シリアスが書きたいという適当な理由で作り、設定もできてないのにテンションで投稿しました。
駄文だと思いますが、よろしければ見てやってください。
悲劇
ああ、どうしてこうなってしまったのだろうか。
迫りくる敵を見つめながら少女は考える。
私はただ、平凡な日常を送りたかっただけなのに。
そんな意味のないことをつらつらと考えている間にも、少女の右手は確実に敵の目を握りつぶしてゆく。
――――本当にそう?
一瞬頭の中に響いた声を振り払う。こんなことを私が望んでいるはずがない。右手を握る度に人の命を散らし身体を壊していく。こんな非日常を私が望むわけがないだろう。私は平凡で何の取り柄もない普通の人間なのだから。
少女はまるで自分に言い聞かせるように、同じ言葉を何度も心の中で繰り返す。
――――違うでしょ? もう貴女は人間ではない、人間を餌にするバケモノなのよ。
うるさい、私は人間だ!
またも頭の中に響く声に、少女は癇癪を起した子供のように怒鳴り散らす。しかし一度意識してしまうと、どうしても先ほどの言葉が脳裏にこびり付いて離れない。本当は自分がバケモノだと気が付いているのではないか。ただ気が付かないふりをしていただけじゃないのか。
そんな考えが頭の中でグルグルと回っている時、ふと、少女は口元に跳ねた肉片を拭おうとして違和感を感じた。
――――――笑ってる?
まさかそんなことがあるはずが……。少女はそう思ってもう一度、顔まで手を持ち上げるが、口元に当てた手は確かに少女の口角が上がり、唇が三日月を描いていることを確かに伝えていた。
その感触に少女は思わず口元から手を離し、まじまじと見つめてしまう。その時、不意に、目の前に持ってきた自分の手の人差し指に、口元を拭ったときの肉片が付いているのが嫌に目についた。まるで本能が叫んでいるように、不思議と指に付いた肉片から目が離せない。どうしてだろうか、何時もなら本能よりも先に精神が拒否反応をするはずなのに、今は本能に逆らおうという気持ちが湧き起きることはなかった。
徐々に近づく手に、心の何処かで止めろと叫ぶ声が聞こえる。それをしてしまえば戻れなくなるぞと理性が悲鳴を上げる。しかし、疲弊した理性は本能には抗うことはできず、ついに少女は口元に近づけた人差し指に付着する肉片を舐めとった。
刹那、少女は理解する。
――――――――あぁ、やっぱり私はバケモノになったんだ。
そして、自分が人間ではなくなってしまったのだと諦めに似たような感情で認めたと同時に、少女の思考は何かに飲まれるように掻き消えた。
◆
少女には名前があった。今とは違う日本人らしい苗字と名前、合わせて漢字四文字のありふれた名前。今になってはもう思い出せるのはそれだけ、けれど確かに今とは違う名前の少女がいた。それは前世と言うべきもので、少女の記憶の中に薄らと、だがしっかりと残っていた。
少女の前世は何の変哲もない普通の高校生だった。何か特徴があったとすれば他人より冷静に物事を把握できたことくらいか。周りからは天才とも言われていたが、自分ではそうは思わない。特徴といったら上げられるのはこの程度のただの一般人で、何の変化もない日常を過ごして、そして何の変わりもないまま流されるように少女は人生の幕を閉じた。
けれど流されるままに生きていた少女には特に何も後悔もなかった。あえて上げるなら頑張って育ててくれた両親に別れの挨拶が言えなかったことだけだろう。それでも少女は命を落としたことに悔いはなく、満足―――とはいかないまでも十分に生きることができた。
だから、少女はそのまま消えてしまっても良かったし天国か地獄に行くのでも全然かまわなかった。
なのに気が付いたら少女は光る球体として真っ白な何もない空間にいて、目の前で無邪気に笑う男がいたときは、それを茫然と見ているしかなかった。その男は少女を見るとその無邪気な笑みを深く深く、邪悪に見えるほど唇を釣り上げて楽しそうに
「やあ、始めまして。君はいきなりこんなところにいて茫然としているかもしれないけど、まず挨拶をされたら返すものだよね。ああ、でも君の住む星には名前を聞くならまず自分からっていうんだっけ。でも僕には名前が沢山あるからどれを名乗ればいいのか分からないな。まあ、とりあえず君に分かりやすいようにするなら神様かな? じゃあ僕も名乗ったんだから君の名前を教えてよ。あ、もしかして僕が神様だって信じてない? それなら僕の力を見せてあげよう。そうだな、君の名前は『■■■■■』――――ってあれ? もしかして自分の名前を認識できてない? そっか、君が死んだときに抜け落ちちゃったのかな。それなら名乗れないのも仕方がないね。あ、そういえば自分が死んじゃったのは理解してる?」
