会長の思惑、Second Phase   作:抱き枕50

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虚を衝かれた日

「ごきげんよう、暑いわねー蘇芳さん。昨日は八重垣さんの所に泊まったの? 」

 

花菱立花さんは食堂に向う私、白羽蘇芳に背後から声をかけてきた。お別れの会以降、今まで以上に私に気を使ってくれている。私はアミティエを喪失し一人になってしまった。学院が選出したアミティエの病死という事情が学院側に厚情をもたらしたのか、特別にフリーという立場になった。

私は一人で今までの部屋に居ても良いし、他の部屋で当該の者の許可が出れば、そこで生活しても良いという。不仲なアミティエの子達には疎まれそうな微妙な立場であるが、今のところはうまくいっていると思う。

 

 

「おはよう、もう夏ねー立花さん。昨日は沙沙貴さん達の部屋に泊まったの。先に出て、自室で着替えてからここに・・・・・・。立花さんはお寝坊さん克服して朝は得意になった? 」

 

「えっ、うん・・・・・・」

 

俯きながら、もじもじして顔を赤くしている。

 

 

「相変わらずだよ・・・・・・立花の起き態は。私がうまい起し方を見つけたから何とかなってるけどね」

 

立花さんの後ろから、匂坂マユリさんの声が聞こえてきた。

 

「うまい起し方って何? 一緒に居た頃は、そんなの無かったわよね・・・・・・」

 

 

「蘇芳さんになら話して良いかな? 立花の・・・・・・」

 

マユリさんがここまで話したら、立花さんが真っ赤になって口を塞いで阻止した。その様を見て何となく理解した。二人が交際状態にあるのは、公然の秘密というものである。その二人の事だから、色々してるのかと邪推する。

 

 

「ご馳走。仲がよくて良いわね。食事の前にお腹いっぱいよ。私も、アキ・・・・・・」

 

そこまで言って言い澱むと、刹那二人の顔が曇る。

 

「ごめん。ちょっと無神経だった。立花も一緒に謝ろう」

 

「蘇芳さん、本当にごめんなさい。まだ何日も経っていないのに・・・・・・」

 

二人が腰を折って謝罪する。気にしないで、と言いつつも涙がこぼれてくる。立ち直ってるつもりなのに・・・・・・。

 

 

「あー。委員長とユリーが、蘇芳ちゃん泣かしてる。酷い・・・・・・最低。このバカップルが」

 

苺さんが間に割り込んできて、二人をなじる。

 

 

「もう大丈夫だよ。悪者は苺姉が成敗したから。蘇芳ちゃんは私の胸で泣くと佳い」

 

妹の林檎さんが私をハグしてくれるも、大女の私と、小さな彼女ではお母さんに縋り付く女の子の態だ。苺さんが固まってる私の傍に来て、涙をハンカチで拭ってくれた。そして林檎さんを引き剥がし、代わりにハグしてきた。

 

「蘇芳ちゃんを私にも分けてよ。林檎」

 

二人代わり番こ抱きつき私は暫しそれを享受した。すると悲しさに満たされた心が癒されていく。

 

「ありがとう。もう平気だから・・・・・・」

 

私がそう言うと二人が私の前に仁王立ち。

 

「蘇芳ちゃんをいじめる人は私達が成敗するから、何時でも言ってね。さあ一緒にご飯食べようよ。ほら、急がないと。蘇芳ちゃんも早く来て。林檎も。置いてくよー」

 

さっさと手を引いていく苺さんによろめきながら付いていく私。それを見ていた林檎さんは、何かを呟いているようだった。

 

「・・・・・・一番文句言いたい人は、攫われちゃって居ないんだよな。全く・・・・・・」

 

 

 

「おい、"ササ一号"車椅子を押すな。倒れるだろ。危ねえからよせって・・・・・・。こらスカートまくるなって、"ササ二号"お前の手つき怪しいぞ。えっちぃのは匂坂とか委員長にしろ。あいつらなら嬉々として・・・・・・」

