fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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やっと退院いたしまして、投稿です。

長かった・・・・。

時間はかなりあったので、ノーパソで時間があれば書いてました。もっとも、体力が許す限りですがw



この話は三部構成です。※のラインから時間軸が変わります。最初の一部以降は全部三人称となりますのでご注意下さい。


四十話 議会

 

 

行政区画

 

 

そこはまだ、合衆国政府が存在しているようだった。いや、『しているよう』ではない。実際、そこに政府は存在していた。

 

 

最終戦争前、エンクレイヴは政府機能を生き残らせるために数カ所に機能を分散させることを構想する。それは、古代中国における複都制と似通っているものであった。それは、エンクレイヴの本拠地であるポセイドンオイル基地に大統領府を設置し、軍事をそこへ集中させる。省庁などの司法や行政に関わるものは、一先ずレイヴンロックのデータベースへと保管した。

 

 

しかし、エンクレイヴの予想を遥かに上回る核攻撃の被害によって、複都制はアクセスの困難さが仇となった。そのため、中央行政はレイヴンロックの行政区画の省庁が担当し、その他地方行政は人員を派遣した、またはそこにいる役人に委任した行政を行った。大統領府と米軍総司令部はポセイドンオイルとした。一応、レイヴンロックには総司令部にもできる設備があったが、官僚主義的な事なかれ主義がポセイドンオイルに大統領官邸をそのままにし、vaultの住人によって壊滅することになるとはエンクレイヴも想定していなかっただろう。

 

 

分散させた行政能力のおかげで、西海岸の基地と領土を失った以外は、国家としての運営は可能だった。西海岸から逃れた生き残りの総司令部の将官は僅かであり、大統領官邸にいる行政官は全滅だった。現在では、大統領の継承順位によって大統領が選ばれている。それが、ジョン・ヘンリー・エデンだ。

 

 

そんな話をアリシアから聞いて、アメリカの首都機能を分散させるためにそうした行動をとったのには驚いた。なにせ、大陸をまたいで大統領官邸と行政の省庁を分けてしまったのだから。しかし、核の炎によって全てを焼きつくされるよりはマシなはずだ。中国はワシントンD.C.を荒廃した大地に変えてしまったのだ。しかも、大統領官邸(ホワイトハウス)はフェンスに近づいただけで被曝するようなクレーターに姿を変えてしまっている。

 

アリシアの後に続いて、彼女の話を聞きながら行政区画を歩いて行く。

 

行政区画にはウェイストランドでは見られないような通路が人の川のようになるところ。黒いスーツをきた役人が歩きまわっていることに驚きを隠せなかった。

 

「いつもこんなに人数が多いのか?」

 

「出勤時間だからな。私もあまり来ないけどすごいな」

 

アリシアも行政区画に来ることは全くないのだそうだ。エンクレイヴの総司令部はよく行くそうなのだが、今日に限っては行政区画の閉鎖されたエリアで「議会」の会合となる。廊下の人垣をかき分けながら閉鎖されたと言われるフロアへと移動する。

 

途中、エンクレイヴのMPの下士官が巡回していて、俺を見ると敬礼して去っていく。

襟にある大尉の階級章は伊達ではない。

 

「ご機嫌ですね、大尉殿♪」

 

茶化したようにアリシアは俺に言う。一応、見た目だけは大尉であるから、アリシアが弄ってくるのも分かる。しかし、公衆の面前でそれをやられても困るのだ。

 

「スタウベルグ中尉、案内してくれ。命令だ」

 

「は~い、了解です」

 

演技する気も失せたのか、間の抜けた感じで彼女は案内する。俺たちは忙しいのにと、怒気を孕ませた視線が痛かったのでアリシアを急かして急ぐ。アリシアの案内によって、オフィスフロアの隅にあるエレベーターに到着した。そのエレベーターは工事中のため立ち入り禁止の札が掛かっており、作業着姿の工兵が談笑していた。

 

「大尉殿、申し訳ございません。このエレベーターは封鎖中です。下の階へは中央エレベーターをお使い下さい」

 

その作業着の工兵だったがよく見てみると、彼らは工兵ではない。工兵なら機械油の臭いが染みつき、手は長年の機械油のお陰で黒くなっているだろう。その両方とも存在せず、左脇は妙に出っ張っているではないか。

