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それにしても、くりむが息を切らしてる。それはもうぜぇぜぇと。鍵のボケにいちいちツッコムからだよ。くりむは小柄だから体力ないのに。とりあえず、お茶を渡しておく。
「くりむ。はい、お茶」
「あ、ありがとう、
おお。ごきゅごきゅと良い飲みっぷり。
そんなことを思っていると、いつの間にかノートを閉じた知弦が鍵に話しかけていた。
「キー君、私は別に貴方のこと嫌いじゃないけど、もうちょっと誠実に立ち回ったほうが利口じゃないかしら。ハーレムを作るにしても、それを宣言するんじゃなくて、むしろ誠実さでオトして行くのが、王道というものなんじゃない?」
「知弦、鍵は誠実と真逆、天と地の差があるんだからムリだよ。鍵が誠実になるだなんて、この小説がアニメ化、いや、文庫化するくらいありえないよ」
「結姫さん!? それはさすがに酷くね!? まあ、アニメ化や文庫化は絶対にありえないけども! ていうか、結姫さん実は俺のこと嫌いだろ!」
「大丈夫、安心しろって。オレは絶対に鍵を嫌いになんかならないって」
「う、ううん……、分かった。なんでいきなり真面目っぽくなるんだよ……。でもまあ、確かに知弦さんの意見も一理ありますが、どう
「芯からこってり腐りきってるなお前」
深夏が冷た~い目で鍵を見ていた。うーん。素直なのは良いことなんだけど、間違った方向に素直なんだよなぁ。
「ふふふ……これから次々と、生徒会メンバーは俺の魔の手に落ちていくのさ……」
「魔の手とか自分で言い始めちゃいましたね……」
「あーどうしよ。オレ、もう鍵の魔の手に落ちてるや」
「大丈夫よ。ヒメちゃんなら自力で脱出できるでしょう?」
「それもそうだね」
真冬が鍵の言葉に苦笑し、オレと知弦の会話に、さらに苦笑していた。
「ま、あんまりデレないと、速やかに学園陵辱モノに早変わりするプランも――」
「清々しいほどに外道だな、てめぇ」
その場合はいくら
すると、鍵が深夏に「ちっちっちっ」と指を左右に振っていた。
「大丈夫さ、深夏。そうならない手は考えてある。……実はこういう系統の物語は、全員の好感度を徐々に上げていくんじゃなくて、『一人一話』形式で上げていくんだよ」
「なんだよ、それ」
「エr……ギャルゲに限らず、学園ドラマでもそうだろう?」
鍵、今絶対に『エロゲ』って言おうとしたよね。オレはエロゲもギャルゲもやらないから分からないけど、エロゲもギャルゲも似たようなモンじゃないのか?
「教師が一話で一生徒の悩みを解決して、徐々にクラスに溶け込んでいくんだ。そして最終回では、クラス全員が先生に感謝しまくるという、ある意味ハーレムEND」
「学園ドラマの最終回をえらく汚された気分だぞ、おい」
「オレ、今度から学園ドラマを純粋な気持ちで見れないような気がするんだけど」
確かにハーレムと言えなくもないけどさぁ……。
「そうさな……まず割と現時点で好意的な真冬ちゃんあたりを皮切りに、会長、深夏、そして知弦さんと、徐々に難易度が上がっていく感じで問題を解決していき、気づけばあら不思議、みんな俺の虜に……」
「鍵ー、それをみんなの前で言ってる時点で終わってると思うよー」
「しまった!?」
鍵がめちゃくちゃ気持ち悪い顔で妄想しながら言ってたので、指摘してあげたら、orzのポーズになった。……ちょっと面白いと思ったのは内緒。というかそれくらい気づこうよ。頭良いのにアホなんだよなー、鍵って。ちなみに、オレはもうオチてるから攻略対象から外れています。
「どうでもいいが、あたしが知弦さんより攻略しやすいと思われてるのが、軽く
「真冬は……最初にオトされちゃうのですか……」
真冬がブルブルと体を震わせていた。もともと男性が苦手なのもあって、鍵が怖いんだな。可哀相に、顔面蒼白だよ……。
隣にいるくりむをチラリと見ると、まだ疲れているはずなのに、何か言いたそうにしていた。というか、もう言いたいことが爆発するね。
「どうして私が真冬ちゃんの次にオトしやすいのよっ! 納得いかないわ!」
「え?だって会長……既に俺のこと、気になり始めている段階でしょう? 例えば、俺が他の美少女と歩いていたら、不機嫌になるくらいの位置でしょう?」