 

 

「待ちかねたぞ白羽。沙沙貴達をなんとかしろよ。お前ら親友だろ。後生だから引き取ってくれ頼むよ・・・・・・」

 

 

食事をしてから聖堂で礼拝をし、用向きを頼まれて少し遅れて教室に入ると普段は教室に来ない八重垣えりかさんが居た。

 

「どうしたの今日は。珍しいわ。教室に来ているなんて。外まで聞こえていたけど沙沙貴さん達がどうかしたの? 」

 

 

隣の机に向って手を合わせてから、八重垣さんの傍に居る沙沙貴さん達を見やると、苺さんが顛末を話し始めた。

 

 

「えりかっちが,笑えない嘘付くから懲らしめてたんだよ。今日で学校辞めるから挨拶に来たって言うからさ」

 

「?! 」

 

「私達本気で心配したのに。もう二度と会えないかと思ったから・・・・・・」

 

「だって、えりかっち友達なんだから・・・・・・そんな事言われたら、心配するの当たり前だよ。蘇芳ちゃんだってそうだったでしょ? 」

 

 

以前の苺さんと林檎さんの失踪事件を思い出す。色々あったけど、彼女たちは還ってきた。そして雨降って地固まるとなり、私達三人は親友になった。

 

 

「それは、八重垣さんがいけないわ。後できつーくお仕置きしないと。それはそうと今日はどうして教室に? 私やマユリが誘っても絶対に来ないのに」

 

何時の間にか級長の立花さんが会話に参戦してきた。

 

「なんだよ。そのお仕置きってのは・・・・・・。目が笑って無いぞ委員長。ここに来たのはバスキア教諭がどうしても伝えたい事があるからって、それはもうくどくど言うからさ。介助の世話を受けてる手前・・・・・・まあ義理は果さないとね」

 

 

周りの皆も、どうしても伝えたいことってなんだろうと気を揉む。チャイムの音と共にバスキア教諭=ダリア先生が入ってきた。

 

「はい、静かにして。今日は皆さんにすばらしいお知らせがあります。全員来てますね? 。八重垣さんも・・・・・・来ていますね、感心感心」

 

バスキア教諭は何時もの笑みにおっとりとした話し方だ。悪い話ではない様だけど・・・・・・」

 

 

「ダリア先生、お知らせってなんですか。もしかして汗だくの私達のために教室にエアコンが付くって話しですか? 」

 

苺さんが起立しわざとらしく手を団扇のゼスチャーをして質問するも、華麗にスルーされてしまう。先生は尻うに目を落としとりつくしまもない。行き場を失った苺さんはすごすごと着席。こういう場では絶対に乗ってこないって判ってるのに無謀なチャレンジャーだと思う。そこが彼女の魅力ではあるけど・・・・・・。資料から目を上げ、閉まっている扉の方に向かって声をかけた。そして戸を開ける様に促した。

 

戸ががらりと開く。

 

 

「皆さん入ってきてください。あっ、足元に気をつけて」

 

 

刹那教室が騒然となる。全くのサプライズとなる皆は、蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。

 

1、2、3、・・・・・・8人!?

 

 

八代先輩から転入生の話は聞かされていた。マル秘なんで多言無用ときつく念を押されていたので、誰にも言えなくてちょっと辛かった。それに伴うアミティエの組み替えがあるかもしれないと。それがあるから今の君はフリーなんだよと・・・・・・。

 

だけど8人とは・・・・・・。皆も驚いている様だ。しかも、皆美人でスタイルがいい・・・・・・。なんか一気に華やかになった。昨今辞めた子の空き机が増えてしまったので、運び出すかどうするかをクラスで揉めた事を思い出す。

 

 

バスキア教諭に促されて、一人一人自己紹介を始めた。なかでも一人栗色の髪の子。どこかマユリさんに似ている、孝崎千鳥さんが衆目を浴びる。自己紹介では殆ど何も語らず、バスキア教諭がフォローして芸能界に居た事が語られた。それを聞くと級友はちょっとしたパニック的な騒ぎになった。

