体実験することに抵抗はない。博士すらも、それに従事している。すでに彼女の両手は血に染まりきっていて、それらを濯ぐことは不可能だ。部下を信頼し、任務すら放棄して助けようとする軍曹の人間性。博士はエンクレイヴという非情な組織に身を置く兵士としては不適格と思うものの、自分が無くした物を持っていた彼に興味を抱いていた。

 

軍曹は博士の腕を放すと、近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばし、大きく歪ませる。彼はプラズマライフルを構えて臨戦態勢を取った。

 

「これより上層階に退避します。博士、急いでエレベーターまで移動しましょう」

 

「ええ、先導して」

 

軍曹はプラズマライフルの安全装置を外して、エレベーターのある方向に足を向けたその時だった。

 

地揺れと腹に響くような鈍い爆発音が聞こえ、照明が消えて緊急灯が点滅する。

 

「爆発・・・融合炉か!」

 

軍曹は爆発の原因を悟る。そして、近くのスピーカーからアラームと共に合成音が鳴り響いた。

 

(生物汚染ヲ確認!緊急規定マニュアルQuebec Whiskey - 32 Alpa ヲ適用!下層階ノ研究施設ヲ融合炉ノオーバーライドニテ消毒措置イタシマス。職員ノ皆様ハ規定マニュアルニシタガッテ行動シテ下サイ!残リ五分デ消毒ヲ開始シマス)

 

「Holy shit!・・急ぎましょう!」

 

アラームが鳴り響き、緊急灯がちかちかと点滅する通路はまるで旧世界の遊園地にあるお化け屋敷のようだった。エンクレイヴ内のVRシュミレーターでそれを体験したことのある軍曹は何かが出てきそうな雰囲気だった通路に冷や汗を掻きながら、重いパワーアーマーの足を動かし、前へと進む。

 

つい先ほどまで、来た道を引き返すのは容易いが、短いと思っていた通路は意外にも長く感じられ、一分が1秒に感じられるほど、時間の感覚が狂い出す。全身を覆う装甲によって身体が重く、走ろうとしても息苦しさと動きにくさによって軍曹は自身の装備を呪いたくなった。

 

「あともう少し!」

 

先導しようとしていたのはいつであったのか。後ろにいた博士は軍曹を追い抜き、ウイルスのサンプルを入れたケースを抱えながら、もう片手でプラズマピストルを持ち、先へ先へと走っていた。

 

「こん畜生っ!!」

 

ウィルスに感染しないよう、完全防護装備のパワーアーマーは従来よりも息苦しいものだった。今にでも脱いでめい一杯息を吸いたい衝動を抑えつつ、重い足を懸命に前へ前へと進める。

 

エレベーターまで少しのところで、適所に設置されたスピーカーから消毒する時間があと何分かを伝えてくる。

 

(残リ3分デ消毒ヲ開始シマス!)

 

すぐそこにエレベーターがあることを知っていた軍曹は、まだ余裕があると走っていた足を少し遅くした。これならば二分でエレベーターに到着するだろうと。

 

安心するのもつかの間、背後にあった水密扉でふさがれていたハッチに何かがぶつかる音がし、幾度も繰り返された銃を標的に向ける行為を不審な音をだすそれへと向けられた。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「何をしているの!?急いで!」

 

「エレベーターに先に乗ってろ!すぐに追いつく!」

 

バクバクと唸る心臓とは破裂するかのように酸素を求める肺。しかし、自然とそれらは収まり、神経に接続された戦闘インプラントが上がる息を整え、神経を研ぎ澄ませた。

 

エンクレイヴの兵士の強みは最新型のパワーアーマーだけではない。幾重にも訓練を積み重ねた屈強な肉体とそれに外科手術でとりつけた戦闘用インプラントだ。それは、戦闘中のアドレナリンの分泌量を調節したり、体感時間を遅くするなど様々なものが存在する。手ブレや高倍率視力インプラントなど。それらはウェイストランドで普及しているものやBOSの兵士達よりも優れたものを使用している。

 

そして、ヘリから降下し敵を一掃する強襲兵などは最高級のインプラントが導入されていた。

 

軍曹はプラズマライフルを構えていると、一瞬にして水密扉が破壊され、周囲に破片が飛び散り、軍曹は咄嗟に手で顔を覆う。

 

すぐ爆発したその方向へと視線を向けると、そこには信じられないような光景が広がっていた。

 

