fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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三月に投稿しようとしてました・・・・・気づいたら四月になってました・・・・m(__)m

公約違反w

なので、5月までに次回作のNewveagas編の予告編上げます・・・・

後書きを後々、気持ちの整理がついたときに書いていきます。




四十八話 エピローグ

 

 

『このメガトンはエンクレイヴに編入された。豊かな暮らしに清潔で安全な水。我々の身体に必要なものがエンクレイヴから提供された。だが、彼等は我々を人だとは思っていない!我々を奴隷かミュータントの何かであると考えている。我々は奴隷か?いや違う!我々は強権的なエンクレイヴに対して反撃しなければならない!』

 

 

アウターメガトンの一角。酒場の片隅に男が一人演説を行う。彼の服装はエンクレイヴの供給する綺麗な服ではなく、バラモン革で鞣した雑多な服だった。よく見れば、彼の足元にはチルドレンアトム教会の聖書がある。だが、彼らは政治結社ではなく、危険なテロリストの証だ。

 

 

酒場のカウンター席に腰かけた傭兵らしき人物は傭兵が好んで着るレザーアーマーに「flag&sure」印のアサルトライフルを背中に掛けており、バーテンダーにウィスキーを注文する。

 

 

「ウェインの旦那、こんな時に来るなんてタイミングが悪いですな」

 

 

バーテンダ―は視線を左右に動かしてウェインに分かるように目配せする。だが、それを知っていたウェインは肩を竦めると、ショットグラスに傾け、喉にウィスキーを流し込む。

 

 

「ここもあらかた掃討されたはずだろ。なんであいつ等居るんだ?」

 

 

「アトムの奴らは何処にでも居るからな。でも……ほら来た」

 

 

バーテンダーは言った時、酒場の扉が開かれ、警官が2名ほど現れる。キャピタル全域の治安維持を目的とする首都警察と呼ばれる彼らは、新たに考案された防弾プレートを背中と胸に入れたプレートキャリアを身に着け、その下には紺の制服を着ている。半分はエンクレイヴの“一等市民”で構成され、高圧的な態度が多いのが特徴だ。

 

 

 

「おい、貴様!ここでの布教は禁止だとママに教わらなかったか?」

 

「またアトムの狂信者共だぞ。今日で7人目だ」

 

ホルスターに手を伸ばし、暴れても咄嗟に銃を抜けるよう準備する。1人は手錠を持ち拘束しようと手を伸ばした。

 

 

「この侵略者共め!」

 

宣教師の手にはリッパーが握られており、近くにいた警官の肩に切りつける。しかし、警官は慣れた手つきでそれを避け、リッパーを弾いて床へ叩きつける。

 

「どうせ末端の輩だ。……署まで連行する」

 

ウェイストランド流なら、この場で射殺して外に投げ捨て、野晒しにしていた。だが

世間体を気にするためか男の手に手錠をはめ、外のpoliceと書かれた払い下げの装甲車に連行する。宣教師が持っていた聖書箱は酒屋の外の道に積まれ、白燐手榴弾で燃やされる。

 

周囲は驚きと反抗の渦と言いたいが、酒場の周囲は「またか」と言わんばかりの雰囲気であり、寧ろ近くのアウターメガトン市民にとってアトム教会の輩は危険なテロリスト集団として認知されていた。

 

 

アウターメガトンが形成されて2年。エンクレイヴがここへ来て3年が経とうとしていた。彼らは2277年政変と呼ばれる一連のクーデター事件があったものの、方針は全く変わらず、メガトンとリベットシティーを編入。キャピタル全体をカバーすることは容易でなく、エンクレイヴの科学や生産能力の恩恵を得るには二つの集落に行くしか方法はない。そのため、自然と人が集まり、核爆弾を囲う元からあったインナーメガトン。そしてエンクレイヴの恩恵に預かろうとインナーメガトンからスプリングベールと小学校跡、エンクレイヴ駐屯地の周囲に築かれたアウターメガトン。集落の面積からすれば、過去最大の集落となった。

 

しかし、問題が幾つもある。エンクレイヴの資源も有限であるため、出来る限り、メガトンは自給をしなければいけない。メガトン周囲には農耕用地を作り、食料自給率を伸ばしているが、続々とメガトンに入植する人々は増加し、そのたびに食糧が不足するという負のスパイラルに陥っていた。しかも、其れだけでなく、入植には審査などは行わず、人頭税などを取るだけであるため、犯罪者やエンクレイヴに対してテロ攻撃を行おうとする者も中にはいた。例えば、先のようなアトム教会の宣教師等が良い例であり、核爆弾の撤去を行うエンクレイヴ兵を殺害したことにより、政府から危険な宗教として見られ、メガトンから追放刑となった。だが、エンクレイヴが彼らの聖像を奪ったために、エンクレイヴへ「神の鉄槌」を下すべく、動き出しており、ベルチバードや装甲車、メガトンでも展開している首都警察もテロ攻撃の対象としていた。そして、他にも・・・・

 

「奴さんがおいでなすったぞ」

 

バーテンダー、いやそれに扮した首都警察の刑事は酒場に入った男を見て、ウェインへと呟く。ウェインはため息を吐いてウィスキーを傾ける。

 

入ってきた男はウェインと同じような傭兵の恰好をした、彫りの深いアフリカ系の男だった。普通の傭兵に見えるだろう。だが、男の背中にはレーザーライフル、腰にはプラズマピストルと重武装なのが窺える。そこらの傭兵はエンクレイヴ軍の活躍によって開店休業状態であり、賢い傭兵は辞めて首都警察に入っている。ともすれば、男の身なりはどうしても今の傭兵としては疑問が残った。どうして、高価なプラズマピストルやレーザーライフルを携行しているのか。

 

男は首を左右に動かし、隅に集まる妙な傭兵集団へと近づいた。彼らもまた、巷の傭兵とは違い、かなり良質な武装であった。

 

「ウェイン、指向性マイクの調子は?」

 

「問題ない、ダニエル。続けるぞ」

 

ウェインがカウンターテーブルに置いた「銃と弾丸」の本は、中身が指向性マイクとなっており、彼はその妙な男たちの会話を聞くために見晴らしのよいカウンター席に腰かけていた。

 

『ディフェンダー、首尾はどうだ?』

 

『排水溝に我々のアーマーを隠しておいた。インナーメガトンには奴らの軍も火器の所持を禁じているらしい』

 

『なんでだ?』

 

『以前、奴らの兵士が酔って発砲したようだ』

 

先ほど、酒場にやってきた傭兵風の男はディフェンダーと呼ばれているらしく、何かの地図をテーブルへ広げた。

 

『レイダーの陽動攻撃によってインナーメガトンの周囲は手薄になる。ここの隔壁は他と違い脆弱だ。C4爆薬で穴が開く』

 

『内部の公安勢力は?』

 

『首都警察の拠点はあるが、パワーアーマーは無いから何とかなる。比較的軽武装だから簡単に対処できる』

 

『兄弟達には今夜行うと伝えろ、奴らに償いをさせるぞ』

 

ディフェンダーと呼ぶ階級に仲間を「兄弟」と呼称する。そして、エンクレイヴに対して憎しみを抱いている。憎しみを持つ組織は数知れず。だが、ディフェンダーや兄弟を呼称する団体は一つしかない。

 

「BORの野郎共、なんてことを考えてやがる」

 

Brotherhood of steel out castはエンクレイヴの攻撃によって、本部のインディペンデンス砦を破壊された。しかし、攻撃から生き延びた隊員はエルダー・リオンズの元に戻ることはなく、エンクレイヴへテロ攻撃を仕掛けるテロ組織「Brotherhood of revenge」B.O.R.を

結成した。リオンズのようなウェイストランド人への救済を考えない彼らは周囲の犠牲も厭わないテロ攻撃を行い、ウェイストランドでは害悪極まりないレイダーと同等とされるに至った。

 

首都警察はテロ組織と化したoutcastを狩り出すため、多くの捜査員を投入しているものの、決定打はまだない状況だ。

 

「ウェインどうする?」

 

「本部にこのことを伝えろ。泳がせるか、それとも予備の捜査員を投入して奴らを逮捕するか聞け」

 

バーテンダーは「酒蔵から追加の持ってくるから見ててくれ」と言い、その場を離れた。ウェインは彼が出したイグアナのサイコロステーキを頬張りながら、ヌカ・コーラで喉を潤す。だが、イヤホンから聞こえる男達の話により、彼の背中はびっしょりと冷や汗が流れていく。

 

『最近、首都警の奴らの動きが激しい』

 

『市街地や官庁街かなり整備されているからな、他の・・・』

 

『いや、そうじゃない。潜入した兄弟の何人かは奴らの監視下にも入っている。もしかしたら、この酒場も監視されているかも』

 

心臓の音が早鳴る。掌には汗が滲み、視線を他へとむける。それがマズかったのか、その行動に気づいた男たちの一人がウェインの元へと歩いてきた。

 

