東方恋桜書   作:鏡野桜月

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相合傘(小傘)

梅雨のある日の昼終わりのこと、久しぶりに人里の雨が止んだ。

止んだといっても、空は曇天でいつ雨が降ってもおかしくなかった。

だが、少しでも雨が止んでいるという事で、ここしばらく家の中で退屈していた里の者たちの多くが外に出て来ていた。

そして里に現れたのは人間だけではなかった。

 

「ねえねえ、次は何して遊ぶ?」

 

川の近くでは小さい男の子と多々良小傘の姿があった。

小傘は人を驚かせることを生業とする妖怪。

だが、最近では自称ベビーシッターをやっている。

 

「ねえねえ、じゃあお姉ちゃんの得意な事をしてみてよ」

 

男の子は無邪気な笑顔とともに小傘にそうお願いした。

小傘はそういわれ、「まかせてっ」と、言いつつ傘を抱えて後ろを向いた。

その時、男の子の後ろに紫の着物をきた少年が紺色の傘を持って通りかかっていたところだった。

そして小傘は、突然振り返り、傘を男の子の方につきだした。

 

「おどろけっ……!?」

 

が、運悪く、ここしばらく降っていた雨のせいでぬかるんだ地面に足を取られ、盛大に前に転んでしまった。

そのことで前に突き出していた傘により、男の子は押され、その後ろにいる少年も巻き込まれる形になった。

そして、二人は豪雨のために増水し、上流ではまだ降っているのか、勢いが止んでからも止まらずにいる、濁り、流木も流れている川に転落した。

 

「え?」

 

一瞬後傘は状況を把握することができなかった。

その間に落ちた二人は、少年の方ももともと水深の浅い川、足がつくはずなのだが、川の勢いに成す術もなく、流されていっていた。

 

「っあぁ。くそ、おい、誰か、誰かいないか!!」

 

少年の方はそう叫びながら、ものすごいスピードで流れてくる流木から溺れかけて、やっとのことで浮いている男の子を助けようと、流れに逆らい男の子の元に向かっていた。

その少年の助けを呼ぶ声のおかげで、周りの人たちは今起こっている異常さに気付き始めた。

 

「ど、どうしよう……」

 

だが、小傘は自分が事故だとしても二人を突き落してしまったことに頭が真っ白になり、物事が考えられなくなっていた。

倒れたまま目だけで二人の姿を追っていた。

そんなときに、恐れていた事態が起きた。

それは、男の子の元に太い流木が流れていっていたのだ。

溺れかけ、頭だけが顔を出している状態の男の子に当たったらそれはもう生死にかかわることだ。

 

「く、させるかあぁぁーー!!」

 

 

ガンッ ゴキッ

 

 

鈍い音が少年の腕から鳴った。

少年の助けがギリギリ間に合い、左腕で男の子を守ったのだ。

男の子はそのショックで気絶してしまった。

しかし、庇った左腕は確実に折れていた。

それでも少年はその腕で男の子を引き寄せると、

 

「おい、そこのおっさん、こいつを頼む」

 

川に流された状態で男の子を両手で岸にいる男に向かって放り投げた。

それは危なっかしかったが、ちゃんとよばれて反応した男によって助け出された。

そして少年も何回か流木にあたったが、里の大人たちの助けにより、救出された。

 

「……に、逃げなきゃ」

 

小傘はその現状からの行動で、咄嗟に逃げることを選んでしまった。

 

 

 

そして、その出来事の原因となり、それでいて何もできなかった本来人間の敵である妖怪の小傘は里では退治の対象となった。

 

 

 

 

そして、あの出来事からわずか2時間後、

 

小傘は人間たちに捕まった。

 

 

 

「う、うう、はなせー、はなせー」

 

涙目でそう訴えている小傘の額にはあるお札が張られていた。

小傘は里の男三人がかりにひざまずかされていた。

そして小傘の前にはそこ一帯の長のような佇まいの男が立っていた。

 

「よう、凶悪妖怪さん」

 

その男は嫌味たっぷりに小傘をそう呼称した。

これは見世物の様でちょっと開けた、空き地のような場所でたくさんの里の人たちが見ているところで行われていた。

さながら4人の男は罪人を見せしめで殺す処罰者のようだった。

 

「っ……」

 

小傘は自分のやったことをちゃんと認識しているため、言い返せなかった。

しかし、それをいいことに、男たちは調子に乗り始めた。

 

「さて、力が出ないだろう?なぜならそのお札、博麗神社特製の妖力を抑え込む特別性のお札だからな。俺たちひ弱な里の人間はこういうものもないとこの世界、生きていけないからな」

