Fate/Sickness   作:逸環

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第13話です。
どうぞ。


December 23 12:19:20 【移動】

「この町は現在、サーヴァントのものと思われる『呪い』によって、病魔に蝕まれている。君たちにも分かるだろう?」

 

「ああ、確かにな」

 

教会の礼拝堂。

そのすぐ前でアラスターが煙草を咥え、煙草の赤い箱をヴェールヴァに吸うかと差し出すが手で制され、そのまま会話が続けられる。

 

「この病魔が発生してから今日で4日になるが、死者が既に出始めている。おそらく、一般からの調査隊が派遣されるのも時間の問題だろう。このままでは神秘の秘匿という観点からも、さらには『聖杯戦争』の持続という観点からも危険が生じてしまう。我々としてもそれは避けたいのだが、如何せんサーヴァントにはサーヴァントで対抗しなくてはいけない」

 

「ああ、なるほど。教会にはサーヴァントがいないのか。だから、都合良く来た俺たちというわけか」

 

「その通りだ。もちろん、見返りは用意しよう。教会が握っている、他陣営の拠点の情報などはどうかね?」

 

その言葉が発せられた瞬間、アラスターの眉間に皺が寄り、声に険しいものが出る。

咥えた煙草のフィルターが噛み潰され、ヴェールヴァを睨みつけ返答する。

 

「それで良い。……どうせ、俺とクソ兄貴とのことは知ってるんだろ?」

 

「それについては『ミハエル・ウィールドン』が参加を表明した際に、身辺調査をして知ったさ。だからこそ(・・・・・)、他陣営の拠点の情報というわけだ」

 

あからさまに機嫌が悪くなるアラスターをニヤニヤと見ながら、一枚の折りたたまれた紙を差し出すヴェールヴァ。

アラスターがその紙を受け取り広げると、そこには町はずれの倉庫街にある、一つの廃倉庫までの地図が描かれていた。

 

「それは下手人であろうマスターの、潜伏先への地図だ。全てのマスターたち……、正確には候補の時点でだが、この『富士野市』へ立ち入ってから我々教会の監視が付いていた。……もちろん君にもね」

 

「……そうかい」

 

兄との事を見透かされていた事に加え、自分に監視がついていた事に気付けなかった事。

高まる苛立ちを感じながら、噛み潰された煙草を地面に投げ捨て火を踏み消す。

 

「派遣した部下たちからの報告によると、この倉庫に一人のマスター候補が立ち入り、それ以後出てきていないそうだ。そして、そのマスターがサーヴァントを召喚したであろう魔力が観測された時間と、『霊器盤』にそのサーヴァントが召喚されたことが確認されたタイミング。さらにはその直後に『呪い』の発生が確認されたことを考えると、十中八九はそこだろう」

 

「……で、そのマスターは誰だ?張ってたんなら分かってんだろ?」

 

「『ミケルガ・ジン・ゲルトハルト』だ」

 

「ああ、ゲルトハルトのあれか……。二、三度会ったことはあるな」

 

ズボンのポケットから煙草の箱を取り出し、新しく一本取りだして咥える。

思い出すような目をしながら、愛用のライターで火を点けた。

 

「あれは確か使役魔術の使い手だろ?魔術回路こそ俺と同じでゴミだったはずだが」

 

「ああ、その通りだ」

 

数少ない会話と、彼に対する評判を思い出しながら煙を吐くアラスター。

名門の長男として生まれながら、自身と同じように魔術回路を少なくして生まれてしまった男。

自分は『ロード・エルメロイⅡ世』という師に会えたから良かった。

しかし、あの男は、『ミケルガ・ジン・ゲルトハルト』は違った。

自分とあの男の違いはそれだけ。

たったそれだけの違いが、今のこの状況へとつながったのだろう。

生まれは似ていたというのに。

以前偶然会話する機会があり、話をした際に随分と突っかかれたのを思い出す。

ふと、薄い笑みを浮かべ、アラスターは言う。

 

「まあ、似た者同士の(よしみ)だ。やってやるか。行くぞ、レーティア」

 

「はい、お供しますわ」

 

そして紫煙を残して歩き始めるアサシン陣営。

その背中に向け、思い出したかのようにヴェールヴァが言葉をかける。

 

「君たちに神のご加護を」

 

「魔術師に言うことじゃあねーよ。報酬忘れんなよ」

 

振り返ることもなく、そのまま手を振って立ち去るアラスターと、振り返って一礼しその後を追うアサシン。

その背中をヴェールヴァは見送った。

 

視界の端に、一羽の蝶が飛ぶのを認めながら。

 

 

 

歩き煙草による紫煙の軌跡を引きながら、ポケットに手を突っ込んで歩くアラスターと、そのすぐ後ろを微笑みながら歩くアサシン。

無言で歩く二人だったが、しばらく歩いていると、アラスターが口を開いた。

 

「……歩けない距離でないとはいえ、正直足が欲しくはあったな」

 

「ああ、それはそうですね。今は車とかあるんですし。わたくしの頃は馬車しかなくて、揺れも酷かったです……」

 

どこか遠い過去を思い出すような目で語るアサシンに、どこか悲しいものを見る目で見るアラスター。

生まれた時代の差が如実に表れた瞬間だった。

 

「なら、これが終わったらバイクでも買うか。……あ、ダメだ。この国の免許がねぇ」

 

「免許がなくては買っても乗れないですしね」

 

「そうなんだよなぁ。そういえ、騎乗スキルを持つサーヴァントはバイクや車なんかも運転できるらしいな」

 

「残念ながら、わたくしにはないですね」

 

話しながら歩き続け、目的地である倉庫街へと向かう二人。

そのそばを、数匹の蝶が飛び―――

 