「おい、お前。俺たちの事見てたな」

 

潜入捜査員は酒場にはバーテンダーと物売りの女性、そして傭兵の恰好をするウェインの三人しかいない。5人以上いるBORのテロリストとでは、火力の違いもあり、瞬時に灰かプラズマ粘液になるのはウェインだ。言葉を選ばなければならないと思い、傭兵時代の言い回しや態度を鑑みて口を開いた。

 

 

 

 

「は?何のことだ?俺はてっきりカマ野郎のパーティーだと思ってたんだが?」

 

 

 

「んだと!この野郎!」

 

 

挑発に乗った男はウェインの胸ぐらを掴むが、ウェインは腰にあったホルスターから10mmピストルを引き抜き、掴んでいる男の胸へ銃口を押し当てる。

 

「っ!!」

 

他の男たちも持っていた銃をウェインに向けるが、胸ぐらを掴む男が居て撃つことは出来ない。

 

「落ち着けよ。いきなり声を掛けてきたのはオメェだろ?カマ扱いしたのは悪いと思うが、あの後どうするつもりだった?」

 

「もういい、部下が失礼した」

 

根を挙げたのは詰問してきた男でなく、ディフェンダーと呼ばれたアフリカ系の男だった。ここで騒ぎを起こせば、首都警察の目につくだろうと思い、直ぐにこの状況を落ち着かせたかったに違いない。

 

「それならいい。こっちは久々にゆっくりと食事が出来ているんだ。ちょっかいを出すのは辞めてくれ」

 

傭兵家業で一番大切なことは「舐められないこと」。自身が武器を持ち、いつでも相手を殺せるという意思表示も必要である。銃をホルスターに戻すと、ウェインは男を突き放す。ウェインの胸ぐらを掴んでいた男は腹いせとばかりにカウンターの板を蹴る。

 

「あっ……」

 

それがいけなかった。廃材で作った再生品の塊であるカウンターは衝撃で凹む。穴を見れば光線兵器を弾く特殊装甲が垣間見える筈だ。だがそれだけではない。カウンターに置いてあった、指向性マイクを仕込んである本が衝撃で落下する。ウェインは落下する直前で拾おうとするが手をすり抜けた。本が落ちる音と同時に金属の衝突する機械音が周囲に響き、そこにいた人達は本から出る奇妙な音に注目する。ウェインの胸ぐらをつかんでいた男は本を持ち上げ、床に散らばる機械の破片を見る。マイクなどの盗聴器。なぜ、くり抜いてマイクを入れたのか。男が疑問を持つ寸前、意識が途切れる。何故ならば、脳髄がウェインの持つ銃によって破壊されたからだ。

 

「エリぃ-!!やれぇ!!」

 

近くにいた日雇い労働者の格好をしていた女性はテーブルを引き倒し、持っていた新規設計された短機関銃。いや、PDWと呼ばれる個人防御火器、FN P90が火を噴く。装甲のない、レザーアーマーでは5.7×28mm弾から守ることは出来ない。掃射された弾丸は男達に集中する。運悪く、射線にいたテロリストの男は無数の弾丸を受けて倒れる。だが、彼らは高度な戦闘能力を持っており、すぐ物陰や机に隠れた。レイダーならば直ぐに殺られてしまうが、彼らは元BOS。弱い訳が無い。

 

ウェインは彼らの銃撃から撃ち返してバーカウンターの中に滑り込む。カウンターの裏に隠している破片手榴弾を取り出し、腰に装着した。10mmピストルでは心もとなく、銃床を削り落としたポンプアクション式ショットガンのチューブにショットシェルを詰め込んでいく。

 

「おいおい、どうなってんだこれ!?」

 

「ダニエルか、……うん、バレた」

 

ダニエルと呼ばれた偽バーテンダー改め、首都警察の囮捜査員はバーテンダーの服の上から黒の防弾アーマーを装着し、ライトマシンガンを両手に抱えてきていた。バーカウンターにはレーザーやプラズマが撃ち込まれ、バーカウンターの形は装甲板だけとなっている。

 

「なんでバレたかは聞かないよ。それよりどうするこれから?」

 

レーザーやプラズマを撃たれ、ウェインとダニエルはバーカウンターから一歩も出られない状況となっている。そして、日雇い労働者に扮した女性捜査官も物陰から応射するものの、銃撃は激しさを増す一方だった。

 

「どうしようか・・・おう?」

 

「ん?・・・」

 

ウェインは破片手榴弾を投げ込み、一気に制圧しようと思ったが、バーカウンター内部に投げ込まれた球体を見て驚愕する。投げ込まれたのは、ピンが抜かれた破片手榴弾だった。

 

「に、逃げろ!」

 

勇気があれば、いつ起爆するかもわからない手榴弾を敵へ投げ返すことも出来たが、投げ返すよりも逃げ出す方が得策と考えた二人はすぐにカウンターから飛び出した。幸い、敵の客席からの射線は外れているため、破片は彼らを傷つけはしなかったが、酒場は狭く爆発の音が三人の脳を揺さぶる。三半規管が混乱し、高音が彼らの耳に残り続けた。

 

「オルキンスとウェルシュはカウンターをやれ。ザックはあの女労働者を見てこい」

 

「了解!ウェルシュ、援護しろ」

 

銃撃が止んだため、男達は死んだかどうか見るためにライフルを構え前進する。ただ、彼らには時間がなかった。アウターメガトンとは言え、巡回中の警察官もいる。銃撃戦を聞きつけて突入してくる可能性もあったため、急いで脱出しなければならなかった。

 

ウェインはふらつきながら、落とした10mmピストルを手に取る。体勢を立て直そうとする。すると、目の前には男たちの内の一人がウェインを見つけ、ライフルを構えていた。ウェインは10mmピストルを向けようと思うが、スライドが開かれていた。それは弾倉に弾が入っていないことを物語っていた。それを見た男はライフルを向けたまま笑みを浮かべる。

 

ウェインが抵抗できないことを知って、ゆっくりとした動作でライフルを向けた。まるで今から殺す事を楽しむかのように。生き残ったアウトキャストのメンバーは半ばレイダーのようなことを行って生計を立ててきた。エンクレイヴの輸送隊や何の罪もないキャラバンや小規模の集落を狙ったりもしていた。彼らの中で善悪の区別が曖昧となり、残虐行為に喜びを見出す。ウェインを今にも殺そうとしている男も例外ではなかった。だが、ライフルの引き金を引く瞬間、外から大きな金属がぶつかる音が聞こえ、その男も含めた全員がその音の方向へ銃を向ける。

 

「なんだ?一体?」

 

壁際に立っていた男の一人が呟いた瞬間だった。

 

突然、壁から鋼鉄の腕が伸び、気づいた時にはその腕が振られて男は反対側の壁に叩きつけられる。金属の継ぎはぎのような壁はその黒い塗装を施された金属製の腕で破壊され、その正体が露になる。エンクレイヴが使用する最新型のパワーアーマー、「ヘルファイアMk.2」だった。

 

「撃て!撃ち殺せ!」

 

レーザーとプラズマ弾が降り注ぎ、パワーアーマーが大破するのを誰もが想像する。手榴弾と壁の破壊によって溜まっていた砂埃が舞って煙のようにパワーアーマーを隠すなか、周囲に聞こえるような声が周囲に響き渡る。

 

「次は俺の番だ」

 

独特の回転音とレーザー発射音の音が響き、無数のレーザー光線が正面でプラズマライフルを構える男に命中する。出力の大きいレーザーは男の来ているレザーアーマーを安々と貫通し、酒場の柱を焦がす。数十発のレーザーを浴びて、文字通り全身ハチの巣となった男が倒れると、周囲の男は戦意が喪失したかのように、唖然とした表情で立ちふさがるパワーアーマーを見る。

 

「奴のようになりたくなければさっさと投降しろ!それとも・・・?」

 

レーザーガトリングの砲身が最後通牒のように回転し始め、男たちは恐怖を覚えて次々と銃を捨てていった。

 

「よし、お前ら!手を頭の上に載せて腹這いになれ!」

 

「貴方には黙秘権がある。この供述は法廷で不利な証拠として用いられる場合がある・・・」

 

次々と突入してくる首都警察の警官はストッピングパワーの優れた45口径拳銃を構えて突入し、次々と彼らを拘束する。

 

「おい、銃を捨てろ!」

 

「待て待て、同じ警官だ」

 

格好も同じであるため、制服警官に銃を突き付けられたものの、胸ポケットにしまったバッジと身分証明書を見せて確認する。そして、パワーアーマーが待機モードに入って、中から人が下りてくる。

 

「よう、兄貴」

 

「ジム!助かったぞ」

 

