では、お読み頂いた方が楽しんでいただけると幸いです。
◆プロローグ◆
世の中は分からない事だらけである。
今、自身の身に起きている事も自分が知覚できる埒外の事だ。何せ、寝て起きたら何時の間にか掘り炬燵(ほりごたつ)に座り、何故かオタク臭全開の半纏(はんてん)を着たイケメンと対峙している自分がいる。
「やあやあ。ようこそ、ようこそ。待っていたよ。□■□■」
最後の部分が砂嵐のようなザーザーと言う音がして聞き取れないが、イケメンは親友をむかい入れるかの如く、柔和な笑みを俺に向ける。
「色々疑問だと思うけど、残念ながら余り事情を話せない規則なんだ」
凄く申し訳無さそうな声と表情で語り掛けて来る。俺は「そうなのか」と答えを返そうとしたが口が動かない。それどころか、瞬(まばた)き一つ出来ない事に気づいた。
「ああ、今の君は魂魄(こんぱく)なんだ。それで、その状態で僕と対峙したら魂魄の構成が維持出来ないから保護の為にそんな状態なんだよ。でも、意思を伝える事は出来るから頭で話したい事を考えるといいよ」
『さよーで。で、あんたは誰でどういう用件なんだ?』
通常、パニックに陥っても可笑しくないと言うのに、何故か俺はこの胡散臭い感じがしているイケメンに対して落ち着いて意思を伝える事が出来た。
「うん、うん。じゃあ、まずは自己紹介だね。僕は『名も無きモノ』君たちで言う所のしがない神の一柱だよ」
『言うに事欠いて神かよ』
「そうだよ。信じようが信じまいがそれは君の自由にしてくれて構わない。正直、僕が何者だろうと、どうでもいい事だろう」
『たしかにそうだが、現時点で俺の意思を読んでいる埒外の存在ってのは分かる』
そんな俺の答えにうんうんと頷いてイケメンは本題を語りだす。
「さて、ここに君を召喚(よ)んだのは君に物語を紡いでほしいからなんだ。コンセプトはクロス物。舞台は魔法少女の世界。そして、介入するのは死神の力を持った君」
『……はっ!?』
「だからね。リリカルっぽい世界にBLEACHな死神の力を持った君が行って人生を謳歌して来てくれないかな?」
『……その言い方だと拒否できそうだが』
イケメンは少々困った顔を浮かべた。
「出来るけど……、おすすめはしないよ。理由は規則で言えないけどね」
『…………分かった。行ってくる』
困った顔を浮かべていたイケメンが途端に嬉しそう表情に変わる。
「そうかい。そう言ってくれると嬉しいよ。じゃあ、行ってらっしゃい」
その言葉を薄れいく意識の中、聞いていた。最後の方で「――楽しい物語になるといいなぁ」と聞こえたのは気のせいだと信じたい。
◆
意識が覚醒しだしたまどろみの中、一番初めに感じたのは違和感。
なんとも変な感覚である。長い人生で感じた事のない感覚だ。まるで新たに第三、第四の手が生えた様な、なんとも言えない感じである。
だがそれも、一瞬のうちに最適化というか、違和感が消える。まるで最初からこれが普通の事だと言わんばかりだ。
へんだなーと思いながらも、『そろそろ起きるか』と起き上がり伸びをしてから、しぱしぱする眼を擦る。
『変な夢だったなー。二次小説を書き出した所為か』などと考えつつ眼を開くと、そこは何処かのリビングで俺はソファーの上だった。
……あれ!?とあわてて周りを見回すとそこは自分の家ですらないようだ。……いや、確かに自分の家らしい。そんな知識が頭に浮かび上がる。
俺はどうもあのイケメンに会った後、半場本能に従うように生活していたようだ。その際の記憶を思い起こしていく。
家族構成は母、父、兄、姉、俺に妹の六人家族のようだ。そして、俺の名前は高町禮舞(たかまちらいむ)と言うらしい。(以降ライムと表記)
そう間違いなく、あの戦闘民族高町家だ。ちなみに母の名が桃子、父が士郎、さらに妹は、なのはと言えばわかるだろうか。
どうやらあの夢のような会合はホントの事で、ここはリリカルの世界らしい。正直信じがたい事だが近くで寝ている栗色の髪の幼児の顔を見て確信した。間違いなく、あのなのはだ。
ちなみに、俺は『とらハ』の方はよく知っているがリリカルな世界の知識はキャラの名前と顔が分かる程度しかない。
そんな確信を得た俺は取り敢えず自分の事を調べなければと幼児の体で一苦労しながらソファーから降りる。
どうも俺の身体は、なのはと同じ三歳児ぐらいのようだ。総てが大きく見えるのはその所為だろう。
先ずはどうしようか。と腕を組んで考えていると、行き成り誰も居ないのにブラウン管の大型テレビが点いた。
『やあやあ。ご機嫌はどうだい』
「…………」
俺は目を見開き、何度か目を擦って見直すがテレビにはあの半纏を着たイケメンが映っていた。
『えらく可愛くなったようだね。……っと言っても今の僕は資料でしか今の君を知らないんだけどね。じゃあ、心して聞いてね。この通信(ビデオレター)は一度しか再生されないから』
と、満面の笑みだったイケメンが少々真剣みを帯びた。
『まず、君も気付いてると思うけど、そこはリリカルな世界の高町家。君はそこの次男として育てられている。ちなみになのはとは誕生日か一緒だよ。やったね』
その「やったね」と言うのはどういう意味なのだろうか……。
『それで、君に与えられた力だけど、BLEACHの主人公「黒崎一護」と同質の肉体と才能やらだ。要するに一護君と同じことができると考えてくれていいよ。まあ、訓練しないと使えないけどね。それと君に関してのみ霊力=魔力って解釈になっているから。……ああ、もしかしたら生身で死神の力なんて意味あんのかよ。とか思っているかもしれないけど安心していいよ。その辺の問題は解決してあるから生身でBLEACHの死神と同じ事が可能だよ。勿論、霊体でもね』
どこらへんが安心なのか分からないけど、完全にこいつ俺に戦闘させる気満々だな。
『最後に、その世界にも勿論、死神や虚(ホロウ)が居るから気を付けるんだよ。まあ、そこはBLEACHの世界じゃないから、そこまでの危険は無いけど目をつけられると面倒になるかもね。じゃあ、君の人生(物語)を謳歌してくれ』
そう言ってからテレビの電源が切れた。
今の話を聞く限り、俺はまず原作介入とかを考える前に、死神と虚対策に頭を悩ませなければいけないようだ。
とは言う物の原作の「黒崎一護」が幼少の頃に一回だけ虚に会って以降、高校になって死神の朽木ルキアに会うまで虚に会っていない事を考えると、そこまで神経質になる必要は無いのかもしれない。
