東京吸血種   作:天兎フウ

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お待たせしました。
しかし待たせたわりに内容は酷い上に短いです。
理由、

ほのぼのとした日常を書こうとしたのが間違いでした!

ええ、私がほのぼのを書くのは向いていないことが今回ではっきりしました。何せいざ日常を書こうと思ったら手が止まり、そのまま二週間が経過していましたからね。結局内容はシリアスっぽくなりましたし。つくづくほのぼのが向いていないことが分かりました。
一応、言い訳をしておきますと、日常を過ごしているエトの姿と口調が想像できなかったんです。それでも二週間なにも書けないのは酷いと思いますけど。

そんなわけで内容は散々ですが目をつぶっていただけたら嬉しいです。

サブタイトルは『むく』





夢苦

 

 

 

 結局、あれからユエとエトがお互いを離したのは空が白銀のような薄白い色に染まり始めたころで、その理由も血液が足りなくなったということによるもの。お互いに喰らい合っても、喰らった分だけ再生することになる二人にとっては体力や傷など関係ないことで、もしもお互いの血がまだ残っていたとしたら、それこそ永遠に喰らい続けたのではないかと思えるほどだった。

 冷静さを取り戻した二人はお互いに血にまみれた赤く染まった服を見て苦笑する。まさか自分たちでもここまでやるとは思っていなかったのだ。貧血によって少しふらふらとする頭で周囲を見渡せば、辺り一面、それこそ路地裏のアスファルトが赤く染まる程で完全に血の海と言える惨状になっていた。その大半が赤黒いシミに変わっていて、どれほどの時間を喰らい合っていたのかが分かる。

 

「これからどうしようか」

「どうって?」

「エト、このまま血だらけでいるつもり?」

「……どうしよう?」

 

 困った様子で首を傾げるエトを見て、ユエはエトに仲間やアジトがないことを悟る。いや、いないと考えるのは早計だが、今近くにいないというのは確かなようだった。せっかく会ったのにこのまま別れたくもない。そこでユエは一つの提案をした。

 

「エト、私の泊まってるホテルに来ない?」

 

 

 

 

 あれから三十分、喰種の身体能力をフルに使って人間に見つからないように家やマンションの屋根を飛び移ったりしながら移動し、やっと目的地に到着した。

 

「ここよ」

「……ここが?」

 

 エトが唖然とした様子で呟く。それは当然とも言えた。なにせユエが泊まっているといったホテルは、高層の煌びやかな光を放つどこからどうみても立派な高級のホテルだったのだから。

 ユエは茫然としているエトを連れて一目のつかない裏口へと連れて行く。辿り着いたのは関係者以外立ち入り禁止と書かれた小さな扉。どうみても職員用の裏口にしか見えないその扉をユエは独特のリズムでノックする。すると扉が内側に開き中から燕尾服を着た使用人のボーイがでてきた。そのボーイは血だらけのユエとエトを見ても眉一つ動かさず頭を下げる。

 

「お帰りなさいませ」

「シャワーを浴びるから着替えを二人分用意してちょうだい」

 

 異常ともいえるボーイの態度にユエは当たり前の様子で命令をした。それを受けたボーイもこれが当然といった態度で再度綺麗な礼をして見せた。

 

「かしこまりました。それでは、ご案内させていただきます」

「いえ、構わないわ。代わりと言っては何だけど、マダムにしばらく依頼は受けられないと伝言を頼むわ」

「承りました。服は後ほどメイドに用意させます。では、どうぞごゆるりと」

 

 そう言って再度頭を下げるボーイの横を通り過ぎシャワールームへと向かう。今まで茫然としてフリーズしていたエトもようやく動き出した。

 

「ねえユエ、ここって……」

「表向きは普通の高級ホテルだけど、ここは喰種が管理しているホテルよ。偶然オーナーと知り合う機会が出来てね」

 

「レイちゃんは元気かな」などと呟くユエに事情を知らないエトは首を傾げるしかない。

 

「そういえばユエの口調が少し違った気がしたんだけど、どうして?」

「ああ、今の方が素だけど、あっちが普段使ってる表向きの口調よ。まあ、癖みたいなものだから気にしないで」

 

 実際は裏の仕事で子供だからとなめられない為に使っているうちに初対面の相手だとあの口調になってしまうようになったというのが正しいのだが、ユエはそこまで説明する気はなかった。