 

男は得意そうにそう語った。

ひ弱という人間とはまるで違う人を見下し、陥れる目で。

だが、それが聞こえているのか、小傘はそれに反応せずに、ひたすらある事を呟いていた。

 

「ごめんなさい。許してください。お願いします」

 

それはただただ許しを求めた自分の犯したことを反省している者の言葉だった。

だが、男たちはそんなことに耳を貸すほど心が広いわけがなかった。

 

「実はさぁ、お前は前々から要注意妖怪だったんだ。よくよく里で見かけるからな。その上子供に近づいて、さらにはその子ともからは好かれて。一応今までは危害を加えたことはなかったが、俺たち大人は妖怪を信じ切ることはない。いつ本性を明かすか、子供に近づくたびにビクビクしてきた。だが、このことでわかった。お前はこの里にとっての毒だ」

 

その言葉に小傘はさらに恐怖が顔に出て来ていた。

そして、薄々とだが、自分がこの後どうなるのか、予測していた。

それが具体的になっていけばいくほど、小傘には余裕がなくなっていき、抵抗が強くなっていた。

だが、どんなに抵抗しようが、拘束が解けることはなかった。

 

「そこで、お前にはこの出来事に見合った代償を負ってもらおう」

 

そこまで行ったときには、小傘の表情は恐怖で染まり、その目は涙が溢れていた。

その助けを乞う言葉は必死さで染まっていた。

 

「いやだ、いやだよ。死にたくない。ごめんなさい、許して」

 

だが、そんな言葉に対して、男は先程とは打って変った言葉を口にした。

 

「ああ、さすがに殺しまではしない。それが被害者たちの申し出だからな」

 

男は民衆の前の方に目を向けた。

そこには危うく死にかけた男の子と、その男の子の母親と、左腕を折り、添え木をで腕を固定した少年がいた。

男の子の方は外傷はほとんどなく、今何が起きているのかよくわからない様子でいた。

だが、その代わりといわんばかりに、母親の方はものすごい形相で小傘をにらみつけていた。

少年の方は心配そうに小傘を見ていた。

その右手には傘が握られていた。

 

「じゃ、じゃあ…」

 

その言葉を受け、小傘の眼には希望が差し、その言葉は期待の念が強く込まれていた

だが、小傘の求めていたことが起きたのはその一瞬だけで、

 

「なあ、阿求に聞いたんだが、おまえら付喪神って、使えるのに使われずに捨てられたから化けて出てきたりするんだってなぁ。でも、壊してから捨てれば大丈夫らしい。だから、ある解決手段を思いついたんだ。被害者の要望に応えた上で、俺たちの気が晴れる手段をな」

 

そう言った途端に、男は横に動き、小傘はある物を目にした。

それは、木や、藁と一緒に小傘の本体である紫色の唐傘がくべられている光景。

加えてその横では、今にもそこに手にした松明を投げ込もうとしている男の様子が見て取れた。

それだけ見れば小傘はこの男たちが何をしようとしているのかが手に取るようにわかった。

 

「見て分かるように、お前自体は殺したりはしない。だが、代わりにこのお前の本体である傘を燃やし捨てようと思ってな。これなら無念が残るけど化けて出てくる依代がない。とってもいい方法だろ」

 

その言葉に小傘は眼を見開いた。

それには流石に見ていた民衆にどよめきが見て取れた。

だが、それは消して同情するようなものではなく、「そんな方法もあるのか」という関心の方が圧倒的に多かった。

 

「やめて!!それだけは、それだけはやめて!!お願いだから、他のことなら何でもするから!!」

 

そんなことをされては小傘は存在する糧がなくなる。

そんなことをされるぐらいなら普通に殺された方がマシなくらいである。

最早小傘は正気が保つのさえ大変なほどに精神が追いつめられていた。

だが、その見せしめは中断することなく続けられた。

 

「おい、入れろ」

 

男はその鬼気迫った小傘の表情をみて、にやけていた。

その言葉が合図に、松明が投げ込まれた。

 

「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」

 

そして、その火は一瞬で燃え移り、小傘の本体である傘を燃やしていった。

傘が燃えていくにつれ、小傘の目からは光が失われていった。

そして、傘の形が消えた時には、もう、小傘に生気を感じられなくなっていた。

 

「あ、あ…」

 

その口からは、それだけが小さく聞こえただけであった。

しかし、男は反応がなくなった小傘に満足いかなかったのか、さらに追い打ちをかけた。

 

