幻想の果てに   作:らすこーす

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4 薬師永琳【後編】

 

 蒼威巧は手持無沙汰であった。単純に言うと、やることがない。

 

 現在彼は元いた病院めいた住居に戻っており、二階のリビングにて暇を持て余していた。ふかふかのソファが心地よい。

 

 あの街中での乱闘騒ぎの後、巧の前に現れたのは腰まで伸ばした黒髪が目を引く女だった。彼女は何かを言っているようだったが、如何せん、巧がそれを理解することはできない。しかし彼女の様子を見るに、どうも手助けを申し出ているようだった。

 

 女は言葉が通じないと分かると、ジェスチャーで傷ついた少女を連れて後についてくるように命じた。少年の方は他の有志が同様に運んだ。

 巧は少女を抱え、女に追随した。そして驚いたことにその行き先は自分が目覚めた建物だったのである。思わず女の方を見ると、彼女は少しだけだが笑っていた。

 

 その後は全て女の指示に従った。どうも彼女はこの家の住人らしく、家に入るや否や慣れたように、一階にあるベッドが数台並べられている部屋に少年少女を寝かせると、何やら瓶やその他の用具を用意しだした。治療の準備なのだろう。それをただ見ていた巧は、邪魔だったのか、二階へと追いやられてしまったわけなのだ。ちなみに少年を運んでいた有志の青年はとっくに帰っている。

 

 ガチャリ、とドアが開く音がした。黒髪の女だ。どうやら諸々の治療は無事終了したらしい。

 彼女は手に二人分の茶を入れたコップを乗せた盆を携えており、それを巧の前のテーブルに置くと、自身は彼と対面するようにソファに腰を下ろした。

 

「%%(#&」

 

 着席早々に女は言葉を発するが、残念ながら巧がそれを理解することはできない。どう反応したらいいのか悩む彼に、少しの間をおいて女は再度同じ言葉を告げる。それが更に数度続いた。

 

 状況は膠着状態と言えるだろう。これを突破するためには、こちらも何かアクションを起こす必要があった。分からない、理解できないからと思考停止していては何も進まない。巧は考える。彼女から告げられている言葉はたった一言だ。そのたった一言を何度も繰り返している。それだけで意味が完結している言葉と考えられる。更に二人は初対面で、ここに来るまでに幾つかのやり取りがあったとはいえ、それはどれもジェスチャーが主だった。まともに話すのはこれが最初となる。

 ――と、なると……。

 

「こ、こんにちは」

 

 挨拶。これ以外に無いだろう。まあ、彼女がそんなことなんて気にしない人ならば話は違ってくるが。

 

 ここで巧は気づくのだが、要するに言葉が分からないという状況は、外国語が分からないと考えたらいいのだ。自分はロシアやドイツのような言語を知らない国に旅行に来たのだと考えれば、少しは気分が楽になった。

 

 巧の遅い返事を聞いた女は生真面目な顔を崩さずにいる。そしてそこから彼女は様々なジェスチャーを駆使しながら話し出した。その内容は、性別の違いや体の各部名称、物の名前などの子供でも知っている一般常識から、この町の作りや制度などの高度な話にまで広がった。時には物を持って、時には絵を描いて。と言っても、お互いがお互いの言葉を分からない中での会話だ。行き違いがほとんどの内容になることは当然であった。

 

 解せなかったのは、現地の言葉を少しでも覚えようと、女が言った意味を想像しながら復唱すると、何故か彼女が不機嫌になるのである。一体どういうことなのか。その真相を女は言っているのだが、さっぱりわからない。そこで思わず日本語で文句を言うと、女はそれだと言いたげに指を指してきたのだ。要するに、巧には日本語で話してほしいらしい。彼にはその意図が全く分からなかった。

 

 そんなやり取りがなんと数時間続いた。既に外の景色は夕焼けに染まっている。

 巧にとってはほぼ無用な会話が続き、昼からの騒ぎもあって精神的に疲れていた。中学校から数えて五年以上も勉強している英語ですらまともに話せないのに、初めて聞いた言葉をその日で理解しようとするのが土台無理な話だったのだ。

 