だが、何事にも備えは必要だ。
取り敢えずは、兄と姉に交じって『永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術』でも修めるか。もしあれが俺の知っているままの御神流ならかなり役に立つはずだ。
そう思いながら記憶にある家の道場に向かって歩いて行く。
この高町家には離れにこぢんまりとしているが立派な道場が隣接しいている。
今日は日曜日なので父達が道場で鍛練している筈なのだ。
俺がヨチヨチと道場まで歩いて行き扉を開ける。するとそこは人外の棲み処(すみか)だった。
道場の真ん中に立った父、士郎に向かって兄と姉が左右から一斉に踊りかかる。
それを士郎は一歩も動かずに捌いていく。しかも父は俺に気付いていたのか扉を開けると同時にこちらを向き、俺に微笑みかける余裕すらあるようだ。
暫し父達が戯れた後、あまりの迫力に硬直していた俺は父に『おいでおいで』と招かれたので道場の中へ入っていく。
「どうしたんだいライム?道場に来るなんて珍しいじゃないか」
士郎がそういいながら俺を抱き上げる。
「…だれもいなかったから」
「そっか、寂しかったんだね。ライちゃん」
と、姉、美由希(みゆき)が猫っ可愛がりするように俺を撫でまくって来る。
兄、恭也(きょうや)は硬い表情をしているが優しい瞳で此方を無言で見ている。
俺もそんな風に歓迎してくれる父達が嬉しくて自然と笑みが浮かぶが、それに気付いて身体が固まる。
それは道場に備え付けてあった姿見(すがたみ)だった。恐らく型などを自分で確認する為についているのだろう。
それには父に抱き上げられ、姉に撫でまわされている俺が映っていた。
その姿はどう見ても黒崎遊子(くろさきゆず)である。しかも、髪がオレンジ色。
所謂(いわゆる)、男の娘という奴だろうか。まあ、確かに見方によっては中性的な顔立ちをしているが……。
だが、それよりも気になるのは、明らかに俺は高町の血筋じゃないだろうって事だ。なんたって双子であろうなのはとは、似ても似つかない髪の色と顔立ちからもよく分かる。
―――まあ、だからと言ってどうしたという感じではあるのだが……。何せ、これまでの記憶を見返してみたが、なのはと変わらぬ溢れんばかりの愛情を注がれて来た事が分かるからだ。
そして、この日から道場が俺の遊び場の一つに加わった。といってもきちんとした鍛錬をするのではなく、見様見真似で両手に木刀を持って不恰好に振るだけだが。
ちなみに、なのはも俺のまねをして木刀を持って振ろうとしているが、いかんせん力も無くセンスの無いので下手糞なダンスになっていた。
◆第一章 第一話◆
あれから約一年、朝から晩まで基本的になのはと共に過ごす毎日だ。
何が面白いのか分からないが、嬉しそうにボクの後をカルガモの子供の様に付いてくる。その姿が可愛くて時間がある限り構っていたのが理由かもしれない。
ちなみに一人称はボクに固定された。母に俺と言ってみたら涙眼になって姉を伴って固定化されたのだ。
そして、御神流だが父、士郎が居る時だけという約束で本格的に鍛練を開始した。その時に気付いたのだが、この身体かなりのハイスペックだ。成長率が半端ではない。
なにせ、ちょっと木刀を振るだけで型が身体になじんでいく。ちょっと走るだけで体力が付いていくのが手に取るように分かるのだ。
◇
この頃、毎晩同じ夢を見る。
満月が浮かぶ雲ひとつ無い夜。どことも分からない神社の境内(けいだい)を歩く夢。
鳥居を潜り、参道の真ん中を歩き、拝殿(はいでん)や神楽殿(かぐらでん)を越えて本殿を目指す。
そして、最後は決まって本殿の扉を開けて、その中に入る所で眼が覚める。
そんな夢だ。
だが、今日に限って、そこでは終わらなかった。
薄暗い本殿の中には二人の女性がいた。
一人は白いゴスロリのようなエプロンドレスに黒いコートをマントのように羽織っている。
その人の髪の色は白で前髪をたらして左目を隠し、足首まで届こうかと言うぐらいの長髪を真っ直ぐ後ろに下ろしていた。
顔はかなりの美人。体型は母性がすこぶる豊かで、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいるという感じか。
もう一人は色が白黒反転しており前髪で隠している眼が逆なだけで後は全く同じである。顔も体型も……、そして、声さえも……。
『ああ。ようやくお会いできましたね。主様』
「あなたたちはだれ?」
『私達は主様の本能(ちから)。主様の魂(やいば)』
二人は会話できるのが嬉しいのか、朗らかな表情と声でボクに答えてくれる。
『だから、あのような木の刃(やいば)など使わずに私達をお使いください』
「……どうすれいいの」
『私達の名前を呼んで下さい。そうすれば私達は主様の下へいける。……私達の名は…そ〈ガツッ!!〉』
「…い・いたい」
おでこを押さえ悶絶するボク。
「…起きたか。ロードワークの時間だ」
兄、恭也がぶっきら棒な声を掛けてくる。
先程の衝撃の所為で夢の殆(ほとん)どが記憶から消し飛んだが、とても良い所だったような気がするから恨めしそうに上目遣いで恭也を覗き込む。
この仕草にウチの家族は弱い。特に父と兄には効果絶大だ。
案の定、恭也は、ばつの悪い表情をして目を泳がせ出した。
「…そんな眼で見ないでくれライム。いくらゆすっても起きなかったんだ。…それに、遅れると父さんにどやされるぞ」
それを聞いて今度はライムの方が目をそらす。
士郎はライムとなのはにだだ甘だが、こと、御神流の鍛練の時には鬼と化す。
正当な理由無く遅刻しようものなら『高町流O☆HA☆NA☆SI』という肉体言語で説教されるのだ。
「うん、ありがとう。兄さん。着替えて直ぐ行くよ」
そう言って、恭也が部屋を出て行く中、なのはと共同で使っているセミダブルのベッドから、なのはを避けつつ抜け出して(桃子さんに渡された)ピンクのジャージに着替えて顔を簡単に洗い、道場に置いてある御神流セット(小太刀×二本、ホルスターに入れた短刀多数、飛針(とばり)複数本、鋼糸(こうし)数本)をジャージの下に装備し玄関に向かう。
「珍しいね。ライちゃんが寝坊しかけるなんて」
玄関を出たばかりのボクに抱きつきと言う名の強襲をかける姉さん。
