Fate/Sickness   作:逸環

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第7話です。
どうぞ。


December 20 03:10:52 【暗殺者】

「何者だ!?」

 

突然の訪問者に対し、アサシンは鋭く問いかける。

手の甲に令呪がないところを見ると、どうやら『聖杯戦争』に参加しているマスターというわけではないのだろうが、それでも男―――アラスターが持っている方位磁石の様な器具からは魔力が感じられ、その針は自分を向いている。

彼の言葉を信じるならば、恐らくだがそれはより大きな魔力の在処を指し示す道具なのだろう。なるほど、確かに『サーヴァント』は莫大な魔力の塊。町中に『呪い』と言う形で魔力が巻き散らかされている現状でも、それは十全に機能を果たしているのだろう。

 

だが、なぜアラスターはそんなものを持ち出してまで『サーヴァント』を見つけ出そうとしたのか。

それが分からない今、アサシンの警戒心は最大級にまで達していた。

 

「何者……ねぇ?まあ、あれだわな。『聖杯戦争』に乗り遅れちまった、哀れな魔術師ってところだな」

 

苦笑いをしながら、『令呪』のない両手をプラプラと見せつけるアラスター。

 

「……その魔術師が、我々に何の用が?」

 

「いやな?最初はどいつからか適当な参加者ぶちのめして、『令呪』と『サーヴァント』をぶんどっちまおうと思って魔力計片手にウロウロしてたんだがよ。ああ、魔力計の指し示す方向に使い魔を放ったりもしていたな。んでだ、何組かぶちのめせそうな相手を探してたんだが、どいつもこいつも『サーヴァント』が警戒してたり、魔術師本人が無駄に高位だったりで獲物にするには少々辛すぎる連中ばかりだったんだが……お前たちがビンゴだったよ」

 

そう言いながらコートのポケットに魔力計をしまい込み、ジーンズの尻ポケットから煙草とライターを取り出して火を点す。一息肺に取り込んで、それを美味そうに吐き出しながら、今度はアラスターから質問をする。

 

「でだ、俺はそこのマスターらしい奴を助けられるぜ?代わりにその『令呪』を俺に全画譲り渡すのと……アサシンだよな?お前と俺で再契約してもらうっていう条件だがな。なんなら、『自己強制証文(セルフギアス・スクロール)』を書いても良いぜ?」

 

「ッッ!!」

 

自己強制証文(セルフギアス・スクロール)』。それは魔術師が術者本人の魔術刻印を用いて使用する、制約をかけるための『呪い』の一種。宣誓者の血液と魔力で書かれるそれは、たとえ宣誓者が死のうとも次代に残される魔術刻印を介して、その死後の魂までも縛り付ける、魔術師としては交渉ごとにおける最大級の譲歩の形。

それを使用してでも、彼はこの戦いに参戦しようとしている。

アサシンは迷っていた。ここでこの要求を呑めば、少なからず今のマスターである慶次の命を助けることはできる。だが、それは自分の一存で決めることはできない。

曲がりなりにも慶次は、自分でこの戦争に参加すると決めたのだ。彼では理解しがたいだろう、自分の願いを受け入れてくれたのだ。

その彼を、慶次をないがしろにできるわけがない。

 

「……マスターの体調が、少しでも良い時に相談させていただきます………」

 

「俺は良いが、そいつにそんな時間があるのか?」

 

「ッ!」

 

アラスターの言葉に、思わず詰まってしまうアサシン。

それもそうだろう。現に今も、刻々と慶次の体調は悪化しているのだ。

ここから少しでも快方に向かうことは、これが『呪い』であることを加味して考えるとまずありえないだろう。

それでも、逡巡してしまう。

 

「まあ、俺は他の部屋で見かけたこいつの家族に呪い除けの魔術かけてくるから、その間に考えてくれや」

 

「………慶次殿のご家族を…?」

 