 

苺さんは歌番組で見た事があると大声で話してきた。残念ながら私はそう言うのに疎くてリアクション出来ない・・・・・・。

芸能界とかに興味がある年代の私達。級友は色々孝崎さんに問いただす。しかし級友の質問は完全スルーしてしまいとりつく島もない。

 

 

ふと周りを見回すと、八重垣さんが孝崎さんをギッと睨んでる。気になったので、彼女宛にメモを書きまわしてもらった。暫くして戻ってきたメモには、その態度に至る事ことの顛末が細かく書いてあった。確かに孝崎さんの態度は、メモを裏付けるものだ。とはいえ、双方に聞かないと正しいジャッジは出来ないけれど・・・・・・。

 

 

「それでは、時間ですので、転入生の紹介を終わりにします。転入生の方は、取り敢えず空いている机に適当に座ってください。後で正式に席を決めますから。そうそう、視力の悪い人は私に申告して下さい考慮しますから」

 

先生が話をしている最中、件の転入生は会釈をしながら皆の横を通り後ろの空席に椅子を引いて座っていく。先生はそれを見て思い出した様に話を切り出した。

 

 

「それと、アミティエのことですけど、今回は基本転入生同士で組みます。但し、二人組で三組、残り二人はアミティエ試験の結果を鑑み、根本さんを白羽さん、孝崎さんを八重垣さんと組んでもらう事になりました」

 

私? 根本さんって? うわ、誰だったっけ? 後ろ向くわけにも行かないし・・・・・・。気になる

・・・・・・。悶々としている私、皆が私を見ている様でどうにも落ち着かない。そんな時突然・・・・・・。

 

「異議有り! バスキア教諭、どうして転入生どうして組まないのですか? 納得できません。私と今フリーの白羽を組ませてください。白羽は体格もいいし力もあります。介助の仕方もかなり勉強してますし、な、何よりも私はあ、相性を・・・・・・」

 

挙手をしての激しいアピール。普段目だつ事を嫌うのに・・・・・・。それだけにインパクトは有った。クラスが騒然となる程に。どうも相性の所が愛に聞こえたみたい・・・・・・。

 

 

「八重垣さんって大胆。クラスの皆の前で交際宣言!? 」

 

「えー。私もアピールしてもいいかしら。白羽さん来てくれるなら、前みたいに3人でアミティエ組みたいわ」

 

「私も。白羽さんなら、大歓迎なのに。2人であんなことやこんなことしたい・・・・・・」

 

 

 私に皆の視線が集中する。さっきの比ではない。視線が射抜く様に熱い。自分が真っ赤になっているのが良く分かる。顔だけじゃない手も身体も・・・・・・。否定しようにも何にしても、声が出ない。出せない。言った八重垣さんもうろたえている。

 

 

「おい、そんな話じゃなくてだな・・・・・・」

 

八重垣さんが言い訳しようにも、誰も聞く耳持たない。そんな時、バスキア教諭が場を静める。

 

 

「静かに。これは貴女たちにもしてもらった、厳正なアミティエ試験の結果こうなったのです。結果を変える事はありません。八重垣さん、孝崎さんは貴女と一番合うという結果が出たからアミティエ組むの。判ったかしら? 」

 

不服そうな八重垣さんだけど、先生に笑顔で諭されては引き下がるしかない。下を向き大きな溜め息をつく八重垣さんを見て笑う私。

 

「もちろん。白羽さんもよ」

 

返す刀で私にも一撃。はいっと頷いて同じく下を向く。

 

 

「それでは早速今日から組んでもらいますから。皆さんはチャイムが鳴る迄は現状待機。次の時間は時間割変更。転入生の学校案内と指定教材の配布、バレエの衣装の採寸等しますから。在校生の皆は教室に残っていて下さい」