今は無きリトル・ランプライトの義兄弟。大人として追い出された後も傭兵として共に生きてきた戦友。以前、エンクレイヴとも戦ったこともあるが、二人そろってエンクレイヴの創設する警察組織に入っていた。下手な兄弟よりも仲がいい二人であり、ウェインは職務中にも関わらず、ジムにウィスキーを勧める。ジムは困りながらも、ウィスキーの瓶を受け取るとラッパ飲みでそれを飲んだ。

 

「囮が兄貴とはね・・・・そうだ、気になっている女ってのは・・・」

 

「おい!声が大きい」

 

 

まだ告白もしておらず、思いを伝えていないウェインはジムの口を押えようとするが、ジムの察したような顔を見たウェインは彼の視線を辿った。すると、そこにはウェインの同僚の二人が抱擁を交わしている姿であった。勿論、ウェインの素知らぬことである。

 

「・・・どんまい、兄貴」

 

「リア充爆発すればいいのに」

 

『リア充』という単語を教えてくれた人物にウェインは久々に会いたかった。だが、その教えた彼もリア充に含まれる。腕っぷしや戦闘能力に掛けてはずば抜けているウェインであったが、この方、恋人が居らず、弟分に先を越されるに至る。自分の恋が敗れ去ったウェインはウィスキーの瓶片手にさみしい夜を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「閣下、こちらにご署名願います」

 

「枢密院の原稿が仕上がっておりますのでご確認を」

 

「宇宙軍のオキタ司令より月面での作戦報告書です」

 

 

 

メガトンより遠く離れた旧米軍が建設した、首都機能を移管すべく設計された超巨大核シェルター「レイヴンロック」の行政区域でも最高レベルの裁定を行う「白地区」とも呼ばれるエリアがある。その白地区は大統領官邸の名前から取ってきており、内装は最終戦争で消し炭となったものと寸分違わぬサイズで再現されている。これは最終戦争後に政府最高指導者が核戦争後の執務もある程度のストレス軽減すべく考案されたものであったが、200年たった今では遺構として扱われていた。嘗てのアメリカ合衆国という大国を表現するかのような、内装はノスタルジックな気分にもさせ、レイブンロック以外にも崩壊した旧エンクレイヴ総司令部のポセイドンオイルリグの大統領執務室も同じ様式である。ただ、このノスタルジックにさせる執務室こそが嘗ての大国の妄執とも言える思惑を増長させる原因となった。

 

 

「ホワイトハウス建造計画書」と銘打たれた計画書の束を見ていた新アメリカ合衆国第2代目大統領、アウグストゥス・オータムは黒のスーツと赤いネクタイをして執務机に座り、各分野の担当官から来る書類にサインを行う作業へと移り、枢密院と呼ばれる法案決定を行う議会のような機関で発表する原稿を受け取る。

 

多くの補佐官に支えながらも実務をこなしていくオータムは最後の旧アメリカ合衆国大統領であるエデンを思い浮かべる。参謀と補佐官を兼任していたオータムであったが、自分が任命した補佐官たちを見て、自分はここまで働いていたのかと思いを馳せる。兼任していたからエデンは仕事を割り振っていなかったと思いたかったが、オータムに出来る仕事を与えて、他の事項は全て自らが処理していたことが発覚し、彼はひどく落ち込んだ。実務能力を比べれば、人工知能であるエデンのほうが圧倒的に優れており、手際の良さはオータムが自信を無くしても仕方がなく、両者の隔たりは非常に大きなものだった。首席補佐官を中心に、国防や内務、治安維持など様々な事項を各補佐官に担当させて最終決定をオータムが行う、旧来の大統領の職務に戻しつつあるが、一番の懸念は枢密院であった。

 

法案を作成し、発布、施行する手順は国会や議会の機能であるものの、国民の代表を出してそれらを作るには未だに整備がされていないため、開くことは出来ない。そのため、エデンが独裁していたときに結成した「議会」から重鎮を選び、立法を司る「枢密院」を新たに結成し、今後の議会の前身として作られた。問題は彼らが派閥を形成している点である。殆どがオータムに付き従うものが多いが、資本家や文官を中心とする反オータム派もあるため、「議会」から創設された枢密院も一見して一枚岩であるが、中身はそうではなかった。今後、国民の代表から議会を創設する際、オータムなどの旧議会派を集め「新共和党」を結成する予定であるが、派閥争いが過熱すれば、結成前に分裂する可能性もあった。BOSは「鋼鉄党」という政党を結成し、エンクレイヴ内に存在する市民団体は「新民主党」を結党するために、国を動かしていく中で意思を統一していく必要があった。

 

そのため、自らが神輿として上げられ、権力を集中させるためにオータムは傀儡として最高指揮官として担ぎ上げていたドライゼン参謀総長を新アメリカ合衆国第一代大統領として就任させた後、持病の都合で辞任させ、自らが大統領として地位についた。他の重鎮と比べても若く、何時足元を掬われるか分からない不安を胸に秘めていた。唯一の安心はエンクレイヴやキャピタル・ウェイストランドなどにおいて、オータムの知名度や支持率は軒並み高く、軍上級将校から一兵卒に至るまで信奉している者が多いことが何よりも救いだった。

 

オータムは枢密院の原稿を片付けると、首席補佐官に声を掛けた

 

 

「D.C都市部の改修計画は進んでいるか?」

 

「はい、進捗状況は昨日の時点で30%を超えました」

 

首席補佐官と呼ばれた、黒のスーツを身にまとい、黒縁メガネを掛けた30代過ぎの女性はクリップボードに収まりきらない書類を見て報告する。2290年までに行政区域をDC市街に移す計画であるが、様々な障害が発生している。人材や資材の不足もあるものの、一番の問題はDC地下には嘗て逃げ込んだ人々がフェラルグール化して地下墓地(ネクロポリス)となっており、他にも巣を作る野生動物が工事の度に襲い掛かってくることがあった。

 

「年間計画としては順調ですが、やはり地下整備に時間がかかっています。人材と資材の不足も相まって財務省では各政策の縮小も提案されています」

 

「たとえばどんな政策だ?」

 

「政策縮小や中止を提案しているのは、メガトン周辺の開発や農業・衛生の救済の停止

加えてリベットシティーにおける各分野無償援助の停止、他には・・・」

 

「まだあるのか!」

 

オータムは首席補佐官の口から出る耳を塞ぎたくなるような政策停止提案に驚きの声を上げる。ウェイストランドの支持基盤を形成するためにも必要であった政策であるが、財務省から停止を提案されると、無理にでもと言えない状況である。

 

エンクレイヴは西部を捨てたことで慢性的な経済不況を抱えており、西海岸に以前あったエンクレイヴ総司令部と首脳が滞在していたオイルリグが破壊された時、エンクレイヴは一時的な機能不全と経済不況に見舞われた。多くの資材を投入していたため、西海岸など中西部から西を放棄した現在では、その経済規模は陰りを見せている。今回は入植するウェイストランドには、現地住民を新アメリカ合衆国の国民として取り入れ、人口と安定した投資先を確保した。土壌改良によって食糧生産の向上や幾ばくかの天然資源の確保、以前までは地下工場など立地的に難しい場所に生産拠点を築いていたが、ウェイストランドに工場を作ることにより、各産業の生産能力の上昇が期待された。

 

だが、問題がある。ウェイストランドは荒廃した土地という意味合いから、非常に旨みが少ない。つまり、投資しても、返ってくるのが僅かであるものや利益となる時間があまりにも先の話となる。衛生環境や生活環境、教育面において成果を見せて、出生率が上昇したとする。それにより、人口の増加と労働人口に伴って生産規模が拡大する。オータムは長期的な視野を持って、これらの政策を推し進めているが、歴史を鑑みるに国民が見たいのは目に見える自らが享受する利益であり、子や孫が授かる利益を求めない。

 

そもそも、キャピタル・ウェイストランドに再入植すること自体、長期的な視野がなければ入植することは困難である。国民には、殆どプロパガンダに近い報道によってある程度、国民の意識を遠ざけているが、長くは持ちそうにない。そのため、彼らに目に見える形で利益を還元する必要があった。

 

「メガトン・リベットシティーの技術・産業支援チームがあったな。彼らに規模の縮小と両住民へは細心の注意を払って説明しろ。反感や暴動などはごめんだ。完全に停止するのではなく、縮小として半年からゆっくり行う形でいいだろう」

 

FEVの影響を受けていないエンクレイヴ国民やVault出身者は数代にわたってウェイストランドに住み続ける者達と比べて虚弱である。温室育ちであるというものではなく、ウィルスの影響によって過酷な環境でも適応し、病気や放射能に対して耐性を持っていた。そのため、彼らに不必要な薬品や過度な生活環境の改善などは行わず、費用と彼らの状態を鑑みた采配が必要だった。

 

「了解しました。支援チームにはそのように通達しておきます。閣下も一度、彼らの元へ?」

 

「ああ、彼らがどう支援していくか気になる。予定を組んでおいてくれ」

 

