「主任さん、待って、待って下さい。聞きたいことが・・・・・・。もう、何処に行っちゃったの? ここはどの辺りなんだろう・・・・・・。電気も点いてないし・・・・・・暗いの怖いわ」
薄暗い廊下を抜け、明かりの点いている階段にたどり着く。そして隙間から見下ろすと主任さんがちらりと見えた。あんな所に! うわー、足速い・・・・・・。はしたないけど、段を飛ばして駆け下りる。その大きな音に自分で驚いてしまった。まずい、怒られてしまう・・・・・・一瞬頭を過るも足は止まらない。
「一体誰です。こんな時間に大音立てて。消灯時間なんですから静かに歩きなさい。患者さんが不安になったらどうするんですか。看護師としての自覚を持ち・・・・・・えっ、ちょっ、し、白羽さん?! 」
「しゅ、主任さん、どうしてもお聞きしたいことが・・・・・・」
階下で立ち止まっていた、主任さんに飛び込む形で私の足は止まった。けれど勢いは消せずに壁に体当たりとなって所謂壁ドンに近い状況。
「白羽さん、一体どうしたの。貴女入院患者なのよ。こんな無理して何か有ったらどうする気なの。もし足でも挫いたりしたら・・・・・・」
「ごめんなさい。私、主任さんに迷惑掛けてばかりですね・・・・・・でも・・・・・・」
「わかったから。わかったから。まずは落ち着いて。いい?、深呼吸しなさい。はい、吸って。そうゆっくり。・・・じゃ吐いて。もう一回しなさい・・・・・・」
言われるままに、深呼吸をし気を落ち着かせる。そして主任さんから離れた。主任さんはちょっと笑みを見せた。
「こんな所で立ち話はアレだから、そうね。あなたの病室に行きましょう。折角の個室なんだしね。ちょっと連絡を入れておくから待ってて」
主任さんは、内線用の携帯電話? みたいのを取り出して何処かに話し始めた。そして最後、お辞儀電話をするようにを切った。
「これでいいわ。二時間位は貴女に付き合えるからね。じゃ行きましょう。怪我したりはしなかった? 良かった。若いって良いわね。私が同じ事したら今頃、じん帯切ってるわよ。本当に無事で良かったわ」
そう言いながら、私の頭を撫でる。照れと申し訳ない気持ちで俯く私。手を引かれ歩き始め、そして少し冷静になった頭であることに気付く。
「主任さん、こっちの方、受け付けとかに御用が有ったのでは・・・・・・? もしかして私、大変なご迷惑をおかけしていますよね? 」
「気にしなくていいわ。私も頭を冷やしたいが為に、ワザと遠回りしただけの事だから・・・・・・」
意外な言葉に思わず顔を上げて主任さんの顔を見、真意を計る。しかし、ポーカーフェイスの主任さんからは何も伺えない。なんともしっくりこないまま会話する事なく歩き、エレベーターに乗り。部屋に着いた。
「さて、これでよし」
主任さんがスイッチを入れてベッドを起こしてくれた。そして私の横に椅子を持ってきて座った。そして少しの沈黙の後、主任さんの目を見つめ意を決して私から口を開いた。
「黒沼アキラと、主任さんはどういった関係なの・・・・・・だったのですか? 」
「その質問に答える前に、私に質問させて。貴女とキラちゃんとの関係を聞かせて。それが先よ白羽さん」
キっ、キラちゃん!? 何その言い方。何か失礼な呼び方だわ。この人一体・・・・・・。
「私は,黒沼アキラとお付き合いしてました。端的に言うと、そう恋人です・・・・・・。恋人でした・・・・・・互いに愛し合った最愛の・・・・・・」
「恋人・・・・・・ね。身体の関係が有ったということで良いのね? 」
「はい、私の初めての人です。性の手ほどき、女としての喜びを教えてもらいましたし、私からもアキラを・・・・・・正しく導けたと思ってます。アキラから入院しているときに、ナースに手を出されて云々の話は聞いてます」
