会長の思惑、Second Phase   作:抱き枕50

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接触停止の妖精!?

「何をしてるの? 自分の部屋じゃない・・・・・・。変な蘇芳さん。私はあの日のことは全然気にしてないわよ。さあ入りましょう、さあさあ・・・・・・」

 

 声の主はアミティエの根本さん・・・・・・。彼女がドアを開け、廊下で躊躇する私の背中を押した。放課後、私は寮に戻る勇気が出なくて図書室で自習し閉室まで時間を潰した。『図書委員だからって例外は認めません』、そう司書に冷たく言われて図書室から追い出されてしまった。

 

 重い足取りで寮に帰る。そして部屋の前でもまた・・・・・・。部屋に入る勇気が出ないまま暫く立ちすくんでしまったのだ。

 

 背を押され、いざ入ってみると部屋の中は以前のまま変わっていない。そう思った私の目に飛び込んできたのは、花瓶に挿してあるアネモネの花。アキラの花だ。

 

「掃除は欠かしてないわよ。何時でも蘇芳さんが戻ってきてくれるようにね。花の事も皆の口が重くて中々苦労したけど用意できたわ」

 

 じっとその花を見つめていたら、花蘇芳とアネモネを並べて泉の所に植えてきた時の事を思い出した。零れ出す涙。突然後ろから抱き留められた。薄手の夏服を通して根本さんの胸の感触が伝わってくる。

 

「蘇芳さん、黒沼さんはこの世には居ないのよ。もう亡くなったの。何時までも囚われては駄目。だから蘇芳さんは新しいお相手を必要とした。でも、それはあの人じゃない筈よ。もっと相応しい人が絶対に・・・・・・居る・・・・・・わ」

 

「ごめんなさい。今言う事では無かったわね。今日は私も一緒に祈らさせて。あんまり泣いてばかりだと天国で見てる黒沼さんに笑われるわよ。そして明日からは吹っ切って・・・・・・」

 

 そう言い肩に顎を載せてきた根本さん。私は無言で頷いた。

 

 

「でも、やっと蘇芳さんが帰ってきてくれた。本当に嬉しい。貴女が居ない部屋は本当に淋しかった。気が狂いそうな程に・・・・・・あの日の感触を忘れた事は無いわ」

 

そう言い、首に手を当てさすった。

 

「だから、バスキア教諭に手紙を書いたの。悪い事をしたと思った。でもそうでもしなかったら蘇芳さんは二度とここに戻ってきてくれなかった。動かす為に少しフィクション混ぜたけど・・・・・・ね」

 

「でもそれは,蘇芳さんが魅力的すぎるんだもの。最初、私は譲葉先輩に興味があったの。転入してきた時にお見かけして・・・・・・。でもあの一件から翻意したんです。好きなの・・・・・・蘇芳さん。蘇芳さんとなら何処までも堕ちる覚悟有ります」

 

 いきなりキスしてきた。拒めなかった。唇を合わせただけのソフトなキス。そして直ぐに私を離した。

 

「今日はここまで。さあ夕食に行きましょう。今日はステーキが選べるんだって」

 

 

 

 連れ立って食堂に行く間、廊下で孝崎さんにすれ違った。ワゴンに二人分の食事。それを八重垣さんが待つ部屋に運ぶ途中だ。埃除けのカバーがかかってはいるので姿は見えないけど、匂いはお肉のそれだった。孝崎さんに介助の労をねぎらうと、複雑な顔をして小声で"ありがとう"とかすかに返ってきた。

 

 

「ねえ、蘇芳さん、あの子感じ悪いのよ。芸能人だか何か知らないけど、課題一人で仕上げるからほっといてだって。ここのところあの子、蘇芳さんにひっついているけど変な事されてない? 」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「何も・・・・・・無いわよ。孝崎さんは少し変わってるけど、根は良い人よ、根本さん。今だって孝崎さん、さぼらないでアミティエの介助をこなしてるじゃない」

 

