「お前にこの胃の痛みがわかるのか!!!」
(ごめんなさい、わかりません。)
リボーンは今までの自分の行いを振り返り、ちょっと反省した。確かに、ツナばっかりに負担が行き過ぎていたかもしれない。
というか、あのバラエティに富んだ守護者の面々をまとめ上げるだけでも大変だというのに、命懸けの戦いばかりを繰り返していたのだ。胃だって痛くなるだろう。
「どいつもこいつも好き勝手やりやがって・・・リボーン、お前だってこっちの気持ちも考えずにああだこうだと言って、結局自分の思い通りに俺を動かしてきたよなァ?」
完全にツナの目が据わっている。
「・・・お、落ち着け、ツナ」
「落ち着け?ハァ?何言ってんの、リボーン。俺は滅茶苦茶落ち着いてるよ」
呆れたように視線を向けてくるツナに、リボーンは命の危険を感じて思わず後退る。
ボッ
「ぅあちっ!」
背後に突如現れた炎の柱。リボーンは慌てて前のめりになってそれを避ける。
「死炎印ってさ、こういう使い方もできるんだよね~」
ニコリ、と笑うツナ。
その瞬間、リボーンを取り囲むように炎が燃え上がる。
「・・・なっ!」
リボーンは驚いた。確かに死炎印の応用編と思えばわからなくもないが、火力が断然違う。
「そうそう・・・このまま燃やしてると周りの空気から酸素が無くなって苦しくなる・・・っていうのは知ってるよね?」
ツナの確認に、自分の置かれた立場を改めて知ったリボーンはサーッと青褪めた。
「ちょ・・・ツナ!?」
「リボーン、どうしてクロームを放って来ちゃったのかな?女性を大切にっていうのが、お前の持論じゃなかったっけ?」
そう、ツナが怒っているのはXANXUSではなく、むしろリボーンの方だった。
XANXUSの性格はよくわかっているし、雲雀も言っていたが、物理攻撃専門のXANXUSは術者であるクロームの天敵ともいえる。
だから“力を示す”だけで“お仕置き”を止めてやったのだ。
「そ、それは・・・」
ツナをここで捕まえなければ今後も脱走にいそしむだろうという予感があったためだ。
「はぁ・・・リボーン、何よりも女性を大事にするっていうのだけがお前の唯一の美点だったのにな」
「シシッ、唯一とか言われてやんの」
「しィいい!!黙っとけェ!ベル!!」
コソコソと後ろの方でヴァリアーが騒いでいるが気にしない。
昔なら、ヴァリアーをガン無視なんて出来なかったはずのツナだが、本格的にツッコミを止めたらしい。
ようやく理解したリボーンは、何とかこの状況を脱しなければと考えを巡らせる。
「く、クロームには悪い事をしたと思ってる!でも、オメェを捕まえるのが先だと思ったんだぞ!」
「ふーん、でもさぁ・・・クロームはすごーく傷ついたんだよね。俺を助けられなかったって。・・・今後のことを考えれば、霧の守護者へのフォローが先じゃない?」
先じゃない!!・・・とは言えなかった。そんなコト言おうもんなら炎が更に力を増すに決まっている。
「す、すまねェ・・・クローム」
「・・・くすん・・・ぐすっ」
9代目に慰められているクロームは顔をあげようともしない。
「あーあ、まだ泣いてんじゃん。可哀想なクローム」
「ぐ・・・ほ、本当に悪かった!こ、今度、大量に麦チョコを買って来てやるから!!」
クロームの好物で釣る作戦に出たリボーンに、見ていたヴァリアーは思わずドン引いた。
「うはぁ・・・黄のアルコバレーノが手段を選ばず許してもらおうとしてるし」
「それだけ沢田がリボーンにだけ殺気をとばしてるってことだろ?」
ベルとマーモンがコソコソと話す脇で、スクアーロが頷いた。
「だろうなぁあ・・・でなけりゃアルコバレーノがあんなに慌てるわけがねェ」
「窮鼠猫を噛む・・・か」
ぼそり、とレヴィが呟けばベルが首を傾げた。
「あ?何ソレ?」
「日本の諺だ・・・まぁ、弱い者であっても追い詰められれば異常な力を発揮して強者に反撃してくるという意味だな」
「へー・・・」
実は頭が良いというレヴィだが、イマイチ信用されていない。
「でも、今回の場合それはちょっと違うんじゃないの?沢田は弱者じゃないでしょ。ボスをボコボコに出来るんだから」
それもそうだとヴァリアーの面々はマーモンに同意する。
ちらり、とXANXUSを見ればわずかに笑みすらもうかべてツナを見ている。