大人のゆとりを感じ癪に障ったので、秘密を意図的に晒し少し語気も強めた。主任さんは氷の表情のままだ。そして静かに口を開いた。
「じゃあ、私があの子に手を出したと言う事は知ってる訳ね」
「貴女がというか、アキラは"した相手"を"主任さん"さんとしか言わなかったし、写真を見たわけでも無いので今正確に理解できた格好です」
「そう言う事ね。そうなった経緯は聞いた? 私は特段レズじゃないのよ。バイの自認は有るけど・・・・・・。白羽さんは今いくつ? 15? 」
「14です、早生まれなので・・・・・・」
「入院してきた時のキラちゃんと同い年なのね・・・・・・。あの子、その歳でもう長く生きられないって検査や診察で判ってたの。本人は知らなかったと思うけど、私達は判っていたのよ。勝手なんだけど、生きている事の喜び。女として生まれた意味、意義みたいのを知らないまま亡くなって欲しくなくて・・・・・・。師長とかが聞いたら激怒するでしょうけど・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから、私は貴女みたいに愛していたわけじゃないの。キラちゃんもそれは判っていたと思う。好きとか、愛してるとか言わなかったし、私はキラちゃんからも言われた事無いもの・・・・・・遺書にもそんな事は書いてなかったし・・・・・・」
最後の所で涙ぐみ、語尾が聞き取れなくなった。主任さんがハンカチを取り出して目を拭う。堰を切ったように止め処なく流れている。嘘。嘘つき。本当は好きだった主任さんの本心が私に伝わってくる。苦しいくらいに。
「主任さん、嘘下手すぎです。愛していたのまる分かりですって・・・・・・苦しかったんでしょう、守秘義務との板挟みで。アキラは自分の事判ってたみたい。もう長くないって。だから、止めていたピアノを再開したり、現世よりもあの世の幸せを望んだり・・・・・・」
私も泣いた。二人して、部屋の外に聞こえるくらいに。先に主任さんが泣き止み話を続けた。
「キラちゃんが復学でここを出る時に、主任さんの事忘れませんって言ってくれたの。それで吹っ切ったつもりだったし、実際そう出来ていた。退院するとそうしなければいけないのが看護師の矜持。特定の患者さんに入れ込んでなんていられないのよ。でも、キラちゃんが戻ってきてしまって・・・・・」
「辛くて、私は意図して担当に付かなかった。そして程なくキラちゃんは亡くなった。私宛の遺書も有ったわ。可愛い便箋で。都合が付かなくて、お葬式にも行けなくて・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「遺書には貴女の事も書いてあったわ。名前が書いていなかったので、確信に至ったのはちょっと前の屋上でだけど・・・・・・」
「一言一句は思い出せないけど、悲しい思いをさせてしまうのが辛いって。悪魔に魂を売ってでも長生きがしたいともあったわね。元気になって自分の夢を実現したかったって」
私の遺書にもそう言う事が書いてあったのを思い出した。そして止まらぬ涙で遺書をふやかしてしまった事を。
「私宛のものにだけだと思うけど、『子供ができたらあきらって付けてあげて。男でも女でもどっちでも行けるから楽だよ』そんな事も書いてあった・・・・・・まだ相手だって居ないのに」
主任さんが笑い。私もつられて笑った。そうしていたら主任さんの携帯が鳴った。すぐに気持ちを入れ換えて看護師モードに変わっていく様は、鳥肌モノで寒気を感じる位だ。
