OVER TIME   作:アサルトゲーマー

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めぐねえが不憫すぎるので強化して再スタート。
セーブポイントは雨の日に噛まれた所から。



○めぐねえ ×めぐねぇ


Survivor

 扉を閉める。錠を閉めて、そのまま鍵を折った。

 

 これはきっと罰なのだ。

 知っていた訳では無い。知らずに加担していただけ。だが、それでも。

 

「めぐねえ!ここを開けてよっ!めぐねえっ!」

 

 扉の向こうから何も知らないゆきさんの声がする。もし戻れるのなら『そちら側』で居たかった。しかしこの左腕の噛み傷がそれを拒む。

 『彼ら』に噛まれてしまえば最期、わたしもゾンビのようにさまよい歩く屍になるのだと思う。

 

 私という人生はすぐに終わりを迎えるだろう。だが、私にも意地というものがある。

 

 ぎゅうと金属バットを握りしめ、私に噛み傷をつけたゾンビの頭に思い切り叩きつけた。高校野球でよく聞く高い金属音が響き、彼は複数のゾンビを巻き込みながら吹き飛んでいく。思い切りバットを振り回したせいか左腕がじくりと痛んだ。

 音によってさらに複数のゾンビが私に向かって襲い掛かってくる。私は再びバットを振りかぶり、勢いよくゾンビに叩きつける。

 後ろから肩を噛まれそうになった。すぐに腕を捻って投げ飛ばした。

 ゾンビに足を掴まれた。そのゾンビはすぐに頭を踏みつぶした。

 押し倒された。逆にマウントを取ってバットを何度も振り下ろした。

 

 気が付いたら周りのゾンビは一人たりとも立ってはいなかった。中身をぶちまけて既に動かなくなっているか、立てなくなって地面を這っているかの二種類だ。

 扉の向こうからは未だに私の名を呼ぶ声が聞こえる。だが、私はもう…。

 

 もはや私に帰る場所は無い。ならばせめて、誰も知らない場所でこっそりと、最期を迎えよう。

 

 足を引き摺りながらシャッターを潜り、暗い階段を抜けて到着したのは地下一階の雨水貯蔵施設。『緊急避難マニュアル』に載ってあった場所だ。

 辿りついたことで緊張の糸が切れたのか、私は一歩も動けなくなった。

 少し眠ろう。そうすればきっと、私はもう終わっている。

 

 

 

 

 

 目を覚ました。体がブルブルと震えている。すごく寒い。

 左腕を見ると赤黒く染まっていて、いまだじくじくと血が流れ出ている。

 なんだかお腹が空いた。難しい事が考えられない。それがとても恐ろしい。私が私でなくなっていっている。

 やはり最期は待つのでは駄目みたいだ。自分の手でけじめを付けないと。

 雨水貯蔵施設の向こう、地下二階にある本来の避難場所まで足を引き摺りながら歩いていく。予想はしていたが誰も居ない。鈍器のようなものでは無く、ナイフやロープの一本でもあれば私の決着を付けられる。そう思い中をさまよい歩く。

 そしてロープに吊るされた死体を見つけた。教頭先生だ。

 

 途端に死ぬのが怖くなった。そして死を受け入れるということが逃げであることに気が付いた。

 教頭先生が使っていたであろう机には遺書らしきメモと医薬品が転がっていた。メモ曰く、望みはない。

 学園生活部を設部して四人で生活していても希望は見えにくいものなのだ、一人でいた教頭先生は希望を見いだせず絶望に押しつぶされた。

 だが私には未だ大人としての矜持がある。教師として、学園生活部の顧問として、生徒を導く義務がある。

 ……違う。最早彼女たちは私の生きる目標だ。

 

 再び体が震えだした。血を流し過ぎたのだ。

 私はここにある医薬品の箱を開いた。中には止血剤と包帯、消毒液が入っていたので応急処置を施す。最後に抗生物質が無いか探していると一つの注射器があった。

 

「試薬…」

 

 ラベルには対感染症試薬Ωと書かれていた。少なくとも抗生物質ではないだろうけど、このゾンビ化に対するワクチンの可能性はある。合っているかどうかは解らないが外れた所で副作用を気にする余裕などない。残った道は二つ、このまま『彼ら』のようになるか、これに賭けるか。

 私は一瞬のためらいの後、針を腕に刺して中身を押し込んだ。

 それからしばらくの記憶はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと目を覚ました。何気なく腕に指を這わせると、少し筋張っていたが出血は止まっていた。

 何時間経ったかは確かではないが、口の渇き具合からかなりの時間が経っていると思う。腕時計を見ると朝は既に回って昼の1時だ。

 

「助かった……の?」

 

 そう思うと涙が溢れてきた。まだ私は皆の教師で居られる、それが堪らなく嬉しい。しかし私はこの感染症について知らなさすぎる。一番最初に見たゾンビは発症まで直ぐだったけど個人差が少ないとは言い切れない。

 学園生活部の皆とは合いたいが、いまだ感染症から完治したとは言い切れない私は少しの間距離を置くべきだ。

 

「ごめんね、みんな…」

 