 女は今ここにはいない。少し前に部屋を出ている。行き先は分からないが、恐らく自室だろうか。

 巧は何をすることも無くソファに寝転んでいた。テーブルには飲みかけのお茶が入ったコップがある。飲み物は自由に使っても良いようだった。

 

 しばらくぼーっとしていると、部屋の扉が開き、女が入ってきた。「どもー」と巧が迎い入れ返事をする中、彼女は昼と同じ位置に座った。

 また同じことをするのかと巧が考えながらお茶を飲み干すと、女が口を開いた。

 

「お茶は口に合うかしら?」

 

 沈黙。

 

「え?」

「お茶の味はどうかと聞いているんだけど、伝わらなかったかしら」

 

 巧は何が起こっているのか理解できなかった。というよりも、理解はできていたがそれが信じられなかったのである。緊張か興奮か、両足が震えているのを感じる。

 

「お、俺の言ってること、分かる?」

「ええ。ちゃんと分かるわ」

「おお!」

 

 まさに僥倖に巡り逢ったとはこのことだった。まさか、まさかこちらの言葉を解することができようなどとは思いもしていなかった。巧は嬉しさに胸を熱くする。しかしそこで考えるのが、何故そんなことができたのか、という誰もが辿り着く疑問だった。巧がそれを女に尋ねると、彼女はなんてことのない風に言った。

 

「貴方の言葉と私の言葉、照らし合わせてみただけよ」

 

 確かに彼女はそう言った。つまりだ。女は巧との数時間のやり取りで日本語を自国語に翻訳し、実践レベルにまで理解したと言うことに他ならない。人間業ではなかった。

 

「歩く翻訳機かよ」

「そんなに驚かなくてもいいじゃない。貴方にとってはとても喜ばしいことのはずよ」

「そりゃそうだけど」

 

 本当に会話が成立している。巧はいつになく感動していた。

 

「では改めまして自己紹介といきましょうか」

「そうだな。俺は蒼威巧、よろしく」

「蒼威さんね。私は八意永琳よ、よろしく」

 

 差し伸べられた手を握る。

 細く、雪のように白い手だと巧は思った。

 

「とりあえず、なんだけれど」

「何だ?」

「お茶、美味しかったかしら?」

 

 永琳は笑ってそう聞いた。

 

 

 

「何はともあれ、体に不調が無いようで安心したわ。貴方、ここで目を覚ます前のこと、覚えてる?」

 

 永琳と名乗った女は最初にそう訪ねた。

 

「はっきりと覚えてる」

 

 巧はそう答えた。

 忘れたくとも忘れられないだろう。一連の出来事は記憶に深く刻まれている。

 

「で、何で俺はここにいるんだ? てっきり死んだと思ってたんだけど」

「まあ、あの状態ならそうなるわよね」

 

 永琳はお茶を一口飲んで喉を潤すと、巧をしっかりと見つめた。

 

「少し長くなるけど、いいわよね?」

「もちろん」

 

 そうして彼女の語りが始まった。

 

「簡単に説明すると、私が貴方を助けたの。つまり死にかけの貴方を治療したのは私。こう見えても結構評判の薬師なのよ? ……薬屋? 確かに薬も売ってるけどそれだけじゃないわ。そうそう、貴方の言う『医者』がとても近いわね。

 話を戻すわね。私はあの晩、ちょっとした事情で蒼威さんのいた山に入っていたんだけど、そこで倒れていた貴方を見つけたのよ。あの時の状態は酷いの一言に尽きたわね。四肢は喰いちぎられ胴体は腰の辺りで真っ二つだった。恐らくに穢者(あいじゃ)襲われたと思ったわ。もう死んでる? 普通はそうなんだけど、蒼威さんは相当しぶといみたいで微かに息はあったのよ。嘘じゃないわよ。そうじゃなかったらそもそも貴方はここにいないわよ」

 

 そこで慌てた様に巧は無理矢理話の腰を折った。

 

「ちょ、ちょっと待った。あいじゃ、って何?」

「貴方穢者を知らないの?」

「知らねえよ。それは俺を襲った怪物のことでいいんだな?」

「そう、貴方が実際に見た通りよ。あの化物達が『穢者』。人を喰らい、その負の力を糧として活動する最悪の敵よ」

 

 そう重々しく語る彼女からは、あれが本当に実在している存在なのだということが感じ取れた。それに実際にこの目で見たものをわざわざ否定する気も無かった。

 