生体保管室に居たFEV変異体とおぼしき者が立っている。しかし、普通の変異体、スーパーミュータントのような体躯ではない。1m半の小柄な体躯で首がなく、顔は胴体にくっついており、手が長い。そして胴体と一体化した頭部。顔は何故か口を歪ませニタニタと笑っていた。

 

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャッヒャッヒャッヒャ!!!」

 

不気味なその笑い声は通路内に響き渡り、変異体は手足を使って四足で軍曹に向かって走り始めた。

 

本能的にヤバいと感じた軍曹は急いで引き金を引いた。マイクロフュージョンセルをエネルギー源に圧縮されたプラズマ弾は低速ながらも独特な発射音とともに飛んでいく。プラズマ弾は変異体の胸を直撃し、細胞を瞬時に蒸発させ、焼き殺す。溶けた細胞は粘液となって床に飛散し、変異体は絶命した。

 

軍曹はそれで終わったと思ったが、彼の考えを覆すように保管室から響く複数の笑い声が響き渡った。

 

「fuck!」

 

最大限の罵り言葉を叫んだ軍曹は、迫り来る変異体の数に恐怖した。恐怖から来る震えを抑え、プラズマライフルの引き金を引いて数発撃ち、腰に取り付けたプラズマグレネードを手にとり、起爆ボタンを押した。燃料電池から供給されるプラズマと発光によって極限まで温度が高まり、軍曹は生体室へと投げ入れた。

 

起爆すると、四方八方にプラズマが飛び散り、物体という物体を溶かしつくす。高温のそれはありとあらゆる物を融解させ、溶かし尽くしていく。軍曹はプラズマ光に照らされた通路を見て仰天した。先ほど走ってきた通路には無数の変異体がこちらに向かって走ってくるではないか。それも壁や天井を重力などものともしないように通路を通って軍曹へと近づいていた。

 

「嘘だろ、おい!!」

 

最早、銃撃による足止めは不可能だと判断した軍曹は踵を返してエレベーターへと走る。後ろへ手榴弾を投げようと考えた軍曹だったが、投げる手間を考えれば、手足を動かして走る方がまだましだった。不気味な笑い声はだんだんと近くなり、死がすぐそこまで迫っていた。軍曹は死にたくない一心でエレベーターまで走った。プラズマライフルをかなぐり捨て、身体中汗がまとわり付いても気に留めなかった。

 

「軍曹!急いで!!」

 

曲がり角を曲がったすぐ30m先にはエレベーターの中で待つ博士の姿があった。

 

(融合炉オーバーライドマデ残リ一分。)

 

 

軍曹は残り30mを全速力で走った。普通なら全速力で8秒ぐらいであったが、パワーアーマーを来ている彼は二倍ほど遅かった。彼を食らいつくさんという勢いで笑い声のような雄叫びを叫び、変異体は速度を上げた。

 

「急いで!」

 

博士は持っていたレーザーピストルで軍曹の後ろから迫る変異体の眉間にレーザーを撃ち込む。高温のレーザーは変異体の脳髄を焼ききり、絶命へと導いた。

 

軍曹はエレベーターに飛び込み、博士は閉めるのボタンを押した。しかし、閉まる瞬間に変異体の一部が手を伸ばし、博士を捕まえようと迫った。

 

「きゃっ」

 

「させるか!」

 

軍曹はとっさに、胸に取り付けていたリッパーを手にとると、博士の手を掴んでいた変異体の腕をリッパーのカーバイド刃で切り裂いた。エレベーターと真っ白な博士の防護服に返り血が飛び散る。他の腕も掴み取ろうとするが、エレベーターが上昇し、エレベーターの入り口の隙間に挟まれて契れていく。手は始めピクピクと動いていたものの、やがて動かなくなり、ピンク色だった皮膚はゆっくりと色を失いつつあった。

 

 

エレベーターは上昇し、軍曹は安堵したのかエレベーターの壁へもたれ掛かる。

 

エレベーターはVault87上層階と同じように内装がボロボロであったが、血や臓物で汚れてはいなかった。しかし、今ではさっきの返り血を浴びて壁には血がこびりつき、博士も心なしか手が震えていた。軍曹はその手に自身の手を伸せて優しく握る。

 

 

それは彼女を思う気持ちを現したからではなかった。軍曹でさえ、悪夢のような化け物に殺されかけた。インプラントがなければ手が震えていただろう。

 

 

数秒経ち、手を握った軍曹を博士は見て口を開いた。

 

 

「貴方との料理、フレンチじゃなくて普通に戦闘糧食(レーション)でも構わないわ」

 

