偽典 オーバーロード   作:浜屋らわん

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今回、地の文少なめ、会話主体で話が展開します。


部下と上司

「最初に、念のため。そう、念のために聞いておきたいのだが、お前――ナーベラル・ガンマは今回、自身の行動の何処が不味かったか。……その辺を理解しているか?」

 

 アインズが精一杯の威厳を込めた声が最上級客室(スイートルーム)内に響く。

 まず、この点をはっきりさせておかなければならないだろう。

 自分が何故失敗し、何が原因だったのかを理解している者とそうでない者では、同じ失敗でも追求の仕方を変える必要があるからだ。

 問いを受けた眼前のナーベラルの顔に、思案の色が浮かんだのをアインズは見逃さない。

 

「お、恐れながら申し上げま――」

「よい。その反応で十分だ。……つまる所、自分が何を失敗したのかを、しっかりとは理解できていない、そういうことだな?」

 

 ナーベラルの言葉を遮って確認する。

 今は謝罪や釈明の言葉を聞きたいわけではない。

 それに、場合によっては自身が謝ることになるかもしれない、と先ほどより幾分か冷静になったアインズは考えていた。

 彼女の失敗にアインズの責任がある可能性を完全には否定できない。

 

「はっ、申し訳ございません! ……叶うのであれば、アインズ様のご不興を買った愚かなこの身に、罰をお与えください!」

「それは後だ。今は順を追って状況を整理したい。……まず、私がナザリックに一時帰還する時に何と言ったかは覚えているか?」

「はい、アインズ様は私に、ご不在中に御身を尋ねてくる者がいた場合、冒険者のナーベとして対応することを命じられました」

「微妙に違ってるような気もするが……、まあ(おおむ)ねそうだな」

 

 ナーベラルの返答で、アインズは自身が言い忘れや言い間違いをした可能性が無くなったことにひとまず安堵した。

 部下を詰問しといて、実は上司の伝達ミスでした――というのでは笑えない。

 アインズは、言葉遣いといったものには人一倍注意するように心がけている。自分の言葉を絶対と信じて行動する存在に囲まれているのだから、当然のことともいえるだろう。

 

「では重ねて聞くが、アダマンタイト級冒険者チームの一員として――冒険者ナーベとして対応しろ、とはどういう意味だと理解している?」

 

「はい、下等生物(にんげん)たちの及びもしない(いただき)に存在する強者としての矜持を持ち、また私と同じチームであるところのモモンさ――んが相手に侮られることのないよう(したた)かに振舞え、ということかと」

 

「………………………………そうか」

 

 前言撤回だ。

 まさかそのような認識の齟齬が生まれているとは。

 正直に言って、アインズの感覚からすれば斜め上もいいところのトンデモ解釈の類ではある。

 しかし、ナーベラルの思考的には一片の瑕疵も存在しない完璧な解釈なのだ。

 これでは上司(アインズ)の伝達ミスだと(そし)りを受けても仕方がない。

 アインズが意図して伝えていたことは、何一つとしてナーベラルに伝わっていなかったのだから。

 

部下(ナーベラル)の受け取り方が悪いせい……だけにするのは苦しいな。ナーベラルの思考回路が()()なのは以前から分かってたことでもあるし……)

 

 咎めるべきは、たった数分の時間を惜しみ、言葉を尽くして説明しなかった過去の自分だろう。

 自責の念と共に、思わずアインズの口から溜息がこぼれた。

 それを見たナーベラルはまたうろたえ始め、再び頭を下げて謝罪を始めてしまう。

 

「よせ、ナーベラル。謝罪はいい。今回の責は私にもあるのだから」

「そんな、至高の御身に責など有る筈がございません! 全ては私の至らなさに因るものかと愚考いたします! どうか罰をお与えください!」

 

 このままでは話が進まないと感じたアインズが声をかけるが、ナーベラルの平身低頭の構えは崩れない。

 

「だから必要ないと言っている。それより――」

「罰をお与えくださらないのであれば! この罪、我が命を持って贖いま――!」

「うるさい」

「ぁうっ」

 

 痺れを切らしたアインズの手刀(チョップ)が、ナーベラルの頭頂部に直撃(クリーンヒット)する。

 それまでの鬼気迫る様相からは想像できないような情けない声をあげたナーベラルは、剣の柄を掴みかけていた手で叩かれた頭を押さえ、アインズの方を窺った。

 加減したとはいえ〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉によって生み出されたガントレットの一撃はなかなかに堪えたようで、ナーベラルは少し涙目だ。