「何、ついでのサービスだ。俺を信用してもらうためっていう目的もあるしな。……ああ、あと灰皿も欲しい」

 

そう言うとフラッと扉の向こうへと消えていくアラスター。

後に残されたアサシンは、ベッドに横たわる慶次の横顔を見る。

病に苦しみ、珠のような汗を流す彼の額をタオルで拭きながら、アサシンは思い耽る。

果たして、アラスターの言うことを聞くべきなのだろうか。

そうこうしていると、

 

「……アサ…シン…………」

 

「慶次殿!?意識が戻られたので!?」

 

ふと、慶次の意識がおぼろげながらも回復した。

それでも、焦点がしっかりと合わない目で、アサシンを見止めると掠れた声を喉から出しながら口を開いた。

 

「……夢を、見ていた気が………するんだ…。いや……違うのか……」

 

「慶次殿…!あまりご無理はなさられると……!!」

 

「なあ……アサシン……。俺が…このままでいる……と…、お前の…願いが叶えられない……だろう……?」

 

「先ほどの話が…聞こえていたのですか……!」

 

「うっすらぼんやり……な……。………俺はあの話…受けようと思うんだ……。だから……」

 

「慶次殿!!」

 

苦しみの中で、無理やり笑顔を作って彼は告げる。

 

「…………絶対に、願いを叶えろよ…………」

 

「……分かりました!」

 

そこで彼の、慶次の意識はまた途絶えた。

そして部屋の扉が、再び開かれる。

 

「話はついたみたいだな」

 

「……ええ」

 

「良し」

 

左手に慶次の父親のものであろう灰皿を持ちながら、アラスターが部屋に入ってくる。

そのまま令呪の宿る慶次の手に自分の手を重ね、自身を魔術師として意識を切り替えるための、魔術回路を起動させるための、精神的なスイッチを切り替えるためのトリガーを発する。

 

「『Load(装填)』」

 

イメージするのは、リボルバーの弾倉に銃弾を込めるヴィジョン。

それにより彼の魔術回路が起動し、総数15本の魔術回路から魔力が生成される。

この15本という数は、12代の歴史を重ねる魔術師の家系のであることを考えれば、尋常ではなく少ない。

それでも、この少ない魔術回路こそが彼を魔術師としてたらしめる。

重ねられた手が淡く光り、徐々にアラスターの右手に三画の図形が、令呪が現れて来る。

そして光が消えその手がどけられた時、慶次の手の甲には何もなかった。

 

「……ふう。本来は令呪の移譲は持ち主がやらなきゃ魔術回路にダメージがいくとか聞いたが、どうやら大丈夫だったろうな」

 

ぽつりと、安堵したようにアラスターが呟く。

本来ならば彼の言葉通りになったのかもしれないが、今回は違った。

理由としては第一に、既に慶次には令呪を譲渡するという意思があったこと。

第二に、慶次が魔術を知らないため、抵抗力がなかったことなどがあげられるだろう。

そのまま流れるように呪い除けの魔術を施すと、コートのポケットから取り出したダイアモンドを口に含み、立ち上がる。

 

「……さて、それじゃあ場所を移して再契約といこうか。30分くらいなら、まだ現界を保っていられるだろう?」

 

「ええ……大丈夫です。……ご配慮、感謝します」

 

「気にすんな」

 

これで用は済んだとばかりに部屋から出ていくアラスターと、それに追従するアサシン。

しかしアサシンだけは部屋を出る直前に立ち止まり、振り返った。

 

「……ありがとうございました。聖杯は……我が願いは必ずや」

 

それだけ言うと、黒い魔力を残して霊体化して消える。

後に残された慶次は穏やかな寝息を立てて眠っていた。

 

 

 

「よし、契約のための陣はこれでいいか」

 

アラスターが隠れ家としている民家の納屋の中で、血液で描かれた複雑な図形が用意された。

使用された血液は鶏のものを使用している。今回必要だったのは血液だけだったため、余った肉は適当に調理してしまおうかと考えながら、最後の確認が終えられた。

 