「そうか……。そう言えば、八意さんが来たときにはもうそいつはいなかったんだよな? 何で俺を最後まで喰わなかったんだろうな」

 

 巧はそれが心底不思議で仕方無かった。永琳の言う通り、あの穢者は彼の両手足を千切って喰っていた。それは穢者が巧のことを食料として認識していたことに他ならない。なのに何故、頭や胴体を食べずに消えたのだろうか。あまりこういうことを考えたくはないのだが、手足より心臓や頭の方が味というか、貴重度は高いと思うのだが。

 

「さてね。何か非常事態でも起こったのでしょう」

 

 永琳はそう答えた。巧としても、何が起こったかなど分かり様が無いので、それで納得するしかなかった。

 

「それでどうやって貴方を治したかなんだけど、薬を使ったの。どういう薬かと言うと、肉体を再生させる薬。これのおかげで貴方の体は元通りになったわけ。そんなもの有り得ない? そう思うのも無理ないわよね。確かに今までそんな万能薬なんて無かったもの。ならなんでかって、私が作ったからよ。……何か反応してちょうだい。別に冗談なんかじゃないわ。これでも私は薬を専門にしていてね。まあこれはかなり時間がかかったけど。そんなわけで一命を取り留めた貴方を、私が家まで連れて帰ってきたってわけ。

 とにかく、薬のおかげで貴方は助かったわけだけど、どうも再生の負担がとても重かったみたいでなかなか目を覚まさなかったのよ。気づいてる? 実はここに運び込まれてから二ヶ月経ってるのよ? やっぱり気づいてなかったのね。当然か。

 で、注意して欲しいことがあるの。実はこの薬、今まで人に試したことが無かったの。つまり蒼威さんが人として最初の被験者になるわね。もちろん鼠なんかで実験は行ってたわよ。それでなんだけど、小動物実験の中で、薬のもう一つの効能が分かったの。

 簡単に言うと肉体強化。今の貴方の体は恐らく強化されていて、並の人間以上の身体能力を発揮できると思われるわ。鼠がいきなり三十センチメートルぐらい飛び上がった時は本当に驚いたわ。昼間の騒ぎの時に何か感じなかったかしら?」

 

 そういえば、と巧は思う。

 チンピラ達との喧嘩の中、丸太のような男のタックルをまともに受けたがダメージらしいダメージは全く無かった。更には組み付いた時にパンチを打ち込んだが、予想以上に男が苦しんだのを覚えている。巧とチンピラの体格の差を比べれば、普通は起こり得ないことだった。

 

「心当たりはあるようね。気を付けていけないようなことはそれだけ。副作用は今のところ実験段階でも貴方にも出ていないようし、とりあえずは安心していいと思うわ」

 

 永琳はそう締め括ると、飲み干したコップにひんやりと冷えたお茶を注いだ。

 いろいろと言いたいこと、聞きたいことは山のようにあったが、まず言うべきことがあった。

 

「何はともあれ、助けてくれてありがとうございます」

「どういたしまして。薬師として当然のことをしたまでよ」

 

 なんて良い人なのか。まさに女神とはこの人のことを言うんだろう。

 

「それで、次は貴方の事を聞きたいわね。言語も違うし、穢者を知らない人なんて初めてだから驚いたわ。一体どこから来たの?」

 

 永琳は興味ありありな目線を送ってきている。

 しかし経緯の内容が内容なので、どう話せばいいのやらと巧が頭を悩ましていると、腹の虫が盛大に鳴いた。

 予期せぬ出来事に顔が熱くなってくる。前を見れば永琳は少し笑いを堪えているようだ。それを見て余計に恥ずかしさが増してくる。

 

「その前に、お昼にしましょうか」

 

 

  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 昼時を過ぎた町は人通りが一気に減る。それは商店街も同様だった。昼間に巧が迷い込んだ場所もそこである。

 その店は通りの一角にひっそりと隠れるように建っていた。店先の看板を見るに食事処のようだ。何気なく歩いているとうっかり見逃してしまうほど存在感が薄い店だが、そんな印象とは正反対に店内は人の活気で溢れていた。

 

「%”(%=‘%#$!!」

 

