私の罪はいつから始まっていたのだろうか。
この学校の教師になった日?それともこの学校の真実を知った日?それを知る術は無く私は更に多くの罪を重ねていく。その罪は風船のように膨らんでいき何時か限界が来るのだろう。その時の私はきっと、弾けた水風船のような姿の筈だ。
誰か私に罰を。そして願わくは生徒たちに救いを。
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学園生活部の寝室。ここはかつて資料室だったが今は寝具や私物が置かれた生活空間だ。ぬいぐるみが置かれたり衣類の入ったダンボールが置いてあったりと、そこは視覚的にもにぎやかな場所になっている。
そこでは朝になっても未だ掛け布団に包まっているダメ教師と鼻歌を歌いながら着替えをする頭の緩そうな生徒がいた。
「めぐねえ、おっはよー!朝だよー!」
頭の緩そうな生徒、由紀はダメ教師の被る布団を引っぺがした。ダメ教師こと慈は残されたマットレスの上で縮こまりながら布団を取り返そうと包帯の巻かれた片手をフラフラと彷徨わせる。
「ううん…あと五分…」
「さっきも言ってたでしょ、もー!」
寝癖がついて髪がボサボサの教師の醜態を見た由紀は腰に手を当てながら頬を膨らませながら怒り、それから慈を揺すった。しばらく揺すられて頭が覚醒してきたのか半目の状態で上半身を起こし、大あくびをする慈。
「……おはようございまふ」
「もう、めぐねえはやっぱりめぐねえだなー」
なんれふかそれー、と呂律の回らない口で反論するものの、慈は再び大あくびをする。それを見て由紀は笑いながらこう言った。
「めぐねえ、御寝坊さんはよくないよ!早起きはサイモンがトクって言うでしょ?」
「『三文の徳』れす…」
そう言うと慈は再びマットレスに倒れ込んだ。
「珍しいこともあるんだなーめぐねえが寝坊なんて」
「はうう、面目ないです…」
朝の学園生活部部室では既に悠里が朝食の準備をしていた。慈は部室の真ん中にある長机の席に付き、向かいに座った胡桃に赤い顔を見られないよう俯いている。
そのさらに背後では由紀と悠里が肩を並べて配膳の準備をしていたが、ふと悠里の動きが止まった。
「………」
「りーさんどうしたの?」
「ううん、何でもないわ」
何か違和感を感じ取った由紀に悠里は何でもないと返す。その瞳は揺れていたが瞬きを数回繰り返すといつもの優しい笑顔に戻っていたので由紀はそっかーと軽く返した。
しばらくして朝食が完成し、由紀が「今日はンキチラーメンだよー!」と元気よく配膳を行う。その配られた鉢の中には鶏ガラのいい匂いをさせるラーメンとメイドイン屋上の白髪ねぎ、そして少量のメンマが乗っていた。
「お、メンマじゃん!りーさんこれどこから?」
「めぐねえが職員室で見つけてきてくれたのよ。誰かの私物だったみたいだけど腐らせちゃったら勿体ないからって」
「メンマ持ち込むとかどんな猛者だよ…」
胡桃はメンマの所在について興味を持ったが悠里の答えであきれ返った。そして追い打ちを掛ける様に慈が片手をあげる。
「た、たぶん神山先生だと思うの…いつもカップラーメン持ち込んでたし、薬味も持参してたから」
「英語の!?マジか!」
胡桃は頭を抱えてウガーと唸っている。話に出てきた件の神山先生とは英語の教師であり、慈ほどではないものの、生徒から一定以上の評価を受けていたしっかり者である。そんな先生が学校にメンマを持ち込むようなラーメン狂だったことに胡桃は大層衝撃を受けたのであった。
「まあまあくるみちゃん、メンマに罪はないんだからさ」
しかし由紀は幸せを噛みしめるようにラーメンを食べていた。子供のように掻き込むのではなく、じっくり味わうように。
ニコニコしながら食べる彼女の姿を見た胡桃は「まあそうなんだけどさぁ」とブチブチ言いながらメンマを齧る。そしてそれが美味しかったのか、空腹を思い出したのかのように二口、三口と食べ進めていく。
「美味いじゃん…」
さすがラーメン狂、と胡桃は驚愕で目を見開きながらラーメンを平らげていく。
「ふふ、喜んでくれてるみたいで良かった」
その姿を見て微笑む慈。しかし悠里だけはその微笑みを訝しげな瞳で見ていたのだった。
夜。人と殆どのゾンビは寝静まる時間。
そのような時間帯で、学園生活部の寝室で蠢く影があった。
慈である。
由紀を起こさないようにそっと握った手を解き、音を立てないようにそっと起き上がった。忍び足でこの部屋唯一の出入り口である扉の前まで歩き、一度振り返る。
視線の先には守るべき生徒たち。慈は囁くような声量で行ってきますと言った後、静かに部屋を後にした。
薄目を開けた悠里に気が付かないまま。
「やっぱり」
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犠牲は私一人で十分だ。こういった思想こそが私の罪の一つなのだろう。私はゾンビの後ろからバットで組み付いてなるべく音を立てないように首の骨を折った。
動かなくなったゾンビを引き摺り、購買への通り道から外れている教室の中に押し込む。これで今日は三人目。
不思議なことに、彼らを手に掛ける度に自分が強くなっている。一週間前は彼らの死体を運ぶのですら四苦八苦していた私が、今は片手で悠々と引き摺れているのがいい証拠だ。
体格が変わった訳では無い。筋肉が付いたわけでもない。それを恐ろしいと感じる反面、生徒たちを守る力になるのが嬉しい。そしてそのたびに私は新しい罪を背負うのだ。
「これが私の罪」
教室の中は死体の山で埋まっていた。中には見知った人物も混ざっている。私は自らの罪を再認識するように目に焼き付けた後、購買へと足を向けた。
さあ、今日は何を持ち帰ろうか。
昨日は失敗だった。咄嗟に神山先生がラーメン好きであることを思い出せなかったら、くるみさんに怪しまれていたであろうから。できれば教室で見つかってもおかしくないもので、皆が喜んでくれるものがいい。
あまり遅いとまた寝坊してゆきさんに大人らしくない姿を見せてしまう。さあ、急がなくては──。