「今のお前はたとえ今解放されて、逃げたところでそこらへんの妖怪に食われるのが落ちだ。どうだ、悔しいか?おい、何とかいえよ。もっと恐怖でゆがんだ顔、悲痛の叫びを聞かせてみろよ」

 

もはや男の行動は行き過ぎていた。

だが、それを止める者はいなかった。

そして、男はいくらゆすっても反応しない小傘にイラつき、突如として、小傘の腹を強く蹴り上げた。

 

「…っ……」

 

だが、それにも小傘の口からは蹴りで無理やり吐き出された空気の音しか出なかった。

それに腹を立てた男はこういい、さらに蹴りを続けた。

 

「死ななければ大丈夫だよな。妖怪だ、体は丈夫だろ」

 

そしてそのまま蹴りや殴りなどの暴行が4,5発したところで雨が降り始めた。

それに民衆はおろか、男たちも小傘をほったらかして、家へと帰ってしまった。

 

 

 

そして、雨は強くなっていく一方であった。

 

「あ、あう…」

 

小傘も痛んだ体を持ち上げ、這いつくばりながらも近くの木の陰へと雨宿りをしに行った。

立つ気力もなき、へたり込んで俯いていた。

その目には最早何も映っていなかった。

そこに傘を差した一つの影があった。

だが、それに小傘は気付いていなかった。

 

「………」

 

近づいてきた影、否、被害者であるはずの少年は自分の姿に気付いていない小傘をよそに、しゃがみ込み、その持っていた傘を差してやった。

そして、折れた左腕で顔を上げさせ、額に張られたお札をはがし、捨てた。

顔を上げられたことで、視界に少年が移り、なおかつ予想外の行動をされたため、小傘は不思議そうにし、こう言った。

 

「なん、で?」

 

それを聞くと、少年は反応してくれたことがうれしかったのか、笑いながらこういった。

 

「大丈夫だったか?それと、これ、小傘の唐傘」

 

そういうと、少年の持っていた紺の傘は少年の右腕が緑色に光るとともに、小傘の傘になった。

それと同時に、燃え残っていた傘の一部が紫から紺色へと変わった。

 

「え?どういう、事?」

 

そう言う小傘の目にはかすかにだが、光が戻っていた。

その質問に少年は自信なさげに語った。

 

「僕は外来人でね。ちょっとした手品レベルだけど、能力を持ってるんだ。その能力で僕の傘の姿を小傘の傘に、小傘の傘の姿を僕の傘の姿に変えておいたんだよ。被害者だっていえばそれぐらいできる隙はできた。大人には力では勝てない僕にはそれぐらいしかできなかったんだ。ごめん」

 

小傘の目にはしっかりと少年が映っていた。

少年の言ってることに嘘はなく、お札がなくなった今、自分の片割れが少年の持っているそれだとは一目瞭然であった。

元気を失って、しおれていた小傘のテンションは戻りつつあった。

 

「あ、ありがとう、ありがとね」

 

今度はうれしくて涙を流している小傘に、一瞬驚いた少年だったが、すぐに小傘の様子が元に戻ったと悟り、笑顔でその言葉を受け止めた。

そして、そのまま紫の唐傘を小傘に差しのばした。

小傘はそれを受けとると、すぐに抱きしめて、涙を流した。

渡したのを確認すると少年は立ち上がった。

 

「…その、小傘、ほら、僕の傘は焼けちゃったから……」

 

恥ずかしがってるのか、少年は言うのをためらった。

それに小傘は不思議そうにしてるが、その内容が楽しみで仕方がなさそうな様子がその表情からにじみ出ていた。

それを感じると、少年は意を決し、ある言葉を口にした。

 

「僕の傘になってくれないか?」

 

小傘をそれを聞いたとたんに、とても嬉しそうにした。

そして自分より少し背の高い少年に傘を差してあげ、当然の答えを出した。

 

「うん、これから私はあなたの物だよ」

 

そして、最高の笑顔で少年に笑いかけた。

少年もそれに笑顔で返した。

 

「さて、僕はついついここ一帯のお偉いさんを殴っちゃったからもうここにいれないんだ。小傘、里を出るよ」

「うん♪」

 

そして小傘は傘を抱きしめたまま、少年にくっついていた。

そのままその二人は雨降るその里から姿を消した。

その姿は二人の少年と少女の幸せそうな相合傘であった。

 

 

 

 

 

 




少年の能力は、
『同じ形のものの姿を入れ替える程度の能力』
でした。

あとそのうちおまけをつけたします。
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