 外からでも聞こえてくる声は、相変わらず全く意味が分からない。

 昼ご飯を食べようと、永琳に連れられて来た巧は、店内の勢いに圧倒されていた。中は適度に広く、大勢の客が楽しそうに食事をしている。大多数が暑苦しい雰囲気の男達で、昼間だというのに酒を片手に騒いでいた。女性客は見受けられず、いると言えば、店内を忙しなく動いている三名の女性店員だけだった。ふわふわな生地のスカートが慌ただしく揺れ中身が見えたり見えなかったりしている。その光景も男達にとっての酒のつまみとなっているのだろう。

 

 店に入ると、新規の客に気付いた女性店員が声を掛けてくる。内容は「いらっしゃいませ」「何名様ですか?」などのやり取りだろう。永琳は彼女らに何かを告げると、巧について来るように言った。

 

 永琳の入店に気付いたのは当たり前だが店員だけではない。店のあちこちで飲んでいた男達が彼女の存在に気付くと、一斉に声を掛けてきた。その勢いは思わず方向転換したいほどだった。例えるなら、言葉の銃撃とでも言おうか。巧より年下の子供や還暦を過ぎたような爺まで、幅広い年代の男達の少しでも永琳の気を引こうとする下心がありありと見えた。

 

 彼らの反応も当然と言えば当然だった。永琳の美貌は巧ですら気を抜くと見惚れてしまうほどの完成度を誇っている。現代でも数多くの美女と謳われた女性が多くの媒体を通して巧の目に入って来ていたが、彼女らの誰もが叶わないような美しさが永琳にはある。

 永琳は男達のアプローチを適当にいなしながら、店内を進んでいく。巧はそれに遅れまいとついて行くが、男達の妬むような鋭い視線のせいで居心地が悪かった。

 

 二人は奥にある扉を開き、その先にある階段を上る。そして辿り着いた場所は一階の喧騒とは遠く離れた雰囲気の店だった。あそこが大衆食堂ならば、こちらは落ち着いた喫茶店と言ったところか。ここでは一階ではいなかった女性客がちらほら見受けられる。やはり彼女達にはこちらの方が合っているのだろう。しかし、この店に入る為にはあの騒がしい中を通ってこなくてはいけないと考えると、いろいろと不信感しかない。何故この場所に店を開いたのだと店長に小一時間問い質したい、と巧は思った。

 店員に案内され、二人は小さなテーブル席に通された。対面になる様に座る。

 

「ここの店、びっくりしたでしょ?」

「ああ。まさかあんな喧しい店の上にあるなんてな」

「マスターが変わってるのよ。けれど、場所の割には味は美味しいし、値段も安い。隠れた名店てとこね」

「へえ」

「雰囲気も静かだし、照明も少し暗い。ゆっくりしたい時や、真剣な話にはもってこいだとは思わないかしら?」

「来にくいけどな」

 

 確かに、店内は少し薄暗い。特別灯りの数が少ないというわけではなく、数はそこそこにあるのだが単に光を小さくしているだけである。

 小柄なウェイトレスが二人の元へやって来た。テーブルにはメニュー表があったのだが、文字の読めない巧には意味が無く、永琳の勧めたものを頼むことにした。

 注文を確認したウェイトレスがそそくさと去っていく。

 

「それで、今度は貴方の話が聞きたいわ。蒼威巧さん?」

 

 ウェイトレスを見送った後、永琳はどこか楽しげな目を巧に向けた。しかし当の巧は少しばかり考え込んでいるようだった。

 彼がここに来た経緯は、聞けば誰もが非難するような内容だ。そんなことはない、在り得ない、と。しかし実際にそれを経験した彼からするとそれが真実である。ここで嘘をついて適当に答えたとしてもどうせそのうちその尻拭いをしなければならない日が訪れるだろう。大体現状頼れるのは彼女しかいないならば、彼女だけには事情を話しておくべきだろう、と巧は考えた。

 そして今までの出来事を永琳に語った。

 

「なるほどね……。異世界、か」

 

 巧の話を聞いた永琳は神妙な顔もちでいた。

 

「信じられないだろ?」

「信じられないというより、驚いたわ。私、貴方のことは言語の違う何処か遠い土地に住んでいた人かと思っていたもの」

「まあ、そうなるよな」

 

