小さな二人は共に行く《凍結》   作:麦わらぼうし

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原作の歯車が狂い始める。


学園生活と猫の気持ち

「うぅ~、またダメだったの……」

「あはは。相変わらず文系ダメだね、高町さん」

 

 私の前では机の突っ伏している高町が居る。その手には、まあ……何とも言えない点数がついている文系科目のテストの答案用紙。

 現在、私たちは無事に進級して二年生だ。あいにく、オーフィスとはクラスが離れてしまい。私、高町、アリサは1組。オーフィス、すずかは2組だ。とは言っても、昼食と帰りはいつも一緒だけどね。だから私たちは周りから、仲良し5人組みたいに認識されている。

 

「でも、前に比べれば随分と良くなっているわよ」

「ホントッ! アリサちゃん!」

聖祥(ここ)のレベルで満点取れるアリサがおかしいだけだと思うよ……」

「アタシより、総合成績高いアンタが言うんじゃないわよ!」

 

 なんで怒られなくてはいけないのだろう? 私の場合は、あなた達より長く生きているんだから、普通なんだけど。それを抜きにしても、怒られるようなことじゃないよね?

 

「アリサちゃんは満点なのに、絆ちゃんの方が上なの?」

「記述なら同点なんだけど、実技がね……」

「すずかも似たようなものじゃん」

 

 体育で、私、オーフィス、すずかはオリンピック選手並みの記録を叩き出しているからね。1年の時は同じクラスだったので、運動会でうちのクラスがダントツ勝利したほどだ。なんか、クラスの勝敗で先生が焼肉をおごるという賭けをしていたらしくて、担当の先生は随分と喜んでいた。教師が賭け事していいのかな?

 

「にゃ~、絆ちゃん打倒の道は険しいの……」

「アンタは運動もダメだしね」

「にゃ~」

 

 再び机に突っ伏す高町。彼女が先程の目標を掲げているのは、ある理由がある。

 私がずっと高町を名字呼びしていることから一度高町が軽く発狂して、それに私が「だったら、私に何かで勝てたら名前で呼んであげるよ」という条件を与えたのだ。それからというもの、高町はいろいろと私に勝負を申し込んできて、私はそれを一蹴している。イジメじゃないよ?

 

「絆」

「なのはちゃん~、アリサちゃん~、絆ちゃん~」

 

 三人で話していると、教室の扉の方から声を掛けられる。そこにはオーフィスとすずかが居た。ちなみにすずかも私をちゃん付けで呼んでいる。高町が呼んでいるからノリで呼んでいるらしい。

 

「今行くわ。ほら、いつまでも落ち込んでないで、帰るわよ」

「むしろ放っとけば?」

「酷いよ、絆ちゃん!」

 

 よし、起きたね。

 

「漫才してないで行くわよ」

「漫才じゃないよ。高町さんをからかっていただけ」

「もっと酷いよ! というか待って~!」

 

 まったく、帰る準備にいつまで時間を取っているのか。高町家の人は運動できる人が多いのに、どうして高町だけ運動がダメなのだろう?

 言い忘れていたけど、私は高町家の道場によく遊びに行っている。武器は恭也さんと同じ小太刀二刀流、以前京都の土産で買った木刀でしっくりきたことから、二刀流を使っている。剣技の基本を教わってからは、自己流でやっているけどね。

 それにしても、あの神速とかいう技術。あれは人間が使っていい物なのだろうか? どうせだから覚えたかったんだけど、どうやらこの世界の技術のようで使うことができない。

 なので、能力で身体の時間を加速させて擬似的な神速を使って戦っている。

 

 そんなことを考えていると、私たちはすでに聖祥を後にしていた。現在は、5人横に並んでいつものように翠屋を目指している。通行人の迷惑なんて一切考慮してないよ。

 

「美遊の方は、テストどうだった?」

「問題なし」

「ほんと、美遊って何でもできるわよね。絆もだけど」

「私にだって苦手な物はあるよ」

「そうなの?」

「芸術に関しては、美遊の方が上手い」

「アンタの場合は、風景をそのまま絵に描く感じだものね。でも、美遊の絵ってどんなの?」

「私は隣の席だから描いているところ見たんだけど、あれはなんというか……」

 

