裏庭に向かう途中、雲雀は後ろから距離を置いて付いてくるヴァリアーを振り返った。
「ずっと付いてくるつもりなの?あの連中」
「あー、見たいんじゃありません?」
「・・・ふぅん・・・まぁ、邪魔しないのなら別に良いけどね」
「ホンット、譲歩してくれるようになりましたよねー、昔じゃ考えられないですよ」
「・・・君もイイ性格になったよね。このたった数ケ月でさ」
ズケズケと平気で雲雀に皮肉を言うツナに、雲雀は肩を竦めた。
「そーですね・・・自分でもそう思いますよ」
クスクスと笑うツナ。
自分がこれだけ変わってしまったという自覚もあるだろうに、何の不安も感じていないらしい。
「・・・不安じゃないの?」
「さぁ?・・・なるべくしてなった、っていう感じじゃないですか?」
「・・・まぁ、わからなくもないけど」
力をつけた守護者を抑えるには、ボスもまた強くならなければならない。
いい加減“気合”だけで止められるわけはないだろうし、これからはこのイタリアで他のマフィアとも腹の探り合いをしていかなければならない。
いちいち遠慮しながら止めてたのではツナの方が保たない。ツナが言ったのはそういうことなのだろうと理解する。
「ま、大人になったってことですよ」
「・・・こんなに急激に?」
「元からイライラはしてたんですよ、ウチの守護者ときたら人の話を聞かない連中ばかりですし、アルコバレーノに至っては俺の意志なんてガン無視だし。そもそも、なんで俺だけ我慢しなきゃならないんだってヤツですよ~」
(ああ、イライラしてたんだ)
自分もその一端を担っているんだろうなとは思ったが(懸命にも)口には出さず、雲雀は無言で頷いた。
「さてと、この辺りでイイですかね?」
「うん、イイよ」
裏庭の丁度良い場所にやってきた2人は距離を置いて向かいあった。
(彼との間合いはあまり意味はない。スピードについて行けさえすればVGは使わないんだからそんなに恐くはない)
雲雀はそんな計算をして、トンファーを取り出す。
「・・・うん、雲雀さんの考えもわからなくもないですけどね。俺の武器は“スピード”だけじゃないですよ?」
「!」
心を読まれたと気付いた雲雀が目を丸くしたその時、ちゃんと見ていたハズなのにツナの姿が消えた。
両脇に視線を走らせ姿が無いのを確認すると、雲雀は後ろを振り返る。
そこにもツナはいない。
ならば―――。
「上ッ!」
ギィン!!
顔の前でクロスしたトンファーで、炎をまとったツナの拳を止める。
「・・・ッ、じゃあ、スピードじゃない、君の・・・武器って何?」
炎の推進力もあって見た目以上に重い攻撃を防ぎながら雲雀は問う。
「超直感・・・便利ですよ~。みんなが思っている以上にね」
「・・・まぁ、それは何となく・・・わかるけどっ・・・」
「フフ、そろそろ限界ですか?」
「冗談はよしてよ、まだいけるよ」
そうは言うものの、雲雀の腕はかなり際どい状態だった。
強がる雲雀の内心を読んだのか、クスクスと笑うツナの姿が再び消えた。
その反動で雲雀は前へとつんのめり、それを追うように繰り出された背後からの攻撃をまともに受けてしまう。
「・・・ぐっ」
顔面スライディングは避けたものの、背中への一撃はかなり屈辱だ。
「まだまだ序の口ですよ?」
ニコニコと言うツナにムカツキは最高潮だ。
「・・・咬み殺す!!!」
猛攻をかけてくる雲雀をひょいひょいと避けながら、ツナは先程から見学しているヴァリアーに視線を向けた。
揃ってぽかんと口を開けている強面の連中に、可笑しさがこみあげてくる。
「どこ見てるのさ!!」
「あ、すいません。ヴァリアーが面白い顔してたんで」
「余所見しないでよ」
戦いに集中しろと睨んでくる雲雀に苦笑を向け、ツナは炎の出力をあげた。
