2205年、日本。
昔とは違い、見渡せば直ぐに見える鉄の家は、暖かな感じをどうしてか感じさせない。
そんな場所にはとても似つかわしくない、木造で建築されている神社がある。
『神無月神社』と呼ばれており、其処には一人の巫女だけが働いている。
その巫女は腰まで届く空色の髪をポニーテールにしており、鈴が付いた紐で髪を結い、巫女服を綺麗に着こなして境内の掃除をしている。
彼女がこの神社の巫女をしている少女、『神無月 葵』である。
葵は静かに境内を履いていたが、其処に参拝客がやって来る。
「……!こんにちは」
葵は笑顔を浮かべて挨拶をするが、その参拝客はそれを無視して葵の横を素通りし、賽銭箱の前まで歩いていく。
「……」
それに葵は苦笑する他なかった。
これは別に葵にとっては珍しい事ではない。
これは彼女が持つ生来の『力』の所為でこうなっているのだから。
(幸い、この近辺の人だけ、というのは救われますね……)
葵が持つ『力』は二つ。
その『力』を持つ故に、葵は人から疎まれ、畏れられ、この様な事になっている。
それは葵自身も理解しており、だからこそ思う事がある。
ーーー『過去』を変える事が出来れば、と。
しかし、それは出来ないと首を横に振る。
そもそもそれは無理であると分かっており、例え出来たとしてもきっと結果は変わらないと、葵は考えているのだ。
それは葵が唯一、人ではない存在ではあるが普通に話す事ができる存在から言われた事である。
(『お前が彼処でしなくても、必ず何処かでしただろう』か。……そうかも、しれないね……)
葵はそう考え、また掃き掃除を開始しようとする。
が、其処で何かの違和感を感じた。
「?今のは……」
「どうした?葵」
その声が聞こえ、後ろを振り向いてみると、そこには九本の狐の尻尾と狐耳を持った金髪の大人の女性がそこにいた。
それだけでも浮いているのに服装は陰陽師の様なものを着ているのだから誰もが物珍しさから振り向くだろう。
しかし、それがあり得ることはない。
彼女こそが『人ならざる者』、この神社の神様、豊穣神なのだから。
「『鬼灯』、実は……」
葵は豊穣神『孤天 鬼灯』に自身が感じた違和感の事を話すと、鬼灯は深刻そうに顔を顰める。
「ふむ、お前が嘘を吐く事はないし、吐いた所ですぐに分かるからな……」
「そんなに分かりやすいのですか……?」
葵は鬼灯の言葉に苦笑しながらも、鬼灯を見やるとお互い頷き、神社内にある蔵の方へと向かって歩き出した。
そこで、『違和感』の正体を知る事になるとは、この時には考えもしなかった。
***
蔵の中は葵や鬼灯が良く綺麗にしているからか、埃などはあまり見当たらず、綺麗な姿を保っていた。
その蔵の中にある書物などを二人は読み漁っていると、葵が読んでいた書物にその答えがあった。
「……新撰組の副長さんが……函館で亡くなっているはずなのに……亡くなってない事になってる!?」
葵のその驚き様に鬼灯は首を傾げながら近付き、横からそれを覗き込むが、やはり首を傾げている。
「そんなに驚く事か?土方が死んだ場所は別の所だろ?」
「……え!?」
鬼灯の発言に更に驚く葵に、逆に驚きの顔をする鬼灯。
しかし、葵はそれを気にしている余裕などない。
(どういうこと?どうして『歴史』が改変されてるの?……待って。逆に私の『記憶』が改変されてる可能性も……)
葵は考えに考え、しかし答えが出ずに頭を抱え出す。
鬼灯はその様子を少し心配そうに見ていたが、ふと境内の方に顔を向けた。
「……葵、客が来たようだぞ」
「……参拝客の方?」
「いや、違うようだな」
「?」
それに今度は葵が首を傾げ、取り敢えずは境内までやって来ると、黒スーツを着た男がそこに立っていた。
「あの、どちら様でしょうか……?」
葵が困惑した表情で声をかけると、男はニコリと笑って答える。
