経営ピンチの亡国機業
裏稼業で色々と暗躍する
と言うのも
隠れ蓑たる表会社が潰れては
裏稼業の収入と言うものはピンからキリまで様々。安定しない、ハイリスクローリターンがザラである。不況の波と運の悪さが重なったか、大打撃を受けた
◆
とある下宿施設。ボロくて格安。別に売りにしてるわけではないが、
つまりそれだけ
ボロくて格安とは言葉の通り、日本の古い下宿としてその言葉はピッタリである。
施設の全容はとって付けたような引き戸の共有玄関、そこから奥に伸びる廊下、左右に配置された個室と奥には共有広間があるのみ。入浴施設は少し離れた場所の銭湯に頼り切り、建物とは別で外に共有便所が1つ設置されている。
部屋は全部で6つ。壁は薄く隣の部屋の物音まで聞こえる。板張りの廊下はいつでもギシギシと軋んだ音を上げる。建物のあちこちから隙間風が入って来る。暖房も冷房もない。
ここに泊まり込んでいるのは3人。スコール一派と呼ばれる、
スコール・ミューゼルを筆頭にオータムとMが所属するこの小さな派閥。主に日本での活動を目的とした所なのだが、最近の所仕事がないのが悩みだったりする。つまり給料が出ない。
これを危惧した3人は長期バイトに日雇いバイトとフリーター生活を余儀なくされ、今日も今日とて疲労困憊のまま下宿先でぐったりとした生活を送るのである。
深夜11時。引き戸の開く音がする。ただ開くだけの音だと近所迷惑かと言われかねない程にデカい音を出すのがこの引き戸だが、その戸を開けた張本人もあらかじめわかっていたらしく、戸の開く音は普段からすれば静かだった。
「……うっそ、もう11時かよ……」
帰ってきたのはオータム。Tシャツにジーンズというラフな格好だ。
コンビニの袋を右手に抱えた彼女はバイトの帰りであった。左手の腕時計を暗がりで目を凝らして見れば短針は11を回ったところ。まだ体を洗ってないので銭湯に行かなければならないのだが、あそこは深夜12時には閉まってしまうのだ。
「腹減ったぁ……けどシャワー先だよな」
1人そうごちて靴を脱ぎ中へ。なるべく音を立てないよう廊下をそろりそろりと歩き向かった部屋は右手側中央。木製の若干くたびれた扉。少しがたつくドアノブを捻って開け中へ。
部屋の広さは6畳。畳張りで窓が1つだけ。家具はこれまたボロボロの木製クローゼットが1つ。あとは床に散らばる衣服が見えた。
「Mぅ…………」
怨みったらしくオータムは呪詛のように口端からそう漏らした。その顔の表情と言ったら般若だ。
部屋では既に先客がいた。オータムがMと呼ぶ、同じ
で、そのMだが、彼女は部屋の半ばでうつ伏せに倒れ寝息を立てていた。髪はボサボサ、脱ぎかけなのかズボンが半ばまで下ろされたところで止まっている。因みにヨダレで畳が濡れていた。
見るに疲労困憊で帰ってきて寝落ちしたとかそういったオチだろう。しかしただでさえ少ないスペースのど真ん中で堂々寝られるのは頭に来た。
「チッ、くそが……」
仕方なく、ずりずりと畳の上を転がし引きずり押し込み部屋の端へ。脱ぎかけのズボンは全部脱がせてたたみ部屋の隅に置き、今度は壁際にたたまれた布団から枕とタオルケットを出してきてMにかけた。
当初であれば蹴り起こしてたが、今はもうしなくなった。やれば喧嘩になるし、その喧嘩も体力と精神力と時間の無駄になるとわかったからだ。互いに自分の今いる環境がギリギリだと理解しているからこそ、嫌いな相手でも抑えることができた。
「ん……ぅ……むぅ……」
「っ」
Mが唸る。起こしてしまったか、なんて一瞬身構え、
「……すぅ……すぅ……」
ホッと一息。起きてないらしい。セーフ。
なるべく音を立てないようにタオル、石鹸、シャンプーを用意。まとめて桶に入れ、コンビニの袋と一緒に持って部屋を出る。一度共有スペースに行き、共有冷蔵庫に一番安かったのり弁を突っ込む。もう何日続けてこれを食べているかは忘れた。とにかく節約の為に一番安いのを買っているのだからと自分に言い聞かせる。
冷蔵庫を閉め、さて銭湯に行こうかと思ったところで引き戸が開く音がした。誰か帰って来たらしい。
スペースを離れ玄関へ行くと、そこにはスーツ姿の女性が。ウェーブがかった金髪と大人びた顔立ちが実に妖艶だった。機会があればきっと美人OLとして紹介されるくらいには。
「あ? スコールか」
「あら、オータムじゃない。ただいま」
スコール・ミューゼル。オータムとMの直属の上司である。
彼女は3日前から
「結構早かったな。1週間は向こうにいるんじゃなかったのか?」
「色々と急な案件でてんやわんやだったのよ。それに早かったことについても話があるの。Mは?」
「部屋で寝落ちしてっけど」
「どうせ体も洗ってないんでしょうね。話のついでに起こして、銭湯に行きましょう。行きがてら話すわ」
と言うことで一度部屋に戻る。狭い部屋故に3人も集まるとなると、スペースがかなり狭く感じられた。
「エム、起きなさい。エム」
部屋の隅ですやすや眠りタオルケットを被って丸くなるエムをスコールが揺する。