「大丈夫ですよ、ちゃんと・・・雲雀さんだけ見てますから」
ツナの炎の出力があがったことにより攻撃の範囲が広くなる。
必然と雲雀がその炎を避けきれなくなりスーツがあちこち焦げ、それでもとトンファーを振り回した結果ツナも何度か攻撃を喰らって頬に擦りキズを作っている。
「じゅっ・・・10代目ぇっ!?」
やっと回復したのか、ボロボロの状態で裏庭にやってきた己の守護者達を視界の端に捉える。
「・・・うーん、ギャラリーが増えてきましたねェ」
見れば、屋敷にいるボンゴレファミリーの面々も“裏庭で10代目と雲の守護者が戦っている”という話を聞きつけて見学していた。
「・・・群れは嫌いだ」
ボソリと雲雀が呟く。
「そーですね~。俺もあんまり人に見られながら戦うのって好きじゃないです」
「じゃあ・・・」
ニィ、と雲雀が笑う。
「ここらで、決着付けましょうか?」
雲雀につられるようにしてニコリと笑い、ツナは更に炎の出力をあげた。
「う゛お゛ぉ゛いッ!まだあがんのかぁああ!!」
見学していたヴァリアーの1人、スクアーロはギョッとしながら叫んだ。
ツナの放つ炎はもう生身では耐えきれないのではと思う程に出力が上がっている。アレは“オーラ”ではない。ちゃんと熱を持っている炎だ。
「・・・そういや、ツナの炎の最大出力なんて、測ったことなかったな・・・」
山本がスクアーロの隣でぼやけば、マーモンが口をへの字に曲げた。
「何言ってるの、アレじゃ計測器の方が先に壊れれるよ」
「あ、それもそっか・・・ハハッ、さっすがツナなのな♪」
「さっすがツナなのな♪・・・じゃねぇよ・・・10代目の炎の出力、俺達が最後に見た時よりもあがってねぇか?」
山本にツッコミを入れつつ、青褪めた顔で獄寺が問う。
「・・・ん?そういやそうかも」
「・・・俺等は、あんなお人を止めなきゃなんねーのか」
ガックリと肩を落とす獄寺に、山本は苦笑した。
「皆で協力してガンバローぜ?・・・入江達がこっちに来れば色々と設備が整うってリボーンも言ってたぞ」
「・・・だけどな・・・マモンチェーンという手も」
「ん~、でもま、何とかなんだろ」
「テメェはお気楽過ぎんだよ・・・」
守護者のまとめ役となっている獄寺は、山本のお気楽ぶりに呆れかえる。
自分がしっかりしなくては!!と心に決めて、獄寺は再びツナと雲雀の戦いに視線を向ける。
さすがに最強の守護者と言われる雲雀でも、VG無しでツナと戦うのは不利なようでかなりのダメージを負っているように見えた。
決着をつけると言っただけはあり、ツナの攻撃は先程の比ではない。
「10代目・・・雲雀の野郎をしばらく再起不能にするおつもりなのか?」
「それは困るぜェええ・・・雲雀はウチとの契約でヴァリアー匣の実験台になる予定なんだぞぉおお!」
そりゃ困るだろうが、アレを止めろと言われても止められる自信は無い。止められるもんなら止めてみろという気持ちだ。
そんな表情をうかべる獄寺に、スクアーロは溜息をついた。
「・・・テメェもボスで苦労するクチだな」
「テメェにだけは同情されたくねェ・・・」
少なくとも、ツナはXANXUS程横暴ではない・・・ハズだ。というか横暴であって欲しくない。
いくら開き直ったといってもツナは思いやりのある人物だ。部下を労わってくれるに違いない。たぶん。
自身の無さを表すように断定の言葉にならない思考に、獄寺は思わず泣きたくなった。
「10代目はお優しいんだ・・・だから、俺達をそうそう困らせたりなんかしねェ・・・たぶん!!!」
自分に言い聞かせるように叫んだ獄寺だが、半分涙目なのはおそらくこれからの苦労を想像してしまったからなのだろうと、周りの同情を買ったのだった。