刀剣男士達が最初にやって来たのは函館。
この函館で起こった歴史の出来事は、あの新撰組副長・土方歳三が没した場所として有名である。
つまり、此処で起こる歴史改変は、その土方が『亡くなる』という事変が変わる事になる。
「嫌な空気だな……」
「そうですね……怖い空気です」
切国の言葉に五虎退が同意し、周りを見てみると、敵を二体発見した。
「参る!」
切国の言葉に続き、五虎退も敵を攻め入る。
敵もそこで気付き、二体が二人に攻め入るが、切国は突きの攻撃をひらりと避けながら敵を切り捨て、五虎退はその突き攻撃をしゃがんで避け、短刀で突きの攻撃をする。
「えいっ!」
その短刀の攻撃は大してダメージを与える事は出来なかった様で、相手は持ってる刀を振り下ろす。
それは五虎退に当たる前に切国が『本体』で受け止め、それを防ぐ。
『本体』で受け止めるという事は、同時にその身にも同様にダメージを受ける事になる。
詰まる所、切国は受け止めた時のダメージを受けた。
「ぐっ!」
「き、切国さん!」
受け止めただけなので其処までダメージはないーーー訳ではない。
今の切国の強さでは敵よりも弱い。
故に、自身より強い攻撃を受けたその体から、多少なりとも血を流す事となってしまった。
「くっ、血で汚れているぐらいで丁度いい……!」
切国は刀を強く握り締め、敵を見据える。
その敵の表情を読む事は出来ないが、切国は短刀の敵を睨みつける。
「俺を写しと侮った事、後悔させてやる!死をもってな!」
切国はそのまま刀を横薙ぎし、敵を斬り裂いた。
それにより敵は破壊され、敵は一掃された。
「よし、これで終わりだな……帰るぞ、五虎退」
切国がそう言って振り向いた先には、泣きじゃくっている五虎退がいた。
***
その頃の本丸では、葵が鍛刀部屋から戻って来て、今は帰ってくるであろう二人の為に料理を作っていた。
「葵、何を作っているんだ?」
「あ、鬼灯!」
そんな葵の後ろから声を掛けた、豊穣神である鬼灯に笑みを向ける葵は、その問いに答えた。
「今はクリームシチューを作ってるんだよ」
「クリームシチューか……」
「神社にいた時はそういうのを口にするのは控えてたからね……」
「私は別に気にしないと言ったのに……」
「あはは……神職者だからね……」
葵が笑って言うと、本丸内で鈴の音が二度した。
一つは鍛刀部屋。
もう一つは、切国達が帰って来た音である。
「あ!帰って来た!鬼灯!鍛刀部屋の方に代わりに行ってもらえないかな?新しく来た方には失礼な事をしてしまうけど……」
「分かった」
「ありがとう!」
葵は鬼灯にお礼を言い、門前まで来てみると、泣きじゃくる五虎退と血で汚れた切国がいた。
「っ!切国さん!」
「主、戻っ……」
「その怪我はどうしたのですか!?」
葵の焦った声を掛けられた切国は、冷静に返す。
「敵の攻撃を防いだ時に受けた傷だ。俺達の本体はこの『刀』だ。だから、敵の攻撃をこれで防げば俺達にも傷が付くということだ……」
「っ!早く治さないと!」
「治すなら手入れ部屋に……」
切国のその言葉は、しかし葵の行動で口を閉じることになる。
葵は切国の傷口に手を当てると、『力』を行使し始める。
葵の『力』の一つーーー『治癒』である。
本来、切国達『刀剣男士』は刀が『本体』である為、『物』を治すことは出来ない葵だが、今は『付喪神』化し、人間の様に体も手に入れている切国は、『生物』の枠に入れることができる。
その証拠に切国はその体から血を流している。
血を流せるのは『命』を持った『生物』のみ。
だからこそ、葵の『力』は使えるのだ。
その能力により、切国の傷口は綺麗サッパリ消え、元の傷もない姿に戻った。
「これで終わりです……体に不自由はありませんか?治ってない所とか……」
「……俺は血で汚れているぐらいで丁度……」
「よくありません!」
葵の声に切国はビクッと小さく震え、見てみると、涙を目元に溜めて切国を真っ直ぐ見る葵が見えた。
「切国さんや五虎退くんが傷付いているのは……嫌なんです」
「……主」
「……怖くなるんです。切国さん達が、死んでしまうんじゃないかって」
「主さん……」
「嫌なんです……戦場に行けば傷付くのぐらい、理解してます……それでも、頭で分かっていても、理解していても……嫌なんです」
葵のその真っ直ぐで綺麗な『本心』は、ますます切国には綺麗に思え、その光を掴みたくて、おもわず手を伸ばす切国。
が、その手を止め、直ぐに戻す。
「……傷付かずに帰って来るのは無理がある」
「っ……」
「……だから、俺達が強くなるのを待っててくれ、主」
「……強く?」
葵は涙を浮かばせた目で見上げると、切国はその目元にある涙を自分のボロボロな布で拭いてやる。
「……俺達が強くなれば、傷付かずに戦いを終えることも可能だ。だから、それまで待て」
「……でも、それまではずっと……」
「ぼ、僕が守ります!」
葵が俯いて言うと、其処に五虎退が入ってきた。
五虎退の方に葵が顔を向けてみれば、五虎退は少し震えながらも真っ直ぐに葵を見据えていた。
「ぼ、僕も強くなります!そして、切国さんをサポートしていきます!だ、だから……」
五虎退のその言葉は、葵の心に少しの安心をもたらしてくれる。
葵はその言葉が嬉しかった様で、五虎退の頭に手のひらを乗せると、優しく撫でながら目線が合うようにしゃがみ、優しい笑みを向ける。
「……ありがとう、五虎退くん」
「い、いえ、お礼を言われるような事は……」
その会話の途中で切国は顔を本丸の玄関口に向けると、其処から鬼灯ともう一人、黒髪の五虎退と同じ幼い少年がやって来た。
「葵、新しい仲間を連れてきたぞ」
葵がその声を聞き、体を向けた。
「初めまして、此処で審神者をさせていただいています、葵です。よろしくお願いします」
「よう大将。俺っち、『薬研藤四郎』だ。兄弟共々、よろしく頼むぜ」
「は、はい!よろしくお願いします!」
五虎退と同じ様な背なのに大人の様な口調にどうしてか葵も年下に対しての言葉が出ず、丁寧語が出てしまう。
まあ、刀剣男士達は全員が葵よりも年上なのだが。
次に薬研は五虎退に顔を向けてみると、五虎退は嬉しそうな顔をしていた。
「薬研くん!」
「おお!五虎退じゃねえか!久しぶりだな!」
「うん!久しぶり!」
そんな幼い少年二人の会話は、鬼灯が口を開いた事でつづけられることはなかった。
「で、葵。食事はどうするんだ?」
「え?」
「……食事か」
「あ、はい!クリームシチューが用意してあります!帰ってきた皆さんがお腹が空いていると思いましたので……此方です!」
葵は笑顔を浮かべて全員の先を歩く。
鬼灯、薬研、五虎退は直ぐにその後を追ったが、切国は少しの間、そこに留まった。
「……俺はどうせ写しだ。写しなんて、直ぐに主は飽きて、俺を使わなくなる……」
切国はそう呟くと、その場を歩き出した。