オータムは執務机のコーヒーを飲み、眉を顰めた。補佐官の報告を幾つも処理していたら、コーヒーは冷めてしまい、地下農場で生産された高級コーヒー豆を挽いて淹れた物で残念なことをしたと、一気に飲み干した。独特の苦みに旨みを感じつつ、最後に聞くべき宇宙方面担当の補佐官に声を掛ける。

 

「ターコリエン中尉、報告を・・・・、いやその前に場所を変えよう。」

 

オータムの補佐官達に紛れる士官の男、元アメリカ合衆国陸軍第108歩兵連隊第二衛生大隊の衛生兵であったエリオット・ターコリエンはエンクレイヴ軍改め新合衆国軍の軍服とは違って、濃紺の軍服に仕立て上げられた特別仕様の軍服を着ていた。未だ、エンクレイヴの記章のままの将校が多い中、新アメリカ合衆国の国旗と「United States Space Command」の紋章のワッペンが刺繍されていて、ターコリエンは緊張した面持ちで敬礼する。

 

「はっ!」

 

「いや、緊張しなくても構わんぞ」

 

初対面でもない二人であり、首席補佐官までには至らぬが、それなりに日常会話もする2人である。それでも緊張しているのか、緊張の色は消えない。首席補佐官を含める三人は、残りの補佐官や軍幕僚を執務室に待機させると、護衛のシークレットサービスでも極秘情報を交換する際に担当するチームが護衛となり、機密区画のエレベーターへ到達する。

 

エレベーターを守備する兵士の持つ特殊な端末にオータムは手の指紋と脈拍をスキャンし、網膜パターンのチェックを行い、更にはPINコードをテンキーで打ち込みエレベーターに乗り込んだ。エレベーターは下りていき、扉が開かれるとそこには巨大な画面とそれに向かう机が階段状に並べられ、多くの情報士官が分析を行っている。これは、作戦時にエンクレイヴ軍が使用していた戦闘指揮に用いられる指揮センターにそっくりであったが、画面に映るのはウェイストランドなどの作戦地図ではなく、地球を中心とした太陽系や宇宙空間の平面地図とゆっくりと動く立体地図であった。それに加えて、机で分析を行い、そこら中を行き来している情報士官はターコリエンと同じ濃紺の軍服を身にまとっていた。

 

オータムが目的地に行くまで気づいた士官は敬礼し、オータムは返礼しつつ、目的地の宇宙軍の司令長官室へ移る。

 

オータムは入っていくと、執務室には髭をたくわえた壮年の宇宙軍司令長官、オキタ中将が執務机に腰かけていた。

 

「大統領閣下!こんなところへようこそ、こちらへ」

 

60過ぎのオキタ司令は執務机から少し離れた席へ大統領を誘導し、ターコリエンに何か飲み物を持ってくるよう命令し、オータムは熱くしたコーヒーを所望する。

 

「すまないな、本当なら彼から聞けばいいのだが機密保持の問題に加えて、指揮官から話を聞きたくてな。迷惑を掛ける」

 

「いえ、閣下。最高指揮官が気になるのも当然です・・・・なにせ私も最初、彼から聞いた時は戸惑いました。既に脳が放射能にやられてフェラル化したのではないかとおもったものです」

 

知る人ぞ知る、政変の立役者であり、入植をスムーズに進めることが出来た影の人物。エンクレイヴを裏から支配しているとも言われているが、実際のところ、技術者との交流もあり、今後影響力が大きくなると警戒される彼。ただ、彼の情報は一般民衆からは秘匿され、軍上層と政治家、資本家が知るのみとなっている人物。彼はエンクレイヴを崩壊に導くであろう情報を持っており、加えて最終戦争のきっかけを知る者でもあった。あの浄化プロジェクト起動時に事故で多くの放射線を浴びたために脳が破壊されたのではと、荒唐無稽な彼の主張にオータムを含めたエンクレイヴ指導者は疑った。だが、エデンの本体であるZAXのデータを解析すると、既存の技術に加えて未知のテクノロジーを使用したものが見つかり、地球上存在しない言語が発見された。更にそれと機密資料を元にネヴァダにある旧アメリカ空軍基地「エリア51」へ調査隊を派遣。エデンなどのZAXコンピューターはエリア51に保管されたエイリアンのUFOからのテクノロジーを使用した証拠が見つかった。そうした証拠があったものの、最終戦争がエイリアンの仕業という証拠が出てこず、彼は事実上干される形となった。

 

だが、あらぬ形で彼の言っていた事が証明された。エンクレイヴの支配が盤石なものとなった2277年政変から半年後、キャピタル・ウェイストランドにおいて、原因不明の失踪事件が相次いだ。失踪することはウェイストランドにおいてありきたりの風景であった。それはエンクレイヴが来ても変わることがない。ただ、それが異常として認識されたのは、無作為且つ何も証拠が残っていなかったことだ。大抵であれば、血痕や空薬莢があってもおかしくない。犠牲者は入植者やスカベンジャー、傭兵、レイダー、BOSの兵士など挙げられ、エンクレイヴの兵士も多数いた。多くが野外で跡形もなく消失しており、その中には「彼」も含まれた。

 

そして、窓際族として閑職が送られる部署「宇宙軍」と呼ばれる、大気圏外からの攻撃に対応し、ICBMなどの弾道ミサイルの監視や衛星の管理が任される彼らが軌道上に二つの巨大な物体を探知した。そして、彼らの管理する数少ない監視衛星が大型物体から放たれる高出力のエネルギー体を観測し、ユーラシア大陸の山岳地帯に着弾した。

 

この攻撃により、エンクレイヴはデフコン2を発動させた。防衛準備状態となり、1962年10月23日のキューバ危機から二度目の宣言だった。対策会議が開かれ、未だに整備と保存がされていた大陸弾道弾と戦略兵器の準備が為され、軌道上の大型物体への攻撃が実施されようとした時、二つのうちの片方がもう片方に攻撃を受け、月に墜落した。残りの物体へ攻撃も画策されたが、その物体からアメリカ合衆国陸軍の機密度の高い暗号通信で交信してきた。しかも、『アメリカ合衆国陸軍アラスカ方面軍司令、チェイス将軍』に宛がわれた特殊な暗号を使用したものであったために更に混乱させた。そして、その交信をしてきたのは「彼」であったのだから混乱しても仕方がない。

 

「私もですよ。ただ、あのUFOから交信してくるとは・・・・・SF映画染みているな」

 

オータムでさえ、「最終戦争はエイリアンの仕業である」という彼の発言には懐疑的であり、一部の過激な者は排除する動きも出ていた。だが、多くの点で有益な彼の能力を鑑みて、ほとぼりが冷めるまでエンクレイヴから離れるよう言って聞かせたのだ。そんな彼はウェイストランド中で厄介事(クエスト)を引き受けていたらしいが、ひょんなことから彼もUFOに拉致されたようだ。

 

「しかも、我々にとっては賊軍であった彼らを引き受けてくれたのだから。厄介払いもできたのでしょうな」

 

オキタは肩を竦め、コーヒーを淹れてきたターコリエンからコーヒーカップを受け取り、オータムもそれを受け取る。

 

「比較的軽い者達ですが、潜在的に危険と見なすべきと言われましたよ」

 

オキタの厄介払いの発言には不快な表情を見せていたオータムは淹れてもらったコーヒーを貰う。このコーヒーは庶民に行き渡る合成食品と天然のブレンドであり、中流階級が好んで飲む銘柄であった。執務室で飲んだのとはグレードダウンするが、淹れたては香ばしく、美味しさを感じさせた。

 

政変後に西海岸派などに属する将軍や高級将校は軒並み逮捕され、支持やそれらの派閥に属する士官も同様に逮捕されるか、閑職に追い込まれた。士官や下士官には西海岸派閥は少ないものの、それなりに存在し、その多くが思想云々で選んだものではなく、血筋や直属の上司、若しくは取引で属していた。そうした彼らは閑職に追いやられ、軍人としての尊厳や希望を奪われてしまい、それを理由に新合衆国へ歯向かう可能性もある。彼らは目の上のたん瘤として扱われ、「彼」の要請でUFOのクルーにしてしまうことは願ったりであった。

 

オータムは高級将校や将軍達の政治的争いに巻き込まれたであろう彼らに対して同情しており、処刑や収容所送りにしなかったのは、それが理由であった。オキタはオータムのそうした優しさを評価しつつも、弱みであることを理解していた。

 

「閣下、優しさも時には必要ですが、彼らが地球を亡ぼす恐れもありましょう。」

 

西海岸派閥に属していた将校達である。信用できるだろうかと暗に言うが、オータムは否定する。

 

「まさか、それはないだろう。一応、精神鑑定と人物評定で大丈夫な者だけ君に預けたはずだぞ。それでも、まだ不安か?」

 

オータムは依然見たことがあるUFOの乗組員の書類を思い出すが、オキタは諦めたように愛想笑いを浮かべた。

 