 

「アリシア、ここだよな?」

 

「ああ、アクセスコード“Foresty”」

 

アリシアがそう言うと、工兵は敬礼してズボンのポケットから鍵を取り出した。

 

「認証完了です、スタウベルグ中尉。そちらは?」

 

「重要参考人といえばいいか、議員達はもう?」

 

「はい、皆さんお待ちしています」

 

工兵二人はエレベーターの両脇に立って、鍵を指すと、息を合わせて鍵を回した。エレベーターの扉が開くと、そこは基地のエレベーターとは違って、木材を使ったノスタルジック調のエレベーターだった。

 

それに乗り込むと、エレベーターの扉は締まり、エレベーターは下っていく。

 

「彼らは警備兵か?」

 

「ああ、よく分かったな」

 

「眼光は工兵のそれじゃないし、手は汚れてない。それに左脇が膨れてたからばれるさ」

 

「そうか、二人に伝えておこう。お前みたいな勘の鋭い奴がいると困るからな」

 

ボタンを押し、エレベーターは下降を始める。到着し扉が開かれると、そこは何処かの洋館を思い出させるような木調の壁だった。無機質な壁ではなく、優しさを感じさせる茶色の濃い年輪が見え、複合材ではないことが伺えた。

 

そしてエレベーターの目の前には、アメリカ合衆国初代大統領、ジョージ・ワシントンの肖像画が壁一面に飾られていた。その他にも生け花が花瓶に指され、まるで生きているかのようだ。おれは花に近づき手に取る。生前まで、何気なく見ていた花だったが、転生してVaultの住人になってから生きている花を見るのははじめてだろう。

暖かみのあるそれに俺は驚きを隠せなかった。

 

「ユウキ、花を見るのは初めてか」

 

「ああ、エンクレイヴが花を栽培しているとはな」

 

元々、エンクレイヴが作っていたわけではない。新カリフォルニア共和国のVaultシティで栽培しており、戦争中に生体サンプルを入手していたらしい。それをクローン培養で生んで、高額ながらもエンクレイヴ内で取引しているようだ。

 

「そう言えば、通貨とかあるんだよな?」

 

「勿論、電子通貨だがな」

 

アリシアがポケットから取り出したのは俺の軍服に入っていたのと同じカードだった。俺のは名前や顔写真が入っていないが、アリシアのは顔と名前、所属と基地内の住所が書かれている。

 

「昔はイトオートマチックの生成装置や自販機もあったけど、今使われているキャップと誤認したらしい。それも軍の配給装置でもだ。そこで、全て電子情報にしたのさ」

 

200年の間、戦前と同じ水準を保ち、尚且つ進歩していることからそうした電子貨幣に移り変わるのも技術革新の流れからしてみれば当然なのかもしれない。キャップが擦り合わさりガチャガチャと音を鳴らせ、高い買い物に幾つものバラモン鞣しの財布をパンパンにさせて行く必要はない。だが、エンクレイヴは独自の貨幣経済が浸透していることはもしかして・・・・。

 

「アリシア、エンクレイヴの人口ってどのくらい居るんだ?」

 

貨幣経済はそれに関係する国民がいなければ成立しない。そもそも貨幣とは、金品や物品を交換できる金本位の交換券として始まった。それを保証する国も必要であるが、相当数の国民もいなければ金は循環しない。

 

「エンクレイヴの人口か?」

 

「ああ・・・」

 

「そうだな、この前厚生省の報告だと去年は10万人だったっけか?」

 

10万人、それは東南アジアの島国の小国の人口と同じぐらいだ。そして新カリフォルニア共和国と比べると凡そ、6倍。NCRは60万もの人口を持っている。

 

エンクレイヴが単なる武装集団ではなく、確りとした国家であったことに驚いたが、実際考えてみればパワーアーマーやベルチバードなどの兵器を持つ手前、生産する設備やそれを動かすメカニック。兵士が居れば食物を作る農民。軍とは巨大な消費機構であり、絶対生産する事はない。ただ、物を消費するのが軍隊であり、得るものは領地と賠償金。あるいは僅かながらのお金と勲章、星条旗と棺桶が与えられる。強力な軍には必ず国民が居るのである。

 

「何処に住んでいるんだ?」

 

