Fate/Sickness   作:逸環

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第12話です。
どうぞ。


December 23 10:15:43 【教会】

夢を見ていた。

一人の女の、生涯の夢を。

 

女は美しかった。

眩い金色(こんじき)の髪に、整った目鼻。

人目を引きつけ離さない、魅惑的な肢体。

 

まるで神の祝福を一身に受けたのであろうその美貌は、彼女に受難を与え続けた。

父と兄の望むまま結婚し、そして夫を毒で殺した。

愛はなかった。

ただの政略結婚だったのだから。

しかし、愛そうとはしていた。

夫なのだから。

それでも、その細く長い手で、毒を盛った。

父と兄が、そう望んだから。

愛そうとした男が、目の前で喉を抑え、血を吐き苦しみながら死んでいくのを彼女は、

 

「……………ごめんなさい……」

 

涙を湛え、消え入りそうな声で三人の男達を見送った。

 

 

 

 

夢を見たとき特有のぼやけた頭を抱えながら、アラスターが目を覚まし体を起こす。

その傍らには、アサシンがまだ眠っていた。

 

「……今のは…そうか。今のが例の………」

 

ぼんやりとした思考の中で、『聖杯戦争』について師に何度もせがんで聞いた話を思い出す。

 

「……教授はかの王の夢想(ゆめ)をその夢に見たって言ってたが………今のはレーティアの人生……か」

 

師を慕い、師に憧れ、子供の頃に何度も何度もせがんだ『聖杯戦争』の話。

その中の一つとして、この夢の話があった。

後から『聖杯戦争』について記述された文献を読んだ際、【マスターとサーヴァントは霊的な繋がりがある為、睡眠時に相手の記憶層に迷い込み、お互いの過去の記憶を夢として見る場合がある】と書かれていた。

今のがその現象か。などと納得していると、おもむろにアサシンがみじろきし、目を覚ます。

 

「………ふぁ……」

 

寝ぼけ眼で伸びをしながら、小さく欠伸をするアサシン。

それをぼけーっとした目で見ているアラスターだが、その視線に気づいたところで慌てたようにアサシンが、

 

「…あっ!わ、わたくしとしたら……!すいません!こんなはしたない姿を……!」

 

と、顔を赤くして言った。

 

「いや、別に俺は構わねえけどな。……グレイと一緒に教授を起しに行った時は酷かった…………」

 

慌てるアサシンに対して、どこか遠い目で自分の師の残念なエピソードを思い出すアラスター。

彼の目に映るのは恥ずかしがるアサシンではなく、深夜までゲームをし寝不足の状態で起こされた故に、尋常ではなく不機嫌な師の悪辣な死徒の様な形相の師だった。

 

「よし、あれは忘れよう。それよりあれだ、可愛かったから気にすることはねえぜ?」

 

「も、もう!アラン!!」

 

ケラケラとからかう様に笑うアラスターに、顔を真っ赤にして怒るアサシン。

良くも悪くも、良いコンビに見える。

朝からそうしてじゃれていると、ふと、アラスターがあることに気付いた。

 

「……いけねえ、忘れてた。教会に行かねえと」

 

 

 

富士野市の中で有名な、長く緩やかな坂道を上った先にある石造りの建築物。

ステンドグラスの輝きが眩いそここそが、この富士野市唯一の教会。

 

「ここだな」

 

その礼拝堂の門の前に、普段着を着たアサシン陣営の二人は立っていた。

ふと、アラスターが咥えていた煙草の火を踏み消そうとして思い留まる。

ジーンズから吊るされていた携帯灰皿を取り出し、その中で火を揉み消した。

 

「……なにやら、凄まじい魔力を感じますわね」

 

礼拝堂、その奥から感じられる莫大な魔力を感じ、思わず喉を鳴らすアサシン。

その言葉に対し、アラスターが知っていることを話す。

 

「元々この土地は日本最大の霊地である富士山へ繋がっている、デカイ霊脈の真上に建ってるらしいからな。……とは言え、今回に限ってはそれだけじゃねえってことらしいが」

 

「それだけじゃ……ない……?」

 

「まあ、なんだ。まずは入ろうや」

 

小首を傾げ疑問を露わにするアサシンを促し、重厚な木製の扉を開け礼拝堂の中へと入る。

そこには、一人の男が既にいた。

 

「おや、マスターかね?もしやサーヴァントを失い、保護して欲しいのか?」

 

「ちげえよ、見ろ。俺のサーヴァントならこいつだよ」

 

礼拝堂の神の子の像の前で佇んでいた、カソックを着た金髪の男の言葉に、アラスターが返す。

 

「ああ、失礼。普通の服装すぎて、判断しかねてしまった。………ああ、そうだ。『富士野教会』へようこそ、『聖杯』を求めし参加者よ。私はこの『聖杯戦争』の監督役として『聖堂教会』より派遣された、『ヴェールヴァ・プルクラ』だ」

 

「魔術協会『時計塔』、『現代魔術学科』出身の『アラスター・ウィールドン』だ」

 

「サーヴァント、レーティアです」

 

ヴェールヴァが礼をし、アラスターが胸に手を当て、アサシンがスカートの裾を摘み、それぞれがそれぞれに挨拶を交わす。

 

「ふむ、礼に適った挨拶を感謝しよう。魔術師たちの中には、我々教会の者に対して礼を払う必要はないと考える者が多いものでね」

 

「ああ、そりゃそうだろうな」

 

