fallout とある一人の転生者   作:文月蛇

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六話 テスト

五年後・・・・

 

「ユウキ!起きなさい!」

 

軽くヒステリックな声が聴こえてくる。ああ、あの叔母さんか。継母と呼んだら怒られたし、叔母だったらいいらしい。俺は軽く睡眠不足であった。理由は戦前の小説を読んでいたのだが、内容は追々話すとしよう。

 

今はもう寝たい。

 

「あともう少し・・・50分」

 

俺は某第二次大戦を題材にしたパンツ丸出しで兵器を操るヒロインの一人を思い浮かべながら、口を開く。確かエーリカ・ハル●マンだっけ。ドイツのエースパイロットを参考にしたやつだったか。それにしても、この頃と言えばいいのか。前世の記憶がだんだんと薄れていく感じがする。短期記憶が長期記憶に変換され、その長期記憶がどんどん薄れているのだ。実際、それはあまり必要のないものだ。前世では好きだったアニメでも、今思い出そうとしても、だいたいのシナリオは思い出せるが、敵役の名前やヒロイン、挙げ句の果てに主人公の名前まで思い出せないこともある。

 

まあ、どっちにしても必要のない記憶。俺はさっさと二度寝を・・・。

 

 

と、寝ようとするが、それに痺れを切らしたヒステリック声の主は俺の布団をひっぺがした。

 

「起きなさい!今日は大事なテストでしょう!」

 

そう、今日は大切な職業適正試験G.O.A.T.(Generalized Occupational Aptitude Test)。名前の通り、イメージキャラは山羊だが、試験は支離滅裂な質問による職業審査だ。どういう判断基準なのか未だに分からない。正直言って可笑しいとしか言いようがない。性格のネジ曲がったハノン警備長に金(この場合は配給券)にがめついオフィサーケンダル。父はまともというより、むしろ警察官とかの仕事に向いている性格だ。出来れば俺もそう言う仕事につきたい。

 

俺はまだ、14歳であるけども、小さい学級で同年代の子供が居なければ、一つ歳上の生徒共に授業を受けたりすることもある。今日は一つ繰り上げでG.O.A.T.に臨むわけだ。

 

「あ!やっべ!」

 

ベットから飛び起き、椅子に掛けてあったジャンプスーツを着た。家の扉を開き、近くの水場で顔を洗う。急いで家に戻ると、兄貴のフレディと父、そして継母・・・ではなくペッパー叔母さんが既に食卓に着いていた。皿に乗せられていたシュガーボムを食べ、食物生成機で作られた合成麦パンを食べた。天然の麦で作られたパンを前世で食べたことがあるため、はっきり言って美味しくない。例えるならば、ゴムを噛んでいるような物だ。皿には合成の牛乳をシュガーボムの皿に浸している。この世界で言うコーンフレークだが、パンよりまし。テストが近いため、急いで食べた。

 

「兄さん、あんまりブッチとつるまないでくれよ」

 

「え、いいじゃないか。それよりもこの革ジャンかっこいいだろ」

 

フレディはギャングの「トンネルスネーク」の構成員で落書きをしたりして、警備を困らせている。兄貴はたびたびしょっぴかれていくので、父もいつも溜め息ばかりついている。兄貴がグレたのにも、理由がある。それは・・・。

 

「アマタにフラれたからって、どうしてそんなにぐれるのかね~?」

 

「五月蝿ぇ!お前に俺の気持ちなんか分かるか!」

 

とフレディ兄貴はテーブルに伏せて呻き声を挙げた。

 

元々、真面目で通していたフレディ兄貴であったが、ある日を境にぐれてしまった。それは初恋の相手に「キモい」と評されたことでカルマがちょっとだけ悪の方へ傾いてしまったようだ。

 

まあ、若い内ならよくあることだし、俺の前世の時みたいに厨二病の気にならなくて良かったと思っている。父は苦笑いし、叔母さんは頬をひきつらせている。まあ、グレた理由が失恋とは、初めて知った親はそんな顔をするのだろう。

 

pip-boyの時計を見ると、そろそろ時間である。

 

「兄さん、ほら試験」

 

「うぅ~・・・なんでジェームズ先生は整形外科医じゃないんだ!」

 

いや、あの人。本業は医者じゃないし・・・・。そんなこと言えずに、項垂れた兄貴を引っ張り、家の扉を開いた。

 

「じゃあ、言ってきます」

 

俺と兄貴は二人で教室を目指す。

 

歩いていると、ダークブラウンをショートヘアにしたシャルがこちらに歩いてきた。4年前とは違い、大人の階段を登り始めた今日この時。スタイルも女性らしくなってきたシャルはより一層美人に見えた。だが、その顔は少し不安げな表情だ。

 

「シャル、おはよう。どうしたの?不安?」

 