「飛び地だから詳しく言いにくいけど、東海岸の一部を除く軍事基地と隣接する市街地。あとシカゴは地元のBOSと戦闘しているが、あそこもエンクレイヴの支配領域だな」

 

昔はナヴァロやポセイドンオイル。あとはサンフランシスコ、主要基地がエンクレイヴの領地だった筈だ。彼らが、選民思想と排他的でなければ西海岸のエンクレイヴが壊滅することはなかったかもしれない。

 

「ユウキ、無駄話はこれくらいにして先に進もう。議員達が待っている」

 

アリシアは俺を呼ぶと、通路を歩き俺もそのあとに続いた。

 

廊下には歴代の大統領の肖像画が飾られている。その廊下を歩いていくとリチャードソン大統領の肖像画があり、その隣に知らない男の肖像画がある。名前を見てみると、ジョン・ヘンリー・エデンと書いてあるではないか。

 

「アリシア・・・・今の大統領って・・」

 

「ああ、エデン大統領だ。元々、ポセイドンオイル基地の閣僚だったが、シニア・オータム技術中将が連れてきたらしい」

 

壮年のアングロサクソン系の白人。目立った特徴がないが、彼が本当は大統領ではないことは知っている。彼はレイヴンロックに作られたZAXスーパーコンピューター。自我を芽生えさせたAI。人ならざるものだ。議会のメンバー上層部の彼らは知っているのだろうか。オータム大佐は確実に知っているだろうが、俺がそれを知っているのが分かれば疑われるのは必須だ。

 

廊下を歩いていくと、扉の両脇にはパワーアーマーを着てプラズマライフルを携帯する兵士の姿が確認できた。識別するために肩には青い布が被されていた。

 

「スタウベルグ中尉、既に議員達は会議中です」

 

「分かっている、その為に彼を連れてきた」

 

アリシアは俺を親指で指差し、パワーアーマーを着た兵士は顔を見合わせたあと、片方の兵士は後ろからタッチパネル型の携帯端末を取り出した。

 

「一応規則ですので、ここに手を」

 

アリシアはそこに手を乗せて、幾つものセンサーが彼女を読み取る。指紋から整脈、DNAに至るまで。画面は検査中のため黄色になっていたが、すると画面が青くなり検査が通ったことを知らせた。

 

扉が開くと両脇の兵士はアリシアに敬礼し、その扉が開かれる。

 

 

そこは、天井が高く数百名が収容可能な会議場だった。核戦争後に地下でも議会を運用するために作られたそこは、Mr。ハンディーが綺麗にしているはずであったが、空気中には埃が漂っていた。大戦争中に非常事態宣言が出され、その時に議会は一時閉鎖となっている。非常時の大統領は強大な権力を持つよう、一極集中するようになっていた。

 

エンクレイヴの母体となっているのは、タカ派の議員や軍人。そしてアメリカの軍需産業を牛耳る軍事複合体である。資本主義を是とする国家だからか、殆どの政策は経済を動かす財界によって左右される。戦争と共に肥大化した軍事複合体も特にそれに当てはまり、彼らが儲けるために戦争を行うようなものなのだ。

 

だが、大戦争による核の炎で全てが焼きつくされた時、儲けるものは存在しなくなった。核戦争は彼らが望んだわけではないかもしれないし、予想外の被害だったのかもしれない。軍事複合体の彼らが銭を稼ぐことは未来永劫なくなってしまった。エンクレイヴの首脳部による国家統制経済によって貨幣がコントロールされ、地下軍需工場は国営同然となった。

 

横暴な軍部やタカ派の中でも過激な政治家。それらに反感を抱いた者達は秘密結社を結成し、再び資本主義社会を。民主主義社会を求め、自分たちを「議会」と名乗った。

 

 

「【話をすれば影】とはこのことか、ようこそ議会へ。歓迎するよ、ユウキ・ゴメス君」

 

そこには議会のメンバー数十人と議長である佐官姿のアウグストゥス・オータム大佐が人の輪の中心に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『会議は踊る、されど進まず』

 

ナポレオンが敗北し、1814年のオーストリア帝国のウィーンでは戦後処理の会議が行われたが、互いの国の意見がぶつかり合い、ダンスパーティーで踊っても会議は進まなかった。その言葉は会議が進まない時の表現として度々用いられることになるが、核戦争から200年経った後の会議でもそれは変わらない。