「杉崎が他の美少女と歩いていたら、私は速やかに警察に連絡して、その美少女の保護を要請するわっ!」
「鍵ってホントに信用ないんだね……」
「当たり前よ!」
「まったく、会長は嫉妬深いなぁ」
「……あー、杉崎を一番惨いバッドENDに送りたい」
くりむの目が怖いです。とっても暗~い目をしている。オレに向けられてるわけじゃないのに、ゾクリとしたよ……。
「でも、俺が一番恐怖するのは、最初に会長が言った通りのことなんですよねー」
「え? 何? どういうこと?」
「つまらない人間になる……つまり、恵まれた環境にいるのに、恵まれてると思えなくなること、というんでしょうか。今の話でいけば、俺は今……生徒会に入ってまだ一ヶ月たる今は、このハーレム状況が楽しくて仕方がないッスけど。いつか……いつか、この状況を当たり前と感じるようになったら、と思うと」
オレも、昨年度の生徒会のとき、思った。でも、ここにみんながいられるのは、当たり前じゃないんだ。人間、生きている限り、何が起こるか分からない。……もしかしたら、明日死ぬ可能性だって、ないとは言い切れないのだから。
「ヒメちゃん、大丈夫?スゴく険しい顔をしていたわよ?」
「……っあぁ、うん。大丈夫だよ、ちょっと考え事をしていただけだから」
「そう? なら良いんだけど……」
ふぅ、危ない。つい考え込んでしまったみたいだ。
「んー、あー。まぁ、分からなくもないかな、それは」
ん? くりむが鍵の意見に同意している。珍しいこともあるもんだ。明日は『雨』じゃなくて『飴』が降るね。そしたら、くりむがめっちゃ喜びそうだ。
「そういうのは、気をつけてどうにかなることじゃないからね。生活ランクと同じよ。一度裕福な生活をした人間は、たとえ収入が落ちても、今の生活基準をなかなか下げられないのと一緒で」
「また、えらく美少女ロリ学生らしくない例を出してきましたね」
「うちがそうだったのよ。経営者だからね、うちのお父さん。良くも悪くも、浮き沈みが激しい収入っていうか」
くりむ、ロリって部分には触れないの? あ、気づいてないだけか。それにしても、おじさんもスゴいよな、自分で会社を立ち上げるだなんて。
「なるほど。それで会長は、美少年を金ではべらす趣味が
「杉崎と一緒にしないでよっ! 何その趣味! 私悪女じゃない!」
「それに、男の頬を札束でペシペシ叩く性癖も変えられないと……」
「どんだけ貴族なのよ私! いくらなんでもそこまでのスケールじゃないから!」
「貧乏な今は、家に侵入してくるアリの手足をもぐことが生き甲斐で……」
「もうただの根暗な女じゃない! お金とかそういう問題じゃないじゃない!」
「セレブだった頃にはべらせた美少年の中で唯一残った結姫さんをこき使っている……と」
「え、何かオレ巻き込まれた?」
「はべらせてないって言ってるでしょ! 結姫をこき使った覚えもないわっ!」
「でも、結姫さんよく会長の身の周りの世話をしてるじゃないですか」
「それはオレが好きでやってることであって、こき使われた覚えはないよ。てか、鍵に『美少年』って言われたの初めてかも」
「あ、確かに。自分で言ってて今気づいた。それにしても、結姫さんが言うんだからそうなんだろう……」
「ちょっと! どういう意味よ杉崎! それに、結姫は男だって言ってるでしょう!?」
本当、鍵はくりむをからかうのが好きだよなぁ。あー、またくりむが叫びつかれてるし。
「くりむ、とりあえず落ち着こう?」
「う、うん。そうね……」
「ま、真冬は、そうなりたくないですけど……でも、どうやったらそうならずにいられるのか、よく分かりませんね……」
真冬が肩を落とし、落胆する。上を求め、目指し続けるのは人間の本能だから、それを抑えるのは、なかなかに無理難題。
「最終的には【悟り】とか、そういう精神的な極みの境地に至るしかないんじゃないかしらね」
「えー、つまんねーよ、なんかそれ」
「知弦の言うことは最もだけど、深夏の言うとおり、つまらないよな。かと言って、特に良い案があるわけじゃないけど……」
「まぁ、一部の人間……勝ち組と称される人たちは、どんどん上に行き続けるけどね。大概の人間は、どこかで妥協して、そこそこに幸せに生きるのよ」