「じゃあ、陣の中央に立ってくれ。ああ、線は踏まないようにな」

 

「分かりました」

 

安定した爪先立ちで線を踏まないように、陣の中央へと進んでいくアサシン。

そして中央に立ったのを確認したところで、アラスターが令呪の宿る右手を翳す。

 

「……告げる!汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に!聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら我に従え!ならばこの命運、汝が剣に預けよう!!」

 

「アサシンの名において、その誓いを受けましょう……。魔術師殿、貴方が私のマスターです」

 

令呪が輝き、そしてアラスターとアサシンの間で魔力を供給するためのパスが繋がれる。

これでアラスターとアサシンの契約は完了した。

 

「よしよし、首尾よくいったな」

 

問題がないことを確認して、笑顔で何度か頷くアラスター。

それに対し、アサシンとしては今後の方針の確認がしたいと思い、声をかける。

 

「ええ、そうですね魔術師殿。それで、これからどうす「令呪をもって、(・・・・・・・)アサシンに命ずる(・・・・・・・・)」……は?」

 

だが、それは途中で遮られた。

アラスターの言葉と、令呪の放つ光によって。

 

身動き一つとるな(・・・・・・・・)

 

「なっ!?」

 

令呪の持つ『サーヴァント』への絶対の命令権が発動し、令呪一画を消費してその効力が発揮される。

突如全く身動きが取れなくなり、戸惑いと焦燥の声を上げるアサシン。

かろうじて動く目だけでアラスターを見ると、その眼は冷徹な魔術師の(・・・・)眼をしていた。

 

「『Load(装填)』」

 

再び励起するアラスターの魔術回路と、それに呼応するように輝き始める陣。

ここでアサシンは気付いた。

先程、再契約の時にこの陣は、何の変化もなかった(・・・・・・・・・)ということに。

 

「暗殺者の英霊を糧に、今再び王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せん。我が命運は汝に預け、汝に託す」

 

「ヌグァッ!!?」

 

そうしている間にも、胸元から取り出したネックレスチェーンに繋がれた指輪を掲げ、アラスターは詠唱をしていく。

詠唱が進むごとにアサシンの肉体は、魔力で編まれたその肉体は徐々に結合が解かれてゆき、黒い魔力の光とともに消えていく。

 

「き、貴様まさか!?」

 

「誓いをここに。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

アサシンの激昂を意に介さず、淡々と詠唱を紡ぐアラスター。

既にアサシンの肉体の大部分は失われ、胸部から上が残るのみとなっていた。

荒れ狂う魔力の嵐の中、アサシンは叫ぶ。

 

「貴様私たちを騙したな!!?狙いは私の霊核だけだったのだな!?」

 

アサシンの願いを、慶次の想いを踏み躙られた。

そのことに対し、彼は怒る。

勿論、アラスターがこの様なことをした理由はある。

『第三次聖杯戦争』以降、各地で行われた聖杯戦争の中で、アサシンのクラスの『サーヴァント』は――――正確には『ハサン・ザッバーハ』と呼ばれる英霊たちは、その特徴故に対策を既に練られ切っていたからだ。

アサシンと言うクラスのサーヴァントは、聖遺物を用いでもしない限りはそのクラス名こそが触媒となり、候補も含め十八人以上いる『ハサン・サッバーハ』たちのどれかを召喚するようにできている。

そのため、何度も『聖杯戦争』が繰り返される中で、その度に召喚されてきたハサンたちは対策が練られてしまっているのだ。

それは今回召喚された、『狂想のハサン』と呼ばれた彼も例外ではない。

事前に過去に行われた『聖杯戦争』の記録を学んでいたアラスターも、初めて見たこのハサンを『狂想のハサン』であると看破できたほどなのだから。

それ故にアラスターは、そのリスクを避けるためにハサンを生贄として新たなるアサシンを召喚しようとしているのだ。

これは完全にハサンの想いを無視した、アラスターの強行だ。

だからこそ額から汗を流しながら、その怒りを振り切るように最後の詠唱を唱える。

 

