第一幕のナンバリングを間違えていましたorz、活動報告のほうも間違えていたので、ほんとに申し訳ありません。
今日の投稿はこれが最後です。
その後特に必要なものはないことを家政婦さんに伝えると彼女は楚々として部屋を出て行った。
完全に一人になったことで緊張が解け、大きく脱力する、現状で大雑把に打てる手は打った。
次の大きな問題は自分という新しいカンピオーネの誕生を知ったほかの同族がどういった行動に出るかだが、これが分かるにはしばらくの時間がかかる、とりあえず一時はしのげたというわけだ。
しかし、いま思い返してみれば自分が弑逆した神、大黒天は来歴から考えて見れば、インド神話では強力な分類に入る神格、それにしては明らかに弱すぎた、なぜ彼があんなにも弱体化していたのかはわからないが、これから自分が戦う神々はここまで容易にはいかないことだけは肝に銘じておかなければならないだろう。
おそらく自分が簒奪できた権能が『黄金律』であり、戦闘系でなかったことが関係しているのであろう。
しばらく黙々と考察をしていると、ノックの音ともに再び家政婦さんが入ってきた。
「送迎の車の準備が整いました、案内しますのでついてきてください」
お疲れ様ですと一言声をかけ、先導してくれる家政婦さんに続く。
先ほどまではあまり余裕がなく、周囲のことにあまり気が回らなかったからか、結構な時間廊下を歩いたことで今更この家の広さに気づいた、よほど切羽詰まっていてこんなことも認識できていなかったのかと少し頭が痛くなった。
家政婦さんの案内で玄関を出た自分を待っていたのは一台の華美ではないが落ち着いた高級感を出している車だった。
「あ! さっきのおとこのこだ、おーい! 」
そしてその車の前には笑顔で手を振る馨ちゃんと、先ほどの会議室にいた一人の男性、そしてどことなく馨ちゃんに似ている赤銅色の髪をしたきれいな女性がいた、外見などで馨ちゃんに似ているところが複数あるので、おそらくこの二人が馨ちゃんの両親なのだろう。
自分も馨ちゃんに小さく手を振り返す、そんな様子を見た馨ちゃんの両親は何かいろいろなものが混じった微妙な表情で苦笑していた。
先導してくれていた家政婦さんは馨ちゃんの両親の前で立ち止まった。
「改めて自己紹介させていただきます、私は正史編纂委員会東京分室を任されている沙耶宮綾斗というものです、こちらは私の妻の葵と娘の馨です、羅刹の君のお目にかかれることを光栄に思います」
自分が立ち止まって彼らのほうを向いてから、感謝の言葉とともにお辞儀する馨ちゃんの両親達、それを見て真似をしてお辞儀する馨ちゃんの姿が何ともほほえましい。
「あちらでは御身の母上と父上がお待ちになっておられます、些細なものではありますが目的地まで快適に過ごしてもらうためにいろいろと手配させていただきました、どうぞおくつろぎください」
相手の謙虚な態度に、これはまたご丁寧に……と恐縮した返事をしそうになるのをグッとこらえ、ご苦労様ですと笑顔でねぎらいの言葉をかける、その言葉に沙耶宮さんは少し驚いた顔をする。
「ねーねー、またうちにきてくれる? そのときはいっしょにあそぼうね! 」
無邪気な声とともに二人の間に立っていた馨ちゃんがこちらにやってくる。
そうだね、またこっちに来たらいっしょにあそぼうね。
馨ちゃんの無邪気な言葉に対応しながら、ちらりと大人たちの顔を盗み見ると、少しこわばった顔をしながら自分たちの会話を見守っている、そんな彼らの表情などつゆ知らず。
「じゃあ、ゆびりげんまんしよ!」
そういって馨ちゃんはあどけない笑顔で小指を突き出してくる、それに合わせるように自分も小指を出して馨ちゃんの小指とつなぐ。
「ゆーびきーりげーんまーん、うーそついたらはーりせーんぼんのーます!ゆびきった! 」
小指をはなすと、馨ちゃんはえへへと笑って女性のほうに走り寄っていき抱き着いた。
「うちの馨が粗相を、申し訳ありません」