 

 

 そう言ってバスキア教諭は教室を出て行った。教室は未だざわついている。転入生は少し気後れしている様だ。在校生の方もまだ積極的に関わろうとはしていないのか席に座ったまま。こう言う時は世話焼き級長の出番。でもその前に動く者が・・・・・・。そうあの二人。早速八重垣さんの所に出向いていく。

 

 

 

「八重垣ちゃん、作戦失敗ですね。これで石にされなくて済むね、蘇芳ちゃん」

 

「大体、えりかっちはなんで孝崎さん嫌なの? 大分変わってるけどさ。少しユリーに似てるよね・・・・・・」

 

林檎さんに続き、苺さんの発言に八重垣さんが噛みつく。

 

「似てないって。匂坂はアイツよりも100倍はマシだと思うぞ」

 

「さてはもう何か有ったんだね」

 

「図星か。さすがにクラス一のトラブルメーカー。私達もかなわないなぁ」

 

「お前ら程じゃないよ。少なくともお尻を打たれた事は無いからな」

 

八重垣さんが切り札を。二人が寮監に折檻された話。それを持ち出されて二人はおとなしく引き下がる。

 

 

転入生を集めて、立花さんとマユリさんが級友を紹介している。さすがにクラスのツートップだ。私の所にも来た。先程のセンセーショナルな発言で私に興味が出てきたみたいで、根掘り葉掘り色々聞かれた。答えに窮する事も多かったけどそこはホストたる立花さんとマユリさんがうまく裁いてくれた。ありがとうと心の中で呟く私・・・・・・。

 

それと隣の空き机に立つアネモネを活けた花瓶・・・・・・。立花さん達がうまく暈して話してくれるのを横で聞くだけ。それでも記憶がフラッシュバックしてきて、涙が滲む。アキラが亡くなって、一週間以上経つのに。

 

 

「白羽さん、どうなさったんですか? お具合が悪いですか? 顔色が・・・・・・」

 

私のアミティエになる、根本さんが話しかけてきた。

 

「何でも無いのよ。ただちょっと・・・・・・まだ吹っ切れないの。受け入れられないの。要るべき人が居ないと言うことが・・・・・・」

 

 

 最後は声に出ていたか判らない。でも察してくれたのか、それ以上は聞いてこなかった。そうしているとチャイムが鳴って一時限が終わった。休み時間になったので教室を出る者も居る。時を同じくし、入ってくる者も居る。

 

 

 

突然、クラスの皆が嬌声をあげる。何事と思ったけどハンカチで目を抑えているので、耳だけを欹てる。そして誰かが近づいてくる。

 

 

「蘇芳君、おはよう。転入生とアミティエ組むんだって。残念だ。君を僕のアミティエにって、学院に申請していたってのに叶わないなんて・・・・・・悲しいよ。今の君をフォロー出来るのは、僕の様な年長者だと思ってる。それをあいつもあいつの母上も望んでいたっていうのに・・・・・・」

 

 

 先輩を見ずに、目を抑えながらそれを聞く。入学して3カ月。人見知りで人と話すのが苦手だった私。色々経験して普通に女子校生が話せるような会話が出来るようになった。憎まれ口も・・・・・・だ。

 

 

「先輩はそれを言いにわざわざ一年のクラスに来たのですか? そんな学年を超えた申請通る訳ないじゃないですか。それにしても・・・・・・相変わらずの人気の様ですね。チヤホヤされにいらしたのですか? ここは一つ人気をもっと磐石にするため初見の転入生の生徒手帳にサインでもしてあげたら如何です? 『貴女の譲葉』って添えて」

 

普段はこんな言い方をしない私だけど、今は憎まれ口を言ってでも楽になりたかった。その為にわざわざ気にかけに一年の教室に来た先輩を利用した。心の汚い私に自己嫌悪・・・・・・。

 

 