 

軍曹は拒否されるのではないかと思っていたが、想像を越えた返答であった。

 

「フレンチじゃなくてもいいので?」

 

「食べる暇無いでしょ?レイヴンロックに着いたら、部屋のキーを渡しておくわ。技術部のブライアン技術少佐って名前が書いてあるでしょうから」

 

「しょ、少佐ぁあ?!」

 

軍曹は目の前にいる博士と呼ばれていた人が天上人であることを知り、驚いたに違いない。そんな人物とのディナーをしようと声を掛けたのだ。普通なら拒否するのが普通であるが、それをせずに寧ろ快よく受け入れてしまった。

 

すると、少佐は彼のパワーアーマーを叩く。

 

「上官命令よ、腹をくくりなさい!」

 

防護ガラスの奥に秘められた彼女の笑みは軍曹の目にはっきりと映った。

 

もしかしたら、自分は間違った選択肢を選んだのではないだろうか。軍曹は寄り添ってくる博士を押し返すことも出来ずに苦悶の表情を浮かべた。

 

 

 

ここでカメラアングルが代わってエンドクレジットならどんなによかったか。それはハリウッド映画ならではだろう。しかし、そういった終わり方はあり得ない。FEV変異体の化物がそんな簡単に諦める筈がないのだ。

 

金属が擦れるような鈍い音と共に、エレベーターの床から手が伸びる。それはピンク色の独特な色の手。次第に手でその穴を広げると、身体を乗り出して這い上がろうとしてきたではないか。

 

「嘘だろ、おい!」

 

エレベーターシャフトはエレベーターを動かすだけのスペースのみしかない。エレベーターの荷車を手助けする軌道レールにはエレベーター内にいる二人を食い殺さんばかりにこちらを見てにやけている変異体の昇る姿があった。器用に異常に発達した両腕でレールを掴み、食い殺さんばかりに隙間のあいた床から軍曹と博士をのぞき込み、一気に飛び上がると、仲間がこじ開けた穴へ腕を伸ばす。

 

「この野郎!」

腰に付けていたプラズマピストルを抜き取ると、ぶら下がる変異体へ引き金を引いた。超高温のプラズマ弾は床を突き抜けて、変異体の頭部を溶け、絶命しエレベーターシャフトの闇へと落ちていく。

 

しかし、プラズマでほのかに照らされた下のエレベーターシャフトには無数の変異体が蠢いていた。

 

「畜生、これじゃ不味い。上の味方まで巻き添えだ」

 

「ここの生物汚染を食い止めるため二重のエアロックがあるはず。それをすぐに閉鎖して貰うわ」

 

 

群れを為し、笑い声が幾つ響いているのか分からない。

 

軍曹は床が落ちないことを祈りつつ、プラズマピストルにエナジーセルをたたき込み、近くにいる変異体へと引き金を引く。必死な彼を嘲笑するかのように笑い声が響く。

 

変異体が何故、笑っているのかは分からない。

 

だが、面白くて笑っているのではないことは明白であった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

状況を冷静に判断し行動するよう訓練されたエンクレイヴの兵士達。彼らが隙を見せたのは地下から響く轟音と地揺れであった。

 

揺れは1分ちょっと掛かっただろう。

 

地震になれていないエンクレイヴの兵士達は一体何が起こったのか分からない様子だった。震度は4から5辺り。揺れ動く地面に兵士達は動揺した。

 

「一体何が起こってる!?」

 

「地下から爆発したのか。地震でこのvaultは?!」

 

ある統計では1970年から2000年まで震度4から7までの地震の起きた回数はアメリカが200回近く。日本はその10倍の2000回であった。しかも、その地震は一地方の活火山近くであるため、大多数のアメリカ人は地震と言えば、核爆発などの人的影響だろうと思うに違いない。

 

動揺するのはエンクレイヴの兵士だけではなかった。俺よりも数段戦闘能力が高いアリシアも例外ではない。突如起きた地震で冷静さを欠いていた。

 

「全員静かに!落ち着け!通信兵、下との連絡は!」

 

アリシアが俺に背を向けたのを見計らい、拘束用のストラップをナイフで切ると、素早くアリシアを羽交い責めにした。

 

「がっ!」

 

「中尉!」

 

エンクレイヴの兵士達は一瞬の行動を察知することができず、銃口を向けるのが遅れてしまった。向ける頃にはアリシアは盾にされている状況だ。

 

「全員動くなよ。出なければ、中尉の頸動脈から血が噴き出すぞ」

 