正直、この頃二次成長期に入りだし、女性らしい体つきに成り出したこの姉の積極的なスキンシップが正直苦手である。何せライムの中の人の精神年齢は成人しているのだ。
まだ、家族だからいいものの、この前などは、家族で行った銭湯で女湯に強制連行された時は凄まじい罪悪感だった。それ以降は断固としてそういう事は断っている。
「そろったね。それじゃ、行こうか」
そんな風に姉と戯れているのを他所に父が出発の合図を告げる。
このロードワークは基本的に町内一周コースだ。
この際に大事なのは呼吸法。武息(ぶそく)に近い特殊な呼吸法で、最終的には意識せずに日常でこの呼吸法で過ごせるようにするそうだ。
ちなみに、この武息というのは丹田呼吸法と言われ、簡単に言ってしまうと短く強い腹式呼吸のようなものである。
それが出来て初めて御神の業(わざ)が活きてくるらしい。
ここで簡単に御神流を解説しておこう。
正式名称『永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術』正確には御神ではなく不破らしいのだが内容はあまり変わらない。護衛主体の仕事をするか、暗殺主体の仕事をするかの違いらしい。
術理の概要は二刀の小太刀を主武装とし、暗器や体術を使用する総合暗殺武術である。
御神流の業は三本の支柱となる三つの基本之技から構成されている。
『斬』・・・御神流の基本中の基本の動作であり、太刀筋、力の入り抜き、体捌きなどからなる総合的な技。斬撃系の奥義は基本的に総てこれから派生する。
『徹(とお)し』・・・これは衝撃を表面ではなく裏側に通す撃ち方で威力を『徹す』打撃法。素手や刃のついていない武器でも簡単に人を殺すことができるらしい。
『貫(ぬき)』・・・相手の防御を突き抜ける技。実際には相手の防御を見切り、突き通すための、刹那の見切りと刀の扱いの具体的パターンを身体で覚える事になるそうだ。
士郎曰く、これら三つの技を極めていくと奥義につながっていくそうだ。
話は変わるが、この頃、ボクは幽霊が見え出してきた。
始め、一護と同じ才能と言われていたので「視える」「聴こえる」「触れる」「喋れる」「憑かれる」の超A級霊媒体質のハイスペック霊能力者なのかと思って、戦々恐々としていたのだが、公園やら買い物に行っても一切それらしいのが見えないので安心していたのだが、どうやらそれは勘違いだったようだ。
あの夢を見だしてから徐々に見え出して、今では気を抜くと幽霊と人の見分けが付かなく成って来ている。
とは言え、明らかに感じる存在の圧迫感が違うので早々間違わないが、恐らくこの圧迫感が霊圧なのだろう。
ちなみに生きた人間の方が総じて圧迫感が弱い。これは霊の方が霊力が強いという訳ではなく、実際の霊力自体はそう変わらないようだ。
ただ肉体という殻がない為、魂魄が剥き出しになっているぶん強く感じているみたいだ。
そんな回想をしているとロードワークが終わり、道場で素振りを済ませシャワーを浴び、母さんと一緒に朝食の手伝いして、なのはを起こすのがボクの毎日の日課だ。
「なのは、朝だよ。起きて」
「う~~ん。にゃぁあ」
我が妹、なのはは朝が弱い。基本的に簡単には起きてくれない。
「ほら、ご飯だよ」
そう言いながら、ゆさゆさとゆするが布団に包まるだけで一向に起きる気配が無い。
それぐらいで、なのはが起きるとは思っていないがこれは兄としての慈悲だ。
「一応、優しく起こしたからね。なのは」
ガシッとなのはが包まっていた布団を掴み。一気に引っぺがしボクは、なのはに襲い掛かる。
「―――!!にゃは…にゃはははははは!?お…お兄…ちゃん!にゃはは、起きた!もう起きたなの!!」
「そう言ってこの前二度寝したじゃないか」
「にゃははははh……はぁ、はぁ…ひ、ひどいの」
「じゃあ、着替えてからリビング来るんだよ。なのは」
「はーいなの」
この後、朝食を食べ、父と母は喫茶店の経営。兄と姉は学校。ボクはなのはの相手をしながら合間、合間になのはと一緒になって家の掃除や洗濯などの家事を練習するのが日課である。
ちなみに、父は一、二ヶ月に一回の頻度で一、二週間ほど出稼ぎに出ている。
◇
その日の夜、ボクは自分の斬魄刀(ざんぱくとう)の名前を知った。
彼女達の名前は『双月(そうげつ)』
この斬魄刀はBLEACHの世界では珍品中の珍品になるだろう。何せ、双月は『常時解放二刀一対型』と言うべき存在だったからだ。
形は一護の斬月を小太刀の長さにした物が二本。簡単に言うとおっきな出刃包丁である。
その日からボクの日課に夕方のロードワークと言う名の『魂葬(こんそう)』(成仏)作業が加わった。
◆第二話◆
あれから約一年、父がとある議員とその家族の護衛中にテロに遭(あ)い瀕死の重傷を負った。
その日、病室に見舞いに行くとミイラ男の様になって体中にコードを付けた父、士郎の姿があった。
だがボクの眼には少々違うものが映っていた。父の身体から半分以上魂魄が出ていたのだ。
それを見て大慌てでそれを身体に押し込む。
定期的にこの作業を行えば恐らく死ぬ事はないだろうと思う。
ちなみに、この一年で死神の力の訓練をなのはが昼寝している間などに、こそこそと刃禅をして精神内で双月相手に訓練している。
やはりと言うか、……相変わらずの成長率だ。
死神戦闘術の『斬』『拳』『走』『鬼』の中『鬼』以外はそこそこ出来る様に成ってきた。まあ、御神流の下地が在るお陰なのだが。
もし、この『鬼(呪術)』が上手く出来たならば父を回復させる事もできるのだろうが、これはボクには使えない。
何せ、双月もボクも鬼道の知識は持っていないので使うことが出来ないのだ。
この事を機にウチの家族は大変忙しくなった。
母、桃子は喫茶店『翠屋』の運営と父、士郎の看病で。
兄と姉は学校と店の手伝い、そして、鍛錬と大忙しである。
特に兄は無茶な鍛錬を始め、常にピリピリしている。
ボクはこの時、五歳児で普通なら自分の事で手一杯の筈なのだが、約一年前から家事の練習をしていたのでそれを遺憾なく発揮。
今まで、なのはの半保護者のようだったのが、今では完全に保護者になっている。
午前中は家事をして、午後はなのはを連れて公園へ行ったり、家で遊んだりしている。
その所為なのか、この頃のなのはは前にも増してボクにべったりである。
◆
あれから約二年が経過し、色々な事があった。
一つは父の生還だろうか。
父が入院してから半年。