「ごめんなさい、ちょっと問題が出てしまって戻らないと行けなくなってしまったの。埋め合わせは今度するから」
そして早足で部屋を出て行った。私は頭を下げて見送った。部屋に入り、電気を消しカーテンを開けて月明かりを取り込む。青白い光の中、私が今ここに来た事、その事までもが何かの意志に導く、導かれたという事なのかと暫く自問した。そして久しくない程の熟睡した夜を味わった。
学院は今テスト期間の真っ只中。午前中の教室はひたすら鉛筆が滑る音がし、消しゴムのカスが床を汚す。そしてチャイムの音と共に、一気に張りつめた空気が緩み、生徒の顔に明暗が・・・・・・。
そしてテストの無い転入生は、それを横目で見ながら学院の窓の掃除、温室での植物の手入れ、農場の管理や動物の飼育の手伝いやら朝から夕方まで仕事が山積みだ。そしてテスト組は半ドンなので食事を済ませて部屋に戻っている。
「おい、ネリー居るかー? 」
ノックの音共に、譲葉が私の部屋に来た。同室の緑さんを気遣い、廊下で話をする。
「ノートありがとう。どういう訳か葉子が居なくて困ってたんだ。ここんとこ居ない事多くてさ。ほんとに助かったよ。でもコピー機がトラブっちゃって、意外に時間かかってしまったよ」
「上級生は僕が壊したかの様に睨むし・・・・・・。でも僕がコピーしたおかげで以前からの紙づまりも直ったからねー。僕はこういうの直すの好きだから、直ったとき拍手してくれたよ。睨んでた上級生もね」
私にサムアップでウインクする譲葉。
「暫くはメンテフリーで使えるよあのコピー機。それにしても業者に言っても中々来てくれないんだよな、メンテ。辺鄙だし、女性を寄こすように言ってるからってのも有るんだろうけど。さすがに試験前位は来させないとダメだよな」
「メンテに来てくれないなら台数を増やすかでニカイアの会でも意見具申するかい? またぞろ要望かよって目をつけられそうだけど、ネリーも賛同してくれるだろう? 」
「そうね。まさかアレの代わりに文芸部のリソグラフを都度都度借りるわけにはいかないし。あのコピー機、先生も結構使ってるものね。試験終わったら具申してみましょうよ」
「そういや今し方、花菱君と匂坂君がコピー機の所でなんだか難しい顔してたよ。先輩面して勉強教えてあげようかって言ったら、『八代先輩に教わると貞操の危機だと八重垣さんが言ってました』って睨むんだもの参ったよ。上級生の前で恥かいちゃった。折角ヒーローだったのに」
「今更じゃないのそんな事。あなたの悪行は一年生はいざ知らず、上級生は皆知ってるでしょうに。入学した時から、色々やらかしたじゃないの譲葉は。私だってどれだけ恥ずかしい思いを・・・・・・」
「またそれを蒸し返すのかい。わかったョ退散だ。じゃまた」
手を振りながら、隣の隣の部屋に消える譲葉。見届けて私も部屋に戻る。
「八代は相変わらずだな。小御門もお人好し過ぎると気苦労で白髪と額に怒りジワ増えるぞ、ああいう奴は自分は白髪にならないから、人の気苦労がわかんないんだよ。つーかアイツの髪だと、白髪なんて目立たないからなー。それはそれで全く理不尽極まりない」
「ねえ、そんな事言わないで。譲葉はああいう子だけど、根はピュアですごくいい子なのよ。じっくり付き合えば白羽さんみたいに印象変わるから・・・・・・ね」
「そうは言っても。同じクラスになって一年半の八代と一年で接点の少なかった蘇芳と比べるのはフェアじゃない」
「緑さんも頑固な人ね。一理有るけど、同じ釜の飯を食べてる仲じゃないの。一度胸襟を開いてみなさいって・・・・・・。話し変わるけど病院行きの話、何時行くの? 」
「試験の最終日の予定だよ。蘇芳が帰る前に会うとなるとそこしかないからな」