「ちっ!」

 

 

既に、シャル達は拘束されてヘリで輸送されていた。今更、俺がアリシアを人質に取ったところで佐官クラスの高級将校ならともかく、現場を指揮する尉官クラスの指揮官を人質に取っても何の交渉材料にもならない。

 

一旦、来た道を戻る事が必要だと考え、慎重にリトルランプライトへの道へ後ずさる。

 

エントランスのハッチまで来ると、アリシアの足が止まり、そこへ立ち止まる。

 

「アリシア、動け」

 

苛立ちを押さえて冷淡に言うと、アリシアは何やら冷笑をしてこちらを見る。

 

「残念だが、来た道を戻っても意味がないぞ」

 

「何だって」

 

「既にリトルランプライトの出入り口は押さえてある。今は彼らの保護を行っている。どっちにしても、もう手遅れだ」

 

子供達は気の毒だ。汚染された子供として使い捨て可能な労働力として動員するだろう。エンクレイヴは選民思想の組織であるため、子供達に未来はない。

 

「ちっ」

 

「もう諦めろ。悪いようにはしない」

 

「諦める?エンクレイヴがウェイストランド人を迫害し、奴隷のようにされるのを阻止することか?!」

 

どうやら俺はシャルやジェームズに毒されたらしい。

 

自分はウェイストランド人になりきったつもりだったが、本心はそうじゃなかった。

 

 

もし、水を乞うウェイストランド人がいれば、助けたくなる。蟻に襲われた少年が居れば、助けるし、可能な限りの事をしてあげたい。レイダーに襲われた商人を助けようと思うし、出来るならウェイストランドを救えるよう綺麗な水を何万ガロンもの水を供給し、荒廃した大地を。そして人類を救いたい。

 

普通のウェイストランド人がいれば最初で断念するはずだ。寧ろ、助けたいなんて思わないし、貴重な水を分けることすら考えない。蟻に襲われた少年を助けて、さらには家に呼んで生きていくために武器商人として教育を施したりはしない。そして、幼馴染みの父親に支援して物資を切り崩して浄化プロジェクトを要塞化したりなんてしない。そして、亡き彼の志を継いで浄化プロジェクトを完遂させようとなんて誰がするだろう。

 

そしてアメリカの亡霊とも言えるエンクレイヴという強敵。

 

普通のウェイストランド人は裸足で逃げ出している。だが、俺はこの場所に立っている。何としてでも、この逆境に立ち向かわなければならない。

 

Vaultの人間は典型的に人を助けたいお人好しなのかもしれない。嘗て、西海岸のvaultの住人。彼は綺麗な水を供給するための浄化チップを荒野のウェイストランドで探そうと旅だった。様々な場所を旅し、スーパーミュータントを率いるザ・マスターを抹殺し、ウェイストランドを平和へ導き、無事に旅を終えた。そしてその子孫の選ばれし者は捕虜となっているvaultの住人達を解放し、西海岸で拡大していたエンクレイヴを壊滅させた。

 

彼らも人を助けたいという善意があって行動していた。すべてのvaultの住人がそうであるならば、その祖先であるアメリカは未だに存続していたに違いない。

 

彼ら「vaultの住人」と「選ばれし者」かれらは卓越した才能やカリスマ、運。そして、人を助けたいという意志が強かった。ウェイストランドで生まれる英雄はそうした者を持ち得ている。そしてその英雄という称号は彼女に相応しい。

 

 

「俺はVaultの生まれだからかな。変な奴が多いんだ、気を付けた方がいい。もっとも、エンクレイヴのポセイドンオイル基地が吹っ飛んだ原因はVaultの人間だったか」

 

実際はVault住人の子孫だが、どっちにしても同じだろう。

 

「何故その事を?」

 

俺に銃を向けていたエンクレイヴの兵士は驚いたような声を挙げる。

 

「FEVウィルスで戦前のアメリカ人より放射能に耐性があったり、簡単に病気にならないんだ。それを考えるなら、環境に適応した人類と考えればいいだろう。強制進化ウィルスと言うのなら、今のウェイストランド人こそ適応した人類。Vaultやエンクレイヴの人間は純粋なアメリカ人と言ってるが、単に進化できなかった適応できなかった出来損ないだろ」

 

「な、貴様!」

 

出来損ないと言われた兵士は激高するものの、引き金は引かない。しかし、他のエンクレイヴの兵士は驚いたような反応をするが、激高する兵士以外はそこまでの怒りを持っていないように思えた。

 