ようやく退院にこぎつけた。
医者が言うには奇跡らしいのだが、入院して一週間で意識を取り戻し、それから順調に回復していった。
父さんの意識が回復して皆安心したのか悲壮感の様なものはなくなった。―――だからと言って忙しい事には代わりが無かったが……。
退院したからの父はもう護衛の仕事が出来ない身体になっていた。曰く、長時間の戦闘が出来ないようだ。
なので、今では後進の育成という訳ではないが、ボク達の指導をしつつ、母さんと共に楽しそうに喫茶店で働いている。
二つ目はボクとなのはの小学校入学。
ボク達が入学したのは私立聖祥大附属小学校だ。その際、何故かなのはと一緒のクラスになった。少々違和感を覚えたが、これは正直ありがたい。
と言うのも、初めて集団生活を体験するなのはが学校生活になじめるか心配だったからだ。
だが、この心配はなのはの過激な行動によって杞憂だったと思い知らされる。
まさか、なのはが入学早々に喧嘩をして親友を作るという。まるで青春ドラマの様な男前な事をするとは、ボクは夢にも思ってもいなかった。
その親友と言うのは勝気な性格の金髪美少女『アリサ・バニングス』と大人しい性格の紫色の髪の美少女『月村すずか』である。
喧嘩をした切欠は、アリサが悪戯で、すずかのヘアバンドを取って、そこになのはがアリサにビンタ一発かまして介入。
「痛い?でも大切なものをとられちゃった人の心は、もっともっと痛いんだよ!」
と、言い放った所為らしい。
その後、反撃したアリサとなのはが掴み合いになり、そこにそれを止めようとすずかが更に介入。事態は泥沼と化した。
それを遠目に見ていたボクはちょっと感動していた。
あの何時もボクの後ろを歩いて、公園でも友達を作らなかったなのはが自身の想いで人と対峙しているのだと。
とは言え、そろそろ止めないといけないだろう。そう考え、三人に近づいて行き手刀をそれぞれの頭に落とす。
『(ッゴ!!)~~~!!』
三人共、声にならない悲鳴を上げながら、へなへなと座り込み、涙目でこちらを見てくる。そのうち約一名がガクガク震えていたような気がするが気にしない。
「そろそろ、頭冷やして仲直りしようか。……ね♪」
ボクとしては優しい笑顔で言っている積もりなのだが何故か三人とも震えだし、コクコク頷いて仲直りをした。
その後、何故かこの四人で仲良くなり、遺憾ながら周りからは聖祥美少女カルテットなどと呼ばれる事になる。
◇
とある日の午後、仲の良い四人組で下校していた。
いつもの様に分かれ道でアリサとすずかと挨拶をして別れる。するとボク達の前から白いバンが猛スピードで走って来る。それを見てボクは、慌ててなのはの手を引き道の端に寄る。
すると、その車はボクたちを通り過ぎると、激しいスキール音を立てながら急ブレーキを掛け、すずか達の横で停まりスライドドアを開けた。そして、そのドアから野太い腕か伸びてすずかをさらって行ってしまう。
その際、アリサがすずかを救おうと、果敢にも男の腕に飛び掛ったが逆に弾き飛ばされる。
飛ばされたアリサが頭から地面に落ちるのを見て取ったボクは、咄嗟に瞬歩(しゅんぽ)を使ってアリサの後ろに回りこみ受け止める。その瞬間、車のドアが閉まり急発進した。
「大丈夫?アリサ。立てる?」
「つー、わたしの事いいから!すずかを!!」
「流石に今からあの車に追い付くのは無理かな……」
ボクがアリサを立たせながらそう言っていると、おっとり刀でなのはが駆けて来た。
「だいじょーぶ!お兄ちゃん!アリサちゃん!!」と。
「ああ、大丈夫そうだよ。なのは。……それより、なのはは今から渡すメモを持って父さんと兄さんにすずかがさらわれた事を伝えるんだ」
ボクはそう伝え自分の鞄から出したノートに、車種や気付いた特徴、ナンバーなどを書き出していく。その間に更に口を開きアリサに指示を出す。
「確か、携帯を持ってなかったっけ?アリサ」
「あるわよ!どうすればいいの!」
「取り敢えず鮫島さんに連絡して迎えに来てもらってくれる?」
「わかったわ」と言う返事を聞きながらもメモを書き上げ、それを見返してなのはに預ける。
「これをお父さんと恭也お兄ちゃんに見せてすずかちゃんの事を伝えればいいの?」
「うん。それでいいよ。じゃあボクは、ボクで、すずかを探すから父さん達によろしく言って置いて」
そう言って駆け出す。後ろから二人の声が響いて来るが振り返らない。
ボクはあえてすずかの事を父さん達に直接伝える事をしなかった。その方が早く助けられると考えたからだ。
ボクは走りながら意識を集中し、空中に漂う霊気を視覚化する。そうすると空中に白い帯のようなモノが大量に現れる。これの事は霊絡(れいらく)と呼ばれている。
その霊絡の中に数本だけ色が付いているのか交じっている。内訳は紅が二本、薄い水色が六本、薄い紫が一本。
紅は死神の霊絡で一本は自分で、もう一本は会った事はないがこの付近にいる死神のものだろう。水色が何を示すのかはボクには分かっていない。ただ、この前会った兄さんの恋人でもあるすずかの姉(忍さん)もこの色だった。
そして、紫、これがすずかの霊絡の色だ。これをはじめて見た色だったのでよく憶えている。これのおかげで余計に紅以外の色が何を示すのか分からなくなったのだが、今は判別しやすくて助かる。
ボクはその霊絡を掴み、その発生源であるすずかに向かって渾身の力で駆けて行く。
◆
わたしが目を覚ましたのはドラマで見た事がある様なコンクリートの向き出しの何処かの廃ビルの一室で、そこで春の夕日に照らされて手足を縛られて転がされていた。
一瞬どうしてこんな所にいるのか分からなかったが、暫し呆然としていたら徐々に記憶がよみがえってくる。
いつもの様に皆と一緒に下校していると、行き成り車が横で急停車して驚いていたら、車のドアが開き、そこから覆面をした大人がわたしの腕と腰を掴んで車に連れ込まれた。
その時、アリサちゃんがわたしを助けようとして弾き飛ばされて頭から地面に落ちそうになった。それでライム君がアリサちゃんの後ろに行き成り現れて受け止めていたがあれはどうやったのだろう。
普通の人より圧倒的に身体能力が高いわたしがライム君の動きが一切分からなかった。
やっぱり、お姉ちゃんの彼氏さんの恭也さんみたいに普通じゃないのかもしれない。
そうだったらちょっと嬉しいな。もしかしたらわたしを受け入れてくれるかもしれないから……。