「ええ、不安ではありますが閣下が言うのであれば信用いたしましょう。」

 

オキタは砂糖もミルクも入れないブラックをそのまま口に含むと、話題を変えてターコリエンに渡した報告書を机に置いた。

 

「月面に配備した監視基地の報告ですが、エイリアンの残党は完全に制圧したようです。一応、エイリアンの地対艦砲台を鹵獲したので、そのまま流用出来そうです。次はないとは思いますが、再びかれらのような敵も現れないとも限りませんし・・・・」

 

 

「彼」の起こしたUFOでの反乱と制圧。そして、敵の旗艦への破壊行為によって地球は異星人の侵略から救われた。彼らが破壊したのはエイリアンの旗艦であり、国土とも呼べる巨大なスペースコロニーであった。とは言っても、その時、生活していたのは推定100人。他は冷凍睡眠によって眠りについていたのである。

 

エンクレイヴの科学者の推測では、エイリアンは自分の故郷が何らかの理由で居られなくなり、第二の故郷を見つけるべく流浪の旅をしていたという見解を大統領に報告した。エイリアン達は増えすぎた人口を冷凍睡眠によって眠らせ、船を運用する人員と軍人のみで惑星を侵略し、地球をわが物としていたと考えた。墜落した敵の母船からは幾万のエイリアンの冷凍された死体が見つかり、科学者達の裏付けが為された。

 

エンクレイヴが彼らの制圧したUFOを接収し、エイリアンの前哨基地のある月面に降下。エイリアンの残党を蹴散らし、新たなるエイリアンの出現に備えて宇宙軍も科学技術の吸収に全力を注いでいた。

 

「ふむ、エイリアンのテレポーテーション技術を利用できるだろうし、西部の放棄された研究施設で同様の研究が行われていたと報告が上がっていたな」

 

テレポーテーション技術や新時代の超合金。これらは西部に存在する旧連邦政府極秘研究所「ビックマウンテン研究所」で研究されていて、エリア51の断片的な技術を元に新しいテクノロジーを作り上げていた。最終戦争後の混乱によって、ビッグマウンテンの位置情報は失われ、エンクレイヴは断片的な情報を元に捜索を続けたが、オイルリグ破壊と西部撤退以降、捜索活動は停止したままである。

 

「そうか、“彼ら”は今どこに?」

 

「『ゼータ』は地球軌道上でブラットリーハーキュリーズの補給と点検作業に入っているところです。」

 

鹵獲されたUFOは宇宙軍が大型物体として仮呼称として「Z物体」「Y物体」と呼んでいた名残であり、そのままUFOは「DSB-1 Zeta」(Disk type Space Battleship)として新合衆国宇宙軍艦艇として登録された。ただ、宇宙軍内で名称変更の発案が相次いでおり、かつてのアメリカ合衆国建国の父やウェイストランドに入植して多くの人気を得ていたが、暗殺されたエデンの名前が挙がった。

 

ちなみに、エデンは表向き、良き指導者として祀り上げられたままとなっており、悪しき軍指揮官達の陰謀によって暗殺されたと一般民衆には報じられている。これらは議会派が権力中枢を掌握した時に、エデンの大統領権限を継承したことで成り行きのままエデンは正体を暴かれずに済んでいる。もしも、一般民衆にエデンが人類抹殺を目論むエイリアンの刺客であることが知られれば、確実にエンクレイヴは崩壊する。ただ、ジェファーソン記念館にて、エデン大統領の狂言はBOSの兵士達も聞いており、ウェイストランドの七不思議として語り継がれることになるのは別の話である。

 

話を戻そう。

 

オキタ司令はその説明をした後、部屋の照明が消えて暗闇に包まれる。すると、プロジェクターが起動し、フィルム式の古いプロジェクターではなく、200年の間研究されてきたコンピューターによる演算によって、CGによる映像が移された。オキタ司令はそのまま、座った状態でレーザーポインターを地球軌道上に充てる。

 

「ゼータはハーキュリーズに弾薬と技術兵を数名残した後、月面軌道上で補給物資の投下後、地球に降下。ゼータは極秘作戦のため、ネヴァダ州エリア51に到着後、作戦を開始します。」

 

「operation:desert treasureか。進捗状況はどうだ?」

 

『operation:desert treasure』

NCRとシーザー・レギオンとの勢力争いに加え、ニューベガスを支配する謎の支配者「Mr.ハウス」三つ巴の戦いに介入し、NCRの拡大を抑えてシーザー・レギオンを壊滅させる作戦であった。既に大統領は参謀本部と宇宙軍に作戦認可を与えて、宇宙戦艦ゼータに作戦指揮権を委任して任務に当たらせていた。

 

作戦の責任者の「彼」自らが推し進めていたものであり、「Mr.ハウス」の資料とビッグマウンテン研究所についての文書を持っていたことが何よりも作戦を推進する証拠となった。既に、余剰武器や技術を生かした工場を建設して、倉庫に眠っていた旧型のパワーアーマーなどをダミー傭兵会社によって運用している。NCRの勢力拡大の増長にも見えなくもない行動はNCR内部の政治基盤を侵食。NCRが行う元エンクレイヴ要員の狩り出しを抑えるなどを行っている。

 

2280年現在のニューベガス周辺、フーヴァーダムを起点とする場所は火薬庫の呼び名が相応しい鉄火場になっている。ゼータの機動力と緊急展開能力など高性能航空機の使用が考えられるため、ゼータが擁する陸戦戦力を使用した諜報戦を挑むつもりであった。

 

「NCRにおける支持基盤の形成は確実です。影響力のある議員を数名こちら側に引き込みました。工場はあちらの材料を使用した兵器や軍服で賄うことが出来、向こうの貨幣を得られ、今後の活動資金も自力で調達できるでしょう。傭兵会社の方はNCR軍情報部がかなり探りを入れていますが、廃棄した我が軍の兵器貯蔵庫を本部とする傭兵部隊としてストーリーを信じ込ませました。数名、エンクレイヴだとバレ、NCR当局に引き渡すよう命令を受けましたが、先の議員の“鶴の一声”で止めることが出来たようです。多分、CIAの方から連絡が来るはずです。」

 

「バレたのか?」

 

「発覚したと言っても、想定内のことです。ヘリやパワーアーマーの操縦など知る者が居なければ怪しみます。構成員の中にアドバイザーとして任務に就くものも居なければなりませんし」

 

西海岸での諜報活動は、エンクレイヴ軍諜報部から独立し一機関として設立された中央情報局、CIAが任務に就いている。ただ、諜報機関はその機密度の高い任務の性質上、他の部隊と比べ危険度の高い任務を行うことが多く、当然独立性の高い機関であった。しかし、ニューベガスの作戦立案は宇宙軍の「彼」が指揮しており、軍の管轄である。古巣で新たに創設・拡大を続ける宇宙軍と独立したCIA。エンクレイヴでもこの二つの勢力は協力状態であっても、活動場所が重なる両者はライバル意識を強めていた。

 

しかし、オキタ司令はふと、ゼータに乗る「彼」を思い出し、吹き出してしまう。それを見たオータムは驚く。彼は失礼したといい、笑みを溢しながら謝罪した。

 

「いえ、失礼。ゼータの彼のことを思い出しまして・・・彼が居れば宇宙軍とCIAの確執も何とかなるでしょう。BOSとエンクレイヴであった我々を戦わせなかったのですから、何とかなる・・・はずです」

 

 

「・・・ぷっ!・・・それは確かに」

 

事実、彼の行動によってBOSとエンクレイヴの戦いは大統領派による強硬派によって起こされた戦闘として、エンクレイヴ本隊との戦闘は回避された。その後も緊張状態は続くものの、彼の奔走した結果、不可侵条約を締結させ、新アメリカ合衆国に入ることが決定した。合衆国の立法や政治に関与するため鋼鉄党を作るようにしたのも彼のアドバイスによるものであるが、エンクレイヴ以外の準軍事組織として活躍し、勢力を拡大させ続けることにエンクレイヴも多く協力し、共生の関係を築いている。そして宇宙軍とCIAの関係であるが、そこまで心配することもない。なぜなら、ゼータにいる彼とCIAの西海岸方面部長は“懇意”の間柄であるのだから。

 

「それでエン・・・いや新合衆国では重婚は合法にするので?」

 

「さ~、どうだろうな。」

 

彼とその周囲は何かと話題に欠かない。幼馴染みの子と結婚する話もあったが、先の方面部長の関係もあり、加えて幼馴染みでもあるVault出身の女性も現れた話もあり、どっからどうみても、最近文化レベルの高いエンクレイヴ地下都市で流行中の「ライトノベル」というものに見られる「ハーレム展開」なのだろうと、オータムは冗談交じりに聞いてきたオキタに対して少しはぐらかす。稼ぎの多い男は2人目や三人目の妻を娶るべきという意見や養子をとるべきであるという意見も強く、これはかつて見られたイスラム教の重婚を許可していた理由が貧困で喘ぐ人々の救済政策の一つであったことはあまり知られない。

