Fate/Sickness   作:逸環

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第14話です。
どうぞ。


December 23 12:59:59 【相対】

「……なるほど、あれが発生源か」

 

「そのようですね」

 

アサシン陣営とライダー陣営が、倉庫街付近の小高い丘の上から下に見える廃倉庫の一つを見下ろす。

一般人が見てもただの倉庫にしか見えないそれは、魔術師であるマスター二人の目から見れば強大な呪いの発生源に相応しく膨大な魔力の噴出地として見えていた。

 

「流石にこの距離まで近づくと、呪い除けの魔術も効きが悪くなって来るな」

 

「より強力な魔術の行使となると、礼装も必要では?」

 

「それについては大丈夫だが、そっちはどうだ?」

 

「僕も大丈夫ですよ。この程度なら、魔力を増やせば対応できますし」

 

「魔術回路が多い奴は羨ましいねぇ」

 

シルヴェスターの言葉に、咥えていた煙草のフィルターを強めに噛み「あー、これだから持ってる奴は嫌だ嫌だ」とでも言いそうな表情をするアラスター。

その背後でアサシンが気遣わし気な表情をするが、目的地を見据えているアラスターはそれに気が付かず会話を続ける。

 

「そんじゃ、道中話した通り、戦力分散は避けて全員でカチコミといきますか」

 

「おい、本当にそれで行くのか?言っちゃあなんだが、アサシンはこういう荒事じゃあ戦力にはならんだろう?」

 

ライダーがアラスターに、もっともな疑問を投げかける。

レーティアはいつもの現代風のではなく、召喚時に来ていたドレスを身に纏いサーヴァントらしい姿ではあるがそれは戦闘を行う者の姿ではない。

更に言うなら、肢体は美しいが華奢そのもの。

ライダーの言う通り、荒事には向いていない。

 

「だからこそ、です。わたくし一人が残ったところで、仮に他のサーヴァントに襲わでもしたら太刀打ちはできません。ですが、アランの傍にいれば、アランが守ってくれますから」

 

「そういうことだ」

 

それをアサシンはだからこそ(・・・・・)と同行するべきだと主張し、アラスターはくつくつと笑いながら肯定した。

もちろん、そもそもアラスターが倉庫内に入らない、という選択肢もある。

だが、絶対にそれを彼は選ばない。

彼が『ロード・エルメロイⅡ世』の弟子であるが故に。

かつて世界の大半を征服した偉大なる王の臣下たる男の、弟子であるが故に。

 

「……なるほど、剛毅な姫さんとマスターだ」

 

その二人の様子に肩をすくめ、やれやれといったポーズをとるライダー。

そのライダーのマスターであるシルヴェスターが、ふと気づいたように口を開く。

 

「それにしても、どうやって侵入しますか?……って、ウィールドンさん?貴方何してるんですか?」

 

「何ってお前あれだよ。カチコミ前の準備だよ」

 

「いや…準備って貴方……」

 

頬を引きつらせ訊ねるシルヴェスターに、なんてことでもないように答えるアラスター。

その姿は、先ほどまでとはいつのまにやら変わっていた。

鼻から下を、常ならば首に巻いている赤いスカーフで隠し、コートのフードを目深にかぶる。そして目元はゴーグルで覆い、手は手袋で包む。背中にはゴチャゴチャと物が詰め込まれたリュックサック。

どこからどう見ても、これから他のギャングを襲いに行くヤンキーといった風貌になっていた。

 

「ふふ……ついこの間もこの格好で、ウチの教授をディスってくれたクソッたれの部屋を襲撃したんだ」

 

「貴方そんなのだから武闘派って呼ばれるんですし、むしろ過激派だと僕は思いますよ?」

 

「ハッ!」

 

呆れた様に、いや、実質呆れているシルヴェスターの言葉を鼻で笑って一蹴し、アラスターが倉庫を指をさす。

 

「まあ、そんなことはどうだっていいさ。こっからはシンプルにいこうぜ」

 

