この世界に来た翌日の朝、いつものように大量の朝食と学校の昼食用にお弁当を作った。お弁当は、修行で海や山に行ったときにも作っていたから別段苦労するようなことではないね。
それと昨日、身体を6歳まで縮めることができたのだから、18歳ぐらいの背丈まで成長するように念じれば大きくなれるのでは? と思いついたのでやってみた。
―――結果。
また10歳ぐらいの身長で止まった。
私は、この背丈よりも大きくなれないというのか。おのれ……。
もう一度身体を6歳に戻して制服を着こむ。オーフィスも制服を着て、私たちは家を出た。
「あっ、絆ちゃん、美遊ちゃん。おはよ~!」
「ん?」
スクールバスの停車場に居ると、後ろの方から聞き覚えのある声に話しかけられた。声のする方を向くと、そこには私たちと同じ聖祥の制服を身に纏った高町がいた。
「おはよう、高町さん」
「む~。なのはでいいってば~」
昨日、話をしていて分かったことだが、高町は妙に自分のことを名前で呼ばせることに拘る。理由があるのかもしれないけど、どうもこういうのを見ると、逆に呼ばないでいるとどんな反応をするのか見てみたいというイタズラ心が湧いてしまう。
なので、私は高町に対して
「美遊ちゃんも、おはよう」
「……お前、誰?」
オーフィスの言葉に高町が固まった。そして、再起動。
「昨日、一緒の席でご飯食べてた、なのはだよ。覚えてないの?」
「記憶にない」
オーフィスにそう言われて、膝を抱えて落ち込む高町。それと一緒に彼女のツインテールが垂れる。あの髪、生きてるのかな?
特にフォローなどはせずに眺めていると、ようやくバスがやって来たので私とオーフィスはバスに乗り込んだ。その時、バスの運転手に声を掛けられて高町も慌てて乗り込む。
「あっ、なのはちゃんだ。それと絆ちゃんと、美遊ちゃんもいる」
「アンタ達、コッチ空いてるわよ」
最後尾の座席でこちらに声を掛けてきたのは、またもや昨日会ったばかりのアリサとすずか。呼ばれているので、二人の所に向かう。
「おはよう。アリサ、すずか」
「おはよう。ほら、ここ座んなさい」
そう言われて開けられた三人分の間に、私とオーフィスは座る。そこに遅れて高町が到着する。
「にゃ~。二人とも、置いてくなんてひどいよ……」
「あんな哀愁漂うような姿だと、とても話しかけられなかったんだよ。それより座ったら?」
私に言われて高町も座る。席順はすずか、高町、オーフィス、私、アリサになっている。
「うぅ~、納得いかないの……」
「どうしたの、なのはちゃん?」
「美遊ちゃんが私のこと覚えてなかったみたいで。落ち込んでいたら、バスに乗り遅れるところだったの」
高町の様子に、すずかが不思議そうに聞くと、そんな返答をする。本人に悪気はないと思うけど。
「えっと、美遊ちゃん。私のことは覚えてる?」
「?」
すずかが聞くと首を傾げるオーフィス。その行動で答えが分かったのか、すずかは苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、アンタは?」
隣のアリサに声を掛けられる。
「私? さっき呼んだよね? アリサ、すずか、高町さん、ちゃんと覚えてるよ」
「なんで私だけ名前で呼んでくれないの?」
高町が沈んだ声で言う。
「名前で呼んでと言われたから、なんか逆に呼びにくいんだ」
「えっと、じゃあ自由に呼んで?」
「分かったよ。これからもよろしくね、高町さん」
「にゃあぁああああああああ!!!」
「……アンタ、性格悪いわね」
アリサが何か言っているけど、よく分かんないね。
「ところで、さっきまでスルーしてたけど。アンタ、なんで男子の制服着てんの?」
「男子だからだよ」
「へ?」
そういうと、震えた手で私を指さすアリサ。
「アンタ……それ本当なの?」
「そうだよ。それと、人を指すのは良くないよ」
今度はすずかとアリサを含めて、先程の高町のように固まった。そして、再起動。
「「「「「ええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」」」」」
アリサ達どころか、バスにいる生徒全員が驚いて声を上げた。ちょっとしたソニックブームが発生した気分だ。あと、車の中で大声を出すのは良くないよ?