Vaultやエンクレイヴにしたって、しっかりとした教育と科学力を持っているからウェイストランドで生きて行けるのであって、最終戦争で生き抜いてきた生粋のウェイストランド人は「純粋な人類」と比べて適応能力は並外れたものだろう。もし、同じ土俵に上がれば、負けるのは、エンクレイヴやvaultの住人かも知れない。

 

「何故それをお前が知っているんだ?エンクレイヴか一部の研究者しか知らないその情報を」

 

アリシアは俺の言った事がウェイストランドでは全く出回っていないことを知っていた。FEVウィルスなんていう単語はBOSでさえ知らず、エンクレイヴか一部の科学者のみしか知ることを許されないもの。

 

「何でだろうな?どっちにしても、俺はエンクレイヴが西海岸でやっていた事を知っているし、未だにそれを行おうとしている人間も居ることは知ってる。だから・・・諦めるわけにはいかない」

 

エンクレイヴという組織は善悪の区別を付けるとしたら、勿論悪だろう。正当なアメリカ合衆国政府と言っているものの、中身は選民思想と排他主義の過激組織である。ウェイストランド人を汚染された人類として、残虐な人体実験を行ってきた。さらには、FEV研究のためにvaultの住民をテストしてFEV変異体、スーパーミュータントに変えてしまうなど悪の組織として西海岸に君臨していた。

 

今はそうした事をやっているという報告はない。メガトンやリベットシティーには懐柔政策が取られていると聞く。西海岸で行っていた悪逆非道な行動はないようだが、いつ化けの革がはがれるかは分からない。

 

「そうか、残念だ」

 

アリシアはそう呟き、下を向く。

 

エンクレイヴは悪逆非道な組織で間違いはない。だが、vault101で会った技術将校のロイド・スタッカート少佐。彼はエンクレイヴが一枚岩ではないことを話していた。選民思想などを受け継いだ西海岸出身の高級将校。そして、東海岸で育ち、現場主義で左遷されてウェイストランド人に偏見を持たない良識ある将校。全てが全て悪ではないことは知っているものの、トップがあれならば組織は悪の組織のままだ。

 

 

周囲の兵士達がプラズマライフルとレーザーライフルで俺を狙っている中、FEV製造施設に通じるエアロックからエレベーターが昇ってくる音が聞こえてくる。

 

下に居たエンクレイヴの兵士達が帰ってきたに違いない。もし、逃げられるとすれば下層階だろう。だが、どちらにしても袋のネズミだ。

 

しかし、エアロックから出てきたのは、ボロボロのパワーアーマーを来た兵士と返り血で赤く染まった白い防護服を着た技術者だった。後ろからいきなり出てきた二人に気を取られた俺は自分の失態に気づき、注意をアリシアへと向ける。

 

彼女の肘鉄が脇腹へ直撃し、内臓が揺さぶられる。そして羽交い責めにしていた右手を掴むと一気に俺を投げ飛ばした。

 

「ガッ!」

 

すぐに俺に銃を向けていた兵士は俺を拘束した。

 

その時、エアロックから帰ってきた二人は急いで緊急閉鎖のボタンを押していた。それを見ていたアリシアはまだ帰らない兵士と情報局のヴェルスキー少佐はどうしたと二人に問う。

 

「残りの二人はどうした」

 

「下層階でFEV変異体に遭遇。生物汚染の為退避しました。少佐と護衛の部下は死亡!」

 

「なっ!」

 

アリシアは安全だと言っていた本人が死亡し、さらには満身創痍の状態で二人が帰ってきた事に驚いていた。警備をしていた兵士の一人は警戒しながら人一人分の空間のエアロックに近づいた。エアロックはゆっくりと閉まっていき、ゴウンゴウンと機械音を出しながら閉まっていく。

 

「ん?なんだ今の音は?」

 

兵士は何か聞こえたらしく、頭を傾ける。その音はだんだんはっきりと聞こえてきた。まるで、人の笑い声のような・・・・

 

「おい!そこから離れろ!!」

 

「え?」

 

エアロックから帰還した兵士は不用心に近づいた兵士に向かって叫ぶ。しかし、兵士が振り返った瞬間彼の後ろからピンク色の腕が伸びて彼の身体を掴んでいった。

 

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」

 

そこには、シャル達と見たVaultスーツを身に纏った失敗したFEV変異体と呼ばれるミュータントであった。首はなく胴体と頭が繋がっており、顔には満面の笑みがあるものの、それは喜びを表現しているとはとても思えなかった。