 少し口籠るすずか、それに対してアリサは「なによ。なんかあるの?」と首を傾げる。

 

「キュビズムで描かれてたんだよ」

「はぁああああああああああ!?」

「? キュビズムってなに?」

 

 すずかの答えにアリサが叫び、高町は分からないのか首を傾げる。

 

「高町さん。キュビスムっていうのは、いろいろな角度から見た形を一つに画面の中に描く技法で、簡単に言うとピカソみたいな絵だよ」

「あれを描いたの!?」

 

 高町が叫ぶ、美術室にレプリカがあるから見ているのだろう。というかあれ、レプリカだよね? 随分と厳重に閉まってあったけど。

 

「まったく、高町さんはいつまで経っても高町さんのままだね」

「どういう意味!? というか、お願いだから名前で呼んでよ~!」

「それは、高町さんに『にゃ~』の口癖がある限り無理だよ」

「なんで?」

「夏目漱石の『吾輩は猫である』は知ってる?」

「うん」

「あの中には、こういう一文がある『何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶して いる』と、これは自身が猫であるということを伝える意味も持っている」

「へえ~」

「それと『吾輩は猫である』の有名な一文『吾輩は猫である。名前はまだ無い』これは、その言葉の通り、この猫にはまだ名前がないということなんだ。

 つまり! 猫みたいに『にゃ~』と鳴いている高町さんには、まだ名前がないということなんだよ!」

「なんでそうなるの!?」

 

 あれ? 高町でも分かるように懇切丁寧に説明したつもりなんだけど。

 

「高町さん、やっぱり国語をもっと勉強しないとダメだね……」

「国語の勉強をしないといけないのは、絆ちゃんの方だと思うの!」

「私、全科目満点だよ? 国語含めて」

「納得いかないの―――――――――!!!」

 

 高町が叫んだ。近所迷惑が分からないなんて、道徳も勉強しないとダメだね。

 

「アンタらに必要なのは、国語力じゃなくてコミュニケーション能力だと思うわよ……」

 

 アリサって、時々私でも理解できない言語を話すよね。私もまだまだ勉強不足だな~。

 

「ところで――」

「どうしたの、美遊ちゃん?」

 

 オーフィスが私たちの方を見て言った。

 

「なぜ、我と絆の名前、知ってる?」

「「「えっ?」」」

「お前たち、誰?」

「「「まだ覚えられていなかったの――――!?」」」

 

 ごめんなさいね。近所の皆様方。

 

 そうして、私たちはいつも(・・・)のような会話を続けて歩いていると、不意にある気配を感じ取り私は足を止めた。オーフィスの方を見ると、同じようにこちらを見て頷いている。

 

「アンタ達どうしたの?」

 

 それを不思議に思ったのかアリサが話しかけてくる。

 

「何でもないよ。ただ今日予定があったのを思い出したから、それで止まっただけ」

「じゃあ、美遊は?」

「我も同じ」

「アンタら、どんだけ仲良いのよ……」

 

 2億年間一緒に居るぐらいは、仲良いと思うよ?

 

「という訳だから、私はここで失礼するね。また明日ね」

「我も」

「そう。それじゃあ、また明日ね」

「バイバイ。絆ちゃん、美遊ちゃん」

「また明日なの~!」

 

 そう言って私たちは、三人が遠くに行くまで手を振って、こちらを見なくなったタイミングで私はオーフィスに話しかけた。

 

「オーフィス、これって……」

「魔力の気配」

 

 そう、私たちが感じ取ったのは魔力だ。それも、高町や、あの八神の表札があった家とは違い、今にも消えそうな微かな魔力。

 

「とりあえず行ってみようか」

「ん」

 

 一応オーフィスに小型の認識阻害の結界を身体に張ってもらい。私たちは、魔力の気配がする場所に向かった。

 

 

 

「このあたりの筈だけど……」

 

 あれから5分もしない間に、私とオーフィスは魔力の気配がする場所に辿り着いた。もともと、近くに来たから感じ取れたような少ない魔力量だったからね。

 

「絆、これ」

 

 オーフィスが見つめる視線の先には、身体が半透明になっている猫が居た。この世界の猫は擬態能力を持っているのか、知らなかった……。

 

「魔力はこの猫から感じるね」

「ん、でも、このままだと枯渇して消える」

 