すっと沙耶宮さんが自分の近くに寄ってきて謝罪の言葉を口にした。
気にしてませんよ、元気でいい子ですね、大切にしてあげてください。
そう伝えると沙耶宮さんは先ほどよりも驚いたような顔をする、そんなに変なことを自分はしたのだろうか? と心配になったが、あまり気にしなことにする。
「寛大な処置をありがとうございます、では私たちはここで失礼させていただきます」
そういって再び頭を下げる沙耶宮さん、家政婦さんが車のドアを開け車に入りやすいようにしてくれる。
そうして自分を乗せた車は発進し、父と母が待っているという地主の人の家に向かって進んでいった。
その時、はるか遠い西の国々では異変が起きていた。
北欧で生まれた一柱のまつろわぬ神は行く先々で猛威を振るい、ヨーロッパ諸国を混乱の渦に陥れた。
彼のせいで人々は他人をだまし、裏切るようになった、その結果司法は麻痺し、犯罪が増加し、いくつかの国はもはや国家として機能しなくなった。
事態を重く見た魔術結社の重鎮たちはヨーロッパ近辺を収めるカンピオーネ、ヴォバン侯爵に事の解決を嘆願した。
ヴォバン侯爵はこれを毎年幾人かの魔女や巫女を自身に貢ぐことを条件に承諾、激闘の末、見事原因の神格を撃退した。
そして傷ついた神は行方をくらまし、魔術結社の人員で捜索が続けられていた……。
「くっそ、とにかく休息をとれる場所を探さなければ……」
カンピオーネとの戦いの果てに弱りはてた一柱の神は休める霊地を探していた。
「ここから近いのは……ピラミッドか」
神は霊脈を探り近辺で霊力の強い場所を割り出す、とにかく傷ついた自分の霊格を修復することが最優先事項だった。
ふと、そこで神は違和感を覚えた。
「なんだ……これは? 」
身体がうまく動かない、そして体には何か黒い触手のようなものがへばりついている、その触手を見てとてつもなく嫌な予感が膨れ上がり、自身の状態を調べると
「な、なんだこれは!? 私の神格が書き換えっ……!? がああああ!? 」
気づいた時にはすでに遅かった。
神の体を激痛が襲う、触手は接しているところから神の神格を侵食していた、しかも弱っている神の力ではそれに対抗することはできなかった。
侵食のスピードは徐々に速くなり、神格が書き換えられていくとともに細身だった神のシルエットがブクブクと膨れ上がっていく。
端正だったその顔立ちは腐るように鼻が欠け、眼球はどろりと溶け出し、閉じた瞼からは眼球だったものが零れ落ち、口の端は徐々に引き裂けていく。
膨れ上がり張った皮膚がついには裂け中からは黒い何かが姿を現す、ぶちぶちと皮膚が裂ける生々しい音はまるで元の神の断末魔のようであった。
しかし、膨張したソレは10mほどまで大きくなると膨張するのをやめた、ソレは次に収縮を始めた、10mもあった大きさから再び先ほどの人間サイズの大きさに縮んでゆく、またそれらは紙粘土のようにぐにゃぐにゃと形を変え始めた。
最終的にそこにいたのは黄金の冠をかぶり、虹色のローブをまとい、元の神とは違った美貌を備えた痩身の男だった。
彼は自身の姿を確認すると、その場に崩れ落ちた。
「なんということだ……どうやらこの世界はわが主の影響がかなり薄い世界のようだ…… 顕現できたのはいいが力を抑制され、宙に帰ることすらできないとは…… なんと嘆かわしい……だが私が顕現したことでわが主の影響はこの世界にもあまねく伝わることになるだろう」
彼は立ち上がり砂を払う、そこでふと東のほうを向いた。
理由はなかった、ただ何かが惹かれるのだ、幸い最低限の目標は達成されている、この惹かれる原因を探してみてもいいかもしれない、次の目標としてできうるならばもう一つ神格を呼び出しておきたいところではある。
彼は抑えられない好奇心に駆られ東へと進み始める。
後日エジプトから中国までにいる何人かの霊視ができる魔女たちが発狂したという報告が上がった。
こんな作品でも楽しんでいただければ幸いです。