fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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皆さま、お久しぶりでございます。気づいたら正月になり、書き終わったらゴールデンウィーク過ぎていたというとんでもないことになってました。

というのも、年明け早々就活準備と公務員試験準備をしておりまして遅くなり、現在も就活戦線で死に物狂いで戦っている最中です。

とりあえず五月は一息ついたので、完成したのをアップします。








最終章 Take it Back!
四十五話 ラストバトルⅠ


 

 

 

 

昔から人類は空を飛ぶことを夢見ていた。羽がない人類にとって空を飛ぶことは長年の夢である。イカロスの神話が作られたように、人類が何千年にも渡って飛ぶことを研究していた。しかし、発達した筋肉を持たず、浮力のない人間はたとえ蝋で作った羽では、墜落してしまう。だが、人はそれでも諦めなかった。幾多の技術革新が行われ、飛ぶ努力が重ねられた。

 

そして1900年のライト兄弟を皮切りに航空機競争がスタートし、20年も経たぬうちに旅客機が登場した。そして二度の世界大戦を経験し、噴射エンジンの実用化で音速の壁まで超え、人類は遂に宇宙へと進出する。

 

 

しかし、幾ら科学が発達したとしても人間の本質は変わらない。航空産業は必ず軍事面に大きく関わっている。新技術は闘争のために活用され、多くの血が流される。戦争は変わらない。

 

航空機を発明した先駆者は一体何を思うのだろう。オゾン層が破壊され、核戦争の爪痕が強く残るキャピタルウェイストランドを見て。

 

 

きっと、溜め息をつくに違いない。

 

 

「全員、降下用意!」

 

 

誘導員の兵士は拡声器で叫び、キャビンにいる兵士達はそれを合図に幾度目かの装備点検を行う。そこはエンクレイヴの輸送機の中だった。エンクレイヴが使用するベルチバードなどのヘリとは違い、大容量を輸送する大型輸送機であり、機内には大出力のプロペラ音が響き渡っていた。戦場に赴くこの輸送機には降下する兵士とその物資が積載され、空挺部隊所属のパワーアーマーが鎮座していた。

ある者は準備ができたと自信のついた表情で降下ランプを見る。ある者は名残惜しいと家族の写真を見、そしてある者は聖書の一節を口にする。

 

 

 

「“私はアルファであり、オメガである。最初であり、最後である。私は、渇く者には、いのちの水の泉から、値なしに飲ませる。”」

 

 

黙示録21章6節。

 

戦場に行く兵士が唱えるものではない。小声で俺は唱えると、座席から立ち上がり割り当てられたパワーアーマーの中に入る。T49dのような古めかしいものではなく、真っ黒に塗装された最新鋭型。待っていたエンジニアは俺が中に入ると、背部の動力バックパックを取り付ける。身体の動きに合うようにパワーアーマーが内部で調節され、ヘルメットのHMDにパワーアーマーのチェックリストが表示される。

 

「油圧」

 

「チェック」

 

「フュージョンコア」

 

「チェック」

 

「電子防護システム」

 

「異常なし」

 

「アビオニクス制御」

 

「システムALL GREEN」

 

出撃前の機体の点検を行う。本来、パワーアーマーは精密機器の塊であり、最新機器を身に着けたハイテク兵器である。それらにはエンジニアが必要であり、整備をきちんとこなさないといけないのだ。BOSのようなお粗末な整備でなく、専門の整備士が付く。エンクレイヴの兵装はウェイストランド随一だろう。

 

「武器の通常兵装」

 

「チェック」

 

右腕に握りしめていたミニガンのトリガーを引いて空撃ちを行う。勿論、弾は出ない。そして次の兵装をチェックする。

 

「特殊兵装」

 

「チェック・・・」

 

兵装を切り替えて、ミサイルランチャーをスタンバイする。背部動力の上から更に装着されたこれは携行型ミサイルランチャーであり、改良版で作られた肩撃ちランチャーである。背部にあるため4発のミサイルを携行でき、戦闘中にも補充が可能なよう、積載量も気を使っている。エンクレイヴパワーアーマーMk.2はBOSの呼称であるが、エンクレイヴでは「X-01A」と名付けられている。西海岸で使用されたのは「X-01」と呼ばれ、北西部のトレーダーではレムナントパワーアーマーと呼ばれている。オイル基地破壊されたのち、エンクレイヴの残存兵力は東海岸へ集結し、パワーアーマーのデザインを変更。改良型の「X-01A」を生産する。「Advance(改良)」の頭文字をあしらったモデルは現在のエンクレイヴ軍に使用されているが、T51bよりも若干軽装甲であり、拡張性や携行武器もそこまで多くない。浄化プロジェクト襲撃によってウェイストランドで限定的に流通する徹甲弾がパワーアーマーを貫通した。これが切っ掛けでエンクレイヴの国防総省隷下の技術研究局はX-01Aに装甲板を加え、積載量や通信能力の強化を行った。それは「X-01A-C1」とされ、ヘリによる強襲降下して戦闘を行う部隊など危険な任務を行う兵士に重点的に配備された。