「嘘って言いなさい! そんな妖精みたいな見た目して、男な訳ないでしょ!」
あいにく生物学上は、私は男性に属しているよ。そうしている間に、バスは学校に到着した。
私とオーフィスは職員室に行って教師に挨拶する。私たちは同じクラスらしく、教室に案内されて紹介された。
「「「「女の子キタ―――――――――――――!!!」」」」
「私は男子です」
「「「「なん……だと……」」」」
男子生徒が喜んだと思ったら、膝と両手を地面につけて四つん這いになった。わざわざ椅子から降りて……。
とても愉快そうなクラスだ。あと後ろの席に、あの3人が居た。手を振られたので、振り返しておいた。席、遠いしね。
その後、質問攻めにされたり、アリサが収めてくれたり、オーフィスが一般相対性理論とか、重力加速度とか小学生には理解できない内容で授業を受けて唖然とされたりいろいろあった。
そして私たちは今、昼休みになって屋上でお昼を食べている。
「普通、学校の屋上って立ち入り禁止だと思うんだけど」
「そうなの?」
私の呟きに高町が首を傾げる。創作物の世界では、そういうことはないのかな?
「それよりも何? その重箱は?」
アリサが私の持っている重箱に見ながら言う。まあ、普通は重箱なんて持ってくる小学生ないよね。
「美遊はよく食べるから、これぐらい作らないとお腹の足しにならないんだ」
あくまで足しになるだけで、満腹になる訳じゃないけどね。
「美遊は、ってなんでアンタが持ってるの?」
「大して重くないし」
「そんな訳ないでしょ!? 何段あるのよそれ!」
5段だけど? 一般的に売られている数と変わらないよ。
「まあ、家事は私の担当だし。美遊だと、普段ボーっとしているから忘れてきそうだしね」
「失礼」
「……ちょっと待って、家事を担当してるって。アンタ達、一緒に住んでるの?」
「そうだけど?」
その発言に、また固まるアリサ達。もう、そのパターン飽きたよ。
「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」」」」
なんで3人以外にも叫ぶのかな? 食事中は静かにしないとダメだよ? あと近所迷惑…………は問題ないか。周り海だし。
「アンタらの親は何やってるのよ!」
「私も美遊も、親はいないよ?」
「えっ……」
私の言葉に、一気に周りが静かになる。
「えっと、ごめん……」
「別に気にしてないよ。私は美遊が居るから、寂しくないし」
「我も」
そういうと何やら暗い雰囲気になる。まあ、普通はデリケートな問題だからね。
「ぐすっ……ぐすっ……」
「高町さん?」
なぜか高町が泣いていた。
「絆ちゃん、美遊ちゃん。今度みんなで遊びに行くから!」
「遊びに来るのは構わないけど、とりあえず鼻かんで?」
私が男子だと分かっても、未だに高町はちゃん付けで私を呼んでいる。たぶん、私が名字呼びしていることへの意趣返しだと思うけど。私は呼び名とかどうでもいいから意味ないんだよね。
まあ、子ども扱いは嫌だけど。
それから、私たちは昼食を終えて午後の授業を受けた。あっ、教科書の恐竜の絵が実際に見た奴と少し違う。
そして、無事一日を終えた私たちは高町に誘われて昨日も行った翠屋に向かった。
なんでもあの店は、高町のご両親が経営しているところらしく。昨日の女性も高町の姉らしい。名前は高町 美由希。紹介されると、最初とは違ってかなりフレンドリーに話すようになった。たぶんこっちが素なのだろう。そして―――。
「…………………」
「…………………」
現在、私は高町の兄。高町 恭也に睨まれている。その目には、微妙に殺気が込められている。グレートレッドに比べたら、無いに等しいけど。
それと、周りで高町と美由希さんがオロオロしている。
「なるほどな……」
「? なんですか?」
突然、納得したように呟いた恭也さん。それと同時に殺気が霧散する。
「あれれ? 恭ちゃんどうしたの? 男子ならともかく、女子にまで殺気を送るなんて、らしくないよ?」
「……美由希、明日の練習は倍にするからな」
「なんでっ!?」
やれやれといったように首を振る恭也さん。どうして自分が罰を受けるのか分かっていない美由希さんは、恭也さんに対して抗議する。それに対して恭也さんは――。
「そっちの白い子は男子だ」
と言った。その次の瞬間、店の中でソニックブームが起きた。
その後、高町の両親にも会った。明らかに高校生の子供が居るとは思えない若い見た目。
高町 士郎と高町 桃子。
士郎さんは、家の道場に通わないかと勧誘してきた。高町の家は、ケーキ屋で道場なのか、意味分かんないね。暇がある時だけ、通うことにした。
桃子さんは、翠屋の方で働かないかと聞いてきた。どうして高町家の人たちは私を勧誘するのだろうか? まあ、何事も経験だし。バイトぐらいならいいと言った。安易に言ってしまった……。
私の言葉を聞くが否や、私とオーフィスは店の奥に連れ去られてしまった。そして――。
「ねえ、桃子さん。この服は何?」
「うふふ」
「絆ちゃん、可愛い――!」
笑ってないで質問に答えて欲しいのですが。あと高町、お店の中で騒いじゃダメだよ?