魔術師たちの集団である『魔術協会』と、神の神秘の代行者である『聖堂教会』はかつてより抗争を続けており、休戦状態である現在においても、何かと理由をつけては裏で秘密裏に殺し合いが行われているほどだ。

それ故に魔術師たちは、基本的には教会の関係者に対し敵対心を持っているものが少なくはない。

勿論、それとは逆に教会と懇意にしている魔術師も中にはいるのだが。

 

では、その『聖堂教会』の関係者がなぜ、魔術師たちの戦争である『聖杯戦争』の監督役となっているのか。

それは大きく二つの理由がある。

まず一つに、魔術師たちに対する公平性を持った人物・組織でなければいけない為。

そしてもう一つに、これが『聖杯戦争』であるためだ。

神の子の血を注がれた真の『聖杯』。それを『聖堂教会』は探し続けている。

勿論、全ての『聖杯戦争』における『聖杯』とは、魔術の儀式によって造り出された名前だけは同じ、真の『聖杯』とは全く異なる代物。

しかしそれが『聖杯』と名の付く物であるならば、それを彼らは例え子供たちの噂話の中のものでも調査し、回収する。

真の『聖杯』ではないと分かっていても、『聖堂教会』としてはこれに目を光らせていなければいけないのだ。

 

なお、『聖杯戦争』における一般人への被害や建造物破損などの後処理も『聖堂教会』の仕事に当たる。

その費用は『冬木の聖杯戦争』においてはアインツベルンが支払っていたが、今回の『富士野の聖杯戦争』においては教会の支払いとなっている。

何故ならば、

 

「さて、これでマスターとして参加表明は良いだろうが……。とりあえず『聖杯』、見せてくんねえ?」

 

『聖杯戦争』の最終目標である『聖杯』を、『聖堂教会』が管理しているからだ。

 

 

 

「此度の『聖杯戦争』は、これまで各地で行われてきた『聖杯戦争』とは少々趣が異なるのは知っているな」

 

「ああ、お偉方の会議を、結界をハッキングして聞いたからな」

 

礼拝堂の隠し扉から地下へ延びる、薄暗い階段をヴェールヴァとアサシン陣営が下っていく。

一段一段下る度に、より感じられる魔力は濃密なものとなっているのが感じられていた。

 

「ならば話は早い。単刀直入に言えば、この『富士野の聖杯戦争』は基本的には我々『聖堂教会(・・・・)が主催者(・・・・)と言える『聖杯戦争』だ」

 

「だからこそ、儀式の根幹である『大聖杯』も、『小聖杯』もここ(・・)にあるわけだ」

 

「その通りだ」

 

彼らの話しは、まさにこの『聖杯戦争』が異例中の異例として行われていることを示している。

前述したとおり、そもそも『聖杯戦争』は魔術師たちの儀式だ。

しかし、今回は違う。

魔術師たちが主催し、魔術師たちが繰り広げてきた『聖杯戦争』が、『聖堂教会』の手で行われているという、異例中の異例。

 

「『第三次聖杯戦争』より、各地で幾度も『亜種聖杯戦争』が勃発したが、その度に教会は多大な労苦を負担してきた。そこで我々は……というより20年前の先人たちは考えたのだ。曰く、【魔術師たち主導で行うから必要以上の負担がかかる。どうせ放っておけば魔術師たちが勝手に開催するのであれば、最初から自分たちで主催・管理すれば負担も軽減されるのではないか】とな。今回の『聖杯戦争』は、その第一回目。つまりはテストケースだ。……もちろん、開催する以上用意された術式は正真正銘本物だがな」

 

「なるほど、会議じゃあそんなことには触れてなかったからな。理由が知れてありがたい」

 

「喜んでもらえて何よりだ。……さあ、この扉の向こうだ。確認したまえ」

 

長い話が終わったところで丁度階段を下りきり、石造りの扉が目の前に現れる。

大きさとしては、人一人が普通に通ることはできる程度か。

その扉の窪みにヴェールヴァが指を差し入れると、それで結界の術式が認証したのか鍵が外れるような音とともに、扉が動き出す。

扉が開き生まれた空間の先へと手を伸ばし、二人を促すヴェールヴァ。

 

ごくり、と空間の向こうから溢れ出る濃密な魔力に喉を鳴らしながら、二人は足を踏み入れる。

 

「これが……」

 

 

そこは巨大な魔術陣が広がり、その中央に黄金の杯が安置されていた。

 

 

 

『聖杯』を確認してすぐに礼拝堂に戻った三人は、外へ出るための扉の前にいた。

アラスター達アサシン陣営からすれば、ここに長居をし続ければそれだけ他の陣営から存在を見つけられ、後をつけられてしまうリスクが高まる。

基本的に中立地である教会にまで使い魔を飛ばしたりする者はいないが、用心するに越したことはない。

教会から立ち去ろうとする二人に、ヴェールヴァが思い出したように声をかけた。

 

「ああ、そうだ。君たちに頼みたいことがあるのだが、いいかね?」

 

「頼みたいこと……ですか?」

 

「そう、頼みたいことだ」

 

ヴェールヴァが言葉を続け、その頼みたいこと(・・・・・・)を告げる。

 

 

 

「今現在富士野市を覆う、この『呪い』を解決してもらいたい」

 

 

 

 

 




「これは監督役としての依頼だ」

「なるほどなぁ」

「おや、君たちは……なるほど」


次回、『Fate/Sickness』。
「December 23 12:19:20」
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