「ボスも今の沢田は気に入ったみたいだし、リボーンがどうなろうと僕は知ったことじゃないから、放っておきなよ」
「マーモンに賛成~。・・・こっちも楽しいけど守護者の方も見に行かねェ?ヒバリが勝つのか他の連中が勝つのかちょっと楽しみィ・・・シシッ」
すっかり見学者気分のベルである。
「そうだなァ・・・ここにいて、とばっちりくうのもごめんだぜェ!」
スクアーロが立ち上がろうとした時だった。
「・・・ぐす・・・くすん・・・クフッ」
今まで顔を伏せて泣いていたクロームの肩が小刻みに揺れ始める。というか、何だか聞き覚えのある笑い声が聞こえたような。
「クフ・・・クフフ」
「ま・・・まさか!」
リボーンが目を瞠る。
「クハッ!・・・も、もう駄目です!おかしすぎてっ!」
サァーっとクロームの身体が崩れていったかと思えば、そこには大爆笑する骸が現れた。
バンバンと床を叩きながら爆笑する骸。お前のキャラ、そんなだったかとツッコミを入れられる者はここにはいなかった。
「もー、もうちょっと我慢してよ~骸」
「す、すみませんねぇ・・・クフフ・・・こ、これはクセになりそうですよ!」
ツナから殺気が消え、今度こそ呆れた様子で溜息をつく。
「な・・・じゃ、じゃあ、今までのクロームは!」
「そ、骸のお芝居ね。とは言っても本当に傷ついてたんだからな!・・・まぁ、リボーンもちょっとは反省したみたいだし?今回はこれで許してやるよ」
ニコッ
ツナが笑顔になった瞬間に己の周りを取り囲んでいた炎が消え、リボーンは脱力した。
「・・・ツ、ツナが・・・ツナが!!」
もうあまりのショックで次の言葉が出て来ない。
床に手をつきうなだれるリボーンの姿に、1mmも心を動かされることなくツナは骸に近寄った。
「お疲れ様、骸」
「クフフ・・・君が開き直るとここまで厄介だということが充分にわかりましたし、今回は打ちひしがれるアルコバレーノの姿も見ることができました。なかなかに満足できましたよ」
「そ?・・・じゃあ、2カ月後の正式な継承式にはちゃんと来てよ?」
「・・・まぁ、良いでしょう」
「約束だからな?」
「わかってますよ・・・約束を破ったら復讐者に訴えて捕まえさせるんでしょう?」
どことなく遠くを見つめて溜息をついた骸に、ヴァリアーの面々は納得した。
「・・・つまり、六道も脅されて手伝わされた、と」
「らしいね」
「シシッ・・・どこまでしたたかになったんだよ、沢田の奴」
「下手に刺激しねェのが得策だなぁぁ」
なんとなく弱腰になる幹部達を怒るでもなく、上機嫌なXANXUSはツナの元へと歩み寄る。
「沢田綱吉」
「ん~、ナニ?XANXUS・・・っていうか、フルネーム呼び止めてよ」
くるりと振り返ったツナは全く怯えておらず、文句までつけてきた。
「・・・綱吉、今度フルパワーで相手しろ。匣兵器のテストが次の休みにある」
「そうなの?・・・たしか、ベスターだっけ。ウチのナッツと同じ天空ライオン」
「天空嵐ライガーだ」
「ああ、そうそう。・・・俺でイイの?」
「まず雲雀とやる。その後、テメェのVGとやりてェ」
匣兵器でどこまで力の差を縮められるのか。XANXUSの目的はそこだ。
「・・・ま、いいよ。で、次の休みっていつ?」
ツナの視線がスクアーロに向けられる。どうせXANXUSは覚えてないでしょ?との暴言付きで。
「・・・お前、どんだけだぁあ」
「は?」
「いや、なんでもねぇえ・・・次の休みだったら1週間後だぁあ」
答えたスクアーロにツナは頷いた。
「わかった。・・・じい様、その日は引き継ぎなしね?」
「わかったよ、ツッ君」
反対するかと思われた9代目もあっさりと頷いた。
「決まりだな・・・」
XANXUSが言えばツナは頷く。
「うん、決まり。・・・まぁ、1週間後なら雲雀さんと“この後”全力でやりあっても回復してるだろうし」
「こ、この後だぁあ!?」
「そだよ~。いやぁ、一応こっちに味方してくれたしさ。お願いくらいは聞いてあげないと」
雲雀の狙いは最初からそこだったのではないだろうか。だが、ツナも嫌がるそぶりはなくやる気満々らしい。
何がきっかけかは知らないが、全くの別人と化してしまったツナを止められる者は、この場には存在しないようだった。