「私思うんだけど、試験の最終日って二年と一年生は一限しか試験無いじゃない? 終わってからあの人だけじゃなくて貴女も行ったらどうなの? 」
「おいおい、脱柵の勧めか? 小御門も無茶言うなよ。そりゃ行きたいけど、どうやったって許可なんか出ないだろうに。ましてや蘇芳は試験が終わったら帰って来る事が決まってるんだぞ? 」
「じゃあ私が行っても・・・・・・? 」
「だから、学院から公式に許可なんて出ないんだから無理だって。小御門、お前がって言ったって大体ニカイアの会は、黒沼の月命日の事で業者と打ち合わせが有るんだろう。行っても良いじゃなくて、私もお前も現状行くのは無理なんだよ」
「緑さん・・・・・・、蘇芳さんの事なのになんだか冷たいのね、普段あんなに気にしてるのに・・・・・・。私や譲葉だってフリーの立場ならペナルティ覚悟で会いに行くわ。それが出来ないんだもの・・・・・・悔しいな」
「痛いところを突くな。秋までには、楽器の演奏の同好会立ち上げるから、今学院側と問題を起こしたくは無いんだよ。入学してからの悲願なんだ。蘇芳だって本当はサッカー部なんて止めてもらって手を指を大事にしてもらいたいんだ・・・・・・蘇芳をあの人みたいにしたくないからさ」
「やっぱりダメか。ダリア先生、頭固すぎ。豆腐の角に頭ぶつけて死んじゃえよー。べーだ」
「マユリ、お下品よ。気持ちは私も同じだけど。口に出してはまずいわよ。私達、寮のスタッフにも気をつけないと、またこの間みたいな事になるわ」
「あの正座の一件。アレ誰がチクッたんだよ。あれで脚の形が悪くなったらどうしてくれるんだー。クソ! 」
「マユリ。そんな言葉遣いしないで。一回くらいじゃ脚は大丈夫だと思うわよ。毎日アレだとそりゃ影響出るでしょうけど・・・・・・」
夕方早めに食事を取りシャワーで汗を流し身だしなみを整えた私達。気合を入れて事前にアポを取ったダリア先生に蘇芳さんのお見舞い外出を具申したのに、先生は話を聞くどころか部屋にも入れてくれず、廊下で嘆願の書類を突っ返され完全に門前払い状態に悄然。正直ここまでとは思わなかった。
最近私達は何かと教師陣に目の敵にされている。ダリア先生も例外では無かった事を再確認しただけになってしまった。イライラが募る。
窓の外は月夜の昨日と打って変わって真っ暗だ。食事した辺りから厚い雲が覆ってきて大雨になる予感。部屋に戻る途中二人してトイレに入った。鏡に映った顔はストレスやらで酷い顔。ため息をついた。
「ねえ、今の私達、すごくブスだね。する事してないとこんな顔になっちゃうんだね・・・・・・」
鏡を見ながら表情を作り、どちらともなくキスをした。そして人が居ないのを確認して電気を消し、常夜灯がぼんやりと点く中、個室に二人で入って意図して控えていた性行為に走った。
「立花、今日は馬鹿に激しいじゃない。久々だから溜まってるんでしょう? もうこんなになっちゃってさ・・・・・・クラス一真面目な級長様が。お友達が入院してるってのに、試験期間の真っ最中に女子トイレで、イヤらしい事して・・・・・・罪深いよ・・・・・・。ここが弱いんだよね立花は」
「あっ、ちょっ、いい! 止めて、止めないで・・・・・・。なによ、マユ。貴女だって、どっ、同罪でしょう。すっ、蘇芳さんは貴女に憧れてるって言ってるんだから、もっと罪深いでしょうに・・・・・・。そっ、それにしても、今日のマユはどうしたのよ。とても積極的じゃないの。何か有ったの? 」
「立花に惚れ直したからさ。友達のためにルール破りをしようとしてるでしょう? 学院に楯突いて。ここでこうしてる事も、だね。今日は私が逝かせてあげる。手を真っ直ぐ上に伸ばして・・・・・・プールに飛び込むように」