「そんな・・・・・・突慳貪な態度は取らないでくれよ。アキラには譲ったとはいえ、僕は蘇芳君一筋なんだから、そんなに嫌わないでくれ・・・・・・。もしも、君が浮気したって構わない。蘇芳君の本気は僕だけのものだ。僕とはしっぽりと愛を確かめあった仲だろう? 」

 

 

 黙って聞いてれば、何か恥ずかしいことを言い始めている。周りの級友もざわついてきた。さすがにこのままでは拙い。

 

 

「先輩、皆の前で何言ってるんですか。止めてください。愛を確かめあったって、普通にキスをしただけじゃないですか」

 

「そんな・・・・・・あんなに熱く交わしたベーゼなのに。蘇芳は僕を弄んだの? 」

 

「し・て・ま・せ・ん! 普通に唇にしただけじゃないですか! それにアキラより舌使い下手でしたし。まあ熱意は感じましたけど」

 

 

 とたんに歓声と嬌声が。しまった。乗せられてなんて事を。傷口を広げてしまった。もう遅かった。涙ぐんでる先輩にそれをいじめる私の図。それにカミングアウトで場は詰んだ・・・・・・。

 

 

「普通に唇にって・・・・・・。それじゃ前の黒沼さんとはもっと先まで? 」

 

「蘇芳さん、アキラさんだけじゃなかったの。おとなしいのに。進んでるわ・・・・・・」

 

「もう乗り換えたのね。やっぱり身体が淋しいのかしら・・・・・・」

 

「経緯はともかく美人と美人、画になるわね・・・・・・」

 

「痴話喧嘩ですわね。会長はもっと毅然とした人だと思ってたのに・・・・・・」

 

「でも白羽さんは女子力高いし、お似合いかも」

 

口々にひそひそ話する級友。

 

 

「で、結局何の用なんです。今日は図書委員の仕事で、放課後は料理部には行けないのですけど」

 

 流れを切りたく、ピシリと言う。するとなんだか急にもじもじする先輩。

 

 

「これから蘇芳君もフリーでなくアミティエが正式に決まっただろ。だから以前ほど会えなくなりそうなんで、その、なんだ。交換日記でもしようかなって・・・・・・。こっ、子供っぽいかな」

 

 頓狂なことをいう真っ赤な先輩に、周りは歓声に嬌声に、今度は拍手も・・・・・・。これは拒んだらもう学院にはいられないだろう。そんな空気だった。おずおずと差し出されるファンシーな鍵付きノートを受け取った。

 

「判りました。書いたら届けますから待っていてくださいね」

 

 

 そこまで聞くと先輩は、バレンタインデーにチョコを手渡す少女の様に真っ赤な顔のまま早足で教室を出て行った。チャイムが鳴り次の時限が始まる。

 

 

「転入生の人、集まって下さい。これから学院を案内しますから、付いてきてください。」

 

立花さんの声だ。級長と風紀委員それに特別にマユリさんを同行させての最強の布陣で8人を案内するようだ。沙沙貴さん達は何人かを連れて衣装の採寸に被服室に、私は図書室で教材の配布をする担当だ。八重垣さんも教室に居場所無いのか私につきあってくれた。

 

 図書室のテーブルで8人分の教材を個別に学院の指定トートバッグに詰めて仕分けしていく。その時に八重垣さんが言い放った言葉が私を抉る。

 

 

「白羽。お前さっきのアレなんだ? らしくない態度だったし、あれくらい軽くいなせよな。図書室の妖精じゃなくて、めんどくさいレズ女みたいだったぞ・・・・・・ぷち修羅場みたいで、クラスの連中は楽しそうだったけどさ」

 

 

「レズ女って。普通そこまで言う? アレはたまたま流れでそうなってしまったから・・・・・・。もちろん反省してるわよ。でも先輩も悪いわ。いきなり来るんだもの」

 

 

「そういう八重垣さんだって、あの騒動で記憶が薄れたかもしれないけど、前の時間に、アミティエに私が良いって声高に宣言したことどうするのよ? もう死にそうなくらい恥ずかしかったわ。言葉を選んでよ。書痴なんでしょ一応」