 

「蘇芳さん、私達・・・・・・、同室のアミティエでしょ? 。あんな子みたいに名字で呼ばれるなんて嫌。小夜花って呼んで、蘇芳さん。あの・・・・・・手を繋いでいいかな・・・・・・」

 

 有無を言わせずギュっと私の手を握って笑みを見せる小夜花さん。初めて会った日に戻った気がした。

 

 

「蘇芳さん、お肉本当に美味しいね。焼き加減も好みに合わせてくれたし、言うことないわー」

 

 私は、進められるままにステーキを何口か食べてフォークを置いた。風邪を引いてから消化の良い軽いものしか食べてなかったから、こってりとしたものはちょっとキツい。

 

「もっと食べなきゃダメよ。最近あんまり食べてないのでしょう? 蘇芳さん、血液検査したよね? 結果どうだったの?」

 

「どうして知ってるの・・・・・・。先生が話したの? 」

 

「違うわ。色々とネットワークがあってね。蘇芳さんのストーカーなんだよー私。いろんなを事知ってるんだ」

 

 一瞬どきっとした。それに気が付いたかはわからないけど、無邪気に笑いながら話す、小夜花さん。愛想笑いで間を繋ぐ私。

 

 

 

「ゆかり、こっち来て一緒に食べようよ。皆もこっちに来てよ。今日は憧れの蘇芳さんが一緒よ。ほら挨拶して・・・・・・」

 

 転入組が孝崎さんを除いて、全員集合だ。向き合い改まった形で挨拶するのはお互い初めてだった。皆が簡単に自己紹介していく。それに答える私。繰り返される世辞にちょっと疲れてしまう。それに続くのは交際関係の話し。全部晒す気は無いので言葉を選びながらかい摘んで話した。

 

「黒沼さんとはそんなにも愛を分かち合えたんですね。憧れちゃう」

 

「白羽さん、上級生にも人気あってすごいです。私、先輩とJRCの非公認サークルをしてるんですけど、先輩方が聖堂での演奏を熱く語るんですよ。今度ビデオ見せてくれるのが待ち遠しくって」

 

「試験終わったら、料理部の体験入部お願いしたいのですけど・・・・・・」

 

 

 私にはそれほどでも無かったけど、彼女達にはとても楽しい食事時間だった様だ。また一緒にねと口々にお願いされてしまった。食器を返却し、スタッフにお礼を言って部屋に戻った。他の子も居るからか、根本さんも関本さんも至って普通にしている。

 

 部屋に入ってもそれは変わらなかった。全くの拍子抜け。構えていた自分が馬鹿みたいに思えるほど。私は風邪がぶり返すのを恐れお風呂はパスした。少し身体を拭くくらいにして、制汗剤で臭いを抑える事に留意した。

 

 根本さんと関本さんは誘いに来た同期の子と連れ立って浴場に行った。部屋に一人のこの時間を利用して、譲葉に交換日記を書く。内容は当たり障りのない事から、口に出すと恥ずかしい事まで色々と書き込んだ。長い事引っかかっていた重しがとれた感じだ。書き終えて程なくして、二人がお風呂から帰ってきた。気が付かれる前にさっと仕舞って、側の本を手に取る。読んでるふりをしながら二人を見やる。濡れた髪が色っぽい・・・・・・。

 

 

 二人は下着姿のまま何事も無く、私と普通に友人としての会話をし、髪を梳いたり爪を整えたり。関本さんが、風邪気味の級友のために出て行ったり、根本さんがコーヒーを淹れてくれたり。ごくあたりまえの時間が過ぎた。それは消灯になっても変わらなかった。仕掛けてくると思っていた自分が恥ずかしくなった。

 