 

若い男性に多い、「モテる男」は羨ましいという風潮があり、「ハーレム」と言った複数の女性に言い寄られたり、関係を結ぶことはよいことであるというものが多い。ただ、そうしたハーレム状態はフィクションにおいて脚色され、美化されているため、良いと思われがちであるが、実際は好きであっても気を使う分、一人の方が気が楽であるという考えも挙げられる。オータムも権力の中枢に近く、複数の女性に言い寄られた時期がある。ただ、一人の女性でさえ、気を使うのに、複数いればどうなるだろうか。その複数の女性を例え愛していたとしても、一人の方がまだましである。

 

一夫多妻制は男側に多くの負担を強いるために、その制度を推し進める意見やフィクションの増長には警戒を強めていた。

 

 

「彼はお人善しですからな。」

 

「今度の作戦で増えてるかもしれませんよ」

 

「違いない!」

 

2人は笑い、部屋を響かせる。その笑い声は宇宙にいる「彼」に届いたのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「は・・・・ハックシュン!」

 

「大丈夫?」

 

「悪い、風邪ひいたかな」

 

背中をさすられ、乾いた喉を潤すべくコップに注がれていた水を口に含んだ。寝ぼけた眼を擦りながら、俺は洗面台に行き、蛇口から出る水を顔に掛けて目を覚ます。滴る顔面についた水滴を拭きとろうと事前に準備したタオルを取ろうとするが、床に落ちたのかそこにはない。すると浮いてきたかのようにタオルが手元に近づき、それを取って顔を拭く。

 

「ありがとう、シャル」

 

「どういたしまして」

 

数年前まで少女の面影があったシャルは今では大人の色気を出し、艶やかな容姿となっていた。髪は伸ばし、子供っぽい雰囲気は無くなっていた。タンクトップにショートパンツという露出の多い服だからかもしれない。ただ、以前にも増して彼女の魅力は増す一方だ。

 

「腕の調子はどう?」

 

「問題ないよ。どこぞの錬金術師か伝説の傭兵を思い出すかな」

 

「何それ?」

 

とシャルの知らない例えを言い、微笑んでそれを尋ねる。

 

「昔見たものでやってた」

 

「まーた、あの話?ほら、腕出して」

 

「はいはい」

 

シャルに呆れられたものの、左腕を出す。そこにあった筈の左手は存在せず、腕の骨と接合したアダマンチウム合金の骨が現れる。シャルが持ってきた金属製の腕を装着して、神経が接続される痛みが走る。一々外すのは面倒であるものの、誤作動でベッドや自分自身、シャルを傷付けるかもしれないため、一々外していた。

 

1本1本指の感触を確かめ、不具合が無いことが分かり、掛けていた軍服に袖を通す。昔、オータムも着ていた佐官服を着ているが、宇宙軍仕様の濃紺になっていて、コートに袖を通した。

 

 

「今日は遅くなるかも」

 

「私は今日、先生に見せる日だから」

 

シャルの下腹部は若干膨らんでおり、よく見なければそれは太っていると思うかもしれない。だが、彼女のお腹の中には新たな生命が宿っていた。

 

「性別は分からなさそう?」

 

「まだだって」

 

シャルも準備し始め、宇宙軍の士官服の上から白衣を着る。外科を多くこなしてきたが、自身が妊婦となったため、出産に立ち会ったことのある産婦人科の軍医に見てもらう予定であった。そろそろ、上司として産休にさせようと思うのだが、「研究が遅れちゃう」と一向に産休申請を出してもらえないので、中間管理職の自分としては辛いところだった。

 

「仕事が終わったら大事な話があるから、終わったら艦橋の方に」

 

「職権乱用?……また悪いコト覚えて」

 

と不満そうな顔をするが、そこまで怒っているようでもなかった。

 

「じゃあ、行ってくる。」

 

「いってらっしゃい。」

 

軽くキスを交わして、部屋を出る。昔なら「欧米だー」と騒いでたかもしれないが、身も心もアメリカ文化に浸り、ウェイストランドでの生活を懐かしく思えるようになった。エイリアンが建築した宇宙船の廊下を歩く。宇宙船の地球外の金属を使う床をウェイストランドの廃墟や寂れた軍事基地と比べたら、眩しすぎるものだった。

 

 

廊下をたまに通る士官に敬礼を返し、艦橋に行くワープゲートに行く。到着すると、そこには火花を散らせたワープゲートに修理道具を携えてきた工兵が待っていた。

 

 

「すいません、艦長。ここのワープは故障中です。練兵場を通ってください。」

 

技官はツールボックスと修理用のエイリアンドローンを使って修理を行う。仕方なく、遠回りであるが練兵場の方のワープを使おう。

 

敵の攻撃を考え、艦橋に直通で行けるワープ装置は二つしかない。そのため、現在いる移住区と武器保管庫にしかない。武器保管庫近くのワープ装置に行くため練兵場を通る廊下を歩いていく。

 

 

 

 

 

 

三年前のあの時、俺はジェファーソン記念館で起動スイッチのENTERを押した後、機転を効かせて足元の金属床をプラズマピストルで撃ち抜いた。

 

溶けた床は俺の体重を支えられなくなり、浄化水槽に落下した。水は幾つかの放射線を遮断できるため、装置が起動してかなりの量の放射線が放射されたが、水の中にいたお陰でそこまで被爆はせずに済んだ。だが、装置が起動し、俺はファンに巻き込まれそうになり、腕を一本犠牲にした。

 

何とか水槽から這い上がることが出来、エンクレイヴの医療ヘリに載せられ、治療を受けた。シャルからは平手打ちと抱擁を交わして事なきを得たが、大変なのはこれからだった。

 

エンクレイヴはBOSと先の戦いで共闘したものの、浄化施設の管理を巡って一触即発の事態に陥っていた。怪我した状態で両者の仲裁役として会議に参加し、不可侵条約と技術供与協定と軍事協約を結ぶことが出来た。BOSは先の戦いで戦力の半数を失っていたため、ウェイストランドを明け渡すしかなかった。ただ、BOSの活動目的は最終戦争の惨禍を繰り返さない為に結成された組織であった。BOSは国家間戦争が発生しても核などの大量破壊兵器の使用を自粛する密約を行い、BOSは新アメリカ合衆国に含まれることになった。

 

浄化施設はエンクレイヴと浄化プロジェクトのメンバーが運用し、BOSが警備する共同運用が為され、ウェイストランドの統治はエンクレイヴが主導で行われる形となる。

 

 

そして、俺はジェファーソン記念館であったエデンの正体をオータムなどの高級官僚に打ち明けた。あまりにも荒唐無稽な話だった。暴走したZAXコンピューター、実はエイリアンの手先であり、大戦争はエイリアンの仕業であったなんて誰が信じるだろう。どこかのゴシップ記事かオカルト系で組まれたテレビ番組の内容であり、信じる者は皆無。

 

浄化施設が起動した後、エデン大統領本体であるコンピューターは浄化施設のサーバールームに移動され、技術チームによる解析が行われた。既存の言語以外に未知の言語が見つかり、未知のテクノロジーが使用されていた。

 

だが大戦争にエイリアンが関与していることやエイリアンが地球を侵略しようとしているとする一連の警告は当然のように無視された。この後ウェイストランドで起きるエイリアンによる攻撃を事前に知っていなければ信用などされるはずもない。俺のことを信じる数少ない者はいたが、エンクレイヴという組織からは一時的に爪弾きされた。

 

エイリアンの証拠があったとしても、それは無視されただろう。一部では一定の影響力のある俺の抹殺が目論まれたらしいが、恩のあったオータムはそれを差し止めた。ほとぼりが冷めるまでウェイストランドを旅する(クエスト達成)ことになる。

 

エンクレイヴの制圧部隊と共にピッツバーグのレイダーを一掃したり。テロリストであったアウトキャストの前哨基地を降伏させて、アンカレッジ作戦のVRを試す。そして、いくつもの調査隊が行方不明になるポイントルックアウトを探索した。

 

そしてそうこうしているうちに、謎の怪電波をpip-boyが受信した。UFOの救難信号であり、これまでにない重装備を持っていくことにした。エンクレイヴの数少ない筋を通してオータムへ連絡を行い、宇宙へ警戒するよう伝えた。

 

シャルには危険なため、レイヴンロックに行ってもらって保護してもらう。単身でUFOの墜落地点に到着すると、UFOに拉致され、身体検査を受け、身ぐるみを剥がされた。牢屋の同室だったソーマに義手の左腕を弄られ、根掘り葉掘り聞かれる羽目になる。その後、二人で殴り合いの喧嘩をしてエイリアンの注意を引き、脱走。冷凍保存された人間を救出し、重武装のアーマーでエイリアンを蹴散らした。

 