「こんな感じ? 」
「そうそう。で、ちょっと目を瞑って。メガネは外して、私が預かるよ。リボンも外すよ。そうそう。それでー、ここをこうするんだよ! 」
そう言って立花のスカートを一気にまくり上げる。そしてまくり上げたすそ先を、伸ばした両手の手首の所でリボンで結わいた。所謂、茶巾縛り。但しミニスカワンピなのでブラどころでなく、鎖骨が丸見えになるくらいまでひん剥いた格好だ。そして清楚なブラを外しセットのデザインのショーツを足首まで下げた。
「なにするのよ。見えないし手も足も動かせないじゃないのこの格好は。マユ、止めて。怖いわ・・・・・・」
「安心して。ここに居るから。こっちの壁に背を付けて。これで落ち着いたろ。でさ立花、ちょっと目を瞑ってイメージしてごらん。立花は今、教室の教卓の上に立たされてるんだよ。この恥ずかしい格好で。皆が立花を視姦するんだ。もちろん蘇芳さんも」
「そして口々に蔑む。『何よ乳首立ってるじゃない、変態』『腿まで垂れてきてるじゃないのベトベトだよ委員長ってマゾなんだ』 『赤ちゃんみたいにツルツルなのに、ビラビラが恥ずかしいよ、級長』 『生えてないのかしら? それとも剃ってるの? 見せたがりなのかしらね? 立花さん教えて・・・・・・』どう、結構来るでしょう? 」
「立花、まだ何もしてないのに、もー大洪水だよ。恥ずかしいね。まるでお漏らししたみたいだ。歴史ある学院の級長がはしたないなァ。ちょっ、声は出さない。隣に立ってるダリア先生に鞭で打たれるよ。それもイメージして、立花」
言葉だけで立花は何度も達した。途中からはもっと逝かせる為に私の指も加えた。声は口をキスで塞ぎ抑えた。立花を言葉で責めながら私も同時に指で自分を慰めていたのだ。そして最後私も達して賢者の時間を迎えた。
その時、常夜灯でなくトイレの照明が付いた。誰か来た! こんな時間に。この離れた場所のトイレに人が? 息をひそめて懸命に気配を消す。立花も事態を理解したようで、死んだふり状態になってる。手前のシャワートイレの所に誰かが入った。私達は窓寄りの和式の個室。間に3つ個室があるから少し安心した。和室はデフォルトでドアが閉位置なのでこういう事してもバレにくいのが有り難い。
便秘なのか長く入っていたけど、私達を詮索する事も無く明かりが消えて出て行った。腕時計見るともう消灯時間まで3時間を切っている。明日に向けての最後の追い込みもしないといけない。慌てて茶巾を外し身だしなみを整えた。暗い中、明かりをつけずに部屋に戻る。怖がりの立花は愚図りながらずっと私にしがみついたままだった。こういう立花は普段の大人然したところが無く妹のようでとても愛おしい。
久方に"して"すっきりして憑き物が落ちた様な私達。高揚したのか勉強を終えて消灯になっても、中々寝つけない。ベッドの中で二人して、夕方のダリア先生とのやりとりを話し込む。
「どうする立花。このままじゃ納得できないよ。でもただ脱柵しても、徒歩じゃ街には出られないし。ヒッチハイク出来る程、車通らないよね。ここ行き止まりで辺鄙だし」
「苺さん達がやったように、外部の協力者が居ないと戻って来られない・・・・・・。アレがバレないで処罰無しというのは、今思うと奇跡の重複がもたらしたものだもの。正に聖遺物の奇跡よね」
「何より悪いのは、これで私達が学外に出たがってるのが、先生側にバレてしまってることだわ。沙沙貴さん達の時はそれが無かった。突然だったものね・・・・・・。24時間を超えては絶対に無理。と言うか食堂に一日一回も顔出さないのは通報対象に思えるから、半日くらいが限界よね。病院の面会時間も考えるともっと厳しいわよ。私達で何か考えないと。小御門先輩は外部にルート持ってるけど先輩に頼るとご迷惑を掛けてしまうし・・・・・・もう寝ましょう、マユリ」