 

「うわ!辞めろ!来るなぁ!」

 

次から次へと伸びる手はエンクレイヴの兵士を掴むと、エアロックの向こう側へと引っぱっていく。エアロックは徐々に閉まり、エンクレイヴの兵士はじわじわとハッチへと引きずられていく。

 

「何してる!救助しろ!」

 

 

我に返った兵士達は捕まった仲間を助けようと身体を掴み、引っ張ろうとするがエアロックは既に閉まり掛かろうとしていた。

 

「離せ!離せ!・・・・痛い痛い痛い!!」

 

エアロックの向こう側に上半身が持って行かれ、懸命に足を引っ張るが、連れ戻すことが出来ない。兵士の断末魔とバキボキと言うおぞましい音と、彼の叫び声が聞こえなくなり暴れていた足が大人しくなる。すると、妙にその兵士の身体が軽くなり、掴んでいた兵士が引っ張り上げた。

 

 

「ひっ!」

 

誰が叫んだが分からない。パワーアーマーの装甲は全て引き裂かれ、中にいた兵士の手足頭はもぎ取られ、腹部からは臓物が垂れ下がっていた。

 

「ヒャヒャッヒャ!」

 

「てめぇ!」

 

エアロックの隙間から身体を出し、両腕で閉まらないようにしていたミュータントは見下ろすように、こちらを見て気味悪い笑みを浮かべていた。それに腹立った兵士は持っていたプラズマライフルでミュータントの手足を吹き飛ばした。

 

「ヒャヒャッヒャ・・・ギャァァ!」

 

エアロックはミュータントの手足を失ったことにより、閉鎖されていき、ミュータントの身体を潰していく。生理的に聞きたくないつぶれる音と血潮がエアロックの周囲に飛び散り、閉鎖が完了した。

 

 

ウェイストランドでも異質なそれを見た兵士達はしばし沈黙するが、アリシアの激高と共にそれは破られた。

 

「ブライアン博士、一体今のは!」

 

「今のが、vault87で研究されていた生物兵器。ベースはFEVウィルスの改良型。経口感染などで変異体にすることの出来る変異種。暗号名は『ウロボロス』と呼ばれているわ。」

 

二重に閉鎖されたエアロックからでもウロボロスは笑い声を挙げ、兵士達は後ずさった。

 

「総員ヘリへ帰還。無線兵は司令部に全隊員へウィルス除去チームを要請。BC科学部隊を派遣し、ここ周辺を封鎖する」

 

「了解、司令部に打電します」

 

エアロックからはドンドン!という音が漏れ聞こえ、ハッチが壊れるのではないかという轟音を出していた。

 

「彼はどういたしますか?」

 

俺を立たせ、プレートキャリアの取っ手部分を掴み、立ち上がらせた兵士はアリシアに訊いた。

 

「連れて行く。レイヴンロックで説き伏せるから手荒なまねはしないでくれ」

 

「了解しました。ほら、行くぞ!」

 

手荒な真似をするなと言われているにも関わらず、自身の指揮官に危害を加えた男に対しては恨みしか持っていないのだろう。強引に力任せに立ち上がらせると、背中を突き飛ばすようにしてエントランスへと連行する。

 

殿はミニガンを携行する兵士が行うらしく、俺の後ろには三人の兵士が警戒していた。

 

最初は入れなかったエントランスのハッチを通りすぎようとした時、後ろで響いていた音が途絶え、代わりに金属が掠れるような音が響き渡った。

 

「おい、まさかまさか!」

 

押し破るなど、知能的にはスーパーミュータント以下なのだろうと思っていた。しかし、押してダメなら引いてみろとでも言わんばかりに、金属がこすれるような音が響き、成功したことを喜んだのか、再び笑い声が響いた。

 

「走れ走れ!」

 

背後を見る間もなく、後ろの兵士に背中を押されエントランスの通路を走る。後ろではミニガンの爆音とプラズマライフルの発射音が聞こえ、そしてすぐに悲鳴が響いた。

 

「やつら走ってくるぞ!」

 

プラズマライフルで応戦しようと、立ち止まり、襲いかかろうとするミュータントにエンクレイヴの兵士は銃撃を加える。しかし、2・3匹殺したところでさらに6匹以上もミュータントが襲いかかり、群がって装甲を剥ぎ取り貪り喰らう。怒号と悲鳴、そして爆発音が響き、足の遅い兵士達は次々と奴らに喰われていった。パワーアーマーは銃弾や破片を弾き、トラックが衝突しても無傷であるなど頑丈ではある。しかし、装甲は取り外しが出来るよう、装備しやすいようにモジュラー装甲を採用しているため、力のあるミュータントは装甲を引きはがして兵士達を惨殺した。