自らを神と名乗った男は状況を理解できない少女に対して息を吐く暇もなくまくしたてる。
茫然としている少女は自称神の勢いに押されて問いかけにただ曖昧な声で肯定することしかできなかった。
「ならよかった。自分が死んだことを理解できてなかったら話にならないしね。ああそうそう、その話なんだけど、実は君に転生してもらうことにしたんだ。理由は聞くなよ? 僕は神様だからね、崇高で偉大で壮大な暇つぶしが目的なのさ。ってしまった、理由を教えちゃったよ。まあでも聞くなって言っただけだし、自分から話す分には問題ないよね。というわけで、今から君には僕の暇つぶしとして転生してもらいま~~~~す」
意味が分からない。何故自分なのか、そんなこと望んでなどいないのに。次々と沸き上がる否定の数々。しかし、神と名乗った男はそんな少女の考えを読んだかのように嘲笑う。
「あ、拒否権はないから注意してね。じゃあ早速転生するにあったって転生する世界と特典を決めようか。じゃあこのルーレットを回してね。あれ、でも今の君には手がないのか、それなら僕が変わりに回そう。じゃあいくよ? せーの! ――――――――はい、君が転生する世界は東京喰種だね。で、特典はフランドール・スカーレットの力か。なかなか大変そうなものになったね。それにしてもグールの世界なのに吸血鬼か、さすがにそれは……そうだ! 吸血鬼と喰種のハーフにしよう。代わりに妖力とか魔法は使えなくなるけど吸血鬼の弱点もなくしてあげる。ちゃんと能力は使えるから安心してね。じゃあ転生させるよ。せいぜい僕の暇つぶしになってね、バイバイ!」
こうして少女は何も理解できないまま、有無を言わされず無理やり転生させられた。
あのまま消えてもよかったのに
人生に十分幸福を感じていたのに
望まぬ特典を与えられて
望まぬ種族にさせられて
望まぬ世界に
少女は、望まぬ転生をした。
◆
急に転生した時のことを思い出した。明日が誕生日だからだろうかと少女は首を傾げる。
少女が転生して、明日で8年が経とうとしていた。思い返せば今世の両親には大分迷惑を掛けたものだ。などと少し感慨深げに転生した頃のことを思い返す。
転生して最初の頃は現実を認めたくなくてとにかく泣き喚いた記憶がある。転生したなんて信じたくなかったし、何より喰種と吸血鬼の食事を知った時は、悪夢を見てるんだと何度も自分に言い聞かせた。けれど時間が経つほどにこれが現実だと受け止めるしかなくなり、少女はなんの気力もなく、死んだように生きていた。
食事を抜こうとしたこともあったが、喰種の飢えには耐えきることができなかった。幸いなことに、少女は喰種と吸血鬼のハーフだった為に、血を飲めば飢えを充分に満たすことができたので、本当の意味での食事は一切せずに人間の血液だけを飲み続けた。
そんな少女に両親は根気よく付き合い続け、そのおかげで少女はだんだんと生きる活力を取り戻していった。
気力を取り戻し、現実を受け止められるようになった少女はやっと他の事を考える余裕が生まれ、この世界に馴染んでいった。
今まで呼ばれる度に違和感しかなかったユエ・スカーレットという自分の新しい名前がお気に入りになったし、鏡に映る自身の姿を見て、これが自分だと実感できるようになった。
鏡の中の少女――――ユエは吸血鬼である母親に似ていて、母親から受け継いだ綺麗な金髪と宝石のように美しい深紅の瞳が特徴的だ。
父親は日本人だが、北欧の方の生まれの母親に似ている少女はハーフらしい綺麗な顔立ちをしている。元々は前世の少女も御世辞なしで美人と言われるくらいには顔立ちは整っていた。だが、今世の少女はそれ以上で、このまま成長すれば、それこそ絶世の美少女になること間違いなしだろう。
ユエは時々元の自分が懐かしく感じることはあるが、今の美少女の身体は嬉しいし、何よりも、母親譲りの金髪と深紅の瞳がとても自慢で大切だった。
ユエがこのことを二人に言った時は母親はとても嬉しそうにしてユエに抱き付き、父親は母親を羨ましそうに見ながら自分のことで自慢はあるかと尋ねた。この二人、所謂親バカというやつである。
ユエが父親の質問に対して特に何もないと即答すると、父親は泣きそうになっていて、ユエは母親と顔を見合わせて一緒に大笑いした。
こうしてユエは、徐々に日常の中で幸せを感じられるようになっていた。
そして明日でユエが転生してから8年目。なんだか随分と時間が経つのが早かったように感じる。