 そんな感じで話し合っているうちに目的のシャワールームに辿り着く。実はわざわざシャワールームに来なくてもユエの部屋にちゃんとしたシャワーはあるのだが、わざわざシャワールームに向かうのは、ここのシャワールームが特別な使用で喰種専用になっているからだ。つまり今のユエたちのように、人間には見せられない理由で使う場所ということだった。

 脱衣所に入ったユエはさっさと服を脱ぐと個室に入り身体を洗い始める。あまりシャワーや入浴が好きではないユエとしてはさっさと身体を洗って出たいと考えていた。前世ではそんなことはなかったので、恐らく吸血鬼の弱点の名残だろう。弱点が完全に消えても、生存本能としての苦手意識が消えることはないということだ。

 ユエの異様なまでに白い肌に付着する血液は、まるで雪の中に紅い血が零れ落ちたようで、不思議なほどに美しく見えたが、それ故にとても目立っていた。そんな身体を血が残らないように綺麗に流し、さらに血の匂いが残らないように石鹸で洗う。自慢の綺麗なストレートの金髪は特に念入りに行い、手入れも忘れずに行っておく。いくら水が苦手だと言っても、これだけは欠かさずに行っていた。

 

「きゃっ!?」

「……きゃあ?」

 

 ユエが身体を洗っていると突然隣からエトらしからぬ可愛らしい悲鳴が聞こえた。悲鳴の感じから何かに驚いたような様子だったので大事があったわけではなさそうだが、一体どうしたのだろうとユエは首を傾げる。

 

「エト、大丈夫?」

「う、うん、大丈夫。いきなりお湯が出てきて驚いただけだから」

 

 仕切り越しに聞こえてきた声に疑問を抱く。いきなりお湯が出てきて驚くとはどういうことだろうか? 理由を考えると、まさかと思うような突拍子もない一つの可能性に行き当たった。

 

(……エトってもしかしてシャワー使ったことない?)

 

 もしも本当にシャワーを使ったことがない生活とはどんな生き方をしてきたのか。一瞬そんな考えたが容易に答えが出た。とはいっても喰種には良くあることなので自分には関係ないと考えるのを打ち切る。友人として冷たい態度だとは思うが、立場が逆でもエトも同じことを考えるだろうし、お互いにそこまで踏み込むつもりはなかった。

 ユエは一旦個室から出ると、隣の個室に入りエトにシャワーやボディーソープの使い方などを教える。頻りに感心していたエトに少し癒された。前世では醒めた性格で他人程乙女ではなく可愛いものに興味が薄かったユエでも、これが萌えか、と真面目に考えるくらいには。

 その後は特に何か起こるわけでもなく普通に身体を洗い終え、用意されていた服に着替えるとユエの部屋に向かう。エレベーターで最上階に向かい、オートロックを解除して部屋に入る。ちなみに、ここまでの間にエトがずっと驚きっぱなしで、その姿にユエが悶えそうになったのは完全な余談だ。

 ユエが泊まっている広いVIPルームを一通り見まわったエトは一旦落ち着くと流石に疲れが出てきたのか、少し意識が曖昧な状態になって来る。ユエも同じく疲れが出てきて、時計を確認してみると既に午前五時を半分も回っていた。寧ろ貧血の状態で良くここまで持ったものだと自分に対して変な関心のし方をすると、ユエと二人一緒に子供には少々大きいベッドに同時に倒れ込む。

 

「それじゃあ、お休みエト」

「うん。お休み、ユエ」

 

 そう言って二人一緒に遅めの就寝に着いた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 暗く黒い、光が届かず、存在さえ許されないような闇が支配する空間にユエは一人でぽつんと立っていた。

 突如として襲い掛かる孤独と恐怖感。必死で我慢しようとするが、まるで精神退行したように感情の自制が利かない。

 

「……お母さん……お母さん!」

 

 不安に駆られるままにユエは叫ぶ。しかし声は闇に溶けて消え、返事は返って来ない。

 

「お母さん……一人にしないで……」

 

 呟くユエの背後から懐かしい声が聞こえた。

 

『――――ユエ』

「お母さん!」

 

 振り返るとそこに立っていたのは、身体中が血に塗れ倒れ伏す母親の姿。ユエは慌てて駆け寄ろうとする。しかし地に足が付いていないかのように全く前に進まない。刻々と流れていく血液。

 

『ユエ、生きて……』

 