そんな事を考えていたらドアの無い入り口から足音が響いてきた。そして、部屋に男と女が入って来る。
男は恰幅がよくブランド物のスーツを着ており、いやらしい笑みを浮かべている。総じて古狸の印象を受けるおやじだ。
女はすらっとした体型をしており忍びの様な動きやすそうな格好をしていて、その顔には一切の表情が無い。そして、最も目に付くのは、その左手に生えている三日月の様なブレードだろう。
「おー、おー。目ぇ覚めたか。起こす手間が省けたわ」
「……安次郎(やすじろう)…おじ様」
「おっ。覚えとってくれとったか。そうや、親戚の安次郎おじちゃんや。今日はな、ちょーとっ、すずかちゃんに頼みがあって来てもらったんや」
と、男、安次郎がニタニタ笑う。それを見てすずかの背中に悪寒が走る。
「お姉ちゃんにおじちゃんに遺産を分けて上げてって頼んでほしいんや」
この男の名前は月村安次郎。すずかの親が死んでから遺産目当てで、すずか達に付き纏っている親族の一人である。
「嫌です!そんな事できません!」
気丈に安次郎の言葉を拒否するすずか。
「そうかい……。じゃ、しゃーないな」
そう言った安次郎はすずかの口にテープを張ってから離れていき懐(ふところ)から携帯を取り出して何所かに連絡を入れる。
「―――もしもし、ワイや。安次郎や。―――ひどい言われようやなぁ。証拠はあるんかい?証拠は?―――じゃあ、ワイには分からんなぁ。でも、もしかしたらワイに融資してくれたらひょっこり帰ってくるかも知れんなあ―――」
そんな声が遠くから聞こえて来て話し相手が、わたしの姉だと気付いて必死に助けを求めて声を上げるが、くぐもった音しか出ない。
そんなわたしの様子を見てニヤニヤと安次郎は笑って話を進めようとする。
そんな時にわたしの目の前に行き成り一人の男の子が現れた。
「あれ?もう一人いる?すずかと合わせて二人だと思ったんだけどなぁ」
そんな場違いな事をいっている男の子はわたしがよく知っている男の子だった。オレンジ色の柔らかそうな頭髪、男の子とは思えない細い背中、でも、その身に纏う雰囲気は大人の男の人の様で頼りになるわたし達のお兄さん。
高町ライム君。
「なんや、どっからは言って来たんや。この餓鬼」
携帯を耳に当てたまま呆然と呟く安次郎。それも無理もない事だろう。何せ、廃ビルの五階の部屋の真ん中に前触れも無く小学生が現れれば誰だって驚く。
「初めまして、誘拐犯のおじさん。ボクの友人を返して貰いに来たよ」
そのライムの言葉を聞いてから安次郎は考える素振りをしながら携帯を切り、何かを思い付いたのかニンマリと意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「―――なんや、お前。その化け物の友達なんか?」
それを聞いてすずかの身体がビクリと跳ねる。
「化け物?」
と、不思議そうなライムの声に安次郎は更に笑みを深める。
「んぅんぇん!!(やめてー!!)」
その笑みを見て必死に安次郎の言葉を遮ろうとするすずか。
「そや、その穣ちゃんはな。吸血鬼。言うなれば、人類の敵ちゅう奴やな」
ライムを何も知らない子供と見た安次郎は自分の方が正しいと言わんばかりにすずかを悪く言う。
それを一番否定しなければいけないすずかは口を塞がれていて声を発する事ができない。
だが、たとえ口が塞がっていなかったとしても否定は出来なかっただろう。
何故ならすずかは自身の正体を暴かれ、その事をライムに知られたショックで心が絶望し、光が失われた瞳からとどめなく涙を流してぐったりと床に横たわっていたからだ。
「へぇー。そうなんだ。―――」
ライムはそう言いながら振り返りすずかの前に近寄ってしゃがみ込む。
「―――でもね。すずかが何であろうとボクは気にしないよ。だって、すずかは、すずかなんだから……」
と、すずかにしか聞こえないような小さいが、とても暖かく優しい声を掛けながら、頬を撫でつつ涙を拭いていく。
その行為を受けるすずかはビクビクと怯えた小動物の様だった。そして、怯えながらもすずかはライムの顔を見る。
それは聖母の様な慈愛に満ちた顔だった。その顔を見たすずかは今度は違う意味で涙を流す。
すずかの瞳に小さな光を見たライムは立ち上がり、すずかを守るように安次郎達と対峙する。
「それにしても、今の間に襲ってくると思ってたんだけどな」
「なんで、ワイ等が坊やを襲わないかんのんや?ワイ等は味方やで」
胡散臭い笑みを浮かべてそんな戯言(たわごと)言う安次郎。
「おじさんってバカだねぇ。頭に栄養いってないんじゃないの?そもそも、初対面のおじさんの言葉を信じるわけ無いじゃないか。それにこんな所にまともな子供が来る訳ないよね。何を考えてあんな事を言ったのか分からないけど、……ホンッット、バカだよね」
ニコニコと人畜無害な顔をして、朗らかに言い放つライム。
「―――人が下手に出てりゃぁ付け上がりよってからに」
顔を真っ赤に怒らせ、ブルブル震えながらドスの利いた声を出す。
「それに、おじさんとお姉さんも、まともな人間じゃないよね。特にお姉さんの方はホントに生きているのか疑わしいぐらいだ」
「ホンマ、何者や餓鬼ぃ。何で見た目、人と変わらんエーディリヒ最終型の事が分かるんや。しかもワイの事まで……」
「そんなの見れば分かるさ。だから、すずかの事も最初から気付いていたよ」
その言葉を聞き未だ涙に濡れる瞳で、すずかはライムの背中を仰ぎ見る。
「だからね。さっきのおじさん。……酷く滑稽(こっけい)で面白かったよ」
始終、朗らかなライム声が響く中、何処かから何かが千切れた音がした。
「……イレイン!その餓鬼をブチ殺せ!!」
「はい。ご主人様」
先程まで立って微動だにしてなかったイレインと呼ばれた女性は、安次郎の命令を受けると霞む様な速さで近づき、それ以上の速さで右こぶしがライムの左頬に突き刺さる。
そのこぶしを受けたライムはまるで砲弾のような速度で壁に向かって飛んで行き、人型の砲弾が着弾したコンクリートの壁は崩れ、その瓦礫に圧し潰される。
「るいむうん!るいむうん!!(ライム君!ライム君!!)」
目の前でそんな物を見せられたすずかが、くぐもった声で泣き叫びながら必死にもがく。
「残念やったなぁ。すずかちゃん。お友達が死んでもうて。……イレイン終わったろ?こっち来いや。…………イレイン?」