 

 

エンクレイヴは大統領派と西海岸オイルリグ派・東海岸派の3つにわかれている。

 

大統領派閥はオイルリグ崩壊後にシークレットサービスの生き残りの集まりで、参謀本部の中にもシンパが存在する。彼らは大統領に陶酔する親衛隊のようなもので大統領の命令に背いたものは打ち首にすればよいと本気で考えるものがおり、エンクレイヴ内でも危険視されている一派である。しかしながら、エンクレイヴは合衆国と大統領に忠誠を誓うため、公然と親衛隊の創設や大統領批判は銃殺といわなければ認知されないのだ。今分かっているメンバーとして情報局のボイド・ハワード中佐やその部下であった 情報局が一番多いとまことしやかに囁かれているが、三つの派閥の中では少数派であるものの、その力は大統領の命令を出させるほどに力が強くなっている。

 

 

そしてオイルリグの生き残りである西海岸派はエンクレイヴ上層部の殆んどが属している。オイルリグ破壊後にシニア・オータム技術少将が残存兵力を結集し、東海岸へ統合した。彼らのその多くがエリート意識を持っており、東海岸が嘗て左遷される場所だったこともあり、エリート意識は更に増加した。オイルリグのあったとき、リチャードソン大統領を信奉していた者達の生き残りは穏健派であった東海岸派の将軍を一掃するなど、エンクレイヴの大半を支配下に置いている。

 

 

東海岸派は西海岸から左遷された者が多く、東海岸自体僻地と捉えられていた。ポセイドンオイルが大統領官邸(ホワイトハウス)の役割を持っていたとき、首都をワシントンに遷都する意見が出たものの、リチャードソン大統領によって却下されている。エンクレイヴとしては、核攻撃を多く受けているため、汚染は酷いと予測していた。民間より軍を重んじる風潮が上層部にあったためか、行政を担うレイヴンロックはそのまま残してあると言った状況。

他よりも荒廃している地域であったためか、東海岸の人員はウェイストランド人に対して同情的だった。中には基地を解放すべきとの意見も出るほどであり、2277年現在の大半の兵力は東海岸出身者が大半を占めている。彼らは西海岸派の高圧的且つ排他的選民思想に呆れ、既にあった地下組織である「議会」と接触した。彼らは大統領となったジョン・ヘンリー・エデンを暗殺すべく行動を開始したが、密告によって粛清を受けた。

東海岸派の中心人物であるウィリアム・スタウベルグ中将を国家反逆罪で処刑し、その他構成員を多数処刑した。「粛清」と呼ばれる反対派の一掃は東海岸派を弱体化させ、議会も表だった活動はしなくなったのだ。

 

しかし・・・・・

 

 

エンクレイヴの首都であるレイヴンロック。その行政区画の奥にあった合衆国議会堂をそのまま持ってきたような内装の大部屋には20人ばかりの人が集まっていた。

 

その面々は行政のメンバーが大半を占め、軍服を着たものは少なかった。黒いスーツを着ている重鎮らしき面々は行政のトップが勢ぞろいしていた。ほかにも軍需生産や食糧生産、非公式に作られた市民議会の議員の姿もあった。そんな文官が多くいる中で目立つのは軍服を着た武官の存在だ。

エンクレイヴの最高機関である統合参謀本部の責任者である参謀総長のジョセフ・ドライゼン中将が神妙な顔つきで議論に耳を傾けている。そして、20数名の議会のメンバーの締めであり、統合参謀本部首席補佐官と大統領補佐官を兼任するアウグストゥス・オータム大佐。壁際で控えているのは最近オータム大佐のお気に入りと目される、議会グループの首領であったウィリアム・スタウベルグ中将の遺児、アリシア・スタウベルグ中尉。情報局でもかなりのやり手といわれる彼女は議会が地下組織であるために必要な人材だった。そして、その傍らには大尉の階級章を付ける日系かスパニッシュかの人種であろう男が壁にもたれ掛かっていた。まだ若いものの、左目の下には切られたような傷跡があり、修羅場を抜けてきたとわかる。だが、権力者が護衛である退役した元情報士官に探りを入れさせても誰だか分からない。数名の行政からきた壮年の男たちはその存在に疑問を抱きつつも、会議に参加していた。

 

