どうぞ。
「ソレデドウスル?ウィールドンケ、トウシュドノ」
燕が、否、その向こうで話すミハエルに語り掛ける。
この同盟を結ぶのか、どうかと。
「ふむ……そうだな……」
顎に手を当て、少々考えるミハエル。
この同盟を受けることでのメリット・デメリットを考えてるのだろう。
十数秒考え、口を開く。
「その申し出を断らせてもらおう」
「ホウ?コトワルノカ?」
「ああ、その通りだ」
ミハエルの選択は、同盟を結ばない事だった。
同盟を結ぶことで有利に事を運ぶことが定石とも言える『聖杯戦争』において、その選択は自身の首を絞めるようなもの。
しかし、それでも彼は断った。
「私には貴様たちと手を組まなくても、勝ち抜けるだけの自信も能力もある。何より、同盟なぞ組んで後ろから刺されても嫌だからな。この話は断らせてもらおう」
「フム、ソウカ。ザンネンダ、トハイッテオコウ。デハ、ワタシハコレデタチサルトシヨウ」
燕がそう言うと、その翼を広げて窓から滑る様に飛び立つ。
そのまま森の木々の上を滑空し、久我の屋敷へ向け飛んでいく。
「……さて、そういうことだキャスター。より屋敷の防御を固めた方が良いだろうな」
「大層な事を言う割には、弱気じゃなマスター?」
「客観的にそうした方が良いという判断をしただけだ」
からかうような口ぶりのキャスターに対し、切り捨てるように言うミハエル。
「それでは、取り掛かるとしようか」
「そうしようかの、マスター殿」
二人の魔術師が、屋敷の暗がりの中へ消えていく。
『
ウジュル
その背後で、森が一度だけ蠢いた。
「……さて、セイバー。次はどうするんだ」
「ああ?なんだマスター?敵を見つけて、ぶっ飛ばすに決まってんだろうが」
「いや、そうではなくな……」
キャスター陣営が慶顕より同盟を持ちかけられてから、数時間後。
ランサーと戦った後、体を休めるために拠点であるアインツベルンの屋敷、その地下工房でセイバー陣営の二人は今後の作戦会議をしていた。
「今回はランサーと交戦したが、お互いに実力は見せなかった。『宝具』を見せる事もなかったからな」
「ああ、確かにな。おかげでお互いに戦い方くらいしか分からなかったな」
本来であれば戦い方だけでも分かれば充分なのだが、これは『聖杯戦争』。
どれだけ有利に状況を進めていても、たった一度の『宝具』により覆される事もある。
例えば、複数の命を持ち暴威を振るう大英雄であっても、たった一度の『宝具』によって敗北することもある。
それが『サーヴァント』を使役して戦う、『聖杯戦争』なのだ。
「奴の『宝具』……実際想像することもできないな……」
「『宝具』は千差万別だからなぁ……」
『宝具』はそれぞれの英霊の逸話の具現。
それ故に同じ種類の形をしている武器であっても、解放した時の能力は全く異なる。
だからこそ、想像ができない。
逆に言えば、想像できればそのサーヴァントの正体を掴むことも可能なのだが。
「いや、待て。何も敵の正体を知る必要も、『宝具』を知る必要もない。その前に勝ってしまえばいいだけだ」
「それだと俺が面白くねぇだろ」
「……我々の目的は『聖杯』の獲得だということを忘れていないか?」
頭が痛い、とでも言うようにこめかみに手を当てて顔を
それもそうだろう。
彼にとっては『聖杯』を獲得し、アインツベルンに持ち帰ることこそが全て。
そのために生まれ、生きているのだから。
その過程になど、全くもって興味はない。
「余裕がねえなぁ、おい。そんなんじゃ気疲れしちまうぞ。いいか、マスター!人生ってのは楽しんだ者勝ちなんだぜ!!もっと楽しめ楽しめ!!ガハハハハハッッ!!」
「その必要はない……」
大口を開けて笑うセイバーと、それに疲れ果て、ドサッとソファに埋もれるように腰掛けるシルバスタクハイト。
シルバスタクハイトとしては、何故こんな扱いづらい英霊を召喚してしまったのかという思いがあるが、それでもセイバーが強いことには間違いはない。
その事に疑いはないのだ。
「……とりあえず、当面はランサーを狙う…と言いたいところではあるが、それよりもキャスターを優先するべきだと私は思う」
「ああ?……ふむ、理にはかなっているな。キャスターは時間を与えれば与えるほど倒すのが難しくなる。なら、早い内に叩くべきか」
キャスターの最大の特徴として、拠点の要塞化である工房の作成及び強化。
これはもちろん、時間をかければかけるほどより強固に、より堅牢になっていく。
そうなればキャスターを倒すことは加速度的に難しくなってしまう。
そうなる前に、倒さなければいけない。
「となればマスターよ、次の相手は決まりだな」
「ああ、すぐにでもキャスターの拠点の場所を探るぞ。恐らくは魔力を隠すよう偽装もしているだろうから、それらしき場所を虱潰しだ」
こうしてセイバー陣営の次なる標的が決まった。
目指すは、キャスター陣営。
「……俺の母親は、親父の前妻が死んだ後に新興の魔術師の家が家格を上げるために、俺の実家と親戚関係を結ぶために差し出した女だった」
与えられた自室。
そのベッドに寝転がり天井を見上げながら、アラスターはポツポツと語る。
それをアサシンは椅子に座り、黙って聞いていた。
「クソ兄貴は前妻の子でな、初めての弟だった俺を
今、アラスターが見ているものは天井。
しかし、見つめているものは違うのだろう。
「その内魔力の量のせいで親父が教えられる魔術も頭打ちでな。そしたらそれまでバカみてえに喜んで教えてた親父も、俺を罵倒し始めた。…………『三流以下の血が混じった出来損ない』ってな……。このデコの傷もそん時に付けられたもんだ。後はもう俺も悲しいやら悔しいやらでブチ切れてな。時計塔に入学したのと同時に縁切りだよ。………その頃には母親も、親父の虐待が原因で死んでたしな」
「……アラン」
「おかげで教授に拾ってもらえたが、ハハ……、いつか殺してやりてえと思ってたら、まさか本当に殺せる時が来るとは思ってなかったよ」
望みが叶ったと言う割には、自嘲しているような響きを孕んだアラスターの声。
そんなアラスターの手を、アサシンは優しく握った。
「……アラン、わたくしはサーヴァントとしては余りにも非力です。むしろ無力とさえ言えますわ。ですが、アラン……。わたくしが貴方様を支えます。一人のサーヴァントとして」
「レーティア……?」
「ですから、貴方様自身を過去のせいで苦しめないでください。……わたくしも、苦しいですから」
握った手を胸元に寄せ、真摯に語るアサシン。
それに対してアラスターは目を瞑り、口の端を歪めるだけで笑う。
「……ああ。ありがとう、レーティア」
「大丈夫ですわ……。アラン…、貴方様はとても苦しんで、とても頑張った人なのですから………」
アサシンがベッドに横になり、アラスターをそっと抱きしめる。
それにされるがままになりながら、彼は一度だけ瞼を開け、再び閉じた。
「……ありがとう、あと………おやすみ」
「ええ……おやすみなさい、アラン」
その数分後。
部屋の中を満たすものは二人分の寝息の音だけとなった。
「……忘れていた、教会に行ってねぇ」
「おや、マスターかね?」
「一つ頼みがあるのだが、聞いてくれるかね?」
次回、『Fate/Sickness』。
「December 23 10:15:43」