私が着ているのは喫茶店の制服ではなく。大きなボタンの付いた帽子と白いマントが付いた服だ。なにこれ?
「絆ちゃん『わふー』って言ってみて?」
「わ、わふー?」
「うん。完璧ね! クドリャフカちゃん、あとはこの犬耳を付ければ完璧!」
そう言って帽子の上から犬耳を付ける桃子。
クドリャフカ? それって確か、宇宙飛行したライカ犬の別名だよね?
はっ! もしかして私、犬扱いされているってこと!? わふ―――!!
「可愛いいい!!」
「うわっぷ」
なぜかアリサが抱き着いてきた。急に抱き着かないでよ、危ないから。
「あっ、美遊ちゃんも着替え終わったのね」
「絆、これ何?」
桃子さんの言葉に目を向けると、そこにはセーラー服を身に纏ったオーフィスが居た。
「美遊ちゃんは―――って言ってみて」
「? 分かった」
何を吹き込まれたのか、オーフィスは私の前まで歩いてくると、まるで祈るよう両手を合わせて私を見る。
「我、どうして絆がそんな恰好をしているのか、気になります」
「いや、桃子さんが着せたからだけど……」
なんで、そんな質問をオーフィスに言わせたんですか? 桃子さんの方を見ると、何か悩むように口元に手を当てて唸っている。
「うーん。あとは背中に天使の翼があれば良いんだけど、今は、この翼付きのランドセルしかないわ……」
「桃子さん。仕事しなくていいんですか?」
苦笑気味に意見する、すずか。
お願いだから、あなただけはまともで居てね。というより、本当に仕事しなくて大丈夫なの?
「そ、そうだよお母さん!」
「……そうね、私が間違っていたわ」
ようやく分かってくれた。
「無理に高校生の恰好をさせているからダメなのよ!」
「お母さん!?」
訂正、全然分かってなかった。そして連れ去らわれる私とオーフィス。私たちは着せ替え人形なのか?
そして、また服を変えて戻ってきた。今度は白いゴスロリの服だ。それと背中には、なぜか棺?を担がされた。こんな大きな物、店のどこにあったんだろう?
「はい。それじゃあ、さっき教えた通りに言ってみて?」
「えっと……私は父上の遺体を弔いたいのです」
「いいわぁ……」
「お母さん! 絆ちゃんに何てこと言わせるの!」
私の言葉に、桃子さんは嬉しそうに微笑み。反対に高町は、怒りの形相で桃子さん詰め寄る。その後、高町に何かを耳打ちされたのか、桃子さんが謝ってきた。
嫌な思いをさせちゃった? なにが?
その後、今度はオーフィスが来た。コスプレ用の巫女服かな? 袴じゃなくてスカートの全体的に赤を基準にして、頭に大きなリボンがある。
手には御幣の付いた木の棒、通称お祓い棒を持っており。ノースリーブで脇を出していて、どうやって袖が落ちないようにしているのか不思議な巫女服だ。
「ごめんね。絆ちゃん、美遊ちゃん。ちゃんと制服にするから」
そう言われて、ようやくまともな服を渡された。
でもこれ、女性用だよね? さっきまでもそうだったけど……。
渡された制服は、黒のスカートにワイシャツ、そして水色のベストに青のリボンだった。
「それとこれ、落とさないように仕事してね?」
「えっ?」
そう言って頭に乗せられたのは真っ白な……毛玉? 結構大きい……。
えっ、なにこれ? 修行? だったら大歓迎だけど。
それとオーフィスはメイド服だった。普通のメイド服だ、コスプレ用ではない。その後は普通に仕事した。なぜ知らないけど、妙にコーヒー。それもカプチーノの注文が多かった。ケーキ頼んでよ、お客さん……。
とりあえず今日の結論、高町家にまともな人はいない。
反省はしています。でも、後悔はしていません。
感想、ご指摘、お待ちしています。