 ついに母親がそう言って動かなくなると同時にユエは突如として動けるようになった。必死で駆け寄るユエ、しかし既に時は遅く母親はピクりとも動かない。

 

「おかあ……さん……」

 

 母親に触れようとした瞬間、周囲の空間にノイズが走った。そしてノイズが収まった途端に急激に黒い空間が赤く染まり始めた。赤く、緋く、朱く、紅く、赫く。血よりもドス黒く禍々しい赤い色が黒を侵食して行く。

 

 呆然とするユエしかないユエ。しかし、突然自分の足が誰かに掴まれて我に帰る。

 足元を見るとそこには動かないなったはずの母親の手が伸びていた。

 

「お母…さん……?」

『―――ユ―――――て』

「え?」

 

 ユエの声に反応するように母親がピクリと動く。

 

『ユエ……生き(喰べ)て……』

 

 ズルズルと、血を滴らせながらユエを支えにゆっくり起き上がっていく母親の姿にユエは恐怖を感じて一歩下がった。

 

『ユエ、喰べて』

『喰べて、ユエ』

『ユエ喰べて』

『喰べてユエ』

 

 体中から血を滴らせながら這いよる母親から必死で離れようとするが何故か離すことができない。

 今のユエには赫子という強力な武器があるにも関わらず、それを使うという発想に思い至ることは無かった。

 

『喰べて』

『ユエ』

『喰べて』

 

 ついに同じ高さまで起き上がった母親はゆっくりと顔を上げる。

 

「……え?」

 

 そこにいたのは母親ではなかった。

 視線が合ったのは左目が赤黒く染まり、背中から一対の七色の光を放つ少女。

 

『喰べて、喰べて、喰べて、喰べて喰べて喰べて喰べて喰べて喰べてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテ――――――――』

 

 ケタケタ、ケタケタと、人が発してるとは思えない狂気的な声で嘲笑い、ゆっくり、ゆっくりと、鋭い牙を首筋へと近づけていく。

 

 

『ユエ』

 

 

 何処からか、聞こえてきたのは母親の声。

 

 

『……ユ…エ』

 

 

『………エ…』

 

 

「――――ェ」

 

 

「――――ュェ」

 

 

「――――ユエ」

 

 

「ユエ!!」

 

 

 牙が首筋に突き立てられる瞬間、ユエは目を覚ました。

 

 

「……え…と?」

 

 周りを見渡すと最近移った自分の部屋、夢だったのかとユエは安堵する。

 

「大丈夫?」

「……平気よ、偶にあることだから」

 

 心配そうに見つめるエトに問題ないと軽く手を振って答えると、頭を抑えて疲れたようにため息を吐く。そこに込められた意味は諦め、またこの夢かといったような呆れにも近い感情だった。ユエがこの夢を見るのは一体何度目か。誰かを喰べる度に同じような夢を見るのだから、それこそ数えきれないほどかもしれない。まったく、まだ人間としての感性が残っているのか、そう考えて自身の滑稽さに自嘲する。そんな感情、今更持っていても無駄だと言うのに。

 しかし、既に慣れてしまった夢だけに切り替えも早く、頭を振ったユエからは憂鬱とした気分はかなり薄れていた。

 

「ねぇ、エトは今日、何か用事はある?」

「ううん、特にない」

「じゃあ、買い物に行きましょうか!」

 

 気持ちえを切り替えるつもりで大きく宣言したユエに対してエトはキョトンと可愛らしく首を傾げる。その買い物とは何かと言わんばかりの態度にユエは先ほどの夢も忘れてしまう程の衝撃を受けた。結果的にはエトに助けられたのかもしれない。

 ユエあり得ないことだと分かっていながらも、まさかと思う気持ちを拭いきれず一応確認することにした。

 

「……ねぇ、エトって買い物したことないの?」

「ないよ」

 

 即答、流石にこれはユエも唖然として固まり、現実逃避気味に買い物自体は知っていたのか、などと考える。そんなことをしている内に、じわじわと言葉の意味を理解すると共に同情に近いものが沸いてきた。買い物をしたことがないなんて、本当にどんな人生を送ってきたのだろうか。一番高い可能性はエトが二十四区育ちだということ。ユエも一度二十四区に行ったことがあるが、今まで普通の生活を送ってきた身では、二十四区の生活に慣れることなどできなかった。できればもう二度と行きたくないと思えるほどには。