 

「し、しかしアインズ様……」

「私の言葉はナザリックにおいては絶対なのだろう? なら、その私が構わないと言っているのだ。それがお前の忠誠の表れであることは分かっているが、それ以上は私を不愉快にするものと知れ」

「……はっ」

 

 なおも言い募ろうとするナーベラルを強引な理論で黙らせ、アインズは本題に戻る。

 

「それで、私が出がけに伝えた『自分がアダマンタイト級冒険者チームの一員であるということに留意して応対せよ』という言葉の真意についてだが……、先ほどのお前の解釈では全く間違っている。ただ、これは私の伝え方にも問題があったと思われるので、お前の責任を問うようなことはしない。いいな?」

「はい! いと高き方の賜る恩情に、このナーベラル・ガンマ、万謝の想いを禁じ得ません!」

 

 再度、深々と頭を垂れるナーベラル。

 そこに数瞬前までの狼狽した様子はない。

 部下の精神に落ち着きが戻ってきたと判断したアインズは更に続ける。

 

「よい。それよりも、今一度思い出してほしい。我々が初めてこの都市を訪れた時のことを、私がその時最初に忠告したことをな。……確か私はこう言ったはずだ、『敵対的行動を誘発するような考えは慎め』と」

「……御身の仰る通りかと」

「であれば、先ほどのお前の解釈では駄目なことも分かるな? ――まあ確かに、お前の解釈の仕方にも一応の理があることは否定すまい。実際、この世界において強者は、その強さに応じたある程度の傲慢さが許される傾向にある」

 

 相手の考えを全否定しない。

 これはアインズがまだ鈴木悟だった頃に、自らの上司を反面教師として学んだことだ。

 失敗した部下にも、部下なりの考えがあることは多い。

 頭ごなしに叱っては、例え上司側が正しくても感情的な面から従ってくれなくなってしまうことだってある。

 

「そしてもう一つの、チームメイトである私を侮られないようにというお前の思い。これも考え方そのものは間違っていないだろう。勇者モモンが他者から舐められるなどあってはならないことだからな」

 

 アインズの言葉(フォロー)に若干ナーベラルの顔に明るいものが戻ってくる。

 今にもうんうんと頷き出しそうな勢いだ。

 

「しかし、だ」

 

 アインズは一度、意図的に言葉を切って間を持たせる。

 この後に伝えることはしっかりと理解してもらいたいがために。

 

「勇者モモンはただの強者ではなく、英雄だ。……まだ英雄と呼べるほどの功績は得られていないかもしれないが、少なくともそう振舞う必要がある。そして、脆弱な人間種にとっての英雄とは、思うが侭に力を振るって傲慢に生きる者ではない」

 

 ふとアインズの脳裏に、異形種殺し(P  K)から自身を救ってくれた純銀の聖騎士の姿が浮かんだ。

 

「そう、人間種にとっての英雄(ヒーロー)とは、弱者を労わり、謙虚な心を持つ、守り手のような存在を指すのだ」

 

 ――誰かが困っていたら、助けるのは、当たり前!

 思い出に残る懐かしい声を脳内で再生しながら、アインズは自身の考えを述べる。

 

「つまり、我々もモモンという英雄を作り出そうとしている手前、そういった人間種にとっての英雄の条件を満たす必要がある、ということだ」

 

 当然、それはモモンの仲間(チームメイト)である美姫ナーベにも同じことが言える、とアインズは付け足す。

 かつての仲間を思い出したこともあり、勢いに乗って気持ちよく語ってしまったが、相手は自分の話をちゃんと聞いているだろうか。

 不安になったアインズはちらりと、視線を目の前に跪くナーベラルに向けた。

 ナーベラルは真剣な表情でこちらの言葉に耳を傾けているようだった。

 自身の話の持っていき方がどうやら間違っていなかったことに、ちょっとした手応えのようなものを感じたアインズは、更に勢いづいて喋り出す。

 

「……んん! ただ誤解しないでほしいのだが、私は、お前の考えを捨てよなどと言っているわけではない。これも最初に言ったと思うが、せめて抑える努力をしてほしい。……ここまで築き上げてきたモモンの評判にけちがつくのは、お前としても面白くないだろ?」

 

 ナーベラルの人間蔑視的な思想には正直、アインズとしても諦めている部分が大きい。

 当初、アインズが烈火の如く怒りを奔出させそうになったのも、命令したことをちゃんと守れないという、組織に属するものとしての非常識さに腹が立っただけであり、彼女の持つ思想に対して怒ったわけではない。

