「ッ!」
視界を灼かれたリボーンが次に目を開けた時には、9代目の執務室には誰もいなかった。
「ツナのヤツ、いつの間にリングやグローブも無しに炎を灯せるようになったんだ・・・」
あの時点では確かにツナはリングを指に装着していなかった。
ボンゴレの血筋とはいえリングや武器があって初めて炎が灯せると思い込んでいたリボーンは、愕然と呟く。
が、そもそも、ツナは幼い頃から制御できずとも武器無しで炎を発することはできていた。それを一時的に封じたのは9代目であり、それをうっかりリボーンに告げていなかったのはワザとではない・・・ハズだ。
それにボンゴレの血筋でもないのに素手に憤怒の炎を灯していたXANXUSを見れば、ツナも訓練次第ではそれが可能になるということは容易に想像がつく。
「って・・・感心してる場合じゃねェ!」
リボーンは口元を引きつらせた。
9代目とツナ、2人がタッグを組んで脱走を図ったのだ。しかも自分相手に試しで。
「・・・とっとと捕まえねェと・・・!」
ツナにいらん自信をつけさせてしまううえに、家庭教師としての面目が丸潰れだ。
慌てて9代目の執務室を飛び出したリボーンは、廊下を曲ったところでコヨーテと獄寺・嵐の守護者コンビに出くわした。
「リボーンさん?・・・そんなに慌ててどうしたんっスか?」
リボーンの珍しくも慌てている様子に、獄寺が訊ね、コヨーテの目が細められる。
「つ、ツナが・・・」
「10代目に何かあったんスか!?」
ツナの名前に敏感に反応した獄寺に申し訳ない思いを抱きながら、リボーンは告げた。
「・・・ツナが、9代目と一緒に脱走しやがった」
「・・・・・・う、嘘でしょう!?」
獄寺的には信じたくないらしい。が、事実である。
「こんな事で嘘言ってどうすんだ・・・おい、コヨーテ。思い当たる先は有るか?」
「黄のアルコバレーノ相手に脱走を企てたのであれば・・・俺達の知る出口を使ったとは考えにくいが」
「オメェらの知らねぇ出口ってのはいくつあるんだ!?」
「・・・おそらく10は下らない」
「・・・・・・マジでか」
コレでは見当もつかないではないか。
「り、リボーンさん・・・お、俺達はどうしたら・・・!」
「せめて、リングを探知するシステムが完成していたら・・・!」
“10年後”に存在したあのシステムを、ジャンニーニに作成させている。
間もなくツナ達と同じく高校を卒業した正一やスパナも合流予定であり、そうなれば完成も早いだろうと思っていただけに口惜しい。
「とにかく手分けをして探す。俺は他の守護者に伝えてくるから、先に行け」
慣れた様子(9代目のせいで)のコヨーテの指示に頷くと、獄寺はリボーンを肩に乗せ走り出す。
「と、とにかく、城の外に出ましょう!」
「そうだな・・・もう城の外に出ている可能性は高い」
獄寺は今までコヨーテに叩き込まれた知識を使って最短距離で城の外に出る。
「・・・まずは城の周りか?」
「そうですね・・・最初からいきなり町まで行っちまうっていうのは、無いと信じたいんですが」
「だよな・・・」
信じたくないだけで容赦なく町に出ている可能性も捨てきれない。が、とりあえずは城の周りを徹底的に探すことにする。
***
「10代目~!9代目~!!」
声を上げながら探すのは他の守護者にも知らせる意味があるのだが、先程から誰にも会わない。
「っかしーな・・・この辺りでいつもランボが9代目の雷の守護者と遊んでんですが・・・」
「いつも?・・・おい、獄寺。いつもと変わったトコはあるか?」
「変わったトコっスか?・・・特には」
「そうか・・・幻術かとも思ったが、それにしちゃあ感覚のズレもねェしな」
「幻術って・・・クローム達、霧の守護者が10代目達の手助けしてるってコトっスか!?」
「今回は知らねーが、それは間違いねーぞ。霧の守護者はどうやら歴代でボス側に付いているらしいしな」
「マジっスか!?うらやまし・・・あ、いや、何でもねェっス」
思わず本音が漏れた獄寺を一睨みし、リボーンは思案する。
(おそらく、9代目はツナに自信をつけさせるために今回の脱走を試みたハズだ。つまり、ある程度逃げ切れば大人しく捕まるだろうが、それまでは全力で逃げる・・・って、完全に手詰まりじゃねェか!!)
その時、近くの草むらが大きな音をたてた。
そこからぬっと人影が現れ、獄寺とリボーンは思わず身構える。だが、
「・・・お?獄寺に、リボーン?」
「「山本!」」
出て来たのは9代目の雨の守護者と絶賛鬼ごっこ中の山本。
「どうした?なんかあったのか?」
首を傾げる山本に、獄寺は言い難そうに告げた。
「・・・それが、10代目が9代目と一緒に脱走したらしくてな」
「脱走って・・・え、マジで?そんな引き継ぎされてるってお前言ってたけど・・・マジでツナのヤツ脱走したのかよ?」
「あ、ああ」
獄寺の視線が泳ぐ。
未だに信じたくないという思いが強くあるせいだ。
「・・・獄寺、とりあえず落ち着け。冷静になれよ?」
「ああ、わかってる」
“めざせ右腕”と“肩甲骨改め懐刀”の並盛コンビはとりあえず山本の持っていた地図を開いた。
「コレ、一応鬼ごっこ用に渡されてたんだけど、こんな形で使うことになるとはな~」
その割には一度も開いた様子の無い地図に、獄寺は眉間にしわを寄せた。
「お前、ちゃんと引き継ぎしてんのか?」
「してるぜ?地図見るより勘で走った方が見つかる確率高いんだって」
ハハッと軽く笑う山本だが、獄寺とリボーンは呆れてしまう。
「勘かよ・・・」
「ツナじゃあるめェし、出鱈目に探して見つかる方がすげーぞ」
「ん~?そっか?」
天然というか鈍感というか、山本のこういう所は昔から変わらない。それに微かな安堵を覚える。
「よし、オメェら。とにかくツナと9代目を捕まえるぞ」
「おう!」
「はい!」
2人が頷くのを確認し、リボーンは獄寺の肩から飛び降りる。
「俺はとりあえず他の守護者を探す。獄寺は森の南側、山本は森の北側を重点的に探すんだぞ。・・・よし、散れ!」
リボーンの指示が飛び、獄寺と山本はそれぞれ任された方面へと走っていく。
「・・・捕まえたら、ツナに脱走はダメだってきつく教えておかねーとな」
じゃないと、コヨーテの危惧していたことが現実になりそうだ。
リボーンは深い溜息をつく。
「まずは、了平達を探すか」
とにかく、人手は多いに越したことは無い。
リボーンはどんよりとした気分を切り替え、他の守護者を探しに行くことにしたのだった。