「皆も知っての通りだが、例の作戦はどうするつもりなのだ?オータム大佐」

 

話の区切りがついたころ、オータム大佐に質問したのは、文官の中でも地位の高いロバート・マクスウッド農林食産省長官だった。最終戦争終結後、アメリカ全土が放射能に汚染され、核の冬が終わった後も土壌は放射能によって汚染され、穀物などの食糧が生産できない状態だった。合成食料など未だ技術的に発展途上の段階で、食べられたものではなかった

。エンクレイヴは農林食産省主導で農業改革プロジェクトによって基地周辺の適した土地を開拓。放射能除染剤を散布し、土壌をクリーンにした。品種改良した小麦や大豆などの穀物を育てることでエンクレイヴの食糧事情は好転することになる。そのため、農林食産省はエンクレイヴの省庁の中でも花形とされ、そのトップは行政区画の実質上のトップとしても過言ではない。実際の行政トップはエデン大統領だが。

 

「情報局と司法省の動きがある。あまり下手に行動すればこちらがやられかねない」

 

「しかし、このままでは大統領の支持率も上がってきている。民主主義の復活を大義としても今やらなくては、その大義は成り立たないぞ」

 

エデン大統領は継承順位があったため大統領になったにすぎない。もっとも、前任者のリチャードソンもエンクレイヴの首脳陣から推薦されて大統領となっているのだが、ポセイドンオイルの一件以降、大統領をかなりの期間在任しているのはこの男であった。

 

「人の手にエンクレイヴを戻さねばならん。あの化け物を大統領の座から引きずり出さねばならない。オータム大佐、それはなによりも君がよくわかっているはずだ」

 

「・・・・っ」

 

オータム大佐は言葉を詰まらせる。

 

すると、奥で控えている参謀総長のジョセフ・ドライセン中将が席から立ち上がった。

 

「オータム大佐、私は君に賛同してここにいる。西海岸派閥の勢いが強くなり、これではエンクレイヴの内部崩壊はすぐそこまで迫っている。君はそれを出来るのか?病弱で籠っていたあの大統領を・・・・・」

 

そうドライセンは続けようとするが、それを聞いていた周囲の文官は苦笑する。ドライセンは怪訝な顔をして顰めるが、それに答えたのはオータム大佐だった。

 

「中将閣下、貴方は大統領とお会いになりましたか?」

 

「ああ、会ったことあるとも。私が会わないわけないだろう?マクスウッド長官は化物と言っているが、彼は容態が悪いから表に出ないだけだ。それに任期が長すぎるというが、彼以外の適任者もいまい?」

 

大統領の公表された支持率は可もなく不可もないような数値であったが、実際のところあまり顔を出さず、長期にわたって大統領をしているエデンの存在は国民にとって不審に思うことは多々あった。実際の支持率もそこまで良くはないが、かと言って彼と同等かそれ以上の指導者は見つかっていないような状態なのだ。いたとしても、その人物はどこかの派閥に所属し、対抗勢力の反感を買いかねない。

 

支持率にしても、マスコミによる印象操作や数値の改ざんなど当たり前で、大統領に批判がいかないようにマスコミは日々言葉を並べている。その都度、批判されるのは行政のお役人方なのだから、腹が立つのも仕方がない。しかし、マクスウッド長官は「化物」の表現したのは憎悪よりもべつの何かだった。

 

「閣下、お会いしたのであれば大統領の様子に何か違和感があったと思わないので?」

 

オータム大佐は話の核心に近づき始める。もし、これがただの兵士の間の話であれば、即座に憲兵が兵士を拘束するであろう。そこまでこの話は最重要機密として扱われる案件だ。しかし、来たばかりのドライセン中将はオータム大佐の言葉にそこまで疑問を抱かなかったが、確かに彼にも思い当たる節はあった。

 

「確かにあの方はご高齢なのだが、若干若々しいとは思う。だが、昔であれば、老衰や他の病で死に絶えるかもしれないが、今は23世紀だ。情報局によれば、大戦争前に既に細胞の活性化を行う手術やカプセルを使用した延命装置によって数百年生きられるものも存在する。マクスウッド長官、逆に聞くがなぜ彼を化物と?」

 

ドライセン中将が問いかけると、周囲にいた文官は一様に顔を見合わせる。その表情は戸惑っているようにも見えていた。彼に本当のことを打ち明けてもいいのかと。

 