 

 

手はさっき兵士によって針金でぐるぐる巻きにされ、自由は利かない。自由が利かないが、エンクレイヴの重装備の歩兵よりは早い。

 

「急げ!」

 

「こっちに来るな!・・・がっ!嫌だぁぁぁぁぁ!」

 

 

肉を引き裂き、骨を砕く。後ろから迫るミュータントに襲われ、生きたまま貪られる姿を見、重装備で遅いエンクレイヴ兵士を追い抜く。

 

「こちら、Echo1-2!vault87の未確認ミュータントを確認。攻撃を受けている。これより撤退する。支援要請を求む!」

 

以前のvault101のように前線基地にするつもりだったのだろうか、エントランスには幾つものエンクレイヴボックスが並べられ、稼働していない警戒ロボットやタレットが確認できた。怒濤のように押し寄せるミュータントはそれらをなぎ倒し、生きる者へ襲いかかった。

 

「ヘリが離陸するぞ!急げ!」

 

Vault101のようなエントランスを抜けると、エンクレイヴの兵士達数名が横列となり、ミニガンやレーザーガトリングを手に襲いかかろうとするミュータントに一斉射撃を加えようとしていた。

 

「皆殺しにしろ!撃ちまくれ!」

 

唸るミニガンのアイドリング音とエネルギーが充填されるレーザー照射器。横切った時、指揮官らしき人物はまさにここを死に場所に選ぶとばかりにすがすがしい顔をしていた。

 

「撃ぇ!!!」

 

エンクレイヴの造兵廠で作られた5mm弾と充電パックから充填されたレーザーは怒濤の勢いで迫るミュータントに発射され、肉を抉り、血潮を挙げる。

 

 

「急いでヘリに乗り込むんだ!急げ!」

 

後ろから、分隊の指揮官らしき男が叫ぶ。しかし、その叫ぶ間にミニガンを持つ兵士へ射線から逃れたミュータントが飛びかかり、すぐに他のミュータントが群がっていく。

 

「はぁ・・はぁ・・・はぁ」

 

息が切れ、エントランスがもう少しの所まで迫る。

 

ミニガンやレーザーの発射音も聞こえなくなり、笑い声はすぐそこまで迫っていた。

 

融解したvaultのエアロックをくぐり抜け、土と焼き焦げた匂いが風に乗って顔に掛かる。エアロックをくぐり抜けた先には、即席で作られたヘリポートと周囲を警戒していたエンクレイヴの兵士の姿、そしてティルトローターを回転させるベルチバードの姿があった。

 

「急いで乗れ!後ろから来るぞ!」

 

エンクレイヴの兵士に促され、走って行くとすぐ後ろからまたも笑い声が響いた。先ほどの足止めで準備していた兵士達はもうやられたのだろう。近づくミュータントに追いつかれないよう、ヘリのパイロットによって開かれたヘリのハッチへと入って行く。

 

「離陸するぞ!急いで中へ!」

 

ベルチバードは一度ゲームで見た朧気な記憶と幾つか似ていて、入るとそこには先ほどの白い防護服を着ていた技術者らしき人物と数人の兵士。そして、すこしやつれた顔をしたアリシアの姿があった。

 

「奥に入ってくれ!」

 

「おっと!」

 

俺は機内の奥へと追いやられ、すぐそこにある機内窓へ顔を近づけた。

 

 

「こちらlightning1-1離陸する!援護頼むぞ!」

 

(了解、leader!)

 

機体の外から聞こえる機関砲の音とロケット弾の爆発音。そして、機体はフアリと浮き上がり、離陸したことを身を以て体験した。

 

「こちらLightning1-1。HQ、vaultからミュータントの軍勢が南南西の方向へ移動中。我々の燃料と武装では殲滅不可能だ。直ちに航空支援か火力支援を要請するover」

 

(こちらHQ、了解した。近隣の航空部隊に連絡しそちらへ爆撃を行う。)

 

 

旋回するベルチバードからみるその光景は異様な物だった。穴蔵からはわらわらと人ならざる者、ウロボロスと呼ばれるミュータントは群れを為して固まって移動しているのが見て取れた。

 

 

一人、その光景を見ていると、横から手が伸び、誰かが俺の腕を掴んだ。その手は思い切り、俺を引っ張ると座席へと座らせた。

 