 枯渇すると消える? 魔法生物ってことかな、擬態じゃなかったんだね。

 

「絆、どうする?」

「助けるよ。流石に目の前で死なれるのは気分悪いし」

 

 そう言って私は猫に近づいて、自身の魔力を供給しようとするが。

 

――バチッ

 

「っ!?」

 

 魔力を放出した途端、猫に触れる前に魔力が弾け飛んだ。

 

「なんで――」

 

 と、そこまで言葉を出してある可能性が頭に浮かんだ。

 神様から言われた制約の一つ『こちらの力を渡してはいけない』

 もしかしたら、その力の中には魔力も含まれているのかもしれない。この世界の魔力とは何かが違うから、私の魔力を供給できない可能性。

 もしそうだとしたら、いったい何が違う? 性質? 特性? 純度? ダメだ、考えている時間がない。なんとか、この世界の魔力を供給できる方法は――。

 

「絆」

「ん? なに、オーフィス?」

「絆の能力で、魔力を変化させること、できない?」

「あっ――」

 

 オーフィスに言われて、私は一瞬固まってしまった。

 そういえば、エネルギーの性質を変化させるのは私の能力でできるんだった。最近、エネルギーの方向操作ばかりで、そっちのことすっかり忘れてた。

 さっそく私は、放出した魔力がこの世界の魔力に変わるように念じて、魔力を猫に供給する。すると猫は、少しずつ身体の色を取り戻し始めた。しばらく魔力を供給すると、そこに居るのは魔力を持っていること以外は普通の猫になった。

 

「このまま放置……するわけにもいかないよね」

 

 この猫が目を覚ます前に供給した魔力が尽きてしまえば今度こそ、この猫は消えてしまうだろう。助けたのに見殺しにするようなことをすれば、結局あと味が悪くなる。

 

「連れて帰るよ、オーフィス」

「ん」

 

 そうして私たちは、猫を抱えて家に帰った。

 

 

 

 連れて帰ってきた猫を、タオルを敷き詰めたバスケットに入れて、上から一枚タオルを掛ける。そして、しばらく様子を見ていると、猫は目を覚まして辺りを見渡し、私たちの方を見た。

 

「あなたは言葉が分かるタイプの子かな、魔法生物さん?」

「…………」

 

 答えないか。以前、冥界の森に行ったときは何体か言葉を理解する生き物が居たんだけど、この世界ではいないのかな?

 

「分からないのなら、分からないでもいい。でも、説明させてもらうね。あなたは魔力が尽きかけていて消えそうになっていた。そこに私たちは偶然近くを通りかかって、あなたに魔力を供給して消滅を防いだ」

 

 こっちを見たまま動かないね。言葉が分かるのか、それとも声がする方に反応しているだけか。

 

「ただの偽善だから気にしないでね。あと、私たちはあなたを飼う気はないから、次は魔力がなくならないように注意して生活しなよ」

 

 言うことは言ったので私は立ち上がって、台所で今日の夕飯をつくりに向かう。

 

「待ってください!」

「ん?」

 

 突然後ろから声が聞こえた。しかしそれはオーフィスの声ではない。女性の声だったけど、近くに私とオーフィス以外の人型の存在はいない。私は猫の方に目を向ける。

 

「あなた、喋れるんだね」

「はい。それと、話を聞かせていただけませんか? 情報が欲しいんです」

「いいよ、答えられる範囲でならね」

「ありがとうございます。と、このままでは失礼ですね。少々お待ちください」

 

 そう言うと猫は一度光に包まれて、次の瞬間には猫の姿は消えており、代わりに栗色?の髪の女性が居た。同じ魔力を感じるので、あの猫の人間形態だろう。

 

「それで、何が聞きたいのかな?」

「はい。それではまず―――」

 

 そのあと女性、名前はリニスというらしいので、リニスにいろいろと聞かれたが、よく分からない言葉が多かった。

 管理世界? ミッドチルダ? 私が質問すると答えてくれたけど、向こうは何か考え込んでいる。おそらく、私が知らないということから現状を把握しようとしているのだろう。

 

「私の話は役に立ったかな?」

「はい、ありがとうございます。それと、無礼を承知でお願いします。私と使い魔契約を結んでいただけませんか?」

 

 使い魔契約ね。確か、魔力を供給する必要があるんだっけ?

