窓の外では既に夜の帳が下りていた。
永琳は冷えた料理の並ぶ食卓に一人じっと座っている。彼女も、父の輝彦もとうに食事を済ませており、後は各々自由な時間を過ごすだけだ。それでも彼女がそこから動かないのは、何かを――誰かを――待っているからに他ならない。冷えかけた食事を見つめるその眼には、どんな感情が渦巻いているのか。
(全く、こんな時間まで一体何をしているのかしらあの男は)
いつもならば家にいて話しかけてくる男の姿が今は見えない。彼がこれまでにも家を空けることはあったが、それはどれも仕事や他の用事によってであり、事前に把握していたものだった。しかし今は何の言伝も無く姿を消している。彼の身に何が起こっているのかさっぱりわからない。飲み屋に引っ掛けられているのかもしれないし、何かの騒ぎに巻き込まれているのかもしれない。はたまた、どこかの女にでもホイホイついて行っているかもしれない。
「……」
そうだとしたら許せるものではない。帰ってきたら詳しく問いたださなくては……。
「……嫌だわ。ただの想像なのに、変に苛立つなんて」
お茶でも飲んで落ち着こう。
巧が理由もなくいないことに何故か不安を感じる。永琳は自分でも何故こんなにそわそわするのか、皆目見当もつかなかった。
永琳は元々身内と他人を分ける線が非常に分厚い女性であった。家族と認めた者に対しては絶対の信頼と愛を。それ以外の者は総じて価値は同じなのである。それは薬屋の常連客であろうと近所の主婦だろうと、月姫だろうと関係ない。彼女の内側に引き込まれた者以外は全てが等価値なのだ。
彼女自身はまだ認めようとしないだろうが、彼女は心の奥底で蒼威巧という男の存在を受け入れつつあった。それはつまり、巧が彼女の中の境界線を踏み越えたことに他ならない。
早く帰ってこないだろうか。永琳は何度見たか分からない時計をまた見る。そんな彼女を離れたところで輝彦が微笑ましそうに見つめていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おらっ、さっさと入りやがれ!」
薄暗い地下に男の野蛮な声が響いた。巧は背中をどつかれ前のめりに倒れる。両手を後ろで強く縛られているため受け身も取れず、衝撃によるうめき声と共に薄汚い床に転がった。
「そこでじっとしとけ。妙な真似はすんじゃねえぞ」
屈強な男は吐き捨てるように言い、鉄格子を閉じた。
「……くそっ」
巧は男を睨み付けるように呟いた。
あの後犬斗率いる「黒犬」に拘束された巧は強引にある場所へと連行された。それがこの独房のような小部屋である。広さは畳二畳ほどの本当に狭い部屋だ。しかもろくな手入れがされておらず、天井には蜘蛛の巣が張っており、そこら中に埃が溜まっている。窓も無い灰色一色の世界に巧は閉じ込められたのであった。
「おいおいそんなに睨むなって。別に一生ここに閉じ込めるわけじゃないんだしさあ」
そんな巧を鉄格子の向こうから見ていた犬斗が現れた。
巧はこの男の、どこまでも人をなめきった性質を嫌悪していた。見かけは自分より一回りほど年上に見えるが、その態度は生意気な年下を連想させる。
「ここはどこだ? お前たちは一体何しに来た?」
「……聞き方が気に食わないが、初対面ということで一つ多めに見てやるよ。ここは各町に派遣された霊力者の拠点だ。お前を襲った奴らのことだな。そんでここの地下は今回みたいに聞き分けのねえ霊力者を捕まえておくためのものだ。今お前がいる場所がそこ。そして、俺たちの目的は、月姫の命令でお前をぶち殺すことだ」
「何でここまでして俺に拘る?」
「知らねえよ。俺達は命令でやってるだけだからな。あの女が何を考えてるかなんて知ったこっちゃねえ。ま、あのプライドの塊みたいなやつのことだ。おおよその見当はつくがな」
くそ、と巧は歯を食いしばった。事態は彼の思っている以上に重い。まさか一般人が(ましてや異世界人である者が)国のトップに目をつけられる展開など思いつきもしまい。