「こんにちは、神無月神社の巫女さん。私は貴女のその『力』の事を聞き、ぜひやって欲しいと思い、それをお伝えしに来ました」
「……何を、させるつもりでしょうか?」
葵はますます困惑した様子を見せると、男は安心させるために笑顔を浮かべて答える。
「『歴史』を修正する者、『審神者』です」
「『歴史』の……修正?」
「はい。貴女は気づいている筈でしょう?『歴史』が変わっている事に……」
「……」
「沈黙は肯定です。続けますね。我々はその『歴史』を変える者たちの事を『歴史修正主義者』と呼んでいます。その者達は『歴史』の修正と言いながら、『歴史』を変えていっているのです。我々はその変えられた『歴史』を戻す為に、『審神者』を集め、刀に宿る神様達と共に、修正を行って貰っているのです」
「刀に宿る神様ということは、『付喪神』ですか?」
「そうですね。そして、その神様達のことを我々は『刀剣男士』と読んでいます。審神者達にはその『刀剣男士』達と共に歴史が変えられる前の世界に飛んでもらい、『歴史修正主義者』達を倒してもらい、『歴史』の修正をしてもらっているのです」
「……倒す、のですか」
葵は悲しそうに呟くが、それは相手にも聞こえたようで、相手は少し柔らかい笑みを浮かべた。
「貴女は優しい方なのですね。ですが、『歴史』を元に戻すにはそうするしかないのです。……どうですか?やって下さいますか?」
「……私は」
葵は少しの間、黙って考える。
そして、答えを出した。
「……やります。やらせて下さい」
「……良いのですか?」
「はい……私に出来ることは、したいのです」
葵のその返答に嬉しそうな顔をする男は、後日、時間と場所を指定すると、去っていった。
***
後日、葵は狐状態の鬼灯を肩に乗せ、巫女服を着たままその指定場所までやって来ると、其処には五本の刀が置かれていた。
「……あの、この刀達はもしかして……」
「おっと、見ただけで分かりますか。そうです。貴女の考えている通り、かの有名な刀達です。この五本の内、一本を選んで下さい。それが貴女の最初に力を貸す『刀剣男士』となりますでしょう」
葵は五本をそれぞれ見ると、そのうちの一本を手に取る。
「……それでは、この『山姥切国広』をお願いします」
「分かりました。では、貴女に審神者の力を与えた後、この『山姥切国広』を『刀剣男士』にして頂き、そして時代を渡ってもらいます」
「最初に行くのはどこですか?」
「江戸時代です」
「分かりました。お願いします」
葵はそれに頷くと、『山姥切国広』を大切そうに抱えたまま、奥の部屋へと入っていった。
そして、『審神者』としての力を貰うと、刀を触った。
すると一度刀が光り、その眩しさから一度目を瞑り、次に目を開くと、その目の前には薄汚れた白い布を頭から被り、顔をまるで隠すようにしてしまっている綺麗な金髪男子が其処にいた。
「……えっと、貴方は……」
「俺は国広第一の傑作として作られた『山姥切国広』。『山姥切』の写しとしてな……」
「……写し」
葵はその言葉で、その言葉だけで、山姥切国広がどんな思いを抱いているのかを理解した。
だからこそ、続ける。
「……例え、貴方がそうだとしても、貴方は国広の『最高傑作』として作られた刀です……だから、自分を卑下するような事を言わないで下さい」
葵は悲しそうな表情を浮かべて言うと、山姥切国広はそんな事を言われるとは流石に思っていなかったのか驚いた表情をするが、直ぐに無表情になってしまった。
「……さて、それではお二人とも。江戸へと送り出しましょう」
「すみません、この狐もお願い出来ますか?」
葵がそう言って男に聞くと、男は笑顔を浮かべた。
「ええ、勿論。『神様』も一緒だと心強いですから」
「……え、どうしてこの子が神様だって……」
「それでは、いってらっしゃいませ」
葵の最後の質問に男は答える事はなく、そのまま葵は山姥切国広と共に江戸時代へと送り出されたのだった。