それでは、どうぞ。
かつて、日本の『冬木』という土地で始まった、世界最小規模の魔術師たちの
『聖杯戦争』とは、文字通り『聖杯』を奪い合うための戦い。だが、この『聖杯』は一般に知られているかの聖人の使用した杯の事ではない。莫大な魔力を溜め込み、そしてその魔力を持ってしてあらゆる願いを、望みを叶える『万能の願望器』の事だ。
では、どのようにして『聖杯』に魔力を蓄積するのか。それには、3つの要素がある。
まず、『聖杯』は『大聖杯』と『小聖杯』に分けられる。これで2つ。そしてもう一つは、『サーヴァント』。『大聖杯』は力のある土地から魔力を少しずつ吸収し、そして過去、現在、未来、伝説に至るまであらゆる伝承で名を残す『英霊』たちを7つのクラスに分け、『サーヴァント』として召喚する事が役割となる。『サーヴァント』が何らかの要因で死亡した場合、その魂は『小聖杯』に送られ、その全てが収まった時『大聖杯』が蓄積する魔力を優に凌駕する絶大な魔力を満たした『万能の願望器』が完成する。
そのためにも、7騎の『サーヴァント』を召喚し、使役する魔術師たちはこの『聖杯戦争』に参戦し、そして殺し合うのだ。
その戦いは『アインツベルン』、『間桐』、『遠坂』という3つの魔術の大家によって産み出され、三度に渡って行われた。
そして、そう。
三度目にして、奪われたのだ。
この戦争の根幹とも言える、『大聖杯』を。
これ以後冬木では『聖杯戦争』は行われる事はなく、更には技術が流出し、世界中で亜種の『聖杯戦争』が行われる事となった。
中には、基本の7騎だけではなく、その倍の数の『サーヴァント』たちによって争われた、『聖杯戦争』ならぬ『聖杯大戦』なる代物まで執り行なわれている。
だが、その全てにおいて何らかの要因により、『聖杯』が『万能の願望機』して完成することは、『聖杯戦争』が成功することはなかった。
そして『聖杯戦争』はここ、始まりの地である冬木と同じく日本にある、『富士野市』でも行われようとしていた。
『富士野市』は山梨県の富士山裾野にある地方都市。都市としての規模は小さいが、富士山という一大観光地が近く更には新幹線の駅もあるため適度に栄えた土地だ。この地には日本最大の霊地である富士山のお膝元ということもあり、巨大な竜脈が通っている。それ故に『聖杯戦争』の開催地として、『大聖杯』の敷設地として選ばれたのだった。
「我らが
その男は、白かった。
髪も肌も、服装まで白く、切れ長の瞳だけが紅い。
だが、それは病的な白さではない。
まるで新雪の様な、白銀の白さ。
男の名は、『シルバスタクハイト・フォン・アインツベルン』。
そう、全ての原点たる冬木の聖杯戦争における御三家の一角。
『アインツベルン』がこの富士野の聖杯戦争で『聖杯』を勝ち取るために鋳造、投入した『ホムンクルス』。
……いや、正確には彼に『聖杯』を勝ち取るという意思はない。
彼の、否。『アインツベルン』の目的は『聖杯』の獲得ではなくその成就こそが目的。
実際のところ、自分たちが勝ち取る必要はないのだ。
『アインツベルン』が『万能の願望機』たる『聖杯』を求めておよそ千年。
彼らの手段は、いつの間にか目的へとすり替わっていた。
「しかし、これが神代を駆けた英霊の剣の欠片とは……。錆もなく真新しい様には見えるが、内包されている神秘が桁違い故に一目で神代のものと理解できるな」
シルバスタクハイトが今いる場所は、『アインツベルン』が『富士野市』郊外に用意していた西洋の城を思わせる屋敷の地下に作られた、魔術師の工房だった。
既に、『サーヴァント』の召喚陣はこの屋敷に前乗りしていたホムンクルスたちによって準備されている。後は祭壇に剣の欠片を置き、詠唱をするだけ。
令呪の宿る右手を翳し、告げる。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公―――――――」
詠唱を始める中で、シルバスタクハイトの脳裏にはアインツベルンでの誓いが呼び起こされていた。
そこはドイツにある、深い雪と森で外界から閉ざされた、巨大な城だった。
『アインツベルン城』。錬金術の大家にして、冬木における『聖杯戦争』に関わった始まりの御三家の一角が住まう居城が、そこだった。
「シルバスタクハイトよ」
「なんでございましょうか、
ステンドグラスから幻想的な色合いで光が差し込む聖堂内に、シルバスタクハイトとアインツベルン家当主、『ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン』の二人がいた。
「此度の日本で行われる『聖杯戦争』……。儂はそのために貴様を産み出し、聖遺物まで用意した。……くれぐれも、ぬかるでないぞ」
「承知しております」
威厳ある声で告げるユーブスタクハイトと、その命に恭しく礼をするシルバスタクハイト。
同じ白でも、彼らは違う。
従える者と、恭順する者。
それが二人の関係。
「よかろう。……今度こそ、失われた『第三魔法』。『
「……御意に。我が
「―――――――汝三大の言霊を纏う七天!抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よッッ!!」
あの日を振り返っている内に、気づけば最後の一節を唱え切っていた。
莫大な魔力が、まるで爆発するかのように一気に拡散した後、収束する。
そしてそこに立っていたのは―――――――
「ほう、白い!白いな貴様!!うむ?そうかそうか。……サーヴァント、『セイバー』!召喚に応じ参上した!貴様が俺のマスターか!!」
「ああ、そうだ」
―――――――全身を無骨な鎧で覆われた、髭面で野趣溢れる戦士だった。
『聖杯戦争』開始まで、後四日。
「いいか!『聖杯戦争』に参加するなど、絶対に認めん!!」
「なんでだ!?教えてくれ!『ロード・エルメロイⅡ世』!!」
「……ハッ。フラットの兄ィも、こんな気持ちだったのかねぇ?」
次回、『Fate/Sickness』。
「December 15 20:45:32」