以前永琳から聞いた現月姫の話を思い出す。彼女は持てる力に恥じぬほどの大きな国を治め、その瞳は遥か高みからこちらを見下ろしている。人を人とも思わぬ残酷なその心に巧はどう映っているのだろうか? 彼女が遣わした「黒犬」は元々いた霊力者達をあっさりと殺し、今も自分をこんな目に合わせている。
どうもここから出る良い方法が思いつかない。鉄格子は頑丈だし、両手は縛られている。犬斗達もどうもしばらくここから動く気が無いようだ。
図書館を出てからそろそろいい時間が経っている。聡明で勘の良い彼女のことだ。以前の蜘蛛穢者の件もあってもしかしたら何かが起こったと察しているかもしれない。せめてこの場所を知らせることができれば、少しはこの状況も増しにはなると思うのだが、実現性は極めて低いと思われた。
しばらくして、時間にして数十分後、地下に新たな男が下りてきた。彼は一見顔を引き締めた寡黙な男に見えるが、僅かに口角が上がっておりどこか興奮しているように思えた。
「待たせやがって……」
地下に待機していた数名の部下とカードゲームを興じていた犬斗が言った。
「隊長、朗報だぜ。そこの男の家を調べてきたんだがえらいことが分かった」
「何だ?」
「すげーべっぴんさんがいる。かなりの上玉だ。ありゃ下手したら月姫より、だぜ」
「ほぉ。そいつは確かに朗報だ。行くぞお前ら」
聞くが早く、男達は颯爽と準備を整え始めた。熱気を帯びざわつき出す地下室とは対象に、巧の心中は急速に冷え始めた。
「おい! お前らの目的は俺じゃないのか! 何であいつのところに行く!?」
「……俺達『黒犬』は一言でいうと《最悪》の集団だと言われてる。王都を歩きゃ唾を吐き捨て屑だカスだと罵られ、任務に出れば盛大に怯えられる。他の部隊からは顔も合わされない。何でか分かるか?」
犬斗は鉄格子に顔を寄せるように近づき、嘲るように、とても楽しそうな表情を浮かべた。
「それはな、俺達が人殺しが大好きで女を無理やり犯すのが大好きで家を焼くのが大好きで糞共の血を見るのが大好きでそいつらの終わった顔を見るのが大好きで人を虐めるのが大大大好きな最高の奴らだからさ」
「この屑野郎が……!」
「おうおう何とでも吠えろ。どっちにしろお前に関係する人間も殺すことになってる。ま、今のお前には何にもできねえがよお! 行くぞお前ら」
興奮に満ちたざわめきを率いて男達はその場を去った。もはや見張りすらおらず、先ほどまで騒がしかった地下牢は打って変わったように静寂に包まれている。
「見張りすらいらねえほど俺は無力ってか……!?」
悔しさと怒りで全身が燃え滾るように熱い。好きな女と世話になった恩人が危険な目に合おうとしている時に、満足に動けない自分が恥ずかしくて仕方がなかった。
ふざけんじゃねえっつうの! 沸き立つ怒りに身を任せ、全身を駆け巡る血という血が腕に集中する感覚の中、巧は叫んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「巧君今日は遅いねえ」
読みかけの医学書を机に置いた輝彦が不安げにそう呟いた。
既に日が落ちてからかなりの時間が経っている。ここまで巧からの連絡は一つも無かった。もうここまでくると何かあったと考えざるを得ない。事件に巻き込まれたのか、それとも質の悪い飲み屋にでも引っ掛けられたのか。もうこの際どちらでもよかった。とにかく巧が行方が知りたい。
もう我慢の限界だった。永琳は一旦自室に戻ると素早く着替え、足早に家を出ようとした。
「永琳! まずは落ち着きなよ。巧君が心配なのは分かるけど考え無しに探そうたって厳しいよ」
「分かってる」
努めて冷静さを出しているつもりなのだろうが、傍から見れば普段の彼女が持つ冷静沈着さは一体何処へ行ったのか。鼻息が荒いのはそれを失っている良い証拠である。
彼女は玄関口で振り返り言い返そうとした瞬間だった。