 勿論、ナーベラルが自発的に思想を改めてくれるのであれば、それに越したことはないのだが、彼女は同じ至高の存在(ギルドメンバー)である弐式炎雷によって「そうあれ」と作り出された存在だ。

 NPCのコンソールが開けない現在では確かめようもないが、ナーベラルが人間蔑視をするのはその「設定」に因るものかもしれないと思うと、その考えを無理に矯正しようとも思えなかった。

 

(友の作り出した子ら(NPC)を自分の都合で歪めていいわけがない)

 

 ナザリックの留守を任せる守護者統括の姿がちらついて、無意識にアインズの奥歯がぎりと鳴った。

 口中に広がる苦い思いを誤魔化すように、アインズは意識をナーベラルの方に戻す。

 

「――以上で、まあ言い足りない部分もあるにはあるが……私が伝えたいことは全てだ。何かあるか?」

「……自分の浅慮故に御身にご不快な思いをさせたこと、誠に面目次第もございません」

「よいとも。お前の全てを許そう、ナーベラル」

「ありがとうございます、アインズ様。より一層の忠節を持って、お気持ちにお答えしたいと思います」

 

 これで喫緊の問題は解決しただろう。

 半ば恒例行事と化してきた部下とのやりとりを終えたアインズは、次の案件へと話題を移す。

 

「話は変わるが、尋ねてきた男はどのような用件だったんだ? あと、ああそうだ、()()などは何と名乗っていた?」

 

 ナーベラルはその時のことを思い出そうとしているのか、視線が少し上がり眉根に皺が寄っている。

 どことなく目が泳いでいるような気がするのは、アインズの気のせいだろうか。

 

「な、名前は、()()()、名乗っていなかったかと……。我々の仲間になりたい、その為にモモンさ――んと会って話がしたい、などと戯れ言を繰り返しておりました」

「……ほう、仲間、か」

 

 アインズの口から失笑が漏れる。

 思い出したのは、ギルド――アインズ・ウール・ゴウンがユグドラシルにてその名を広め始めた頃に、あからさまな下心と共に揉み手で擦り寄ってきた数多のギルド参加希望者たち。

 加入時に満たさなければいけない()()()()のおかげもあって、卑しい存在が仲間(ギルメン)になることこそなかったものの、その後のギルドメンバーの増員には大きくストップがかかってしまった。

 おそらく、モモンに会いたいと(のたま)っていたその男も同じような奴だろう。

 口先では自身が仲間たち(ギルド)にどのように貢献できるかを滔々と語れるが、その実自身が仲間たち(ギルド)からどのような恩恵を得られるかということにしか興味のない、唾棄すべき輩(クズども)だ。

 中には、純粋な憧憬などから加入を希望する者――あの薬師の少年(ンフィーレア・バレアレ)のように――もいるかもしれないが、そういった者は極々稀だということを、鈴木悟は経験から知っている。

 

(しかし、加入希望者ね……。シャル――ではなく、ホニョペニョコの一件から結構色々とこなしてきたし、以前(ユグドラシル)の時のことから考えれば、まあ有名税みたいなものだな。……今回で最後になればいいけど、今後も加入希望者(そういうやつら)は現れるだろうしなあ……)

 

 訪れる加入希望者に個々に対応するのは骨が折れるし、アインズ不在時であれば、また今回のような事態に発展する可能性だってある。

 街全体に、新しい仲間は求めてないと触れ回るのも一つの手かもしれないが、それでも押しかけてくる奴は押しかけてくるだろう。

 何か対策を考える必要があるな、とアインズは結論づけた。

 

「で、その男はどのように()()()()()のだ?」

 

 話をアインズが最も気になっている案件へと移らせた。

 もし大怪我などをさせていれば、モモンに要らぬ風評がつく可能性は多分にある。

 しつこく食い下がったというのが事実であれば、情状を酌量してもらえる余地はあるかもしれないが。

 

「はい、五月蝿(うるさ)い男でしたのでロビーに放り投げた後、〈魔法最強化(マキシマイズマジック)〉と〈魔法射程距離延長(エンラージマジック)〉を施した〈爆風(ガスト・オブ・ウィンド)〉で宿の外へと吹き飛ばしました」

「そうか……。怪我などはした様子だったか?」

「自力で立ち上がり、脇目も振らずに逃げ去っていく後姿が見えましたので、恐らくは軽傷で収まっているかと愚考いたします」

 