 もしもエトがあそこで育ったとして、どうして表に出てきたのだろうとユエの頭に疑問が浮かぶ。あそこの喰種は表に出て来ることはほとんどないのに。まあ考えても仕方がないし、そんなことまで聞くつもりもないのでさっさと意識を切り替える。

 

「だったら私が教えてあげるわよ。新しい服も買わなくちゃいけないし、エトも一緒に行きましょう」

「うん、わかった」

 

 素直に返事をするエトを見て、たまにはのんびりするのも良いかもしれないとユエは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ドシャ、と重く湿っぽいものが地面に叩きつけられる音が暗い路地裏に響き渡る。それを確認したユエは小さく息を吐いた。

 

「結局こうなるのね……」

 

 昨日と同じようにエトと買い物をしていたら喰種に付けられたので返り討ちにしたわけだ。しかも今日二回目。三区が治安が悪いのは知っていたが、流石にこう何度も襲撃されるとため息を吐きたくなる。恐らくこれはユエとエトが二人でいることで美味しそうな匂いがより一層高まった結果だろう。

 

「それじゃあ早速、いただきます」

 

 そう言って早々に倒した獲物に喰らいつくエトにユエはもう一度息を吐く。通常の喰種が必要な食事は一ヶ月に一人なので、この数はどう考えても異常だ。今まではお互いの事情に深く関わろうとはしていなかったのだが、流石にここまでくると気になって仕方がなかった。

 

「ねえ、エト。こんなに喰べてどうするつもりなの?」

「戦うんだよ」

「エトがここまでしなきゃいけない相手ってどんなのよ」

「CCG」

「……え?」

 

 ちょうどエトが食べ終わったタイミングだったので思い切って聞いてみると予想外の返事が返ってきた。流石に聞き間違いかと思ったがどうやらエトの反応を見る限り本当のことのようだ。詳しい話しを聞いてみれば、なんとエトは二区にあるCCG支部に襲撃を掛けるつもりらしい。

 

「……本気? というか正気?」

「うん、本気だ」

 

 そこで正気と答えないのは自分の突拍子もない行動に自覚を持っているからか。CCG支部を襲撃など本当に正気の沙汰ではない。いったい支部には何人の鳩がいると思っているのか。普通の喰種なら死にに行くようなものだ。エトの実力は見た限りでも最低SS級レートはあるようだが、それでも安心することなどできない。ここでどうして、とは聞かない。ユエとエトはお互いにそこまで踏み込むつもりはなかった。知っても何が変わるわけでもないし知らない方が良いこともあるだろうから。しかし、今回のは例外だ。

 

「――――私も行く」

「……いいの?」

「心配だもの」

 

 ユエとしてはエトには死んで欲しくない。もしかしたらCCGにエトにも手が負えない相手がいる可能性だってあるのだ。自分がいれば最悪、逃げ切ることは可能だろう。気は進まないが、いざとなれば能力を使えばいい。ユエはそう考えていた。

 だが、どうするにしろ、できるだけ力を溜めておいた方がいいだろう。幸いユエは吸血鬼でもあり燃費がいいので、獲物は二人程度で十分だ。狙い目はCCGに目を付けられることがなく、Rc細胞の多い喰種か。まあ、CCGに攻撃を仕掛けるのだから目を付けられるかどうかなど気にする必要もないのだが。

 ユエはエトと共に次の獲物を探しに人々の目を避けるように暗闇を移動し始めた。

 

 

 




 
もしかしたらこの話は後で書き直すかもしれません。
何せ過去のエトがどのように過ごしたか分からないので今回の話しは捏造だらけでしたから。
だからエトは出したくなかったんや!←

次も一ヶ月くらいで投稿――――したいです。……できるといいなぁ。



以下本編の補足的なもの。



【喰種経営ホテル】
・伏線……のような何か。
正直な話し、適当に思いついて入れてみただけ。ユエにあまり酷い生活をして欲しくないという作者の優しさ()から生まれた。勘のいい方はオーナーが誰か気が付いたでしょう。
だがしかし、伏線……のような何かなのであしからず。

【脳内フレンド】
・喰種の主人公といったらコレ。

【買い物】
・書こうと思って諦めた。最終的には殺伐とした戦闘になるもよう。

【CCG支部襲撃】
・隻眼の梟による一回目の襲撃。
ここにユエが心配だからという理由で付いていくのは違和感があるかもしれませんが、一応理由はあるので続きをお楽しみに。



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