オータム大佐がマクスウッド長官に耳打ちすると、オータム大佐は口を開いた。

 

「閣下のいう通り、大統領のお年は90近い。それなのに見た目は若々しい。それは現在の技術であれば可能です。しかし、彼のかかりつけ医師は手術や薬品投与は一切行っていません。」

 

「何!?」

 

ドライセン中将は驚くが、オータムはさらに続けた。

 

「更に言えば、彼の顔は何処かで見覚えありませんか?技術本部が大統領の顔をスキャンしたところ、歴代大統領の顔をすべて合成した顔に非常に酷似しているという報告があります。」

 

「そんなことが・・・・?」

 

ドライセン中将はにわかに信じがたかった。すると、オータム大佐は覚悟を決めたようにしゃべり始める。

 

「そもそも、何故父がエデン大統領を推薦したがご存知か?」

 

「ポセイドンオイル基地が壊滅したとき生き残ったからではないのか?」

 

「世間ではそう言われていますね。国防長官としてポセイドンオイルからサンフランシスコ郊外の基地に視察に行く途中で基地が破壊されて生き残ったと。ですが、当時の記録から見ても<ジョン・ヘンリー・エデン>という人物は存在しないんです」

 

ドライセン中将は驚きを隠せない。しかも、その事を知らなかったのは議会の中でも自分一人だけだったことに、かれは周囲を子供のようにキョロキョロと見回してしまう。一人だけ、納得しているような表情をした日系っぽい軍の士官を見たが、驚いた様子でもないため中将は驚いた表情から一変して怪訝そうな表情をした。

 

「では、一体彼は何者なのだ?」

 

「アメリカ合衆国の科学の結晶、Robco社の誇るスーパーコンピューター。ZAXシリーズの最新鋭機」

 

「まさか・・・・・そんな・・・・・・」

 

ドライセン中将は肩を落とし、椅子に座る。しかし、彼が執務室であった男は確かに息をして紅茶をたしなむ老人だった。人間と同じように息をして飲み食いする存在があのスーパーコンピューターとは思えず、思い至ったように立ち上がるが、それを制すようにオータムは再度口を開く。

 

「影武者かそれともアンドロイドの類でしょう。既にアンドロイドの技術はマサチューセッツ工科大学が開発し、彼らの連邦が軍事転用しており、我々もいくつかのサンプルを保有している。大統領派の人間が秘密裏に研究所を立ち上げて作ったとも思える。どちらにしろ、人間に見えて中身は機械。本体は行政区画の中央コンピューターだろう」

 

淡々と述べるオータム大佐にドライセン中将は恐怖を覚える。

 

「しかし、それを公表すれば・・」

 

「それは無理でしょう。あんたがた軍部は派閥争いに夢中だ。庶民は信じるだろう。だが、其れが成されたとしても、君たち軍が全て狂言として抹殺するのは目に見えている。西海岸派は現状に満足しているし、大統領派は言わずもがなだな」

 

それを言ったのは、非公式に作られたアメリカ市民議会と名乗る組織から来た若いスーツを着た男だった。アングロサクソン系の短い金髪の整った顔立ちの彼の名前はリー・シャーマン。工場勤務のロボットエンジニアに過ぎない彼だが、1万人の市民議会構成員を率いる議長であった。現在の軍が主導権を握るエンクレイヴに対しての反感を募らせる民間人の中でもかなりの左派に分類される。平時であればリベラル思想の集団であるものの、軍からしてみれば、オータム率いる「議会」グループより質が悪いといえよう。

 

そんな彼らを議会の構成員に招き入れたのは、エンクレイヴをまともな国家とする為には異なる思想や主義があっても許容するべきとオータム大佐は思っていた。思想や考えの違いによって争いが生まれる。その考えをまとめ、両者ともに納得したものにする為に話し合いをする。エンクレイヴが内部対立しているのは、他者との意見が相違し、それを受け入れないからに他ならない。そのためには異なる考えを許容していく他生きる道はないのだ。

 

「我々はあの大統領を引き摺り下ろさねばならない。そのためには、今日行われる大統領演説に行動を起こさなければならない。中将閣下協力していただけますね?」

 