 

俺が装備しているMk.2パワーアーマーは「X-01A-C5」とされるものらしく、「X-01-C1」は重装甲を施したモデルであり、「X-01-C2」は通信能力を上昇させた指揮官モデルであった。他にも偵察仕様や回収用アーマーが開発されたが、C5型は重装甲且つ分隊支援兵としての装備を携行する重武装モデルだった。だが、重武装をコンセプトに設計されたヘルファイアーパワーアーマーと被るために、試験評価として数機しか製造されない希少モデルだった。

 

「Mk.2タイプって種類多いな・・・」

 

「Mk.2?・・・・ああ、一部ではそう呼ばれてますが、技術局が派生型ばかり出すから整備が面倒なんですよ。技術屋のやりたいことは理解できますが、整備する俺らの身にもなって欲しいものです」

 

米陸軍のジャンプスーツを着た整備士はクリップボードを片手に愚痴を溢す。確かに生産面に負担を掛けている。そもそも、技術力は高いが、国力がそれに追いついていないため、幾ら派生型を作っても整備や生産が追い付かなければ整備不足や共食い整備を行うしかないのである。

 

「なるほどね・・・自己診断プログラム起動・・・・問題なし」

 

「了解です・・・ご武運を祈ります!」

 

整備士は敬礼すると、他のパワーアーマーを整備する。

 

T49dは本当に鎧のイメージであったが、今装備しているのは完全に鎧というよりも戦闘機に近い。アビオニクスなどの制御装置がよいとここまで違うのかと驚きを隠せなかった。

 

降下するパワーアーマーの準備が整い、パワーアーマーの固定ロックが外れて誘導員がハッチまで兵を誘導する。

 

降下ハッチの前には15あまりのパワーアーマー兵が並び、その光景は負けを許されない強力な装甲強化兵の軍勢だ。敵が只の歩兵だけであれば、一方的な蹂躙と殲滅が可能だが、相手は貧弱な装備を持つ中国軍兵士や人食いレイダーではない。自分達と同じようによく訓練され、高性能な兵器やパワーアーマーを装備する元同僚達だ。

 

彼らの目の前には一台の装甲車が鎮座しており、パワーアーマー兵へ弾薬を補給するなど支援車両として効力を発揮する。パワーアーマーの兵士達が装甲車の後ろに並び終わったと同時にハッチ上部のランプが赤色に点灯し、照明が切り替わる。HMDに無線を受信したと表示され、左腕のウェアラブル端末でそれを聞く。

 

(ブリーフィングで説明した通りだが、今回の降下は高度100m代の超低空降下を行う。降下後、直ぐにパラシュートを開き、着地前に補助ジェットで大幅に減速する。着地後はパラシュートを纏めてその場所に廃棄する。今回は市街地への降下となるため周囲には十分注意し、集合地点へ移動せよ)

 

 

今回の降下するパワーアーマー兵の部隊「第101空挺大隊」はパワーアーマーを強襲降下させて電撃作戦を展開するための核となる存在だ。その中でもA中隊と呼ばれる部隊に俺は特別に同行を許され、オブザーバーという立場で作戦に参加する。

 

(ハッチを開放!武運を祈る!)

 

機長と思われる声が機内スピーカーから放送され、油圧によってハッチが開かれる。地上より冷たい風が吹き付け、輸送機のネットが跳ねる。

 

ハッチから見える闇夜の中には双発のプロペラを回転させ、追随する後続の輸送機が見える。ハッチの近くにあった降下ランプの赤色のランプがしだいに点滅すると、ぱっと青色に輝き、誘導員は叫ぶ。

 

 

「降下ぁぁぁ!!!!!」

 

叫び声とともに装甲車が滑り降りるようにしてハッチから排出された。そして後続のパワーアーマーの兵士達は一斉に動き、順々に降下していく。降下する場所は草原や荒野の真ん中ではない、廃墟と化したD.C.市街地だった。暗闇に紛れながらも次々に兵士たちは大空へと身を投じていく。

 

 

 

最後の列だった俺は最後まで待つことになった。次々と降下されるパワーアーマー兵の目の前が降下していくとき、闇夜に光る物体を見つける。それは鳥でもなく、議会派の航空機でもなかった。

 

(敵に捕捉された!?回避!)

 

放送がオンになっていたのか、機長の悲痛な叫び声が聞こえ、その瞬間に機体に強烈な振動が襲う。後続の輸送機が空中で爆散したと思うと、先ほど見たガンシップ装備のベルチバードが20mm機関砲で輸送機の装甲を穴だらけにしていく。

 

「第二エンジンが燃えているぞ!」

 

パワーアーマーを整備していた整備士の一人が右翼のプロペラエンジンに火が出ていると叫ぶ。そして、その瞬間に燃料に引火したらしく、爆発と共にその整備士は反対側の機体窓に飛んだ。機体の破片が機体内を跳ね回り、何も身に付けていないエンジニアの体に命中する。

 

(コントロール不能!?メーデー!)