幼馴染みとも言える彼女の気持ちは手に取るように分かる。あまり喋らない彼女だが、長年一緒にいたので表情から気持ちを垣間見るのは簡単だった。

 

「うん」

 

「やっぱ、医者になりたいんだ」

 

「うん」

 

シャルは父のように医者になりたいと思っていた。俺は余り喋らない医者もどうかと思うのだが、父譲りの頭脳明晰なため、あまり不安には思わない。どちらかといえば、試験自体がおかしいのだ。

 

「風邪引いたと嘘ついたら簡単にバレた」

 

要は試験から逃げようとしたのか。シャルは以外と子供っぽいところがある。男子からは以外と評判はいいが、何故かバリアみたいに近づかない。何かあるのだろうか?

 

「コイツは母ちゃんに叩き起こされたんだ」

 

兄貴は俺に指差し、笑う。さっきの項垂れていたのはどこに行った。

 

「とは言うけど、昨日の夜に父さんからこっぴどく怒られなかった?」

 

「え?何のことかな?」

 

額から冷や汗を垂らすフレディ。すべてお見通しだ!(ト○ックのヒロインの声で)

 

「父さんのウイスキーを勝手に飲んでいたじゃん。ハノン警備長から報告を受けたって父さん、カンカンだったじゃん」

 

「ど、どうしてそれを」

 

答えは簡単だ。その時起きていたし、隣の部屋まで丸聞こえだ。

 

「自業自得」

 

シャルは冷淡にそれを言い放ち、フレディから物を割ったような音がする。いや、俺は何も聞こえなかった。美少女から冷淡に突き放された一言は辛かろう。俺は肩を叩き励ました。

 

そんな感じで話ながら歩いていくと、不良に絡まれたアマタとその不良のリーダー、ブッチとその取り巻きがいた。

 

「ちょっと、離してよ」

 

「いいじゃねえかよ、ちょっと付き合えって」

 

典型的な不良だ。俺の選択肢は色々あるが、まあ一つしかないだろう。

 

「ブッチ、何してんの」

 

俺は普通に声を掛ける。すると、やはり不良のようにブッチは眉間に皺を寄せて此方を睨む。

 

「あん?ああフレディなにやってんだ。弟が邪魔だ向こうに連れてけ」

 

どうやら、俺は見ていない。正直言って面倒だから早く終わらせよう。

 

「なあ、ブッチ。アマタを離してくんない?」

 

「五月蝿えな!生意気なんだよ!優等生ぶりやがって」

 

ブッチは俺の胸元を掴み、顔を近付けた。俺は腹を決めてこう言い放った。

 

「口が臭えぞ、くそ野郎」

 

「あ?」

 

ブッチが拳を握りしめ、俺の頬を殴ろうとした瞬間、俺は膝を思いっきり上げて、ブッチの股間を蹴飛ばした。

 

「ぎゃ!」

 

喉元から変な声を出すと共に床に崩れるブッチ。それを見た取り巻きのポールは殴り掛かる。

 

「この野郎!」

 

拳を反らし、コンクリート製の壁に当てさせ、ポキリと骨が折れた。苦痛のために呻き声を挙げるポールを尻目に顎にアッパーを食らわせた。瞬時にブッチとポールをノックアウトする。しかし、その背後にはバットを持った取り巻きのウォーリーがいるのを忘れていた。

 

「死ねぇ!」

 

俺の背中目掛けて襲いかかるウォーリー、避けようとするがバットが当たるのは避けられない。腕で受け止めようとしたその時だった。

 

「げふっ!」

 

いつのまにか、シャルはウォーリーの背後に周り、首を羽織攻めにしていた。バットを落とし、苦しいと暴れるウォーリー。シャルは手加減しながらもウォーリーを絞め落とした。

 

「・・・殺してないよな?」

 

「大丈夫、失神しているだけ」

 

ウォーリーの脈を触り、生きていることを確認したシャル。医者の娘って凄いね。いや、もとからか?

 

「ありがとう、助かったわ!」

 

アマタは俺をハグして、感謝の意味を込めて頬にキスをする。助けて良かった!アマタはハグし終えると、ブッチたちを見下ろした。

 

「はぁ~・・・なんで監督官の娘だからってこんなちょっかい出すのかしら?」

 

「そういうお年頃なんだよ」

 

アマタにそう言うと、クスっと笑い、試験会場である教室に入った。

 

「ほら二人とも行こう」

 

「ユウキ、待て。ブッチ達は?」

 

兄貴は一応仲間であるブッチに気を使う。でも兄貴、さっきのブッチの言動見る限り、あんたパシられてるだろ?