「ぁぅ……あ、かんばん……ほえぅ、がぁ……」
が、起きない。寝言も意味不明だし、今はがっつり夢の中らしい。
「コイツ、蹴り起こして……」
「やめなさいオータム。貴方たちそうやっていつも喧嘩するでしょう」
「うぅっ……すまん……」
オータムが前に出ようとして、制される。上司であり尊敬するスコールにはオータムも逆らえなかった。何より彼女の言い分は正しい。
「こういう時はね、これよ」
「……それMのケータイじゃ……」
「ご名答。彼女は毎朝6時にアラームをセットしてるわ。だから、」
型落ちしたガラケーを弄り、サウンドを選択。その中から“目覚まし時計2”と表記されたものに合わせた。
「鳴らせば条件反射で起きるわ」
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ――――――――、
「ふがっ!?」
突如、うつ伏せだったMが飛び起き、慌てて辺りを見回す。と、すぐ枕元に置かれたガラケーを掴み時間を確認。起き抜けのまだ開き切ってない細めで画面を注視し、
「は、ぁっ、あぁっ、遅刻ぅ……!? ず、ずぼっ、ズボン……靴下ぁ……」
11時12分の文字を見て絶望。バタバタと一瞬その場で手を振り、それからズボンを探す。部屋の隅にたたまれたソレを掴んで履き、靴下も探す。まだ目がしょぼしょぼとしてるのか半分も開いていない。
左右種類の違う靴下を覚束ない動きで何とか履き終え、寝惚けてよたよたとした足取りで立ち上がり、かけてふらりと体制を崩して転び頭から枕に突っ込んだ。
「ブフッ……ぐ、くっ……ふ、ふぅぅっ……!!」
その光景に耐え切れず、オータム噴き出す。
「……ぉぉぉぉ……あ、……すこぉる……?」
と、そこでようやく気付いたか、枕から顔を上げたMがスコールとオータムを見付けた。
「……こんばんは、エム。忙しそうね」
「え、……あぁ……バイト…………ああっ、バイト!! 遅刻だ!!」
「そう。それは大変ね、23時なのに」
「たいへ…………あ?」
「そこに窓があるわよ」
「ま、ど……」
惚けた顔で、Mが窓の外を見た。外は真っ暗だ。
「…………嘘だろぉぉぉぉぉもぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ……!!」
「アハハハハハハハハッッ!! ひっ、ひぃぃぃっ、ひっ、ははっ、あははははははははっっ!?」
「起きたのに不貞腐れて布団に戻るのは止めなさい、エム。あとオータムも面白いからって笑っちゃ駄目よ。夜中なんだから抑えなさい。私だって笑いそうなんだから」
「何だよぉぉぉぉぉぉ折角人が寝てぇぇぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
「重要な話だからよ。あと貴方体洗ってないでしょ。銭湯行くから準備なさい」
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…………、」
そこから大爆笑のオータムの抱腹具合が治るまで5分程かかり、3人はようやく銭湯へ。すっかり暗くなった団地の中を、疎らで薄暗い街灯だけを頼りに進む。因みにまだMは不貞腐れて機嫌が悪かった。
「で、その急な案件ってのは?」
「
「へぇぇ……買収ってなんだ?」
「そうね、教養のない貴方に難しい言葉使うんじゃなかったわ。簡単に言うと
「…………それって大分ヤバいこと……じゃないのか?」
「ない頭捻ってくれて助かるわ。でも問題はないから安心して。これで経営が持ち直す可能性が高いのよ」
「何っ、じゃあこの生活をしなくても良くなるかもしれないってか!?」
「ええ。上の話じゃ99%大丈夫って言ってるわ」
スコールの言葉に興奮気味のオータム。それもそうだ、長らくこの生活をしてきたがいつだって苦しいし不便だった。しかし、それとももうおさらばできる。これほどに嬉しい事はない。
「買収される、か。どこにだ?」
「日本の高宮重工って言う民間企業よ。製造会社で万年黒字経営、
「それで、あわよくば乗っ取るつもりか?」
「だと良いのだけれど、ねぇ……」
「?」
「上は少し楽観視し過ぎな気もするのよ。たかが民間企業、ってね。普通の民間企業がグローバル企業を買収するなんて事例としてはまずないんだけど」
「へぇぇ?」
「わからないならわからないって言って良いのよ?」
「わかった。わからないけど。取り敢えず状況は良い方向に向かってるってことだろ? なら何だって良いじゃんか」
「それで明後日にその企業に行くことになったのよ。私達3人で」
「……何故?」
「お世話になりますって言う日本の社交辞令。ついでに高宮重工とのコンタクトは全部私達が行う事になったの」
「それついでで言ったことの方が重要度高いんじゃ……?」
「という訳で2人共明後日は予定を空けておきなさい。場合によってはバイトも明日で終わるかもしれない旨を伝えておくこと」
「いや、あの……」
なお、最後のMのツッコミにスコールは涼しい顔で流した。