この時、私も立花もトイレの鏡の所に嘆願書を忘れてきた事を忘れていた・・・・・・。
「良かったな、孝崎。布団が綺麗になって。夏用の最新仕様だってさそれ。どうせならこっちの布団も汚しておくんだったよ」
「ありがとう。一応礼は言っておくわ。結果こうなった訳だしね。だけど相変わらず、ずるっこいわねー貴女って」
「ずるっこいってどこの言葉だよ。孝崎はずっと東京じゃないのか? 」
「そうだけど、業界の人達は色々だったから、変に移ったりするものよ」
「ねえ、ガッキーは何処で育ったの? 」
「私は神奈川だよ。だから東京にコンプレックスが・・・・・・ある。近い様で遠いんだよ隣接してるんだけどね」
他愛無い会話だけど、険悪な口喧嘩から始まって、やっとこんな会話が出来る様になってきた。正直、一服盛ってやろうと思った。
実際に温室や花壇にトリカブトを探しに行った。色々聞いたらそう言うのはここには無いらしいという事が判ってそれは断念。学外の隣接地域まで捜せばありそうだけど、私は自由に歩けないので、これも諦めた。拾った猫の様に一緒に居れば何となく情も移るって言うもので、互いに一線を守って暮らす様になっていった。
「今日も外だったのか。随分焼けてきてしまってるぞ。もっと気をつけろって。肌の黒い芸能人なんて大成しないぞ。色の白いのは七難隠すだ」
「判ってるわよ。でも焼けやすい体質なんだもの。白いって言えば白羽さんだけど彼女も日焼けしたりするのかしら。ガッキーも負けないくらい白いけどね。二人の違いは貴女はガン黒の想像がつくけど、白羽さんがガン黒の様は想像がつかないってことね・・・・・・」
私のガン黒。一体どういう姿を想像しているのだろうか。まさか山姥のような姿を想像しているのだろうか。ちょっとげんなりしてしまった。白羽か。どうしてるのかなアイツ。ホームシックで泣いてるかもしれないな。そういう意味でアイツはちょっと弱いところが有るからな・・・・・・。
「妄想中悪いんだけど・・・・・・。ちょっといいかな? 言いたい事が有るんだけど・・・・・・。ガッキーは、寝言で白羽さんの事言うの止めない? 会えなくて淋しいのわかるけど。同室の私に失礼でしょ? 」
「はぁっ? オイ、何言ってるんだよ孝崎。私はそんな事言わないぞ。勝手な事言うなよな。聖人の私だって中指立てるからなそれ」
「聖人ね。それには突っ込む気にもならないわ。それはさておき寝言を自分で覚えてる人なんて居ないわよ。この間一緒に寝た時、私に抱きついてきて、あまつさえ胸に手を出してきて白羽さんの名前呼ぶんだもの。傷ついたわ・・・・・・。胸は私の方が大きいのに、白羽さんって。白羽さんならまだ我慢出来たけど、もしダリア先生の名前だったら布団から蹴りだしてるところだったけどね・・・・・・」
顔といわず、全身真っ赤になってる。動揺しまくってる。八重垣えりか。かわいい。抱きしめたくなる。
「言うに事欠いて、何言ってんだよ。私がそんな事する訳無い! ・・・・・・いや無いはずだ。・・・・・・無いと思う・・・・・・うーん、ごめんなさい。確かにアイツの夢を見ていた記憶が。くれぐれも委員長には内緒に・・・・・・頼む」
「これから、ガッキーを八重ちゃんって呼んで良いなら、良いわよ。私の事は孝ちゃんね。花菱さんにも内緒にしてあげる。諸々を水に流して許してあげるわ。悪くないでしょ? 八重ちゃん」
「お前なあ。いっぺん死ねよ。おちょくりやがって。お前なんか呼び捨てだよ、千鳥! 」