着々と宇宙船を占領していくなかで、地球の通信を傍受する通信室からエンクレイヴの通信と思しき信号を傍受していた。其れには軌道上にあるエイリアンの宇宙船二隻を弾道ミサイルによって破壊することが伝わった。DEFCON2発令よってエンクレイヴは通常の数倍の通信を行い、数年分の通信を数分で行った。

 

急いで生存者たちを率いて艦橋を占拠して船全体を掌握した。しかし、船を乗っ取られたことを知ったもう一隻のUFO、司令船であるもう一隻が攻撃を仕掛け、なんとか敵のUFOを撃退することに成功した。ここまではゲームの通りだった。問題はエンクレイヴが弾道ミサイルによる攻撃を行おうとしていた。

 

ゼータには未だに多くの人間が冷凍保存されていて、俺達生存者もエンクレイヴの弾道ミサイルによって殺されたくはなかった。ごみ処理場で拾ったチェイス将軍へ送るはずだった補給物資には上級将官用の長距離無線機とIDがあった。それを使用し、エンクレイヴへコンタクトを取って何とかミサイル攻撃を止めさせることに成功した。

 

 

UFOをエンクレイヴの管理に入れるが、新合衆国となってからは慢性的な人員不足となっていた。人員は西海岸派閥に属していて比較的に反逆しない、思想的にも東海岸よりな穏和な将校が選抜され、UFOを航行することになった。エイリアンの存在は公になっていないとはいえ、上層部へ存在を認めさせた俺は任官して少佐の階級を貰う。指揮官としての基礎的な教育を受けた俺は晴れてゼータの艦長として地球圏の防衛に着くことになった。

 

 

 

 

 

廊下を通り抜け、扉を抜けて「練兵所」の看板のある部屋へと入った。

 

 

「オイ!ジェイムズ二等兵!モット腰ヲ低クシロ」

 

「すいません!カゴ教官」

 

「貴様ラノナマッチョロイ動きは、レイダーナラ1人倒せば2人増エル!技ハモット正確に!そして早く!」

 

新兵の戦々恐々としている声に酷い日本語訛りの強い英語が練兵場の一角に作られた畳を模した柔術場に響いた。

 

すると、新兵の1人がこちらに気づいたのか。踵を揃え叫ぶ。

 

「Attention!」

 

その号令と共に基本訓練で染み込んだ新兵たちは条件反射で整列し、直立不動になる。

 

『カゴさん、新米の教育は順調?』

 

『外人の兵はここまで腑抜けとはな。我ら尾張の兵と比べて軟弱過ぎるわ』

 

尾張の織田家の家紋が描かれた鎧を身に付けていたカゴの話によれば、尾張の国の守護代織田氏に仕えた下級武士。戦乱の日本において、主君織田家に仕えた家臣の一人らしい。

 

らしいというのも、日本の歴史に関して高校生程度の知識しかない俺にとって「久長様は我が主」というが、織田信長の後か先の時代の人物か分からないため、なんとなく戦国時代の人間であることは想像できた。

 

 

「一体、艦長は教官と何語で話しているんだ?」

 

「中国語じゃないのか?・・・・いや、日本語じゃない?」

 

 

アメリカでは日本語を喋る者は少なく、理解できる者は限られる。それこそ、出自が分からなければ中国語なのではと考えるほどに。

 

『カゴさんの時の兵士とは違って鉄砲を使うからね。あのパワーアーマーを着るのが普通さ』

 

『外人どもはいつもそればかりだ。昔、琉球から来た石火矢を見たことはあったが、ここまで改良されるとは・・・・拙者も歳を取ったものよ』

 

『石火矢ってあれか。「もののけ姫」じゃん』

 

『もののけ?!またあれか!エイリアンの来襲か!?』

 

『違う違う、英語でmovieだよ。足利将軍の時を舞台にした森の神と言語を喋る古の動物の森・・・的な?』

 

 

現代語と昔の日本語、決して交わらない言葉を交わせば、どちらにしても疑問や違和感を持つのは当然である。カゴは怪訝な顔をしつつもうなり声を挙げた。

 

『う~む、やはり子孫の日ノ本言葉は難しいのう』

 

『今度、NCRの日本人コミュニティーとコンタクト取るから、俺よりも未来の日本人に会わせるよ』

 

既に彼には俺が転生したことを話していて、意外にも彼は呑み込みが早く、茶化さずに信じてくれた。元々、「輪廻転生」の価値観は仏教で伝わっていて、彼の生きている時代には既に浸透していた思想だ。それが現代日本では好意的に受け止められ、異世界に転生して楽しく生きるという物語が作られた。かつての日本の昔話は現代の日本人のルーツを考えれば、考えることも同じだろう。助けた鶴が人間になって帰ってくる話やおにぎりを落とした先には人の言葉を話すネズミ。擬人化やディ○ニーの先を行く想像は何百年経っても変わらない。

 

そんな日本語の会話に困惑した新兵たちの内の一人は勇気を振り絞って声を掛けた。

 

「か、艦長、艦橋より至急来るようにとのご連絡です」

 

「艦長殿、急イデ行かれた方ガヨロシイのでは?」

 

まだ訛りのある英語は俺にとって親しみのある英語に聞こえる。英語は非常に簡単な言語で、複雑怪奇な日本語と比べたら表現が限定される。だから、英語で話している内容も日本語に翻訳するとき、敬語かタメの口調かは翻訳者に委ねられる。

 

俺は新兵に「その意気だぞ新兵」と声を掛け、カゴには剣術の指南をしてもらう約束を取り付けた。

 

 

左腕に時計のように取り付けた軍用PDAを見てみると、迂回と教官との会話により、艦橋に行く時間帯が大幅に遅れてしまっていた。失敗したなと思い、急いで艦橋へとつながるワープ装置へと急いだ。

 

 

廊下を小走りで歩き、通り過ぎる部下たちの敬礼に返礼で返し、急いで歩く。目的のワープ装置の傍には宇宙軍の制服を着た若い女性士官が怒りの表情で俺を見つめてくる。

 

 

 

 

 

「艦長!どこで油売っていたんですか?!もうこんな時間に!重役出勤ですか?そうなんですね?あのカゴっていうサムライと遊んでましたよね。分かりました、シャルロットさんに言いつけます。いえ、他にも誰でしたっけ?・・・ああ、アマタさんとスタウベルグ大佐でしたね。絶対に許しません。例え、火星からエイリアンの親戚が現れても許しませんから」

 

「お、落ち着け!ジェーン・ウリエル中尉!」

 

 

焦って彼女のフルネームで呼んでしまうが、彼女の怒りは収まらない。長い金髪を纏め、ラフヘアのようにふんわりとした髪型の彼女は怒っている割に人の感情にあるような本当の怒りには感じられない。

 

 

「分かってます。これは真似しただけですから問題ありません。」

 

「真似じゃなかったらちょっと心配してたけど・・・」

 

 

「もし怒っていたら、この船のコントロールを奪って太陽にでも沈めますよ」

 

「お願いシャレにならない!絶対にちゃんと仕事するから許してください!」

 

 

彼女が本気を出せば簡単にZETAは乗っ取られ、太陽か月面に体当たりを仕掛けてもおかしくない。今からでも宇宙軍の機密レベルの高い核ミサイル発射コードをハッキングすることも可能だろう。

 

彼女がどこまで本気か定かでないが、エンクレイヴが分裂してしまう契機を作り出した人物として考えると、彼女を本気で怒らせればタダでは済まない。

 

気が済んだのか、ためいきを吐いた彼女は俺のすぐ近くまで来て制服を整える。

 

「“ 砂漠の宝作戦”……今日が発動日です。気をつけてくださいね」

 

「分かってるよ……これに失敗すると色々とヤバイからな」

 

前世で知っていたアメリカ軍の作戦名に因んで名付けた作戦。案外好評であり、パクった本人からしてみれば申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

その作戦はモハビ砂漠でこれから起きる戦いにエンクレイヴが介入し、都合のよい結末へと進めていく。地域の安定化とNCRの瓦解を狙う作戦。エンクレイヴの存在は既に亡きものであると誤認している状況を利用し、NCRの深部にシンパを増やしている。アメリカ東海岸と北東部を領域とする新アメリカ合衆国。アリゾナを中心に支配領域を増やすシーザーリージョンとNCRはアメリカ大陸の中でも一二を争う一大勢力の一つ。リージョンは既に既存の文明を排除した勢力圏を築いているため、共存の余地はない。だが、NCRに至っては旧来のアメリカ合衆国の持つ民主主義と資本主義の源流をくみ取る国家であるため、共存は容易だ。

 

 

ワープ装置に立ち、装置を起動させるとまぶしい光と共に一瞬で艦橋のあるワープ装置に足を付けていた。それを下りると、ワープ装置が再び起動し、副官が現れる。

 

「では、行きましょう!艦長」

 

副官の先導と共に艦橋へ入っていく。

 

「艦長が戻られました!」

 