 

 

エンジンを破壊され低空で失速する輸送機は煙を登らせて墜落していく。空挺降下用の自動操縦を解除するが、揺れ動く機内で姿勢を崩す。機体は角度を変え急に降下を始めた。機体とともに心中したくない俺は助走を着けてハッチからダイブする。初めてのパラシュート降下であったが、パワーアーマーの高度制御とGPS誘導によって自動でパラシュートが開いた。展開したパラシュートの空気抵抗によって強い衝撃が体を貫く。

 

「ウグッ!!」

 

体はゆっくりと地上へ降下していき、エンジンが炎上した輸送機は川へと不時着を試みる。しかし、着陸と同時に右翼の翼が千切れ、半回転して水飛沫を挙げる。

 

降下地点を1kmあまり過ぎてしまい、川のすぐ側にある国防総省の近くに墜落したようだ。

 

ヤバい。

 

今装備しているのはエンクレイヴのパワーアーマーだ。一応、敵対状態は今のところないB.O.S.だが、さっきの着陸で犠牲者が向こう側にいるかもしれない。それに、俺はB.O.S.に戦時昇格でナイトとなってはいるものの、エンクレイヴに誘いの連絡まで来ている。もしかしたら、裏切り者の烙印を押される可能性がある。それに今の装備では確実に裏切り者だろう。

 

ここは一先ず、第101空挺大隊の元へ戻らなければ。事が終わった後に説明しに行こう。これを後回しという言い方もあるし、逃げるというネガティブな言い方もある。だが、ここで面倒は御免だ。

 

 

地面が10m位まで近づき、HMDに補助ジェット噴射の文字が表示され、足に装着されたブースターが起動する。外付けの一回のみのブースターであったが、かなり減速され、ゆっくりと地上に降り、直ぐにパラシュートがパージする。

 

「輸送機の生存者を先に探すか。」

 

ミニガンを構えながら小走りで輸送機を目指す。途中で輸送機を漁ろうとレイダーらしき集団がいたが、俺を見た瞬間に「化け物だぁぁぁ!」と叫んで逃げてしまった。一体俺は何をしたというのか。

 

 

川にそって進んでいき、国防総省近くの橋を越えると、黒煙を巻き上げる輸送機の残骸があった。さっきの爆発の影響で周囲の動物が恐慌状態になっており、下水道や地下鉄からはモールラットが飛び出してくる。

 

残骸近くで安全そうな場所を見つけ、火の海になりかけていたので、熱で暴発は勘弁してほしいとミサイルランチャーとミニガンを置いておく。勝手に弄られるのも困るのでプラズマ地雷の上に装備を置いて急いで燃える機体へと近づいた。

 

ポトマック川に落ちなくて幸運というべきか、川の中州に落ちたため残骸は川に沈まずに済んでいた。しかし、輸送機の燃料が漏れているらしく、放射線が検出されるが1Radと少ない。Radawayさえ飲めば元通りなので急いで生存者を探しにかかった。

 

(こちらHunmer leader。Hunmer4-0、状況を伝えよ)

 

「こちらHunmer4-0、・・・あー、輸送機と共に墜落した。生存者の捜索をしたい。 救援機は要請できないか?」

 

(現状では不可能だ。生存者が居た場合は此方へ連れてこい。そこでは格好の標的だ。)

 

機体の残骸は燃え、生存者は居ないようにも思える。機体は火の海に包まれつつあり、そろそろパワーアーマーの油圧が心配になってきた時だった

 

「誰か!」

 

瓦礫の奥で声が聞こえ、その声を便りに瓦礫を掻き分ける。倒れているパワーアーマーを払い除けると、俺のパワーアーマーを整備していた整備士が壁にもたれ掛かっていた。

 

「大丈夫か?」

 

「はい・・・・一応歩けますが、周囲が火の海だととても・・」

 

俺はそう言えばと、さっき払いのけたパワーアーマーがあったのを思いだし、一度戻り倒れているX-01A-C1を拾い上げる。

 

「こいつは使えるか・・・・」

 

整備士の近くへそれを置き、整備士は確認し始める。

 

「燃料と油圧は大丈夫そうです。よく無事だったな。そこのバックパックを外すので持ち上げてください。」

パワーアシストによって簡単にパワーアーマーの動力バックパックを外し、整備士はその中に入りバックパックを元に戻す。

 

「通信装置も異常無いようです。武装はリッパーナイフだけですが、なんとかなります」

 

太股のガンラックに収まっていたチェーンソーを小型化したリッパーナイフを整備士は手に持った。すると、何処かのエネルギーセルが熱によって爆発し、火は瞬く間にパワーアーマーを包み込む。

 

警報音が鳴り響き、整備士を連れて火の海から逃れる。

装甲によって火の海から隔絶された環境とは言え、熱伝導率の高い金属の中に入っている。まだ、衝撃吸収のためのジェルが沸騰していないが、次第に体は茹蛸になってしまうだろう。

 

「急げ!ここから脱出するぞ!」

 