「って、何を!?」

 

俺の腕を掴んだ張本人はさっきまで俺が羽交い責めにして、手痛いしっぺ返しを喰らわせた人物だった。アリシアは俺を隣に座らせると、周りにいた驚き声を挙げた兵士に「何を見ている」とにらみを利かせた。

 

俺はその突然の事に驚きを隠せなかった。

 

「ん~・・仲直りしようと思って」

 

「はぁ!?」

 

先ほどまで犬で例えるなら牙を剥いて威嚇していた俺である。それなのに、そんな人物との仲直りを望むなんてどうかしていると思う。ましてや、自分の所属する勢力を貶していたのだ。そして、浄化プロジェクトを裏切り、俺たちを裏切った。今更、仲直りだなんて虫が良すぎる。

 

「・・・・一応、感謝はする。ヘリに乗せてくれなかったら死んでいたかも知れないし」

 

おれは一応、彼女に礼を述べた。

 

「ユウキはエンクレイヴに対して勘違いをしている。全てが全て、悪逆の限りを尽くす訳じゃない。どんな組織や国家にだって、許されない行為を行ったことはある。今のエンクレイヴはウェイストランド人から見ればまだ危険分子かもしれない。だが、昔よりは格段に良くなっている」

 

あらゆる組織や国家には、完全に善というわけじゃない。例外を除いては何かしらの許されない行為を行った歴史が存在する。核戦争後の血塗られた時代となった今では、許されない行為を行わない組織や国家はあっただろうか?エンクレイヴはその時代の中では極悪とも言うべき存在だ。だが、歴史を辿れば、さらに極悪の組織や国家が存在する。そして、それらが左右曲折を経て、まともな存在になったことがある。

 

「そうかもしれないが、ウェイストランド人を差別する選民思想は根強く残っているし、浄化プロジェクトの時はプロジェクトチーフを殺したんだぞ。流石に、エンクレイヴを容認できないよ」

 

「そうか・・・、まあ基地まで行ってから話をしよう」

 

アリシアは呆れたような顔をするものの、まだ諦めないつもりらしく、周囲の兵士から視線を受けているにもかかわらず、平然としていた。

 

最後は俺だけだったが、他のみんなはヘリに乗り込んだのだろうか。さっき他の兵士が基地へと移送したと言っていたが、それを確認したわけではないので、少し不安が過ぎる。すると、コックピットから機長らしき人物の怒声が響き渡った。

 

「何ぃ!我々がいるのにそんなことを!少尉!急いで離脱するぞ!」

 

機長らしき人物が隣の副機長に叫ぶと、操縦桿を握って大きく旋回した。急激な旋回とエンジンの出力を挙げるように、ローターの回転音が上がっていく。急な旋回によってGが掛かり、身体が揺れ動く。アリシアはその事態に驚き、席を立ってコックピットへと急いだ。

 

「機長、どうした?」

 

「レイブンロックから通信で、ここへブラッドリー・ハーキュリーの爆撃が有るようです!」

 

「何だって!」

 

そのアリシアの驚愕の叫びに周囲の視線が向く。そして、空の方から轟音が響き、空にいた俺たちでさえ、その地響きに近い揺れに驚きの声を挙げた。そして、俺は急いで立っていた兵士の脇を通り抜け、機内窓から外を覗く。地上にはvault87と移動しているウロボロスの群れがあった。

 

すると、轟音と共に筒状の物が落とされる。

 

それは、大戦争前に製造された中国本土へ発射するために作られた衛星ミサイル兵器。

 

一発のミサイルはvault87のエアロック目がけて突入し、爆発した。

 

 

弾頭は通常弾頭か核弾頭か分からない。しかし、その威力はヘリの航行を不安定にするだけの威力を持っていた。爆発と共に衝撃波がベルチバードを襲い、機体が揺れてアラームが鳴り響く。衝撃波によって機体が軋み、揺れによって兵士が床に倒れ、兵士のうめきが木霊した。すぐに取っ手に掴まり、事なきを得たが、地上にいれば衝撃波によって爆殺されたに違いない。

 

地上には核の冬で出来た灰と土埃が舞い上がり、視界を奪う。そして澄んだ空には核を象徴すべきキノコ雲が立ち上っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次は第七章「The American Dream」です。物語も終盤ですが、やっとここまでこれました。これも読者様方のお陰でございます。

最後まで頑張っていきます。


誤字脱字、アドバイスなどございましたら宜しくお願いします。

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