「総員、気を付け!」

 

「休んでいい、そのまま仕事を続けてくれ」

 

濃紺のエンクレイヴの軍服と比べて色が異なるそれは彼らが宇宙軍の兵士であり、元西海岸派閥に属していたことを表していた。

 

艦橋には各部署の責任者や舵手、砲術長などが控えており、エイリアンが使っていた装置ではなく、それを元に開発された人間用の操作パネルが設置されている。

 

「航海長、現在の位置と状況を」

 

「はっ!現在、我が船は月軌道上に位置しており、月の前哨基地への補給物資の運搬と地対空ミサイルを設置中。もうすぐ完了するかと」

 

「副艦長、私が居ない間に何かあったか?」

 

「特にないですな。海兵隊員と航空隊の間でひと悶着あった程度です。」

 

時計は既に0810時となっており、完全なる遅刻である。他の部署の要員は深夜帯に配置についていた者と朝勤務の者とが交代していた。完全に出遅れ、俺と交代する副艦長は老練な佐官だが、歳なのか目を擦っていて、とても申し訳なかった。

 

「遅くなってしまってすまない」

 

「いえ、構いませんよ。彼女の様子はどうでした?」

 

「元気そうだったよ。産休を取ってもらいたいところだが・・・」

 

「あの様子じゃダメでしょうな」

 

ゼータに限らず、エンクレイヴ全体で人材不足に陥っており、知識や才能のある者は多くの仕事が割り当てられる。長らく、高等教育機関が作られていなかったため、現在の新合衆国政府は人材の育成に苦心していた。定年を過ぎた技術者やシャルのような身重の女性も活躍を余儀なくされている。

 

「では艦長、暇を頂戴します」

 

「ああ、ゆっくり休んでくれ」

 

敬礼をし、副艦長は艦橋を後にする。俺は夜勤の報告書が挟まれたクリップボードをちらりと見つつ、艦橋から見える見慣れた光景に笑みを溢してしまう。

 

何重にも重ねられた放射線を遮断する強化ガラスらしき物質の向こう側に広がるほぼ無限に広がる宇宙。暗黒が広がり、星の光がそこら中に広がる中、目の前には地形がはっきりわかるほど接近した月面の姿があった。そこには、かつて月面計画で着陸したNASAの調査機があり、最近になって堕ちたエイリアンのUFOが転がっている。

 

 

ゼータより降下した基地建設用のドローンや建設資材、保安要員や各種兵器を投下して月面と地球防衛のための前哨基地を建設している。圧倒的な技術力を見せつけられ、彼等の援軍が来る可能性もあることから、早急な軍備増強が求められていた。

 

 

「エイリアンは来るかね~」

 

「どうでしょうね。映画みたいにグレードアップして来られたら大変ですけど」

 

副官は戦前のエイリアンの襲来から戦うアクション映画を思い出し、現職のオータムが独立記念日に演説して戦闘機に乗り込んで戦うと言い、艦橋で笑いが漏れる。

 

「艦長、物資の搬出作業完了しました。防衛要員も既に基地に配備完了です。」

 

航海長の報告によって、月軌道上にいる必要が無くなった。

 

「航海長、作戦空域へ移動しろ。陸戦隊とCIAへは作戦準備命令を伝達。」

 

「了解、各部隊に準備命令を伝達。」

 

「エンジン出力上昇、これより巡航速度に入ります。」

 

「ゼータ作戦室より護衛機各機へ。本艦はこれよりDT作戦上空へ移動する。哨戒厳と為せ」

 

(こちらPhantom leader了解した)

 

強化ガラスの向こう側には、ゼータを護衛する小型UFOが飛び回り、周辺宙域を哨戒する。カラーリングを宇宙戦に考慮してグレーに塗装し、星条旗と宇宙軍のマーク。そして、亡霊のトレードマークが描かれた戦闘機に分類される小型UFOが旋回した。

 

「目標、旧ネヴァダ州モハビ砂漠。」

 

「座標入力確認、作戦開始まで一時間を切りました。目標上空まで30分、各部署状態知らせ」

 

ゼータの機関室や医務室、武器弾薬庫、居住区、格納庫など状態が知らされる。

 

「各部署状態正常確認…艦長、艦内放送に切り替えます」

 

「ああ、マイクを」

 

当直士官から艦内放送用マイクを受け取り、トークボタンを押す。

 

 

「艦長より発する・・・・・ゼータはこれより、NCR軍、シーザーレギオン、Mr.ハウスの三つ巴の領域、旧ネヴァダ州モハビ砂漠上空へ到達する。既にCIA工作員の支援が行われている。NCRからは既に我々は亡き者とされ、組織的能力は失われていると思っているだろう。我々にとっては好都合だ。しかし、現地では作戦進行に際し、多くの困難が予想される。各員、引き締めて任務に掛かれ」

 

 

艦橋内の全員が緊張した面持ちとなるなか、口を開く。

 

「ついでに財布の紐を引き締めろ。ベガスで一ドルでも落とせば、月面でガラクタ拾いをさせるからそのつもりでいろ」

 

艦橋にどっと笑いが漏れ、他の部署でも同じような笑いが出ただろう。

 

「各員、重ねて気を引き締めてかかるように。」

 

 

マイクを当直士官に返すと、副官に促され、艦橋中心に位置する艦長専用の椅子に腰かけた。

 

 

「モハビ・ウェイストランドですか・・・・こっちよりも復興していればいいんですが・・」

 

副官のウリエル中尉は報告書でしか知らないモハビの実情を知っていたのか、クリップボードにはCIAの報告書があった。モハビはかつてのキャピタル・ウェイストランドとは違って、きれいな水が普通に流通し、地下水や淡水湖が複数存在する。食糧事情も良く、畑も存在することから、まだましだと考えたのだろう。

 

「いや、モハビは寧ろ派閥を考えないといけないから、こっちよりは難しい。」

 

「そうですか?生存率はこちらの方が20%近く高いですけど」

 

「数字の問題じゃないんだけど・・・・まあ仕方ないか」

 

 

 

人間のように考えることは出来ない。何故なら彼女(ジェーン・ウリエル)は人ではないから。

 

1と0で構成されたスーパーコンピューターで作られた、ZAXという次世代AIなのだから。

 

 

ゼータの乗組員や宇宙軍上層部も知らない事実。知っているのは新合衆国統合参謀本部の限られたメンバーのみ。エデン大統領のZAXコンピューターをフォーマットし、プログラムに人類への奉仕を義務付けした新たな人格。エイリアンのコンピューターの全てが解析された現在では、新合衆国軍のメインサーバーにテクノロジーが使われるほどであった。未だにバイオテクノロジー関連は技術研究が行われ、解析が進んでいない。人類を異形に変形させ、侵略の尖兵にしようと目論んでいた彼らの殆どは絶滅し、民間人として乗り込んでいた技術者と奴隷身分の労働者のみが捕虜という扱いでエドワーズ空軍基地の最重要機密区画で監禁されてる。

 

彼女が人類を裏切り、反旗を翻すことは億に一つ、京に一つと技術者は言っていた。

 

信用はしているが、信頼はしていない。

 

副官として非常に頼りになるのは事実だが、脳裏にエデンの顔が浮かんでしまうのはどうしようもなかった。

 

『人類は互いに殺し合っている。やがて私でなく、人間の誰かが再びウィルスや核を、それこそ生命が息絶えるまで破壊し続けるだろう。最早、君が止めなくとも誰かがやる』

 

『人は過ちを繰り返す』

 

 

彼女がエデンでないと分かっていても、奴の言葉を思い浮かべてしまう。彼女は人類にとって敵となるのか。それとも、人類の可能性を広げる天使(ウリエル)となりえるか。

 

 

 

「艦長、西海岸に到着しました。・・・・見てください、NCR領の首都は明るいですね」

 

 

まだ西海岸は夜中であり、復興を成し遂げたNCRの首都や他の各都市は街の明かりによって、上空からでも煌々と光り輝いている。

 

いずれ、ワシントンD.C.も明るくなるだろう。この光はあと何年たてばアメリカ中に広がるのか。

 

「『人は過ちを繰り返す』・・・・・だが、これ以上の失敗はない」

 

嘗て緑の多い地球は200年前の大戦争を経て不毛の大地となり果てた。だが、核の炎から逃れた木々は確かに存在し、ゆっくりと地球は形を変えつつも再生している。

 

 

人類も変わらねばならない。過ちを糧とし、二度と己をも滅ぼさない災厄を引き起こさないように。

 

 

モハビ上空に到達し、当直士官が報告を行う。左手のPDAには作戦開始時刻が表示され、開始時間を告げた。当直士官は艦内放送を行い、作戦開始を合図する。

 

 

 

 

 

 

「作戦開始5秒前・・・・4・・3・・・・・作戦開始!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued………………fallout newvegas

 

 

 

 

 

 

 




これにて本篇は終了となります。長い間ありがとうございましたー


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