Fate/Sickness   作:逸環

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第5話です。
どうぞ。


December 21 22:09:46 【初戦】

聖杯戦争開幕から二日後の夜。

これまでの間、どの陣営も接触はなくお互いに散策しているだけで終わっていた。

 

「……む。セイバー、感じているか」

 

「おお!これは探す手間が省けたな!!」

 

「もう散策を始めて二日経っているがな」

 

あの『呪い』が撒き散らされた日。

セイバー陣営は『聖杯戦争』が開幕したことを理解し、呪い除けの魔術を施して町を散策し始めていた。

しかし、この二日それは空振りを続けていた。

この『呪い』の中、どの陣営も静観を決め込んでいたから。

古い、いや古すぎる魔術師の家の者である彼はテレビが屋敷にはなく、世間の情報を得てなどいなかったが、どういう状況になっているかはこの二日の散策で知ることができたし、想像できた。

 

「……しかし、やはりこうなっているか」

 

「この二日で、また人通りも失われたなぁ」

 

二人が歩いている町並みからは、人気がほとんど失われていた。

理由は想像できている。

町中を覆う『呪い』のせいだ。

この『呪い』の性質は既に理解して(わかって)いる。

その能力は単純にして明快。

『病に侵し、殺す』。

故に今この町の多くの人間が、病に倒れ家から出ることすらできなかったり、病にかかることを恐れて外出を控えるなどしているのだろう。

実際、この町の病院は今、どこも多数の患者でパンクしている。そして患者たちは一人、また一人と治療の甲斐なく死んでいっている。

 

「これほどの規模の『呪い』だ。おそらくはこの聖杯戦争に参加しているどこかのサーヴァントの仕業だろう」

 

「キャスターとやらか?あれは魔術師だろう。ならばこういうの(・・・・・)も得手ではないのか?」

 

「それは分からない。例えばこれがキャスターの魔術ではなく、サーヴァントの宝具である場合ならそれこそ本当に分からない。宝具とはそのサーヴァントの能力ではなく、持っていた武器や逸話の具現であるからだ」

 

「…ふむ?例えば何だマスター?俺はセイバーらしく剣だが、他にはどんなのがある」

 

「そうだな……。過去の聖杯戦争にて出現したサーヴァントを例に挙げると、ライダーで召喚されたとあるサーヴァントは、戦車(チャリオッツ)だけではなく『固有結界』も宝具として持ち合わせていたらしい」

 

「ほう!それは凄いな!!ガハハハッッ!!機会があれば殺り合いたいものだ!!!」

 

哄笑しながら歩くサーヴァントと、冷静に考察をしながら歩くマスター。

対照的な二人だが、その歩む先は同じ。

 

「……さて、それでは誘いに乗るとするぞセイバー」

 

「おぉよ、この剣を存分に振るえる相手だと嬉しいがな」

 

無表情に告げるシルバスタクハイトと、獰猛な笑みを浮かべるセイバーは向かう。

自分たちを、聖杯戦争の参加者たちを誘うかのように魔力を振りまく者のところへ。

 

 

 

「ほおう?私の誘いに応じたのはセイバーか。なるほどなるほど?確かに戦を好む男の面構えですな」

 

「そう言うテメエはアレか?ランサーってところか?」

 

魔力を追いシルバスタクハイトたちが辿り着いたのは、広い更地だった。少し離れたところに目を向けると、造りかけの高速道路の橋脚が見える。恐らくここも、じきにあれと同じような橋脚が立つのだろう。

そこに彼は立っていた。

皮と金属で作られた鎧に身を包み、少々短い槍を携え、口髭を生やした壮年の男。

それが彼の、この春日の聖杯戦争におけるランサーの特徴だった。

 

「確かに私はランサーだ」

 

「俺もセイバーで合ってるぜぇ?で、テメエのマスターはどこにいるんだよ?」

 

「マスターは別の場所にいますよ。ここにいるのは私だけです」

 

「へえ、そうかい?まあ、どうでもいいやな」

 

話しながら、剣を肩にかけ無造作にランサーへと歩み寄るセイバー。

そして、ランサーの槍が届くかどうかの間合いまで来ると、そこで歩みを止めた。

そこでシルバスタクハイトが、声をかける。

 

「いいか、セイバー。我らアインツベルンの悲願のためにも、必ず勝て」

 

「わあってるよぉ」

 

その言葉に振り返らず、軽く手を振ってこたえるセイバー。

その眼は既に、目の前の(ランサー)のみを見据え、好戦的な笑顔を浮かべていた。

 

「それでは」「そんじゃ」

 