母親と父親に明日の為にも早く寝なさいと言われて、ユエはこの世界でやっと感じられるようになった幸福感に身を任せて両親に促されるまま眠りに落ちた。
――――その幸福が崩れ去るなど知らずに。
その日の夜、ユエは何故だか妙に気持ちが高ぶって目が覚めた。時計を見ると既に誕生日になっていた。
まったく眠れそうになかったので身体を起こしカーテンを開ける。すると目に飛び込んできたのは夜闇を照らす大きな満月だった。それを見てユエは気持ちが高ぶっていた理由を理解する。
そういえば今日は満月だった。吸血鬼のハーフの私の気が高ぶるのも当然かもしれない。
今までは満月でも夜に目が覚めることがなかったので少し不思議に思うが、ユエは、まあ、そんな日もあるだろうと納得する。
それにしても、とユエは考える。何故か全く眠気を感じられない。もう一度寝るのには時間がかかりそうだと判断したユエは夜風に当たる為に窓を開ける。と、そこで何か違和感を感じた。何かあるのかと少し五感に集中すると窓の外から入ってくる風に不自然な匂いが混じっていることが分かった。
さらに匂いを感じる為に目を閉じ嗅覚に意識を集中させると、その匂いは甘く食欲を唆る様な、それでいて何時も嗅いでいるような――――
そこまで考えた時点でユエは匂いのする方向へと全力で駆け出していた。
前世の感覚の所為で気がつかなかったが、今のユエは喰種と吸血鬼のハーフだ。そして当然食事は人間の頃とは違う。なら吸血鬼と喰種の感覚で美味しそうと感じるもの、しかも慣れている匂いといえば――――
「――――お父さん…お母さん……!」
◆
走る、走る、走る。
グールと吸血鬼の身体能力を使って匂いの下へ全力で走り続ける。
どれくらいの時間が経っただろう。十分? 二十分? 三十分? それとも一時間だろうか?
そんな時間の流れすら気にならないほどユエは必死で走り続る。路地裏の要り組んだ道を匂いを頼りに駆け抜け、ついに匂いの下へと辿り着いた。
そこは空き地のような広い空間だった。ユエは荒い息を整えもせずにその空間に足を踏み入れる。そこには似たような服を着た大人たちが何人もいた。ユエはその服の意味を知っていた。両親に見かけたら見つからないうちに逃げなさい、と何度も注意されたからだ。彼等の服は喰種対策局、通称CCG、グールの間では鳩と呼ばれる者たちが着ているものだ。両親の匂いは鳩の向こう側からしている。ユエは嫌な想像をしてしまい頭を振って考えたことを追い出す。
しかし、どうしても嫌な予感は拭えず、鳩の中でも特に豪華な服を着た二人の話しに聞き耳を立てる。
「やっと終わったか」
「しぶとかったですね」
「さすがはSレートの蝙蝠といったところか。三河上等がいなければ危なかったよ」
「いえ、井上上等がいてこそです。それこそ私だけでは倒すこともできなかったでしょう」
「そうか。それにしても、まさか蝙蝠に女がいたとは思わなかった」
「そうですね。あの身体能力と再生力は驚異でした」
「だがカグネを一度も出してなかったし、赫子のコントロールができていなかったのだろうな」
もう鳩の話しなんてどうでもよかった。ユエの意識にあるのは唯一つ、一瞬、鳩の隙間から見えた空き地の中央にいた心臓にクインケが突き刺さっている女性、そして首と胴体が切断された男性のことだけだった。
理解できない、理解したくない。しかし、現実は非情なまでの結果をつきつけてくる。そうだ、あそこに倒れてるのは、あの二人は――――
「お父さん…お母さん……」
その呟きが聞こえた訳ではないだろうが、鳩の捜査官がユエに気がついた。
「何でこんなところに子供が……」
その言葉に他の捜査官たちも気がついたようで、一斉にユエに視線が集まる。だけどそんなことは気にならない。
ユエは中央に向けて足を進める。
「お嬢ちゃん、ここは危ないから入ってきちゃ……」
本当に善意からなのだろう。鳩の一人がユエにやんわりと優しく注意する。しかし、ユエに捜査官の言葉は意味を成さない。
誰かが話してる。でもどうでもいい。ユエはまた足を進める。
「お嬢ちゃん、だからダメだと言っているだろ?」
優しい男なのだろう。注意を無視したユエにもう一度優しく言い聞かせるように言う。だがユエの意識には男の言葉は入らない。
目の前に誰かが立つ。けれどそんなの関係ない。ユエは回り込む為に足を進める。
二度目の注意を無視したユエに捜査官もさすがに少し強く注意をしなければと考える。
また誰かが前に立った。何か言ってるみたいだけど私は早くお父さんとお母さんに会わなくちゃなんだ。だから――――退いて貰おうか?