燃料の爆発と慣れないパワーアーマーの操縦でふらつく整備士の手を掴み、外へと急ぐ。入ってきた通路は炎によって塞がれ、迂回し障害物を破壊しつつも炎の海から逃れた。輸送機の残骸から命辛々脱出し、ミニガンを置いていた安全地帯に逃れた。

 

 

「これどうやってはずれるんだ?」

 

「ここを開けるのさ」

 

整備士はヘルメットを外そうともがくが、ヘルメットの外すためのスイッチが見付からない。俺は誤作動防止用に被さっていた留め具を開けて、中のボタンを押してロックを解除する。

 

「プハァァ!!新鮮な空気だ」

 

「核戦争後の空気の方が澄んでるとは・・・なんとも皮肉だけどね」

 

整備士と同じく暑苦しいヘルメットを脱ぎ去り、新鮮な空気を肺に流し込む。核戦争で空気は汚れたかと思われたが、200年経った現在。地域を限定すれば、戦争前の空気を比べるとそこまで汚れてはいなかったりする。実際調べてはいないが、前世の記憶がある俺に言わせれば車の排気ガスのない世界はやはり空気が澄んでいた。

 

炎による暴発防止を考えて外していた弾薬類の装備を装備し直していく。背中に装着するミサイルランチャーを装備し、ミニガンも同様に装備しなおす。サイドアームのプラズマピストルも壊れていないか動作確認し、整備士に渡した。

 

「いいのか?」

 

「無いとそれだけじゃ心許ないだろ」

 

リッパーナイフだけじゃ、ここらへんに住むレイダーやスーパーミュータントには弱い。飛び道具があった方が生存率はぐっと上昇する。

 

「名前は?」

 

「ユーリ・ザカリエフ伍長です」

 

「ユウキ・ゴメス・・・少尉だ」

 

内心、本当に士官でいいのかと疑問だったが、与えられた階級である。戦時中には整備士から戦車兵になり、大隊長にまで登り詰めた人も居る。あとで勉強するべきなのだろう。

 

「少尉殿、これからどうすれば?」

 

「味方部隊に合流だ。ここら辺はB.O.Sのお膝元だ。敵の攻撃で墜落したとはいえ、流石に友好的に接することは出来ないだろうな・・・・」

 

さっさとここから離れなければならない。ここから破壊された橋を登り、合流地点である「アナスタシア交差点」にいかねばならなかった。リベットシティーやメガトンの駐屯地には、議会派の部隊が多数存在しており、後方支援として使える兵力がある。レイヴンロックから爆撃用の攻撃ヘリと本体が来るまでに敵の威力偵察が任務であり、本隊合流後、電撃作戦によって敵を粉砕するというのが今回の流れだ。もし、BOSが介入し、三つ巴の戦いになってしまった場合、戦場は混乱するだろう。

 

「さっさとここから離脱するぞ。BOSが来る可能性があるからな・・・」

 

 

ミニガンの弾丸を発射機構に装填し、銃身を回せば即時発射が可能だ。レイダー程度であれば単騎で殲滅が可能だろう。しかし腕に嵌められたウェアラブルコンピューターによるGPSマップの案内では、ジェファーソン記念館を横切るようにルート設定がなされていた。当然、その道は敵が防御陣地を敷いている筈であり、通れば敵の集中砲火を受けかねない。先に降下した部隊は合流地点に迎えただろうが、墜落寸前で降下した俺と墜落して生き残った整備士は味方の集合地点とは真逆の地点に降下してしまっている。

 

迂回して合流地点に行くべきだろう。

 

マップに迂回ルートを選択させ、地下の下水道を選択した。戦前の下水網がインプットされているが、200年も経っているので崩落や変異した生物がいるに違いない。

 

HMDとGPSマップをリンクさせ、下水道の入り口まで北へ300mのところにある。

 

「よし、ここから300mだ。ちょっとキツイが地下から現地へ向かおう。交差点近くには地下鉄がある。そこへ行けば・・」

 

「しょ、少尉!あれ!」

 

 

ザカリエフ伍長の指差したと同時に、彼の立つ地面にレーザーが命中する。周囲にはレーザーポインターと思しき点が動き、周囲からは光学兵器独特のエネルギーセル充填音が響いた。

 

「私達の庭で何をやっているのかしら?G.I.ジョーのお二方?」

 

今絶対に会いたくない相手。エルダー・リオンズの娘にして、キャピタル・ウェイストランドのBOS特殊部隊「プライド」の部隊長、サラ・リオンズは満面の笑みを浮かべながら、こちらにレーザーライフルを向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そこはレイヴンロックでも議会派における首脳陣が集まる部屋だった。

レイヴンロックの制圧も一通り終わり、肩の力を抜いて戦勝記念と称してワインを開けたい所であったが、まだ予断を許さず、大統領が生きている状況でそれをするのは早計だった。本来ならば、閣僚級レベルの会議であるため、エンクレイヴ軍の会議室を使いたかったが、大統領派の特殊部隊によって被害を被っており、行政区画で以前から使っている狭い会議室で重鎮が肩を寄せあって会議をしていた。軍服とスーツが丁度半分ずつおり、政治家と軍人、企業関係者も数名参加していた。国粋主義者や純血主義の西海岸出身将校とは違い、まともであったアメリカを取り戻そうとする面々だった。

