「で、英雄王、今度はいったいどんな気まぐれだ? 私としては君の行動は理解に苦しむのだがね」
本来彼らがいるべき世界の英霊の座でもなければ、こちらの幽世でもない、強いていうなればそれらを足して2で割った場所というべきか、そんな場所で赤いコートを羽織った男が英雄王と言われた、まばゆいほどの黄金の鎧を着た男に問うた。
「む? ああ、アレのことか、いった通りよな、アレは我の無聊を慰めるためのものでしかない、お前も退屈していたのではないか? 」
黄金の杯に入っていた液体を飲み干しながら金鎧の男は赤コートの男を見据えた。
「違う、なぜ彼を選んだのか? ということだ、一目見たがまるで……」
そこで赤ローブの男は口ごもった、金鎧の男はその言葉の続きを引き継いだ。
「あの雑種のようであった……か? 当り前であろう、アレはいわば平行世界の雑種だ、根源のところでは奴と同じだ、あの雑種の可能性の一つといったほうが正しい」
金鎧の男はまるで懐かしむように言葉を紡ぐ、赤ローブの男はこの男がなぜあんな気まぐれを起こしたのかをおぼろげながら察した。
「まあ、雑種とアレは根源が同じでも別物だ、ここで死ねばそこまでの器だったというだけのことよな」
そう言い切る金鎧の男の前に円状の光る板が出現する、赤ローブの男もその板をのぞき込む。
「そういえば、彼にくれてやった餞別とはいったい何だ? 」
赤ローブの男が思い出したかのように金鎧の男に尋ねた、その問いに男は何でもないように言い放つ。
「なに、人として最高のポテンシャルの肉体とアカシックレコードの浅い部分の一端、そして聖杯戦争のシステムをスケールダウンし、あの世界の規格に落とし込んだ、その程度よな」
「それは、その程度で済むのか……? 明らかに人の範疇を超えていないか? 」
赤ローブの男はあきれを含んだ言葉とともにため息をついた、だが金鎧の男は断言する。
「なに、現状では此度の戦でアレが生き残れる確率など万に一つもなかろう、アレの敵はそういったある一種の理不尽よな、どちらにしろ我はこの戦に手を出すつもりはない」
金鎧の男が視線を向けた円盤には件の少年と霊格の巨大な霊体が戦闘とも呼べない一方的な戦いを繰り広げているのを映し出していた。
何このムリゲー、いったい誰に需要があるマゾゲーなのだろうか。
「この分にはあっさりぷちっとつぶせそうだなあ、逆に俺はその満身創痍でそれだけ動けるお前にびっくりだ」
苛烈な攻撃を続けながらまつろわぬ神……いや、まつろわぬ大黒天は素直に驚いたような声をあげた。
対して自分は大黒天が言ったように満身創痍だった、軽いもので打撲、切り傷、ひどいものだとおそらく数本の骨が逝っている。
それでもなお自分が動けるのは、頭で大量に分泌されているアドレナリンとまだ自分が生きられる可能性があるからだろう。
相手の攻撃速度はなんとか見切ることができている、しかしそれに体の反応がついていけていない、故に何度かかすらせてしまっているのだ、かすらせただけでこの惨状である、直撃でもすればこの身体はミンチのごとくはじけ飛ぶのであろう。
また、ろくに鍛錬もされていないこの身体では体力が尽きるのは時間の問題である、現にこちらの息は荒く乱れている、それに対し相手はまだまだ余裕を残している、もし逃げようとすれば背中からバッサリとやられてしまうのだろう。
「そろそろ限界か? ガキにしてはよく持ったほうじゃねえか、まあせめてもの情けだ、痛みを感じさせずに殺してやるよ」
大黒天がそういった次の瞬間彼の姿が俺の視界が消え去った、とっさに勘に任せて横に大きく飛ぶ……ッ!?
次の瞬間一瞬だけ自分の視界が真っ白になった、次に感じるのは全身に走る焼けつくような激痛、視界がちかちかしてうまく周りの状況をうまく把握することができない。
「おいおい、今のにも反応すんのかよ、化けもんかこいつ……まあその体じゃあもう終わったようなもんだが、今度こそぽっくり逝かせてやるよ」
身体が動かない、無理に動かそうとすれば激痛が走る、どうやら全身の骨が折れてしまっているらしい。
確かにこの声が言う通り自分の命はここで終わってしまうのだろう、最初から神にあらがうなんて無理な話だったのだ、ああきっと遅かれ早かれ自分は死ぬ運命にあったのだ。
もう……終わりだ……。
おわった……? この自分の命が終わった?
……一体こいつは何を言っているんだ?
なに、まだいける、まだこの心は死んじゃいない、立ち上がれ。
体中の骨が折れている?なに神経さえ通っていればまだ動けるし立てる、ここで死ぬのが運命? そんな運命なぞ犬に食わせてしまえ。
せっかく拾った命なのだ、そうだまだ自分は5歳なのだ、こんなところで死ぬなんてまっぴらごめんだ、ああそうだ自分はまだ生きていたいのだ――!