 消灯10分前。歯磨きをして風邪薬を飲み明日の支度を確認して寝床に潜り込む。寝るのは前と同じ一番下のベッドだ。居ない間も開けておいてくれていた。枕元の鍵のかかるシークレットボックスを開けて譲葉に渡す交換日記を入れた。鍵はピッキングのしにくい鍵で安全と言う触れ込み。何しろあの鍵開けの達人である、八重垣さんがお手上げと言ったのだから・・・・・・。しかし鍵を手に入れられたらどうしようもないので、目覚まし時計の電池蓋の所に押し込んだ。そして吸い込まれる様に暗闇に落ちた・・・・・・。

 

 

 

 再び夢を見た。白羽の家のピアノレッスン室で、14歳の今の私がグランドピアノを弾いている。私がここに居たのは10歳位までだ。懐かしい様に思える絵面だけど何かが違う気がする。そうだレッスンの時、隣に何時も居た筈の義兄が居ない。居るのは蝋人形の様な義母だけ。課題曲を弾く私。今の私なら弾ける筈なのに、腕前は昔のまま変わっていない・・・・・・。

 

「お前は、何度失敗する気なんだよ? この程度の曲が弾けないなんて、私が教えるレベルじゃないだろ、私の言ってる事わかる? 何で出来ない。このレベルで躓いてるならさっさと止めちまえ。時間の無駄だよ。どうしてもお義母さんに教えてほしいなんて言うから期待したのに。 蘇芳、お前は最低だ」

 

 

 静かに、しかし厳しく叱責する義母。涙を流した私に、更に厳しく叱責する。椅子から引きずり下ろされ、冷たい床に正座させられた。そして背中を竹の笞で叩かれ小突かれた。

 

「痛い。お義母さん許してください。次は間違えません。ちゃんと間違えないで最後まで弾きますから、もう叩かないで・・・・・・」

 

 床は氷のように冷たい。冷えてきてトイレにも行きたくなってきた。足がしびれてきて辛い。相変わらず背中を打つ義母。泣いて許しを請うも、無表情のまま"甘ったれ"と小声で詰られただけだった。

 

 

「黒沼アキラさん、弾いてみて」

 

 えっ、と振り向くと子供のアキラじゃなく、学院で再会したアキラが椅子に座り課題曲を弾き始めた。そしてミス無く弾き終わり、椅子を立った。アキラは全く私を見なかった。

 

「上手ね。さすが黒沼アキラさんね。うちの娘とは全然違うわね。習ってる期間はずっと短いのに。次はお兄さん弾いてください」

 

 何処に居たのか義兄が現れてピアノに向き合い課題曲を弾いた。私の方が上手だった筈なのに、義兄はとても上手に弾きこなした。義兄は立ち上がるときに私を見て嗤った。

 

「蘇芳、もう一度チャンスをあげる。弾きなさい」

 

 しびれた足、トイレを我慢している事を差っ引いても、さっきよりも下手に弾いてしまった。弾けば弾くほどミスを重ね、嘘を重ねていく様な苦しさだ。

 

「このクズが」

 

 そう言われて、アキラ、義兄、父、義母、門下生の前で、誰かが椅子ごと私を蹴り倒した。一瞬、金髪が見えた気がした。次の瞬間冷たい床に頭を叩きつけられ、私は意識を失った。

 

 

 

「蘇芳さん、しっかりして。しっかりしてよ。ゆかり、宿直の先生呼んできて! 」

 

「蘇芳さんが・・・・・・ベッドから落ちて、頭を打ったの。音がズーンって重い音がして・・・・・・見たら床に倒れてて・・・・・・」

 

「わかったから落ち着くんだ。今してるから、行くから。小夜花、蘇芳さんを動かすなよ。頭にダメージがあるかもしれないからそのままにしておいて・・・・・・」

 

「一体どうしたのよ・・・・・・。何でこんな事に?蘇芳さん。起きて。目を覚まして。ねぇってば」

 

 

 今、養護教諭が来るからと、宿直の先生が慌てた様に私達を制す。先生は救急車を要請したけど山の中のここに着くには時間がかかる。それまではこのまま見守るしかない。養護教諭の指示でレスキューシートをかけて待つ。ただひたすら。先生は容態の把握に忙しい。でも私達はただ祈るだけだった。