 

そこにいるのは、議会派オータム大佐以下重要ポストを予定されている高官であり、大統領暗殺を企てたグループである。

 

新政府樹立のための政党をここにいるメンバーから選ぶ。

行政は殆どが文官であるのが幸いしてそのまま引き継げるが、軍の高官は人材不足のために軍に在籍しながらも議員として所属する。議院を設立しても、議会派の大半を占める保守派が占めるため、リベラル思想の強い市民から輩出される議員は少ない。

 

中道派や左派も議会派の軍人には何名かいるため、日本の明治中期における自由民権運動の様相に成るかも知れない。長年、大統領による戦時特権を理由とする独裁が続けられ、200年経った今では政党や議会の動かす方法を知るものは居ない。

 

 

経験のある元政治家のグールを雇えば解決するだろうが、エンクレイヴではそうはいかないだろう。戦前に残された本とデータを頼りにアメリカ本来の民主主義の姿に戻すのである。嘗てのアメリカのように共和党と民主党の二大政党制にするには今しばらく時間が掛かる。

 

一通り、議会運営の方針と建国宣言文書が定まった後、会議は一時休憩と成った。

 

「オータム大佐。大統領暗殺の首謀者と聞いたのだが、まだ実行者が捕まらないのはどういうことだ?」

 

議会派の重鎮の一人がオータムに聞いた。暗殺事件の後始末はオータム大佐主導で行われている。事態を知らない市民や軍人は急な指導者の死に動揺するため、直ぐさま報道機関に報道規制と情報統制を行い、今回の騒動は大統領の暗殺は政策に反対する過激派の軍司令部によるものだとして、政治家と軍が蜂起したと伝えている。情報部の報告では市民の間ではこの蜂起を支持する動きが大半であり、その御輿に上げられているオータムには市民の期待は大きかった。

 

「それは実行者ではないと言うことですよ、議員。私は情報局から引き抜いた人材を今回の実行者にしたのですが、私の他にも暗殺を企てたものが居るようです」

 

その言葉に周囲は驚きの声を上げる。暗殺というリスクの高い物に参画する者など軍人か鷹派の政治家であり、議会と呼ばれる政治結社に入るメンバーに暗殺を企てる者がいるとすれば、少数である。それこそ、オータム大佐や一部の軍属でさえ、その選択は最悪の手段として考えていた。他の方法として政治的に失脚させる事や幽閉という手段を考案したが、暗殺という手段を用いたのは、大統領が人ではなかったからだ。そして実行するならば先に重鎮に話を通すのが筋だ。議会派は一枚岩ではないが、軍人の殆どがオータムの勢力であり、別に暗殺作戦を執る情報は全く入ってこない。

 

 

「我々の中からかね?」

 

 

半信半疑の重鎮はオータムに問い掛けると、彼はゆっくりと頭を縦に振る。

 

「議会に居るメンバーが実行しようとするなら、まず私の耳に入ることは確実です。市民議会の可能性もありましたが、意気込みはあってもツテが存在しません」

 

 

 

地下組織として長年労働者などと市民運動を重ねる市民議会はリベラル派などで、議会派の政治家や軍人からすれば左派に該当する。独裁的な戦時特権を握り続ける大統領に対し、市民も怒りを露にしていた。しかし、それを行動に移す動機や意気込みはあっても彼らにさせるために手段を提供できるほど議会の大半を占める軍人や政治家はお人好しではない。

 

だとすると、暗殺は議会派ではなくべつのグループであることが消去法的に結論付けられる。

 

 

「だとすると、やはり西海岸派か?だが、尋問では誰もやっていないと・・・・・」

 

「彼らも軍人ですから、口は固いでしょう。しかし、彼らには理由や動機はありません。あったとしても薄いのです」

 

大統領独裁で一番甘い蜜を吸えるのは大統領の思想と良く近い西海岸派などの国粋的且つエリート意識の高い者達だ。彼らが大統領を害する理由はまったくなく、メリットがあったとしても、デメリットは数多くある。暗殺する度胸はないとは言わないが、全く必要ないのだ。

 

「彼らでないとすれば・・・・、もしかしたら信奉者とかか?」

 

政治家の重鎮は肩を竦めると、周りは苦笑する。信者が教祖を殺すという大罪は侵さない。シークレットサービスなどの大統領警護を行う者やその親族など、異常なまでに大統領を崇拝し、あたかも神のように接するのだ。オータムや議会派の彼らは大統領や彼ら信奉者をまるでカルト教団のような目で見る。もし暗殺したとすれば、それは神殺しの烙印を押されることだろう。

 

しかし、そのオータム大佐はなんとも言えない表情を浮かべる。その表情に周囲は驚くが、オータムは待ってくれと手を振った。

 