コンコン、と扉を叩く音が響いた。二人は思わず顔を見合わせる。
こんな夜遅くに客だろうか? しかもこんな慌ただしい時に……。イライラとした気持ちを抑えながら永琳が玄関の扉を開けた時だった。扉の先から突如現れた腕に首を掴まれ、彼女は苦悶の声を上げる。まるで先ほどまで扉が開かれるのを今か今かと待ち構えていたかのように繰り出された速さに、何の身構えもしていなかった彼女が対応しきれるはずがなかった。
「こんばんわ~、毎度黒犬です」
暗闇の外から現れたのは男達の集団だった。その中の筆頭である犬斗は自身が捕まえている永琳の姿を見て軽く口笛を鳴らす。
「おいおいおい、何だこのべっぴんさんはよお。こりゃ確かに上玉中の上玉だぜ」
「う……ぐ……」
苦しみの中、永琳は必死に離れようと犬斗の腕を爪が食い込むほどの力で掴んでいるが、掴まれている当人は何の痛みも感じていないようだった。
「それに気が強いときてる。気に入ったぜ」
永琳の刺すような睨みを受け、犬斗は口元のにやつきを抑えきれなかった。興奮の波が下半身を中心に広がっていくのが分かる。ぞくぞくとした熱だ。
犬斗は昔から自身に対して反抗的な女を見ると、強烈な征服感に襲われた。今すぐ目の前の女を地べたへ引きずり降ろし、跪かせたい。柔らかな肉体を骨の髄まで味わい、朽ち果てた姿を見てみたい。自分に向ける殺意に満ちた瞳を、絶望に染めたい。そんな負に満ちた感情を思うがままに爆発させてきた。時には一人を、時には数人を。二度ほど町規模の集落を襲撃し、淫に爛れた宴を行なったことがある。数多くの女達の悲鳴と喘ぎに囲まれ、あの時は人生で一を争うほど充実していた時だったと言えるだろう。
しかし、今はあの時と同じほど。いや、それ以上の歓喜に彼は包まれていた。何故ならば。
(こいつは、あの女とよく似ていやがる。これで興奮しないはずがねえ……!)
髪形や色は違うが恐ろしいほどに似ている。時折瞼の裏に映る、あの女に。
「隊長。あまり時間はかけられません。騒ぎになる前に離れた方がいいかと」
犬斗の背後にいた、理知的な部下がそう声をかけた。
「そうだな」
「ぐっっ……」
彼は少し手に力を込め、永琳を気絶させた。そして彼女を肩に担ぎ玄関から出る。
「おらお前ら、さっさとずらかるぞ」
「ええ? 隊長そいつ殺さないんですか? 確かに良い女ですけど、命令は蒼威巧とそれに連なる者達の抹殺だったはずじゃあ……」
「そんなすぐに殺さなくてもいいだろ」
そうして犬斗は八意家を後にしようとした。
「ま、待つんだ!」
室内からの叫びに彼らが振り向くと、そこには武装した八意輝彦がいた。
「うちの娘をどうする気だ! 早く返しなさい!」
どこから持ち出したのか、一本の刀を構えながら叫ぶ輝彦。その額には冷たい汗が流れており、その体はどことなく震えている。カタカタと聞こえる震えを必死に抑えながら、彼は思う。例え自分が命を落とすことになろうとも、何が何でも彼女を救う、と。
そして彼は駆けだした。得体の知れない集団相手に感じる恐怖に包まれながらも、娘の為彼は懸命に立ち向かった。今まで人を救ってきたその手に持たれた殺しの刀。矛盾の姿に彼は今何を思うのか。
「あいつは?」
「この娘の父親です」
「なら、任務対象だな」
隊長の言葉に耳打ちするように答える理知的な男。犬斗は何の興味も抱かない目で言い放った。
「殺れ」
鮮血が地を染めた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
力づくで地下室から脱出した巧は急ぎ八意邸へ向かった。焦る心を爆発させながら、冬の風を一身に受けながら走った。
彼がその場所に辿り着いた時にはもう何もかもが遅かった。家の前には少し前に見た顔触れが多くいて、その奥に見えるのはぐったりと抱えられている愛する女と夥しい紅に染まった恩人の姿だった。凍てつくような寒さが足元から駆け上がり、足ががたがたと震え出す。今すぐ二人の元へ走り出したい気持ちの半面、巧の両足は地面に縫い付けられたかのように動こうとしない。それは、目の前の現実を信じきれない心が表れたものなのか。
