Fate/Sickness   作:逸環

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第四話です。
どうぞ。


December 18 01:58:03 【召喚の夜】

「ル~ララ~ル~~」

 

 

これはまだ、アラスターが『富士野市』に向かう途中の深夜2時手前のことだった。

みっともなくはない程度に整えたショートヘアの青年が、最近流行りの魔法少女アニメの主題歌で鼻歌をしながら、夜の散歩をしていた。

彼がこんな時間に散歩をしているのには理由がある。

実に簡単な事なのだが、昼に寝すぎてしまったのだ。

たまたま学校が今日から三連休であるため、ついついと。

その結果、こんな時間まで眠れず偶には真夜中の散歩でもとあいなったわけだった。

ブラブラと歩き歩いて、気が付けば森の中。気ままに足を運びすぎてしまった様だ。

 

「んー……。そろそろ戻るかなぁ。ようやく眠気も…ふわぁ……来たとこだし……」

 

街灯が道を照らしているとはいえ、ここは森の中。

夜中に長居するものではない。

眠気もようやく来たことだし、立ち去ることにした彼だったが、

 

「…ん?うおぉっ!!?」

 

森の奥が突如強く発光し、強烈な風が吹いてきたことで考えを改めた。

 

「……まさか、隕石とかじゃないよな?」

 

もしそうなら、良い小遣い稼ぎ程度にはなるかもしれない。

そう思いながら、確認するために彼は発光地点へと、森の奥へと向かっていった。

 

 

 

「――――善と――敷く者――――――」

 

「……人……なのかな?あれは……いったい何なんだ……?」

 

彼が発光源に辿り着いたとき、そこに既に人がいて、魔法陣の様な物を前に何事かを唱えていた。

荒れ狂う風の音で、よく聞こえこそはしないが。

呪文の様なものを唱えている人は、青い髪を緩くオールバックにした精悍で端正な顔付の男性だった。

その様子をこっそりと木の陰に隠れながら観察するが、あれはまさか異界から何者かを呼び出そうとでもしているのか。

知識のあるものが見れば、それが『聖杯戦争』における『サーヴァント』の召喚だと察することができるが、一般人である彼にはその知識はなく、察する事は不可能だった。

 

「―――――三大―――七天………!」

 

「ッッ!!」

 

詠唱が佳境に入った時、青い髪の男が突然彼の方を向き、目が合う。

彼はそれに驚き、足の力が抜けてそのまま尻もちをつくが、男はそれを見ると柔らかく微笑んで唇に人差し指を当て、「シーッ」と誰にも言わないようにとジェスチャーをする。

そして、その時は来た。

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よッッ!!!」

 

一際強い風が吹き、召喚陣の中央にベリーショートヘアの茶髪に、筋肉質の肉体の体の20代後半に見える男性が出現する。その腰には、細身の剣が佩かれていた。

 

「サーヴァント、ライダー!呼び声に応じここに来た!……あんたが俺のマスターか?」

 

「ああ、そうだ。よろしく、ライダー」

 

「ここに契約は成った。こっちこそよろしく頼むぜ、マスター!」

 

ライダーとそのマスターは恙なく契約を終えるが、それを見ている彼はいったい何が起きているのかわからない。

自分の口を手で押さえ、必死で声を押し殺すが、明らかに今目の前で起きていることは尋常な出来事ではない。

起きていることが自分の理解を超えていることは間違いないが、どうすれば良いのか。

とりあえず先程のジェスチャーに従い、ずっと黙っているしこれからもこの事はだまっているつもりではあるのだが。

 

「さて、それでは行きましょうかライダー。ここは霊地としては中々に優秀ですが、拠点にはできませんしね。僕の屋敷へ向かいましょう」

 

「おお、マスターの屋敷か!楽しみだな!!」

 

「ええ、きっと気に入りますよ。では、『Будь появление(羽化せよ)』」

 

しかし、彼らはあっさりと立ち去って行った。

青い髪の男が一言発すると、突如現れた季節外れの蝶の群れに紛れるかの様に、忽然といなくなった。

 

「なんなんだよ……いったい……」

 

残された彼がフラフラと、何が起きていたのか確認するために召喚陣へと近づいていく。

召喚陣からは鉄錆の臭いがし、どうやら何かの血液で描かれたらしい。

 

「……本当に…なんだったんだ……?」

 

もう一度、彼一人では絶対に解けない疑問を呟きながら、召喚陣を観察する。

彼は知らなかった。

いや、彼に限らずこの地に集った全ての魔術師たちは知らなかった。

『聖杯』が既に六つの『令呪』を分配し終わっており、最後のマスターを求めていたことを。

彼の血脈には、遠い先祖が残した魔術回路が残っていたことを。

『聖杯』は参加者を求めているとき、間に合わせの者を選ぶことがあることを。

 

「……ッッ!!?イッてぇ!?」

 

痛みとともにその右手の甲に、三画の『令呪』が刻まれる。

そして再び、召喚陣が発光した。

 

「え!?はっ!?嘘だろ!?」

 

何が起きているのか、正直分かっていない彼を置き去りに、事態は進む。

発光が収まった時、そこにいたのは、

 

「アサシンのサーヴァント、『ハサン・サッバーハ』。ここに限界した」

 

白い髑髏の仮面を被った、全身が黒に包まれた巨躯の男だった。

 

「……問おう、貴殿が我を召喚せしマスターか?」

 

「……え、は…はい?」

 

「……ここに契約は成った。マスターよ」

 

彼のその「はい」は肯定ではなく、状況を理解できていないが故の疑問の「はい」だったのだが、アサシンはそれを肯定として受け取ったらしい。

 

「この身は影……。しかしマスター、私が聖杯にかける気持ちは、願いは真なるものだ。……この『聖杯戦争』、共に勝ち抜こうではないか」

 

アサシンがその巨躯を屈め、まるで聖人の様な声色で語り掛ける。

それに対し彼は、

 

「『聖杯戦争』……?」

 

全く何も理解できていなかった。

ここに『富士野聖杯戦争』における最弱の陣営、彼―――一般人のマスター『日向(ひむかい) 慶次(けいじ)』とアサシンのコンビが誕生した。

 

 

 

 

 




「我らが初陣だぞ!マスター!!」

「その容姿……なるほど」

「……我らが悲願、必ず叶える」


次回、『Fate/Sickness』。
「December 21 22:09:46」
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