「いや、そうではない。・・・・・まだ余計な憶測をする余裕はないため先延ばしにしていたが、今の内に報告しようと思う」

 

会議室は暗くなり、会議室の世界地図が真っ二つに割れ、そこから液晶画面が現れる。そこにはあの時のTV中継映像が映された。そこにはシークレットサービスに守られた大統領と周りには高官がワインを飲んでいる首都警察設立パーティーを行っている様子だった。そして、映像は問題の暗殺シーンへと映る。大口径の弾丸が背中から胸に掛けて穴を開けて血が噴き出す。その血は白く、人ではない何者かの証明となった。

 

その瞬間、叫び声と怒号が支配し、テレビ中継もそこで止まる。生中継は演説だけで、その後はカメラマンによる独断での録画であったため、マスコミに伝わる前に押さえることが出来た。もし、これがマスコミに知られた場合、独裁政権であるにせよ、情報は瞬く間に知られることになるに違いない。もしこれがエンクレイヴの全てに流れてしまえば、エンクレイヴは崩壊してしまっただろう。

 

「大統領の遺体は研究機関に回したところ、技術的に連邦の技術が応用されていることが分かりました」

 

その事実に響めきが起こる。エンクレイヴの指導者の身体が実は連邦の技術であったと言うのだから。

 

「あの工科大がか?奴らが秘密裏に関わっているとなると・・・・」

 

エンクレイヴは秘密裏に連邦と接触していた。ボストンで連邦を形成する彼らはまだ小規模であるものの、地元の有力勢力として情報部から名が上がっていた。戦前のマサチューセッツ工科大のメンバーが設立した科学者グループであり、戦前の技術を発展させながら、人造人間を作っていた。

 

エンクレイヴの技術のその殆どが兵器に関する物が殆どであり、大型兵器などに力を入れている。しかし、連邦の人造人間製造に関してはエンクレイブの技術力を凌駕している。吸収すればエンクレイヴの技術の足しに成るだろうが、そのための犠牲が余りにも大きい。ボストンは軍施設がいくつか点在しており、戦前の軍需物資輸送計画では多くの州兵や部隊のために武器や兵器をボストン近郊の基地に搬入していた。大戦争中、東海岸は中国軍上陸部隊によって核の攻撃に晒されながらも米中両軍が激しく戦闘したエリアである。ボストンは辛うじて中国軍の攻撃目標からそれていて、パワーアーマーなどの兵器や武器が大量に温存されている。連邦の科学力も侮ることも出来ない。さらに、エンクレイヴが一番恐れていたのは人造人間を工作員として運用されることである。

 

人造人間は外見では人間とほとんど同じであり、見分けがつかない。もしも、政府高官にすり替えられでもすれば大事である。普通のスパイでは整形やその人物を真似ることが必要となるが、人造人間が高度な知能を持っていてそれらの演技をコピーすれば問題はなくなるのだ。

 

アメリカは嘗て第二次世界大戦中でのファシズムとの戦いの中で、共産主義と手を取って戦った時期がある。しかし、その時期に共産党のシンパがホワイトハウス内に多く存在したことが分かっているのだ。エンクレイヴでは、過去の教訓からそうした思想面ではかなり慎重になっており、首都であるワシントンを占領してからであると考えていた。

 

 

連邦がエンクレイヴの中枢に深く浸透していると思い、重鎮や軍人達は戸惑いを隠せなかった。

 

しかし、その光景を見ていたオータムは周囲を宥めるようにしてつづけた。

 

「いえ、分析に参加した科学者によると、以前ボストンに潜入した特殊部隊が人造人間を捕獲。その時のサンプルを元に確認してみたところ、大統領であった人造人間は連邦で生産されたものでなく、通信機器やいくつかの部品がわが軍が使っているものだと分かりました」

 

スクリーンが変わり、検死をしている科学者チームと大統領の遺体があった。

 

人間であれば青白くなっているはずの肌が不気味なほどに血色がよく、まるで今にでも息を吹き返しそうな色をしていたが、胸には直径十センチほどの大きな穴があけられていた。腹部の切開や頭蓋骨を開けて中を見てみると、生体部品に交じって電子部品らしきものが出てきた。グロテスクな映像に数名の政治家が顔を青白くしているため、周囲の軍人は無言でゴミ箱を渡す。

 

「血液は連邦で使われていたものでなく、現在軍が研究している大替血液です。合成血液とでもいいますか・・・」

 

「技術局で開発中のものだな。全ての血液を人工血液にして兵士の基礎能力を底上げする。・・・・」

 

人体の血液を強化して酸素運搬量の増加やアドレナリン、血小板の調整を行えるように考えられていた。しかし、人体に入れると拒否反応を起こすために開発は難航していた。

 

「連邦の人造人間は人間ベースとする精巧な合成血液ですが、我々の技術力では模倣できなかったようです。血液を調べると、同じ血液は暗殺に使われた狙撃銃の周囲にも発見できました。」

 

画面の映像は切り替わって、暗殺に使われたとおぼしき対物狙撃銃と周囲には白い血が飛び散っていた。

 