ユエがそう考えた瞬間、井上上等捜査官は悪寒を感じてとっさに叫んだ。
「おい、下がれ!」
「え?」
しかし、井上の言葉がユエの前に立つ捜査官に届いたときにはもう遅く、ユエは既に動き出していた。
「……邪魔」
ユエの手は捜査官の腹部を貫通し、腕を引き抜くと捜査官は大量の血をまき散らしながら倒れる。人生初の殺人。しかし、今のユエにとってはそれさえもどうでもいいことだった。
ユエは周囲の捜査官が突然の事態に固まった隙に一気に捜査官の間をすり抜ける。そして、ついに広場の中央、両親の倒れ伏す場所へとたどり着いた。
「お父さん、お母さん。迎えに来たよ」
ユエはそう言って両親に近づくが、返事はない。
「お父さん、お母さん。起きてよ」
ユエが話し掛けても二人は反応すら返さない。
――――お父さんとお母さんは寝てるんだ。そう、眠ってるだけだ。
「お父さん…お母さん……」
どれだけ声を掛けても二人はピクリとも動かない。
……分かってる、死んじゃったんだと分かってる。でも認めたくない、認められるわけがない。だから――――
「……お父さん、お母さん。お願いだから……お願いだから、起きてよ………」
……
…………
……………………
……ュ………ェ……………?
―――――――――――――――!?
「お母さん!!」
どんな軌跡か、ユエが必死に呼び掛けると母親は口元から血を流しながらも笑った。
「……ユエ」
だから大丈夫、きっとお母さんは助かるんだ。ユエは言い聞かせるように思う。
「……私の…最後のお願い」
しかし、ユエの願いは届かない。
「………生きて」
母親はもう助からないと何処かで理解しているのだろう。だからユエはだんだんと小さくなっていく母親の言葉を一言たりとも聞き逃さないようにする。
「……ユ…エ」
最後の言葉を永遠に忘れぬよう、心に、魂に刻みつけるようにして覚える。
「――ぃ――――――――」
その顔は笑顔で
「……ずっと……ずっ…と…」
それでも願わずにはいられなっかった。
「…貴女を………愛して…る」
――――――――私を一人に、しないで……ッ!
けれど、目から光を失った母親を見て理解する。
――……あーあ、
「死んじゃった」
言葉にした瞬間
ユエの中で
ナニかが
壊れた
――――――――アハ♪
◆
気が付けば辺りが血の海となり、所々に肉片が飛び散っていた。
無意識に指に付いた血を舐めとり、その背徳感と快楽に背筋を震わせる。今までは血を吸うという行為におぞましさすら感じていたのに今のユエは血を舐めても何も感じない。寧ろ何故今までこんなに美味しいことをしていなかったのかと疑問すら覚える。其れ程に彼女の中でナニカが決定的に変わっていた。
自分が何をしたかは覚えている。ただ、能力を使っただけだ。『あらゆるものを破壊する程度の能力』それがユエが神に貰った力。何故今まで使えなかったのか不思議なほどに馴染んだこの力で、CCG捜査官を皆殺しにした。なのにユエは初めての殺人に何も感じなかった。いや、実感できないと言った方が正しいか。
あの時のユエは笑いながらは鳩を惨殺しいて、まるで狂気に犯されたもう一人の自分を見ているように感じた。でもあれは確かにユエ自身で、ユエの中のナニカが狂ったのもまた事実だった。
でも、どれだけ自分が狂っても、それでも母親との約束だけは守ろう。ユエは心に刻み込んだ母親の最後の言葉を思い出す。
――――私は絶対に生るよ、お母さん。
――――――だから、お父さんとお母さんには私の力になってもらおう。そして私の中でずっと一緒に居よう。
それじゃあ――――
――――イタダキマス
この日、ユエが産まれて初めて喰べた
◆
――――今日は私の八歳の誕生日。一生忘れられない
―――――……私は
小説の主人公でも
何でもない……
前世の記憶があるとはいえ元は
ごく平凡な
何処にでもいる
普通の高校生だった……
だけど……
もし仮に
私を主役に一つ
作品を書くとすれば……
それはきっと……
『悲劇』だ
完全に深夜のテンションで目から汗を流しながら書きました。後から見直して悶えました。
次の話しもできていない状況での更新なので、次に投稿をするのは何時になることやら……
こんな適当な作品でもよければ、これからもよろしくお願いします!