 

 

「だって、あいつ。孝崎千鳥だよ? 私のアミティエ。これからずっと一緒になるのが、あの性悪なんて・・・・・・。お前とだったらこの刑務所も少しは楽しく刑期を全う出来るのにさ」

 

「アイツとのトラブル、お前にはだけは知らせた訳だけど。話好き世話好きの委員長や匂坂、沙沙貴が話しかけたって、見ての通り木で鼻くくるような態度だし。芸能人ってのはやっぱり性格悪いって本当だったんだな」

 

「バスキア教諭がからんでなかったら、かつて読んだ推理小説のトリック使って亡き者に・・・・・・。埋めるに適当な桜の木はいくらでもあるし、温室には毒草も・・・・・・」

 

 

「八重垣さん、そこまでにして。それ以上は言わないで。頼むから」

 

 

車椅子の彼女に多い被るように抱きしめる。私の胸に彼女の顔が当たる。

 

 

「苦しいぞ、白羽。力緩めろよ、お前、バスキア教諭より力ありそうだな。つーかその胸、また大きくなったんじゃないのか? 卒業頃にはバスキア教諭より大きくなるんじゃね」

 

「うん・・・・・・此処に来る前に買った下着が合わなくなってきてるの。だから最近は仕方なく学校指定の使ってるんだけど、何かフィット感が悪くて・・・・・・」

 

「けっ、こっちはそんな悩みなんて・・・・・・。そうだ、お前監修のあのレシピ、私にはちっとも効かないぞ。委員長や匂坂は効いたってのたまっていたけど・・・・・・」

 

 

 クラス内に、私の胸が大きくなってきた頃の、食事、運動、普段の生活を纏めた、沙沙貴さん達作成のレシピが出回っているのだ。

 

「そんな事言ったって。アレは実体験そのままなのよ。誇張も捏造も何もないんだから」

 

 

 そこまで聞いて、しょんぼりする八重垣さんは、何時もの年上感はなく、年相応の幼さがある。初奴とばかりおでこにキスしてあげた。

 

 

「なにすんだよ。仲間に引き込もうってのか」

 

「イヤね。親愛の証よ、えりかさん。吉屋信子の小説とか読まない? 今帰って来てるわよ」

 

 

ぷいっと向こうを向いたのと同時に、図書室に見学と教材受け取りに転入生一行が来た。楽しそうな一行の中、一人仏頂面の孝崎さん。教材を手渡すとき、キッと睨まれてしまった。

 

後ろでマユリさんがげっそりとしたジェスチャーをした。道中の様子が手にとるように想像出来る。孝崎さん以外は、打ち解けたようで仲良さそうにしている。

 

 

「図書室のことは、図書委員の白羽蘇芳さんに聞いてください」

 

 

立花さんの言葉に、いくつか質問が来た。余り新しいものが無いと聞いて、しょんぼりする子、検索の仕方を興味深く聞く子、貸出時間を聞く子、興味がありそうなのは半数と言った感じで、ここを最後に見学終了となって、教材の詰まったトートバッグを手に皆は教室に戻って行った。

 

「見たろ。白羽。あの匂坂の態を。孝崎っておかしいんじゃね。マジで。善人の委員長は孝崎がアレでもそんなに気にしないかもだけど、匂坂はわりと普通だからな。それがアレ、あの反応だから・・・・・・」

 

確かにマユリさんがああいうしぐさを見せる事なんて滅多にない。

 

「マジで今日から同室かよ。憂鬱だよ。全く・・・・・・」

 

 

愚痴る八重垣さんを宥める。先程教材と引き換えに転入生からこっそりと手渡されたメモを、制服のポケットに入れる。八重垣さんは勘が鋭いので、このことを悟られないように孝崎さんの話題を続け、何時もの様に車椅子を押して図書室を出た。

 

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