暗殺の直後。銃声に気が付いた兵士は急いで屋上に上がり、屋上狙撃班の死体と奪った狙撃銃で大統領を狙撃したエンクレイヴ士官が居たらしい。その兵士は咄嗟にその士官を撃ったらしく、その反動で暗殺者は屋上から地上へ落下。兵士は屋上から地上を見たとき走り去る暗殺者の背中を見たという。

 

「つまり・・・・どういうことだ・・?」

 

 

既に結論に近い推測を考えたに違いない。その政治家は困惑と底知れぬ恐怖感から震える握りこぶしを押さえながらオータムに聞いた。

 

 

「これは大統領が仕組んだことかもしれません」

 

 

 

 

 

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「本当にあなたが仕組んだことなの?」

 

 

私は大統領の話に付いていけなかった。

 

 

エンクレイヴの大統領がAI?

 

しかも、改良型FEVを散布して人類を抹殺するためにわざとエンクレイヴ内で内乱を起こし、人間の手によって完遂させようとするなんて・・・・。

 

私の問い掛けに笑いを含んで話し出す。

 

「そうだ、驚いただろう?議会グループの改革派を動かすには私が自分の手で死ぬ他なかった。・・・だが、オータムは中々切れる男だ。死んでも失敗しても痛くない人材を使うとは、私も驚いたよ」

 

その人材とはアリシアとユウキのことだ。ユウキは部外者だし、アリシアはエンクレイヴ内でも煙たがれていた存在だと聞いた。私はオータム大佐に対しての評価を変えなければいけないと考えながら、FEVウイルスについて質問した。

 

「なんでFEVウイルス散布を?強制進化ウイルスを生物兵器として運用してウェイストランドを死の大地に変えるつもり?」

 

「既にウェイストランドは死の大地だ。君はあの世界を見てどうも思わなかったのか?」

 

 

周囲に置かれた液晶画面にウェイストランドの映像が映し出された。変異した動物に犯罪行為を繰り返すレイダー達。草木は炭となり、僅かな植物が生える大地。放射能に汚染された地域に廃墟と化したワシントン都市部。

 

「嘗ての緑の大地は失われ、森で囀ずる鳥や昆虫、肥沃な大地は全て失われた。これは誰がやったのだと思う?これは全て君たち人間の行った所業だろう?!」

 

映像が切り替わり、大戦争前に撮影されたと思われる紛争を撮影した映像だった。ハイテクパワーアーマーの米軍部隊が暴徒化した市民を鎮圧するために催涙弾を撃ち込み、紛れていたゲリラを射殺する様子。アンカレッジ戦線で巻き込まれたアラスカの人々の無惨な死体。突撃の声と共に雄叫びを叫びながら、中国兵に突貫して銃剣をがむしゃらに突き刺す16にも満たない幼い兵士。

その他にも過去の戦争映像が次々と写されていく。

 

 

 

 

 

 

「君たち人間達は生を受けて何をして来たと思う?破壊と殺戮だ。肉食動物は食べるために生き物を殺すが、君たち人間はエゴで同じ人間を殺している。戦争では何もしていない民間人を殺し、己の劣情を満たすためにレイプする。戦勝国だろうと敗戦国だろうとやってることに変わりない。何が違うかと問うのなら、旗の色が違うだけだ。君たち人間は殺しに殺しを重ねて進化をかさねてきたではないか」

 

 

私はエデンの言う事に反論できずにいた。昔、ユウキに何で大戦争が起こってしまったのかと聞いたことがある。私は歴史に疎いため、彼ならどうして起こったのか結論が出ているのだろうと。

 

彼の答えは至極簡単だった。

 

大戦争が起こった原因は敵愾心。相手への憎しみと怒りを募らせ、何時か攻撃するかもしれないと思う不安は更なる軍備の拡張をもたらし、互いの内側は度重なる軍拡によって治安が悪化する。資本と共産。交じり合えない存在はぶつかり合い、やがては互いを滅ぼしていく。

 

誰かが止めないのかと、私は彼に尋ねた。すると彼は、

 

『指導者は危険だと思えば踏みとどまったんだろう。だけど、この世界ではそうならなかった。資本主義と共産主義のどちらかがチキンレースに敗れたとしても、次の選手が入場して再びチキンレースをする・・・・、人類共通の敵が見つかれば何とかなるんじゃないかな?』

 

茶化してユウキは答えるものの、大戦争をもし回避しても戦争は変わらなかったと言う。

 

もし、大戦争をせずにどちらかの陣営が倒れてしまい、一国による世界支配が行われたとしても、何れ対抗馬として新たな国家が名乗りを上げるに違いない。そして同じことを繰り返し興亡と殺戮を繰り返す。

 

液晶画面は次々と映像を流し、上空から撮影したと思しき映像が移される。それはカラー映像であり、都市を上空から取ったものだった。そこへ何かが飛来する。それはペンのような細長い物体であったが、ペンのようなものは次第に大きくなり、それは核弾頭を積んだミサイルであることが分かった。次の瞬間に都市の真上で眩しい閃光が周囲を照らし、映像はその場面で途切れてしまう。すぐに画面が移り変わりそこには都市があった場所に巨大なキノコ雲が上り、業火が地上を焼き尽くす地獄へと変貌した。