「そこそこ幸せに、ねぇ…」
鍵が知弦の言葉に納得のいかないような声を出した。
「ダメだな」
『え?』
静寂が生徒会室を包み込み、時計の秒針の動く音しかしなくなっていた。それを破ったのは、鍵の呟きだった。いきなりの発言に驚いたオレら5人は、一斉に鍵へと視線を向けた。そして、鍵はイスがひっくり返るんじゃないかっていうぐらい、思い切り立ち上がり、宣言した。
「俺は美少女ハーレムを作る!」
深夏が「いや、海賊王になるみたいなノリで言われてもなぁ……」と呆れている。他のみんなも「またか」って感じの表情で見てる。オレ、そろそろそのネタ聞き飽きてきたんだけど……。
「妥協するにしても、俺は高いところで妥協してやる! 美少女をはべらせて、いつか、『あー、美少女にも飽きたなぁ』って言えるところまで上ってから、妥協する!」
5人の視線を受けて、1人立ち上がって大声で宣言してる図って結構シュールだな。
「……なるほどね。とりあえず行くとこまで行ってみようってことね。いいんじゃないかしら。好きよ、そいうの」
何故か鍵が知弦に高評価を受けていた。まぁ、オレも好きだけどね、そういうの。
「まぁ、ハーレムはさておき、そのスタンスは悪くないよな」
「そうですね……今から悩んでいるより、とりあえずは上に行ってみるのが、良いかもしれませんね」
「努力が無駄になることなんて、まず無いしね。オレも、頑張れるだけ頑張ってみようかな」
みんながみんな、自分の意見を言い、最後に締めるのはくりむだと思ったが――
「えー、あんまり頑張ると疲れちゃうよぅ」
締まらなかった。というか駄目人間だった。そんな幼馴染に、思わず溜息をついた。くりむ、お前まさか、生徒会長で満足してるんじゃ……。それでいいの? 目標低すぎるでしょ……。
オレは、お菓子を頬張ってるくりむを見た。
「けぷっ。えへへ、完食っ♪」
くりむは小さくゲップをすると、満足そうにお菓子の袋をクシャクシャにした。……まぁ、幸せなら、それでいいか。幸せが一番だもんね、単純だけど。
「というわけで、今日は解散しますかぁ」
どういうわけさ。全員がくりむを駄目人間だと思ったよ、今。まぁでも、それで結局解散しちゃうんだけどね。
……さて、オレらはそろそろ仕事始めないとな。
***************
みんなが帰った後、オレと鍵は生徒会室に残って、2人で書類を片付けていた。
「結姫さん、毎度のことだけど、別に手伝ってもらわなくても俺1人で――」
「何言ってんの、鍵。これはオレがやりたくてやってるんだよ。旅は道連れ世は情けって言うでしょ、親友♪」
本当は6人で片付ける仕事を、鍵1人に任せるわけにはいかないしね。オレたちが片付けなかったらどんどん溜まっていくよ、書類……。
「それにさ、鍵を残して女の子と帰るのは、ね……。オレだって一応、
「え……。結姫さん、今何て……」
「んー。普段は男の娘なんて言ってるけどさ、男のプライドってもんは持ってるんだ。……こんなオレは、嫌い?」
「そんなわけないだろ。結姫さんが男だなんて、初めて会ったときから知ってるし。それに、俺の憧れの男って結姫さんなんだぜ?」
「え、あ……。な、なんか照れるな、それ。えへへ……」
まさか鍵に『憧れの男』って言ってもらえるなんて、思いもしなかったな……。照れるけど、うれしいや。ついつい顔が緩んじゃう。
「さて、書類も鍵のそれで最後かな? んじゃ、帰ろうか」
「そーだな。今日はバイトまで時間あるから、ギャルゲするか」
「少しは体、休めなよー?」
「ん、分かってるって」
みんなが帰ってから1時間後、オレらも解散した。
今回は結姫くんが少し暗くなりましたね。これは過去に関係しています。
結姫くんは自分のことを『男の娘』と言いますが、女の子扱いされるのはあまり好きではありません。
杉崎はそれを知っていますが、結姫くんに迷惑をかけてると思って「1人でできる」と言いました。杉崎なりの気遣いです。
次回は、とある日の結姫くんの放課後をご紹介します。
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