 最も懸念していたことが外れ、アインズは小さく安堵の息を漏らす。

 胸中にあるのは「なんだ、ナーベラルも何だかんだで成長しているじゃないか」という思いである。

 〈爆風(ガスト・オブ・ウィンド)〉は魔力系魔法詠唱者(マジックキャスター)であれば初期の頃に覚えられる、低位階の風属性魔法だ。

 この魔法によって生み出される突風はダメージなどが伴わないため、霧や毒ガスを吹き飛ばしたり、蟲や蝙蝠のような小型モンスターの群れを散らしたりするのがせいぜいで、ユグドラシルでは微妙魔法の扱いをされていた。

 死霊術を中心に魔法を取得していたアインズが見向きもしなかったことは言うまでもない。

 ナーベラルが風属性魔法に特化する職業(クラス)持ちであること、〈魔法最強化(マキシマイズマジック)〉などによって強化されていたことなども重なって、男が飛ばされるほどの風力を発揮したが、ゲームでの性能がそのままこの世界でも適用されているならば、ナーベラルの推測通り、擦り傷程度の怪我で済んでいることだろう。

 自力で逃げていく後姿を見た、というナーベラルの報告もそれを裏付けている。

 

「そうか、そうか。……名前が分からなかったのは残念だが、それならさして問題にはならないだろう」

 

 残念という言葉にナーベラルがびくっと反応するが、最悪の想像が外れたことで少し上機嫌になっていたアインズはそのことに気がつかない。

 ()()()()()などと言うものだから、アインズはてっきりお得意の電撃系魔法で半殺しの目にでも合わせたと思い込んでいたのだ。

 この都市(まち)に来てすぐの頃のナーベラルであれば、あるいはそうしていたかもしれない。

 しかし、蜥蜴人(リザードマン)との実験(たたかい)でコキュートスが証明したように、能力値(ステータス)特殊技能(スキル)的な部分以外であれば、経験を積むことでNPC(かれら)も成長することができる。

 そう考えれば、ナーベラルがこれまで重ねてきた失敗も、決して無意味なものではなかったのだろう。

 

(暴力的な手段に出てしまったこと自体は、もう仕様がないけど、それでも必要最小限の力を使うことで取り返しのつかない事態を避けられたのは良い傾向だな)

 

 大方の心配事が晴れたアインズは、これからの事後処理について思いを巡らせる。

 部下の成長が見れたこともあってか、いつもより頭が冴え渡るような気すらしてくるのだから不思議だ。

 数分後、大体の考えがまとまったアインズは控えるナーベラルに対し、矢継ぎ早に指示を出して行った。

 

「ナーベラル、影の悪魔(シャドウ・デーモン)を5体程ナザリックより呼び寄せ、お前が見た男の人相を教えて、エ・ランテル(このまち)全体を捜索させよ。見つかった時はすぐに私に伝えるように。戦士モモンとして見舞いに行く必要があるからな。それから、アルベドかルプスレギナに連絡を取って、カルネ村にいるリイジーかンフィーレアに『見舞いに最適なポーションを用意するように』と伝言を頼む。最後に、アルベドには相談したいことがある故、今日のうちにまたすぐ戻ると伝えてくれ」

「はっ、委細承知しました」

「頼んだ。では、私は少し出てくる」

 

 自身の出した指示にナーベラルが了解を示したことを確認したアインズは、ソファーから立ち上がって広い最上級客室(スイートルーム)の入り口の扉へと歩き出す。

 それまで晒されていた頭蓋骨を、再び魔法で作った面頬付き兜(クローズド・ヘルム)で覆い、嵩張るからと消していた二振りの大剣も同様に背負った状態で創り出した。

 外出の準備を整えたアインズに、それまで跪いていたナーベラルが追従しようと立ち上がる。

 

「供はいい。お前はここで、今指示したことを遂行してくれ」

「ではせめて、どこに行かれるのかだけでもお教えくださらないでしょうか?」

 

 ナーベラルの問いにアインズは肩越しに振り返って告げる。

 先ほど思いついた自身の完璧な策を実行する為に、向かう先は。

 

「冒険者組合だ」

 




チーム漆黒の主従漫才(イチャイチャ)(?)が好きなためか、気付けば鍵括弧だらけになっていました………。
話も全然進んでおりませんが、どうか次回をお待ちください。
続きます。

引き続き、誤字・脱字等ありましたら指摘して頂けると嬉しいです。
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