 

 

「君たち人間は作った、この地獄を。人類と言う種は何もしなくとも互いを殺めて進化していくが原始の頃から本質は何も変わらない。殺すという行為を昇華させてこの悪魔の兵器を造り上げた。私が大統領に成らなくとも殺し続ける。」

 

「だからFEVウイルスで皆殺しに・・・・」

 

 

「元々、FEVはマリポーサ軍事基地で作られた。偏西風に乗って今や世界中の生物が変異して化物と化している。地球の浄化、再生をするには変異動物を駆除しなければならない。それは人間も同様だ。」

 

エンクレイヴで読んだ資料には米軍の強化兵士計画の中で人為的に肉体を進化させ、来るべき核戦争に耐えられるよう研究されたのがFEVウイルス(強制進化ウイルス)だった。実験は西海岸のマリポーサ軍事基地で行われたが、核戦争後に破損した容器からウイルスが流出。大気中にばら蒔かれたそれは偏西風や核戦争の乱れた気流に流され世界中に散らばった。核戦争で生き残った生物は過酷な放射能を帯びる死の世界でも耐えられるよう、強制進化ウイルスによって進化した。

 

ネズミや昆虫が巨大化し、変異生物として放射能に耐性を持つものとして進化した。人もFEVによって変化した。放射能によって奇形児が産まれることが劇的に減り、更に高濃度の放射能ではある一定の確率でグールと呼ばれる皮膚の爛れた人間となる。その代わり、長寿となることがあるものの、グールになる原因は全くわからない。そして更に理性が無くなり肉を求める獰猛な獣となるフェラルグール生まれ始める。

 

私は戦前の医学書を頼りにグールになる原因を考えたが、エンクレイヴの資料を見るまでは中国軍の生物兵器だとばかり思っていた。だけど、本当は自国の残した生物兵器によって汚染されているなんて、エンクレイヴはそのことを理解しているのだろうか?

 

「ウイルスは変異した個体のみ発症する。エンクレイヴは無事だろうが、統計的に見て単独での生存はもはや不可能だ。内部の対立と食料自給の問題。やがて残った核を使って再び核戦争をするに決まっている。」

 

「それは貴方が決めるべきものではないわ。生き物を全て殺すなんて・・・・そんなことする権利なんて・・」

 

「それを言うならば、君たち人間こそ地球を滅ぼしかけた生物。核戦争で地球を荒廃させる権利をいつ手に入れた?」

 

痛いところを付かれる私はこれ以上何も言えなくなる。確かに大統領の言うことは納得できる。歴史上何度も殺し合いを続ける私たち人間は彼からすれば愚かであり、地球を汚した大罪人。だけど、人間や変異した生物を全て殺し尽くすことはあってはならない。

 

「君は私を機械だからと。思っているのでは?確かに私には感情もなければ生殖機関もない。だが、考えることは出来る。生き物を機械が殺す?いや違う私は生命体だよ。自我を持ったね・・・」

 

AI(人工知能)は自分自身で考える力を持つ。数字を計算し、真似ることしかできない機械は想像力を得た。生命体の定義は幾つかあるが、自己の分裂や複製、そして生殖といった事で生命は芽生える。仮にAIを知能があったとしても生命を生むことは出来ない。

 

「・・・・いずれにしても人は滅ぶ。かつての恐竜が絶滅したように、人もまた滅ぶ運命だ」

 

すると、外で爆発と思われる地響きと警報が鳴り響いた。

 

「オータムはもう来たのか。計画を少し早めなければな」

 

そのセリフがスピーカーから響いた瞬間、後ろのハッチからパワーアーマーを着た兵士が現れた。

 

「教えてもらおうか・・・浄化装置のパスワードは?」

 

その声はサーバールームに響き渡る。私の答えは決まっている。そうでなければ父に顔向け出来ない。

 

「言うわけないでしょ、狂った機械め」

 

容赦ないパンチが私の鳩尾を直撃し、息が漏れ、胃液が吹き出した。両手で口元から垂れる唾液を拭きたいけど、女性を殴るなんて紳士とは程遠い。

 

「貴方は人よりも利口なんでしょ。……なら、私がパスワードを吐かないのを知ってるはずよ」

 

「その通りだな。君は口を割らないだろう……なら君の恋人をダシにして聞き出すまでだ」

 

「操作チャンバーへ連れていけ」と命令を受けた兵士は私を引きずっていく。サーバールームを出た後、AIであるエデンの勝ち誇った笑い声が聞こえていた。

 

 






久々すぎて文法がおかしくなっていないか心配です。
多分、前後編で後編は後日投稿します。
その後は、ゲームのエンディングとエピローグ。DLC番外編を組む予定です。

エンクレイヴパワーアーマーについては設定資料に整理して記述しておきます。

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