 一人でいると、いろんな後悔が私を押し潰そうとしてくる。涙が顔をぐずぐずに汚していく。

 私は首に提げたクロスを握りしめて孤独に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨の日から三日経ったある日。

 一つの防火壁の前で悠里がドライバーとヘアピンを使ってドアノブの鍵を開けようとしていた。後ろでは胡桃がシャベルを持って待機している。

 この防火壁こそ学園生活部と慈の運命を分けた物であり、この扉の向こうには慈がいまだに取り残されている。

 取り残されていると思い込もうとしている。

 カリカリと鍵穴を回すこと数十回、錠がカチリと音を立てた。

 

「……開いたわ」

 

 いっそ開かない方が良かったのに。そのように思いながら悠里がドアノブを回し、扉をゆっくりと開ける。

 そこは血だまりだった。中身の見える死体がそのあたりに散乱している。あまりの惨状に悠里はうっと口元を押さえた。

 

「めぐねえは、いないな」

 

 後ろから覗き込んだ胡桃が死体を眺めながら言った。確かにあの特徴的な髪色の女性は倒れていない。なら、一体どこへ?どこかで行き倒れたか、歩く死体と化したのか。

 悠里と胡桃は互いに顔を合わせ、頷き合った。

 

「めぐねえを探そう」

「ゆきちゃんには悪いけど、そうしましょう」

 

 二人は防火壁の内側に入ると扉を閉めてから探索を始める。中は思ったよりゾンビは少なく、孤立したゾンビを誘い出して始末していくことで殆ど音を立てずに前進できた。

 

「ここにも居ない」

 

 半分ほどの部屋の中を見て回った胡桃が吐き捨てるように言った。胡桃はその場にあった椅子にドカリと座りため息を吐く。あまり由紀を一人にはしたくないし、めぐねえを見つけるのも正直怖い。彼女は今日はこの辺にしとこうと悠里に相談しようとした。

 その時である。

 カツンと気味の良い金属音が廊下に響いた。中が空洞の、たとえば鉄パイプや金属バットを壁のような硬いものに軽くぶつけた様な音だ。

 そういえば、と悠里は思う。めぐねえはあの時、金属バットを持っていたではないか。

 

「くるみ」

「ああ、わかってる」

 

 姿勢を低くして教室の窓から外を覗き見る。そこには二人のゾンビがいた。片方は両手を突出し猫背で歩く茶髪の男。もう片方は金属バットを持ってフラフラと覚束ない足取りで歩く、血濡れの慈であった。

 二人の顔には絶望が浮かんだ。ある程度というよりは、殆ど確信していた出来事である。だがまざまざと見せつけられるということは想像以上に傷つくものだ。

 その場に力なく座り込む悠里。しかし場所が悪かった。割れていたガラスが擦れあって大きな音を立てたのだ。

 二人のゾンビがそちらを向いて、茶髪の男が窓から腕を突っ込む。

 

「おい!りーさん!」

 

 絶望した悠里は簡単に捕えられた。それを見た胡桃が急いで助けに行くが間に合いそうもない。

 万事休すか。そう胡桃が思った瞬間、茶髪の男の頭が吹き飛んだ。

 

「──え?」

 

 男の頭があったところには金属バット。そして。

 

「ごめんなさい二人とも。心配かけちゃったわね」

 

 泣きながら微笑む慈の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 ───昔、兄とこんな言葉を交わしたことがある。

 

 ねえ兄さん、ゾンビってなんでゾンビを襲わないのかしら

 メグミ、そりゃ人が人っぽい動きをしているからだろ

 じゃあゾンビっぽい動きをすれば襲われないって事?

 そうなるんじゃないのか?昔のコメディ映画とかじゃよくあったけどな───

 

 

 

 兄の言うとおり、ゾンビの真似をして歩くと襲われることは無かった。ただし、ゆうりさんとくるみさんにはとんでもなく迷惑を掛けたみたいだけど。

 

「わあああん!めぐねえ!めぐねえー!」

「はいはい、めぐねえはここに居ますよー」

 

 ゆきさんが腰にかき付いてわんわんと泣きじゃくる。佐倉先生でしょ、という無粋な言葉は飲み込んだ。今はゆきさんのしたいようにさせておこう。

 

「もう!本当にビックリしたんですからね!」

 

 プンプンと、頭から湯気を出しそうなほど怒っているのはゆうりさん。私がゾンビ歩きをしている所をうっかり見かけたせいで魂が抜けるほど驚いたらしい。

 ……確かにゆきさんとかがゾンビ歩きをしていたら、私だったらそのままポックリ逝くほど驚いているかもしれない。彼女の怒りようもしっかり理解できるから後でしっかり謝っておかなくちゃ。

 

「でも無事だったからよかったじゃん、な?」

 

 白い歯を出しながらこちらにウインクを飛ばしたのはくるみさん。彼女は私が無事に戻ってきたことをとても喜んでくれていた。

 騙しているような罪悪感で心が抉られるような気持になるが、笑顔を作って微笑み返す。

 

 そうだ、私はまだ全てを話した訳では無い。

 

 罪には罰を。

 

 私は罰を受けなければならないのだ。

 




みーくんと合流するまで続きます
多分鬱ストーリーにはならない
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