相対する二人は、同時に話す。

 

「「始めよう」」

 

剣と槍。

金属同士が一瞬ぶつかり合う音が、更地に響いた。

 

 

 

「オリャアァァァァァッッ!!!」

 

「フンッ」

 

唸りを上げて迫るセイバーの剛剣を、ランサーの槍が弾き、いなし、寄せ付けない。

急所を穿とうとするランサーの槍を、セイバーの剣が横合いから殴りつけるように弾く。

ここに至るまで既に数十合の打ち合いが続いているが、そのどれもが互いの身を傷つけることはなく、周囲にその暴威を撒き散らし、地形を変えていく。

 

「(……なるほど、これが英霊同士の戦いというものか)」

 

たった一人、間近でこの戦いを見守るシルバスタクハイトは、淡々とその様な感想を抱いていた。

時折戦いの余波で弾き飛ばされた石などが飛来してくるも、それら全てを魔術で破壊しながら戦いを見続けている彼だが、実のところ何の感慨も抱いていない。

二騎のサーヴァントがその剣を、その槍を振るうたびに変化していく地形を見ても、戦いながら笑う自らのサーヴァントを見ても、その心が揺れ動くことはなかった。

ただ、そういう事象なのだと客観的に観察、考察しているだけなのだ。

 

「(……私はアインツベルンのホムンクルス…。悲願成就のために、この聖杯戦争には何としてでも(・・・・・・)勝たなければならない……)」

 

それだけを考え、そのために行動する。

それが彼の生み出された理由なのだから。

 

「ゼリャァッ!!」

 

「グヌッ!?」

 

「……む?」

 

シルバスタクハイトが観察と思考をしている間に、戦況は動いた。

セイバーの力任せの一撃が、ランサーを数メートル弾き飛ばしたのだ。

ここで畳みかければ、それはセイバーの絶好の好機となるだろう。

しかし、セイバーは動かなかった。戦いが始まる時のように剣を肩にかけ、頭を掻きだす始末だ。

 

「……セイバー、なぜ攻めない?」

 

たまらずシルバスタクハイトが訊ねるも、それでもセイバーは動かない。

そしてランサーが体勢を整えたところで徐に指をさし、言う。

 

「お前、本職は兵士じゃあねえな?」

 

「……何?」

 

セイバーが何を言っているのか分からず、思わず問いただすシルバスタクハイト。

そんな彼をしり目に、指摘されたランサーはくつくつと笑うと、頷いてそれを肯定した。

 

「いかにも、私は兵士ではなくそれを指揮する立場のものです。もちろん、私自身も戦えるよう訓練はしているし、実際に戦える。しかし、どうして全てを戦闘に費やす者との差は出てしまうようですな。実際、こうして貴方には分かってしまった」

 

「ハッ、力の割には槍捌きがどこか歪だったから、そうじゃねえかと思っただけだ。……んで、どうする?まだやるかい?」

 

「セイバー?勝手に何を言っている?」

 

一人で勝手に戦闘の続行をするかどうか決めようとしているセイバーに、シルバスタクハイトが戸惑うも時は既に遅い。

開いた間合い、整われた体勢。

 

「いいえ、実は私も様子見程度で済ませるようにマスターから言われていましてね。今回はここで下がらせていただきます」

 

ランサーがこの場を離れるには、充分な条件が整っていた。

言葉と同時に霊体化し、紫の魔力の残光を残して立ち去っていくランサー。

後に残されたセイバー陣営はと言うと、完全に残光が消えてもその場に残っていた。

 

「……なぜ逃がした?」

 

「あのまま戦っても、俺が楽しくなかったからな。それに、サーヴァントには宝具がある。次に戦う時には、それを使った全力でやれりゃあ楽しめんだろ」

 

ガハハと笑いながらそう言うセイバーに対し、シルバスタクハイトは目を伏して呟く。

 

「……私には分からない感覚だな」

 

「テメエも楽しめよ、マスター。今まで一度も笑ったとこ見たことねえぞ」

 

「……笑う、というのもよく分からないな」

 

「まあ、その内分かるだろうよ」

 

そこまで話してから、二人はようやく立ち去った。

その視界の端に、カラスにオッドアイの黒猫と、鼠や季節外れの蝶、汚らしい野良犬がこちらを見ているのを映しながら。

 

 

 

 

 

 




「で、聖杯戦争ってのは何なんだ?」

「ふむ、一般人が紛れ込むとは、困ったものだな」

「■■■ァ■■■■■ァァ■■ァァァーーーーーッッ!!!」


次回、『Fate/Sickness』。
「December 18 08:01:25」
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