ドライセン中将はオータムの要請を聞く。それはエンクレイヴの対する反逆であり史上五度目の大統領暗殺計画の一翼を担うものだった。成功すれば、エンクレイヴは正当なるアメリカ合衆国の後継者となり、まともな政府として生まれ変わるだろう。そして、失敗すれば逆賊として裁かれるのは明白だった。

 

ドライセン中将はゆっくりと頭を縦に振るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「補佐官、ウェイストランドの統治状況はどうなっている?」

 

 

内装は白く、青い絨毯が引かれたそこは一国の指導者の執務室たる雰囲気を醸し出していた。元々、合衆国の大統領官邸の大統領執務室のコピーであるため、オリジナルとは少々異なるものの、数十年もの大統領の執務室であり続けたからかコピーといえどもオリジナルと同様のものであったに違いない。

 

執務室の机には、上等なオーダーメイドのスーツを着た60代過ぎの見た目である男は隣にいたメガネの補佐官に問いかけた。

「植民開拓省の報告では、計画の約80%が完了しています。主要集落は我が治安部隊によって統治され、開拓省は戸籍の作成と支援物資の配給を行っています」

 

六十近い見た目の男は既に90を超えていると言われているが、まだ若々しいと思えるような容姿だった。男は執務机に置いてあった書類を手に取り、読み始める。

 

「物資の配給は滞りないことは分かるが、備蓄は足りるのか?我々とて、資源が有限ではない。そこは大丈夫なのか?」

 

エンクレイヴの科学力は世界一であるが、物資は戦前の物資を浪費し、軍需工場で少数生産を行っているに過ぎない。その為、ウェイストランドの集落で行っている配給は赤字を抱えている。今後同じことを続ければ他10万のエンクレイヴの国民が餓えて苦しむことになる。

 

「一応減少の見込みですが、食糧においては品種改良の小麦や大豆を第七管区周辺のエリアに植え、集落のウェイストランド人に収穫させようというプランがあります。また、第一管区の通称『リベットシティー』においては空母の工場や技術や学識ある者がおります。彼らが自給自足の生活を送っていたのは事実ですし、今回のような生活物資の支援は逆に我々の首を絞めたことでしょう」

 

「そのようだな。統合参謀本部は何れ死ぬ輩に物資を支援するなんて愚策の極みだ」

 

男は言うと、執務机に座り、机においてある書類を眺め始める。

 

「ふむ、vault101の住人は既に基地の民間人居住区についたのか?」

 

「はい、幾つかのグループに分けて、各基地の居住区に移動しました。技術者はさまざまな形で貢献してもらう予定です。数名の元警備兵は軍や治安部隊を志願しています。彼らは純粋なアメリカ国民ですので良い働きをすると思います。」

 

「ふむ、良いことだ。補佐官、今日の予定は?」

 

「はい、0900時に閣下の演説が練兵場広場にて。かなりの市民が来ると予測されます」

 

「一般に顔を出すのはそれが初めてだからな。警備状況は大丈夫だな」

 

「ええ、周囲はシークレットサービスと治安軍が展開して不審人物を特定できる状態です。それから、1300時より国防長官との会食。1700時より司法省改編に伴って設置される首都警察の創設パーティーが催されます。その時には大統領のお言葉をお願いしたいと、警察庁長官よりお頼みが来ています」

 

時計は既に八時を過ぎており、そろそろ出発の時間だった。男は立ち上がると近くにいたシークレットサービスが掛けてあったスーツを男へ着せる。

 

「ありがとう、グレック君」

 

「いえ、大統領。お気になさらず」

 

スーツを着た男は大統領と呼ばれ、笑みを浮かべた。誰も彼の本当の姿を知ることはない。彼が本当は人ではないことに。

 

「やるべき仕事は大量にある。エンクレイヴは・・・アメリカは必ず蘇る。」

 

 

 

 

男の名はジョン・ヘンリー・エデン。

 

 

 

 

機械仕掛けであり、人のような皮を被った化物だ。

 

 




やっと出ましたラスボス(仮)です。

あれ、なんか人じゃんと思うかもしれませんが、連邦を元に作られた民衆向けのアンドロイドです。しかし、老化はしないので化物呼ばわりされてますねw


new vegas のプロットくみ上げ中ですが、本編との間にDLCを組み合わせてみようと思います。FO3は絡めにくかったのですが、NVは意外と簡単に出来そうです。


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