 

 騒ぎを聞きつけてきた級友や上級生が見守る中、ダリア先生も来てぴくりとも動きの無い蘇芳さんを見てショックを受けたのだろう何時も以上に無い血の気の無い白い顔をしている。

 

「根本さん、関本さん、状況を詳しく教えてください。そうね、ここでは話せる状況ではないわね。私の部屋はダメだから・・・・・・。温室のテラスに行きましょう」

 

 ダリア先生に連れられて、野次馬の中を通り抜けた。心配、同情の目の中、射る様な視線の子も何人か居た。『貴女達が何かしたんじゃないの?』とばかりに。その間に救急車が来て蘇芳さんを搬送して行ってしまった。

 

 

 起床、朝食の時間を経て顛末を皆が知る事になった。容態が判らず重苦しい空気が漂う。私達の元に、委員長以下蘇芳さんの友達が皆詰め寄ってきた。事実は話したけど、何故の疑問は消えない。それどころか伝言ゲームの様におかしな話になって行った。ホームルームでダリア先生が噂を否定し、私達を擁護してくれたものの、教室の外では私達は犯人と認定されていた。

 

 

「白羽さん、気が付いた? 無理に起きないで、そのままにして。今ドクターに来てもらうから」

 

 目に映ったのは、学院の事務の人と病院のナース。ナースコールを押して話をしている様だ。

 

「もう少し検査しますからが我慢してね。点滴痛かったら言ってね」

 

 目が覚めて、頭にこぶが有るのに気が付いた。脳波他の検査して、取り立てての異常は無い事が確認された。ただ何となく気持ち悪いというか違和感が有る。それを訴えたら経過観察で暫く入院になってしまった。試験は全部が後日の追試かここで先生立ち会いでするかの二択。私はここでの試験を選択した。面倒事は早く済ませたいから・・・・・・。教科書やノートをここに持ってきてもらう事を学院の事務の人にお願いし、看護師さんから紙を貰いクラスの皆や譲葉に即席に手紙をしたためた。変な噂が流れていると聞かされたから・・・・・・。

 

 

「アングレカム学院の子が来るのは、黒沼さん以来ね。白羽さんは黒沼さんって知ってる? 」

 

「ええ。黒沼アキラとは同室で親友以上の存在でしたから・・・・・・」

 

「親友以上ね、初々しい言い方・・・・・・」

 

 そこまで言って看護師の人の表情が変わった。

 

 

「そうか、貴女・・・・・・名前・・・・・・。蘇芳って読みはすおうなんだ。悪い事聞いちゃったかな。ごめんなさいね。うーん守秘義務的にまずいけど、貴女には話しておいた方が良いわね。彼女、貴女の事をずっと気にかけてたのよ。亡くなった時の夜勤、私だったの。夜消灯前に話したら『蘇芳に手紙書いてるんです。ラブレターなんです』そういって笑ったのよ。すごくいい顔をしてたのに、朝になったら・・・・・・」

 

「この仕事してると、ステルベン・・・・・・入院患者さんが亡くなる様を見る事は良く有るけど、あんなに若い子だと色々辛いわ。ご両親の取り乱し様は激しくて・・・・・・倒れてしまって点滴をしたりしたのよ」

 

「学院のお別れの会の時は、ご両親気丈でいらっしゃいましたけど・・・・・・そうでしたか、そんなに」

 

 看護師さんの話を聞き、思い出し、取り乱し、泣きじゃくってしまった。点滴に鎮静剤が入っているのに・・・・・・。暫くここに居るんでしょう?貴女の知らないあの子の事、教えてあげる・・・・・。したり顔でそう言い何かあったらコールしてと部屋を去っていった。

 

 

「また、謝られちゃったね小夜花。ほらまた来るよ・・・・・・」

 

 