 

「いいよ、ほっとけば」

 

俺は教室に入り、先生のMr.ブロッチに挨拶する。

 

「おはよう御座います、ブロッチ先生」

 

「おはようユウキ、だいぶ廊下を散らかしたね?」

 

先生は腕を組み、俺を見た。

 

「粗大ゴミの片付けです。アマタにチョッカイだしてきたので解体してました」

 

教室にいた同級生達はプッ!と吹き出し笑う。案外、これが初めてでもない。ブッチ達が落書きをしている時、警備が来たので逃げようとしたらワイヤーに引っ掛かり、しっかりと留置場で過ごした。そのワイヤーが誰がやったか知ることはないだろうが、シャルとほんの“悪ふざけ”で行った。

 

「はぁ~・・・・。学生時代に喧嘩もいいことだが、あまり暴れすぎるのも良くない。殴らないで事なきを得るのも重要だ。いいね?」

 

ブロッチ先生は俺に問い掛ける。

 

「はい、出来る限りそうします」

 

「よし、じゃああとで血の跡を綺麗に掃除だ。いいね?」

 

俺は渋々了承し、空いている席へ座った。

 

後ろから来たシャルも俺の後ろへ座る。

 

「なあ、シャル?」

 

「ふん」

 

とシャルは膨れっ面のちょっと手前。やや、頬が膨れた感じで顔を反らした。

 

「怒ってる?」

 

多分、アマタが俺に抱きつき、キスの雨を降らせたことに嫉妬しているのだろう。

 

「なあ、」

 

「ふん」

 

ご機嫌ななめのようだ。かくなる上は・・・・。

 

「じゃあ、後で冷えたnuka-cola奢ってあげるよ」

 

そう言った瞬間、シャルの目が輝く。しかし、顔は反らしたままだ。

 

「それとパルマーおばあちゃんからロールケーキを貰ってこよう。美味しいんだよな、あのホイップクリームとふわふわとしたバニラ風味のスポンジとか・・・」

 

合成の小麦粉と牛乳や砂糖でよくあそこまで美味しいものが出来るのか分からない。しかし、俺はこの制限された世界では一番美味しいものだと言える。

 

「ほ、本当?」

 

シャルは顔を背けないで俺の目を見て聞く。

 

「ああ、あとで食べに行こう」

 

そう言うと、シャルはニコニコと微笑み、まだかなと独り言を言いながらテスト用紙が配られるのを待った。

 

数分してから、テスト用紙が配られ、試験が始まった。テストの問題は意味不明の物が多いものや科学的知識を問う問題や正義的な行動、更には道徳的な質問などが含まれていた。だが、一番変なのが最後の問題だった。全ての選択肢が監督官とされ、洗脳教育と評されることも吝かではない。俺は全ての問題を解いて、先生に提出し、先生が丸つけをしていく。と言っても、適正な職を選ぶので丸や罰は無いのだが・・・。

 

 

「おめでとう、警備部門の責任者。しかも、重火器を専門に取り扱う部署だ。君には天職だね」

 

神様、今日と言う日を忘れません。俺は精一杯この仕事をがんばります!!

 

俺は上機嫌で適正審査の紙を持って席につく。すると、アマタも通知の紙を貰ったのか、上機嫌だ。

 

 

「見て、監督官育成コースだって!やったわ!やりたかったのよ」

 

幸せそうに語るアマタ。そして、後ろにいたシャルも通知を持ってやって来た。

 

「どうだった?」

 

俺はシャルに聞いた。すると、震えた手で通知を渡す。そこには、シャルがやりたがっていた職業。外科医育成コースの文字があった。

 

「やったじゃないか!よかったね」

 

俺は言うと、いきなりシャルが俺の胸に飛び込んできた。体格的に俺の身長は平均的だ。しかし、今のシャルの身長は俺のちょうど肩当たりに頭が来る感じである。

「シャ、シャル?」

 

「・・・くすん・・・ひっく・・・」

 

鼻を啜る音としゃっくりを挙げる声。どうやら感激のあまり泣いてしまったようだ。俺は落ち着かせるように、背中をポンポンと叩く。

 

「よし、よし。大丈夫。もう終わったから」

 

小柄な小さい体躯のシャルの背中を撫でながら、落ち着かせる俺。なんかもう、一生の内の運を使いまくりだね。少ない内の運が。そして、俺達は満面の笑みで帰ろうとしていると、唖然とした顔で近付いてくる一人の男の姿があった。

 

「に、兄さんどうしたの?」

 

兄貴の表情に驚きつつも、質問した。

 

 

すると、兄貴フレディは震えながら口を開いた。

 

「せ、聖職者の育成コース・・・・受かっちゃった・・・・。」

 

「「「え?」」」

 

この時誰もがその審査結果に驚き、vaultの人々全員がこう言う声を挙げたのだった。

 

 

 

 

 

 




実際の所、フレディー・ゴメスは母譲りなためか、原作では性格がひん曲がっている。ちょっとしたキャラ崩壊ですが、まあいっか。

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