何かがガチリとはまった気がした、そこで自分は理解した自分のうちに存在する最後の力の使い方を、故に懇願する。
「た……のむ、力を貸して……く……れ……!」
帰ってくるのは無言の肯定、自分を媒介にして
――宝具開帳:
世界が……塗り替えられる。
あらわれるのは自分の渇望の世界、作り上げるのは目の前のまつろわぬ神を打ち倒せる自分、この夢は
「おいおい、冗談だろ? 神殺しでもねえのに俺を巻き込むたあどういう構造してんだこいつはッ、まるで」
大黒天が驚愕の叫び声をあげる、しかしその叫びは続くことはなかった、その余裕がなくなったからだ。
体に力が満ちていくのを感じていた。
――ここは自分の物語、傷だらけの体はなかったことのように! 負けかけていた戦いは対等な状態に元通り! ――
足に力を籠め大黒天に接近し、握りしめたこぶしをふるう、大黒天はそれを棒で受け止める、それでもなお1メートルほど後ろに吹き飛ばされていく、追撃するためにさらに肉薄する。
「このガキッ! 調子に乗るな!」
そう叫んだ大黒天の背から腕が生えた、その数4つ、そのうち二つはこちらの体を抑えに、もう二つは三叉戟と索を握り、こちらの動きを押さえつけた後すぐに攻撃できるように準備をしている。
伸びてくる腕を振り払うとともに、同時に攻撃してくる腕をいなす、相手の顔面を蹴り飛ばしその反動で距離をとる。
「ちぃ! いきなり強くなりやがって……」
大黒天が腕のうち一本をふるう、飛んでくるのは鉄輪、それを体を傾けることでかわす、次に来るのは距離を詰めてきた大黒天の6つの拳、これは逆に相手の懐に飛び込むことで対処する、カウンターにみぞおちを狙ってそのままの勢いをつけて殴る。
速度の乗った自分の拳は大黒天の腹部にめり込む、がその代わりに腕をつかまれる。
強烈な一撃が意識を揺らす、頭に熱い感覚、どうやら頭皮が切れて頭から血が流れてきているらしい、しかしまだ腕をつかまれている、そのまま拳で殴られ続ける。
大黒天の股間を蹴り上げることでようやく拘束を解く、おかえしに前かがみになった大黒天の頭部を思いっきり横なぎに蹴る。
まともにくらった大黒天は吹っ飛びそのまま10メートルほど転がっていく、いったん距離をとる。
めったうちにされたのが効いたのか、少しふらつく、乱れた呼吸を整え大黒天が転がって行った方向を見る、丁度大黒天も起き上がったところだった。
「お前……金的は反則だろ……めっちゃ痛かったぞ、俺の息子が機能不全になったらどうすんだ」
そんなこと知ったことではない、こっちは命がかかっているのである、使えるものは何でも使う。
「はは、そうか、まあそういうのは嫌いじゃねえぜ、だが男相手に金的だけはやめろ、神様でも痛いものは痛いんだから、特に西の主神にはやるな、あいつケラノウス50連発とかやりかねないから」
何それ怖い、どんなオーバーキルだそれ。
そこで大黒天のまとう空気が元の砥ぎすまれたものに戻る、相手の霊格もボロボロである。
おそらく、これがお互いにとって最後の一撃になる。
「いくぞ、ガキィッ!」
同時に相手へ向けて突っ込み全力の一撃を繰り出す。
……そして自分と大黒天の戦いは終わりを告げた。
「見事だ、ガキ、汝のこれからにラクシュミーの加護があらんことを、そしてたいして使えんだろうけどもってけ、次またあったらゆっくりと話してみてえぜ」
そういって大黒天は灰として消えていった、それと同時に宝具がその力を失い、固有結界が消えていく。
夢は覚め、宝具でごまかしていた体の損傷も限界を迎え、さらに人の身でありながら神をも巻き込む大魔術を使用したツケは自分の霊格にまで多大な損傷を与えていた。
確かにあの戦いを生き残ることはできた、しかしその結末がどちらにしろ死ということに、あそこまで生きることに執着していた自分を顧みて自嘲が漏れた。
「神様相手に真正面からの肉弾戦で戦うっていったいどういう思考回路してるのかしら? しかもそれに勝つって、……まあいいわ、これで新しい私の息子が生まれたのだし、よく見るとかわいいじゃない」
薄れゆく意識の中、そんなあきれを含んだ女性の声を聴いた気がした。
戦闘描写が難しい、それと大黒天はどうしてこうなったorz
知っている人は多いかもしれませんが一応用語の意味
三叉槍:ポセイドンが持ってるような形状だと思っていただければ
索:いわゆるロープ、本来ならこれで相手を縛って動きを封じたりする、ただ今回は一回も使われなかった模様
ケラノウス:めっちゃ強い雷、その威力は宇宙を焼いたといわれるほど
主人公についてはノーコメントで、ただ使った宝具については異論を認める。
楽しんでいただけたら幸いです