「あいつ! 何でここに!?」
『黒犬』の一人が巧に気づき、声を荒げる。それに釣られるようにして何人かが彼の方に首を向けた。
それがきっかけとなり巧は走り出した。また捕まるわけにはいかない。とっさにそう思った彼は策を飛び越え一直線に駆ける。
「輝彦さん!! しっかりして下さい!」
抱き起した輝彦の体は大量の血にまみれており、体はまるで支えを失ったかのように重かった。この重みが彼自身の命の重みなのか。そしてその重さを腕に抱えているからこそ、輝彦の死をはっきりと感じられた。
息はまだかろうじてある。しかしこの出血と胸の傷の深さでは長くは持たないだろう。巧は果ての無い口惜しさと無力感に襲われた。医療を職とする家に住んでおきながら、自分にはその知識が皆無だ。どうしようもないやるせなさに打ちひしがれる。
傷は胸を袈裟斬りに裂かれた一筋の刀傷だ。かなり深く斬られた痕からは赤い肉が見える。
「おー、あそこから抜け出してきたか。どうやったんだ?」
必死に輝彦の名を呼び続ける巧の耳に、憎たらしいほど軽い声が聞こえてきた。声の持ち主はどこか嘲笑うようにこちらを見ていた。その肩に担がれている永琳を見て、巧の肉体はさらに熱くなっていった。
「お前……許さねえぞ」
「そうは言われてもこっちも仕事なんでね。まあ許してくれや」
「ふざけんな!!」
巧は輝彦をゆっくりと地面に寝かせ、勢い良く飛び出した。犬斗に向かって拳を握る。しかし相手はそこらの一般人ではなく、経験豊富の殺戮部隊である。彼らに素手一つで立ち向かうのはただの自殺と同義であった。
「ぐっ!」
案の定であった。犬斗に向かう巧に側近の男が立ち塞がる。男は丸太のような足で丸腰で突っ込んできた巧を容易に蹴り飛ばした。胴体を蹴られた巧はそのまま地面を転がっていった。
腹部に入った強烈な蹴りのせいで巧はうずくまるしかなく、痛みに耐えることで必死だった。
「素人が俺たちに敵うわけねえだろうが」
男達の嘲笑が夜に響く。
圧倒的な戦力差と体の痛み。瀕死の輝彦も放っては置けない。武器も無い仲間もいない。しかし今の巧に、『諦める』という選択肢は無く、また選ぶつもりもなかった。
「永琳を返してさっさと失せろ……この外道!」
「そういうセリフは雑魚が言うもんじゃねえんだよ」
「うぐっ」
今度は数人の攻撃が腹に、肩に、足に当たった。その度に激痛が走り、巧は苦痛の悲鳴を抑えることができなかった。攻撃は先ほどの蹴りとは違い、わずかに耐えれる程度に威力が低かった。しかしそれは故意であるのは明らかであり、見るからに巧を蹂躙するのを楽しんでいた。
「おーい。楽しむのはいいが殺すんじゃねーぞ」
「失礼ですが、蒼威巧を殺すことは任務のはずですが」
「こいつは王都に持って帰る。仕事を聞かされた時のあの女の顔見ただろ? ああいうのには結局の所本人にやらせた方が一番すっきりするし、俺らにも多少は機嫌良くなるだろ」
「隊長がそう言うならそれで了解です」
「何を、やっているの……?」
突然聞こえた声に犬斗は横を見る。そして自らが担いでいた女が目を覚ましたことに気づいた。彼女は目を見開き、目の前の出来事が信じられないでいた。
「これは……何?」
「あーあ、目え覚めちゃったか」
「っ!? 放しなさい!」
永琳はそう叫んで無理矢理犬斗から離れた。その際に地面に落ちるが、痛みなど感じる余裕はなかった。彼も無理に止めることは無かった。この女はただの一般人。どうせすぐに捕まえることができると思ったからだ。
「巧さん!」
彼女の視線の先では巧は見るも耐えない姿になっていた。服はとうにボロボロで、血塗れになっている。腫れた頬は痛々しく、顔は真っ赤に染まっていた。
胸がナイフで刺されたかのように痛む。
――やめて! どうして! 彼のそんな姿は見たくない!