 

「それはちょっと無理だね。私の魔力はちょっと特殊で、ある方法を使わないと誰かに分けたりすることができないんだ」

「ある方法?」

「あなたがさっき言った、レアスキル?とかいうものを私は持っていてね。それを使わないと、私は他人に魔力を供給できない。だから使い魔契約はできない」

「そうですか。では、重ねてお願いします。定期的に私に魔力を供給していただけませんか?」

「私が、それをするメリットは?」

「そうですね。身の回りのお世話をさせて頂くというのはどうでしょうか?」

 

 家事は間に合っているんだけど……。

 

「悪くはないけど、住む場所はどうするの?」

「私は素体が猫なので、野良として生活できます」

「はぁ~。させられる訳ないじゃん、ここに住んでいいよ。ただし交換条件として、あなたの知っている魔法に関する知識を教えて」

「構いませんが、魔法の仕組みは複雑ですよ?」

「別にいい」

 

 どうせ、そのままだと使えないんだから。

 

「ありがとうございます。それと質問なのですが、絆さんはどうして魔力の存在を知っているのですか? あなたの証言から推測するに、ここは魔法文明のない管理外世界だと思うのですが」

 

 管理外世界。

 さっき言っていた管理局とかいう組織が管理していない世界のことか。それにしても、軍隊と警察と裁判所が統合しているなんて、裏で何かやっていそうな気がしてならないね。三権分立ぐらいしようよ……。

 

「悪いけど、それは答えられない。でも、リニスの推測はたぶんあってる。少なくとも、この世界には公に魔法の存在があるとは言われていないし、管理局なんて組織も知られていない」

「そうですか」

 

 リニスはまた何かを考察するように、口元に手を当てて考え込む。

 

「……リニス、私からも質問したい」

「何でしょう?」

「どうして、魔力が減少しているなんて状態になっていたの? あなたは自分から使い魔にしてほしいなんて言ってきたから、元々は魔法生物ではなかったんだと思うけど」

 

 そもそも最初から魔法生物なら、魔力が枯渇するなんて状況にはそうそうならない筈だ。

 

「そうですね。正直、他人に話すような内容ではないのですが。聞いていただけますか?」

「聞いたのは私だしね」

 

 そうしてリニスは、自身の身に起きた出来事を話し出した。

 以前は別の世界でプレシア・テスタロッサという研究員の女性の飼い猫として生きており、その女性にはアリシア・テスタロッサという娘がいた。しかし、ある日その研究で事故が起きて娘を失った。

 娘を失ったプレシアは、研究のテーマであったクローン技術を使ってアリシアを蘇らせようとして、記憶を転写して作り出したクローンにリニスを教育係として付かせた。

 しかし、クローンはアリシアとは別物であることに気づいたプレシアは絶望して、研究の名前である。フェイト・テスタロッサという名前を与え、娘としては接しないようにした。

 それに対してリニスはプレシアに異議を申し立てると、彼女から攻撃を受けて使い魔契約を切られてしまった。そして最後の魔力を使って転移したのが、私たちが見つけた場所だったと。

 

「なるほどね」

「フェイトは、本当に良い子なんです。プレシアのために、いつも一生懸命で。だから私は、プレシアにフェイトを娘として認めて欲しくて……」

 

 リニスは拳を握っている。思わず握ってしまった、というような感じだ。おそらくやり場のない感情を、吐き出したかったのだろう。

 それにしても、少し違和感がするなぁ~。プレシアの行動にある矛盾点、リニスの話を聞く限り精神的にかなり危ないみたいだから、その所為だったら何とも言えないけど。

 

「じゃあ、リニスはプレシアの場所を見つけ次第、また行くのかな?」

「そうなると思います。ですから、その場合は事前に連絡します」

 

 別にしなくていいけど。

 

「まあ、あまり固くしなくていいよ。でも家事の手伝いをするなら、食事のときは覚悟しておいてね?」

「? よく分かりませんが、全力を尽くさせてもらいます」

 

 そうして、家に猫が一匹やって来た。流石に今日は疲れているみたいだから休ませたけど、次の日からオーフィスの食事量に四苦八苦するリニスの光景を見るようになった。

 




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