イレインは未だ土煙が上がっている壁の方にブレードを向け戦闘体勢を解かない。普通の人間があんな事になれば即死だというのに……。
「―――いやはや、油断した。戦闘能力が高いのは分かっていたけど、まさか、あそこまでとは思わなかったよ。これは彼女達を呼ばないとダメかな……」
と、ガラガラと瓦礫が払われる音と共に壁の方から声が響いてくる。それは紛れも泣くライムの声だった。
それを聞いた吸血鬼二名は同じライムの生還した事で驚愕していたが方向は全くの別だった。すずかはライムが生きていてくれて。安次郎は何故あれで死んでいないのかと。
故に安次郎の口からは自然とこんな言葉が漏れる。
「……化け物」と。
その言葉は確かにライムに聞こえていたが、それには取り合わず少し腰を落とし、腕を斜め下に伸ばして両手を開く構えを取る。
すると、まるでライムを中心として風が吹いているように土煙が晴れ、重力が倍になった様な重圧がその部屋を支配する。
そして、青白い湯気の様なものがライムから立ち昇り、自身の魂(あいぼう)たる刀を高らかに呼ぶ。
「天地万象を斬り伏せろ!『双月!!』」
吹いていた風がやみ。重圧もはれた。そうして、何時の間にか構えていたライムの両手の中にはそれぞれ約60cmの黒い出刃包丁の様な柄(つか)も鍔(つば)もない異様な刃が納まっていた。
その次の瞬間、ライムが消え。まるでワープしたかの様にイレインの目の前の空間に左手の刃を大上段に構えたライムが現れる。
その刃はそのまま目に留まらぬ速度で振りを下ろされ、イレインの右腕を肩口から切り落とす。
これは『とらハ』の知識からその右腕に電流を流す鞭という強力な武装を装備しているのを知っていたからだ。もっとも、このイレインが『とらハ』と同じならと言う注釈が付くが。
イレインは腕を切り落とされて漸くライムに残った左腕のブレードで斬り付ける。
それをライムは霊力を軽く高めながら右手の刃で迎え撃ち簡単にはじき返す。要するにイレインが力負けしているのだ。
だが、この構図はかなり可笑しい。イレインは自動人形と呼ばれる家事から戦闘までこなせる。失意科学で作られた機械人間(ロボット)だ。
身体性能は人を遥かに超え、吸血鬼さえ凌駕している。
そんな相手を小学二年生のライムが圧倒しているのだ。
イレインの性能を知る者が見たら、まさに悪夢だろう。そして、それを体現しているライムは人外中の人外。それこそ悪魔に見えているはずだ。
はじかれたブレードを戻し今度は刃を立て体当たりの要領でライムに向かって突貫するイレイン。
それを逸早(いちはや)く感じ取ったライムは足に霊力を集め、回転を加えた瞬歩を使いイレインの背後に一瞬にして回り込み一気に首を斬り飛ばす。
首を切られたイレインは走り出した慣性に従いライムが開けた穴に転がっていった。ライムは起き上がってこないか構えとったまま暫く観察して、倒した事を確信すると右手に握っていた刃を振る。そうすると持ち手の部分に巻いてある飾り布が勝手に伸び刃に巻き付いていく。巻き付き終わったそれをライムは左腰に持って行くと吸い付くように腰に固定された。
一応言っておくと、安次郎はイレインの腕が落とされたのを見て早々に逃げ去っていた。
「ふう、もう大丈夫だよ。すずか」
ライムはそう言いながら、持っていた刃で縛っていた縄を切り、口に張ってあったテープを剥がす。
そうするとすずかはバッと起き上がり、怪我がないかしきりにライムの身体のあちこちを触りながら「隠し事して、ごめんなさい。わたしの所為で痛い思いをさせて、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」と言い続ける。
そんなすずかの様子を見たライムは双月を片付け、優しく抱きしめて耳元で囁く。
「大丈夫だよ。すずか。ボクだって秘密はあるし、それにさっきも言ったけどすずかがどんな存在でも気にしないよ」
優しく幼子にする様に背中をぽんぽんと叩いてやりながら言葉を紡(つむ)ぐ。
するとすずかは感極まったのかライムの首筋に顔をうずくめ。また、泣き出してしまった。
暫く、すずかを抱きしめていると落ち着いてきたのか泣き声が収まってきた。
「……落ち着いた?」
そう訊くとコクリと頷く気配がする。
「そう。…じゃあ、すずかの事をすずかの口から教えてほしいな」
ライムにそう訊かれたすずかはより一層強く抱きつきながらゆっくり言葉をこぼす。
「…私達の一族はね。夜の一族と呼ばれている、吸血鬼や人狼の血を引く一族なの」
すずかはそこまで言うと抱きついていた手を離し、自身の姿がライムに見えるように身体を離す。
「それでね。わたしも吸血鬼なんだけど……ね。こんなのが……、生えてるの」
いつも着けているトレードマークのヘアバンドを外し、髪を軽く弄るとすずかの頭から髪の毛と同じの紫色の毛並みの獣耳がひょこんと顔を出した。
それにはライムも驚き、目をぱちくりさせるが、内心では、だから霊絡が紫なんて、珍しい色だったんだと納得できた。
「……やっぱり、変だよね。こんなの生えてるなんて」
その耳をひょこひょこ動かしながら悲しそうに瞳を曇らせうつむくすずか。
ライムは微笑んで、そんなすずかの頬を両手で包みこみながら顔を上げさせる。
「そんな事ないよ。ボクは凄く可愛いと思うよ。……ねえ、触ってみてもいいかな?」
「~~(コクコク!!)~~」
そのライムのお願いにすずかは顔をトマトのようにして恥らいながら首を縦に振る。
それを見て頬にあった手を優しく壊れ物を扱うような慎重さで獣耳に持って行く。
その手が耳に触れた途端、すずかの身体がビクリと跳ね。ライムの手の中で獣耳がピコピコ動く。
その手触りはサラサラで、もふもふという感じでなんとも心地よく、一日中ずっと触っていたくなる様な魔力を発していた。
ライムもその魔力に抗えず、さすさすとすずかの獣耳を撫で続ける。その度(たび)に気持ちいいのか首まで真っ赤にし、目をギュッと閉じたすずかがスカートを握り締め、ピクピク反応するのが可愛らしい。
それから、暫く手触りと、可愛らしく蕩(とろ)けたすずかの表情と反応を堪能していると、唐突にライムは撫でる手を止める。
すると『何で止めるの』と、閉じていた目を開き悦楽に潤んだ瞳で上目遣いをして、「クゥ~~ン」と鼻に掛かった鳴き声を上げて続きをおねだるすずか。