 多くの人が永琳の立場になって考えると、そういう結論に至るだろう。

 

「それで? 貴方はこんな場所に来てしまって、これからどうするつもりなの?」

 

 そう。それが今の彼にとって最重要課題であった。

 

「どうって言われてもなあ……。八意さんは元の世界に帰る方法とか知らない?」

「知ってるわけないでしょ」

「だよなー」

「ここで生きていくというなら、まず衣食住の確保、そのために働いてお金を稼いでいく。これが取るべき道でしょうね」

「だけど俺には言葉が分からない」

「そう。それが問題の一つ。それに貴方は私達とは異なる文化を持っている。それはとても大きい壁。これから先様々な場所で様々な衝撃を受けると思うわ。そう考えると、蒼威さんがこれから一人でなんとかしていくっていうのは、本当に大変な事よ」

「……そうは言ったってなあ」

 

 永琳の言葉を聞き、改めてこれからの道を考え、憂う巧。

 そこで先程とは違うウェイトレスが料理を運んできた。かなりの高身長で、椅子に座った状態からだと彼女の顔を見るのに少し首に労力を掛けなければならなかった。立って並べば、もしかすると巧以上かもしれない。

 

 運ばれてきた料理は、見た通りの肉料理だった。下で見た脂ぎった物と比べると、こちらはとても御洒落に調理されている。注文した物は二人とも同じだった。

 一礼をし去っていくウェイトレスを横目に、二人は料理に手を付け始めた。巧はほかほかに暖められたスープを飲みながら、考える。

 

 現状、彼の立ち位置を正確に把握しているのは目の前にいる薬師だけである。彼女は日本語を超短時間で解するようになった他、巧の話にも興味有り気に聞いてくれている。今の彼には永琳に頼るのが最も理に(かな)ったものだと思われる。しかし初対面の彼女にそこまで我儘を言っていいものか、と巧は葛藤していた。彼女には命を救ってもらったり乱闘騒ぎの際に手助けをしてもらうなど多大な恩がある。しかも今こうして店でご飯も食べさせてもらっているのだ。その上で更に自分の保護を頼もうなどと、図々しいにもほどがあった。

 

 身振り手振りなら簡単な意思疎通は図れるのだ。今の自分に何もできないということは無い。

 そんなことを考えながら食べていると、ずっと黙っていた永琳が口を開いた。

 

「大方、私に頼るかどうかで悩んでいるんでしょう?」

 

 かなりドキッとした。

 

「そ、そんなことないけど」

「そんなことあるでしょう。私は貴方の事情を知っている。貴方は私としかまともに会話が出来ない。そして私は何度か貴方の手助けをしている。私が貴方の立場なら、真っ先に助けを求めているわね」

「じゃあ俺があんたに頼ったらどうするんだ?」

「受け入れましょう」

「えー?」

 

 えらくあっさり言い放った永琳だった。

 

「そんな簡単に決めちゃダメだろ」

「いいのよ。そうねえ、これからしばらくは私の家に住むことにしましょう。衣食住はこちらで保証するわ。どう?」

「優しいんだな、そりゃ大歓迎さ」

「そうでもないわよ。私としては、蒼威さんが遠い国の人だろうが異世界人だろうがどっちでもいいの。私はただ、貴方の持つ私には無い知識と文化に興味があるだけ。それに蒼威さんは再生薬の第一被験者だし、経過が知りたいのもある。どう? これでも優しいって言えるかしら?」

「……どういう魂胆だろうと、何処の馬かも分からない男を預かってくれるって言うんだ。俺からしちゃ十分に優しいさ」

「そう。もちろんタダでなんてそんなおいしい話はないわよ? 貴方には私の仕事を手伝ってもらいます。それでもいいかしら?」

「問題ないね」

「なら決まりね。これからしばらくよろしく、蒼威巧さん」

 

 そう言って永琳は手を差し出す。

 巧はそれにしっかりと応えた。

 

「こちらこそよろしくな、八意永琳さん」

 

 こうして二人の男女が出会った。この出会いが、二人の歩む道にどう影響してくるのだろうか。それはまだ誰にも分からない。

 巧の旅はまだ、始まったばかりである。

 




さあ、ここから長くなっていきますよー。
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