葵が審神者となってから二日目の朝。
葵本人から近侍をお願いされた切国は、その主を起こすために部屋へと向かっている。
「……どうして俺なんだ」
切国が少し溜息を吐いていると、鬼灯とバッタリと鉢合わせた。
「ん?切国、どうした?」
「……今から主を起こそうとしてたんだ」
その切国の言葉に鬼灯は少し首を傾げて何かを考えると、今度は何かに納得したようにポンっと手を叩いた。
「ああ、お前は知らなかったな」
「?何がだ?」
「葵ならもうすでに起きて、朝ご飯を作ってるぞ」
それに切国は驚く事なく、逆に何処か納得した。
ほんの少しの間でも一緒に過ごして分かった事だが、葵は真面目な人間で、優しさの塊だ。
その人間が、朝だけ寝坊するというのは殆どないだろう。
「……なら、俺もその手伝いにいく」
切国はそう言って台所まで向かっていく。
その後ろ姿を見ながら、鬼灯は思った事を呟いた。
「……彼奴、料理出来るのか?」
***
結果として、鬼灯の不安は当たった。
そもそも、包丁以外の道具の用途を知らなかったのだから、お話にならない。
葵はそれを微笑ましいそうな笑顔を浮かべながらも教え、なんとか二人で作り終えた頃には、既に薬研も五虎退も起きていた。
ただ、何故か多めに作られていたが。
「……おい大将。流石に俺達でもこの量は食べれねえぞ?」
薬研が少し不思議そうにしながらも葵に問うと、葵は笑顔を浮かべて返す。
「実は今朝方に鍛刀しましたのですが、その新しく来られる方の為にもちょっと量を多めに作ったのです」
「あ、新しい仲間ですか!」
五虎退が少し嬉しそうに言うと、その笑顔が伝染したのか、また葵は笑顔を浮かべて頷いた。
その時にちょうど良く鍛刀部屋から鈴が鳴り響き、新しい仲間が出来たのを知らせた。
「あ!来ました!ちょっと行ってきますね!」
「それなら、俺も行こう」
「いえ、切国さんは食べてもらっても……」
「俺は近侍だ。主の側にいない時に何かあっても、困るからな」
「そうですか……それでは、すみませんがお願いします。鬼灯は皆んなに箸の使い方とかを教えてあげて?」
「いや、その新しく来る奴が来てから一緒に教えた方が効率的だろ。それまでは待つさ。お前達もいいな?」
鬼灯が薬研、五虎退に顔を向けて問いかけると、二人とも頷いて返した。
「そういう事だ」
「……分かった。それじゃあ、迎えに行ってくるね」
葵が申し訳なさそうな顔をして頭を下げると、鍛刀部屋まで迎えに行った。
その鍛刀部屋に着き、中に入ってみると、そこにいたのは浅葱色の羽織を着た黒髪の青年と、狐を肩に乗せた白髪で面頬で口元を隠した男。
「えっと……」
葵は刀を見ればその名前がすぐに分かるのだが、流石に人間体でいると『名前』は分からない。
葵がまた申し訳なさそうな顔をしていると、浅葱色の羽織を着た青年が自己紹介を始めた。
「僕、『大和守安定』。扱いにくいけど、いい剣のつもり!よろしくね!」
「はい!よろしくお願いします!安定さん!」
次に紹介を始めたのは白髪の男……ではなく、その肩に乗っている狐。
「やあやあ、これなるは鎌倉時代の打刀、『鳴狐』と申します。私はお供の狐でございます」
「は、はあ……」
葵が狐が喋ったことに少し驚いた様子を見せ、視線を少しずらして鳴狐の方に向けると、こくりと頷き、小さな声で挨拶した。
「……よろしく」
その声はかろうじて葵に聞こえ、葵は嬉しそうに笑みを向けた。
「よろしくお願いします!鳴狐さん!それで、あの……その狐さんが喋っているのは腹話術ですか?」
葵が鳴狐に聞くと、首を小さく横に振った。
「いえいえ、これは腹話術などではございませぬ」
「へ〜!凄いです!」
葵が何かに感動をしていると、そこで漸く声を掛ける切国。
「……主、挨拶が終わったなら、連れて行くべきところがあるんじゃないか?」
「あ!そうでした!」
葵は切国の言葉で思い出し、手のひらを合わせると、二人に向き直る。
「それではお二人共。来ていただいて早々ですが、皆さんの所に案内します。そこで自己紹介をしながら、ご飯にしましょう!」
葵の言葉に二人と一匹は頷くと、歩き出した。
「主殿、油揚げはございませぬか?」
「油揚げならありますよ。鬼灯も好物ですからね!」
「おお!ありがとうございます!」
狐と普通に会話しだした葵に対して、切国は何も言うことはしなかった。
ただ、その順応性の速さには、少なからず驚いてはいた切国だった。