それを見てライムはもう一撫でしながら口を開いた。
「もうちょっとしたら父さんと、それと兄さんと忍さんがここに来るけど、…耳、隠さなくてもいいの?」
その言葉で獣耳が動き回り、ピタリと一定の方向で止まると一瞬にして蕩けていた表情がいつもの顔に戻り、手早く耳を寝かせ髪を梳(とか)かし、ヘアバンドを装着て服などの身だしなみも直した。(そこまでものの数秒である)
すずかが身だしなみを終えると同時に、窓枠がはまっていない窓と、ドアの無い入り口から両手に小太刀を装備した黒尽くめの男が躍りこんで来た。高町士郎と恭也である。
二人は油断なく周りを見渡し危険がないことを確認すると小太刀を鞘に収める。
「ライム、すずかちゃん無事かい?」
「はい。大丈夫です。…それにライムが護ってくれたから」「うん。ちゃんと護り通したよ。父さん」
頬を染めたすずかと心地、誇らしげな雰囲気のライムを微笑ましく眺める士郎と恭也。
「ふぅ、色々言いたい事が有ったんだけど後にしようか」
そんな会話をしていると時間差でイレインと同じブレードを装備したメイドと瞳を真紅に染めた女性が部屋に入ってきてすずかに一直線に向かって行き抱きしめる。
「すずか!無事!!怪我は無い!!」
「わぷ!お姉ちゃん!わたしは平気だよ。ライムが護ってくれたから」
それを聞いた忍はバッと離し、すずかの表情を凝視する。
「ふふぅ~ん。そうなんだ。なーる。ついにすずかも乙女になったか」
と、言いつつニンマリしてすずかとライムを交互に見る。
「ちっ、違うよ!そんなんじゃないよ!」
「お嬢様。お戯れの所、失礼します。――あちらに有る物に対してお嬢様のご意見を頂きたいのですが」
「うん?何々。何があるの?ノエル」
すずかを放し、穴の開いた壁の方へと二人で歩いて行き、そこに転がっている物を確認した途端、血相を変えて恭也に駆け寄る忍。
「ねえ!恭也があれを倒したの!?」
ビシリと、穴の中の首と腕が取れた人形を指差しながら、かん高い声で問い詰める。
「いや。違うが……。どうかしたのか?」
「どうしたじゃないわよ。じゃあ、誰が倒したって言うの?」
「……それは、……必然的にライムになるんじゃないか?」
忍は恭也の話を聞いて腕を組み、少し考えた後、恭也に身体を寄せ周りに聞こえないように小声で話し出した。
「いい恭也。あそこに倒れている自動人形はね。エーディリヒ最終型と言ってね。戦闘能力ならノエル以上なの。そんなのをあのちっこいライム君が倒せたって言うの?」
それを訊いた恭也の頭の中では、
士郎(全盛期)>恭也≒ノエル>美由希>ライム
と、言う不等式が成り立つ。それから考えると、どう考えてもライムが降(くだ)せる相手ではないことが分かるが、現実には倒されている。
「なるほど。確かにそれはおかしな話だな。なら、一部始終を見ていた人間に訊けばいいじゃないか」
そう言い恭也がすずかの方を見る。この際、ライムを見なかったのはもしかしたら見ていない可能性もあると考えたからだ。
それもそうか。と頷き忍はすずかの方に歩いて行き、あれを誰が倒したのかと優しく質問する。
すずかは「えっと、その……」と、言葉を濁しつつ、ちらちらとライムを窺(うかが)う。
それでは答えを言っている様なものだったが、その心遣いを嬉しく思ったライムはすずかに近づき「ありがとう」と小さく伝えてから忍の前に出て瞳を見詰め、口を切る。
「あれを倒したのはボクですけど。……まずかったですか」
「あ、いや。まずくはないんだけどね。どーやって倒したのか、お姉さんにおしえてほしいなーって」
両手を組んでかわいこぶって言う忍にライムは何の反応も示さずにスルー。
「えっと、その話をするにはボクの出自を話さないといけなくなるので、ここでは話したくないのですが」
申し訳無さそうに言うライム。
カチリと固まった忍は『あちゃ~。藪を突いたらアナコンダか出てきちゃったかも』とか考えながら助けを求めるように周りを見る。
すずかは『わたし怒ってます』って表情で、ノエルは『まさか、これ以上、詰問する様な真似はなさいませんよね』と瞳が語っている。士郎さんと恭也に至っては緊張で表情を硬くして何を考えてるか分からない。
誰も助けてくれなかった忍は、どうしよ~、と考えながら目を泳がせていると忍にとって予想外の所から助け舟が現れた。
「なので、家に帰ってから母さんと姉さんも交えて話そうと思います。だから待ってもらってもいいですか忍さん?」
「えっ?わたしも聞いていいの?」
「いいと思いますよ。ボクは。すずかは目の前で見ていますし、すずかの話を聞いた手前ボクの事は秘密ってのは可笑しいですから。それに……」
ちらりと恭也の方を見るライム。
「…新しい家族になりそうですから」
そのライムの台詞に顔を赤らめる二人。
その後、ノエルの運転する車で高町家に向かった。
◇
高町家はリビング。そこには高町家と月村家が全員揃っていた。そして、その視線は一人の男の子に向けられている。
「まず、何から語ろうかな」
「父さんとしては、初めからゆっくり話してほしいかな」
皆を代表して士郎が語りかける。
「うん。そうだね。……始めに今から語る事は荒唐無稽(こうとうむけい)で御伽(おとぎ)噺(ばなし)のような事だけど嘘は言っていないと断って置くね。―――ボクには前世の知識があった。それに気付いたのは物心が付き出した三歳の頃だ。始め困惑したけど直ぐに落ち着いた。その知識があった所でボクはボク、高町ライムである事には変わりが無い。それに知識があって役に立つ事はあれ、困る事はなかった」
「えっと、要するにライ君には前世の知識があるけど、私達が知っているライ君だって事だよね?」
一旦、言葉を切ったライムに困惑気味の美由希が訊ねる。
「そうだよ。姉さん」
いつものにこやかな表情で言うと美由希は安心したのか困惑気味だった表情が晴れた。
「じゃあ、続きを話すね。―――それから、一年が経って、とある能力が目覚めた。それは霊能力。それも「視える」「聴こえる」「触れる」「喋れる」「憑かれる」の超A級霊媒体質のハイスペック霊能力だった」
その事を聞いた瞬間、女性陣がビクッと反応した。
「……そういえば、昔、何もいない空中に話し掛けていた事があったの」
煤けた感じに記憶を語るなのは。
「ああ、生きている人間と幽霊の区別が付かない時期が、ほんの一寸あったから、多分その時だろうね」