 校内の放送で異例なことなのだと言う、個人情報が伝えられたのだ。内容は救急車で早朝に搬送された白羽蘇芳の容態と顛末に対してのコメントだった。

 

 疑ってすまなかった。何度言われたかわからないほどだ。食堂でお昼を小夜花と食べていると、何人もの上級生から謝罪された。嬉しい反面、どれだけ悪役になっていたのだろうと落ち込む。それとともに、蘇芳さんの上級生の間での人気に改めて気付かされた。

 

「色々とプレッシャー感じるわ。ゆかり、私達下手を打つと校内引き回しの上、磔獄門に晒されてしまうんじゃない? 」

 

「そうねー。磔獄門は考えすぎにしても、校内引き回しはありそうね。でもそれは考えられる最悪のケースの一つに過ぎないわ。慎重に慎重を重ねて行けば大丈夫よ。私達は切り札を握ってるんだもん、そうでしょ小夜花! 」

 

「でも・・・・・・」

 

 ゆかりは自らを鼓舞するように、話を閉めたけど不安な本心が透けて見える。ため息を吐いていたら、後ろから声をかけられた。

 

「おふた方、白羽さんは意識を取り戻したんだから、辛気くさい顔は止めましょう。検査の結果が一部出たそうだけど、悪くは無いと電話が有りました。それでなんだけど、白羽さんは病院で夏期試験することに決まったの。白羽さんは、お勉強の道具、ノートや教科書持っていってないからこれから届けないといけないのよ。私とニカイアの会の副会長が貴女達の部屋に入るけど、了承してくれるかしら? 」

 

 声の主はダリア先生。私達には拒む理由はない。これ以上心証を悪くしたくないから。

 

 

「どうぞ。信用してますから。あのー向こうで試験をって・・・・・・。一週間は戻らないって事ですか? 私達の誰とも会えないままに? 」

 

「ええ。そう言う事になります。過去に無い事例ですから、彼女には専任の教師を派遣したり色々と配慮するつもりではおります。では部屋の鍵をお貸しいただけますか? 」

 

 鍵を受け取り、ダリア先生は立ち去って行った。

 

 

「ねえ、ゆかり。副会長ってどんな人? 」

 

「ほら、二年のパツキンのハーフだよ。八代先輩の昔の女だったってお姉ちゃんが言ってた」

 

「ああ。あの人。あの先輩、その人と別れて蘇芳さんに狙いを変えたって事? 」

 

「まあ、下世話な言い方だと捨てたって事ね。でも副会長はもういい人居るらしいよ。学外に」

 

「なんだかんだ言って、ここはそういう人だらけなんだねー。ちょっと安心したわ」

 

 

「でも一週間も帰って来ないんじゃ、小夜花、葉子先輩のとこまた行こうか」

 

「異議無し。私、ゆかりのお姉さんにも興味有るよ。名前違うんだっけ? 」

 

「うん、お父さんは二度結婚してるの。最初の時の子供がお姉ちゃんで、私は今のって言う訳。私が落しちゃって仲良くなったの。だけど小夜花、お姉ちゃんは私のペットだから手出ししたら許さないからね」

 

「マジ? シスコンもなの!? ゆかり。あなた色々ガチ過ぎるよ・・・・・・師、そう、師と呼ばせてもらうわ」

 

 

「それでは小御門さん、白羽さんの荷物の搬出を始めます。教科書、ノート、参考書・・・・・・幸い鞄に殆どが入ってる様ね。あとは日記帳と下着、目覚まし時計にお財布はシークレットボックスの中ね」

 

「小御門さん、これからマスターキーで開けますから、動画撮影をお願いします。お財布とこれは何かしら?」

 

「それは、その・・・・・・」

 

「これ交換日記ね。私も昔学生の頃よくやったわ。そう白羽さんもなのね。白羽さん、読書家だからこういうの好きそうだわ。小御門さん、それは貴女に一任します。お相手ご存じなんでしょう? 」

 

 