永琳の心は悲鳴を上げる。
急いで駆け寄ろうとするが、彼を囲んでいた内の一人に捕まり、暴れるも永琳は再び身動きが取れなくなってしまった。
「離せ!」
「この、暴れんな! おめえもあの男みたいにしてやろうか、ああ!?」
そう言って男が指さした方に目を向けると、そこには自身の父が横たわっていた。
「……え?」
血、血、血。見慣れた風景に映る異質な光景。
いつも優しい父が無残な姿で横たわっている。いつも笑顔をくれ、褒め、時に叱ってくれた父が切り裂かれている。その顔に生気は感じ取れない。全てを疑い、かつて冷えていた己の心を救ってくれた男の温もりは、もうここには無いのだと悟った。
「とう、さん……」
何かが――壊してはならない、決定的な何かが壊れたような気がした。
永琳は全身から力が抜けたように座り込んだ。その両目から静かに涙が頬を伝い落ちる。それは決壊したかのようにとめどなく流れ、彼女の手の甲を濡らした。
そんな無防備な彼女の様子を見て拘束を外していた男は、犬斗の命で彼女を回収しようと近づいた。その手を彼女の左肩に置いた時だった。
「…………す」
「あ?」
「貴様達全員、殺してやる!!」
恐ろしい声だった。男が永琳の顔を覗き込んだ瞬間、彼の命は刈り取られた。
「何だ!?」
突如として眩しいほどの銀の光が永琳を中心に発生した。うねるような光の奔流が辺りに走り、男を一瞬にして飲み込んだ。溢れ出る光は、まるで決壊したダムの水のように激しく輝いている。
(これは……霊力か! 信じられねえほどの純度と力だ……っ)
犬斗はとっさに霊力を発動して盾を作り、銀の霊力から身を守っていた。けれどそのパワーに押され気味で、既に少なくない同胞達が光に焼かれたことを感じていた。
殺傷能力があることは部下が証明した。通常では有りえないほどの破壊力を持つ霊力。ここまでの力を持つ者を彼は知っている。
そして彼は見た。光の中で、漆黒から透き通るような銀へと髪色を変えた彼女の姿を。
(ははっ。何が「八意」だ! 銀の髪! こいつは蓬莱山一族の女じゃねえかよお!)
そしてその変貌を巧もしっかりと見ていた。
(永琳……。やっぱりあの時、俺を助けてくれたのは……お前だったのか)
思い出す。この世界に迷い込み、命の危機に瀕した時を。薄れゆく意識の中で見た、救世の銀色を。あの光に彼は救われたのだ。
「許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない」
眩い霊力と反対に、怨念のような呪詛が聞こえる。
「ああああああああああああああああ!!!」
まるで修羅のような表情だ。
もはや痛みすら感じない。ああ、永琳よ。お前にそんな顔は似合わない。迸る光の中で巧はそう思った。
次の瞬間、八意邸を光の爆発が包んだ。
次回から少しだけ過去編に入ります。