「……汝三大の言霊を纏う七天ッ!!暗殺者の英霊の御霊を喰らいてッ!抑止の輪より来たれ!天秤の守り手よォォォッッ!!」

 

「アアアアアァァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

最後の詠唱が終わった瞬間に、アサシンは断末魔の叫びを残してその姿を完全に消した。

残ったものは、その霊核のみ。

そして周囲に漂う魔力が、先ほどまでは外に向けて吹き荒れていたのに、今度は内側へと。霊核へ向けて一気に収束する。

濃密な魔力の奔流と光に姿勢を崩しながらも、アラスターはその目を外さない。

その結果を見届けるために。

そして、魔力の奔流が止んだとき、それはそこにいた。

 

「………わたくしを召喚されたのは、貴方様ですか?」

 

「……ああ、そうだ」

 

それは、女性だった。

見る者全ての目を奪うであろう、膝まで届く豊かな金髪と角度によって色が変わって見えるハシバミ色の瞳と盛り上がった胸の、美しい女性だった。

 

「アサシンのクラスで召喚されました、『ルクレツィア・ボルジア』ですわ」

 

「俺は『アラスター・ウィールドン』だ。まあ、よろしく頼む」

 

お互いに名乗り、完全に契約が成立され魔力供給のためのパスが接続される。

今ここに、この『春日の聖杯戦争』における、真のアサシン陣営が誕生した。

 

 

 

 

 




今回はいつもの次回予告風の後書きではなく、慶次・ハサン陣営のステータスとプロフィールを紹介します。



真名:ハサン・サッバーハ
クラス:アサシン
属性:秩序・悪
ステータス:筋力・B、耐久・C、敏捷・B、魔力・D、幸運・C、宝具・C
スキル
気配遮断:C
気配を消し去り、自らを隠匿するスキル。
本職である彼のランクが低いのは、その生前の性質が原因である。
狂信:A
特定の何かを周囲の理解を超えるほどに信仰することで、通常ではありえぬ精神力を身につける。
トラウマなどもすぐに克服し、精神操作系の魔術などに強い耐性を得る。
信仰の加護:A+++
一つの宗教に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の信心から生まれる精神・肉体の絶対性。
ランクが高すぎると、人格に異変をきたす。
宝具
狂想狂信(ザバーニーヤ):ランク・C
対人宝具
過度なまでの狂信により、自身にスキル狂化・Bと怪力・Bを付与する宝具。
この宝具によって狂化されると、マスターの令呪なしには解除することができない。

容姿
髑髏の仮面を被った、全身黒づくめの大柄な男。
大振りのハンマー二つを武器としている。

概要
生前山の翁と呼ばれた『ハサン・サッバーハ』の一人。『狂想のハサン』。
その過剰なまでの信仰心によってバーサーカーとなり、暗殺者でありながら正面から敵を叩き潰すことが得意だった。
聖杯に賭ける願いは、自分が信仰する神以外の全ての宗教の根絶。


アサシンマスター
名前:日向 慶次
属性:不明
起源:不明
性別:男
年齢:16
願い:大金を手に入れる(実際は特にない)
みっともなくはない程度に整えた、ショートヘアの高校生。基本はジャージ。偶々令呪が宿った一般人。先祖の誰かが魔術師だったため貧弱極まりないが、一応魔術回路は持ち合わせている。アラスターが遅かったため聖杯が数合わせに選び、他の参加者が使用した召喚陣の近くに来た際、召喚陣が起動しての召喚となった。そのため聖杯戦争自体に対する知識も意気込みも元々なく、取りあえず短絡的に大金が欲しいという願いを目標に、なあなあで参加することに。
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