 夕方、病院にバスキア教諭が私の荷物を持ってきてくれた。勉強の関係、生活の関係色々持って きてもらった。お財布を見た時、ハッと思った。これがあるという事は、シークレットボックスの鍵を開けて中を見たという事。私の表情から感じ取ったのか、バスキア教諭が微笑みながら口を開いた

 

「私も、交換日記は嗜んだものよ。先輩や後輩ともね。白羽さん、私貴女を誤解してたのかもしれないわ。こういうのする人は悪い事、しない気がするから」

 

 

 

「譲葉、蘇芳さんの荷物の搬送立ち会い、済ませてきたわよ。それでこれを頂いてきたわ」

 

「これは・・・・・・」

 

「貴女のでしょう。中は見てないから安心して。枕元のシークレットボックスに有ったところを思うと、大事に扱ってる様ね。ご馳走様」

 

「ありがとう。それにしても今日の一件は単なる事故なんだよね、ネリー。僕の時とは違うんだよな? 」

 

「同室の子の話しに変なところは無いし、本人が変な夢見ての事でと言う結論ね」

 

「それにしても蘇芳、カウンセリング受けさせようか。ネリーはをどう思う」

 

「私は前からそうした方がいいと思ってたわ。向こうに居る間に受けてもらう様に具申してみるね」

 

 譲葉が日記帳を凝視している。軽く嫉妬を覚えた。

 

「それにしても蘇芳が何を書いてきたのか、読みたいよ。でもテストなんだよな。悩む悩む、読んだら返信書きたくなるしさー」

 

「蘇芳は堅苦しい文芸評論的なの書くのかな、それともポンチ絵付けて洒脱な感じなのかな? まさかの宇能鴻一郎調だったりして」

 

「何バカを言ってるのよ譲葉は。今はテストに集中しなさい。こんな誘惑に負けてる様では、一人淋しく入院している蘇芳さんが呆れてしまうわよ」

 

「僕が頑張ったって、学年トップは君のアミティエで決まりだろう? もう不動の位置だよな。10位以内に入ってれば良いよ、僕は」

 

「貴女は昔から欲が無いというか、向上心が薄いというか。もう少し頑張りなさいよ。バレエの特別選抜補講も辞退したでしょ。リストに載るだけでもすごいのに・・・・・・。そんな事じゃ蘇芳さんも取られちゃうわよ」

 

「なんだよ、それ・・・・・・」

 

「何にしてもまずは試験よ。譲葉! 」

 

 

 

「立花、蘇芳さんどうしてるのかな? 一人で病院で淋しくしてると思うと辛いね」

 

「そうね、最近、ちょっと病んでる傾向があったものね。私達、結局の所蘇芳さんの力になれてない・・・・・・」

 

「退院したら、立花と私、三人で何処かに行こうよ。気が紛れる様な場所に。蘇芳さんが気に入りそうなところって何処かなあ? 」

 

「そう言えば、そんな話したことなかったわよね。帰ってくる時に、出迎えを兼ねて病院に行ってみない? それで街でショッピングとかしてリフレッシュ。直訴すれば認めてくれると思うけど・・・・・・ダメかな」

 

「ハードルは高そうだ。出来たとしても、お目付役が付きそうだね。うちの、美術部の顧問のヒス婆とかが来たら最悪だよ。考えただけで落ち込むわ」

 

「ダリア先生なら、一緒にかわいいもの探訪出来そうなんだけど。そう言えば、先生の部屋ぬいぐるみが山になってるって噂、マユリはどう思う? 」

 

「らしいといえばらしいんだけど。つーかあの人何歳なんだろうね? 三十路過ぎだと痛いよなーそういう趣味は。苺がカエル集めてるのとはかなり意味合いが違うよね・・・・・・」

 

「もうすぐ消灯ね。いよいよテストね。体調だけは崩さない様にしましょう、マユリ。だからテスト中はアレはしないでいきましょう。試験終わったら太陽が黄色く見えるまでしてあげるから・・・・・・ね」

 

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