ギニィッ、と口の端を歪めて笑いながら、彼は言う。

 

「壁をぶっ壊しちまえ」

 

「……なるほど、そういうことですか」

 

アラスターの言葉の意味に、数瞬の間をおいてシルヴェスターくつくつと笑いながら気づいた。

 

「正面からではなく、横っ面を殴るというわけですね?」

 

「あーあ、なるほど?そう言うことかマスター。坊主、おもしれえこと考えるじゃねえか!」

 

シルヴェスターの発した言葉で全てを察したライダーが、ケタケタ笑い反応する。

 

「だったら、それこそ俺の出番だな。横っ面にぶちかますのは任せとけ」

 

ライダーがその筋肉質で逞しい腕をグルグルと肩で回しながら、倉庫へ近づいていく。

もちろん、マスターであるシルヴェスターはその後ろへ、数匹の蝶を引き連れながら随伴する。

残されたアサシン陣営はと言うと、

 

「さて、レーティア。いつでも宝具使えるように準備はしておけよ?何があるかは分からない(・・・・・・・・・・・)からな」

 

「ええ、そうね(・・・)アラン」

 

ライダー陣営が行くその10数m後ろを、薄く笑みを浮かべながら、歩いていた。

 

 

 

 

「さぁて……、いくぜ……!」

 

金属でできた倉庫の、扉がある面の隣の面で、ライダーがその拳を構える。

その構えは、現代のボクシングの物によく似ていた。

 

アラスターが立てた計画は、単純極まりない物だった。

普通人間は、建物内に入る時、例えそれが家主が望む者であれそうでない場合であれ、必ず『入口』に当たる場所から入ってくる。

故に魔術師たちが『工房』を拵える際には、その入り口を隠したり、入り口が第三者から分かる状態であっても罠を仕掛け侵入者を阻むなどの仕掛けが施されているのが通常だ。

既に死んではいるが、とある高位の魔術師は自身の工房に24層の結界と異界化した廊下、猟犬代わりの悪霊などといった罠を仕掛けていた。

とは言え、ここまで罠を張り巡らしたところで、その『工房』が建物という『容器』の中に納まっていることには変わりない。

つまりは、外部から建物自体を破壊される事にはめっぽう弱いのだ。

要するに、これから何が行われるかというと、

 

「ルゥオオオォォラァァァァッッ!!!!」

 

ライダーの渾身の右ストレートが、轟音と共に倉庫の壁を引きちぎり、ぶち破り、吹き飛ばして風穴を開けるのだ。

 

「おー、おー。流石は戦闘が得意なサーヴァント。ただのパンチでこの威力か」

 

「ただのパンチじゃねえ。今のがストレートだ。覚えときな、坊主」

 

余りの威力に呆れた様に、感激したように言うアラスターの言葉をライダーが振り返り訂正する。

その言葉に首をすくめながら、壁の穴に近付き中を『解析魔術』で検分する。

 

「……よし、今ので『工房』内部はあらかた吹き飛ばせたみたいだな。行くぞ、レーティア、ゾォルケン」

 

アラスターの続き、各々が続々と倉庫内部へと入っていく。

『呪い』と『怨嗟』渦巻く、病魔の巣へと。

 

 

 

 

 

「さて、と。こりゃひでえな」

 

薄暗い倉庫内を、ライターの火で明かりを確保しながら眺め、呟く。

4人を覆う物は、黒い濃霧にすら見えてしまう『呪い』の瘴気。

これが今、この富士野市を襲う病の根源。

『呪い除け』の魔術を施しているアサシン陣営とライダー陣営には今は影響はないが、この場からさらに発生源へ近づくにつれてより濃く、強力な呪いとなっていけばおのずと自分たちも脅かされてしまうだろう。

 

「だが、対処はできる。この『呪い』の性質は『病魔』だ。かつてアメリカのどこぞで行われた『聖杯戦争』では、『病魔そのもの(ペイルライダー)』が召喚された記録があるから、もしものために準備はしておいた」

