苦しい、何か自分の存在が書き換えられているような、そんな苦しさだ。
「あら、意識が戻ったのね」
そんな声が聞こえた、うっすらと目を開けると桃色の髪を持った女性の顔が映った。
「はじめまして……というべきかしら、私のなまえはパンドラ、あなたの義母になる神よ」
いったい今この女性はなんといったのか? 自分にはこの人が母になると聞こえたのだが……。
「ふふ、驚いてるみたいね、あなたは神を倒したの、それによってカンピオーネに転生しようとしているのよ、今あなたが感じているであろう苦痛はそのために必要な通過儀礼、甘んじて受けなさい」
とりあえず生きながらえることができたといことでいいのか……?
と自分が安堵していると、そこで不機嫌そうな顔をした先ほどの女性がずずいと顔を近づけてきた。
「で、少し聞きたいことがあるんだけど、……あなたが使っていたあの力、いったいどこで手に入れたの? あれは神々の権能には少し劣るけど人の身が扱うには過ぎた大魔術、神殺しでもなければ
は、はあ、つまるところこの力の出所が知りたいのでしょうか?
「そういうことよ、さあキリキリはいてちょうだい」
「なに、そのことについてはこちらから話そう」
そこに新たに聞いたことのある男の声が割り込んできた。
「あら、抑止の守護者様がなぜこんなところに? この子は見事に試練を成し遂げました、あなたが出張ってくる理由はありませんが」
「ああ、そんなに警戒しないでくれたまえ、私がこっちにわざわざやってきたのは君への説明とこの子への警告の為だ、丁度重要な人物は全員そろっているからね」
声のするほうに顔を向けると、一人の男が現れこちらに歩いてきた。
黒く焼けた肌に生気の抜けたような白い髪、赤いコートを羽織っている、強い決意を宿した目をした男だった。
「ふむ、つまりこの子にあの力を与えたのはあなたかしら?」
「いや、それはちがう、まあ話すと長くなるからその件につてはこの子が現世に帰ったらゆっくりとしよう、とりあえず私はこの子に警告をしなければならない」
赤コートの人は自分の顔を向けた、そして言葉を続ける。
「君のもつ知識、それを用いて根源を目指すようなことは、必ずもしないでほしい、もし根源に至る道を進むならば、抑止力が君を直接排除しかねない、それを彼は望んでいないし、私も望んでいない」
そこで突然違和感を感じた、なんかとっても強い力が近づいてきているような……。
「む、あいつ……まさか」
赤ローブの人があきれを含んだ声でつぶやいた瞬間だった。
――空間が爆ぜた
「私からご主人様を隠そうなんて百年早いです! ご主人様、タマモが来ましたよ~! 」
そんな軽いような声であらわれたのは青い着物(裾は超ミニ)をきた桃色の髪に頭からキツネ耳をはやした女性が現れた。
というか自分に向かって飛び込んできた。
「ああ~、ちっちゃいご主人様も、カワイイー! くんかくんか、くんかくんか、ぺろぺろ……」
そこで、突発的な事態に固まっていた二人が我に返った。
「ちょっとあなた、どこから入ってきたの? ここがどこだかわかっているのかしら」
「あれほど、あそこで待っていろと言ったのに、君はなぜ出てくるのかね……?」
自分をもみくちゃにしている女性に向かって義母を名乗った女性が突っかかり、獣耳の女性を見た赤ローブの男はもはや諦観の様相を示しがっくりと肩を落とした。
「だってぇ~、ちっちゃいご主人様を見て私が耐えられると思いますか? いや、耐えられない(キリ、というかそこのある意味私の同種、この程度の距離の概念隔壁でムーンセルの八次元障壁を突破した
「ぐぬぬ……、もう!私だって息子と触れ合いたいんです! 」
ドヤ顔する獣耳女性に、義母はどこからか取り出したハンカチをぎりぎりとかみしめている。
かくいう自分はもはや起こっていることについていくことができない、ただ獣耳女性のなすがままである、ただ、なんかだんだん意識がもうろうと……。
「むふふー、ってあら? ご主人様の存在感がだんだん薄く……、はっ!? まさか~、時間切れ? 」
「えええ~!?」
そんな叫びとともに自分の意識は暗転した。
「さ、沙耶宮さん、大変です!う、うちの息子が、大変なんです! 」
私は急いで正史編纂委員会の局長室に飛び込んだ。
「部屋に入るときはノックくらいはしなさい、全く君はいつもどうしてそう落ち着きがないのか」
ため息をつきながらこちらを見る男性は沙耶宮綾斗、一人の娘さんを持つ私のメル友だ。
「そんなことよりも! うちの子供がすごいんですよ! あのですね……」
「そうだねえ、すごいというか、やばいねこりゃ、まさか羅刹王になられてしまうとは」
……え? 彼の放った言葉に私の思考が固まる、この人はいったい何を言ったのだろうか?。
「あはは、いったい何を言ってるんですか、あの子は5歳ですよ? 冗談は…」
「冗談だったらよかったんだけどねぇ、先ほど来た報告だとどうやら真実のようだ」
そういって彼は一束の紙をこちらに投げてくる。
「えーと、何々…まつろわぬ神と接敵し、つたないながらまつろわぬ神の攻撃に対応、が、ついには攻撃を食らい重体に陥る、しかし突発的な膨大な魔力反応をきっかけにまつろわぬ神とともにその場から消失、十数分後に単独でその場に顕現、その時にはすでに神殺しとなられていた……、だ、誰ですかこんなでたらめなことを書いたのは……」
しかし、彼の言葉は非情にも私に真実を突き付けてくる。
「現実を受け入れたまえ、君の息子は神を弑逆したのだ、しかし……方法が分からないのが少し気になるな」
私はそこで崩れ落ちた、暗鬱とした気持ちが心を覆っていく。
まさか息子が神殺しになるなんて……、母親らしいこともできず、あの子が更なる苦難に巻き込まれていくのを見ていることしかできないのか……。
「さて、美弥子君、君はそこでただ座りつくしているだけでいいのかね? 」
「どういう……ことです? 」
彼はふっと笑っていった。
「君の子は羅刹王になった、だがまだ幼い、あの子をこんな薄汚い大人の魔窟から守ってあげられるのは母親である君と海斗くんしかいないのではないのではないのかね? 」
その言葉は私の鬱々としていた心に響いた、心なしか気分が楽になった気がする。
そうだ、なにが母親らしいことができないだ、あの子が羅刹王になったとしても私があの子の母親であることに変わりはないじゃないか、ならば私があの子のためにできることをするしかない、あの子を守れるのは現段階では私たちしかいないのだから。
私は立ち上がりまず自分がやれることを考え出す、まずは四家に話を通すところから始めなければ……
「頑張りたまえ美弥子君、子を守ろうとする親ほど強いものはないのだから……」
そんな彼のつぶやきは私には聞こえなかった。
どこか流れとかがおかしかったら教えてください、特にこの回は不安です。
なんというか親の心情描写が難しい回でした。
楽しんでいただけたら幸いです。