「ち、ちなみに、この近くに幽霊がいたりするのかな?」
怖がっているのが丸分かりのすずかが声を震わせる。
「基本的にこの界隈(かいわい)の幽霊は成仏させているから、この辺にはいないよ」
「うん?その言い方だったらライムにはそういう力も有ると言う事か?」
「うん。それが今回の戦闘とボクの出自に関係するんだよ。兄さん。―――さっき話した力は、目覚めた本当の力のおまけでしかなかったんだ。そして、その本当の力と言うのは死神のモノだったんだ」
そう言った瞬間、その場を沈黙が支配する。
「ねえ、ライム。それはあの人も命を刈り取る大鎌を持った骸骨のお化けの様な死神の事かしら」
母のその問いかけでライムは沈黙の意味に気付く。ライムの言葉を信じてとかではなく、自身が持つ命を刈り取る死神のイメージと、見た目男の娘で優しげなライムが繋がらなかったのだ。
「いや、母さん。死神ってそんなのじゃないからね」
やはり、全員が『えっ!!』と言う顔をする。
「なんか皆勘違いしてるみたいだから説明するけどね。死神はさ迷える霊。これの事を整(プラス)って言うんだけど、それを霊界に導いたり、現世を荒らす悪霊の虚(ホロウ)を斬るのが仕事であって、生きている人間をどうこうするなんて事めったにないからね!あと、一応言っておくと見た目も普通の人間だから」
「…あれ?でもその説明じゃあ、死神の力があったからって自動人形のイレインには勝てないんじゃないの?だって、その力って霊に対してでしょ?」
と、興味津々の忍が目を輝かせて訊いて来る。
「いえ、ある程度、力を高めると物理干渉できるんだよ。ポルターガイスト現象みたいに……。それで死神には四つの戦闘技法があって『斬』『拳』『走』『鬼』って言うんだけど、―――」
そうライムが断りを入れてから説明する。
『斬』・・・己の霊力を圧(お)し固め、自身の魂を写し取った武器を具象化した斬魄刀と呼ばれる武器を使う戦闘技法。
『拳』・・・呼んで字の如く、こぶし等の白打による戦闘技法。
『走』・・・空中に足場を作ったり、瞬時に長距離を走ったりする補助戦闘技法。
『鬼』・・・呪術による攻撃・捕縛・補助技法。
「―――それで、イレインに使ったのがこの内の『斬』と『走』なんだけど、口で言うより見せた方が分かり易いからやってみるね」
そういって立ち上がり、階段を上るような容易さで床から一m位の中空に歩いて上がるライム。
やはり聞くと見るのでは衝撃が違うのか全員目を丸くする。特に美由希となのは、忍とすずかの姉妹は目をキラキラ輝かせていた。
「これが『走』そして、これから呼び出すのがボクの斬魄刀、来い『双月』」
するとライムの手に二本の布に包まれた大きな出刃包丁が現れる。
「あれ?あの時のライムは、もっとかっこよく呼び出していなかった?」
「え……、ああ、解号(かいごう)の事かな。あれはこの双月がヤル気になる言葉みたいな物なんだよ。斬魄刀にはそれぞれ意思があってね。使い手が気に掛けてやるのと、やらないのとじゃあ性能に雲泥の差が出来るんだよね。それで今回は戦闘する訳じゃないから使わなかっただけだよ」
そう説明しながら、元いた位置に下りてきて座るライム。
「ねえ、お兄ちゃん。ちなみにその解号って何て言うの?」
「うん?天地万象を斬り伏せろ。だけど?」
それを聞いたなのはの頭の中では、解号を叫び敵に向かって行くライムの姿を幻想し『かっこいいかも』と思っていたが、恭也の「……恥ずかしくはないのか?」と言う突っ込みで現実に戻されてしまう。
その突っ込みの所為で四つの幼い三白眼に睨まれ、自身の彼女と妹にも『それを言っちゃうの』と言う感じの呆れられた表情で見られ、たじたじになる恭也だった。
が、言われた本人は全く気にしていなかった。
「そうかなぁ。鼓舞みたいな意味もあるし、純然たる性能に影響があるから恥ずかしいとか考えた事なかったよ」
「いや、俺が悪かった。気にしないでくれ」
「そぅ?……じゃあ最後に出自に関してだね。これはね、さっき言った死神の力が関係するんだ。もし人の身を持ったまま、その力を得ようと思ったら僕の知っている限り方法は二つしかないんだ。一つは現行の死神から奪うか、譲渡してもらう方法。もう一つは親から子に力が受継がれるもの。で、僕の場合、奪った覚えはないから必然的に後者になる訳なんだけど、父さんと母さんは死神じゃない。それでボクは血が繋がってないんじゃないかなと考えたんだけど……」
そうライムが窺(うかが)うように父と母に尋ねる。
すると士郎と桃子は軽く顔を見合わせ桃子が口を開く。
「……本当はもう一寸大きくなってから話そうと思っていたんだけどね。……貴方は私がなのはを産んでこの家に帰ってきた時に拾った子なの。はじめて見た時の優しげな表情と瞳を今でもよく憶えているわ。それでね、士郎さんと話し合って育てる事にしたの。私としても、もう一人くらい息子がほしかったから神様に感謝したわ」
と、嬉しそうに微笑む桃子に士郎が言葉を繋ぐ。
「ライム、その名前は君の産みの親が付けたものだ。僕達が拾った時にそれが書かれた札ぐらいしか君は所持していなかった。もし、ライムの言う通り、君の産みの親が死神でライム自身も死神の力を持っていたとしても、これだけは絶対に変わらないと知っていてほしい。―――君は僕達の家族で、僕と桃子さんの自慢の息子だという事を……」
そう、士郎が桃子の肩を抱き、慈愛に満ちた表情で語りかける。
「……うん。…うん。ボクも、父さんと…母さんの息子でよかった」
と、瞳からぽろぽろと涙をこぼしすライムになのはとすずかが寄り添う。
感想の方でご指摘があったので少々設定を書いておこうと思います。
まず、主人公の斬魄刀が常時解放型だと言っているのに解号がある理由ですが。
これは現世に呼び出す際の召喚呪文のようなものです。霊体だとちゃんと解放状態で腰にさげています。
それに名前を呼ぶだけだと味気ないので付けてみました。
それともう一つ指摘があったのが、すずかの獣耳の件です。
これは彼女の叔母にあたる。初代とらハの『綺堂さくら』から引っ張ってきました。
ただ、さくらの公式設定では吸血鬼と人狼のハーフだったはずなので、原作のすずかが、もし夜の一族だとしても純血の吸血鬼のはずです。忍も純血だったはずなので。
なのでこれらの設定はこの作中でのオリジナル設定だと、ここに明記しておきます。