 

「ああ、貴方の兄弟子が参戦したスノーフィールドの『聖杯戦争』ですね?」

 

「ああ、そうだ」

 

言葉を交わしながら、アラスターは背負っていたリュックの中から二体の藁人形を取り出す。

そして自分の髪をプツッと一本抜くと、藁人形の内の一体に入れ、もう片方をアサシンに差し出し同じ様に髪を入れさせる。

 

「なるほど……人形に関した呪いにおける、『身代わり』と『厄除け』の性質を利用した魔術ですか」

 

「その通り。流石ロシアの大家、博識だな」

 

「いいえ、それほどでもないですよ」

 

シルヴェスターの言葉の通り、アラスターが今行ったのは人形を利用した呪い全般における、『身代わり』の性質を応用したものだった。

本来人形を利用して相手を呪う場合、人形を対象に見立てて、つまり『身代わり』にして危害を加えることで、対象に影響を与えるというもの。

それだけではなく、日本では古来から人形を自身の『身代わり』として川に流し、そちらに身にかかる不幸を移すなどといった儀式が行われていた。

アラスターが使用した魔術は、まさしくそれそのもの。

自身に降りかかる『病魔』という災厄を、人形に『身代わり』して回避するという魔術だ。

この魔術の利点は、そのコストパフォーマンスにある。

高い素材を用意しなくても、莫大な魔力をかけなくても、安い素材で、僅かな魔力で使用できる。

魔術回路の少ないアラスターにはうってつけの魔術だった。

 

「それで、アラン。これはどのくらい()つんですか?」

 

「あー……、それについてなんだがレーティア。実はこいつは非常に簡易(インスタント)な仕様でな……」

 

この藁人形に髪を入れることで、これから身に降りかかる『病魔』を回避することになるアサシンが気になったことを尋ねるも、アラスターの歯切れは悪い。

なぜなら、

 

「3分しか()たない」

 

「時間制限までインスタント(カップ麺並)じゃなくても良いじゃないですかァァァァッッ!!?」

 

「ライダー、僕たちはより強力な呪い除けを使えば良いだけですから、安心してくださいね」

 

「おお、任せたぞマスター」

 

指を3本立てて告げるアラスターと、その事実に思わず叫ぶアサシン。

それを見て我関せずの姿勢でいるライダー陣営。

周囲のおどろおどろしい雰囲気とはよそに、彼らはある意味リラックスしていた。

 

 

 

 

『呪い』の対処を済ませたアサシン陣営とライダー陣営は、一階部分の探索を終えると地下に降りて行った。

2階部分も探すべきだったのかもしれないが、それ以前に地下階段から『呪い』を構成する魔力が噴き上がっているのを見れば、先にそちらへ行くしかない。

そして地下に降りた彼らは、それを見てしまった。

 

「……あの倒れているのは、見覚えがある面だな。見たとこ死んじゃあいるが、ありゃあミケルガの野郎だ」

 

硬いコンクリートの床に倒れ伏し、朽ちていくだけとなったミケルガと、

 

「それではあちらの、明らかに理性がないのが……」

 

「バーサーカーだろうなぁ」

 

全身から黒い瘴気の様にも見える『呪い』を噴出させる、眼窩に暗い光を宿した白骨化した異形の存在だった。

そしてその眼窩の光が、彼らを捉えた瞬間、

 

「ッッ!!!■■■■ァ■■ア■■■■■■■ァァァァァァァッッッ!!!」

 

理性無き怨嗟の咆哮と、莫大な『呪い』を撒き散らした。

それを見て、アラスターは暴力的な笑みを浮かべて叫ぶ。

 

「いくぜ!バーサーカー!!まずはお前から消えろッッ!!」

 

 

 

 




「これが……バーサーカーの能力……!!」

「気を付けてくださいアラン!」

「分かったぜ、あいつの正体が」



次回、『Fate/Sickness』。
「December 23 13:10:05」
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