「で、いい加減面を見せたらどうだ、魔術師?」

 

「気づいてたんですか」

 

―――いつのまにやら二人の背後に、青い髪を緩くオールバックにした、精悍で端正な顔付の男が立っていた。

 

「こんな冬の(さみ)い日に、蝶がフラフラしてりゃあ誰だって怪しいと思うだろうが」

 

「ああ、なるほど。それもそうですね」

 

威嚇するような凶暴な笑顔で振り向くアラスターに対し、にこやかに微笑む男。

お互い笑顔であるが、その内の意味は全く違う。

つッとアサシンが視線を男の手の甲に向けると、そこには『聖杯戦争』におけるマスターである証、『令呪』が三画刻まれていた。

 

「どっかで見た覚えのある面だが、聞くだけ聞いてやるぜ。名前は?」

 

「ああ、申し遅れました。僕はゾォルケン。『シルヴェスター・ゾォルケン』です」

 

「やっぱりあのロシアの蟲使いの一族か……!」

 

『ゾォルケン』。

その名は良い意味でも、悪い意味でも彼ら一族の本拠地であるロシアから遠く離れたイギリスの時計塔でですら有名だった。

良い意味としては、500年続く蟲使いの魔導の大家として。

悪い意味では、500年前当時の当主が極東の地に渡り、見捨てられた分家の一族として。

 

「それで、わたくしたちを付け回して何の御用ですか?」

 

「ハハ、これは手痛いですね。いえ、簡単な事ですよ」

 

シルヴェスターを鋭い目付きで睨むアサシンに、頭を困ったように掻きながら笑う。

 

「貴方たちが教会から依頼された、この『呪い』の発生源たるサーヴァント退治に、僕たちも同行したいんですよ」

 

「ハッ、なるほど」

 

獰猛な笑みでシルヴェスターを見て、アラスターが挑発するように言葉を続ける。

 

「そう言って俺たちを油断させて、後ろからってか?最低限、同盟を組もうって時にサーヴァントを見えるように現界させてねえ奴は信用できねえな」

 

「おや、すいません。つい忘れていました。ライダー(・・・・)、姿を出してください」

 

「おぉう!マスターッ!!忘れてたってのはどういうことだ?」

 

「普段霊体化してもらっていますから」

 

明るい茶色に輝く魔力が集まると、シルヴェスターのすぐそばにベリーショートヘアの茶髪に、筋肉質な体の男が姿を現す。

クラス名は、ライダー。

その特徴は騎乗兵と言う名が示す通り、乗り物に関する宝具や能力を持っている事。

そして、強力な宝具を有していることが主な特徴として挙げられる。

そのことを脳裏に浮かべながら、アラスターは考える。

 

彼らの要求に、おそらく嘘はない。

幼少期から散々と人の悪意に晒されてきた身だ。

それなりの観察眼はあるんじゃないかとは思っている。

だが、所詮それは根拠のない話。

ここは裏切られることを想定しておくべきだろう。

こちらはサーヴァント戦においては、圧倒的に不利なのだから。

ならば、マスター戦で早々に蹴りを付けられるように準備だけはしなくてはいけない。

とはいえ、ここは、だ。

 

そこまで思考し、答えを出す。

和気藹々と話すライダー陣営に対し、アラスターが出した答えは、

 

「いいぜ、こっちも火力には不安があったんだ。ライダーなら期待しても良いんだろ?この話を受けよう」

 

「ああ、それは保証するよ。話を受けてくれてありがとう」

 

共闘を結ぶことだった。

どっちみちこの後には、サーヴァント戦が控えていいる。

武力や火力に劣るアサシンでは、敵が戦士系のサーヴァントであると負けてしまう確率が高い。

それを逃れるために、戦闘に秀でたサーヴァントを味方につける必要自体はあった。

ならば、この機会を逃す手はない。

裏切りのリスクがあるが、それはそれだ。

その時には自分がマスターであるシルヴェスターを殺し、撃退すればいい。

ライダーを躱して、どう殺すかは問題ではあるが不可能ではあるまい。

方法など、いくらでもある。

 

アラスターはそう考え、この同盟を飲むことにした。

 

「しかし、何で俺たちをつけた?『呪いの発生源』の特定のためか?」

 

そうシルヴェスターに問いかけるが、アラスター自身そうでないことは理解している。

それだけならば、自分たちの近く範囲外から付けてくれば良かった。

しかし、シルヴェスターはワザとらしく蝶を近くに飛ばしていた。

だから、それはないと分かる。

 

「ふふ、違うと分かっているのに聞くんですね?いえ、簡単な話ですよ。僕はこの『聖杯戦争』をライダーとともに勝ち抜く自信はありますが、それでも単独では不利が否めない。そこでどこかの陣営と同盟を、と思っていたのですが……。時計塔のエルメロイ教室でも武闘派で知られる貴方が参加しているということで、目星を付けさせてもらっていたんですよ。呪いの発生源の対処に同行するのは、同盟を組むにあたって僕たちを信用してもらおうという下心からです」

 

「ロシアにまで俺が知られているとは意外だが、生憎武闘派とは違うな。俺は魔術師。あくまでも研究者だ」

 

他の学部の連中とやり合ってる内に武闘派何て呼ばれちまってるがな。と付け加え、煙を吐く。

 

「なるほど、貴方自身はそういう認識なんですね」

 

クツクツと口に拳を当て笑いながら、シルヴェスターが言う。

それに肩を竦めたアラスターが、向かう先を親指で指さす。

 

「ま、とりあえずは道中話しながらでも行こうか」

 

 

 

 




「あれが発生源であり、拠点か」

「なるほど……こういうことですか」

「行くぜ?バーサーカー!!」
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